将来構想部会(第9期~)(第24回) 議事録

1.日時

平成30年8月9日(水曜日)10時~12時

2.場所

文部科学省 旧庁舎6階 第二講堂

3.議題

  1. 我が国の高等教育に関する将来構想について
  2. その他

4.出席者

委員

(部会長)永田恭介部会長
(副部会長)日比谷潤子副部会長
(委員)有信睦弘,村田治委員,山田啓二の各委員
(臨時委員)麻生隆史,安部恵美子,石田朋靖,金子元久,黒田壽二,小杉礼子,小林雅之,鈴木典比古,佐藤東洋士,伹野茂,千葉茂,古沢由紀子,両角亜希子,吉岡知哉,吉見俊哉の各臨時委員

文部科学省

(事務局)小松文部科学審議官,山脇文部科学審議官,義本高等教育局長,常盤生涯学習政策局長,村田私学部長,藤野サイバーセキュリティ・政策立案総括審議官,平野大臣官房審議官(生涯学習政策育局担当),瀧本大臣官房審議官(高等教育局担当),蝦名高等教育企画課長,三浦大学振興課長,塩崎学生・留学生課長,淵上国立大学法人支援課長,丸山私学助成課,石橋高等教育政策室長 他

5.議事録

(1)我が国の高等教育に関する将来構想について,資料1に基づき事務局から説明があり,その後意見交換が行われた。

【永田部会長】  第24回の将来構想部会を始めさせていただきます。
 議事に入る前に,文部科学省から御発言がございます。
【小松文部科学審議官】  失礼いたします。1か月弱前,7月11日の合同会議の席で文部科学省の幹部に係る対応事案についてお詫(わ)びを申し上げたところでございます。大変残念なことでございますけれども,その後,同様の事態が再び起きました。皆様方,国民の皆様方の信頼を得ながら文部科学行政を推進しなければならないという中で,その信頼を大きく損なう事態に立ち至ったことにつきまして,誠に遺憾なことであり,御審議いただくに際しまして先におわびを申し上げたいと存じます。
 現在,こうした立て続けの事態を受けまして,大臣の指示の下,公募型事業における支援対象者の選定過程の信頼性や職員の服務規律の遵守状況について,速やかに調査を行っていくべく準備を進めているところでございます。文部科学省としては,改めましてこの事態を極めて深刻に受け止め,お詫(わ)びを申し上げますとともに,審議していただきます政策の実現の礎でございます国民の信頼回復に向けて,全力を挙げて取り組んでまいります。どうぞ審議の方をよろしくお願いいたします。
 以上でございます。
【永田部会長】  前回は国公私を通じた機関や課程に着目し,特に規模の在り方について,大学院,留学生,社会人に焦点を当て,現在の状況も踏まえて御議論いただきました。
本日もその議題は続けますが,最初に,高等教育の改革を支える支援方策について御議論いただきます。関連して,小林委員,村田委員から,「授業料後払い制度導入の検討の必要性について」という資料により御発表を頂くことになっています。
 次に,「国公私を通じた規模の在り方」について,新たな資料を御用意しましたので,皆さまから御意見を頂きます。
 議事に入る前に,事務局に異動がございました。御紹介を申し上げます。
【石橋高等教育政策室長】  失礼いたします。御紹介申し上げます。人事異動でございます。山脇文部科学審議官でございます。
【山脇文部科学審議官】  文部科学審議官に就任いたしました山脇でございます。内閣府で科学技術・イノベーション政策統括官を務めておりました。難局にありますが,前向きに全力で尽くしたいと思いますので,よろしく御指導をお願いいたします。
【石橋高等教育政策室長】  次に,平野大臣官房審議官(生涯学習政策局担当)でございます。
【平野大臣官房審議官(生涯学習政策局担当)】  生涯学習局担当審議官になりました平野でございます。よろしくお願いいたします。
【石橋高等教育政策室長】  淵上国立大学法人支援課長でございます。
【淵上国立大学法人支援課長】  淵上でございます。どうぞよろしくお願いいたします。
【石橋高等教育政策室長】  以上でございます。
【永田部会長】  続いて,事務局から本日の配付資料について御説明ください。
【石橋高等教育政策室長】  失礼いたします。配付資料は3点ございます。資料1が高等教育の改革を支える支援方策の在り方について,資料2が「国公私を通じた機関や課程に着目した規模」の答申に向けた方向性,資料3が今後の日程でございます。不足がございましたらお申し付けください。
【永田部会長】  ありがとうございます。
 それでは,議事を始めさせていただきます。最初に申し上げたとおり,高等教育の改革を支える支援方策について,委員の皆さまに御意見を頂こうと思っています。まず,事務局から資料1の説明をお願いします。
【石橋高等教育政策室長】  失礼いたします。資料1の御説明の前に,今日の議論は諮問の第4に当たります。その諮問の内容を御紹介させていただきます。第4が高等教育の改革を支える支援方策の在り方でございます。厳しい財政状況の中,各機関においては十分な人件費や研究費の確保は困難となり,教育研究活動に大きな影響を与えかねない問題が生じているとの指摘があります。第1から第3までの諮問の検討事項を踏まえ,教育研究を支える基盤的経費,競争的資金の充実,透明性の確保の観点も踏まえた配分の在り方等について検討をお願いします。その際,学ぶ機会の保障のため,学生への経済的支援の充実など,教育費負担の在り方に関しても併せて検討するということが諮問の内容でございます。
 続きまして,資料1の御説明でございます。大学段階における資料を中心に構成をさせていただき,国から御支援をさせていただいている機関が中心になっています。その点,御了承いただきながら資料を御覧ください。
 1ページ目,大学段階における財政措置と費用負担の仕組みということで,全体像をお示しさせていただいています。学生への経済的支援が奨学金でございますが,事業規模が約1.1兆円でございます。対象規模等は,給付型が約2万人,貸与型(無利子)が約54万人,貸与型(有利子)が約76万人でございます。
 それから,「基盤的経費」ですが,学生への経済的支援は授業料等減免に掛かってきておりまして,国公私ごとの規模で措置されています。緑色の部分が基盤的経費になりまして,運営支援,施設・設備支援の規模感をお示しています。
 資料の右側,「競争的環境の下での教育研究支援」について,競争的資金は大学以外も含めた全体が4,300億円程度でございまして,その内数は国公私を通じた大学教育再生の戦略的推進が約260億円となっております。
 加えて,それ以外の収入で,病院関係が「医業収益等」が約2兆8,300億円,「研究収益等」が企業との共同・受託研究,ロイヤリティー等で約3,200億円,「寄附」が約2,800億円,「授業料等納付」が約3.2兆円という規模になっています。
 このような全体像の中で,2ページ目,日本の大学の財政状況について整理をさせていただいています。国立大学法人,公立大学,私立大学とそれぞれの状況を書かせていただいていますが,私立大学に関しては,付随事業収入である病院収入等を含むグラフで,大学法人全体の収入状況となっております。高等学校以下の学校も設置している場合,その収入も含まれていますので,その点については御了承の上,御覧ください。国立大学法人の収入財源別の比率は,公財政が34%,学生納付金が12%でございます。公立大学の場合もほぼ同様で,公財政が32%,学生納付金が15%でございます。私立大学法人の場合は学生納付金が51%を占めるという形でございます。
 3ページ以降は,諸外国の状況を御紹介させていただいています。アメリカの州立大学の場合,公財政が36%,学生納付金が20%でございます。対して,私立大学の場合は公財政が11%,学生納付金が30%でございます。
 ドイツの州立大学の場合は,連邦や州から支出される基礎的な資金が50%,学生納付金が1%でございます。対して,私立大学は基礎的資金が5%,学生納付金が39%となっています。
 5ページ目,イギリスの国立大学の場合,公財政が32%,学生納付金が48%となっています。
 フランスにおいて大学は国立機関ということで,財源の9割は国・地方公共団体からの公財政で,学生納付金は3%となっています。
