はじめに |
●法科大学院教育については、少人数を基本として、双方向的・多方向的で密度の濃い授業が実施されるなど、従前の大講義型を中心とした法学教育や司法試験の合格に向けた学習から大きく変化を遂げており、学生に物事をじっくりと考える能力を養うなど、優れた教育となっている。
●関係者からは、修了者について、自発的・積極的な学習意欲が高いこと、判例や文献等の法情報調査能力が高いこと、コミュニケーション能力に優れていることなどの優れた点が見られるとの評価もなされている。
●一方、法科大学院全体については、未修者教育の問題などが共通の課題として顕在化するとともに、法科大学院間の格差が目立ち、特に課題のある法科大学院の実態が、法科大学院制度全体に対する社会的信頼の確立の障害となり、制度の円滑な安定化を妨げていることは否定しがたい。
●こうした法科大学院制度の優れた点を伸ばすとともに、現在、法科大学院制度が抱えている課題の解決に向けた取組を推進することを通じて、司法制度改革の理念を踏まえた法曹養成制度が適切に機能するよう、法科大学院教育の更なる見直しの方向について検討する。
1.これまでの改善状況と主な課題 |
本特別委員会は、平成21年4月、「法科大学院教育の質の向上のための改善方策について」(報告)をとりまとめたところであり、文部科学省において、同報告に基づき、次の取組を実施してきている。
○1入学者の質の確保
● すべての法科大学院が入学定員の削減を実施し、ピーク時であった平成19年度5,825人から、平成24年度4,484人と約2割の減。
● 入学者選抜の選抜機能を十分に働かせるため、競争倍率(受験者数/合格者数)の確保を促した結果、実入学者数はピーク時であった平成18年度5,784人から、平成24年度3,150人と約4割の減。
○2修了者の質の確保
● 法律基本科目の基礎的な学修を確保するため、未修1年次の法律基本科目の履修登録単位の上限数を6単位まで増加できるよう省令を改正し、平成23年度現在、50校が単位数を増加。
● 成績・進級判定の厳格化の結果、標準修業年限での修了者の割合が、平成18年度81%から、平成22年度74%までに。
○3教育体制の見直しの推進
● 深刻な課題を抱える法科大学院に対し、自主的・自律的な組織見直しを促進するため、司法試験合格率や競争倍率を指標とした公的支援の見直しを平成24年度予算より6校を対象に実施
● 現在、法科大学院3校が学生の募集停止を実施又は表明。(このうち1校は他校との統合を予定)
○4質を重視した評価システムの構築
● 修了者の進路等を評価項目に追加、重点評価項目の設定など認証評価基準・方法の改善のための省令改正を実施
● 各法科大学院の教育の改善状況について特別委員会として調査を実施し、結果を公表
● 法科大学院入学者及び修了者について、既修者/未修者別の状況は、以下の通り。
・入学者数は、平成16年度5,767人、うち既修者2,350人/未修者3,417人であったが、平成24年度3,150人、うち既修者1,825人/未修者1,325人と、未修者の減少数が大きい。
・標準修業年限修了の状況について、平成16年度は、既修者92.6%/未修者76.3%であったが、平成20年度は、既修者91.3%/未修者64.9%と、未修者の標準修業年限で修了する者の割合が低下。
● 司法試験合格状況(各年)については、以下の通り。
・毎年の合格数総数については、平成22年頃までに合格者数を年間3,000人とする政府目標(閣議決定)は、平成23年の司法試験合格者数2,063人となっており、未達成。
・受験者数は増加する一方、合格者数が政府目標に達せず、平成20年度以降約2,000人で推移している結果、単年度の司法試験合格率は年々低下(H18年度48.3%→H23年度23.5%)。
● 司法試験合格状況(累積)については、以下の通り。
・累積合格率(合格者数/修了者数)は、既に修了後5年を経過した、平成17年度修了者(既修者のみ)は
69.8%、同じく平成18年度修了者は49.5%(内訳:既修者63.4%/未修者39.5%)。
・法科大学院修了後に3年以上5年未満を経過した平成19年度及び20年度修了者の合格状況も、既修者は6割を超えている一方、未修者は約3割と差がある。
○1法科大学院ごとの状況の違い
●各大学院の司法試験合格状況について、公的支援見直しの指標である全国平均の半分未満を仮の指標として、各大学院(募集停止予定校を除く)の累積合格率を比較すると、
・指標を上回る大学院43校の累積合格率は、50.7%
・指標を下回る大学院29校の累積合格率は、15.7%。
●深刻な課題を抱える法科大学院では、平成24年度における入学者選抜の競争倍率が2倍に満たない大学院が13校存在。
○2未修者教育の課題
●直近の平成23年司法試験の合格率は、既修者で35%、未修者で16%。累積合格率では、既修者で61%、未修者で28%となり、既修者と未修者の間に差が生じている。ただし、未修者の合格者数については、平成19年635名に対して平成23年881名と増加。
●平成20年度入学者の標準修業年限での修了率は、既修者が91.3%に対して未修者は64.9%。
●短答式・論文式試験を通じて、既習者と比べ未修者の合格状況は厳しい状況にある。特に短答式試験は大きな課題。
短答合格者(対受験者): 既修者81.4% ⇔ 未修者54.1% (その差27.3%)
最終合格者(対短答合格者): 既修者43.5% ⇔ 未修者30.0% (その差13.5%)
●未修者の司法試験合格者数や標準修業年限での修了率は、法学部出身者に比べて非法学部出身者がより厳しい状況にある。
平成19年と23年の司法試験の合格者数を比較すると、法学部出身未修者は合格者数を増やしているが(344名→621名)、非法学部出身者はやや減少(292名→260名)。
