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資料3
中央教育審議会大学分科会
将来構想部会(第4回)H13.12.25

規制改革の推進に関する第1次答申

(平成13年12月11日総合規制改革会議)

−抄−

4 教育

【問題意識】

 社会・経済・文化におけるグローバル化が拡大し、国際的な競争がますます進展していく中で、教育分野においても、義務教育から高等教育までを通じて質の高い教育を提供し、社会のニーズにこたえることのできる優れた人材を育成することが不可欠である。また、大学や大学院においては先端的・独創的な研究を更に進め、新しい産業やイノベーションを開花させていくことが、我が国の発展維持のために喫緊の要事である。

 大学においては教育機関や教員が互いに質の高い教育を提供するよう競い合うことが、また、初等中等教育においては多様化を進め、需要者による選択と参画を確保することが、我が国の教育全体の質的向上に特に強く結び付くと考えられ、そのような環境の下で学生や生徒に対し学習に対する積極的な動機付けを行っていくことが必要であると考える。

【改革の方向】

 上記のような観点から大学や学部の設置に係る事前規制を緩和するとともに事後的チェック体制を整備するなど、一層競争的な環境を整備することを通じて、教育研究活動を活性化し、その質の向上を図っていくことが必要である。また、初等中等教育においては、児童や生徒の能力・適性に応じた教育機会の提供を推進するため、評価制度の導入や情報発信の促進により学校の透明性を高めるとともに、新しいタイプの公立学校の導入の検討や私立学校の設置促進などにより多様化を進め、需要者が選択をし、その運営に参画することを通じて質の高い教育サービスを提供していく体制を整備することが課題となるものと考える。

 このため、当会議では、以下のような具体的施策について、提言を行うこととする。

【具体的施策】

(1)高等教育における自由な競争環境の整備

 大学教育の活性化を図るためには、教育機関や教員が互いに質の高い教育サービスの提供に向けて競い合うとともに、大学が自らの判断と責任により運営を行う自主性自律性を向上させることが必要である。この観点から、大学の提供する高等教育サービスに関する組織である学部や学科の編成は、大学の主体的な判断により機動的になされることが望ましい。しかしながら、現在、大学の設置、学部や学科の設置、その定員の変更(以下まとめて「大学の設置等」という。)を行おうとする場合には、文部科学大臣が定める大学設置基準(昭和31年文部省令第28号)を満たし、大学設置・学校法人審議会への諮問答申を要することとされており、大学の自主的自律的な判断による機動的な組織編成を阻害している面がある。

 また、大学は学生や社会のニーズにこたえた高等教育サービスを提供する責務を果たすために、自ら不断の努力を行わなければならないが、厳しい事前審査を行う一方で、事後的な監視点検が機能していない状況が、自らの提供する教育サービスに対する責任感の欠如とその質の低下を招いているのではないかという懸念がある。そこで、大学が自らの判断と責任において、質の高い教育研究活動を行うことができる競争的な環境に向けて、大学の設置等に関する規制を一層緩和する一方で、継続的な第三者による評価認証(アクレディテーション)制度の導入などの監視体制を整備する必要がある。

 なお、大学の設置等に関する規制を一層緩和していくことにより多様な高等教育サービスが提供されることとなるが、サービスの需要者である国民にとっては、これまで以上に自らの判断と責任により選択していくという意識を持つことが必要になってくるものと考える。すなわち、質の高い教育サービスを提供する教育機関を選ぶ目を持つとともに、その選択に責任を持たなければならないことを付言したい。

ア 大学・学部の設置規制の準則主義化【平成14年度中に措置(検討・結論)】

 大学・学部等の設置、定員の変更の認可に当たっては、文部科学大臣は学生教官比率、学生校舎面積比率など大学の質の確保のために最低限必要な客観的基準を明らかにするとともに、現在、大学設置基準や大学設置・学校法人審議会審査基準など、様々な形式によって重層的に規定されている基準について、法令レベルでその一覧性を高めるよう整理すべきである。

 その際、それぞれの基準の必要性等を十分に吟味し、例えば、施設設備や教員組織の基準において不必要なものは廃止するなど、全体として最低限必要な基準となるよう厳選する。