 7ページ目,韓国の国公立大学の場合,国家・地方自治体からの支援金の比率は19%でございます。対して,約8割を占める私立大学の収入は,国庫補助金収入は13%,学生納付金は約60%となっています。
 中国の国立大学の場合,公財政が68%,学生納付金が16%でございます。それに対して,私立大学の場合,公財政が10%,学生納付金が75%となっています。
 9ページ目,高等教育への公財政措置等に関する国際比較で2つ数字を載せさせていただいています。日本において奨学金を含まない形での対GDP比は0.5でございます。奨学金を含むと0.7でございます。また,日本は家計負担割合が高いという御説明をしてきていますが,グラフに関しまして,一言お断りしますと,各国ともに奨学金などの私的補助が公費負担の方に含まれていません。一方で,日本は授業料が高く,奨学金受給率が低いということは右側のグラフからも読み取れると思っています。
 10ページ以降が補足資料でございます。
 11ページは,基盤的経費と競争的経費の割合の推移でございます。緑色の部分が基盤的経費と言われる部分,ピンク色の部分が競争的資金と言われている部分でございます。平成16年度と平成21年度を比較しますと,基盤的経費の割合は下がってきていますが,ここ数年は横ばい傾向でございます。
 12ページ,奨学金事業についての資料でございます。
 財源の多元化について,13ページに「寄附額の推移」を掲載しています。寄附額は,国公私通じて,多少の変化はございますが,2,000億円規模を確保していただくように各大学に御努力いただいています。
 14ページ,研究収益等の推移でございますが,3,200億円の規模になりますが,基本的には増加の方向で各大学ともに進めてきていただいています。
 15ページ,規制緩和を進め,財源の多元化につながるように文科省としても取り組んできたところでございます。ベンチャー支援会社への出資,土地の第三者貸し付け,余裕金の運用,税制上の措置などを進めてきたところでございます。
 16ページ以降は参考でございます。17ページは,今回の無償化に関する資料でございます。幼児教育の無償化,高等教育の無償化,私立高等学校における授業料の実質無償化の取り組みをまとめた資料を入れています。
 22ページ以降は,昭和38年から中央教育審議会において財政の在り方について取り上げられた答申を入れさせていただいています。38年の答申の部分と46年の答申でございます。国公私それぞれにどのような財政支援をしていくかが中心になっていますが,平成10年からは,民間資金の導入等による財源の多様化・充実を図るところが加わってきているという変化がございます。
31ページ,平成17年の将来像答申においては,四角囲みの中ですが,「機関補助と個人補助の適切なバランス,基盤的経費助成と競争的資源配分を有効に組み合わせることにより,多元的できめ細やかなファンディング・システムが構築されることが必要」という方向性でこれまで取り組まれてきたところでございます。
 39ページ,「経済財政運営と改革の基本方針2018」について入れさせていただいています。
 44ページ,教育振興基本計画の中での取扱いの抜粋を御紹介させていただいています。
 48ページ,教育再生実行会議において平成27年の7月8日にまとめました第八次提言でございます。高等教育段階における教育費負担軽減が掲げられておりまして,右側の四角囲みの中ですが,高等教育段階における教育費負担軽減が0.7兆円必要だということが明記されています。あわせて,50ページ,平成27年の段階で「消費税の見直しが検討されるのであれば」,「受益と負担のバランスのとれた社会保障制度を構築した上で,税収の使途」を教育にも広げることを検討するということが言われておりました。
52ページからは,財務省の財政制度等審議会の資料でございます。国立大学,研究力,私立大学とそれぞれに分かれて財政制度等審議会としてのまとめを作られています。
 73ページ,自民党の教育再生実行本部が5月にまとめました第十次提言でございます。73ページ,7.財政面の主な課題で,公費である国立大学法人運営費交付金,私学助成等の大幅な増加が難しく,右肩上がりで上昇する状況にはなっていないということ,それから,寄附金や産学連携収入など財政基盤の多様化が十分に進んでいないということが書かれております。74ページ,対応の方向性として財政基盤の強化,税制の関係,不動産の運用,国立大学の授業料の在り方について検討するということが入れられています。
 以上,資料の御説明でございます。冒頭申し上げましたように,学生への経済的支援をどのように考えていくのか。また,基盤的経費と競争的資金の関係性等も2040年に向けてどのような形で高等教育の支援を行っていくべきかという観点から御議論いただければ有り難いと思っています。
 以上でございます。
【永田部会長】  ありがとうございました。
 質問も含めて御意見を頂きたいと思います。過去から同じような議論が繰り返されてきた中で,過去の中央教育審議会の答申でもメリハリの付いた意見が出ています。御説明がありましたとおり,2040年に向けてという視点から,是非とも御意見を頂きたいと思います。
石田委員,どうぞ。
【石田委員】  御説明がありましたように,教育負担の軽減は国民としてはうれしいことだと思いますが,一方で,大学の経営として見ると,直接の収入増になるわけではありません。収入に関して,例えば,1ページ目,運営費交付金以外で,企業からの研究収益あるいは企業との産学連携による経費,寄附金等があると書かれています。ですが,大学としてもこうした収入を上げるよう最大限務めている訳ですが,現実の額で見れば地方大学で見ると,どちらも非常に難しい。寄附金は,特定の講座や研究者を対象としたような奨学寄附金と,それにはとらわれない一般的な寄附金に分かれます。ほとんどの大学でこうした寄付金による増収を務めているが,多くの地方大学が苦戦しています。例えば本学でも一般的な寄附金について,昨年度から積極的に取り組みを始めましたが,1年で2億数千万が限界です。それでも,従来の約10倍の額には増えました。しかし,現在の状況では継続的に一般的な寄附金を獲得するのは難しいと思っています。更に寄附金を拡大できるような税額控除の範囲,対象等の部分を御検討いただきたいと考えています。
 もう一つ,産学連携による収入,奨学給付金等についても,地方の目で見れば,地域の産業界が疲弊化している中で,苦戦しているのが実態です。また,外部資金を集めにくい人文社会系あるいは教育系をどう考えればいいかについては,研究収益あるいは寄附金ではかなり限界があると思っています。
 以上でございます。
【永田部会長】  ありがとうございます。
 千葉委員,どうぞ。
【千葉委員】  専修学校の立場から意見を申し上げます。専修学校は,御存じのように,経常費は全く補助金を受けずに運営をしています。経常費以外の補助金には施設・設備のための補助金があり,情報処理関係の施設・設置に対する補助金がありますが,その補助の対象が現在の需要からずれたパソコン・プリンタなど,従来からICT教育に使用されてきた,限られた機器のみが対象となっています。Society5.0の時代において,専修学校も専門教育機関,あるいはリカレント教育の拠点として役割を期待されているわけですから,従来からのICT教育機器の購入のみではなく,先進的な教育を行うために必要な機器全体に関する補助に制度を改めていただきたい。例えば,IoTを学ぶための先進的なエレクトロニクス機器やAI技術や制御を学ぶためのロボットなども補助の対象に含めて頂きたい。場合によっては,ソフトウェアのリースや購入が重要になってきます。専修学校におけるデータサイエンティスト等の育成もこれからの時代には非常に重要だと思います。従いまして,ソフトウェアの購入などについても,補助の対象にしていただきたい。また,情報化全体に関する補助が留学生の入学を促すような魅力にもつながります。是非,専修学校の情報化投資に対する補助制度の改善を図っていただきたいと思います。
【永田部会長】  金子委員,どうぞ。
