法科大学院等特別委員会(第114回)議事録

1.日時

令和6年2月28日(水曜日)10時00分~12時00分

2.議題

  1. 求められる法曹の人材像と今後の法科大学院教育について
  2. 法学未修者教育について
  3. 令和5年司法試験予備試験口述試験の結果等について
  4. その他

3.議事録

【松下座長】  はい。それでは所定時刻に既になっておりますので、第114回中央教育審議会大学分科会法科大学院等特別委員会を開催いたします。ご多用中のところご出席くださり誠にありがとうございます。本日はWEB会議として開催をしております。本委員会は公開が原則のため、この会議の模様はYouTubeライブ配信にて公開いたします。現在公開中です。WEB会議を円滑に行う観点から、ご発言の際には挙手のマークのボタンを押していただき、私が指名しましたらお名前をおっしゃってからご発言いただきますようお願いいたします。またご発言後は再度挙手のボタンを押して挙手マークの表示を消していただきますようお願いいたします。またご発言時以外はマイクをミュートにしていただくなどご配慮いただきますと幸いでございます。本日も活発なご審議をどうぞよろしくお願いいたします。それでは続きまして、事務局から配布資料の確認をお願いいたします。
 
【保坂室長(事務局)】  事務局でございます。本日の配布資料が、資料の1から参考資料の22まで、全体で300ページというかたちとなっております。ご確認をお願いできればと思います。なおこちら、1点資料の訂正についてご連絡がございます。昨年9月に開催しました本委員会において配布しました資料の3、「司法試験の在学中受験に向けた教育課程の工夫などに関する調査」の最終年次在学者数に誤りがございました。前回の会議開催後に大学からの数値の訂正の連絡があり、判明したものでございます。この数値、訂正した資料については後日ホームページに掲載させていただきます。以上でございます。
 
【松下座長】  ありがとうございました。資料の訂正について何かご質問等ございますか。それでは何かありましたらまた随時ご指摘いただくことにして、それでは議事次第に従って議事に入ります。まず議事の1は、求められる法曹の人材像と今後の法科大学院教育についてです。今期の審議にあたっての基本的認識にもありましたように、今期は法科大学院開設から20年を迎える節目の期にあたり、これまでの歩みを俯瞰し、その成果や残された課題を整理した上で、法科大学院教育のさらなる改善、充実に向けて必要となる方策について審議をし、提案をしていく必要があると考えております。そこで前回に引き続き、求められる法曹の人材像と今後の法科大学院教育という議題を設け、今回は経営法友会の高野雄市代表幹事より、企業法務の分野において今後養成すべき人材像や、法科大学院への期待等についてご発表をいただき、その後質疑を行うこととさせていただきたいと思います。それでは資料の1について、高野代表幹事よりご説明をお願いいたします。
 
