2.大学教員の職の在り方について

1.新しい制度について

  • 現在の大学教員の基本的な職としては、教育研究を主たる職務とする職である教授及び助教授の2種類の職とともに、教育研究を主たる職務とするか又は教育研究補助を主たる職務とするか必ずしも明瞭ではない助手の職が定められている。また、この他に、大学の判断により置くことができる職として講師が存在している。
  • 今後の大学教員の職としては、教育研究を主たる職務とする職として教授、准教授(後述「3.助教授について」参照)及び「新職」(後述「2.助手について」の「(2)自ら教育研究を行うことを主たる職務とする『新職』」参照)の3種類の職を、教育研究の補助を行うことを主たる職務とする職として「(新)助手」(後述「2.助手について」の「(3)教育研究の補助を主たる職務とする『(新)助手』」参照)の職を定めるべきであると考える。なお、講師については、従来どおりとすることが適切と考えられる。

2.助手について

(1)現状と課題

  • 学校教育法上、現在の大学の助手の職務内容は、「教授及び助教授の職務を助ける」と定められている。
     しかし、実際上は、助手の教員組織における位置付けは曖昧である。将来の大学教員や研究者になることが期待される者、教育研究の補助を行う者、学科や研究室の事務を担う者等、様々な者が存在しており、しかも、例えば、将来の大学教員や研究者になることが期待される者として位置付けられていると同時に、教育研究の補助を行う者でもあるなど、複数の位置付けがなされていることが多い。
     また、実際に助手が担っている職務の範囲も、各大学、各分野によって異なるが、自ら教育研究を行うこと、講義や演習等の準備、実験・演習の実演、大学院学生への日常的な指導等、実験における観測・測定、実験機器の制作、情報機器や実験機器の管理、附属病院における診療、教学面での連絡調整、学科や研究室の事務など様々なものが含まれている。さらに、一人の助手が日常的に複数の職務を担っている例も多く、しかも、どの種類の職務をどの程度担っているかは、各分野、各大学、各助手によって異なっている。
    • (注1)各分野等における状況
      助手の実態が多様であることについて、4年制大学の理系(理学、工学、農学)、人社系(人文、社会、教育)、保健系(医学、歯学、薬学、看護等)の各分野を例として、大まかに述べれば、以下のとおりである。
      (注)教授、助教授、講師、助手の人数は、平成13年10月現在のもの(文部科学省調べによる。)
      • 【理系(理学、工学、農学)】
        • 理学、工学、農学の分野では、教授、助教授、講師、助手の構成比は比較的共通しており、助手の占める割合は、それぞれ約20%強(教授40%強、助教授30%弱、講師10%弱)。また、国立大学では助手のうち約40~50%は大学院に所属。
        • 助手の大部分は、将来の大学教員や研究者になることが期待される者と位置付けられているが、同時に教育研究の補助を行う者としても位置付けられている。
        • 工学の分野では、助手を教育研究の補助を行う者と位置付けつつ、計画的・意図的な研究指導を行っていることが多い。一方、理学の分野の中には、分野によっては、既に独立した若手の大学教員・研究者として位置付けられている者が存在する。
      • 【人社系(人文、社会、教育)】
        • 人文、社会、教育の分野では、教授、助教授、講師、助手のうち助手の占める割合が、3~5%(人文、社会、教育の3つの分野とも、教授の占める割合は50%を越える。)。
        • 助手のうち多くの者は、将来の大学教員・研究者になることを期待される者と位置付けられているが、法学など社会の分野では、助手の中に、将来、大学教員や研究者になることは想定されず、教学面での連絡調整や研究室等の事務を行う者と位置付けられた者が相当数存在する。
      • 【保健(医学、歯学、薬学、看護等)】
        • 医学等の保健の分野では、教授、助教授、講師、助手のうち助手の占める割合は、50%強と他の分野に比べて極めて多い。また、助手の人数も附属病院を併せれば約2万4千人と全分野の助手の総数の約60%以上を占める。
        • 医学及び歯学の分野では、助手のほとんど大部分は、将来の大学教員や研究者となることが期待される者と位置付けられている。
  • このように、各分野によって実態が多様であり、大学全体としてみた場合、助手の職の位置付けが曖昧であることは、特に、将来の大学教員や研究者を志し、自ら教育研究を行うことを主たる職務とする者にとって、1助手の職が将来の教授等につながる職として明確に位置付けられていない、2自ら教育研究を行うこと以外に、教育研究の補助や研究室の事務等の様々な職務を行う一因となっている、3大学教員と明確に位置付けられていないため授業科目の担当者になれない等の問題があり、不適切である。
    また、学校教育法上の「助ける」という職務内容の規定も曖昧かつ抽象的であり、実態を適切に表すものではなく、「助手」という職名も、将来の大学教員や研究者になることが期待される者の職名としては、国際的に通用性を有するものではない。
  • このため、助手の職については、その職が意味し期待される教員組織における位置付けを明確にするために、職務内容等を勘案して区分することが必要である。すなわち、現在の助手の職を、自ら教育研究を行うことを主たる職務とし、将来の大学教員や研究者となることが期待される者として位置付ける職と、教育研究の補助を主たる職務とする職に明確に分けることが必要である。その上で、前者の自ら教育研究を行うことを主たる職務とする者については、国際的な通用性を踏まえつつ、その職名や職務内容を定めることが適当である。

