将来構想部会(第9期~)(第3回) 議事録

1.日時

平成29年7月28日(金曜日)10時~12時

2.場所

文部科学省東館13階 13F1~3会議室

3.議題

  1. 我が国の高等教育に関する将来構想について
  2. その他

4.出席者

委員

(部会長)永田恭介部会長
(副部会長)日比谷潤子副部会長
(委員)有信睦弘,村田治の各委員
(臨時委員)麻生隆史,安部恵美子,石田朋靖,金子元久,小杉礼子,小林雅之,佐藤東洋士,鈴木典比古,鈴木雅子,古沢由紀子,前野一夫,益戸正樹,吉岡知哉,吉見俊哉の各臨時委員

文部科学省

(事務局)伊藤文部科学審議官,中川総括審議官,義本高等教育局長,村田私学部長,瀧本大臣官房審議官(高等教育局担当),下間大臣官房審議官(初等中等教育局担当),蝦名高等教育企画課長,三浦大学振興課長,小山国立大学法人支援課長,角田私学行政課長,堀野高等教育政策室長 他

オブザーバー

(オブザーバー)松尾清一国立大学協会副会長,奥野武俊公立大学協会専務理事

5.議事録

(1)我が国の高等教育に関する将来構想について,資料1~資料5-2に基づき,意見交換が行われた。

【永田部会長】  委員の方がおそろいになりましたので,第3回の大学分科会将来構想部会を始めさせていただきます。
 今まで二度本部会を開催しておりますけれども,第1回は,平成17年の我が国の高等教育の将来像(答申)についてのフォローアップを主題として審議しました。第2回は,キーワードをピックアップすることを主眼として自由に御発言いただきました。その際,焦点がずれないようにということで,高等教育全体の規模感について,2030年,2040年を目指してどう考えるか,という意見を頂きました。もちろん,将来に向けて今やるべきこと,という御提案もありました。これら御意見の中からキーワードをピックアップして,今後の議論を進めるための材料にさせていただきます。
 本日から,いよいよ焦点を絞った議論を進めていきますが,本日は,都道府県別の大学進学者の推計を御覧いただきながら,皆さんと意見交換をしたいと考えています。
 それに先立ちまして,国公私立大学の将来像について,国立大学協会,公立大学協会,日本私立大学団体連合会の方から御意見を賜ります。
 このため,本日は,本部会の外からお二方お招きしております。お一方は国立大学協会を代表して松尾名古屋大学総長,もうお一方は公立大学協会から奥野専務理事にお越しいただいております。お二方には,お忙しい中ありがとうございます。後ほど御意見を賜りたいと思います。
 それでは,事務局から配付資料について説明をお願いします。
【堀野高等教育政策室長】  配付資料については議事次第に記載しているとおりでございます。不足等ございましたら事務局までお申し付けください。
【永田部会長】  ありがとうございます。
 先ほど申し上げたように,三団体から御意見を頂こうと考えておりますが,それに先立ちまして,吉見委員から将来構想に関する御意見を聞かせていただきたいと思っております。
 吉見委員は9月からハーバード大学に一年間おいでになるため,本部会にしばらく出席いただけません。このため,渡米直前のお忙しい中に御出席いただいておりますので,15分をめどに御意見を頂きたいと思います。よろしくお願いいたします。
【吉見委員】  東京大学の吉見でございます。本日はこういう場でお話をさせていただく時間を頂きましてありがとうございます。立った方が話がしやすいので,大変恐縮でございますけれども,立って話をさせていただきたいと存じます。
 今,部会長からお話がございましたように,私は9月から1年間ハーバード大学で教えにまいります。東大生を30年近く教えていますので,ハーバード大学の学生と東大生と何が違うのかということを実感してきたいという思いでおります。
 本日は,人口減少社会と大学の再構築ということでこれから15分お話しさせていただきます。細かい話は岩波新書の『大学とは何か』,それから,集英社新書の『「文系学部廃止」の衝撃』という2冊の本を出しておりますので,そちらをごらんいただきたいと存じます。
 パワーポイントのスライドがこちらにございます。見られない方もいるかと思いますけれども,お手元の資料を御覧いただくと,詳しいことが書いております。
 私たちの社会は大きな危機に直面しております。今,私たちの社会が直面している危機というのは三つあります。一つは,いうまでもなく,18歳人口の激減です。2017年に120万の18歳人口が,このまま行くと,2040年に90万人になります。人口統計というのはかなり正確で,イナーシャ(慣性)がかなりはっきりありますから,この数値がそう変わることはないと思います。ということは,人口が4分の3になる。それでは大学も4分の3に減らせるかといえば,そう簡単にはできないというのが皆さんのお答えではないかと思います。では,どうしたらいいのかということがあるわけです。
 二つ目は,いうまでもなく,グローバル競争の激化でございます。その中で日本の大学,特に国立大学は国際化が遅れております。では今,それに合わせるために授業の3分の1を英語化できるかというと,これもなかなかできないという答えが返ってくるのではないかと思います。
 三つ目は,知識,産業構造の大きな変化がございます。いうまでもなく,ネット社会の中で必要な知識というのは検索すれば得ることができます。それどころか,最近はアマゾンはしばしば私の本を私に推薦してまいりますけれども,これはアルゴリズムが私が買っている本の傾向を見て,この人はこの人の本を買うに違いないということで私に推薦してきます。いろいろと向こうも考えているということです。
 一人一人に対応した情報が提供されるような仕組みができてしまっている中で,大学は本当に役に立っていると証明できるのか。これもなかなかすぐに答えが出てこないわけです。
 こういう状況の中で大学の再定義あるいは構造改革というのは必然だと思います。しかし,必要なのは,その危機感を国民的に共有するにはどうしたらいいか,これが問いだと思います。もちろんこれまで中央教育審議会,それから,文部科学省の大学改革実行プランを含めて,多くの改革プランが出されてきました。釈迦(しゃか)に説法ですから,この場にいらっしゃる皆さんはよくお分かりだと思います。全学的な教学マネジメント,学生の主体的な学び,大学教育の質的転換,具体的なプランは山のように出てきたわけですし,それら一つ一つは非常に的確なものがほとんどだと私思います。しかしながら,現状は多くのねじれがございます。
 例えば,御承知のように,18歳人口が減少し続けているのに,大学数,それから,収容力はこの10年,20年,ずっと増加し続けてまいりました。そして,大学は地方創生の中核になるべきなのに,大学進学率の地域格差は拡大してきています。そして,外国人留学生はここ10年ぐらいで増えてきていますけれども,日本人の海外への留学者は減少傾向にあります。
 そして,ここも皆さんよく御承知のように,大学の評価については多大な努力が費やされてきていますけれども,その評価結果が研究教育体制にダイレクトに直結しているということにはなっていません。さらに,教育の質的な転換に対して,私たちは,私も含めて相当努力していますが,しかし,実際には学生たちの自立的な学修時間はそう増えてはいないわけです。そして,国立大学では法人化以降のこの10年,外部資金で雇用される任期教員が激増し,任期のないポストが激減していたというのは皆さんもよく御承知のところかと思います。さらに,統計的に言えば,特に国立大学ですけれども,外部資金の獲得は確実に増加してきていますが,研究時間,学術論文は減少して,基礎研究力の低下が指摘されているということです。
 こういう中で,実感として,大学にいる者としては,大学の中では大学の先生たちは二極化していると思います。私もそうですけれども,やはり大学改革を頑張らなくてはと思います。そう思ってどんどん底なし沼のように仕事が降ってきて,それでも夜寝ずに頑張っていると,その先にどうなるかというと,過労死であるとか,病院に運ばれるという人が実際に出てくる。
 一方で,そっとしておいて,ほうっておいてという人も出てきます。そうすると,これはむしろ頭脳流出とか,大学を移るとかいろいろなことが出てくる。展望なき疲弊に向かっているわけです。
 何が問題なのかということです。私は最大の問題は流動性の欠如だと思います。流動性という言葉の中には,開放性とか横断性ということも含めて考えたいのですけれども,日本の社会もそうですが,日本の大学も,いわば甲殻類みたいな状況です。甲殻類というのはエビとかカニで,これは飲み屋に行けばおいしいです。私も大好きですけれども,しかし,社会がエビやカニではいけないのではないかというふうに思います。
 ボーダーレス化,グローバル化,どんどん必然的にその壁は壊れていく傾向にあります。そのときに壁を硬くして,中は何となく身を守るという体制は根本的に成立しません。そうだとすれば,つまり,壁が壊れても生き延びるためにどうしたらいいかというと,骨を通すしかないわけです。ナメクジにならない。つまり,壁が溶けてしまって,その中で軟体動物みたいなものになってしまって,塩かけられておしまい,みたいにならないためには,やはり骨を通すしかありません。
 骨を通すということはどういうことなのかということの幾つかの提案していきたいと思います。
 一つは,既に出ていると思いますけれども,学部,学科あるいは専攻,それを超えた流動性を劇的に増やしていくということです。ICU(国際基督教大学)をはじめ,幾つかの大学は本格的に主専攻,副専攻制度に取り組んでいらっしゃいます。しかし,日本の,特に大きな総合的な国立大学全体を見ると,まだまだだと思います。
 こちらの右の上に絵が出ていますけれども,私はこれを,宮本武蔵の二刀流と言っています。宮本武蔵は佐々木小次郎と巌流島で戦って,うそかもしれませんけれども,佐々木小次郎の長い刀で佐々木小次郎をやっつけた。
 今の社会はこういう時代です。つまり,一つの長い刀というものを磨くという人が少しいてもいいけれども,むしろ二つの刀,例えばコンピューターサイエンスを勉強している工学部の学生が,知的財産権,つまり,法学部の勉強をする。あるいは農学部で環境科学を勉強している学生が文学部で中国の歴史について勉強する。さらには医学部で医療のことを勉強している学生が,やはり文学部で哲学とか倫理学とか文学とかを勉強する。これは良い組合せだと思います。
 このような様々な組合せがあって,それを有機的に結び付けていくような仕組みを大学の中に作っていく。あるいは,中規模大学だったら,大学を超えて単位互換のシステムも徹底的に広げていく,骨を通していくということが必要だと思います。
 2番目に,地方と東京の間の流動性です。幾つかのリポートにも出ておりましたけれども,学生が4年間ずっと同じ大学にいなくてはいけないのか。そうではなくて,1年間地方の大学に行く。あるいは,流動,循環する。あるいは,先生方だって,キャリアの中でもう少し遍歴というか,何年間か子育てのときに地方に行って,環境のいいところで子供たちを育てるということだってあっていいのではないか。
 更に大きな問題は国際的な流動性の問題です。御承知のように,国際的な流動性が進まない一つの原因に,6,7月問題というものがあります。海外のプログラムのほとんどは6月,7月に展開してきます。しかし,日本の大学で,一生懸命空けようとしていますが,なかなか6月,7月が空けられないことによって,日本の大学生たちは海外のサマープログラムに6月,7月に出ることができない。
