第4 大学規模・大学経営について

 「第一次報告」では,大学の量的規模と経営に関する論点を,「大学全体に関わる事項」,「大学相互間の関係」,「各大学の取組」の3つに分けて検討した。
 平成21年8月以降,大学規模・大学経営部会は,「大学の自主的な経営改善の取組への支援の在り方」,「財務・経営に関する情報公開の促進」の2つを議論し,同年8月に「大学の自主的な経営改善の取組への支援と情報公開の促進について(論点整理)」を取りまとめた。その後,量的規模の検討の前提として「社会人の受入れの促進」も審議している。
 また,「第一次報告」で提言した教育や学生支援のための全国共同利用拠点について,分科会に属するWGが制度の具体化を進めている。以下では,これらの審議状況を整理している。
 なお,大学規模・大学経営部会の議論を受けて,平成22年度政府予算案では,経常費補助を拡充する中で,定員割れ学部等への減額を引き続き強化する一方,自主的に経営改善に取り組む大学への措置について,複数大学の一元化に向けた自主的な取組への更なる増額を行うこととしている。
 また,全国共同利用拠点制度についても,後述のとおり,学校教育法施行規則等の改正・施行により,制度が創設された。

1 大学の自主的な経営改善の取組への支援の在り方

(1) 現状

1.進学率と入学定員の状況

 近年,大学進学率は上昇傾向にあり,平成21年春の高等学校卒業者数は前年度と比べて減少したが,志願率は上昇しており,大学入学者数は前年度と同程度であった。
 平成21年度の入学定員の充足状況は,国・公・私立大学ともに,前年度より低下した。
 入学定員の充足状況を,大学の規模別に分析すると,国・公立大学では,規模の大小にかかわらずほぼ充足している。私立大学では,入学定員が800人未満の場合に未充足の割合が高い。ただし,私立大学のうち,平成20年度に未充足だった大学の約4割で充足率が改善した。
 また,入学定員を地域別に分析すると,国・公立大学では,すべての地域でほぼ充足している。私立大学では,都市部以外の地域で未充足の割合が高い。なお,国・公・私立大学とも,都市部では充足率が低下したが,都市部以外の地域では上昇傾向にある。

2.私立大学の経営状況

 私立大学では,平成9年度以降,一貫して収支が悪化している。帰属収支差額比率((帰属収入‐消費支出)÷帰属収入)はプラスだが,平成18年度からは,平均で10%未満となっている。平成20年秋以降の世界的な経済情勢の悪化により,私立大学の収支には資産運用の影響が現れているが,これを除いても収支は悪化傾向にある。
 学生数の規模別に見ると,規模の小さい(特に1,000人未満の)大学では,収支がマイナスの学校の割合が高い。また,都市部以外の地域で,収支がマイナスとなっている学校の割合が高い。
 経済情勢の悪化を受けて,これまで漸増してきた資産運用収入や寄附金収入が減収している。人件費,教育研究経費,奨学費のいずれも支出額が増加している一方,人件費の割合が減少している。

3.私立大学の経営改善への自主的な取組

 私立大学団体では,各大学における質の向上への活動の現状を調査・分析し,各大学や大学全体として推進すべき施策を明らかにするなど,様々な取組が自主的に進められている。
 また,教育の質の向上には,経営基盤の安定が不可欠であり,限られた教育研究資源を効率的に活用し,経営基盤を強化する取組も自主的・自律的に進んでいる(例:大学間連携の強化,地方公共団体との連携,学部・学科等の改組,入学定員の調整,大学・学校法人の組織の一元化)。 

(2) 検討課題

 大学の経営改善は,大学の設置者が自ら行うべきものであり,また,地域において,人々の学習機会の確保や,産業の振興と再生,さらに,人材育成拠点としての大学の役割を保持することは,大学教育全体の発展を目指す上で不可欠の課題となっている。こうしたことから,「第一次報告」で示した「検討課題(例)」に加え,以下の取組を促進することが求められる。
 なお,安定的・継続的な大学経営のためには,基盤的経費を確保する必要があり,後述の情報公開を促進しながら,その充実に努めなければならない。

検討課題(例)

1.経営基盤の強化に資する各種取組の促進

(ア) 国公私を超えた大学間の戦略的な連携取組の支援

例:教育水準を維持向上させ,安定的な大学運営の維持に資する取組の支援

(イ) 産学連携,地域連携の取組の支援

例:産業界や地方自治体と連携した人材育成等特色ある取組の支援

(ウ) 都市部以外の地域の大学教育機会の確保

例:学生に対する経済的援助や,都市部以外の地域の中小規模大学に対する教育研究活動の重点的な支援

(エ) 競争的資金等の財政支援の仕組みの工夫

例:資金獲得大学が固定化せず,各大学が自らの規模や特性等を踏まえて機能別分化を志向し,教育研究活動の向上を目指す上で効果を発揮するよう,競争的資金等の財政支援の仕組みの工夫