(2)自ら教育研究を行うことを主たる職務とする「新職」

1.「新職」の新設

  • 現行の助手のうち、自ら教育研究を行うことを主たる職務とする者については、その職務に相応する位置付け(職名、職務内容等)の新しい職(「新職」)を、学校教育法上に設けることが適当である。
  • なお、「新職」の具体的な職名については、諸方面からの意見を伺いつつ検討することとし、今回の「審議経過の中間的な整理」においては、具体的な職名を定めず、その職務内容等についての考え方を整理することとしている。

2.「新職」の職務内容

  • 若手教員の養成においては、教育面と研究面の両方が重要であり、「新職」の主たる職務として学校教育法上に規定する職務内容としては、教育と研究の両方とすることが必要である。
     このため、例えば、授業科目を担当することができるなど、自ら教育研究を行うことを主たる職務とすることが適切である。
     教授は、特定の授業科目の担当や研究指導等を行うだけでなく、教育研究方針の策定、教育課程の編成など、大学、学部等における教学面の運営全体についても第一次的な責務を担っている(最終的な権限と責任は学長にある)。これに対し、「新職」は、一般に、大学、学部等の教学面の運営全体について、教授と同じ立場で責務を担うものではなく、大学、学部等によって定められた特定の事項(授業科目の担当や研究指導等)に限って責務を担うものとすべきである。
     このため、学校教育法に、「新職」の主たる職務を規定するに当たっては、大学、学部等において定められた特定の事項に限って、自ら教育研究を行うことである旨、定めることが適当である。
    • (注1)「自ら教育研究を行うこと」について
      授業科目の担当や自ら研究目標を定めて研究を行う場合に限らず、研究プロジェクトの中の一部を分担して(教授等の補助(観測、測定)ではなく)自らの判断と責任において研究を行う場合や、授業科目の一部を担当することも含まれる。
    • (注2)学校教育法上に規定される職務内容について
      学校教育法上の職務内容についての規定は、一般的に、「新職」が担うこととなる主たる職務を規定するものである。このため、実際に、各大学において、「新職」が、どの程度、主たる職務である教育研究を行うこととなるか等、その具体的な職務内容は、各大学によって異なることはあり得る。また、「新職」の職務には、教育研究以外の職務も含まれ得る。

3.「新職」を設けた場合の教員の分担及び連携の組織的な体制の確保

  • 大学においては、
    • a)大学や分野によって、現在の助手等が大学院学生に対して行っている日常的な指導等が、その育成において重要な役割を有しており、次代を担う若手の大学教員や研究者を育成するという観点からは、この機能、役割を担う者を確保することが必要である。
    • b)教学面、特に、教育課程の編成や授業科目の分担等の教育面においては、学生に対する体系的・効果的な教育を提供することが必要である。このためには、大学、学部等が組織として方針等を決定し、その方針等に従って役割の分担及び連携等の下で組織的に行うことが不可欠である。
    • c)さらに、入学者選抜に係る職務、附属病院における診療等のように、組織として、役割の分担及び連携の下、さらには必要に応じて指揮・監督の下に組織的に行うことが必要な職務も存在している。
  • したがって、今回の制度改正により、「新職」について、自ら教育研究を行うことを主たる職務とするとしても、大学、学部等が組織として方針等を定め、その方針等に従って、役割を分担し、連携の下で組織的に行わなければならない職務について支障が生じないように、次のような措置を講じることが必要である。
    • ア.大学設置基準等において、各大学は、教育研究上の目的を達成するため、教育研究の実施に当たり、各教員の分担及び連携の組織的な体制を確保し、かつ、責任の所在が明確になるよう配慮すべき旨の規定を設ける。(後述「3.講座制・学科目制等の教員組織の在り方について」参照)。
    • イ.特に、大学院学生への教育については、例えば、日常的な指導等は「新職」が担当するなど、各教員がそれぞれ役割を分担し、連携の下で組織的に行うことが必要である。
       このため、ア.の大学設置基準等上の規定に加え、大学院設置基準に、各教員が役割を分担しつつ連携して、組織的に大学院学生の教育を行う体制を確保するよう配慮すべき旨の規定を設ける。