【高野代表幹事】  ありがとうございます。高野でございます。本日はこのような機会をいただきましてありがとうございます。それではスライドの2番目をご覧ください。簡単に自己紹介をしますと、私は今三井物産の常務執行役員法務部長でありまして、経営法友会では代表幹事を務めております。
 次のスライドをご覧ください。経営法友会について説明します。経営法友会は非常に歴史が長く、1971年に発足した伝統ある組織です。現在の会員数は1,400社を超えています。日本最大の企業法務会員組織と言うことができると思います。会員企業の規模も、大企業だけではなく、中小規模の会社も多数会員になっておりますし、各社の法務組織の規模も様々です。経営法友会は企業における法務部門充実化のため、企業法務間の意見交換や研修・研究、企業法務としての意見発信などを行っています。
 次のスライドをご覧ください。このスライドは会員数の推移を表しています。右肩上がりであることがお分かりになると思います。次のスライドをご覧ください。三井物産にちょっと触れます。当社は、総合商社として、様々な事業分野においてビジネスを行っています。そのため、われわれ法務の人間も様々な事業領域や、産業横断的な事業など、多種多様な事業の法務対応を行っています。本日の私の説明はその経験がベースになっている点も多く含まれております。
 次のスライドをご覧ください。このスライドは三井物産が、非常に広いセグメントと地域で事業を行っていることを表しています。次のスライドに進みます。現在企業法務がどのように進化しているのか、具体的には企業法務に対するニーズがどのように広がってきているのかということを説明したいと思います。
 次のスライドをご覧ください。企業における法務部の担当範囲ですけれども、これは会社によって様々です。例えば三井物産の場合は、3つの大きな柱があります。1つ目の柱はビジネス法務。法務面からビジネスサポートを行うということです。例えばM&A、合弁事業、プロジェクトなど、法務部は様々なビジネスをサポートしています。2つ目の柱は、取締役会、株主総会対応を含むコーポレートガバナンス関連の業務です。3つ目がコンプライアンス、Integrity関連業務となります。そのほかにも例えば、危機対応であるとか、訴訟・紛争対応なども担当しております。これは企業によって様々で、複数の部で今説明したような領域を担当している会社もありますし、法務部が契約法務とかビジネス法務に特化している場合もあります。
 次のスライドをご覧ください。法務部門が企業経営において、どのような貢献をしているかを説明したいと思います。これは細かく入るとだいぶ長くなってしまうので項目だけ述べますと、法務部の仕事は「会社の信頼性を高める」、「経営の実効性を高める」、「経営戦略を実現する」ことなどに貢献していますし、「会社の企業価値を上げる」というところにも貢献しております。「リーガルリスクマネージメント」というものも重要な役割です。「競争力を強化する」とありますが、これは法務部門が強い企業というのは事業競争力においても強いということです。例えば社内で精緻なリスク判断ができる、あるいは、契約対応、交渉対応を内製化し、迅速な対応ができるということになりますと、事業競争力の差にもなってくるということになります。あとは「会社を守る」という機能もとても重要です。
 次のスライドに進みます。法務部門の位置づけとして私が注目しているのが、現場サポートから経営への接点まで、一貫して対応することができる部署であるという点です。ビジネス法務サポートを通じて会社全体の中でも経営課題がどの辺りに存在するかであるとか、今企業としてどのようなリスクにさらされているのかといった点も把握しやすいポジションにあります。これらを把握した上で、今度は管理部門として、こうした課題やリスクに対する会社の体制強化などを検討し、経営に対する提言を行うことができる部署だということです。
 次のスライドをご覧ください。今の変化の時代において法務部門に求められる姿勢ということですが、現在の企業を取り巻く環境というのは不確実性が高く、先を見通すのが難しい時代になってきています。その中でリスクは、新しいものが様々なかたちで出てきております。このリスクと機会の観点から、法務部門の役割というのはますます重要になってきていると思います。法務部門がリーガルリスクマネージメントを行い、会社をプロテクトしながら、案件を実行に移す。例えば、会社のプロテクションの観点から、事業経営のストラクチャーの在り方へのアドバイスであったり、事業経営における株主としての権利確保であったり、様々なかたちで法務部門が、事業内容にも貢献する場が増えてきていると思います。
 次のスライドをご覧ください。会社法務部実態調査の結果を見てみたいと思います。この実態調査は経営法友会と商事法務研究会が共同で実施しておりまして、実はこれも歴史が長くて、最初に始まったのは昭和38年の先行調査で、そのあと昭和40年から本格調査が始まりまして、60年以上の歴史を重ねております。この調査結果は、法務部門の今を表しているといえると思います。この調査の中で、「法務部門の役割として何を重視するか」という問いがあるのですが、これに答えた結果がこの表にまとめてあります。注目すべきは、従来の契約法務だけではなくて、特に規模の大きい法務組織におきましては、会社にとっての「重要な案件」や「重要な経営判断」へ関与する機能が求められているという結果が出ている点です。