(オ) 大学による学生に対する経済的援助への支援

例:大学が厳しい経営状況であっても,積極的に,経済的困難者への入学金や授業料の減免措置を講ずるよう支援

(カ) 経営基盤の強化に資するその他の各種取組の促進

例:寄附金の募集の工夫や,効果的な収益事業の実施等,経営基盤の強化に資する各種取組事例の収集と提供,また,税制改正等

2.学校法人の経営困難からの再生,撤退,経営破綻時の支援

 経営困難に至る前の早期指導・助言と経営困難時の各種支援

  • 日本私立学校振興・共済事業団の経営相談の活用促進(専門家の配置による経営診断等の充実,各学校法人が損益分岐点を把握できる仕組みの整備等)と再生に向けた支援
  • ガイドラインの作成等の大学経営から撤退しやすくする支援
  • 募集停止後の支援の在り方の検討,破綻時に学生を受け入れる大学への補助金等,学生の修学機会確保のための支援

2 財務・経営に関する情報公開の促進

(1) 現状

 大学の情報の公開については,大学やその設置者の特性,対象となる情報の種類や対象者等を考慮した上で,公開すべき情報の種類と範囲を検討しなければならない。

1.学校教育法に定める学校としての情報公開

 学校教育法第113条は「大学は,教育研究の成果の普及及び活用の促進に資するため,その教育研究活動の状況を公表するものとする」と規定し,教育研究活動の情報の公表の義務を定めている。

2.公益を目的とする活動を行う法人・団体としての情報公開

(ア) 国立大学法人,公立大学法人等

 国立大学法人と公立大学法人は,国立大学法人法と地方独立行政法人法により,下記の書類の公表が義務づけられている。

  • 中期計画及び年度計画
  • 業務実績を記す報告書(国立大学法人は国立大学法人評価委員会に,公立大学法人は各法人の評価委員会に,それぞれ提出し,各評価委員会が評価結果を公表)
  • 財務諸表,事業報告書,決算報告書
  • 監事及び会計監査人の意見を記した書面
  • 役員の任命・解任
  • 役員の報酬等の支給基準,職員の給与及び退職手当の支給基準

 なお,地方公共団体が設置する公立大学では,各地方公共団体の判断や情報公開条例に基づいて,情報が公開されている。

(イ) 学校法人

 学校法人は,利害関係人(学生や保護者,教職員,債権者等のことであり,志願者を含まない。)から請求があった場合は,私立学校法に基づき,事業報告書,財務諸表及び監査報告書を閲覧に供しなければならない。
 そのほか,平成21年度には,約9割の学校法人が,自主的に,これらの書類を一般向けに公開している。ただし,国は,事業報告書の書式・内容の大枠を「記載例」として示すにとどまっており,実際に公表されている情報の在り方は,学校法人によって異なる。
 なお,学校法人には,大学を設置する法人だけでなく,高等学校,中学校,小学校,幼稚園を設置する小規模な法人を含むことに留意する。

3.公費が支出されている法人・団体としての情報公開

(ア) 国立大学法人,公立大学法人等

 (上記2の(ア) に同じ。)

(イ) 学校法人

 経常的経費の助成を受ける学校法人は,私立学校振興助成法により,財務諸表を所轄庁に届け出なければならない。また,財務諸表には,公認会計士又は監査法人の監査報告書を添付しなければならない。
 この財務情報の大科目等は,情報公開法や情報公開条例による公開の対象となる。

(2) 検討課題

 上述のとおり,大学の財務・経営情報の公開を検討する際には,1.学校教育法に定める学校として,2.公益を目的とする活動を行う法人・団体として,3.公費が支出されている法人・団体として,それぞれの観点からの公開の在り方を考慮する。
 また,情報公開の方法としては,

