資料3-2 大学教育の質の保証・向上に関する検討課題について

1.質の保証・向上に関し,これまでの答申と改革の概括

(1) 中教審の答申

 これまで,平成17年の答申「我が国の高等教育の将来像」において,今後の高等教育の在るべき姿や方向性について全体像が示されている。その際,大学院と学士課程が,それぞれ学位を授与する教育課程として構築されることを通じて,その質の保証と向上を図っていくことが重視された。
 大学分科会では,そうした問題意識に基づいて,引き続き審議を進めており,平成20年までに2つの答申が公表されている。

  • 大学院教育では,平成17年の答申「新時代の大学院教育」において,大学院教育の実質化(教育課程の組織的展開の強化)が提起。
  • 学士課程教育では,平成20年の答申「学士課程教育の構築に向けて」において,各大学における3つの方針(学位授与,教育課程の内容・方法,入学者受入れ)の明確化が提起。

(2) 答申を踏まえたこれまでの取組

 こうした答申を受けて,各大学の自主的な取組が進むとともに,それを支援する制度的・財政的枠組みも整備されてきた。その際,各大学の個性・特色は様々であり,画一的な取組とならないよう,機能別分化を踏まえた対応がなされている。

    1. 体系性・一貫性ある教育のための設置基準改正(H19に大学院,H20に学士課程で施行)
      • 人材養成目的の公表
      • シラバス・成績評価基準の明示
      • 教育内容等の改善のための組織的な研修・研究の義務化
    1. 国公私立大学を通じた大学教育改革の支援
      • GPやCOEといった各種事業を通じた支援

(3) 改革の進展

 上記の制度改正や支援が講じられてきたこともあり,各大学の主体的な取組の進展が見られる。

    改革の進展の例

    【教育内容・方法の改善】

    • 教養教育のための学内体制の整備 H17:529大学(76%) → H20:583大学(81%)
    • セメスター制の導入 H6:200大学(39%) → H20:493大学(68%)
    • シラバスの作成 H5:80大学(15%) → H20:696大学(96%)
    • GPAの導入 H12:68大学(13%) → H20:330大学(46%)
    • インターンシップの実施 H10:143大学(24%) → H21:521大学(69%)

    【グローバル化】

    • 海外との単位互換の実施 H16:151大学(22%) → H20:246大学(33%)
    • 海外とのダブル・ディグリー実施 H18:37大学(5%) → H20:85大学(11%)
    • 留学生の受入数
      (学部)H3:17166人(1%) →  H22:70,021人(3%)
      (大学院)H3:13816人(14%) → H22:39097人(14%)

    【教員の教育活動】

    • FDの実施 H 5:151大学(29%) → H20:727大学(97%)
    • 学生による授業評価の実施 H 5:38大学(7%) → H20:597大学(83%)
    • 教員の教育業績の評価の実施 H12:103大学(16%) → H20:341大学(46%)
    • 教員が教育に費やす年間の平均時間(総職務時間に占める割合)
      (人文・社会科学分野) H14:675時間(26%) → H20:851時間(33%)
      (自然科学分野)  H14:627時間(21%) → H20:755時間(25%)

    【情報の公表】

    • 自己点検・評価の公表 H5:59大学(11%) → H20:669大学(90%)
    • 認証評価を受けた大学 0 → H22:721大学(100%)
    • 教育情報の公表(制度的位置づけ) H11:「情報の積極的 → H23:全大学で公表されるべな提供」を規定き情報の内容を明確化

(4) 平成20年以降の大学分科会の審議

 こうした改革の進展と並行して,大学分科会では,改めて制度面に着目した検討を進めてきた。特に,公的な質保証システムとしての設置基準,設置認可審査,認証評価に関する改革を提言し,それを受けて,制度・運用の改善がなされている。

    • 設置基準:教育情報の公表,社会的・職業的自立のための指導等を法令に位置づけ。
    • 設置認可審査:早期不認可の導入,設置認可情報の公開,認可後のフォローの充実。
    • 認証評価:設置基準や設置認可との関わりを重視した運用改善。評価機関による連携。