 次のスライドをご覧ください。企業を取り巻く環境についてもう少し説明したいと思います。先程不確実性が高く先を見通すのが難しい環境にあると申し上げました。ここに列挙されておりますのが、新たにクローズアップしてきているリスクの例示です。例えばサステナビリティ関連のリスク、あるいはESG関連の法務対応とも言えると思いますが、そのような分野でありましたり、あとは地政学的な法務リスクですね。例えば制裁対応だったり経済安全保障関連の法令対応だったりがこれに該当します。次に事業環境の変化です。各企業がポートフォリオの組み換えや、新規事業への参入を行いますと、新しいかたちのビジネスを展開する中で、当然ながらその企業にとってはリーガルリスクも新しいものが出てきます。こうした観点でのリスク対応も重要となります。あとはデジタル時代の法務リスクというのも、これも皆様ご承知の通りだと思いますけれども、様々なかたちで出てきております。法務部に対しては、次々に現れてくる法務リスクをいち早く捉えて、これを経営陣や事業部に指摘し、会社の経営や事業に役立てるという役割への期待もますます大きくなってきていると思います。
次のスライドをご覧ください。これは会社法務部実態調査の結果をまとめたものですけれども、法務部門所属の役員クラスが非常に増えているということが見て取れると思います。
 次のスライドをご覧ください。法科大学院に期待することというテーマで説明を進めてまいりたいと思います。まず企業法務人材に求められる資質ということですが、これもいろいろ考え方があると思います。私なりの整理は、まずは信頼される人間性ということです。Integrityある人材ということでもあります。あとは問題解決や事業創出に対する積極的な貢献の姿勢です。専門性の強化、法律知識の拡充という面においても、飽くなき向上の姿勢が必要だと思います。企業実務の中ではソリューションを提案する力や、判断力が重要となります。企業内で法的な判断というのはわれわれがやらないといけないので、こうした判断力が必要となります。また、今の時代は変化を読む目や、課題形成力と言いますか、課題を見出す目ですね。あとはコミュニケーション能力とチームワークも重要です。経営との連携もありますし、ほかの管理部門との連携もありますし、事業業部との連携もあります。社内を牽引するリーダーシップの発揮も今法務部門に求められていると思います。
 次のスライドをご覧ください。企業法務におきましては単なるアドバイザーではダメだということです。リスクを指摘するだけではなくて、実際にそれを解決するための解決策というのを、実務的にもしっかりと機能するかたちで提案することが必要となります。それを事業部が納得いくかたちで説明し、場合によっては自ら交渉の場に出て行くなどして実行を牽引することも重要です。適切な経営判断に乗せるために経営陣に説明することが必要となる場合もあります。要は、助言だけでなく、行動力とリーダーシップも求められるということです。
 次のスライドに行きまして、これは日本経済新聞の記事で昨年12月に出たものですけれども、今必要とされている人材は職人タイプの人材ではなく、法務スキルを活かして事業開発や事業拡大に貢献できる人材が求められているということを指摘しています。
 次のスライドに進みます。会社法務部実態調査をまた見てみましょう。経営陣や他部門から頼りにされるために重要な事項は何かという質問への回答結果をまとめてあります。注目すべきは、組織として重要なことは、経営目線、ビジネス感覚、課題解決力だと答えた企業が5割を超えているということです。当然の期待としては法律知識を有しているという点はあると思いますが、それに加えてこういった視点が重要視されているということを念頭に置く必要があります。担当者レベルでも、重要視すべき点として、法律知識が1番ですが、3番目に業務知識、4番目にコミュニケーション力などが入ってきている点は注目すべきと思います。
 次のスライドに行きまして、法科大学院修了生の採用にあたって重視する能力は何かという問いに対しての回答結果です。ここでもコミュニケーション能力が1番目にランクされています。しかも65パーセントの企業がそのように回答していますので、いかにこの点を重視しているかが分かると思います。ちなみに弁護士のキャリア採用、中途採用をする場合にも同様に、コミュニケーション能力が重視されているという結果になっています。あとは、幅広い法律知識が2番目にランクされています。これは私も実感として、ロースクール生というのは幅広い法律知識を体系的に持っておりますので、その点は学部生に比べても優位性がある点だと思います。従いまして、論点整理や実務対応の検討などにおいて、こういった幅広い知識が企業実務に生かされることが期待されているということを、この結果は示していると思います。