 さらに,標準修業年限,つまり4年間で終えるためには,海外に留学してしまうと,4年間で卒業できなくなってしまう危険性があるということを学生たちがおそれて海外に出られないという問題もあります。
 つまり,海外への留学が進まないという問題は,もちろん日本の学生が内気になっているということもあるかもしれない。あるいはお金が足りないということもあるかもしれない。しかし,やはり最も大きいのは時間的,それから,言語的な硬直性,特に時間的な硬直性の問題というのがあると思います。
 さらに,世代間の流動性があります。先ほど申し上げましたが,18歳人口がどんどん減っていく。減っていくということは,それを母集団にする限り,大学は4分の3にするしかない。そうではない仕組みを考えようとすると,決定的に重要なのは,社会人学生を増やすということです。大学の経営という観点から見ても,社会人の割合というものを増やし,なおかつクオリティーを維持するということが必要なわけです。
 では,どういうふうに増やすかというと,私は,人生の中で3回大学に入るのが当たり前の社会を創るべきだというふうに申し上げています。3回というのは,18歳と30代と60歳前後です。18歳はいうまでもないので,飛ばしますが,30代というのは大体社会人になって十数年たつと現場のことが分かっていって,そのままその人はその同じ会社で係長,課長,部長というふうに管理職になっていく。あるいは,そうではなくて,違う道を求めていくかという転換を迫られる時期です。その時期にもう一回大学に入り直す。60代というのは,もちろん定年ですが,人生長いですから,75歳,85歳までフルに活動できます。その15年,20年をもう一回大学に入って別の人生を歩む。そういうふうな人生のキャリアチェンジ,ギアチェンジというものができる仕組みに大学を変えていくということです。
 つまり,一斉に拡大することによって人口減少に対抗するということが必要ではないかというのが大きな見取図かと思います。もちろんそのためには質の管理が必要です。科目の質保証とか学生の質保証,出口管理,それから,シラバスの充実,成績の管理。これを抜本的に転換していかなければならず,具体的な問題が多数ございます。
 そこで,2050年の社会,国民的な理解をこういう方向に向けて得るためには,私たちは単に大学の制度をこう変えればいいということではなくて,2050年の社会,日本社会をこうしていくんだという社会全体のビジョンを描くべきだと思います。2050年の日本社会というものがどうなるべきか。既に分かっていることが二つあります。一つは,人口減少社会であるということ。それから,もう一つは,知識基盤型の社会であるということです。人口減少社会の中でこれからどんどん起こってくることは,雇用の形が変わってきますから,時間的な流動性が増えてくるといいますか,プログラム型,ジョブ型の学修や雇用が増えていく。
 そういう中で大学は何ができるかというと,私の考えでは,グローバルな知識基盤と社会的な実践をつなぐということ,これが大学ができることだと思います。もう少し広げて言うと,19世紀の初頭にフンボルトがドイツの大学の改革をしました。これは大変イノベーティブな実践だったと思います。なぜかというと,それまで,18世紀までは大学はどうでもいいもの,それは言い過ぎかもしれませんけれども,ちょっと時代遅れのものになっていたのを,それを転換するために,フンボルトは研究と教育の一致ということを言いました。つまり,大学が知をクリエーションする場にしていく。そのために研究と教育は一致しなければいけない。そのために,御承知とおり,文系はゼミナール,理系は実験室を研究教育の現場にしていくということにしたわけです。
 21世紀,私たちがしなければいけないことは,この研究と教育の一致に対して,もう一つ,社会的な実践という,社会との関わりといいますか,社会が現場である,だから,実験室とかゼミに閉じこもるのではなくて,その学生たちが先生と一緒に社会に出ていって,社会の現場で考えるということを,もう一つの試みというか,研究と教育と社会的な実践の一致ということが必要なのだと思います。
 もう一つは,知識基盤社会の中身です。知識基盤社会というのは,私が認識する限り三つの柱を持っていて,一つはデータサイエンス社会,もう一つはリスク制御,リスクコントロールの社会,もう一つは総資源循環社会。いい言葉かどうか分からないんですけれども,これは,牛乳パックとかペットボトルとか新聞紙,レアメタルもそうなんですけれども,それだけではなくて,文化とか知識とか,いろいろなものがリサイクルしていく。価値があるリサイクルをしていくことができる社会という意味です。
 このリサイクルを高度に,価値創造的にしていくためには,私はデジタルアーカイブというのが大変重要だということで,そういう活動もしておりますけれども,こういうふうな三つの柱の中で大学教育というものの再定義が必要なのだと思います。そのためには大学は多くのリソースを持っております。何よりも大きなリソースというのは,先ほど申しました多様性,ダイバーシティーだと思います。つまり,世代的に多様になるということ。いろいろな年齢の人が大学にいるということ。それから,文化的にもいろいろな国籍や文化的な背景,ジェンダー的な背景を持った人が大学にいるということ。そして,専門知です。つまり,理系も文系も,いろいろな専門知を持った人が集まってコラボレートできる環境が大学にある。これが知識基盤社会に向けての大学のリソースだというふうに思います。
 そして,そのためには,先ほど申しました未来の大学は社会的な実践とつながっていかなければいけない。そのために,当然ながら,大学と企業と行政の共同のプラットフォームを日本各地に作っていくということが必要で,いわば日本型の頭脳循環システムをいろいろな場所に作っていくというビジョンを立てる必要があると思います。
 そして,最後は余計なんですけれども,最近,ふるさと納税がいろいろ問題になって,真珠がどうだ,家電製品がどうだと言われています。私もそれは少しやり過ぎではないのと思うんですけれども,ただ,一番重要なことは,何のためのふるさと納税かということが,やはりきちんと立てられていないということです。ふるさと納税は,やはり地方のきちんとした創生のためのものだと私は思っています。そのために一番重要なのはひとづくりだと思います。きちんとした人を地域につくっていくということです。
 だったら,ふるさと納税はやはりふるさとひとづくり納税になるべきではないかというのが私の個人的な認識ですけれども,そのためには大学というものをいかに,税制も含めて振興していく,地方の大学を振興していくシステムを作るかということもあるのではないでしょうか。これはちょっとおまけでございました。
 最後の絵ですけれども,左は,先ほど言いましたようにエビです。カニでもよかったんですけれども,エビでもカニでも。右は,御承知の方多いと思いますけれども,『スイミー』という僕の大好きな絵本ですけれども,『スイミー』という絵本は,大きなマグロが向こうから来て,小さな魚がこれに対抗するために,みんなでマグロの形,大きな魚の形を作って対抗して,マグロが逃げていったという話です。あのスイミーで一つだけ気に入らないのは,本来のあの絵本だと,スイミーが全部同じ,小さい魚が同じ色なんです。これは間違っている。それで,新たなスイミーを作るとすれば,形も色も全然違う小さな魚が一体になって大きな魚を作って,システムとして活動していくというのが未来の大学の形ではないかと私自身は思っております。
 以上で発言を終わらせていただきたいと存じます。御清聴ありがとうございました。
【永田部会長】  どうもありがとうございました。吉見委員には,1年後にまたお話しいただく機会もあると思いますので,ハーバード大学での御活躍を願っております。
 今,吉見委員から御紹介いただきました最初の1,2,3,直面する危機,考えられてきた改革,数々のねじれ,ここまでは本部会の共通認識だと思っております。
 問題は,これからそうした課題をどう解決するかです。今,吉見委員には大学を取り巻く根本的な問題と,大学全体の将来の立ち位置について御説明いただいたと思います。
 研究教育とその社会実装という視点は,大変重要な点であると思います。教育基本法では,研究,教育,社会貢献を大学の役割としています。この社会貢献の意味が,サービスやボランティアと捉えられることが多いのですが,これは間違いで,社会実装が本来の意味だと思います。ですから,大学はこの役割を果たさなければならず,この点を,吉見委員には社会貢献の代わりに社会実践という言葉で大変分かりやすく説明いただきました。教育基本法における社会貢献の解釈としては,そのとおりだと思っております。
 ここで,吉見委員への御質問は後にさせていただいて,先に今回特別にお越しいただいている先生方から御意見を賜りたいと思います。
 先ほど申しましたけれども,今回は国立大学,公立大学,私立大学から,現在,それぞれの団体の中でおまとめいただいている内容を御紹介いただきます。
 繰り返しますが,国立大学は国立大学協会から名古屋大学の松尾総長,公立大学は公立大学協会の奥野専務理事に御意見を述べていただきます。私立大学については,本部会の委員の中から,私立大学連盟は関西学院大学の村田委員に,私立大学協会は桜美林大学の佐藤委員に御意見を述べていただきます。私立大学は,加盟大学数が多いので,急遽(きゅうきょ)将来像をまとめるというのは難しかったと思います。
 したがいまして,村田委員と佐藤委員には,各団体の御意見だけでなく,御自身の大学の事情も交えてお話しいただいて結構だと思っております。
 お一人大体7分をめどに考えております。
 それでは,早速,松尾先生,御説明をお願いいたします。
【松尾国立大学協会副会長】  皆さん,おはようございます。この度,国立大学協会副会長になりました名古屋大学の松尾でございます。
 別添でこの横のレジュメと,高等教育における国立大学の将来像(中間まとめ)という若干分厚いものがございます。中は非常に膨大なものになっておりまして,これを7分でしゃべるのはとても難しいんですが,本日は誤解を恐れず,ポイントだけについてお話をしたいと思います。A4横のレジュメの方,資料2を御覧になりながら聞いていただきたいと思います。
 1枚めくっていただきまして,右下に小さい字でページ数が書いてあります。まず,バックグラウンドなんですけれども,国立大学はその創設以来,我が国の政策や施策を支える高等教育機関として,欧米のシステムに学びながら,多数のノーベル賞受賞者を輩出するなど,卓越した研究力の発揮,あるいは,地域と国を牽引(けんいん)する多様な人材の育成に力を注(そそ)いで,我が国の発展に大きく貢献してきたと考えています。
 一方,我が国は現在,様々な困難に直面しています。先ほどの吉見委員のとおりでありますが,このような中で,我が国の高等教育機関,とりわけ国立大学に対する社会の期待は年々高まっていると考えております。
 また,グローバル化の進展,あるいは,各国の高等教育政策の変化,さらには世界,とりわけアジア諸国の大学の目覚ましい発展に伴って,大学の国際的な競争環境は非常に熾烈(しれつ)になっているという状況でございます。
