法科大学院における組織見直しの更なる促進方策の強化について(提言)

平成25年9月18日
中央教育審議会大学分科会法科大学院特別委員会

1.検討の必要性について

○ 本年7月、政府に設置されていた法曹養成制度関係閣僚会議において「法曹養成制度改革の推進について」が決定され、法科大学院を中核とする「プロセス」としての法曹養成制度を維持しつつ、質・量ともに豊かな法曹を養成していくために、政府として講ずべき措置の内容及び時期が示されたところである。

○ この政府決定の中で、法科大学院については、

  • 文部科学省において、中央教育審議会大学分科会法科大学院特別委員会の審議を踏まえ、1年以内に、公的支援の見直しの強化策など入学定員の削減方策を検討して結論を得た上、2年以内にその結論に沿った実施を開始する
  • 公的支援の見直しの強化策など入学定員の削減方策等を講じても一定期間内に組織見直しが進まないときは、課題が深刻で改善の見込みがない法科大学院について、法曹養成のための専門職大学院としての性格に鑑み、組織見直しを促進するため必要な法的措置を設けることとし、その具体的な在り方については、大学教育の特性に配慮しつつ、閣僚会議において2年以内に検討し、結論を得る

とされており、これまでにも増して、入学定員の削減をはじめとした抜本的な組織見直しに早急に取り組むことが強く求められているところである。

○ 本特別委員会としては、この政府決定を受けて、法科大学院が法曹養成の中核としての使命を果たし、それにふさわしい教育の質を確保できるようにする観点から、

  1. 課題が深刻な法科大学院について、抜本的な組織見直しを早急に促進する
  2. 入学定員と実入学者数の差が拡大していることを踏まえ、入学定員充足率が著しく低い法科大学院はもとより、全体として入学定員の適正化を図る

ため、「公的支援の見直し」に関する強化策を早急に打ち出す必要があると考える。

2.公的支援の見直し強化策について

(1)これまでの取組

○ 公的支援の見直しについては、課題を抱える法科大学院を対象として、「司法試験の合格率」と「入学者選抜の競争倍率」の両方の指標に該当した場合、国立大学法人運営費交付金や私立大学等経常費補助金といった公的支援の一部を減額し、自主的・自律的な組織見直しを促す仕組みとして、平成22年から公表・実施しており、これまで24年度予算では6校、25年度予算では4校の法科大学院がその見直しの対象となっている。

○ 24年9月には、入学定員の適正化など課題を抱える法科大学院の組織見直しを加速させるため、上記2指標のほかに、新たに「入学定員の充足率」を指標に追加するなどの見直しを行い、26年度予算では18校の法科大学院が見直し対象となったところである。

○ これらの施策を通じて組織見直しを促してきた結果、本年6月現在、入学定員については、26年度予定として文部科学省に報告があった総数は約3,800名まで削減される見込みとなっており、前年度比約450名(約11%)の減、ピーク時の19年度と比較して約2,020人(約35%)の減となっている。また、これまで8校の法科大学院が学生募集停止を実施又は表明しており、うち1校は本年3月末をもって廃止となった。

○ 以上のように、公的支援の見直しは、課題を抱える法科大学院の自主的・自律的な組織見直しを促進してきているが、近年、法科大学院の志願者は減少の一途をたどっており、25年度の入学者数は2,698人と制度創設以来はじめて3,000人を切り、入学定員との差も更に拡大するなど、法科大学院が置かれている環境は極めて厳しい状況にあると言わざるを得ないと考える。

(2)今回の見直し強化策において特に重視すべき点

○ このように法科大学院制度を取り巻く状況が近年ますます厳しくなっていることを踏まえ、公的支援の見直しの更なる強化策を検討するに当たっては、

  1. 課題が深刻な法科大学院の組織見直しを早急に促す観点から、その削減額の幅や適用方法・時期について検討するとともに、
  2. 国際化対応や民間・公務部門への人材育成、継続教育など特色ある先導的教育や教育資源を有効活用した連携・連合の推進などを通じて、司法制度改革が目指していた魅力ある法科大学院となるよう、優れた取組の支援を通じた浮揚も視野に入れて、