平成21年度入学者の標準修業年限での未修者の修了率は、法学部出身59.7%、非法学部出身50.4%。
2.これまでの検討状況と今後の見直しに関する基本的な考え方 |
○本特別委員会では、21年の特別委員会報告後、ワーキンググループを設け、個別の法科大学院の教育活動状況について把握を行い、入学者選抜や授業内容、成績評価・修了認定、教育体制、司法試験合格状況等において課題を抱える法科大学院に対し、現状分析や課題の洗い出し、改善の取組状況などの調査し、その結果をこれまで5回にわたって報告・公表し、課題を抱える法科大学院に対して改善の取組を促してきたところ。
○政府の関係6省庁による「法曹の養成に関するフォーラム」においては、法曹養成に関する制度の在り方について検討を重ねており、本年5月には、論点整理が行われた。また、平成23年11月の提言型政策仕分け、本年4月の総務省の行政評価等において、法科大学院をはじめとする法曹養成制度における問題点の指摘や対策、提言などがなされている。
○本特別委員会のワーキンググループの調査結果が示すように、多くの法科大学院では課題の改善に向けて取り組み、短期間にもかかわらず、かなりの効果を上げているところが見られる一方、一部の法科大学院では、教育の質の改善に関する取組が十分でないところも見られる。
○本特別委員会においては、こうした状況を踏まえ、「法曹の養成に関するフォーラム」における制度の在り方に関する検討を待たずに対応できる実施上の課題については、速やかに具体的な改善方策を検討・実施していく必要があると考える。
基本的には、教育の質の向上を図り、入学定員の適正化等を進め、法科大学院が法曹養成制度の中核機関としての責務を果たし、社会全体からの信頼の確立を目指すべきである。
○その際、法科大学院ごとの状況の違い、未修者教育の充実に関する課題、既に講じてきた施策の進捗状況や効果等を踏まえて、きめ細かな改善方策を検討・実施していくべきである。
3.今後検討すべき改善方策案 |
○中教審/改善状況調査の対象校を絞り込み、より重点的なフォローアップを実施。
○課題を抱える法科大学院に対する改善計画の提出要請・ヒアリング・改善状況調査結果の公表の実施。
○認証評価で不適格となった法科大学院に対する改善状況の報告・確認の徹底。
など
○入学者選抜の競争倍率と司法試験合格率に加えて、定員の充足状況を新たな指標とすることを含む、公的支援の更なる見直しを検討。
など
○ 各法科大学院において連合大学院・共同教育課程・統廃合等に関する組織改革を促進するための改革モデル及び支援策の検討。
○
入学者選抜の競争倍率と司法試験合格率に加えて、定員の充足状況を新たな指標とすることを含む、公的支援の更なる見直しを検討。(再掲)
など
○ 着実な取組を実施している法科大学院における未修者教育に関する優れた取組みの共有化の促進
○
共通的到達目標を踏まえたカリキュラム策定の促進、夜間開講や3年を越える期間の教育課程を設定ができる長期履修制度の活用の促進、純粋未修者に対する教育期間の在り方に関する調査研究、入学前の未修者用教材の開発
○
未修者教育充実のための新たなワーキンググループを設置し、改善方策について集中的に検討
など
○ 適性試験の成績と法科大学院入学後の成績等との相関関係の検証及び検証に基づいた改善を実施
○
社会人または非法学部出身者の受入割合の検討、優秀な学生を積極的に受け入れる方策の検討など
など
○ 主要科目担当の専任教員配置要件の明示や実務家教員の割合を明確化するなどの改善方策について検討
○
教員の資質能力向上の観点から、研究家教員と実務家教員が共同してFD(ファカルティ・ディベロップメント)の促進
○
双方向・多方向の授業を有効に実施するための適正な人数の在り方などクラス規模の検討
など
○ 今後2順目の認証評価が本格化することから、今回の評価基準・方法の改善を踏まえて、法科大学院教育の改善がより主体的に行われるよう促進
など
○ シンポジウムの開催等を含め、着実な取組を実施している法科大学院の教育の状況やその成果を広く社会に発信する取組の促進
○
法曹資格取得者をはじめ法科大学院修了者が高度の法的素養を持つ人材として、広く社会で活躍できるよう支援するため、その進路状況のより精確な把握、就職支援の充実方策の検討
など
○ 現に実務に携わる法曹関係者が、法科大学院における科目等履修制度等を活用することを通じて、先端的・現代的分野、国際関係、学際分野を学び直す機会の創出に向けた取組の促進
など
4.今後の政府における検討に期待すること |
司法制度改革の理念を達成していくため、法科大学院の在り方に密接に関連する課題として、下記に掲げる事項について、政府全体で検討し、対応を講じていくことを期待。
一段とグローバル化が進展するとともに、地域における法曹ニーズや少子高齢化の進展に伴い社会システムが更に複雑化するなか、今後の社会における法曹として活躍が期待される人材に求められる資質とは何か、また、そのために必要な法曹養成制度の在り方とは何かについて、司法制度改革の理念を踏まえて検討する必要がある。
司法制度改革が目指してきた多様な人材の確保の観点から、法科大学院での教育に加えて、合格基準の透明性の確保等をはじめとした司法試験の在り方をどう改善していくかなど、総合的な検討が必要である。
これまでの施策として入学定員の見直しを行い、実入学者数の減を含めて、見直しの取組が進められているところであり、こうした取組の効果を損ねることにならないよう、司法試験の受験回数や予備試験の取扱いなどについては、法曹養成に関する制度全体の見直しの中で慎重に検討することが必要である。
高等教育局高等教育企画課高等教育政策室
-- 登録:平成24年07月 --