 次のスライドに進みます。現在の企業法務人材の需要についてということですが、一言で申し上げますと、企業において法務人材は足りていないということになります。前段で申し上げました通り、企業における法務ニーズはどんどん拡大している状況です。もともと日本では弁護士の絶対数が少ないということもありまして、日本企業というのはまず学卒の人材を採用して、例えば経営法友会の研修機会なども活用しながら、各社が法務人材を育ててきたという歴史があります。また企業によっては法務経験のない人材が、例えば事業部にいた人材が法務部長や法務担当を任されるケースも存在します。これは今も存在するプラクティスです。
一方でここに来て各企業の法務ニーズが高まり、法務人材の増強が多くの会社での課題になっています。採用のルートも多様化する必要があり、新卒採用だけでなく、キャリア採用も積極的に行っています。しかし、特にキャリア採用においては弁護士の絶対数が少ないこともありまして、非常に採用競争が激化しています。弁護士に限らず、企業法務経験者の転職も増えていますが、この採用も同様に激化しています。一方で新卒採用は一定程度期待できるのですが、課題として思っていますのはやはり、大学教育や法科大学院におきまして、企業法務という選択肢をさらに広く知らしめることが必要であるという点です。
 次のスライドをご覧ください。これは、会社法務部実態調査の結果をもとに、会社内弁護士数の推移をグラフにしたものですが、企業内の弁護士数が急増していることが見て取れると思います。次のスライドは、企業内法務部に所属する弁護士資格保持者を除く法科大学院の修了者数の推移をグラフ化したものですが、前回の調査より2倍近く増加しているということが分かると思います
 次のスライドをご覧ください。法務人材の需要の傾向ですが、会社法務部実態調査の結果を見てみると、法務人材の継続的な増加が見られること、法務部における女性の割合が高まっていることなどの傾向が見えます。法務経験のある中途採用者は着実に普及していて、そのニーズも増加しているということも見て取れます。
 次のスライドに進みます。各企業における法務人材の採用方針です。これは興味深い結果なのですが、1位は、他企業での法務実務経験者ということで、即戦力としての期待があるのだと思います。こういった経験者を採りたいという企業が57パーセントを超えています。2番目が学卒等で、先程申しました通り新卒採用は一定の安定した採用が可能な分野であるというところが反映されているのではないかと思います。3番目が企業内の他部門からの異動。この点は先ほども、今も日本企業では多いということを申し上げました。4番目が弁護士資格のない法科大学院修了者になりまして、5番目が実務経験などのある弁護士事務所所属の弁護士となります。弁護士資格を取らずに企業に入る法科大学院修了者というのが4番目に位置付けられるというのが見て取れると思います。
 次のスライドをご覧ください。企業において、弁護士資格保持者を除く日本の法科大学院修了者の在籍数が非常に増えてきているということを示しています。この人数は前回調査と比較しますと、2倍に増えています。特に大企業において、こうした法科大学院修了者を積極的に採用していることが見て取れます。
 次のスライドをご覧ください。これは日本経済新聞の記事で、これも12月の記事ですが、多くの企業で法務ニーズが高まっている中、法務人材の不足や採用難という課題を抱えているということを指摘しています。
 次のスライドに進みます。法務博士を取得していることの利点は何かという点ですけれども、体系的、実践的な学修をしてきているというところが利点ではないかと思います。企業に入ってきたあとは、一定のOn the jobトレーニングと言いますか、実務経験の積み重ねが必要になりますが、どれだけ早く主体的に動ける実務家になるかは、これは本当に本人次第だと思います。優秀な方で本当にスムーズに実務に入ってくる方も多くいらっしゃいます。また法科大学院を経て企業に入社する場合、学部卒に比べて入社が遅くなるという課題がありましたけれども、この点は法曹コースができたことや、在学中の受験資格付与など新しい制度ができたおかげで、遅れの幅が縮小することが期待できると思います。
 次のスライドに進みます。法科大学院修了生に対する評価ということですが、これも先ほどの話と重なりますけれども、例えば法律知識でありましたり、リサーチ力でありましたり、分析・検討の基礎力というのは鍛えてあると思います。あとは裁判実務にも精通している強みもあると思います。契約書の検討・修正は、これはまだ初歩的なので、入社後に一から鍛え直す必要があるとは思っています。実際の実務においては、事業部から提供される情報というのも、必ずしも整理された状態ではありませんし、事案も毎回違うので、先程の論点整理などの力や、そもそもの法律家としての基礎力がしっかりしているかどうかという点は試されることになると思います。場合によっては正確な事実関係や事業部の意図・事業目的を把握するため、的確な質問力も要求されます。そういったかたちでコミュニケーションを取りながらリーガルサポートを行っていきますので、コミュニケーション力や、場合によってはほかの部との連携などのチームワークも必要になりますので、そうした連携力も必要になると思います。