 そこで,国立大学協会は,国内外で高等教育を取り巻く状況が急速かつ大きく変化しているというこの現在におきまして,一つ目は,過去に学びながら諸外国の動静も踏まえる。そして,二つ目には,高等教育の持つ様々な側面を複眼的に捉えて議論して,最終的には国立大学が掲げるべきミッションを確認しつつ,将来に向けてのグランドデザインを作成するべきときであると考えまして,この将来像を創り,そして,公表するということにしたものであります。
 1枚めくっていただきまして,5ページを御覧ください。今の国立大学協会の認識ですが,これはほとんど吉見委員の認識と一緒なんですけれども,まず,高等教育を取り巻く国内状況といたしましては,人口構成の変化,これは先ほど出たとおりです。それから,莫大(ばくだい)な公的債務を抱えていますし,それから,また,家計への問題もあります。そして,我が国の研究開発力が相対的に低下している。また,社会や産業構造が今,こういうデジタル革命といわれているような時代で,爆発的に変化していることへの対応。こういった課題があるかと思います。
 すなわち我が国が目指している第4次産業革命,Society5.0の実現,あるいは,ダイバーシティーの拡大。さらには,先ほども少しお話がありましたけれども,大規模一極集中型から遠隔分散型への産業構造のパラダイムシフトなどによって,地方創生を進める必要があると考えています。
 6ページを御覧ください。国際的な視点からは,一つ目に,高等教育の発展を重要な国家的戦略として位置付けて,諸外国では積極的に公的投資がなされています。それから,二つ目として,世界全体の留学生数が急激に増える中で,単なる学生の確保というレベルを超えて,世界規模で優秀な人材獲得競争が起こって,そしてまた,これらの人材をイノベーション誘発の原動力として活用しています。そして,三つ目ですが,デジタル社会への対応,あるいは,SDGs達成のための国際的な連携など,大学高等教育機関を通しての地球規模的なオープンイノベーションが急激に進みつつあるというようなことを認識した上で,我々は国際競争力のある国立大学への体質改善が急務であると考えています。
 次に,7ページでございますが,このような認識の上に立ち,国立大学が未来社会の創造に向けて果たすべき役割機能として,ここに書いてあります五つを設定しております。1番目,高度な教育研究機能。2番目,地域における国公私立大学の連携中核拠点としての機能。3番目,政策的な人材育成を担う連携・共同の拠点としての機能。4番目,幅広い基礎的・伝統的学問分野の継承と研究を推進する機能。そして,最後に,海外の大学・研究機関との学術研究交流や途上国支援を推進する機能。この五つでございます。
 8ページを御覧ください。これらの機能強化を実現する方策について,国立大学協会では,先ほど2050年という話が出ましたが,当面,二つの期間を設定しております。一つは,現在進行中の第3期中期目標・中期計画期間。これは2021年度までですから,約4年半あります。そして,それに続く第4期中期目標・中期計画期間。これは2027年度までの6年間で合計約10年間です。
 このうち,第4期中期目標・中期計画期間,後半の6年間につきましては,国立大学群あるいは国立大学総体として最適なマネジメント,ガバナンスの改革を達成して,機能を最大限発揮し,国立大学に課せられたミッションを達成できるようにする。そして,2050年に向かって世の中を変えていく原動力にするというものであります。
 そのための準備として第3期中期目標・中期計画期間におきましては,国立大学全体の規模や配置,あるいは,その内容,また,国立大学あるいは国立大学群の経営形態の方向性を検討し,これを明らかにしたいと考えています。
 次に,9ページ,10ページですが,今後,国立大学が重点的に取り組む課題として,一つは,高度な研究力の維持,発展。その中でもとりわけ大学院教育の充実を図りたいと考えています。
 時間の関係で細かいことは,この10ページの少し小さい字の中に書いてありますので,中間まとめの本体と併せて御覧いただければと思います。
 それから,11ページ,12ページなんですけれども,地方創生という観点では,今,IoT,人工知能など,情報やデジタル技術の格段の進歩に伴って,産業形態のパラダイムも大規模一極集積型から遠隔分散型にシフトしているということを踏まえて,国立大学協会といたしましては,各地方に高度な教育研究機能を持つ大学が存在することの意義は非常に大きいと考えています。
 13ページですけれども,そういう意味で,国立大学の今後の方向性といたしましては,1番目といたしまして,国立大学全体としての規模は現在のものを維持するけれども,特に大学院については各大学の特性,あるいは,地域の特性に応じて拡充していく。そして,2番目ですが,学部の規模につきましては,地域ごとに進学率も非常にばらばらであるということもありまして,こういったものを改善していく。地域の進学率の維持,向上についても配慮しながら,場合によっては学部の規模については縮小の可能性も含めて検討の必要があると考えています。そして,3番目ですが,統合再編化でも先ほど申し上げましたように,原則として,全都道府県に国立大学,あるいは,もし連携や,いろいろな形で再編されたときには,キャンパスという形で,全都道府県に基本的には一つずつあることが必要ではないかと考えています。
 最後,14ページですけれども,以上,述べてきましたように,我が国の高等教育全体の将来像については,今,国立大学のお話をいたしましたけれども,国公私立大学,それぞれが描く独自の将来像を尊重しながらも,三者が率直かつ緊密に議論を重ねて,我が国の高等教育の全体像を共有することが必要であると考えております。
 そしてまた,それは社会との意見交換が絶対に必要であり,社会の理解なしには進まないと考えております。
 今回,お示しした提言につきましては,中間まとめでございまして,国立大学協会では引き続き議論を重ねて良いものにしていくということで,この1年半かそれぐらいやってきましたけれども,この8月末には横浜で国立大学長が集まりまして,1泊2日でワークショップ形式で更にこの将来像を深く検討していくという予定であることを申し添えまして,私の発表を終わらせていただきます。
 以上です。
【永田部会長】  松尾先生,ありがとうございました。質問は後でまとめて受けさせていただきます。
 続きまして,奥野先生,御説明よろしくお願いいたします。
【奥野公立大学協会専務理事】  奥野でございます。公立大学の諸課題とその将来構想に向けての議論と書いたパワーポイントの資料をごらんください。
 2枚目のシートに,御存じのこととは思いますが,現在,公立大学は89大学になりましたが,その下に資料がございますように,大体平成期になってから公立大学が非常に増えたという状況でございます。
 1枚めくっていただきまして,その続きの資料があるんですが,実はこの資料は4枚のシートで一つの話題になっています。国立大学と私立大学の比較が書いてございます。これは昨年の表なんですが,数はほぼ同じですが,学生数は4分の1,教員数で5分の1。その下がいろいろな学部,群,カバーしているところは非常に多様です。
 シートの5を見ていただきますと,公立大学は,特に自治体ですが,国,自治体の政策によって発足していますので,そういう特徴を持っています。
 次をめくっていただきますと,公立大学は,文部科学省の指導を受けるわけですが,財政的には地方公共団体から来ますので,公共団体の長(おさ)がトップになります。公立大学を法人化していますと,理事長と学長が任命されます。そして,右側にありますように,財政的には政府の中では総務省が公立大学を管轄することになりまして,二重になっているわけです。
 シート8は,公立大学は法人化が可能ですが,一法人複数大学というのが公立大学法人の場合には認められます。現在,74大学が公立大学法人により設置されていますが,法人の数は69法人となっており,数が合わないのはそのようなことからです。
 シート9と10にいろいろと書いてあるんですけれども,公立大学の場合には理事長と学長が別でもいいという条項がございまして,1人でやっている大学も,別にしている大学もあります。規模的に少し小さいということもあると思いますが,法人化したときに,ガバナンスの面ではかなり進みました。
 次のページをめくっていただきますと,財政的な仕組みについてお示ししています。国立大学のように1%ずつ減るといった政策は公立大学にはございませんが,過去10年間で全国の公立大学に政府,自治体から措置されたお金を合計しますと,キープされているんです。そんなに減っているわけではないのです。ただ,大学が少し増えていますので,この11シートの中の一番上に書いていますが,学生一人当たりというようなことにすると,やはり当然減っています。
 シート13の右の折れ線グラフを御覧ください。これは過去10年間に,大学の運営費交付金がどうなったかということを平成17年スタートで書いているんですが,一番厳しい大学では20%,30%削減されている大学もあるんです。しかし,公立大学で小さいところは100%を超えてキープしているところもあります。政策的にこの大学をここで創っていくという時期もありますので,一概に言えませんが,ここが公立大学の一番の特徴で,大学,または自治体によって非常に違います。
 次のページをめくっていただきますと,評価制度について,公立大学は法人化していても,していなくてもほとんど同じような大学評価を受けます。また,シート16の上に書いてあるんですが,公立大学法人の法人評価は設立自治体に置かれた地方独立行政法人評価委員会が行います。つまり,自治体に任されるわけです。そうすると,法人評価と認証評価という,かなり厳しい教育評価を同時に受ける大学が非常に多く,重なると大変です。
 公立大学は実はそういう非常に厳しいところがございまして,18ページに絵が描いてあるんですが,大学評価ワークショップでこういうことを研究しましょうということで,こういうワークショップをしながら,各公立大学はどういう評価でどこが大変かということをいろいろ研究してまいりました。
 次のページを御覧いただきますと,そういう背景がある中で,昨年から私たち公立大学協会も将来構想に向けて話し合いましょうということでスタートいたしまして,シート20を見ていただきますと,公立大学は国における問題,それから,自治体の問題,公立大学独自の問題がたくさんあって,これをどのように議論して,どのようにやっていくかかなり悩みました。
 シート21を御覧いただきたいんですけれども,課題や特徴などを,サステイナブルな問題とクリエーティブな問題というものを横軸に考えまして,縦軸に地域から要請されている場合が公立大学はほとんどであるわけですけれども,大学から提案していくということも出てきますので,これらによってマトリクスを作ると四つ出てきます。これを言葉を,看護系,芸術系,地域系,情報系と書いていますが,その下のシートのように,Assure,Develop,Enhance,Linkという名前を付けましたら,類型ごとに,各大学の機能を分析することができるということに気が付きました。
 次の23から26のシートでは,一つの例として,このような取組が行われていることを示しています。そして,最後のシート28を御覧いただきたいと思うんですが,これらを並べ替えると,LEADと名前ができました。これを一つのキーワードにしよう。LEADがなぜできたかということが皆さんのお手元のきれいなパンフレットに,その仕組みが書いてあります。