【金子委員】  財政問題についての基本的な理解の問題ですが,資料55ページ,国立大学法人の事業費推移という表です。これを見ますと,平成16年度(2004年)に国立大学法人の事業費は総額2兆3,600億円,27年度(2015年)には3兆900億円で,差引き約7,000億円に増えています。大きな増加ですが,国立大学においては収入全体としては,ほとんど横ばいと理解しています。これは非常に大きな違いです。どこが違っているかと言いますと,1つは病院です。病院の努力もあって病院収入は拡大しています。診療経費が4,000億円から6,800億円と約2,800億円増えています。ですので,人件費のうち一定の部分は病院における人件費だと思います。病院を除くと収入全体としては微増とは言えますが,ほぼ変わっていない状況です。財政制度等審議会で,国立大学の収入が増加していると言われても,国立大学の意見とはかなり違います。どこが増えていて,増えていないのか,見方はどう違うのかについて,是非解明していただきたいと思います。
 以上です。
【永田部会長】  山田委員,どうぞ。
【山田委員】  ありがとうございます。3点教えてください。1点目,競争的資金について偏在があると思いますが,数字的な資料がないので,できれば3大都市圏の大学とそれ以外の大学における競争的資金の推移を表にしていただきたいと思います。
 2点目,公立大学について,繰入れ基準を超過した部分がどのくらいあるのか,繰入れ基準の実際の単価と国の補助金の単価,そして繰入れ基準を超えた部分か否かというデータがあればと思います。
 3点目,病院運営交付金の減ですが,赤字が解消されたから運営交付金が減ったのか,それとも単に減っただけなのかを教えていただきたいです。
【永田部会長】  佐藤委員,どうぞ。
【佐藤委員】  私立大学側から言うと,国私間格差と言われますが,大学は教育研究の場でありながら,財源の分配は研究用,教育用ときちんと分かれていません。金子委員がおっしゃったように,病院を除けばほとんど変わっていない。つまりは,財政負担を教育に関わる経費と研究に関わる経費と分けて検討できていません。アメリカでも研究に関わる経費は,医学を除く科学や工学分野の研究に対する支援の財源をNSF(National Science Foundation, アメリカ国立科学財団)が分配・配分していることを考えると,研究に関する経費の配分と教育に関する経費の配分を見ながら検討しないと,財政負担を主張するだけの話になってしまうと感じています。
 教育に関する経費は,国公私において格差があるわけではないと思います。ですから,教育に関する経費を検討していただけると,何か新しい発想ができるかもしれないと思います。そうしなければ,今までの延長のまま財源も積み上げなければいけないという議論になってしまいます。
【永田部会長】  ありがとうございます。
【淵上国立大学法人支援課長】  国立大学法人支援課でございます。山田委員から御質問のございました病院運営費交付金でございますが,御指摘いただきましたように,病院の赤字解消がなされたことによりまして交付金がなくなっているという状況です。
【山田委員】  黒字ということですか。
【永田部会長】  厳密に言えば,赤字が全くないとは言えませんが,金子委員が御指摘のように増収に向かっています。ただ,その裏返しとして,大学教員の病院で働く時間が長くなっているので,教育研究時間は減っているという現実があります。
【山田委員】  私どもは府立大学で病院経営をしていますが,病院は収益事業としてやっているわけではありません。人材の育成と研究という形でやっています。そもそも黒字になるような体質ではないはずです。今,永田部会長がおっしゃったように,公的な部分として赤字の部分があるはずです。そうした中で,運営交付金がなくなってしまっていることに大変危惧を覚えていますし,特殊要因としてカウントするのは正しいのかどうかということも指摘させていただきます。
【永田部会長】  大変重要なことだと思います。
 義本局長,どうぞ。
【義本高等教育局長】  補足をさせていただきますと,昨今,病院のお話を伺いますと,かなり厳しい状況だと聞いています。御意見がありましたように,収入を上げれば,教育や研究にしわ寄せがあるのではないか。あるいは消費税の問題については全部転嫁できないので,病院において新しい設備が買えない,あるいは経営上かなり課題が出るというお話です。また,臨床研究を進めようとしても,若手は論文を書く時間がないという課題を聞いています。単なる数字上の問題だけではなく,実態として課題があるのは御指摘のとおりだと思っています。
 それから,金子委員から御意見があったところですが,競争的資金と民間の資金が,法人化以降,二千数百億円増えています。けれども,運営費交付金の減,それから義務的な諸経費が掛かっています。例えば,光熱水料が上昇や社会保険も含めた社会保障への対応もあります。そうすると,収入増に見合うだけの運営費交付金や諸経費を増加させなければいけません。実感として,委員の方々の御指摘のとおり大幅に増えているとは感じられない。大学によっては受け取る金額の格差が出てくるので,学内においての格差や負担の問題があります。それらをどう考えていくのかも一つのポイントと思っています。
【永田部会長】  両角委員,どうぞ。
【両角委員】  資料の9ページ,OECDにおける高等教育への公財政支出における国際比較の図ですが,日本の場合,依然として低いままです。2040年の問題を考えるのであれば,どう配分するのかという問題はありますが,全体の規模をどう考えるのかということが基本になると思います。例えば韓国は,約10年前は日本と大して変わらなかった。しかしながら,公財政支出を倍にするような政策を打ち出して増やしてきています。全体は増えないと諦めて方針は出さないのか,そこをどう考えるのかということではないかと思います。
 例えば,64ページ,世界大学ランキングの収入構造,あるいは海外の収入構造の図を出して,日本は財源の多様化ができていないから,運営費交付金をもっと減らして民間から稼ぐべきということを言いたい資料に見えます。また,例えば研究受託収入は,オックスフォード大学は,政府のリサーチカウンシルから得ている収入が含まれているということもあります。図表の作り方が誘導的になっている面もある気がしています。実態を正確に理解しないと,財源の多様化といっても運営費交付金等の政府から入るお金の形が違うだけです。アメリカの大学であっても,必ずしも寄附金や基本財産で賄われている大学ばかりではありません。そういったものを引き合いに出していることにかなり疑問を感じます。
 ですので,公財政支出自体の規模をどうするのか。例えば,大学に行く人数の増加や高学歴化が進むことだけでは経済成長につながっていませんが,高い質の教育をすれば経済成長につながるというエビデンスが出ています。経済投資としてもっと高等教育に公財政支出を増やすという,2040年を目指したシナリオがあってもいいという意見です。
【永田部会長】  ありがとうございます。今おっしゃったとおり,オックスフォード大学に限らず,ドイツでもフランスでも,外部資金の大部分が国の資金を原資としています。金子委員の御意見も,両角委員の御意見もそのとおりだと思います。
 村田委員,どうぞ。
【村田委員】  ありがとうございます。両角委員がおっしゃったことと関係があるのですが,初等中等教育の公財政の比率はOECDの中では上の方です。経済学の中では,日本の,東アジアの奇跡は,初等中等教育が充実しているため,成長を遂げてきたということは明らかな常識です。日本の場合,受験があって,初等中等教育の部分で学力は上がるのだけれども,人文・社会科学系では高等教育で学力がなかなか上がらなかった。これから知識基盤社会において高等教育の重要性が変わってくるときに,対GDP比もそうですが,初等中等教育の比率と高等教育の比率がこれまでどおりというのはあり得ないと思います。高等教育に大きくシフトさせていかないと,日本の経済は成り立っていかない。そういう意味で,初等中等教育から高等教育全体のバランスはどこかで考えることが必要です。どこかで議論していただければと思っています。
【永田部会長】  ありがとうございます。村田委員のおっしゃるとおり,高等教育として必要なものをどう社会に理解いただくかという議論をしなければなりません。