 また、大学設置・学校法人審議会における審査事項や手続の在り方についても、上記の基準の厳選に応じて、軽減、簡素化を図るべきである。

 さらに、学部の下部組織である学科については、届出のみで設置又は廃止を可能とすべきである。

 なお、設置後において、基準が満たされなくなった場合には、文部科学大臣による是正措置等を講じるとともに、改善されない場合には閉鎖を命ずることができるようにすべきである。

 大学・学部の設置等に当たっては、学生教官比率、学生校舎面積比率等の数値的基準のみならず、大学として適正な教育カリキュラムや教員組織等の定性的な基準についても満たすものでなければならない。本来、これらについては各大学の自主的な判断と責任によるものであるが、学生との情報の非対称性がある中で大学として最低限必要な基準を満たしていることを評価することも必要であると考える。

 各大学や学部が、これらの基準を満たすものであるかどうかについては、事務的な確認のみならず専門的な判断を要するものであるが、現在、この専門的な判断について、大学設置・学校法人審議会への諮問答申にゆだねられている。また、大学・学部の設置等の認可基準としては、大学設置基準のほか、大学設置・学校法人審議会審査基準や「平成12年度以降の大学設置に関する審査の取扱方針」(大学設置・学校法人審議会大学設置分科会長決定)など、様々な形式によって重層的に規定が設けられており、これが設置基準のわかりにくさの一因となっていると思われることから、これらを法令のレベルに整理し、その一覧性を高めていく必要がある。

 その際、それぞれの基準について、その必要性等を十分に吟味し、不必要なものは廃止するなど大幅な見直しを行うことによって、基準全体として最低限のものに厳選することが必要である。また、大学設置・学校法人審議会の審査事項や手続についても、上記の基準の厳選に応じてその軽減、簡素化を図るべきである。

 なお、最低限の教育研究の水準が継続的に保たれることを担保するため、設置後に上記の基準が満たされないことが明らかになった場合には、その改善を図ることについて行政的な措置を講じることができるようなシステムを構築すべきである。

(ア)大学・学部の設置等に係る認可に対する抑制方針の見直し【平成14年度中に措置】

 「平成12年度以降の大学設置に関する審査の取扱方針」における「大学、学部の設置及び収容定員増については、抑制的に対応する」という方針を見直すべきである。

 現在、多くの設置認可に係るルールについて、大学設置・学校法人審議会大学設置分科会長決定により定められているが、このような現状は責任の所在をあいまいにすることにもなることから、これらについては、その必要性をよく吟味した上で必要と認められる場合には、文部科学省令等により定めるべきものであると考える。

 特に、「平成12年度以降の大学設置に関する審査の取扱方針」において「大学、学部の設置及び収容定員増については、抑制的に対応する」とされているなど、大学の設置等に対する参入規制として働くと考えられる規定が定められていることは問題であると考える。

(イ)大学の設置等における校地面積基準、自己所有比率規制の緩和【平成14年度中に措置】

 校地面積基準や校地の一定比率自己所有規制の緩和を速やかに検討するとともに、財務情報の公開を一層促進していくべきである。

 設置規制に関する実体的な規制に関しても、土地の高度利用が可能となった今、大学の教育活動にとって重要な因子は校地の面積ではなく校舎の面積であり、校地が校舎の3倍以上なければならないという基準(校地面積基準)の緩和を速やかに検討すべきである。

 また、校地の一定比率の自己所有規制については、大学の経営の安定性継続性を確保する観点からの規制であるが、大学の都心立地を実質上妨げている面もある。

 さらに、学生の学習の継続が確保されるために必要な財務情報の公開については、一層促進していくことが必要である。

(ウ)工業(場)等制限法の在り方についての抜本的見直し【平成13年度中に措置(検討・結論)】

 首都圏及び近畿圏の既成市街地等における産業及び人口の過度の集中の防止等を目的として、一定床面積以上の工場や大学等の新増設を制限する工業(場)等制限法については、産業構造の変化、少子化の進行等、社会経済情勢が著しく変化する中、次期通常国会を目指し、その在り方について廃止を含め抜本的に見直すべきである。(「6 都市再生」に後掲)