 このLEADを創ると,そこに書いておりますように,国立大学協会が出しておられるような資料がここへ入ってきます。つまり,公立大学の様々な大学はこういうことで分析して,自分の機能をやっていくとうまくいくのではないかということで,これを今年から,シート28にありますような課題で議論していく予定でございます。
 少し長くなりましたが,以上でございます。
【永田部会長】  ありがとうございました。
 続きまして,本部会の委員の中で村田先生から先に私立大学の状況,あるいは,先生の大学の状況について,御説明をお願いいたします。
【村田委員】  それでは,私立大学団体連合会の副会長の立場で本日は少しお話をさせていただきます。
 私の方からは,今から6年前なんですけれども,私立大学団体連合会の平成23年の構想についてまずは簡単にお話しさせていただきます。二つ目が,幾つかの私立大学の将来計画あるいは将来構想について簡単にお話しいたします。そして,具体例として今,関西学院大学が取り組んでいる将来構想がどういうものかということをお話しさせていただきます。
 国立大学あるいは公立大学と違いまして,770以上ある私立大学でございます。極めて多様な私立大学になってございますので,国立大学あるいは公立大学のように,一つの形にまとめ上げるというのはなかなか難しいものでございます。そういう意味では,逆に言いますと,その多様性を生かし,各大学がそれぞれの将来構想をそれぞれの建学の精神に基づいて,今,立ててきている,あるいは,今,立てているところであると御理解いただければと思います。
 お手元に御用意いたしました資料を1枚めくっていただければと思います。まず一つ目の話題でございますが,21世紀社会の持続的発展を支える私立大学――「教育立国」日本の再構築のために――。これは平成23年6月に作ったものでございます。これは,日本私立大学団体連合会が21世紀をにらんで,高等教育の必要性,国公私立大学の位置付け,私立大学の役割等を研究し,私立大学の公共性,自主性,多様性を担保するための諸施策を10の提言としてまとめました。
 そこの2ページにございますように,1から10まで提言がございます。1番目は,新時代を開く原動力としての国民の大多数が必要に応じて学ぶ新しい高等教育システムの構築と計画的環境整備の推進。2番目が,教育の「多様性」と「重層性」の担保。3番目が,国公立大学システムの検証と私立大学を中心とする総合的大学政策の確立。4番目が,大学の国際化,特にアジア・環太平洋諸国との交流の推進。5番目が,建学の理念の具現と特色ある教育研究の質的充実の強力なる推進。6番目が,学生の健全な修学環境の保障,就職・採用活動の早期化是正等々,10の提言をしてございます。
 特に本日は,そのうちの提言2と提言3について簡単に述べさせていただきます。
 提言2でございますが,教育の「多様性」と「重層性」の担保についてでございます。これも御存じのように,高等教育がユニバーサル段階になり,高等教育の機能は,いわゆるエリートの人材育成から高度産業社会に適用し得る,いわばすべからく全国民がその育成を,あるいは教育を受けるという時代になってきております。
 したがいまして,学部の学生の8割を担う私立大学は,日本社会の持つ文化,学術,地域性など,多様性に十分対応し,この日本社会の将来を予測して,必要な人材を育成するという役割がございます。さらに,私立大学は21世紀の知識情報社会あるいは知識基盤社会としての日本の社会を高度化するための個々の大学の役割を果たすシステムを構築する必要がございます。
 さらに,大学の機能分化とそれに伴う教育の質の保証。これからの産業と地域社会に適応し得る全国民の育成を目的とした教育の多様性と重層性。この多様性と申しますのは,いわば地域,それから,専門分野,あるいは,その設置形態等々の意味での多様性でございます。重層性というのは,本日の吉見委員のお話にもございましたように,それぞれの年齢においてどういう学び方をしていくかという意味での重層性というふうに理解してございます。
 続きまして,提言3でございますが,国の高等教育システムと国公私立大学の役割につきまして。これにつきましては,これまで国公立大学が果たしてきたといわれております,知識・技術の創造拠点,中核人材の養成拠点,教育機会均等の保障といった,この三つの役割は私立大学を中心に役割の編制を見直し,私立大学がその役割の大部分を担うということが可能ではないかと考えてございます。私立大学と社会の密な連携による人材育成体制を作り,さらに,特徴のある高度な私立大学の発展を促すことによって,公平,公正で効果的,効率的な国費の活用を図ることができると考えてございます。
 そのことは,国立大学は直接実施する必要はないもの,あるいは,むしろ民間に任せた方が効率であるもの,あるいは,独占的に行う必要のないもの,例えば学部教育並びに専門職大学院の一部については,私立大学に任せていただき,一定の国費投入による国立大学でなければ担うことのできない部分,正に大学院の教育,あるいは,高度な研究レベル,あるいは,科学技術,学術研究といった基礎的な研究の部分を国立大学に担っていただくといった分化というものが必要ではないかということをこの提言3ではしてございます。
 以上が,21世紀社会の持続的発展を支える私立大学でございますが,ここの2番目のところに申し上げました,多様性というのは私立大学の特色でございます。その意味でも,個々の私立大学がそれぞれの将来ビジョンあるいは将来構想,将来計画を立てておりますが,それを私立大学全体として一つにまとめるのはかなり難しいものでございます。逆にその多様性が私立大学の大きな意味合い,あるいは,大きな特色であると御理解いただければと思います。
 そこで,私立大学の現在の,あるいは,今,ピックアップしてまいりました将来計画の主な取組の状況でございますが,そこにございます亜細亜学園から,最後,早稲田大学まで,簡単に見ただけでもこれだけの将来計画あるいは将来ビジョン,将来構想がございます。私立大学は正に建学の精神,教育の理念が極めて重要でございまして,それぞれの大学ではこの建学の精神に基づいて個々の大学の将来計画,将来構想が作り上げられてございます。
 その中で,例えば早稲田大学の構想を少し御紹介させていただきます。5ページを御覧いただければと思いますが,Waseda Vision 150,これは早稲田大学の創立150周年を念頭に置いたもので,これは極めてよくできたビジョンであろうと私は思ってございます。
 そこにございますように,Vision,基軸,核心戦略,そして,教旨といったものがきちんとそれぞれ重層化され,階層化されてビジョンが作られているということがこの特色ではないかと思ってございます。個々の大学がこのような形でそれぞれのビジョンを作っているのが,正に私立大学でございます。
 最後に,簡単に関西学院大学あるいは関西学院の次期将来構想の全体像について,一つの私立大学の具体例としてお聞きいただければと思います。
 関西学院大学は1889年に創立され,2039年に創立150周年を迎えます。先ほどWaseda Vision 150を御紹介させていただきましたけれども,本学も創立150周年に向けてこれを今,構築中でございます。
 その中で,特色としては,6ページにございますように,未来の予測,2039年の世界を予測し,外部環境の分析を行い,内部環境の分析を行い,そのことを全体として今,Kwansei Grand Challenge 2039としてまとめつつございます。今,超長期のビジョンを理事会,大学会で承認いただき,長期戦略を構築中でございます。それができた後に,中期総合計画を策定していく計画になってございまして,これまで5年ぐらいで走らせておりました中期総合計画を3年に短くし,更に毎年見直すというローリングモデルにしていこうと考えてございます。
 もう一つここで重要な視点は,いわゆる認証評価とこの中期総合計画をうまく一体化させ,PDCAの実質化を図っていきたいということを考えてございます。
 7ページのところには,次期の将来構想に対しまして,未来予測,外部環境,内部環境の分析等々がどのようにして集約していくのか記載しています。
 そして,8ページには,将来構想の未来予測。これだけのファクターを,我々はいろいろと考えてやってきたということで,更に9ページにございますように,外部環境分析と内部環境分析はこれだけの項目に絞り,個々の項目について分析を加えて,課題を抽出しております。
 その上で,10ページを御覧いただければと思いますが,外部環境分析のポイント,あるいは,未来予測のポイントといたしまして,2039年の世界あるいは日本の課題といたしまして,まず一つ目,これは先ほどの,国立大学協会あるいは公立大学協会,そして,吉見委員からも言われておりました18歳人口が現在から3割減少し,約90万人,正確には約88万人まで減少する。もう一つ大きいのが,人工知能の発達によって,オズボーン博士等による分析がございますように,日本の仕事の49%がAIに取って替わられる可能性が出てきます。少なくとも今,そういったことが少しずつ現実化しております。その影響を踏まえた上で教育課程をどうするのか。恐らくこのことは中央教育審議会でも議論されると思いますけれども,いわゆる学位プログラムと,いわゆる教教分離,学位プログラムの独立化等々につながっていくのではないかと考えてございます。
 それから,本学は関西にございますが,一極集中に伴う関西経済圏の停滞が更に進むということでございます。人口動態につきましては,11ページにございますように,18歳人口が減り,国公私立大学の収容定員と進学率が今と全く同じである場合には,それぞれの大学の偏差値は当然下がるわけで,今,我々が学力と呼んでいる偏差値で見る学力に関しては下がります。
 しかしながら,OECDのEducation 2030等でもいわれていますように,大学教育の質が根本的に変わってくるということを考えた場合に,本当に学力が低下するのかどうかということは必ずしも言えないだろうとは思ってはございます。
 続きまして,12ページは皆さん御存じのように,人工知能のインパクトでございます。日本は欧米に比べて人工知能に取って替わられる職種が極めて多いと言われてございます。
 13ページ,14ページは,東京一極集中の具体的な例でございまして,1996年と2016年の東京都と大阪府の各自治体の一人当たりの課税対象所得の推移です。御覧いただくと分かりますように,東京都はまだ伸びているところが20年間でありますが,大阪府は減っておりまして,これは東京への一極集中が進んでいるということでございます。これも御存じのように,親の所得は学生の学力と正比例する部分がございますので,そういった地方の問題がございます。
 こういったことを分析しながら,今,関西学院大学は次期の将来構想あるいは長期戦略を構築中でございます。
 私の報告は以上にさせていただきます。ありがとうございました。
【永田部会長】  ありがとうございました。
 続きまして,私立大学協会ですが,加盟大学の多様な御意見をまとめるにはお時間がかかるということで本日資料はございません。御自身の感想も含めて御意見を賜りたいと思います。それでは佐藤委員,お願いいたします。
【佐藤委員】  手短に個人的な感想も含めて話をさせていただきます。
 村田先生から御説明のあった,私立大学団体連合会として平成23年6月にまとめた,21世紀社会の持続的発展を支える私立大学――「教育立国」日本の再構築のために――というこの提言については,私立大学協会も共に作らせていただいたところでございます。
