WAO大学院大学を「不可」とする理由

 学校教育法(昭和22年法律第26号)第65条第2項,専門職大学院設置基準(平成15年文部科学省令第16号)第4条,第6条,第17条,大学設置基準(昭和31年文部省令第28号)第12条,第36条,大学院設置基準(昭和49年文部省令第28号)第20条,第24条に基づき,「不可」とする。

 アニメーションを中心とする,我が国の映像コンテンツ産業の振興に寄与する人材を育成するため,産学連携の体制をつくり,専門職大学院を設置しようとする申請のねらいは意味のあるものと考えられる。しかしながら,以下に示すとおり,専門職大学院制度の趣旨に対する理解が不十分であり,また,設置の目的を実現するための教員組織,教育課程,施設・設備などについて総じて準備不足である。

1 教員組織等について

 教員組織については,実務経験や実務能力を有する人材を,教員予定者として相当数確保していると認められるが,それらの者は,当該大学以外に本務となる職業を有し,かつ,その本務において,極めて多忙であることが明らかであり,専任教員として「当該大学において教育研究を担当するに支障がない」(大学設置基準第12条)と言い得ないとの疑義が払拭できない。特に,学生との対面による接触は,講義のための来校時などに限定されるにも関わらず,オフィスアワーの設定が明確でないなど,教育上十分な責任を果たし得るとは考えられない。
 さらに,当該大学の教員組織は,かかる制約を有する実務家教員等が大部分を占める一方,純粋に当該大学の教育研究活動や管理運営に専念しえる教員が殆ど存在しない。また,専門職大学院も「大学院」としての性格を有するため,「高度の専門性が求められる職業を担うための深い学識及び卓越した能力を培う」という目的のほか,「学術の理論及び応用を教授研究」するという大学院共通の目的(学校教育法第65条)を達成する必要があるところ,相応の学位や研究業績を有し,新たな知を生み出すための学術研究を担当する教員は兼任教員を含めても皆無に近い。
 このことは,アニメーションが学術研究分野としては萌芽的な性質を有することを勘案したとしても,新たな知の理論化・体系化を実現していこうとする組織体制としては脆弱であり,後述する教育課程や施設・設備の問題と相まって,理論と実務とを架橋した教育を行う専門職大学院の在り方として大きな問題があると言わざるを得ない。
 この他,特定の重要な科目について,専ら外部講師を招聘するオムニバス形式で実施する予定であるが,こうした方法では各講師の経験談に終始して知の体系化がなされず,結果として,当該分野の高度専門職業人として活躍するにあたって重要な科目についての学修が十分になされない恐れがあり,かつ,それらの講師の人選・交渉が未了であるなど,確実な実施が担保されていない。
 さらに,「インターンシップ」では,実務家教員の関わる企業で学生を就業させるという形態をとっている。このことは,産学連携の一つの試みとして有意義であるものの,大学が支給する教員の報酬が著しく低いこと(月額10万円未満が殆ど)等を考慮すると,当該教員が,勤務先である関係企業の利益を大学・学生の利益よりも優先させてしまう事態も懸念される。こうした立場にある教員が,相当数の専任教員として大学運営に参画する組織体制では,大学及び当該企業間の利益相反の問題を生ずる恐れが排除できない。
 以上のことから,教員組織の在り方として,大学としての自律性を確保しつつ教育研究活動を継続的・安定的に実施していくことが困難であり,「研究科及び専攻の種類及び規模に応じ,教育上必要な教員を置く」(専門職大学院設置基準第4条)との要件を充足しているとは認められない。

2 教育課程について

 当該大学は,アニメーション分野のプロデューサーや,演出家・監督を養成しようとするものであるが,当審議会としては,審査過程において,それらが「高度専門職業人」としての高度性・専門性を備えたものであるのか説明を求めた。特に,演出家・監督について,大学院における体系的な教育課程によって養成される職種と言い得るのかという疑義を呈したところである。
 これに対する申請者の回答は必ずしも十分なものとは言えないが,その点を措いたとしても,プロデューサーや演出家・監督が,制作現場や技術動向に関する十分な知識・理解を必要とすることは論を待たない。このため,教育課程においては,実技・実習に関する科目が必要であり,また,当該大学が,日本固有の「アニメ」ではなく,国際通用性のある「デジタルアニメーション」を志向するのであれば,3D化やモーションキャプチャーなどの技術革新に対応した内容を取り入れることが欠かせない。しかしながら当該大学の教育課程は,実技・実習の要素が薄く,特に最新技術については,その有用性を講義で取り扱う等に止まっており,十分な教育効果を挙げられるとは言いがたい。後述する施設・設備の問題と相まって,高度の専門性が求められる職業を担うための深い学識及び卓越した能力を培うことを目的とする専門職大学院の在り方として,ふさわしいものとは認められない。
 また,プロデューサー等の業務で必須となる専門分野の英語教育,申請者の強調する「美意識,文化的意識の陶冶」に関する教育,アニメーションの重要構成要素であるキャラクタに関する教育については,一部の開設科目の中で取り扱われる予定であるものの,その具体的な内容や水準については判然としない。前記1のとおり,オムニバス方式で実施される重要な科目(例えば「コンテンツ創造特論」など)では講師の確保が未了であったり,「プロジェクト実践」や「インターンシップ」に係る協力企業についても十分確保できていないなど,準備不足が顕著である。
 以上のことから,「教育上の目的を達成するために専攻分野に応じ必要な授業科目を開設し,体系的に教育課程を編成する」(専門職大学院設置基準第6条)という要件を充足しているとは認められない。

3 施設・設備について

 当該大学の校舎などの施設・設備については,スタジオ,演習室,実験・実習室など相当部分が,申請者の運営する「WAOクリエイティブカレッジ」との共有となっている。これについて,当該大学と当該カレッジとでは学生等の利用時間帯の相違があるとの説明であるが,施設・設備が専用ではないことから,円滑な教育研究活動を実施する上で,狭隘となる恐れが強い。大学院教育における様々なプロジェクトの実施などに当たっては,長時間にわたって施設・設備を学生が使用することを求めることも想定され,共有部分が多くを占める計画では,支障が生じる可能性が少なくない。
 また,前記2で述べたとおり,設置の趣旨を達成するためには,アニメーションの最新の技術動向に対応し,映像制作に関する実技・実習に関する教育を行う必要がある。このため,大学として最低限の「機械,器具」等(大学院設置基準第20条)を含む諸設備を安定的・継続的に使用できるよう確保するとともに,他企業から借用を行うのであれば,その確実な利用を担保することが欠かせないが,当該計画では,それらの手当てが十分に講じられているとは判断できない。
 さらに,施設・設備の計画上,会議室,医務室が明記されておらず,研究室については,一定の改善は図られたものの,依然として著しく狭隘であって,専任教員としての教育研究環境として不十分であるなど,設置基準上必置となっている諸施設(大学設置基準第36条)に関して所期の機能が十全に発揮されるような状態とは認めがたい。
 これらの課題は,補正申請によって収容定員の減が図られたこと等で若干の緩和が図られたものの,根本的な解決には至っていない。
 以上のことから,「専門職大学院の施設及び設備その他諸条件は,専門職大学院の目的に照らし十分な教育効果をあげることができると認められるもの」(専門職大学院設置基準第17条),「独立大学院は,当該大学院の教育研究上の必要に応じた十分な規模の校舎等の施設を有する」(大学院設置基準第24条)という要件を充足しているとは認められない。

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