 次のスライドをご覧ください。法科大学院教育に求めるものという点です。少し提案的なものを申し上げますと、企業法務を通じて日本経済や国際社会に貢献するという1つの法曹のあり方、まずそういった姿をしっかり示していくことが重要ではないかと思います。そうしたことが魅力的に映ってくれるならば、法律の世界を目指す人も増えてくるのではないかと思います。企業では、経済界の内なる者として、いろいろな仕事ができます。企業内におきまして正義の追及もできますし、法的リスクの軽減もそうですし、多くのステークホルダーが企業活動には関係してきますので、企業活動を通じての社会的課題の解決や権利保護など、われわれが社会に貢献できることも非常に大きいと思います。
大事なことは、法科大学院や大学教育の段階から、企業法務というのが活躍の場として有力な選択肢であることをもっと積極的に伝えることが重要ではないかと思います。例えば企業法務で活躍する人材の紹介などを、法科大学院生が最も接するようなホームページの場で紹介するでありますとか、企業法務についての講義を、実際のGeneral Counselや法務部長経験者に行ってもらう機会をさらに増やすことで魅力を伝えるというのも、ひとつのやり方ではないかと思います。これは一部の法科大学院では既に対応していることと認識しております。
 次のスライドをご覧ください。企業法務教育においてどういう点を充実化すべきかということですけれども、やはり法的思考力、分析力、解決案を検討・提案する力、基礎的な思考力等々を、まずは備えてほしいと思いますが、これは現在のカリキュラムでも強化可能だと思っています。現にこの点に力を入れて対応されている法科大学院も多いと思います。実際に企業に入ってきますと実務的な法領域が様々あるわけですけれども、それは企業に入ってきてから学べばよいのではないかと思います。これは会社によっても、事業内容によっても、対象領域もだいぶ異なってきますので、それに合わせて、入社後に学んでいけばよいと思います。特に法科大学院時代は、ケーススタディやディスカッションを充実化していただくのが一番早道ではないかと思います。一方でビジネス戦略や事業目的を踏まえての事業ストラクチャー、ガバナンスストラクチャー、戦略的な契約内容の検討・交渉というのは、応用編として講座化できるならば面白いのではないかなとは思います。先程申し上げました通り、企業内実務を経験した企業内法務の人材が講師になるということで、実務的な視点というものを伝える機会や、企業法務の面白さを伝える機会が増えることが期待できます。コーポレートガバナンスとコンプライアンスは、重要な企業法務の対応分野ですが、これは教育の中で実務を説明するのはなかなか難しいと思われる一方、単に会社法の説明や経済犯罪の説明では私は足りないと思っています。企業の実務にさらに触れるような講座内容にする工夫が求められると思います。
 次のスライドをご覧ください。法科大学院修了生のキャリアを後押しするための意見を申し上げたいと思います。まず今の法科大学院制度は、もちろん法曹、裁判官、検察官、弁護士の養成を担う専門職大学院という位置づけですので、まずは皆さん司法試験を目指すのはナチュラルだと思います。一方で、次のようなかたちで法科大学院から企業を目指す選択肢もあると思っております。現にそういった考えで企業に就職している人もおります。例えば在学中に司法試験に合格して新卒社員として企業に入ってきて、入社後に司法修習を受けるというような方もいますし、法科大学院卒入社で企業で働きながら司法試験合格を目指す方もおります。法科大学院で学んだ知識をもってそのまま企業人として活躍する方もおります。こうした多様な進路があるという情報を法科大学院在学中に提供する機会が少ないのではないかというのが私の感じているところです。これは企業側の努力も必要ですし、法科大学院との連携も必要と思っています。そうした連携を経まして、例えば企業側がどういった条件で採用をするのか、入社後に司法試験受験を目指せるのか、司法修習に行くことは認めてもらえるのかなどの情報を法科大学院生に提供する環境を整えることが重要ではないかと思います。企業側も、法科大学院サイドからの話を聞きながら、採用の環境を整えていくということも大事だと思います。例えば採用の時期であるとか、働きながら司法修習に行くということが認められるかどうかも会社によって違いますので、そういったところの考え方も整理していくのが大事であると思います。
 最後になりますが、企業側の実際の採用方針や採用情報も法科大学院で学生に積極的に共有する仕組みを作ってみてもよいのではないかと思います。先ほど申し上げました通り、会社によって考え方はいろいろと違いますので、学生のキャリアを考える上で企業側の採用情報の発信、共有をすることで、選択肢としていろいろ考えていただくということもあると思います。大きな視点でも、企業法務で働くことがキャリアのひとつの在り方ということの認知度が高まりますと、より学生、特に大学生レベルで法曹を目指す人材の数がもっと増えてくるのではないかという期待もあります。経済界や実業界の中で、実は法務人材が大いに活躍していることがもっとイメージとして定着させることができれば、将来の有力なキャリアの選択肢になり得るのではないかと思います。こういった認識を広げることで、すそ野が広がっていく可能性があるのではないかと思います。私からの説明は以上になります。ありがとうございました。
 