 それで,私立大学からの話として,少し的を絞ってお話をしますと,現状では,私立大学協会は,385法人,407大学から構成されています。私立大学連盟の方が比較的大規模,大都市圏にある大学がその中心になっているのに対して,私立大学協会は地方の大学が圧倒的に多いのではないかと思います。七つの支部に分かれて活動していますが,北海道が24大学,東北地方が24大学,中部地区が北陸を含めて68大学,関西地区が79大学,中国・四国が31大学,九州地区が42大学ということで,それぞれ活動をしております。
 近年,新設される大学は大体私立大学協会の方のメンバーに加わるということですから,かなり加盟大学数というのは増え続けています。例外的に言うと,公立大学化をしている公設民営のところがありますから,先ほどの報告の中にもありましたように,公立大学化されているところが徐々に増えているという状況ではあります。
 そういう意味で,具体的な話をしますと,基本的には大学の設置者が主体になって,設置者の意思によって大学というものは創られてきています。大都市圏では,大学の間で学生の取り合いという問題は余り起きていません。これは私立大学連盟の大学であれ,私立大学協会の大学であれ,その点については余りお互いに取り合うというようなことはなく,そこには,村田委員のデータにもありましたけれども,大都市圏はそれなりの学生数が見込まれるということがあります。
 ところが,地方,例えば四国や北陸でお話を伺うと,短期大学から四年制大学になるなど様々な構想があります。そうすると,あの大学が新しいとても良い取組をしている,あるいは,それでうまくいっているとなると,別の法人もそれをやるという傾向があります。その辺のことは設置審査の委員をしていたときも,ある時期は看護が増えたり,ある時期は幼児教育が増えたりということがあったわけですが,私は,個人的な意見を言うと,その地域でどの程度どの分野の需要があるかということを構想の中でしっかりとチェックしていく必要があるのではないかというふうに感じています。
 ところが,現実問題として,申請者主義ですし,設置基準があって,それを満たす形で申請をすれば,しっかり通るのです。ですから,全体としての役割がどういうところにあるかということはしない。地方では学生の定員の充足が減ってきていますが,この分野はまだまだ需要があるというと,近隣の大学でまた同じようなものができていって,更にそれが影響していくというようなことが起きているのではないかと思います。
 当然ながら,私立大学ですから,設置者の意思が尊重されなければならないのですけれども,以前から,例えば定員の抑制をしたり,分野についてはきちんと抑えるということをしていた時期がありますから,将来の日本の産業構造も含めて検討しながらこういうことは決めていけばいいのではないかと思っています。
 いずれにしても,私立大学協会に加盟する大学は,小さなところは非常に定員が少ないです。収容定員で400人という大学もあるわけで,そういうところからいったらどうなのか。そういう意味では,本日,吉見委員から話があったように,今まで考えられてきた改革を,それぞれの大学が努力をして,実行してきたと思います。これを越して何かをやらなければならないとしたら,では,高等教育の全体像というのはどういうふうにするかということについて議論した方がいいと思っています。それが現在,私立大学協会が抱える,私の個人的な感想も含めての報告です。
【永田部会長】  佐藤委員,ありがとうございました。また,私立大学協会全体での話合いの猶予がないままお願いしてしまい,大変失礼いたしました。
 それでは,一旦ここで御質問を受けたいと思います。吉見委員,並びに4大学団体の御説明に対して,意見ではなく,特に分かりづらかった点についての御質問を受けたいと思います。それでは吉岡委員,どうぞ。
【吉岡委員】  吉見委員,9月からいらっしゃらなくなってしまうということなので。吉見先生のお話,その現状認識について,少し違和感を感じるのは,一番上のところで,人口が4分の3になるのだから,大学も4分の3という考え方。それから,18歳人口が減少し続けているのに大学収容力は増加し続けてきたというところですが,表現の問題でもあるんでしょうけれども,進学率という視点で言えば,現在でも日本の大学進学率は50%強ぐらいで,専門学校等を入れても高等教育を受けているのは80%です。
 裏返して言うと,4分の3に減らすというのは,つまり,今,大学に来ていない50%弱の人たちとか,専門学校を含めた場合の残り20%の人たちというのは,全体の割合としては,大学に来なくていいというようなメッセージなのでしょうかということを伺いたいと思います。
【吉見委員】  ありがとうございます。最初に18歳人口が120万から90万,4分の3に減る。そのときに申し上げたと思うんですけれども,18歳人口だけを前提にし,なおかつ先ほども出ていました,現在の大学の教育体制を変えないのであれば,偏差値的なレベルを維持しようとする限り,必然的に大学の規模も4分の3の減らすという答えが出てきてしまうということを申し上げました。
 つまり,4分の3にするべきだということを私が言いたいのではなくて,むしろ18歳人口だけを前提にするという前提を変えるべきだということが私の主張でございます。
 なおかつ大学の制度を変えることによって,その母集団を18歳人口ではない,もっと広げた形を前提に,多様性を入れた大学のシステムといいますか,非常に幅広い年齢層や様々な文化的な背景の人たちが大学に入ってきて,なおかつクオリティーを維持する仕組みをどう構築していくのかということがこれからの大学の課題だと私は思っているものですから,少し逆説的に申し上げた次第でございます。
【永田部会長】  村田委員,どうぞ。
【村田委員】  私も吉見委員に御質問なんですけれども,今正に先生がおっしゃいましたところで,いわゆる人生3回大学に入る仕組み,つまり,18歳人口が減る分を社会人というようなところで補う。しかしながら,ここでどう考えていらっしゃるかをお教えいただきたいのは,1990年に生涯学習審議会が発足し,99年に閉じました。これはアメリカのモデルをまねて成人教育をしていこうというものですが,なかなかそううまくいきませんでした。今も学び直しをいわれているんですが,産業界とのマッチングがなかなかうまくいかない。そういう意味では,需要がなかなか広がらなかったといった状況は今も変わっていないと思うのですが,その点について,この人生で3回というようなところの吉見委員のお考えが何かあれば,お教えいただければと思います。
【吉見委員】  正に村田委員が今,言っていただいた点がこれからこの場で議論するべき一番重要なポイントだと思います。つまり,民間委員の先生方,産業界の先生方もここに入っていらっしゃいますし,その産業界とのマッチング,そして,教育の側(がわ),つまり,学問の側(がわ)からの要請と,産業側からの要請をどうマッチングさせてつないでいくことがより高度な高等教育の将来の形を創っていくのか。なおかつ学士,修士,博士といった学位にどういう意味を持たせていけばいいのか,キャリアパスをどうしていけばいいのかということ。ですから,特に30代の人,あるいは60歳前後の人がまだ,もっと潜在的なポテンシャルを出せるような形をどう創っていくのかということが,ここで議論すべき一番重要なポイントだと思っておりますので,私自身答えがあるというよりは,それを是非議論すべきだと思います。
【永田部会長】  ありがとうございます。
 それでは,もう一つ,都道府県別の大学進学者数の統計を用意しましたので,事務局の方から説明いただきます。
【堀野高等教育政策室長】  資料5-1を御覧ください。これまでも平成45年までの推計を,日本全体あるいはエリア別で紹介してきましたけれども,今回,都道府県別にして,より目に見える形にしたものでございます。
 資料5-1の見方ですけれども,一番上のブルーの欄が平成28年度の数字で,例えば,青森県を例に取りますと,18歳人口としては約1万3,300人。そのうち高等学校等卒業者が約1万2,000人,そして,大学進学者数が約4,900人,それで,この大学進学率は37.2%だということになります。短期大学進学率は4.5%,専門学校進学率は15.3%。ここから下は大学のみの数値となっています。全体的な規模感を見ていただくときに,また,短期大学,専門学校等は配置の事情が異なるところがあろうかと思いますので,ここでは大学で見ていただきますと,大学数が10大学。左から国立大学1校,公立大学2校,私立大学7校ということでございます。
 平成28年度のピンクの欄ですけれども,入学定員で見ますと,3,812人,うち,国立大学,公立大学,私立大学の内訳がございます。実際の大学入学者数が3,309人となっております。ただ,県内外の流出入がございますので,県外から流入してくる生徒が1,464人,県内から流出が3,104人ということになります。ですから,青森県内で上から三つ目の欄で,4,949人大学進学といっていますけれども,そこから流出してしまうのが3,104人,外から入ってくるのが1,464人ということで,県内に入学してくるわけでございます。
 紫の欄が平成45年まで,今,推定できますので,大学進学者数,青森県からどこかの大学に進学する人数が3,226名。青森県内の大学に入学してくる入学者数というのは2,223名。これは今の青森県の進学率がそのまま続いた場合という過程で試算した数字でございます。そういたしますと,入学定員を仮に今のままの定員,3,812人と先ほど入学定員がありましたけれども,仮にそのまま維持したとしますと,定員充足率は全体として58.3%になるということでございます。
 特に見る見方としては,平成45年の大学入学者数が推計,2,223人ですけれども,上のピンクの欄にある入学定員が,現在3,812人です。この約3,800人の定員をそのまま維持すると,将来は2,223人しか来ないとなると,今後の在り方をどう考えていくのかということになります。
 そういった見方でありますけれども,幾つかの県,例えばその右の方にある茨城県と栃木県の真ん中のピンクの入学定員の欄を御覧いただきますと,例えば茨城県は国立大学の定員が3校で3,700人と多いのに対して,隣の栃木県は国立大学のシェアがそこまで大きくなく,公立大学は0,私立大学が多いという構成になっており,県によって定員のばらつき,割合は異なるという状況でございます。
 次のページをめくっていただきますと,注意点として,上のところに数値精査中と書いてありますけれども,少し補正しないとおかしいのではないかという部分が幾つかあるため,その御説明です。例えば山梨県を御覧いただきますと,真ん中のピンクの入学定員の欄,3,225人に対して,今,入学者数が4,269人となっております。これは激しく定員超過しているということではなくて,データの取り方で,学部ごとにどこの都道府県かという所在地を調べるんですけれども,学校基本調査で各大学がどう出しているかということが今,直ちに確認できておらず,別のデータでやっておりますので,そこの学部所在地のずれがあるためにこのようになっているというもので,一番下の欄の将来入学定員充足率108%で山梨県は安泰だというわけではなくて,ここが100%を超えているところは精査が必要だということで,申し訳ありませんけれども,そういうものとして御覧いただければと思います。