(2)小林委員,村田委員から「授業料後払い制度導入の検討の必要性について」御発表があり,その後意見交換が行われた。

【永田部会長】  一旦,ここまでにさせていただいて,小林委員及び村田委員から「授業料後払い制度導入の検討の必要性について」の資料に基づき御説明いただきたいと思います。
【小林委員】  ありがとうございます。今日は支援方策の中でも教育費負担や学生への経済的支援の審議を行うということでしたので,発表させていただきます。私は所得連動型の奨学金制度や給付型の奨学金制度の創設に関わっていました。また,村田委員は給付型の奨学金制度の専門家会議に参加されています。このように,様々な制度設計を行ってきましたが,まだまだ不十分であると思っていますので,今回,新しく授業料後払い制度を提案したいと考えています。私からこの趣旨を説明いたしまして,村田委員から具体的な提案について説明いたします。
 2ページ目,経済的支援としての授業料後払い制度をなぜ導入する必要があるのかについてお話しいたします。授業料後払い制度は,様々な言い方がされていますが,誤解もありますので,それらも含めてお話します。それから,単に授業料後払いだけではなくて,所得連動型にしなければいけないというのが我々の考え方ですが,前半,私からそこまでお話します。
 3ページ目,中央教育審議会の諮問の第4は,経済的支援を検討することとなっております。また,新しい「経済政策パッケージ」では,授業料後払い制度の一つの例であるオーストラリアのHECS等諸外国の事例も参考にして,中間所得層におけるアクセスの機会の均等について検討することになっております。6月の骨太の方針(経済財政運営と改革の基本方針2018)でも中間所得層における大学等へのアクセスの機会均等について検討を継続することになっています。このような制度がなぜ必要かということですが,教育費の家庭負担が重いということです。これについては異論がないと思います。それに伴い,教育の格差が生じています。12ページの参考資料,特に私立大学では所得階層別に進学率に格差があります。
 そのような中で,低所得層には給付型奨学金が創設され,大幅に拡充される予定です。しかし,中所得層あるいは高所得層でも複数の兄弟姉妹が在学するような中所得層あるいは高所得層の教育費負担の軽減策は今のところございません。ただ,給付型の支援は非常に多額の公費を使います。現在の状況では,これ以上,給付型を拡大し公費負担を求めることは非常に難しいということです。これは日本に限らず,世界的な傾向です。教育費の公的から私的負担,あるいは親負担から子負担へという大きな流れがあります。いかに少ない公的負担で,教育費の私的負担感を軽減するのかということで,後払い制度が提唱されています。実際に,オーストラリアあるいはイギリス,アメリカの一部で導入されています。
 今日は,あくまでも2040年までにこれらのことを検討していく必要があるのではないかということで,一つの議論のたたき台としてお話します。
 4ページ目,授業料後払い制度とは,在学時には授業料を徴収せずに,卒業後に支払う制度です。実質的には,学資ローンに近い制度です。ただ,授業料を学生本人が負担することで,親負担主義から本人負担主義へと教育費の負担を大きく変えます。非常に大きな考え方の転換になります。親依存を脱却し,学習に対する意欲や責任感が増すと言われています。ただ,無償化とは異なりますので,公的な負担は少なく,教育費の私的負担感を軽減することが目的です。教育資金の調達について,学資ローンの場合は担保がありません。したがって,非常に民間市場では扱いにくい,あるいは扱う場合にはリスクプレミアムを付けて,非常に高く利子を取ることが行われます。そこで,この制度を国が保証して行うことによって,教育資金を調達しやすくすることが目的です。どこの国でもこういった学資ローンに当たるものは国が行っています。民間の教育ローンもありますが,主要なものは国あるいは国の機関が行っています。
 また,大きな論点として,ユニバーサル化で全ての学生が対象でなければいけないということがあります。
 そして,これは,卒業後の自分から在学時の自分への投資と,逆の投資になるという考え方です。
 ローンの負担感軽減やローンの回避防止のために,所得連動型が必要です。今までの説明はただローンを借りればいいという話ですが,ローンの負担が非常に重くなり,日本では社会的な問題になっています。そのため,ローンを借りない,奨学金を借りないということが行われています。それらを回避するためにも所得連動型が必要であると考えています。
 参考資料で,オーストラリアやイギリス,アメリカ等の各国の主な所得連動型について載せています。
 5ページ目,所得連動型について本質的な要素は,卒業後の所得に応じて返済するということです。したがって,所得が低いほど月々の返済額が少ないという仕組みです。ただ,それ以外にも幾つか要素があります。一定の所得以下では返済が猶予になり,余りにも返済額が低いと回収コストの方が高くなるということがあります。返済が猶予され,月々返していっても返し切れない場合に,一定の期間あるいは年齢で返済を免除する帳消しルールを設けている国もあります。イギリスでは30年というルールがあり,源泉徴収あるいは類似の方法で,所得を計算し,それに応じて払っていきます。そのため,源泉徴収でないとなかなか難しくなります。また,利子を付けるか,付けないかは様々な制度があります。様々な要素があり,組み合わせて,各国において所得連動型ローンを作っています。
 所得連動型については,メリットもありますが,デメリットもあります。6ページ,メリットですが,教育投資のリスクに対するものです。不確実な返済の不安に対して一種の保険として機能するということが挙げられます。借り手にとっても,貸手にとっても貸倒れがなくなるという意味では一種の保険になります。それから,ローンの負担を軽減させて,返済不能のリスクを低減させ,ローン回避を抑制できると言われています。また,授業料は在学中に払うわけではなく,10年以上掛かって返済しますので,月々の返済の負担は減ります。返済の基準が所得のみで明確ですので,「返したくない」という問題が発生しないことが挙げられます。
 ただ,デメリットもあります。逆選抜,これは選択制の場合に起きます。所得の高い人は返済額が高くなりますので,制度を使いたくないという問題が起きます。したがって,借り手が低所得層だけになってしまうという大きな問題があります。実際,イェール大学が導入して失敗したのは逆選抜の問題のためです。それから,モラルハザードの問題があります。返済の閾値(いきち)以下の所得しか働かないということ,これは被扶養者の問題でいわゆる崖問題と言われているものと同じ問題が発生するおそれがあるということです。そして,最大の問題点ですが,理論上,未返済が発生する可能性が非常に高いということです。閾値(いきち)以下では猶予がある,あるいは帳消しがあるという場合,それらは全て未返済になり,国庫負担が必要です。当然のことながら,借金をずっと抱えることになりますので,そのような心理的な負担感もあると思います。さらに,利子の問題は,所得の低い人は月々の返済額が低いわけですが,それだけ長期間返すことになります。有利子の場合には総返済額は大きくなるという問題点を持っています。
 このようなメリットもデメリットもありますが,それらを考慮しながら制度を考えていく必要があるのではないかということです。7ページ,給付型奨学金が非常に着目されていますが,昨年度,日本学生支援機構第1種無利子奨学金については新所得連動型の制度が既にできています。ですから,この制度をベースに考えていくことができると考えています。
 後半は,村田委員,よろしくお願いします。
【村田委員】  続きまして8ページ,授業料後払い制度の課題についてお話をさせていただきます。授業料後払い制度は普遍的な制度でなければなりません。全ての学生が対象である。つまり,一部の低所得層の学生だけが対象でなく,全ての学生が対象になる。基本的に授業料を親負担から本人負担にするという意味で,哲学の変更であるといえます。将来の自分が今の自分に投資をするといった考え方です。従って,学習意欲が増大します。また,リカレント教育という観点から本人が負担していくのであれば,働いてから,自分が本当にいいと思う専門分野を選ぶこともできます。そういった形で,18歳の伝統的な学生だけではなくて多様性にもつながっていくと考えています。特に重要な点は,本人が返済していくということです。返済ができないあるいは所得がある基準に達していないために返済が免除される部分は,財政負担が生じます。無償化ではございませんので,国庫負担は初期の制度設計のときと一定の割合だけが持続的に続きます。全ての学生が対象ですので,申請手続が不要で,申請漏れもないので,事務のコストも単純・省力化できます。
