「第二次報告」では,大学教育のグローバル化の進展に伴う質保証に関し,基本的な論点を整理し,「第三次報告」では,海外の大学との連携を促進する方策として,ダブル・ディグリー等の連携の検討を開始した。
それを受けて,「大学グローバル化検討WG」では,「我が国の大学と外国の大学間におけるダブル・ディグリー等,組織的・継続的な教育連携関係の構築に関するガイドライン」を公表している。また,同WGは,アジア地域の一体的進展を踏まえた人材育成を見通し,短期交流プログラムやインターンシップ等を通じた「東アジア地域を見据えたグローバル人材育成の考え方」を取りまとめた。
それらを踏まえて,分科会として,以下のとおり整理した。
大学の機能別分化が進む中,大学院博士課程や研究等に重点を置く大学が,海外の大学と連携して,ダブル・ディグリー等の教育プログラムを構築し,海外の大学からも学位が授与されるようにすることは,国内だけでは実施できない質の高い教育の提供等に資する(平成19年度は,国内の69大学が,海外の大学と合計158件の教育プログラムを実施)。
そうした活動を一層促進するため,用語の定義や,留意事項を整理したガイドライン(指針)を取りまとめ,各大学での実施が円滑になるようにした。
なお,このガイドラインは,現行の大学制度を前提としているが,海外の大学との連携を更に促進するためには,大学設置基準等の制度的な検討も必要である。
我が国と外国の大学が,教育課程の実施や単位互換等について協議し,双方の大学がそれぞれ学位を授与。
我が国と外国の大学が,共同で教育課程を編成・実施し,単位互換を活用して,双方の大学がそれぞれ学位を授与。その際,共同で編成された教育課程を修了したことを示す証明書
(サティフィケート)を共同で発行することも想定。
(各大学で「デュアル・ディグリー」,「共同学位」,「複数学位」等の用語を用いる場合,上記の「ダブル・ディグリー」と「ジョイント・ディグリー」のいずれかに包含されると考えられる。)
○学位記を発行する大学の責任と,サティフィケートを発行する場合の様式
(日本語,英語)を参考例として提示。
○形成するプログラムが,設置基準等の関係法令と抵触しないよう確認。
○相手方の大学が,その国の公的な質保証システムによる認可や,ユネスコの高等教育情報ポータルに掲載されていることを確認。
○相手方の大学と教育連携関係を構築する意義や,参加学生数や教員配置等について,学内の共通理解を得る。
○相手方の大学と協定等を設け,重要事項を審議する協議会の設置。窓口となる担当部署を設定し,組織的な連携を図る。
○相手方の大学での単位制度や履修の順序,単位互換の手続,アカデミックカレンダーの相違等を確認し,学生の履修に支障がないよう留意。
○コースワーク重視と授業内容を反映した科目名によるプログラムを構成。
○双方の大学が英語等による授業や課程を提供することも考えられる。
○学位審査は,各大学が適切に行う。論文の数や内容,トピックの選択,使用言語,論文指導における共同指導の在り方等を事前に検討。
○学位記の英語併記を検討。修了したプログラムの概要や,履修を通じて得られる能力等の情報を添付することも考えられる。
○自己点検・評価,認証評価等でプログラムを評価,実施状況を公表。
○学生の募集の手続を具体的に定める。募集要項等の関係書類を公開。
○学生支援の継続的な体制を整備。在籍関係や授業料に関し,学生の便益に配慮。また,関係大学の学生間の公平性を確保。
○参加希望者が少ないなど,授業科目を開設できない場合に,学生に適切な措置が図られるよう留意。
我が国とアジアの各国・地域は,学術・文化等の様々な分野にわたり,長い交流の歴史を有している。
加えて,アジア地域における著しい経済成長に伴って,域内の貿易や直接投資等を通じた結びつきが強まっている。今や,世界のGDPの約1/5(22%)をアジア地域が占め,また,製造業やサービス業等の各分野にわたり,アジア地域内での開発・生産・流通・消費を通じた相互依存が進んでいる。我が国では,輸出入総額に占めるアジアの割合は,平成11年の38%から平成21年の50%に上昇し,また,外国人の入国者数が平成11年の490万人から平成20年の915万人に増加する中で,アジアからは298万人から677万人に達し,人数・割合ともに急増している。