(エ)大学等の設置における制限区域の廃止【平成14年度中に措置】

 「平成12年度以降の大学設置に関する審査の取扱方針」における、工業(場)等制限区域及び準工業(場)等制限区域についての抑制的取扱いを廃止すべきである。

 「平成12年度以降の大学設置に関する審査の取扱方針」においては、工業(場)等制限区域及び準工業(場)等制限区域については他の地域より大学の設置等に係る認可について抑制的に取り扱うとしているところである。

 イノベーション促進のための産学官連携や社会人への職業訓練、生涯学習機会の提供など、ますます高まっていく大学への多元的ニーズの中で、この制度が障害となって、需要の高い都心部での高等教育サービスの提供が行われないことは、大きな問題である。また、社会人のキャリアアップ学習支援に対する大学や大学院、専修学校における教育の充実の観点からも、今後一層都心部における土地の高度利用等による教育研究環境の整備充実が必要となっていくものと考える。さらには、魅力ある都市環境のためにも、都心部における優れた高等教育機関の整備充実が必要不可欠である。

イ 第三者による継続的な評価認証(アクレディテーション)制度の導入【平成14年度中に措置(検討・結論)】

 大学の教育研究水準の維持向上の観点から、設置認可を受けたすべての大学に一定期間に一度、継続的な第三者による評価認証(アクレディテーション)を受けてその結果を公表すること等を義務づけるなどの評価認証制度を導入すべきである。併せて、評価認証の結果、法令違反等の実態が明らかになった場合には、文部科学大臣により是正措置等を講じることができることとすべきである。

 第三者による継続的な評価認証(アクレディテーション)制度とは、大学の教育研究の質的水準の維持向上のための評価認証の仕組みであり、大学は5年から10年に一度、大学として必要な要件を満たすものであるかどうかについて、評価認証機関から評価認証を受けるものである。

 大学に対する継続的な第三者による評価認証制度を整備していくため、次のようなシステムの導入が必要と考えられる。

  評価認証機関は、学識経験者等によって策定された評価のガイドラインに従って適切に評価を行うことが可能かどうかについて、文部科学大臣による認定を受ける。当然、不適切な評価認証を行ったような場合には、当該認定は取り消される。

  認定を受けた各評価認証機関は、評価のガイドラインに従って各大学への評価を行い、教育研究活動の状況など大学がその使命にふさわしい運営を行っていると認められる場合には、これに評価認証を与える。

  事後的チェック体制の整備の観点から、各大学は、一定期間に一度、少なくとも一つの評価認証機関からの評価認証を受けることと、その評価認証結果を公表する義務を負うものとする。

  万一、いずれの評価認証機関からも評価認証が受けられなくなった場合には、文部科学大臣は大学の認可を取り消すことができる。

  その際、認可を直ちに取り消すのではなく、評価認証の結果、法令違反等の実態が明らかになった場合には、文部科学大臣により是正措置等を講じた上で、更に改善がみられないものについて認可を取り消すことも検討されるべきである。

  評価認証機関については、互いに質の高い評価認証サービスを提供することを競い合う環境を整えるため、株式会社も含め設立できることとし、特定の機関の独占としない。

 このような仕組みによって、大学に対する事後的なチェック機能を整備するとともに、各大学が提供する教育サービスについての必要な情報を、学生や社会が容易に得られるような環境が整うことになり、相互に競争的になることが期待される。

 なお、工学教育や医学教育などの専門分野別、高度専門職業人養成や通信制などの各種テーマ別の評価認証についても、我が国の大学教育の国際的な通用性・共通性の向上や国際競争力の強化を図る上で重要な役割を果たすものとなると考えられることから、その普及、支援を図ることが必要である。

ウ 学生に対するセーフティネットの整備【平成15年度中に措置】

 大学が廃止されることとなる場合、学生の就学機会の確保が図られるよう、適切なセーフティネットの整備を検討すべきである。

 現在、私学経営が厳しいと言われる時代の中で、各大学においては様々な取組が行われているが、上記のような大学設置等に関する規制緩和が進めば将来的には経営が立ちゆかなくなる大学が生じることも予測される。

 このため、学生が自己責任に基づいて入学しているとはいえ、万一大学の経営が立ちゆかなくなったような場合には、学生が学習を継続して行うことができるよう、その就学機会の確保を図ることが必要であり、適切な方策を検討すべきである。



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