 所得連動型の奨学金という制度が既にございます。所得制限を全て撤廃して,全ての学生に導入していくという形にすれば,基本的な設計はできていると考えられます。授業料後払い制度とローンの違うところは,ローンには必ず担保がある点です。ところが,個人の将来の能力は担保にできません。ですから,奨学金や学費には流動性制約が発生し,親が担保を出さない限りローンは組めないという仕組みになってしまいますので,国が保証していく制度だとお考えいただければと思います。
 リスクを全ての学生にという点ですが,様々な意味で能力に格差があります。ですが,リスクを分散させることで保証費を下げることが可能になります。
 9ページ,授業料後払い制度の課題の2つ目でございますが,どうやって回収していくのかについては,マイナンバー制度が導入されていますので,マイナンバーを使用することによって回収が可能になります。
 実際,どれぐらいの額を後払い制度によって各学生の授業料に対して国が付与するのかを検討するときに,幾つかの案があるかと思います。1つは,国立大学の授業料プラス入学金を4で割ったものです。その額を毎年回収するということです。国公私立大学では授業料あるいは学生納付金といった概念でばらつきがあります。さらに,私立大学の場合はどういうふうにして計算していくのか。一定割合をするのか,あるいはある学部については少し厚めに支給するというような形にするのか。オーストラリアでは,一番人材が不足している専門分野に関しては,支給額を100%出し,人材が余っている専門分野に関しては少なめに出すという形で,政策的にも使っています。
 「帳消し制度」について,日本の場合は,大学は卒業したけれども非正規雇用になってしまえばそこから脱却できません。そのような場合,ある一定年数で帳消しになるとすれば,ローン回避を防ぐこともできます。
 所得に応じて,一定の所得から後払いを開始しますが,高所得者,つまり稼げた人に多く払ってもらうサーチャージはするべきではありません。有能な,より頑張った人から税金を取るという話になってしまうからです。あくまでも学部4年間,大学院6年間,博士9年間の学費分を返していく。問題は利子をどうするかということだと思います。
 基本的には,日本学生支援機構でも財政投融資を使っていますので,うまく使っていけば国債の発行にはつながらないと考えられます。恐らく,財務省も現在のような国債発行残高でなければ,反対しないと思いますが,財政負担があるので,なかなか賛成できないのではないかと想像しています。
 課題の3つ目ですが,制度を周知していく必要がございます。小林委員が御研究されていますが,ローンの回避が出てきています。有能な学生であるにもかかわらず,大学に行くとローンが発生するので行かない,あるいはアメリカ等でもローンが大き過ぎて途中で退学をしなければならないということが報道されており,ますますローンは怖いという風潮になってしまいます。国が保証していく制度設計を周知していく必要があると同時に,後払いの授業料をきちんと払うという金融教育も必要です。
 よく言われていることですが,各大学がどういう教育をしているのか,どういう能力が身に付くのかということの説明責任を果たし,公平に大学が選ばれるようにすることもますます必要になってきます。
 最後に,高等教育の無償化では決してなく,本人が後払いする制度であることを再度強調して御説明を終えたいと思います。
 ありがとうございました。
【永田部会長】  ありがとうございました。
 小林委員,村田委員が御説明いただいた内容について質問,御意見はございますか。
金子委員,どうぞ。
【金子委員】  よく分からない点は,後払いと返済能力に応じた返済という概念は別で,組み合わせなければいけない理由は必ずしもない。後払いは,政府が払った後に学生が何かの形で払うということかと思います。そうしなくても,学生が借りるローンの返済に対して,何らかの猶予条件を付けることはあり得ます。ですので,後払い所得連動型というのは,2つの別な概念が混同しているのではないかと思います。
【村田委員】  ありがとうございます。言われるとおりです。授業料後払い制度を所得連動型にする必要はありません。ただ,所得連動型にしておかないと,入職してすぐ給料がそれほど高くないときに,ローンの返済をしなければなりません。そうなると,ローン回避の問題が出てきます。ある一定の額まで達したら返していくという組合せができるということです。金子委員の御指摘のように,所得連動型と後払い制度は,別の制度設計ができると思っています。
【金子委員】  授業料後払いが望ましいかどうかということですが,マクロ経済的な問題があります。後払いは,当年度に政府が支払わなければいけません。直接的な政府の支出が増えてしまいます。後で返済してもらうので,将来の政府の収入は増えますが,当年度しばらくは,政府の支出がその分だけ増えてしまいます。政府としてはやりにくいのではないでしょうか。そのために,国債か何か出さなければ,手当てはできません。イギリスにはHECSに似た制度がありましたが,個人の借金として処理しました。ですから,政府の支出は増えませんでした。後払い制度という考え方はあり得ると思いますが,現実性から言えば,学生個人を主体として金融市場からお金を借りるということではないでしょうか。財投というような形もあるかもしれませんが,それ以外もあるかもしれない。それに対する利子補充ないしリスク負担に関して,政府が一定の補助をすることはあり得るだろうと思います。ただ,後払い制度は財政的に難しい問題があると思います。
 学生がローンを借りるのは,かなり意味があると思っています。GDP中の日本の高等教育支出が低いという話がありましたが,1960年から70年にかけて日本は高度成長したときに政府の支出を増やさず,租税負担率が低いままになっている。それが非常に大きな問題です。国債が積み上がっているわけですが,逆に言えば,家庭の資産は積み上がっています。個人が金融機関を通じて借り入れ,リスク負担を政府が行うことは十分にあり得ますし,むしろ推進すべきだと思います。
【永田部会長】  村田委員,どうぞ。
【村田委員】  3点あったと思います。1点目,ローンについて,民間のローンであれば,必ず担保が必要です。企業あるいは銀行,金融機関は儲(もう)けないといけませんので,流動性制約というのがあります。ですから,授業料等はローンでは難しく,経済学でいうところの市場の失敗であると思います。
2点目,マクロ経済学的な発想から見ると,いわゆる建設国債は将来の便益をもたらします。そのために,建設国債は財政法でも認められていますが,赤字国債が難しいということです。そういう意味では,フィジカル・キャピタル,物的な資本に対する公共投資と同じように,高等教育はヒューマン・キャピタル,人的資本に対する公共投資という形で,将来回収していく。例えば,高速道路を造った場合,費用をETCという我々が日々使っているものによって将来回収され,次の補塡をしていく形になっています。道路公団の代わりに,JASOにお願いをする仕組みと考えています。財政学的な考え方では大丈夫だと思います。
 3点目,家計貯蓄ですが,高度成長期の日本の家計貯蓄は20%近くありました。世界の先進国の中でトップですが,現在はかなり下がっています。日本全体の貯蓄と投資のバランスで言うと,企業が資金余剰,家計は差引きゼロ,対外的には少し黒字という形です。残念ながら,昔ほど家計には余っていないという状況です。そういう意味でも,この制度でやっていかないといけないのではないかと考えてございます。
 以上です。
【永田部会長】  制度が良いか,悪いかということではなく,このような選択肢があることが重要ではないか,という議論だと思います。
 古沢委員,どうぞ。
【古沢委員】  小林委員,村田委員,ありがとうございました。オーストラリアの授業料後払い制度は,小林委員がおっしゃったように,教育費負担の意識改革という点でも非常に意義があると思います。
 2点御質問があります。1つ目は,オーストラリアは無償であったのを有償にする段階で,後払い制度を導入したと聞いています。日本とは,状況がかなり違うと思います。捉え方が難しいのかもしれませんが,回収率がどうなっているかをお聞きしたいです。
 2つ目は,全ての大学を対象にするのかどうかということが,無償化と同様,議論になってくると思います。つまり,経営が苦しいところを助けることになってしまうのではないかという議論ですが,大学に対して何らかの条件を付けることについてどのようにお考えかをお伺いできたらと思います。
 以上です。
【小林委員】  一つ目に,オーストラリアのHECSについて,参考資料18ページに掲載しています。もともとHECSの未返済率はとても低かった。授業料相当額が非常に低かったのですが,その後どんどん物価スライドで上げていったために授業料相当額が上がったということと,それから,閾値(いきち),返済猶予に関わる額が相当高くなった。そのため,未返済が増えてきています。また,オーストラリアで深刻な問題は,HECSに限りませんが,海外居住者から徴収できないということです。それらの理由のために未返済率は約17%になります。推計は幾つかあるのですが,15~20%ぐらいは未返済になると言われています。