こうしたアジア地域の経済の一体的進展を背景として,これまで我が国の国内でほとんど完結していた様々な制度や慣行,例えば,企業の採用・雇用・処遇の在り方や,政府・自治体等の公共部門に求められる役割・機能が,より多様化・複雑化している。
上記のような動向は,高等教育にも深い関わりを持つ。
我が国の大学では,グローバル化の進展に伴い,これまでに世界の多くの国・地域と,学生・教員・研究者による様々な交流がなされており,その一環として,アジア域内との交流も活発になっている。例えば,海外の大学とのダブル・ディグリー等のプログラム158件のうち6割(97件)はアジア地域の大学が対象である。今後,アジア地域の経済の一体的進展が進む中で,学生は,優れた大学教育を求めて国を越えて移動することが,一層常態化すると想定される。
こうしたアジア地域の大学間交流の進展を踏まえ,今後,その一層の充実を図っていくことが重要であり,その際,以下のような観点への考慮が求められる。
○アジア地域の大学制度や教育は,各国・地域により多様であり,そうした多様性を尊重すること。
○各大学が,個性・特色を踏まえ,機能別に分化する中で,各大学がその教育研究目的や方向性を明確化すること。
○多文化・異文化の理解を重視する教育プログラムを構築すること。
○大学間交流における質の保証のため,政府は,各国の大学制度・教育に関する情報を確認し,国内における共有化を図るとともに,各大学は,学位プログラムに着目した教育を実施すること(例:単位互換のため,シラバスや成績評価の可視化)。
グローバル化の進展,とりわけ,アジア地域の交流の進展は,すべての大学における教育の在り方を問い直す契機でもある。
我が国の大学教育では,分野等による違いはあるものの,学士課程教育を中心に,その卒業生の多くが国内で就職し,就職後も企業等による再教育・訓練がなされることが事実上想定され,大学教育の質が十分に問われたことが少なかった。「学士課程答申」や「大学院答申」では,そうした問題意識も踏まえながら,学生の学修の活動や成果に関する改革が提言されている。
今後,アジア地域の経済の一体的進展が一層進展すれば,大学教育が,多様な国・地域からの学生を対象とし,また,学生の卒業・修了後の進路も,国内外を通じて多様化していくことが大きな課題となる。このことを踏まえ,各大学では,修得すべき知識・能力を明確化し,それを踏まえた体系性・一貫性のあるカリキュラムを編成・実施するなど,学位プログラムの整備を通じて,教育の質の向上に取り組むことが重要である。
そうした問題意識に基づいた改革を進める中で,アジア地域をはじめとするグローバルな教育の展開の観点からは,以下のような取組が考えられる。
アジア地域の各国・地域では,経済成長やそれに伴う知識・技術へのニーズを背景として,大学進学者数の増加や大学の量的な整備が進んでいる。これに関連して,大学教育の質保証が課題となっており,各国・地域では,自主的な評価組織・団体への支援や,公的な評価機関の整備をはじめ,それぞれの実情に応じた取組が進んでいる。
一方,欧州では,エラスムス計画による共同教育プログラム整備や,ボローニャ・プロセスを通じて,欧州域内を通じた大学教育の質保証制度に関する取組が進展している。さらに,ボローニャ・プロセスへの非EU諸国の参加の拡大や,エラスムス・ムンデュス計画等を通じて,欧州以外の国・地域との間での大学間交流の動きが活発化している。
アジア地域でも,国・地域を越えて質保証に取り組もうとする動きが見られる。例えば,「アジア太平洋質保証ネットワーク」は,国際的な活動である「高等教育質保証機関の国際的ネットワーク」の地域ネットワークとして,平成16年以降,各国・地域の質保証機関の連携を進めている。
また,本年3月には,日本・中国・韓国の各質保証機関による連絡協議会が開催され,評価制度に関する情報の共有化や,共通指標の作成に向けた検討等,アジア地域における横断的な取組が,具体的に進展しつつある。
各国・地域の大学制度や教育は,各国・地域により多様であり,そうした多様性を尊重しつつ,国・地域を越えた質保証の枠組の構築に向けて努力することが重要である。
大学教育の質を保証することは,社会に対して果たすべき責務であり,その際には,国内だけでなく,上記のような国際的な動向を踏まえることが不可欠である。
なお,量的規模の在り方など,大学に関する多方面の論点に関しても,アジア地域をはじめとする国際的動向を踏まえた検討が求められる。
高等教育局高等教育企画課高等教育政策室