4.「新職」の処遇等

  • 「新職」の処遇は、「新職」が行う職務の実態等に即し、各大学の判断により定めることが適当である。
     なお、職務の実態が従前と変わらないなど、従来、助手の職務に属する職務を行っていた者が「新職」に就いた場合には、基本的に、処遇は変わらないものと考えられる。

5.「新職」のキャリアパス

  • この「新職」は、制度上、将来、准教授、教授へつながるキャリアパスの一段階に位置付けられるものであり、「新職」に就く者としては、例えば、大学院博士課程修了後、ポスドク(PD)等を経た者などが想定される。このような点や若手の大学教員や研究者の養成の重要性を踏まえ、各大学においては、大学教員や研究者を志す優れた人材にとって、「新職」が自らの資質・能力を十分に発揮できる活躍の場や一層の研鑽の場となるよう積極的に活用することが期待される。
  • 米国では、大学院を卒業し、研究員等として経験を積んだ後に、助教授(assistant professor)等として任期付の契約で雇用され(一般に2~3年程度)、この助教授等の期間に実績を積み、准教授(associate professor)への昇進時又は准教授在職期間中に審査を経て、テニュア(終身在職権)の取得が決定されている。
    我が国においても、優秀な人材の適切な確保や人材の流動性向上を図るため、「新職」に期間を定めた雇用(任期制)や昇進のための審査を定期的に行う再審制など、一定期間ごとに適性や資質能力を審査する制度を導入することや、学内昇格を原則として行わない制度を導入することなどが考えられる。これらの制度を導入するかどうかは、それぞれの実情に応じて、各大学が判断するものであるが、「新職」がキャリアパスの一段階に位置付けられるものであることから、一般に、このような制度が積極的に活用されることが望まれる。また、採用や昇進等に当たっては、責任の所在を明確にしつつ公正かつ厳格な教員評価を行うことが必要である。

6.「新職」の資格

  • 「新職」は自ら教育研究を行うことを主たる職務とし、授業科目を担当することができることから、教授等と同様に大学における教育を担当するに相応しい教育上の能力を有すると認められることが必要である。
  • 大学教員のキャリアパスの一段階に位置付けられることから、研究上の能力として、基本的に修士又は専門職学位の資格を求めることが適当である。

7.「新職」は大学に置かなければならないこととするかどうか。

  • 各大学や各分野によって、大学教員のキャリアパスの状況は多様であること等を踏まえ、「新職」は、各大学の判断により、置くかどうかを決める制度とすることが適当である。
  • なお、各大学や分野によって実態は異なるが、大学の教員に優れた若い人材を確保するためには、若手が就く大学教員のポストを一定数確保することが必要である。特に、世界的研究・教育拠点の機能に重点を置く大学にあっては、この点に留意することが求められる。

(3)教育研究の補助を主たる職務とする「(新)助手」

1.「(新)助手」

  • 現行の助手が担っている職務のうち、教育研究の補助は、大学教員が教育研究に集中できる環境を醸成する上で極めて重要である。このため、「新職」を設けた後も、教育研究の補助を主たる職務とする「(新)助手」を学校教育法上に規定することが適当である。
  • なお、「(新)助手」の職名を、従来の「助手」とするか又は新たな職名とするかについては、諸方面からの意見を伺いつつ検討することとし、今回の「審議経過の中間的な整理」においては、「(新)助手」として、その職務内容等についての考え方を整理することとしている。

2.「(新)助手」の職務内容

  • 「(新)助手」の主たる職務は、教育研究の補助とすることが適当である。具体的には、
    • ア.講義・演習・実験・実習の補助(講義等のための教材作成の補助、教授等の指示の下に行う実験の実演、実験機器・薬品等の準備、教育面での連絡調整など)
    • イ.研究の補助(観測・測定、実験機器・観測機器等の管理、研究面での連絡調整など)
    など、自ら教育研究を行うことを主たる職務とするものではないが、教育研究に関する専門的な知識・技術等に基づいて、教育研究活動を直接補助することを主たる職務とする職とすることが適当である。

 (注)ア又はイのいずれかの職務を主たる職務とする場合も、ア及びイの双方の職務を主たる職務とする場合もあり得る。

3.処遇等

  • 教員の給与表又は職員の給与表のいずれによるか等を含め、給与表の適用関係については、これまでの経緯や実際に「(新)助手」が行う職務の実態も踏まえつつ、各大学の判断により定めることが適当である。
     なお、職務の実態が従前と変わらないなど、従来、助手の職務に属する職務を行っていた者については、基本的に、処遇は変わらないものと考えられる。