全ての法科大学院を対象とした上で、各法科大学院におけるこれまでの取組を通じて得られた成果等を多面的・総合的に評価する仕組みに抜本的に改めるべきである。

○ その際には、特に以下の2点について検討すべきである。

  1. 司法試験合格状況や入学状況などにおいて課題が深刻な法科大学院については、これまでも課題を解決するに至らなかったことを踏まえ、抜本的な組織見直しを求めることを基本とする。ただし、法科大学院としてのこれまでの蓄積を踏まえた他分野への改組転換や、成果を挙げている他の法科大学院との連合といった改善策を講じる場合には、それらの取組を促進するよう配慮することが求められる。
  2. 多くの法科大学院において入学定員を満たすことができない状況が恒常化しており、法科大学院全体としての入学定員と実入学者数の差も近年ますます拡大していることを踏まえ、個々の法科大学院における司法試験の合格状況や入学状況等の実態を評価した上で、適正な規模の入学定員となるような仕組みを設ける必要がある。

(3)法科大学院の先導的な取組の支援を通じた改善

○ 前述のとおり、法科大学院が置かれている環境は極めて厳しい状況にある一方、政府決定の中では、

  • 文部科学省において、法曹養成のための充実した教育ができる法科大学院についてその先導的な取組に必要な支援を1年以内に検討して結論を得た上、2年以内にその結論に沿った実施を開始する

とされている。

○ これを踏まえ、法科大学院について、先導的な取組の支援を通じて、その浮揚を図る観点から、公的支援の見直しに当たっては、組織見直しの取組や先導的教育への取組の促進など、将来に向けてより積極的な改善を促すことも可能となる仕組みに改めるべきである。

○ 具体的には、より魅力ある法科大学院教育を目指した先導的な教育システムの構築や、法曹に加えてこれまで十分に対応できていなかった分野に人材を輩出する先導的な教育プログラムの開発、企業や自治体等と組織的に連携した就職支援とともに、他の法科大学院に対する教育支援、教育の質向上につながる法科大学院間の連携・連合といった取組を促進することが望ましい。

○ なお、上記取組の具体的な例示は、本特別委員会において引き続き検討するとともに、実際にそれらの取組が適切なものかどうかを判定するための枠組みが必要と考える。

(4)その他留意すべき点

○ 今回用いる指標については、引き続き司法試験の合格状況や法科大学院への入学状況といった現行の指標を基本にすることが妥当と考えるが、それぞれの指標の具体的な評価に当たっては、法学未修者の状況を加味するなどの工夫を取り入れるとともに、地域配置や夜間開講の状況にも配慮することで、法科大学院の実態をよりきめ細かく反映できる指標となるよう工夫することが望ましい。

○ その際、入学者選抜の競争倍率については、本特別委員会による従来の調査結果や見解を十分に踏まえつつ、近年の志願者減少の動向等や法科大学院の浮揚が求められている状況も考慮した扱いとなるよう工夫することが望ましい。

○ また、今回の更なる強化策を受けて、学生募集停止など抜本的な組織見直しを行った法科大学院に対しては、その移行期間中、在学生が学修していることなどに配慮するとともに、既に26年度入学者選抜の学生募集を開始している法科大学院があることに鑑み、新たな仕組みの導入に当たっては、26年度入学者選抜における混乱を招かないように配慮することが望ましい。

○ なお、公的支援の見直しを更に強化することによって、課題が深刻な法科大学院に対し抜本的な組織見直しを早急に促すことは不可欠であるが、あわせて、大学教育の特殊性などを踏まえつつ、中・長期的な観点から、法科大学院制度の安定化が図られるよう配慮することが望ましい。その際には、法曹はもとより、企業や自治体等との緊密な連携・協力を得ることを通じて、法科大学院教育の更なる充実・強化につなげていくよう配慮することが望ましい。

○ また、これら公的支援の見直しの更なる強化とあわせて、法科大学院に対する認証評価について、課題を抱える法科大学院が自ら抜本的な見直しを図る仕組みとして、より効果的に機能するものとなるよう別途検討する必要がある。

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