 隣の長野県ですけれども,特に長野県の特徴として流出が多い県ということでございます。上から三つ目の欄の大学進学者数が9,194人おりますけれども,真ん中から少し下のグレーの欄を見ていただきますと,そのうち7,626人は外に流出するというところで,概(おおむ)ね東京に行く方が多いと思いますけれども,そういう特徴がございます。
 三重県につきましても,やはり愛知県への流出というのが多いという環境になります。
 次のページをめくっていただきまして,国公私立大学の特徴という面で見ますと,島根県の欄を御覧いただきますと,島根県は私立大学がない県でございます。一番右の徳島県を御覧いただきますと,公立大学がない県,そのような県が幾つかございます。
 このように,都道府県ごとにどういう姿になるかということが見られるようになっております。
 続きまして,資料5-2を御覧いただきたいと思います。
 最初に目次がありまして,次にデータの定義がありまして,その中で3ページを御覧いただきたいと思います。都道府県別に今,見ていただいたデータを地図上に落として,分野別に色分けしてプロットしたというデータでございます。
 3ページ目にありますように,凡例となっていますけれども,色が付いているところ,まず,丸と三角と星とありますけれども,丸が国立大学,三角が公立大学,星が私立大学ということになっております。右端のところに書いてありますとおり,この分類につきましては,文部科学省の学校基本統計で使用している学科統計分類表の大分類に基づいて,人文科学は赤色,社会科学はオレンジ色,理学は紺色といった感じで色分けしてプロットしております。
 これで御覧いただきますと,都市部は学部が多過ぎてよく分からない感じになりますけれども,例えば31ページの長野県を御覧いただきますと,この真ん中のデータは先ほど一覧で御覧いただいたものと同じですけれども,これに加えて,下の円グラフの部分では,県内高卒者がどこに出ていっているか。東京,長野,神奈川,埼玉,愛知と並んでおります。右の円グラフはどこから来ているかという目で見ると,長野県以外では愛知,東京,その他ということが書いてございます。
 また,この色分けをした分野と地図で,どの分野の大学がどのあたりにあるということが見えるようになっております。これに加えて,更に実際に長野県内の分析を全体にしていくという場合には,短期大学はどこにあって,そして,短期大学については県内就職,県内進学が多いところですから,そういった特徴も踏まえながら将来像を考えていくというようなことになろうかと思います。
 もう一つ,51ページ,52ページを御覧いただきますと,奈良県,和歌山県の図がございます。これは大都市の近隣県ということでございますので,大学数としては余り多くありません。それで,一部に偏ってあるわけですけれども,御覧のとおり,大阪に出ていく,大阪から来るという状況でございますので,このような県については,県内だけというよりは,近隣の大都市部との関係を考えながら将来の在り方ということを検討するということになろうかと思います。
 説明は以上でございます。
【永田部会長】  ありがとうございました。このデータからは,いろいろな観点から多くの示唆が得られます。それでは,今から先ほどの五人の先生方の御意見,御提案,さらに,このデータも含めて,前回と同様に,各委員からの質問も含めて御意見を頂きながら議論を進めていきたいと思います。
 それでは,益戸委員,どうぞ。
【益戸委員】  吉見委員から今後の大学を取り巻く諸問題と国立大学,公立大学,私立大学,私立大学の中でも佐藤委員から御報告いただいた現実をお聞きして大変勉強になりました。今までの会議の中で最も,各高等教育機関の種類による役割分担ですとか,今後の解決すべきことが大変明確になりました。
 お話を聞いた印象を申し上げます。それぞれの大学全てが,御発言の内容通り、実現実行できるのであれば将来的に何ら問題ないと思いました。一方で,先ほど事務局から資料5-1,5-2の高等教育に関する基礎データで,充足率の問題ですとか,地域間の偏りのお話がありました。このデータをもとにすると,現在の大学が現在の形で存続できるのか,との疑問が大きく湧きます。今後の大学の将来像の中で,場合によっては退出,ないしは統合,合併,連携を考えていかなければいけない。そのためには,それに備えたきちんとしたルール作りを検討する必要があるのではないか。特に私立大学のお話の中で建学の精神にのっとりというお話が出ましたが,国立大学も公立大学も,建学の精神にのっとり,我が校はこうあるんだとお考えになっている理事長,学長の皆さんは多いのだろうと思います。ですから,その皆様たちがきちんと納得できるようなルールを作る。
 また,公立大学は地方自治体の意向も非常に強いというお話も出ましたし,公立大学を取り巻くルールが錯綜(さくそう)しているということもあると思います。したがって,特に公立大学の退出・統合等のルールは,自治体から見た経営,貢献などに対する評価,財務問題,その後の学生支援も含めて議論していくということがとても重要ではないかと思います。
 企業経営においても,経営者は,常に株主の意向,評価,そして株価にさらされているわけですから,当然外向きのIRでは大変すばらしいことを並べます。しかし,現実,できないこともたくさんあって,それが結果的には企業の売上げですとか収益に表れてしまいます。
 今後,高等教育機関の経営を取り巻く環境は,間違いなく厳しくなっていくわけですから,従来以上に前向きに特色を出す計画を立てることは当然でしょう。私は,大学の経営統合とか合併もとても前向きな経営計画だと思っています。ですから,そのような計画を実行できるように,この場での議論を是非やっていくべきではないかと思いました。
 そして,最後にお願いですが,吉見委員には,ハーバード大学で実際に様々な体験を御経験されますので,是非この会議でレポートしていただきたいと思います。特に,海外の学生たちが日本を向くには,ということについて是非お話を聞きたいと思います。
【永田部会長】  ありがとうございます。
 石田委員,どうぞ。
【石田委員】  前々回の1回目は途中で中座し,前回の2回目は都合で欠席せざるを得なかったので,本日のプレゼンも含めて三つのことをお話しさせていただこうと思います。
 一つ目は,前回,書面でも申し上げたことで,今の益戸委員のお話にも関わることなんですけれども,やはり,教育の質保証というものをいかに実質化していくかが非常に重要なんだというのが前回,前々回で私が言おうと思っていた内容でございます。同じようなことは,議事録を読ませていただきますと,鈴木典比古委員や日比谷副部会長,あるいは本日の吉見委員のお話でも出ておりますが,形式的な評価ではなくて,本当にどこまで実質的に質保証できるのかということ,これは是非とも議論していただきたいと思っています。これが1点目でございます。
 2点目ですけれども,本日,国立大学協会から松尾名古屋大学総長がお話しいただいたことへの若干私なりの補足的なものでございます。前回の議事録を読ませていただきますと,最後,永田部会長が,高等教育は発明・発見する人,開発する人,使いこなす人というバラエティーに富んだ人材を輩出しなければいけないということをおっしゃっておりました。私もそれに全く強く同意するものですけれども,その中で,大まかに言えば,国立大学としては,現実の課題に分野を超えて幅広に対応するようなプロジェクトあるいはプロブレム・ベースド・ラーニングに加えて,リサーチ・ベースド・ラーニングによって研究と教育と社会実装の一致ということを踏まえ,発明・発見する人あるいはそれを支え,現実に落とし込む開発する人の育成を中心に行うことが,大きな役割になってくるのではないかと思っております。
 そのような意味で,松尾総長から御報告がありましたように,大学院教育の強化というのは国立大学にとって極めて重要であり,しかも,それは大学院教育だけではなく,それを支えるしっかりと質を確保した学士課程教育も極めて重要であると思っています。
 例えば先端的な研究についてですが,大学院に行かず,学士課程を修了する学生であったとしても,やはり先端的な研究を行っている教員の新しい知の創造の息づかいを授業の中で,あるいは,研究室の中で触れながら教育を受けるということは,今後,新しい問題にチャレンジする精神や,クリエーティビティーを養う上で極めて重要だと思っております。これが2点目でございます。
 3点目は先ほど村田委員から御説明のあったもの,特に3ページ目に非常に刺激的なことがあったので,若干御質問も含め,意見を述べさせていただきたいと思います。
 丸の一つ目を見ますと,私立大学はいろいろな機能の大部分を担うことができると書かれております。例えば教育の機会均等の保障というようなことも担うことができるということがございますけれども,例えば,松尾総長のお話にもありましたように,国立大学と私立大学は地域的にかなり偏在している部分がございます。そういうことも踏まえ,国内全体で教育の機会均等をどう保障できるのかという観点は非常に難しい問題だと思っています。特に今後の分散社会を支える上での人材をそれぞれの地域でどう育成していくかという観点も含めて,なかなか難しいものがあるのではないかと思っております。
 もう一つは,提言3の丸の三つ目でございますけれども,国立大学が学部教育からの一部撤退とありますが,それがどういう分野で可能なのか。撤退しても私立大学の方でできるというようなお話がありますけれども,どういう分野で可能なのでしょうか。例えば,地方において,国立大学は様々な分野で総合大学を担っている場合が多いわけですけれども,先ほどの吉見委員からもございましたように,やはり二刀流,あるいは,多様性を持った教育というものが必要とされる中で,国立大学が学部教育のどのような分野で撤退していくことを考えているのか,少し私は意味が取れなかったというところがございます。
 それから,先ほどの部分とも関わりますけれども,国立大学でしか担うことのできない分野の大学院レベルの教育というのはどういうものなのか。これもやはり分からないところでございます。しかも,先ほども言いましたように,大学院教育というのは,そこだけで成り立っているものではなくて,その下にある学士課程の教育も強く連結しているものであるということ,6年一貫の教育等もございますので,提言のように撤退することが可能なのかどうか。そこだけに特化することが可能なのかどうかということ。これは非常に私自身としては分かりにくかったことでございます。
 松尾総長の御発表にもにありましたように,国立大学としても,大学の規模感でありますとか,経営形態でありますとか,これから検討していかなければいけないところが多々ございますけれども,いずれにしましても,国の将来を支える人材を養成するために高等教育の全体像というものに対して,国公私がそれぞれの強みを持って,もっと意見交換をしながらやっていく必要があるのだろうと思います。お互いに誤解のないように,先ほどの益戸委員からありましたように,納得のいくルールの中で考えていく必要があるのではないかと考えております。
 少し長くなりまして申し訳ございません。
【永田部会長】  ありがとうございます。3点ありました。1点目,2点目は,第1回,第2回の本部会の議論に関する追加の御意見だと思います。3点目は村田先生の御発表に関係ありましたが,御回答というよりは,考え方を御披露いただければと思います。
