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資料3
中央教育審議会大学分科会大学院部会
理工農系WG(第4回)平成16年12月14日

理工農系大学院の目的とそれに沿った教育研究の在り方について
[これまでの意見整理(案)]


1. 理工農系大学院の目的・役割

博士課程大学院の目的・役割

 理工農系大学院は、従来、研究者として自立するに必要な研究能力を培い、理学、工学、農学における特定の専門分野についての深い研究を行い得る研究者の養成を行い、また、学術研究を遂行することを主たる目的としてきた。しかし、今日、理工農系の大学院には、これら研究者の養成のみならず、産業界等における技術者をはじめとする高度専門職業人の養成や、これからの知識基盤社会を多様に支える高度で知的な人材育成についても大きな役割を果たしていくことが求められるようになってきており、その果たすべき機能は多様化している。

 このような状況を踏まえ、理工農系大学院は、研究者養成を主たる目的としているのか高度専門職業人を養成することを目的としているのかについて、およそ専攻単位で目的と教育内容を明確にすることが必要。
 その際、当該専攻の規模によっては、同一の専攻の中に前期・後期を通じた研究者養成プログラムと、高度専門職業人を養成するための前期2年のプログラムを併存させるなどの工夫が必要。

 研究者養成の観点では、研究者の活動領域が大学等における学術研究の場面だけではなく、産業界等における研究開発等の場面にも大きく広がってきており、専門分野の深い研究能力のみならず、関連領域を含めた幅広い知識や社会の変化に対応できる素養を身に付けさせることも重要。

 高度な技術者養成を主たる目的とする場合、授業科目の履修と論文作成指導により、自然科学の基礎知識の教授とともに、知識を実際に活用していく訓練を通じて、科学的知識とそれを展開していく能力を身に付けさせることが必要。

修士課程大学院の目的・役割

 人々の日常生活のあらゆる場面が科学技術と深いつながりを持ち、これからの理工農系の修士課程は、技術者養成のみならず、幅広く科学技術社会を支える多様な人材の養成においても大きな役割を果たすことが重要。このような人材育成のための修士課程大学院の設置も必要と考えられる。

 全ての大学院において、高い研究水準を有する大学院を設置することは、実際には困難である。各大学院の判断によって、大学院の目的と機能を修士課程レベルの高度専門職業人養成に特化し、学士課程と修士課程を通じた教育活動を展開することも有効と考えられる。

2. 課程制大学院の趣旨に沿った教育課程や研究指導の在り方

教育・研究指導の在り方について

〈修士課程・博士課程(前期)に共通した教育・研究指導の在り方〉

 従来、多くの理工農系大学院においては、学生に対する教育が教員の研究活動と渾然一体となって行われ、学生に対する教育が研究室の中で完結するような手法となっている。しかしながら、この方法は、教員の指導能力によっては、専門分野のみの閉鎖的な教育にとどまり、産業界等で求められる幅広い知識や社会人として必要な素養が涵養されにくいなどの課題が指摘されている。今後は、個々の研究室における指導はもとより、各専攻における組織的かつ計画的な教育活動を行うことより効果的な場合が多いものと考えられる。

 理工農系大学院の各専攻における組織的な教育プログラムが、真に大学院教育に相応しいものとなるようにするための具体的な方法として、例えば以下のような取組により、専門的知識と幅広い視野を習得させることが必要。
 各専門分野に関する専門的知識を身に付けるための体系的かつ組織的な教育プログラム
 幅広い視野を身に付けるための関連領域に関する組織的な教育プログラム
(例えば、進学後間もない学生に対して、様々な分野の教員が関与して多様な考え方に接する機会を提供する など)
 自立した研究者として必要な能力や技法を身に付けるための組織的な教育プログラム
(例えば、実験・実習・ホームワーク・フィールドワーク等を講義と適切に組み合わせながら定期的に行う など)

 工学系、農学系の大学院にあっては、必要に応じて教育課程の中に企業への長期インターンシップを組み込むことができるようにすることが必要。

 大学院の入学試験について、他大学や他分野からも応募しやすいように入試科目を整備するとともに、e-learningの効果的な活用による単位互換の推進、補完的な授業科目の設定など、学生の流動性を促進し、多様な学修歴を有する学生の受け入れを促進するための工夫をすることが必要。その一方で、流動性を促進させることで学生の研究の進捗を阻害しないよう留意することも必要。

<博士課程(後期)における教育・研究指導の在り方>

 優れた研究者を養成する観点から、化学や生命化学等の分野については、前期・後期を合わせた5年間を通じて体系的な教育課程を編成し、その上で後期課程にあっては、教員の研究活動に参画させることなどの工夫を講じることが必要。