【松下座長】  どうもありがとうございました。大変興味深いご報告であったと思います。それでは只今の高野代表幹事からのご説明についてご質問、あるいはご所感等あればどなたからでもお願いいたします。先程申し上げた通り、ご発言の際には挙手のマークのボタンを押していただくようお願いいたします。どなたからでもご発言いただければと思います。いかがでしょうか。それでは酒井委員、お願いいたします。
 
【酒井委員】  委員の酒井です。ありがとうございます。非常に充実したご報告をいただきまして、興味深く拝聴させていただきました。私自身も共感するところが非常に大きくて、インハウスロイヤーというキャリアをロースクールの側も、今一歩ポジティブに発信して、カリキュラムとしても組み入れるべき時期が来ていると強く感じております。まず私の実感なんですけれども、私ロースクール2期の出身になるのですが、私たちのロースクールの初期の世代が、3年目ぐらいで企業に転職をしていくというキャリアのパターンが多かった時代だという印象がございます。転職した同期の中には国内企業、外資系企業はもちろん、最先端の医療分野の研究機関で生命倫理にも関わるような法務を担っている方もおられます。高野様からのご報告にもありましたけれども、法務の役割が非常に広がっていというのは本当にその通りだと思うところです。
また、この報告にもご指摘があったように、法務部門での活躍はもちろん、それを超えて法的な素養を持った人材が経営に参画していくという時代が来ているという点も強く感じるところです。こういった時代になっているからこそ、現在ではロースクール入学段階からインハウスロイヤーを目指して、ロースクールでの学びを経てインハウスロイヤーになっていくぞという目標を持って入学してくる学生がいる時代になっていると考えます。このようなキャリア選択があるということを前提に、ロースクールのカリキュラムに反映していくことが望ましいと感じます。
 私自身昨年まで法学部でキャリア学修科目を担当していたんですけれども、外部講師10名をお招きするという科目で、2名はインハウスの方に登壇をしていただいておりました。その中で実感をしたこととして、外から顧問弁護士として関わるというアプローチと、中でインハウスロイヤーとして経営判断ですとか、企業としてどういう選択をしていくかということを主眼にして行う法務のアプローチというのはやはり大きく異なるところがあると、私自身も弁護士として実感したところがありまして、その特徴踏まえ、インハウスロイヤーを養成することを主眼にした科目を設定することは、十分に可能のではないかなと考えるところです。
 またもう1点全く別の観点になるんですけれども、インハウスロイヤーというキャリアにフィーチャーをしていくことで、一般の企業就職を志望する方の一部にロースクールを経由して企業に就職しようというような、新しいルートを示せる可能性があるのではないかと感じますので、法曹志望者増という観点の1つからも非常に有益なアプローチではないかなと思いました。雑感ですけれども、以上私からの意見になります。ありがとうございました。
 