【村田委員】  まず,質問につきましてですが,提言3のうちの一つ目の丸の教育の機会均等に関しましては,本当に今,国立大学が昔のように,教育の機会均等の役割を果たせているかどうかというのは精査をすべきだと思っております。というのは,私立大学に通っている親の所得と国立大学の親の所得を比較すると,国立大学の方が今は上回っております。そういう意味では,教育の機会均等を国立大学が担えているかどうかというのは極めて疑問です。むしろこれは小林委員が専門だと思いますから,その辺についてはまた議論があるかと思います。
 それから,三つ目の丸のところでございますけれども,経済学の概念で比較優位という概念がございます。これは貿易がなぜ行われるかという基本的な考え方なんですが,国立大学と私立大学は相対的にどこに重点を置くかというところをもう一度,それぞれの分野で考えていく必要があるのではないかということです。
 それともう1点重要なことは,国立大学の運営費交付金,あるいは,私立大学の助成金にはかなり差があります。片や50%以上,片や9.9%ということを考えた場合に,その辺のところをどうすみ分けていくのか。
 もう一つ大きいのは,これも先ほど益戸委員や吉見委員からもございましたように,今後,いろいろな改革をしていく中で,社会とのマッチングを考えていくときに,競争原理というものが非常に重要で,果たして今,国立大学,私立大学,公立大学がおしなべて同じ土俵で競争できているのかというところが重要で,基盤がきちんとしたところで競争ができるかどうかというところをまず考えないといけない。そういう意味で,このところを紹介させていただいたということでございます。
【永田部会長】  それでは,古沢委員,どうぞ。
【古沢委員】  ありがとうございます。私も正に今,村田委員に御説明いただいたところにかなり関心を持ちまして,今,お答えいただいたので,改めては結構なんですけれども,どのような観点でこういう提言をまとめられたのかということを,もう少し具体的に私立大学連盟としての意見をお聞きしたいと思いました。
 今,石田委員がおっしゃったように,地方の大学の地域での役割というのをどう考えていくか,あとは,公費の投入というのが焦点になるかと思うんですけれども,海外では国立大学,私立大学という区分があっても,公費の投入という点では非常に曖昧で,枠組みがかなり日本と違うようなケースもありますので,全体的な区分を改めて見直していくというのは必要なことではないかと思います。
 また,吉見委員のお話も非常に興味深くお聞きしまして,確かに社会人の受入れというのは喫緊の課題だとは思うんですけれども,先ほど村田委員もおっしゃったように,進まないという現実がありまして,やはり大学全体として社会人の受入れを増やすということはもちろん理想的ではあるんですけれども,モデルケース的に社会人の受入れを産業界と連携して進めていくような何らかの具体的な工夫が必要なのではないかと思いました。
 以上です。
【永田部会長】  ありがとうございます。吉見委員,簡潔にお願いします。
【吉見委員】  先ほど少し飛ばしてしまったんですけれども,社会人の受入れ,つまり,これは必然的に進んでいくと思いますけれども,当然ながら,大学の中で異質性が拡大します。ですから,クオリティーの保証というか,社会に向けて学生のクオリティー,それから,教育のクオリティーをきちんと保証していく。そのための成績の標準化だとか,シラバスの公開化だとか,そのようなものをもっと充実させていく,それから,学生の出口管理だとか,そのようなことで一つ一つ産業界の御理解を得ながら,そこのマッチングをしていくというしかないと思うんです。
 だから,単に社会人が増えればいいというふうには思っていなくて,そのクオリティーをコントロールする仕組みを大学がどれだけ作れるかということがやはり肝かと思います。
【永田部会長】  社会人の受入れに関しては,学士課程レベルと大学院レベルがあるわけですから,いろいろな考え方があると思います。
 それでは,小林委員,どうぞ。
【小林委員】  この諮問事項は地域の高等教育機会の確保ということなので,それに関連して幾つか述べたいと思いますけれども,村田委員からもありましたので,その点についても少しコメントしたいと思います。
 地域の高等教育機会の確保という観点からしますと,やはり重要なのは,学生から見て,自宅から通学できるか,それとも自宅外になるかということで,これは生活費が全然違いますので,その辺をどう考えるかということだろうと思います。どうしても統計のデータになりますと,都道府県別進学率という形でしか押さえられないという限界がありまして,いろいろデータを作っていただいて,私もこういう分析はやっていますのでよく分かるんですけれども,これも現在,全体のデータで話がされていますけれども,例えば国立大学,公立大学,私立大学,あるいは,専門学校,短期大学と分けてみると,全然この様相が変わって見えてまいります。
 具体的に一つだけ例を申しますと,本日の例で申しますと,例えば東京は実は,国立大学進学率はかなり低い県です。国立大学への進学者数はかなり多いんですけれども,東京の人口自体が大きいので,国立大学への進学率だけ考えると,実は非常に低いわけです。それに対しまして,例えば富山県のような北陸の県というのは,相対的に国立大学が大きいので,国立大学の進学率がかなり高いというふうに,国立大学一つを取ってみてもそういうふうに違いがあります。
 ただ,東京の場合には自宅から通える私立大学が多いわけですから,結果的には東京の進学率はもちろん最も高くなっているという状況ですけれども,そのあたりをどう考えるかということでもかなり違ってくるかと思います。
 それから,今の観点からしますと,重要なのは,都道府県別ではなくて,実はブロック別でありまして,例えば南関東全体で捉えるというような視点も必要になってくるのではないかと思います。
 それから,本日,事務局の方からも説明がありましたけれども,この問題を更に難しくしているのは学部にも偏在の問題がありまして,例えば高知県とか島根県は国立大学しかなくて,しかもかなり限られた学部しかないので,学生の希望をかなえるためにはどうしても,一部の学生は外に出ざるを得ないという構造になっているという,様々な問題も考えていかなければいけないと思っております。
 事務局にまたお願いなんですけれども,そのあたりの,国立大学進学率だけのデータや,ブロック別の進学率のデータという資料を作っていただけると,この辺のことがもう少し分かってくるかと思います。
 その上で御質問なんですけれども,国立大学協会の資料の13ページのところですが,これは国立大学協会の御意見をここでまた議論する必要があるかと思いますけれども,学部の規模は縮小を検討する必要があるという御意見を本日,出されておりまして,ただ,進学率が低く国立大学への進学者が占める割合の高い地域は更に進学率が低下しないように配慮ということなんですけれども,これは地方のことを指しているという理解でよろしいんでしょうか。
 それとも今の問題のように,例えば東京は国立大学進学率は低いですから,23区の定員抑制という問題もありますけれども,そのあたりはどういうふうにお考えになるかということをお伺いします。
 それから,そのお答えの前に,先ほどの石田委員から村田委員への質問ですが,確かに東京の大学は所得の高い学生が多いことは事実です。やはりそうはいっても,特に私立大学に比べますと,所得の低い人たちが,特に地方の国立大学あるいは公立大学には多く入っていますので,それも全体を見なければいけないと考えております。
【永田部会長】  それでは,松尾先生,簡潔にお答えください。また,村田委員,もし御意見があれば,お答えください。
【松尾国立大学協会副会長】  この記述は地方のことを念頭に置いて書いております。また私の意見は後で述べさせていただきます。
【永田部会長】  村田委員,いかがでしょうか。
【村田委員】  特にありません。
【永田部会長】  今,小林委員が述べていただいた観点の中で,本日は都道府県別でしたが,今度は分野別ではどのようになっているのか,それは適正かどうかという点を見てみたいと思っております。これに加えて,小林委員の御意見も事務局と相談して,資料を作らせていただきます。
 それでは,日比谷副部会長,どうぞ。
【日比谷副部会長】  ありがとうございます。一つ目は,吉見委員のお話の中で,根本的な問題は何かということの筆頭に学部を超えた流動性がないということが挙がっております。私どもの大学の名前も挙げていただきましたが,お答えはある程度分かっているんですけれども,なぜ学部を超えた流動性がないとお考えかということをお答えいただきたいと思います。二つ目は,この将来構想部会でやはり考えるべきではないかというのは,そもそも学士課程の教育で学部ごとに入ることの妥当性があるのだろうかということです。
 と申しますのは,前回も私は質保証のことをお話ししまして,科目の質保証というようなことも言ったんですが,学士課程を卒業をする,その教育を受ける側(がわ)からいったら,自分が受けた学士課程教育が総体としてどういう質だったのか,良い質だったか。良いところに行きたいと思うのは当然だと思うのです。そうすると,先ほどの主専攻,副専攻の話と関係しますけれども,すばらしい質の科目だけれども,同じ分野の本当にすばらしい科目をたくさん取って卒業することが,学士課程の教育として本当に質が保証されているといえるのかという問題につながると思います。最初のところをお答えいただければと思います。
【永田部会長】  後半部分については,日比谷副部会長の御意見のとおりかと思います。一方,前半の冒頭部分は吉見委員への御質問だと思いますので,吉見委員,お願いします。
【吉見委員】  大変重要なクルーシャルなことをお聞きいただきましてありがとうございます。一言で言えば,この大学の教育の仕組みが学生中心というよりも教員中心になっている,という答えになります。どういうことかというと,基本的に,なぜ縦割りなのか,なぜ縦割りの壁が破れないのかということと絡むわけですけれども,単純に考えれば,学部を超えた主専攻,副専攻,ダブルメジャー,そういう仕組みを広げていこうとすれば,必然的に,いわばそれぞれの学科なり,研究室なりに対する学生のエフォート率は,今まで100%だったものが,例えば70%と30%とか,50%と50%というふうに減るわけです。
 つまり,学生はうちの研究室の子とか,うちの学科の子というよりも,ここの子でもあるけれども,あっちの子でもあるという形になります。これは先生から見たときはそういう形になるということです。そのことをそれぞれの学科や学部の先生方が良しとするかという問題が必ず出てまいります。
 今,学部自治というものを前提にする限り,その仕組みを認めていただくことはそう簡単ではないということになると思います。
 逆に学生の視点から見て,学生の教育が伸びていくには何が一番いいかということを判断基準にしたときにはこの見方が違ってくるはずだと思いますので,ある種の視点のコペルニクス的転回をすれば,見え方は違ってくると私は思っております。
【永田部会長】  ありがとうございます。設置基準や認証評価,あるいは,学位プログラムについては,別途,本部会の下に置いているワーキンググループで検討する内容に近いと思います。いわゆる学位プログラムが組織の縦割りを超えて作られているかいないか,という点は組織論として重要であるという御指摘です。
 次,有信委員,どうぞ。