  1. 法令による一律の義務化,
  2. 国からの指針の提示及び自主的公開の働きかけ,
  3. 大学関係者による指針の作成及び自主的公開,

 が考えられる。この場合,国・公・私立大学を通じて,同等程度の情報が自主的に一般に公開されることを促すべきである。
 そこで,財務・経営情報の公開の促進に関し,将来的には,状況に応じて必要な事項を法令等で明確にすることも視野に入れながら,当面,以下の「検討課題(例)」に沿って検討を進める。なお,大学規模・大学経営部会の課題提起を受けて,私立大学の関係団体により「大学法人の財務・経営情報の公開に関する調査研究会」が発足し,具体的な検討が始まっており,その取組に期待したい。
 なお,入学定員や入学者数のように,財務・経営情報と教育情報の両方に該当する情報もあるため,「第2」の「2」の教育情報の公表に関する検討状況も念頭に置く。

検討課題(例)

1.公開すべき情報の内容

 財務・経営情報の公開の際に,財務諸表とあわせて,人材育成や組織運営の方針等,学校経営の基本理念・目標,入学定員,入学者数等の基本的な情報を明示。これらの情報は,教育の質の保証にも寄与。

2.公開基準の作成

 私立大学関係団体等の大学関係者による情報公開の項目例等の基準の作成。
 なお,財務諸表の目的・様式が,私立学校法に基づく場合と,私立学校振興助成法に基づく場合では異なること,また,監査報告書に記載すべき事柄に特段の定めがないことも踏まえ,一般の人にも分かりやすいものにする。

3.情報公開の促進方法

  上記の公開基準に基づき,大学の自主的・自立的な情報公開が促進されるよう方策を講じる。

  • 大学情報のインターネットのリンクを集めたポータルサイトやデータベースの構築
  • 公開状況を踏まえた財政支援(競争的資金を含む。)の在り方の工夫
  • 財務・経営情報の公開を経営改善につなげる工夫

4.公開情報の正確性,信頼性の確保

 各種書類の正確性,信頼性を確保する観点から,監事には,大学の業務・活動や会計に通じた者等,その職責を果たすのに相応しい人物の就任が不可欠。
 また,大学を設置する学校法人では,経常費助成を受ける場合に,原則として,外部監査を実施することが定められている。経常費助成を受けない場合も,一層の信頼性を高めるため,自主的に外部監査を実施することが適当。

3 大学における社会人の受入れの促進

(1) 問題意識と現状

1.社会人入学者数

 18歳人口だけでなく,我が国の人口が減少期を迎えた中,成熟した社会において,社会人や高齢者等の多様な人々のうち,どの程度が大学で学ぶようになるか想定することは,今後,大学として必要とされる量的規模,又は政策的に妥当とされる規模を検討していく上で重要な論点である。
 しかしながら,大学入学者のうち25歳以上の者の割合は,OECD平均では20.6%であるのに対し,我が国は2.0%にとどまる。
 我が国では,大学学部への社会人入学者数のピークは,平成10年度の5,228人,通信制を含めると平成13年度の18,340人であり,以後,減少傾向にある。社会人入学者数の人数は,通信制の方が,通学制よりも多い。
 ただし,大学院への社会人入学者数は,近年は増加傾向にあり,平成20年度は18,799人である。そのうち1,200人程度が通信制への入学者である。全入学者に対する社会人入学者の占める割合は,近年,17~18%である(平成20年度には,修士課程が11.8%,博士課程が34.3%,専門職学位課程が40.7%)。

2.社会人の大学での学修ニーズ

 就業者を対象とした調査によると,勤務時間外の学習のために活用したことがある教育機関として大学を挙げた者は約6%にとどまる。
 また,「リカレント教育を受けたい」又は「興味がある」と回答する社会人は,約90%を占める。その場合,利用したい教育機関としては,大学院が約46%,大学が約20%である。
 しかし,学修を妨げている要因として,「業務が多忙」や「雇用者の理解が得られない」のほか,「職業生活と学修の両立のための費用や学修時間の確保が難しい」や「魅力的なカリキュラムがない」が挙げられている。

3.社会人の受入れを推進するこれまでの取組

 これまでの大学審議会や中央教育審議会の答申を踏まえて,大学制度の弾力化をはじめとして,以下のような改革が講じられてきた。

(ア) 大学設置認可における抑制の例外(昭和51年より平成14年まで)

(イ) 大学制度の弾力化

  • 社会人学生の入学資格の弾力化(平成元年等)
  • 夜間大学院(修士課程は平成元年,博士課程は平成5年)
  • 昼夜開講制(学士課程は平成3年,修士課程は昭和49年,博士課程は平成5年)
  • 「メディアを利用して行う授業」の明確化(平成10年)
  • 大学院修士課程の短期在学コース(平成11年),長期在学コース(夜間大学院は平成元年,その他の修士課程は平成11年)
  • 早期卒業(学士課程は平成11年,修士・博士課程は平成元年)
  • 長期履修学生制度(平成14年)