 2つ目に,全ての大学を対象にするかどうかですが,ユニバーサル化しないと意味がない制度だと思っています。学生については全ての学生と考えています。高等教育機関について選択制にするかどうかという御質問だったと思います。確かに十分な教育をしないような大学あるいは専門学校があった場合に,どうするかという問題は残りますが,基本的に学生の選択に任せるという意味では市場に任せるやり方をとりますので,市場が解決すると考えています。
【村田委員】  2つ目の御質問に関して,私は新しい経済政策パッケージのときに専門家会議の委員もやっていましたが,そのときは財政的に厳しい大学はどうするのかという議論が出ました。この制度に関しては,小林委員と同じで,基本的に,全ての学生が入るものです。特に経済学的に言いますと,政治学的にもそうかもしれませんが,1つの政策で2つの目的は達成できません。2つの目的に対しては2つの政策が必要であるという意味では,御指摘になった財政的に厳しい大学をどうするかは別の政策の問題であり,別の政策をしっかりやっていくべきだと考えています。
【永田部会長】  ありがとうございます。
 両角委員,どうぞ。
【両角委員】  小林委員,村田委員,ありがとうございました。後払い制度は,前から興味がありました。2つ御質問があります。金子委員の最初の御質問と同じですが,ローン回避であれば,返済猶予と返済免除を入れることで対処できないかということです。私も全面的にやらないと余り効果はないと思います。ですが,全面的に実施できるほどの制度であるかどうかは,まだ判断がつきません。一定の効果が得られないのではないかというのが,1つ目の質問です。
 2つ目の質問が,古沢委員からも出ましたが,もともとオーストラリアは公費で払っていた分を私費で払うときに誰が払うかという議論の中で,本当の受益者は親ではなく本人だということで,本人負担という制度が出てきました。最初に本人負担が考え方にあったと思います。日本は,現在半分の人が奨学金を借り,本人が返済しているケースもありますが,親が負担しなければいけないという意識が強い。子供を持っている親向けの雑誌を見れば,何度も学資を貯めるべきだと書かれています。親負担主義から本人主義負担に変わっていかないと,選択しない人が多い社会の中では成り立たないのではないかと思います。その辺りについてどのようにお考えなのかということが,2つ目の質問です。
【村田委員】  1つ目の御質問のローン回避について,民間の企業あるいは銀行では,ローンの利子を支払い,補塡し,減免するということでは利益が上がりませんので,難しい。では,政府ではできるのかというと,一定の学生だけを対象としてはいけないと思います。所得の低い層の学生は大学進学率が低い。小学校から塾に通い,中学・高校一貫校に通うと,約2,000万円掛かります。2,000万円を支払える所得層の子供たちだけがいい大学に行って,そうでない子供たちは行けないというような形になっています。結局,低所得者層だけに当てはめていくと,親も所得が低く,子供たちもなかなか抜け出せないという状況になってしまい,制度自体が赤字続きになる。そういう意味では,全体でユニバーサル化をして,10年ぐらい経てば,親の所得格差による大学進学率の格差は是正されて,本当に学びたい学生や意欲のある学生が大学に行って高等教育を受けて社会で活躍できるという社会になると考えています。
【小林委員】  最初の御質問ですが,所得連動型でなくてもいい方法があればとは思っていますが,いろいろと検討した結果,今の制度では様々な問題があります。単純に拡張してもなかなか難しいというところです。
 例えば,民間の金融機関に任せるのであれば政府が保証すればいいですし,あるいは政府が利子補給すればいいわけです。政府保証や利子補給はアメリカ連邦政府学資ローンでやっていましたが,オバマ政権のときに廃止してしまいました。民間の金融機関に任せたら,民間は政府保証が付いているために回収努力しませんでした。債権を第2次市場,第3次市場に売ってしまい,民間金融機関が儲けるだけということになってしまいました。ですから,ほかに望ましいやり方があればいいのですが,今のところ,後払い制度が一つの案ということですので,検討していただければと思っています。
 2つ目の御質問ですが,公的な負担が余りにも少ないという問題ですが,日本の今の世論は,公的な負担に対して非常にネガティブです。当事者であれば公的負担を望みますが,当事者以外であれば多くの方は公的負担を望んでいません。それを変えるためには,親負担から子負担というのは一つの方法だと思っています。公的な負担を増やすことと,親負担から子負担に移すことと,両方を考えていくことが必要だと思っています。一つの方法が後払い制度だと考えています。
【永田部会長】  こういう方策が考えられる,ということを答申に書けば良いと思います。ひとつのアイデアとして後払い制度が考えられるが,その制度にはこのような良いところや問題点があるのではないか,というところが論点です。
日比谷委員,どうぞ。
【日比谷副部会長】  ありがとうございます。コメントを2点申し上げます。
 一つ目,後払い制度の課題の3番目についてですが,両角委員からの御発言とも関係しますが,親や教師のマインドを変えるのは,並大抵のことではないと思います。生徒は変わるかもしれませんが,委員が「やめておけ」とおっしゃったり,親も二の足を踏んだりということが十分に予測されます。どうやってこの制度を周知するかはよほど考えなければいけないと思います。
 二つ目,全ての大学の学生を対象にするユニバーサル化には賛成ですが,その場合,個々の大学の情報公開と説明責任が前提条件というのもそのとおりです。これから考えなくてはいけないことですが,どのような情報をどのような形で公開するのか。そして,全ての大学を一律に比較検討できるような形で公開する方法も整備しないといけません。そうしなければ,後払い制度はうまくいかないと思います。
 以上です。
【永田部会長】  麻生委員,どうぞ。
【麻生委員】  表題の授業料後払い制度を見たときに,大学や学生若しくは保護者が授業料負担者の関係ではなく,いわゆるJASOのような機関が入るということはよく分かりました。その後の返済も分かりました。ただ,機関補助になるのか,個人若しくは世帯補助になるかということが明確に分からないので,教えていただきたいと思います。
【村田委員】  あくまでも個人の補助と言えます。後払いできない人は,免除された場合,結果として個人補助になります。
【永田部会長】  どうもありがとうございました。HECSあるいは後払い制度の良いところも悪いところも御理解いただけたと思います。本日の議論を聞いて,後払い制度については検討の余地があり,一考に値すると思いました。
 これから後半は,国公私を通じた機関や課程に着目した規模の議論をしたいと思います。さきほど日比谷委員が本質的な点を御指摘されたのですが,要は大学に価値があるかどうかです。価値のない大学に入った学生は卒業後に授業料を払いたくないと思います。その意味で,いかに価値のある大学として存続しえるか,ということが重要になります。考えなければいけないことは,大学に関わる資金を,国,個人,あるいは社会の誰がどのような割合で負担するのかということです。この問題に踏み込むと,国における教育論もしくは国家論になり,誰が人材を育成するべきなのか,という根本論になっていきます。今回は議論の時間がありませんが,そのように考えないと根本的に解決できません。
 なお,佐藤委員がおっしゃった,教育と研究それぞれの支出内訳も含めて考えようという御意見は,ある意味では大変重要な御指摘だと思います。大学として必要な費用は同じであっても,支出の内訳は違います。つまり,教育という部分についてどれだけ高等教育を支援するかという問題は,個人レベル,機関レベルで違いが出てくるであろうと思います。
 もう一つ,村田委員の2つ目的があれば制度は2つ必要であるという御意見は,全くそのとおりだと思います。財政論の観点から議論をしてきましたが,大学の価値について,設置された後は基本的に検証されることなく,確かな根拠のない噂でしか知り得ない,ということではいけません。社会に対して説明責任を果たしていかなければならないと思います。そのときに,どのような制度にするのかについてはワーキンググループで話し合っていただいていると思いますが,現状では,大学の設置の際に評価があって,足らないところはアフターケアをして,その後,一定期間ごとに認証評価を受けるというサイクルになっています。しかし,現状の認証評価は,大学の本来の意味での価値そのものに踏み込んで社会に説明できるような形にはなっていません。18歳人口の減少や教育と研究の質を問わなければいけないのであれば,認証評価機関が指摘した大学の活動を改善すること及びそのフィードバックを,大学設置・学校法人審議会のような機能を果たす機関に戻すような仕組みが必要ではないか,ということです。そのような機関を本当に設置する価値があるかどうかを検討する仕組みが必要だと思います。
(3)国公私を通じた機関や課程に着目した規模の在り方について,資料2に基づき事務局から説明があり,その後意見交換が行われた。