【有信委員】  吉見委員のまとめは基本的に賛成で,特に流動性を確保するという点もそのとおりだと思います。実際に日本人の高等教育の履修率がOECD諸国に比べて低いというのは,吉見委員がおっしゃったように,30代,60代というような観点での教育が行われていないというようなことも大きく影響していると思います。
 ただ,何でそうなっているかということで,社会人を受け入れるためにいろいろな施策を取っているのですけれども,一番根本的にできていないのは,一部指摘もありましたけれども,社会的な要請と大学の中での教育とのマッチングがとれていないということです。何でマッチングがとれないのかということなんですけれども,非常に深刻な問題があると思っています。つまり,大学人は社会の将来を先取りしつつ教育を行っていくという形で,社会の未来に対して必要な知的資源を教授するという形ができているとすれば,それは必要とされているものなので,当然社会人もそこで学ぶという形になると思います。
 ところが,実際には,非常に必要とされている分野で求人をすると,全然人が出てこない。つまり,教育をされていない,あるいは教育を受けたいと思っても,必要な科目が設定されていないというような現状があると思います。ただ,これを,何が何でも要求される形にそろえればいいかというと,そうではなく,もう少し日本の高等教育の全体のグランドデザインを考え直す必要があるような気がしています。
 一つは,今までもいろいろ議論が出ていますけれども,アメリカ流に,学部教育と大学院教育というような形で,学部教育は基本的な学理のベースを教授して,高度な専門性は与えなくてもかまわないという形にして,高度な専門性はプロフェッショナルスクールや,リサーチグラジュエートスクールのようなところでやるというような形にするとか全体のグランドデザインを少し考えないといけません。今までの日本の大学は戦後の体制の中で,基本的には学部ベースで創られています。学部ベースで創られているが故に,いわば学部自治という学校の縦割りがどんどん進んできているという状況になっているのを基本的に見直すということが必要です。また,一番深刻な問題は,これは産業側も問題があるんですけれども,雇用に関して市場原理が全く働いていないということです。
 つまり,自分たちが必要とする人材に対して,人材が供給されていなければ,高い給料を出さないと,当然人は集まらないわけですけれども,今の日本の状況では,基本的には同一の業種であれば,同一の初任給という格好で求人をしています。これを変えるのは産業界サイドの問題だと思いますけれども,業種ごとには多少差は出てきていますけれども,本当に足りないところに高給を払うという形になれば,大学側も学生の志望の傾向も変わりますから,外部からの自動調整という形で変わっていく。
 ただ,そういう形がいいかどうかも含めて,基本的な学部教育,大学院教育を含めた全体のデザインをやはり見直す時期に来ていると思っていますので,これからの議論で是非やっていただきたいと思っています。
【永田部会長】  ありがとうございます。
 それでは,松尾先生,よろしくお願いします。
【松尾国立大学協会副会長】  では,簡潔に言いたいと思います。私はこの会議は,本日が初めてなんですが,本日の国立大学協会の副会長という立場を離れて,さっき言ったことと少し矛盾するかもしれませんが,率直な意見を言いたいと思います。まず,日本の教育は国立大学,公立大学,私立大学とあって,恐らくそれぞれ建学の精神があったり,歴史的な経緯があって,いろいろな立場あると思うのですけれども,私はよく言うのですが,フォー・マイセルフというのが一番駄目で,フォー・ザ・デパートメントとか,フォー・ザ・スクールというのが次に駄目で,やはり一番良いのは,フォー・ザ・パブリックだということです。
 そこで,私も先ほどの発表の最後に言わせていただいたんですが,国公私立大学が協議して連携する。これは利権の裏で談合するという意味ではなくて,やはり社会と連携をとりながら,コミュニケーションをとりながらいいものを目指すということです。
 そういう意味で,今,有信委員も言われましたし,佐藤委員も言われたんですが,日本の10年先,20年先,あるいはもっと先の社会の在り方はどうなんだ。その中で果たす高等教育の役割はどうするんだ。それが欧米追随ではなくて,日本独自のものが本当に創れるのかという,ここはそこまでする場所ではないかもしれませんけれども,そういう視点が常に必要ではないかと考える次第です。
 それから,もう少しミクロのことで言いますと,地域の創生はいろいろなパターンがあるということを我々は勉強しないといけません。例えばニューヨーク・シティーというのは,最近,テック・イノベーションを世界で最もやっているところなんです。ここは実は行政主導でやっているということを私は聞いています。それから,大学主導で地域が盛り上がったところもありますし,企業,ベンチャーが集まってやったところもあります。あるいはそれらの連携でやっているところもあるという,様々な形があるので,私は将来の日本でこうやってやっていくときに地域創生のパターンも一つではなくて,いろいろなパターンがあると思います。
 その中で,国公私立大学がそれぞれ果たす役割はどうなのかというのをもう少し見ていく必要があると思っております。
【永田部会長】  ありがとうございます。
 それでは,佐藤委員,どうぞ。
【佐藤委員】  まず,資料5-1と資料5-2というのは非常に役に立つものになっていると思います。国立大学,公立大学,私立大学を分けて定員を見ていかないと,将来人口が減ったときに,国立大学は減ることがない,公立大学も減らない,そうすると,私立大学が減るんだということにしかならないではないかということを申し上げたことがあったと思います。
 もちろん全体の構想の議論の中で,そういう時期が来たときに,私立大学であれ,どこであれ,定員減をした場合のインセンティブのようなものは考えられないかと思うのです。
 というのは,台湾がやはり非常に飽和状態になって,教育部の管轄の国立大学,それから,私立大学が定員を減らすごとに,そのインセンティブとして交付金が出されるということをしました。
 それだけではなく,そこにいる職員や教員を減らさなければならない状態が来たときには,それの転身先まで面倒を見るということを台湾はやったということを聞いています。
 それぐらいの覚悟がないと,これは18歳人口が90万人,80万人と減っていくときに対応できないのではないでしょうか。その辺,本部会の議論かどうか分かりませんけれども,どこかで頭の中に入れておいていいのではないかと思います。
 以上です。
【永田部会長】  ありがとうございます。今,佐藤委員がおっしゃった御意見は他の委員からもありましたが,これを議論する場は本部会以外にはありません。今はまだ外形的な議論の途上ですが,次の段階としては,具体的なアイデアを出して,今,皆さんで共有したフィロソフィーにどのように結びつけていくか,あるいは,そのための方策をどのように実行するか,という議論をしなくてはいけません。したがいまして,委員の皆さんには,必ず本部会で議論するのだ,ということを再確認させていただきます。それでは,金子委員,どうぞ。
【金子委員】  私,今の様々なお話を聞いて大変勉強になったんですが,ただ,かなりの部分は四,五年ずっと話してきたことで,余り新しいことがないように私は思います。それが悪いというわけではないんですが,ただ,具体的にもうやらなければいけないことはやらなければいけないことで,別に議論する必要があると思います。例えば学位プログラム制ですとか,社会人の学び直しの部分は具体的な手段を考える時期に達しているので,その議論はそれでやるべきだと思います。
 ただ,一つ,この部会で一番初めのスタートは適正規模という話で始まったわけですけれども,私は適正規模はかなり重要な問題だと思います。日本全国の適正規模はなかなか難しいと思いますが,地域的な問題もやはりかなり重要で,私は地方大学の振興及び若者雇用等に関する有識者会議に出ているのですが,やはり相当地域の危機感が強いということを感じます。
 それから,もう一つは,教育振興基本計画部会という中央教育審議会の会議にも出ていますが,こちらでもやはり全国的な格差という観点から見て大学進学をどう考えるかという,これもやはり非常に大きな問題になっているわけです。
 この会議としては,本日せっかく資料も出していただきましたけれども,進学率の地域格差とか大学生の移動というのをどのように考えるかというのは,実態を見ますと,非常に多様なので,どう考えていいのかよく分からないというところがあると思います。しかし,この会議でこれをどのように見るかということを考えるということは,やはり非常に重要ではないかと思います。
 この資料5-1というのを見ていますと,日本全国で私は三つパターンがあると思いますが,一つは,東京とか京都のように就学率が高くて,しかも,受入れが非常に多いところです。2番目は,特に大都市の近郊ですが,就学率が高いけれども,出る方が多い,これが2番目のパターン。3番目のパターンは,就学率が低くて,しかし,かなり相当の数が出ているというパターンがあるわけです。これは東北と中部と四国と九州。これはやはり私は深刻だと思うんです。
 地方大学の振興及び若者雇用等に関する有識者会議などで問題にしているのは,出ているからけしからんというんですけれども,私は問題は実は就学率が低いことだと考えます。このようなところは大体4割以下です。東京は7割ですけれども,大体平均で50%ぐらい。ただ,4割をかなりの地域が下回っているのです。ここの地域に何もしなくていいのか,何か手当てはないのかというのが非常に大きな問題で,このままで行くと,合理的に潰せという話だけ出てくると思うんですが,やはりそうではなくて,地域のニードにマッチした大学とか,あるいは,私立大学,国立大学,公立大学の連携といったことから積極的に考えるというのは,この全体の視野の中では非常に重要ではないかと思います。
 以上です。
【永田部会長】  ありがとうございます。金子委員から,周知の論点であるとの御意見がありましたが,本日異なるのは,それぞれの設置形態ごとの代表者が,我々の団体はこう決心している,とおっしゃっている点です。この点が,今までの各個人が自らの認識を述べるのとは少し違っているわけです。
 私立大学の御意見の取りまとめは時間がもう少しかかりますので,改めて御意見をお伺いすることにしたいとは思っています。
 今,金子委員が最後に言われた中で,本部会の下に設けられたワーキンググループで具体的に議論を進めなければいけない論点があります。例えば,学位プログラムの問題等については,既に議論が始まりつつあります。本部会ではやはり大きな意味で,我が国における高等教育の規模や,地域も含めた多様性について,また,将来の産業構造も見据えて,その時代時代で活躍できる学生を教育できるように質を担保するか,という問題が一番重要です。まだまだ議論は続きますので,また異なる観点からキーワードを選び出し,お示ししながら,議論を続けさせていただこうと思っております。よろしいでしょうか。
 本日は松尾先生,それから,奥野先生,大変ありがとうございました。委員の先生方も御苦労さまでございました。吉見委員,どうもありがとうございました。
 それでは,本日はこれでお開きにして,どうぞ先生方も夏休みゆっくりお過ごしいただいて,次回の8月23日にまたお会いしたいと思います。
 それでは,どうもありがとうございました。

── 了 ──

お問合せ先

高等教育局高等教育企画課高等教育政策室