4.「(新)助手」のキャリアパスについて

  • 従来より、助手の配置状況や職務の在り方は、各大学や各分野によって多様であり、近時、教育研究を補助する者として、ティーチングアシスタント(TA)、リサーチアシスタント(RA)等が増加するとともに、競争的資金の間接経費によって大学が雇用し得る余地が増えたことから、教育研究の補助を主たる職務とする者としての「(新)助手」の配置や職務内容の在り方は、今後、一層多様化していくことが予想される。
     このため、「(新)助手」に就いている者の将来の処遇や職業能力の開発、将来の他の職への転換等を含めたキャリアパスについては、各大学や各分野の実情に応じて、各大学において判断することが適当である。
     例えば、各大学の判断によって、1主任助手など、教育研究を補助することを主たる職務とする職について独自の体系を設けることや、2近時、情報化・国際化への対応や入学者選抜等の専門性の高い職務が益々拡大していることから、専門性の高い職務を担う職を設け、「(新)助手」との間で人事交流を行うことなども考えられる。
  • なお、「(新)助手」のキャリアパスとしては主として上述のようなものが考えられるが、「(新)助手」の職に就いている個々人について、その適性や資質能力に基づき、各大学の判断によって准教授、「新職」等に採用されることも十分考えられる。

5.資格

  • 現行の助手と同じ資格とすることが適当である。

6.「(新)助手」は、大学に置かなければならないこととするかどうか

  • 教育研究の補助の重要性に鑑み、基本的には、大学には、「(新)助手」を置かなければならないこととすべきであるが、各大学の方針や各分野における実情等によっては、置かないことができることとすることが適当である。
    (例えば、現在も、全ての助手が自ら教育研究を行うことを主たる職務としており、教育研究の補助は他の職員等が担っている場合には、全ての助手を「新職」とし、「(新)助手」を置かないこととすることなどが考えられる。)

3.助教授について

(1)現状と課題

  • 学校教育法上、助教授の職務内容は「教授の職務を助ける」と規定されている。これは、助教授は教育研究を行うことを通じて、教授の教育研究を助けることを意味するものであるが、職名から必ずしもそのような理解が十分得られていないという指摘や、大学や分野によっては、実態にそぐわない状況が見られるという指摘がある。また、我が国の助教授の職にある者にとって、助教授という職名は、直訳するとassistant professorであり、国際的通用性からみて必ずしも適切なものとは言い難い。
    このため、助教授について、このような職務の実態に相応する位置付けを行うという観点から、また、国際的な通用性の観点から、職名や職務内容を見直すことが必要である。

(2)准教授の新設

1.職名・職務内容

  • 助教授の実態や国際的な通用性の観点から、「教授の職務を助ける」ことを主たる職務とする現在の助教授に替えて、「学生を教授し、その研究を指導し、又は研究に従事する」ことを主たる職務とする「准教授」を設けることが適当である。
  • なお、この准教授の主たる職務の内容は、教授と同じものとなる。しかし、同じではあるが、准教授は、教授に準ずる位置付けであることから、教授とは待遇やそれに関連した任用上の資格要件が異なる職とすべきである。
    また、教授と異なり、教授会の最低限必要な構成員ではなく、加えることができる職とするなど、各大学の実情等によって、教学面の運営における責任の度合いが教授と異なることがあり得る職とすべきである。

2.処遇等

  • 准教授が行う職務の実態等に即し、各大学の判断により定めることが適当であるが、従来と職務の実態が変わらない場合には、基本的に、処遇も変わらないものと考えられる。

3.准教授を設けた場合の教員の分担及び連携の組織的な体制の確保

  • 今回の制度改正により、准教授について、教授と同じく「学生を教授し、その研究を指導し、又は研究に従事する」ことを主たる職務にするとしても、「新職」について前述したように、大学、学部等には、大学院学生への教育、教育課程の編成・授業科目の担当、プロジェクト研究の推進、入学者選抜、附属病院における診療等、大学、学部等が組織として決定した方針等に従い、役割の分担及び連携の下、組織的に行わなければならない職務が存在している。
    このため、准教授の新設にあたっても、こうした職務の遂行について、誤解や支障が生じないように、大学設置基準等において、教員組織の編制に当たっては、教育研究の実施に当たり、各教員の役割の分担及び連携の組織的な体制を確保し、かつ、責任の所在が明確になるよう配慮する旨の規定を設けること等が必要である。

4.准教授は、大学に置かなければならないこととするかどうか。

  • 一般に、優れた人材を確保する観点からは、「新職」等から、直ちに教授に採用するよりも、一度、准教授に採用して、一定期間経過後に教育研究上の業績や資質能力を改めて評価し、教授に相応しいと認められた場合に、教授に採用することが適切である。
    このため、基本的には、大学には、准教授を置かなければならないこととするが、各大学の方針や各分野における実情等が多様であることに鑑み、各大学の方針や各分野における実情等によっては、置かないことができることとすべきである。

5.資格

 現行の助教授と同じ資格とすることが適当である。

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