【永田部会長】  最後に,高等教育の将来像の中で規模をどのように考えていくかについて議論します。事務局に「今後の高等教育の将来像の提示に向けた中間まとめ」を中心にまとめ直した資料を用意していただきましたので,御説明の後に議論をさせていただきたいと思います。
【石橋高等教育政策室長】  失礼いたします。資料2を御説明させていただきます。
 資料2の構成は,前回御議論いただきました規模に関して,中間まとめでそれぞれどのようにまとめたか,それに対して委員の方々の御発言を含めて,どういうことを書き込んでいくべきかという観点で整理をさせていただいています。
 まず1つ目が全体の規模で,中間まとめの抜粋を最初に掲載していますが,規模感としては,できるだけ多くの学生が進学し,社会に出た後も学びを継続するといった魅力的な高等教育を提供していくことが必要であるということを3つ目の丸の中に書かせていただいています。その際,地域においても議論をしていただく必要があるというところが4つ目の丸,5つ目の丸になっています。
 7月25日の将来構想部会での御発言を掲載させていただいています。大きな方向性が必要。また,地域をどう考えるか,留学生やリカレントをどう考えるかというようなことを御発言いただいています。これらを踏まえまして,例えば魅力的な高等教育を提供していく前提には,教育の質の担保が重要と明記すべきではないかということを書かせていただいています。更に加えるべき点があれば,御議論いただければ有り難いと思っています。
 2ページ,大学院については,大学院部会での議論も続いていますので,前回の御発言を踏まえて,まとめを新たに作りました。
 1つ目の四角ですが,「知のプロフェッショナル」の育成を担う大学院の重要性は高まっているということでございます。我が国の修士,博士学位取得者の割合は2分の1から3分の1程度と低い水準にあります。国際競争力を考えますと,問題が生じる可能性がございます。他方,定員の未充足が常態化しているケースがあることが,前回の議論でもデータとして明確になっています。各大学院が養成すべき人材像とカリキュラムの関係が明確でないこと及び特定の専門分野の知識や方法論を重視する大学院教育と,専門分野以外の幅広い能力を求める社会のニーズにギャップがあることが指摘されています。まとめでは,三つの方針を明確に設定するということ,最適な定員の設定や人材養成目的と課程との関係の再点検を行うということ,さらに大学院が2040年の社会に求められる需要に応える好循環を生み出す出発点とすべきではないかということです。
 大学院部会における議論に対しまして将来構想部会での御発言は,例えばニーズ,規模,質のいずれにおいても相当劣後しているのではないか。自然科学系と人文社会科学系の違いやカリキュラムの内容,それから2040年で要求されるワークフォースとしてどういった人材を育成するのか,大学院はそれにどう応えていくべきかというような御発言を頂いているところでございます。更に加えるべき点があれば,御議論いただければ有り難いと思っています。
 4ページ,社会人の規模等について,高等教育機関で多様な年齢層の多様なニーズを持った学生に教育できる体制が必要となる,プログラムの提供数や人材の確保,受講しやすい環境の整備などが課題である,また,地域連携プラットフォーム(仮称)の活用も視野に入れるべきだということを中間まとめでは入れさせていただいております。御発言の中では,社会人の需要をきちんと捉え直すべきではないか,また,地域プラットフォームの活用等について御発言を頂いてきたところでございます。更に加えるべき点があれば,御議論いただければ有り難いと思っています。
 5ページ,留学生に関しては,18歳入学という従来のモデルからの脱却という観点,学部段階における優秀な留学生の受入れや多様な国・地域からの留学生の受入れを推進すること,より優秀な留学生を引き付けることができる教育環境・体制を整備していくこと,また,我が国における留学生の定着促進が必要であるというようなことが中間まとめでは書かれています。世界の中で優秀な留学生の獲得競争が生じている中で,大学の留学先として選んでもらえることをどう考えていくかを追記すべきではないかということを書かせていただいています。
 委員の方々の御発言の中では,在留資格,就業保証,ビザの問題の観点から留学生も日本で働くということを考えれば,キャリアパスが見えるようにしなければいけないという観点でも御発言いただいていますので,更に加えるべき点がないかということを御確認いただければと思います。すみません。誤植が1つございます。4点目のところ,キャリアパスの「ア」が抜けています。
 最後ですが,学問の多様性の確保も,規模を考えていく中で重要です。文系・理系の区別にとらわれないということ,ジェネラリストではなく,高度な知のプロフェッショナルということ,特にSociety5.0に向けて数理・データサイエンス等の基礎的な素養を持つということなどを中間まとめで書かせていただいています。答申に向けた方向性でございますが,現在の高等教育で提供されている学問分野が今後変化する社会を見据えた際にどうあるべきか,また,文理を問わない基盤となる学びの提供はどうあるべきか,必要な人材輩出の規模はどうあるべきか等について,更に議論を進めていくというような観点は記述が必要ではないかと書かせていただいています。この観点も併せて御議論いただければと思います。
 以上でございます。よろしくお願いいたします。
【永田部会長】  ありがとうございます。中間まとめから規模に関する部分を抜粋しています。
 そのうえで,答申に向けた方向性として,全体の規模は価値のあるものが残っていくということであり,そのための制度を考えなければいけないと思っています。大学院のデータは皆さんと共有していましたが,充足率は低かったと思いますので,定員を満たしていない専攻等を存続させる価値があるかどうかは,大学自身が本気で考えないといけません。将来に向けて適正なサイズに絞れるあるいは統廃合等できるか,ということは,現在のプロセスの中では非常に難しいです。けれども,定員充足しているか否かは,少なくとも一つの重要な指標であることは確かです。
 資料2にまとめていただきましたが,これ以外の観点でも結構です。可能であれば,具体的なアイデアについて御意見をお願い申し上げます。
黒田委員,どうぞ。
【黒田委員】  ありがとうございます。資料2の説明を受けましたが,その前に財政問題ですが,財政問題を語るときに一番国民に知らすべきことは,教育費そのものです。1人の教育をするために幾らお金を掛けているのかということです。国立の授業料が教育費の全てだと思っている。それだけで足りているという風に思っています。運営交付金が入ったり,国家支援があったりということは余り知りません。分野によって違いますが,1人にこれだけのお金を掛けているということをしっかり示して,その上で財政全体についてどうするかを考えないといけません。
資料2,高等教育の質の高いとはどういうことかということです。質の高い高等教育の機会を担保して,提供すると言っていますが,質の高いとは何かを議論すべきだろうと思います。全体の4つ目の丸に「地域における」と,わざわざ地域におけるということを書いてあります。これを見る皆さんは,地域における高等教育の質が低いと思ってしまいます。ですから,地域に限らず,恐らく首都圏においても高等教育の質ということから見れば,疑問を感じるところもあるわけです。
【永田部会長】  抜き書きなので趣旨が分かりづらくなっていますが,地域にある大学は質が低いと言っているのではありません。過疎化が起こり,大学が苦しい状況にあっても,地域における質の高い高等教育を確保しようという趣旨の前向きの意見です。
山田委員,どうぞ。
【山田委員】  前回の議論の中で再編・統合が出てきました。先日行われた全国知事会議の中でも,大学の再編・統合ありきではなくて,どうすれば地域において質の高い,地域の需要に合った教育が確保できるかという前向きな観点から書いてもらいたいという提言がございました。教育の担保が重要であることは間違いないと思います。単なる再編・統合につながることなく,地域における教育の機会確保ということを前提とした形で,書いていただくようにお願いしたいと思います。
【永田部会長】  ありがとうございます。地域で人口が減り,かつ財政上厳しいなかでいかに質の高い高等教育機会を担保していくかについて,一つの方策として連携を進めようという書き方をしています。当然ですが,連携・統合ありきではありません。
 鈴木(典)委員,どうぞ。
【鈴木(典)委員】  ありがとうございます。地域的,地域配置という言葉が出てきて,私も秋田の非常に不便なところで大学の運営に携わっているわけですが,2040年を考えたときに,現在よりもますます地域の人口あるいは高齢化あるいは産業の衰退というものが進行しているわけです。秋田の場合,例えば何が誇れるかというと,秋田のお酒と私の大学だというぐらいになってきています。それだけ教育は非常に地域の振興にとって重要だと思います。資料2の1ページの将来構想部会での発言の3つ目,「国として,計画的な地域配置を考えていくことは非常に難しく」ということで,中間まとめとして結論が出て,今後も誘導政策を続けていくことになっています。国がリーダーシップをとって配置を考えていく必要があり,そういうふうに迫られると予想しています。例えばアメリカの場合,州立大学などは地域性というものを考えて,州の中でも非常に不便なところ辺りに意識的に建物あるいは施設を建てて大学街を作ることで教育を行っています。そういう状況に日本もなっていくのではないか,あるいはなっていく必要があると思っています。
【永田部会長】  ありがとうございます。2040年を鑑みると,コンパクトシティという形になっていくだろうと考えられます。広範囲に病院や郵便局を点在させるのではなくて,生活に必要な機能を集約するということです。そのうえで,農作業にビジネスとして郊外に出掛ける,という様態に変わることがSociety5.0の目指す一つの姿だと思います。そのような将来を描いたときに,国だけではなくて,それぞれの地域が機能を集約させたい場所等を含めた地域の在り方について真剣に考えるべきです。その際に,教育も含めて議論する地域のプラットフォームが重要だろうと考えています。