(ウ) 通信教育の充実

(エ) 科目等履修生制度(学士課程は平成3年,修士・博士課程は平成5年)及び履修証明制度(平成19年)

4.社会人の学修に係る負担の軽減

 社会人の学修に係る経済的負担の軽減として,次のものが挙げられる。

  • 奨学金事業や授業料等の減免制度
  • 教育訓練給付制度における指定講座制度の活用
  • 社会人を大学に派遣する企業等の経済的負担軽減策として,中小企業が雇用者を大学等に派遣する場合の法人税額控除

 また,大学修学のための休業制度として,平成12年には,公立学校の教員が専修免許状を取得するための「大学院修学休業制度」が創設された。国家公務員の場合は,平成19年に,大学等での修学や国際貢献活動を希望する職員のための休業制度が「国家公務員の自己啓発等休業に関する法律」により導入された。
 これらと類似の制度を設ける国立大学法人も見られる。

(2) 検討課題

 これまで様々な政策手段を通じて,社会人の受入れが推進されたものの,国際的に見て,我が国では,そうした学生の占める割合が低い。今後,社会人,高齢者等の幅広い人々が,それぞれの職業や生活に応じて大学で学び,その成果をもってさらに活躍できるような仕組みを検討することが求められる。また,大学の機能別分化が進む中,大学院修士課程,学士課程における幅広い職業人養成等に重点を置く大学,短期大学にあっては,産業界や地域と密接に関わりながら,社会人等の需要に対応した学修内容・方法を開発,提供していくことが期待される。

検討課題(例) 

1.地域と大学が一体となった学習環境

 社会人をフルタイムの学生として受け入れることだけを前提とせずに,地域で生活し,働く者が,その様々な学修意欲に応じ,大学で恒常的に学ぶことができるよう,大学と地域が一体となった社会を目指した仕組みづくり。
 その際,社会人の学修動機に応える観点から,各大学が,学位プログラムを通じて修得できる知識・技能を明確化し,魅力ある教育内容を提供するなど,以下のような取組を推進。
 (ア) 教育理念と目標に基づいて社会人の受入れ方針を明確化
 (イ) 明確な学修意欲に応えるための知識・技能体系の設定
 (ウ) 社会人に配慮した教育プログラムがより多く活用されるような情報提供
 (エ) 地域の企業等の産業界や自治体による各種の研修事業との連携

2.学修成果の評価

 履修証明制度の活用のほか,学修成果が,地域の職業生活等で適切に評価・活用されるための取組。

3.大学就学のための負担の軽減

 就学のための経済的負担の軽減策や,企業等に被雇用者の能力向上のための大学教育の活用を促す方策。また,社会人に配慮した学習環境(例:図書館の開館時間や学生相談等の体制)。

4.社会人の受入れ規模の検討

 上記のような取組を前提とした場合,大学教育の量的規模の検討に当たり,社会人学生規模をどの程度として想定すべきか。その場合,社会人の学修の動機が多様であることをどう考慮するか。

(関連)全国共同利用検討ワーキンググループの検討状況

(1) 教育関係の共同利用拠点制度の創設

 「第一次報告」では,各大学が自らの強みを持つ分野に集中・強化し,他大学との連携を進めることを促すために,教育や学生支援のための共同利用拠点の制度を創設するよう提言した。この仕組みは,大学間の連携と協力を通じて,大学が全体として限られた資源を有効に活用するとともに,より高度かつ豊富な教育活動を行うことに資する。
 「第一次報告」後の平成21年7月から8月まで「全国共同利用検討WG」では,教育関係の共同利用拠点の具体的な制度化を検討した。その議論を踏まえ,文部科学省により,学校教育法施行規則等が改正され,同年9月に施行された。
 これにより,大学の教育施設は,教育上支障がないと認められるときは,他の大学の利用に供することができ,その上で,大学教育の充実に特に資するときは,教育関係の共同利用拠点として,文部科学大臣の認定を受けることができることとなった。

(2) 今後の取組

 この制度により認定される共同利用拠点には,練習船,農場,演習林,留学生関連施設(例えば,日本語教育センター,留学生宿舎),大学の教職員の組織的な研修等の実施機関(FD・SDセンター)が想定される。
 文部科学省では,同年12月に,認定を希望する大学からの申請の受付を開始しており,本年2月以降,「全国共同利用検討WG」が認定の妥当性を審査し,教育関係の共同利用拠点が認定される予定である。

お問合せ先

高等教育局高等教育企画課高等教育政策室

(高等教育局高等教育企画課高等教育政策室)