2.今後,検討を深める観点の例

 こうした一連の改革や各大学における活動の進捗状況を踏まえると,これまでの改革には一定の進展があったと言うことができる。そうした成果と課題を検証しつつ,今後の質の保証と向上に関し,さらに審議を深める必要がある。
(なお,大学院教育については,第5期の大学分科会において,平成17年の答申後の状況のフォローアップを行い,平成23年に答申「グローバル化社会の大学院教育」を公表している。そのため,以下では,大学院に固有の課題は含めていない。)

(1) 大学における学位課程(プログラム)の構築の推進

  1. これまでの取組
    答申「学士課程教育の構築に向けて」は,学位の質保証の観点から,各大学において,
    • まず,学位授与方針を明確化し,
    • そうした学位を授与するための教育課程の内容・方法の方針を明確化し,
    • さらに,そうした教育課程に沿って履修する学生の受入れの方針を明確化,

することで,体系性・一貫性ある学位プログラムを確立するよう求めている。
 その際,学士課程教育を通じた学習成果の参考指針として,「学士力」を提示している。

    【学士力(学士課程共通の学習成果に関する参考指針)】

     <知識・理解>

    • 多文化・異文化に関する知識の理解
    • 人類の文化,社会と自然に関する知識の理解

     <汎用的技能>

    • コミュニケーション・スキル
    • 数量的スキル
    • 情報リテラシー
    • 論理的思考力
    • 問題解決力

     <態度・志向性>

    • 自己管理力
    • チームワーク
    • リーダーシップ
    • 倫理観
    • 市民としての社会的責任
    • 生涯学習力

     <統合的な学習経験と創造的思考力>

    • これまでに獲得した知識・技能・態度等を総合的に活用し,自らが立てた新たな課題にそれらを適用し,その課題を解決する能力

 

  1. さらなる課題
     こうした提言を踏まえ,各大学では様々な見直しが進んでおり,それらを検証しつつ,今後の教育の質保証・向上のための検討を進める必要がある。

 (ア) 学位授与の方針

     (例)

    • 大学がそれぞれ使命(ミッション)を明確にしながら,修得すべき知識・能力を明示することについて。
    •  「修得すべき知識・能力に関する情報」は,本年4月の省令改正により,各大学で公表に努めることとされている。それを受けた各大学の取組事例は多様であるものの,現時点では,総じて,抽象的な記述にとどまっているとの指摘がある。

    • その際,大学教育を通じて,専門的知識を培うとともに,幅広い教養,高い公共性・倫理性を持ち,社会の安定・発展・創造に貢献する意欲・能力を培うことについて。
    • また,自然や社会の事象等に関し,正しい知識・理解を備え,発信できる知的人材の育成という観点について。
    • 関連して,日本人学生・外国人学生を問わず,卒業後に国内外の多様な場で活躍できるような教育・学生支援の充実について(国内外での雇用を念頭に置いた就職支援の推進を含む)。
    • これらに関し,大学関係者と産業界等社会との対話の促進について。

 (イ) 教育課程の内容・方法の方針

     (例)

    • 体系性・一貫性ある教育課程の編成と,それに沿った教育の実施について
    • 単位制度の実質化について
    • 厳格な成績評価について
    • 学生の学ぶ意欲を高め学修成果につながる教育方法の工夫について
    •  シラバス,GPA,インターンシップなどの取組が,改革の進展を示す指標として用いられるが,そうした仕掛けがどのように運用されているか実態を把握しつつ,さらなる方策について

 (ウ) 入学者受入れの方針

    (例)

    • 学位課程のあり方に照らした入学者受入方針の明確化 等

(2) グローバル化のさらなる促進について

 上記(1)の改革は,我が国の学位プログラムが海外の大学や学生から見ても分かりやすいものなるためにも重要である。そうした取組に並行して,グローバル化のさらなる促進について検討を進める必要がある。

    (例)