 佐藤委員,どうぞ。
【佐藤委員】  現実問題として人口が減って学生数も減っていくことを考えた場合,例えば台湾などは定員減に対するインセンティブがある。また,韓国も学校の評価のランクが低いと,定員減を国が管理してしまっている。こういうケースも情報として得て,議論の参考にしていただけたらと思います。
【永田部会長】  ありがとうございます。
 千葉委員,どうぞ。
【千葉委員】  3つ目の丸のところで,永田会長と同様に,「魅力的な」ということを具体的に明記する必要があると思います。学びの価値が高いということを加えていただきたいと思います。
 以上です。
【永田部会長】  ありがとうございます。
 吉見委員,どうぞ。
【吉見委員】  話が別になりますが,大学院の規模で,修士と博士が同じような形で議論されています。将来的なことを考えたら,修士と博士では随分違うのではないかと思います。概念を区別して明確にしていく必要がある。そのときに,実態としても,修士に関しては短縮化,それから,理系だけでなく,文系に関しても学部との連続性を強化していくことが方向として考えられます。一方で,博士に関しては,一人一人,かなり手作業で作っていかざるを得ないところがあります。数的にはクオリティーを維持しようとすると相当限界があります。絞り込んでいくという形で,修士と博士を少し分離する方向を明確化して,それぞれの専門性を社会の中でどう位置付けるかを明らかにしていくことが必要ではないかと思いました。
 以上です。
【永田部会長】  ありがとうございます。
 有信委員,どうぞ。
【有信委員】  議論するつもりはありませんが,整理しておきたいと思って発言します。特に理系の大学院においては,修士,博士一貫で高度な知のプロフェッショナルを育てるという施策を続けてきています。学部までの段階で基盤的な知識を教育するということと,様々に組み合わせて新しい分野に対応するような高度な研究能力あるいはリーダーシップを発揮できるような人材を大学院で育てると,こういう質的な差を設けるということで進めてきています。御指摘のように,人文社会系は,修士は学部段階から教育をして,博士は別の研究者育成という形にしようという議論があることは承知をしています。もう少し分解能を高めて,本来の学部の役割に対して大学院がどうあるべきかという形で整理をしたいと思っています。御理解いただければと思います。
 それから,今の話とは異なりますが,学問の多様性の確保の整理について,2番目の丸で非常によく書き込まれています。その次の項目に専門教育があって,その次の項目にSociety5.0という話が出てきます。これらの部分は,「学術研究においても産業社会においても,分野を越えた専門知の」ということが書かれていて,「幅広い教養を身に付け,高い公共性・倫理性を保持しつつ」と書かれています。この文章に引き続いて,Society5.0の話につながった方が流れはいいような気がします。特に「数理・データサイエンス等の基盤的リテラシーを」と書いてありますが,この中ですごく重要だと言われているのは,いわば倫理の問題です。新しい学問分野を進めていく上で,倫理上の問題が問われることになるので,全ての先端的な学問分野でそういう可能性が出てきます。したがって,「高度な研究能力」の後に,Society5.0の話があり,その後に専門教育の話になって,「なお,産業社会の激しい変化の中で新しい組合せが」とつながった方が全体としてはいいという気がします。
【永田部会長】  ありがとうございます。
 吉岡委員,どうぞ。
【吉岡委員】  今の御意見と重なるかもしれませんが,学問の多様性が言われている一方で,高度な専門知識が非常に重要だということは分かります。しかし,学問が多様であることが,一人一人の学生のレベルでは非常に専門的で,多様な人はいるけれども,それぞれの学生は,多様性の中の個々の狭い専門知識の中に入ってしまう方向になってしまうことはよくないと思います。ある種の業績主義はどうしても専門の最先端を測っていかざるを得ないので,一人一人の学生が狭く深くなっていくことはしようがないと思いますが,一人一人の専門家が同時にある種の「普遍的な見方」を身に付けられるようなカリキュラムをきちんと考えることが必要です。特に大学院における専門の分野を深めていくことと,多様性を確保していくという教育のカリキュラムは,今後考えていかなければならないだろうと思います。
 もう1点は,後払い制度の話でも出てきたのですが,議論が詰まってくると,どうしても意識改革が必要だという議論が必ず出てきます。ここから先,どの部分も意識改革が必要だという議論になると思いますが,そこである種の行き止まりになる。意識改革は大変難しいので,結局非常に難しいという議論にどうしてもなるだろうと思います。これからの議論の中で,意識改革がないと動かないところはありますが,何か制度を組み立てていかないと意識が変わらないということを自覚していかなければならないと思います。
 それから,意識改革において,過渡的なプロセスをどう組み立てるかも議論の中に組み込んでいく必要があると思いました。
 以上です。
【永田部会長】  ありがとうございます。吉岡委員がおっしゃるように,意識改革は簡単ではないと思います。ですから,学長や社長をやっている方は思っていることですが,意識を変えるために必要なことは,制度改革をするのです。制度が変わってから意識が変わるまで時間が掛かったとしても,最終的には制度論以外の方法はないだろうと思います。
【吉岡委員】  制度改革,意識改革していくときに,まず大学人あるいは大学の制度改革と意識改革を先行させていかないと,国民の意識は変わらないだろうと思います。当たり前ですが,大学の執行部になれば,自分の大学や大学全体に対する関心というのは出てきます。けれども,一般の教員はほとんど考えていないと思います。学生も,自分の大学にも大学というものについても,関心が本当に少なくなっている。入るときの選択肢と,出た後の企業のことは考えるけれども,大学そのものについては,ほとんど誰も関心がなくなっている。企業も大学に関心がなくなっていることは大きな問題だと思います。
【永田部会長】  安部委員,どうぞ。
【安部委員】  話が戻りますが,地域における質の高い高等教育機会の確保について地方の大学から申し上げたいことがあります。18歳人口が国全体で減少していく中で,もともと選抜性が低い地域における小規模の大学における,定員確保はどんどん難しい状態になるのは自明です。例えば,100人の定員規模の大学が50人しか定員を確保できない状況になったとして,この残った50人のニーズを都市部の大学が引き受けて吸収すればいいという考え方は,地方の存続という面から見ると,非常に危険な考え方だと思います。その一方、今まで高等教育機会を保障するために,地方の大学と地方公共団体や産業界が共に議論するということが本当になされていなかったという反省を持ちます。もともと大学は全て,小さくても大きくても,国立でも公立でも私学でも,国の方向を向いていました。なかなか地方公共団体や地方の産業界と議論することがなかったと思います。ですから,地方公共団体や産業界と協働して活動をやっていく大学に対する支援や仕組み,スキームを作っていただきたいと思います。リカレント教育はすごくロットが小さいという書き込みもありましたが,ロットは小さくても確実に人材養成に対するニーズは存在すると思います。今後,高等教育人材の底上げという,育英と言われていた一部のエリートを更に世界で戦わせる人材にする高等教育と,中間層の底上げという,2つ役割があると思います。後段の部分の人材養成を高等教育が担っていくためには絶対不可欠だと思っています。
 以上です。
【永田部会長】  金子委員,どうぞ。
【金子委員】  大学院についての一つの論点で,従来のイメージで組織的に拡充してきた大学院を何らかの形で整理することが必要であると言われます。これは分かるのですが,1番目で「知のプロフェッショナル」と言ってしまうと,非常に抽象的で分からない。私は具体的には2つあると思います。学術的な先端人材あるいは研究の人材と,博士課程を卒業したけれども企業や役所で働くような社会的なリーダーとなる人材の2つです。抽象化するのではなく,もう少し具体的に分かりやすく書いた方がいいのではないかと思います。
 また,リーディング大学院でもかなり効果があるところと効果がないところがあるので,どのようなことが必要なのかを研究することも必要だと思います。
【永田部会長】  ありがとうございます。
 鈴木(典)委員,どうぞ。
【鈴木(典)委員】  資料2を見ていますと,オンライン教育についての言及が一つもありません。2040年を考えると,オンライン教育が将来どうなっていくかについても配慮する必要があると思います。アメリカのオンラインの大学が非常な攻勢を掛けてきて,私の大学にも「一緒にやらないか」というような話がたくさん出てきています。私は非常に慎重な方ですが,今後こういった動きが加速すると思っています。オンライン教育ついても議論する必要があると思っています。
 以上です。
【永田部会長】  ありがとうございます。更に,オンラインの未来を考えないといけません。
 終了時刻が近づきました。最後に1つだけ意見を言わせていただきますが,大学院の数を増やす際には,あわせて大学院生の経済支援を考えないといけません。したがって,小林,村田,両委員が述べられた大学院生から授業料後払い制度を始める,という御意見は一つのアイデアだと思います。
 まだまだ議論を積み重ねる必要があります。本日もこのように様々な御意見が出てくる段階ですが,秋を目途に最終答申を出すことになっています。次回は9月になりますので,それまで委員の皆さんそれぞれ考えを深めていただきたいと思います。
 それでは,今後の予定についてお願いいたします。
【石橋高等教育政策室長】  失礼いたします。本日は活発な御議論ありがとうございました。次回は,9月5日(水曜日)10時から12時を予定しています。場所については,追って御連絡をさせていただきます。
 【永田部会長】  どうもありがとうございました。

―― 了 ――

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