 実験物理学等の分野では、従来、ともすれば大規模な実験装置を用いた研究活動の一部分を学生に分担させることが行われてきたが、そのような場合であっても、研究者を養成するという視点からの指導が必要。

 分野によっては学生にサマー・インスティテュートや学会等を含め、一定期間外国の大学等で教育やトレーニングを受ける機会を提供することが有効。

 修士課程を修了し、高度専門職業人として社会に出た後に、博士後期課程へ進学した学生に対しては、研究者として必要とされる実験・論文作成をはじめとする研究手法について、適切なリメディアル教育を実施するなどの配慮が求められる。

修得単位数に関する大学院設置基準の改正について

 現在の単位の考え方は、学部の単位の数え方(一つの講義・演習につき、15時間から30時間までの範囲で大学が定める時間の授業をもって1単位となっていることなど)に準じているが、これを先に述べたような、例えば、研究テーマに応じた実験のデザインなどを各週毎に行うことにより、あわせて1単位とするなど単位の考え方を見直し、修得すべき総単位数などについても併せて検討することが必要。

博士課程の修了要件及び学位の取扱いについて

 博士課程の学生の大学院における最終目標は、博士論文の執筆であることを踏まえ、前期課程の終了時においては、修士論文に代えて一定の学修の成果を求めること、また、口頭試問等の試験に合格することをもって修士論文を不要とするなど、5年間の教育が有機的につながりをもって行われるようにすることが必要。

論文博士制度について

 諸外国における博士の学位が、博士課程において必要な教育を修めた者に授与されるという現状を勘案した場合、学位の国際的通用性の観点から見ても、日本における論文博士の制度は独自のものである。課程制大学院の実質化が図られることを前提として、論文博士制度は廃止の方向で検討することが必要。

 その際、企業や公的機関の研究所等で経験を積み、その研究成果を基に博士の学位の取得を希望する者も相当数いることや、課程博士の授与状況を踏まえて、十分な経過措置期間を設定するなどの取り扱いが必要。

教員の教育・研究指導能力の向上方策

 大学院の教育を実施するに際しては、教員に対し、学生に対する教育の在り方や指導能力を高めるため、各専攻において、当該大学院の教育についての共通理解を高めることが必要。このため、教員に対する研修などのファカルティ・ディベロップメント(FD)の実施が必要。その上で、教員に対する評価としては、研究実績だけでなく、教育実績や教育能力を評価することが必要。

 大学教員の質の保証という観点から、設置審査に当たっての教員審査を徹底することが必要。特に理工農系の大学院においては、大学教員になるための教育実習の場としてTA制度の一層の充実を図るとともに、PD経験後に就く助手を、教育能力をテストする段階と捉えることが必要。

3. 学生に対する経済的支援

 進学意欲を持つ優秀な学生について、経済的リスクを減らすために、各種の経済的支援を行うことが必要。また、進路選択に当たって、経済的な事情から大学院に進むことを断念することがないよう、大学院を受験する前に経済的支援を決定するなど、学生が安心して進学できるようにすることが必要。

 現在、大学院生に対する経済的支援は、日本学生支援機構による奨学金や留学生給与の支給、国立大学法人運営費交付金や私立大学等経常費補助金に含まれるTA、RAによるもの、さらには日本学術振興会の特別研究員制度(DC)、科学研究費補助金等の競争的資金や21世紀COEプログラムに包含されるTA、RAなどがあるが、今後は大学院生に対する経済的支援を競争的に配分される教育資金や研究資金に包含する形態によって行うことを主とし、全体としてそれらの支援を充実することを通じ、優れた学生の経済的負担を欧米の大学院並に軽減していく必要がある。

4. 大学院修了者のキャリアパスの多様化の促進方法

 大学院修了者のキャリアパスの多様化を促進する観点から、日頃学生を指導している教員が各学生の適性を見極め、学生が在学中から自らのキャリアについて考えるための機会を適切に提供するよう努めることが必要。

5. 教育・研究環境の整備

 理工農系の各分野における世界最高水準の研究拠点を目指す大学院として、例えば、英語論文の執筆を指導できる教育スタッフや、英語が堪能な管理スタッフ及び教育研究支援スタッフの確保が必要。

 また、計算機ネットワーク等の情報インフラを充実させることのほか、国費を投じて電子化された図書資料や研究データを一層共有化していくことも必要。

6. その他

 最先端レベルの研究環境において、優れた研究者を育成していく観点から、例えば、21世紀COEプログラムに他大学や企業等に属する優れた研究者を必要に応じて参加させるなど、指導スタッフの充実を図りつつ、特に優れた大学院生の教育を当該プログラムの中で行い、学位認定を行うことを可能とすることについて検討することが必要。


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