    • 海外大学とのダブル・ディグリーについては,第5期の大学分科会の審議で,大学院の単位互換の上限の引上げを課題として提起(30単位のうち,10単位から15単位へ)。また,大学団体による質保証活動が進展することを提言している。
    • 今後,さらに,海外大学とのジョイント・ディグリー(複数大学による連名の学位記を授与)の実現に向けた制度・運用の質保証のあり方について。
    • また,主要国の大学により,海外分校設置やオンラインによる教育の提供などの取組が活発になっている状況において,我が国の大学のあり方(平成16年の設置基準改正により,海外に学部等を設けることが可能となっているが,これまで主立った取組が見られないことについて)。

(3) 各大学の取組を支援する仕組みのあり方

    (例)

    • 個々の教職員の努力とともに,教職員の組織的な活動を通じて,質保証・向上を果たすためのFD・SDの進展について。
    • 大学の活動を支援する法人など,全国的観点から,高い専門性に基づいて各大学の活動を支援する枠組みについて。
    • 国公私立を通じた大学改革支援の在り方について。

(4) 各大学の使命(ミッション)の明確化と教育情報の活用と公表の促進

  1. これまでの取組
    平成17年の答申「我が国の高等教育の将来像」では,大学は,
    • 世界的研究・教育拠点,
    • 高度専門職業人養成,
    • 幅広い職業人養成,
    • 総合的教養教育,
    • 特定の専門的分野(芸術,体育等)の教育・研究,
    • 地域の生涯学習機会の拠点,
    • 社会貢献(地域貢献,産学官連携,国際交流等),

    等の各種の機能を併有しており,これらの機能の比重の置き方の違いに基づいて分化することを想定した。

     この機能別分化の考え方は,大学が7つに種別化されることを意味するものではなく,大学の個性・特色が,教育研究活動として具体化される際には,極めて多彩なものとして表現される。
    現在までに,こうした方向性を踏まえた仕組みが整備されている。

    • 国公私立を通じた大学改革支援,
      • COE(Center of Excellence)(我が国を代表する卓越した教育研究拠点)
      • GP(Good Practice)(他大学にも普及すべき教育活動)
    • そのほか,国立大学の組織・業務全般の見直しや,私学助成の特別補助を通じて,大学の機能別分化に対応
    • 大学間の連携を促進する仕組み
      • 地域コンソーシアム,教育課程の共同実施,教育研究の共同拠点,機能別の連携

 

  1. さらなる課題
     大学教育の質の保証・向上に当たっては,各大学が,自らの使命(ミッション)を明確化し,それに基づく教育研究活動の状況を公表することで,教育活動の改善に生かすとともに,社会への説明責任を果たすことが求められる。
  2. (例)

      • 各大学における教育情報の発信を支援する方策について。
      • 各大学が,自らの状況(プロファイル)を分かりやすく示す仕組みについて。
      • こうした各大学の取組を支援する枠組みについて。
      • 大学の連携の促進について。

(5) 公的な質保証システムに関し,設置基準,設置認可審査及び認証評価の改善

  1. これまでの取組
     こうした改革の進展と並行して,大学分科会では,改めて制度面に着目した検討を進めてきた。特に,公的な質保証システムとしての設置基準,設置認可審査,認証評価に関する改革を提言し,それを受けて,制度・運用の改善がなされている。
    • 設置基準:教育情報の公表,社会的・職業的自立に関する指導等を法令に位置づけ。
    • 設置認可審査:早期不認可の導入,設置認可情報の公開,認可後のフォローの充実。
    • 認証評価:設置基準や設置認可との関わりを重視した運用改善。評価機関による連携。
  1. さらなる課題
     公的な質保証システムは,大学の教育活動が一定の内容・水準をもって継続的になされるための条件整備とともに,(1)に述べた各大学での主体的な改革が実質的に機能することを促す上で重要な役割を果たす。
     このことから,第5期の大学分科会で審議した論点に基づいた検討を継続する。
  2. (例)

      • 施設・設備の基準の明確化(キャンパスのあり方を含む)
      • 独立大学院の基準の明確化
      • 通学制と通信制を分けている設置基準のあり方の見直し
      • 短期大学設置基準のあり方
      • 認証評価の改善

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