【松下座長】  酒井委員、どうもありがとうございました。それでは井上委員、お願いいたします。
 
【井上委員】  はい、井上でございます。高野さん、今日は本当にありがとうございます。大変体系的なご説明をいただきました。私自身も法曹実務家を経てインハウスを20年近くやらせていただいているのですけれども、企業からの法務への期待というのは年々変化していることを感じております。高野さんの資料の32ページにもあったんですが、会社が法曹、法務に求める能力ということで、法律知識のほかに経営目線、ビジネス感覚というのが非常に高いポイントを得ていたのを記憶しているんですが、私も実感しておりまして、外の法曹ですとやはり法律知識ですが、中に入りますとビジネス知識、ビジネス感覚が大変求められます。法務をバックグランドに持つビジネスパーソンというのが期待されております。昔はちょっと職人的な、契約だけ見て依頼部門に返すという仕事だったんですが、今は経営につながる場面が増えておりますので、新しい若い学生さん、あるいは社会人にとっても非常に魅力のあるキャリアプランが描ける状態になっていると思いますので、それを法科大学院の中でぜひ強くプロパガンダ、宣伝、広報していただくと優秀な学生さんと企業をつなぐことができるのではないかと改めて感じました。法曹資格有無にかかわらず企業では活躍できるというのが正直なところですので、その辺も含めて学生さんにニーズを伝えるのはとても大事だなと思いまして、一言お話させていただきます。以上です。
 
【松下座長】  ありがとうございました。ご意見ということで伺っておくということでよろしいでしょうかね。それでは続きまして清原委員、お願いいたします。
 
【清原委員】  はい、ありがとうございます。杏林大学客員教授、前三鷹市長の清原と申します。本日は高野様には経営法務について総括的にご説明いただき、展望を開いていただいてありがとうございます。お話を伺って、2点質問をさせていただきます。1点目は本日45ページにまとめていただきましたように、法務博士も含めて企業において法科大学院でのキャリアを生かして、一つには入社後に司法修習を受ける、2番目には、働きながら司法試験合格を目指す、さらには法務博士として活躍していくという、そんな複数の道筋が示され、企業法務に対して法科大学院の学生さんにもっと知ってほしいなと私も痛感いたしました。そこで例えば、経営法友会の皆様と、それから法科大学院協会の皆様との連携を強固にしていただいて、例えば法科大学院の学生さんにもっと企業訪問、あるいは企業への就職の道筋についての情報提供を継続的に深化していくような方向性はお考えにあるかどうか、お聞きしたいのが1点です。
 2点目は、本日の資料の14ページから15ページにかけて、「企業を取り巻く環境の急激な変化」についてポイントをお示しいただきました。そうであるならば、企業法務で働いていらっしゃる方についても、「リカレント教育」や「学び直し」が必要ではないか、「研修」の推進が必要ではないかと思いました。そこで、現在企業法務で働いていらっしゃる皆様と法科大学院の皆様との「リカレント」、「学び直し」の連携も必要ではないかなと思いました。もちろん独自に研修はされていらっしゃると思いますし、既に法科大学院と連携もしていらっしゃるかもしれないんですが、企業法務に携わる皆様の、これだけ激動する社会変動に対応していくために、現役の企業法務家と法科大学院との連携について、展望があればお話いただければありがたいです。以上です。よろしくお願いいたします。
 
【松下座長】  ありがとうございました。それでは高野代表幹事、2点についてご回答いただけますでしょうか。
 
【高野代表幹事】  はい、ありがとうございます。実は経営法友会でも法科大学院に出講して、企業法務を紹介する活動を積極的に行っています。各会社も独自にこれを行っているところも多く存在すると認識しております。こうした活動はさらに強化していきたいと思います。先程の採用情報の共有については、私はこれがまだできていない点だと思っていまして、特に採用後の司法試験対応や司法修習対応については、各企業によって考え方は様々であろうと思います。例えば三井物産の場合は、入社後に司法修習に行くケースもありますし、法科大学院を卒業して入社後に働きながら勉強して司法試験に合格した実例もあります。しかしながら企業によっては未だそういった環境を整えていない場合もありますので、私は本日のような場でのディスカッションをしっかりと企業側にも共有して、より法科大学院生が企業に就職しやすい環境を整えることを啓蒙していくことが重要ではないかと思っています。
 あとリカレント教育のところは、実はこれは本当にわれわれの仕事では重要な点でして、企業を取り巻く変化の中でいかに最新の法律知識を学んでいくかは大変大事なところです。特に現在は、グローバルに様々な動きがありますので、欧州発の動きやアメリカ発の動きがグローバルに、日本にも影響してきますので、特にわれわれのような総合商社にとっては、新しい法令動向の把握や知識の習得はデイリーワークの1つになっています。従いまして、これは法務業務を行う上での最低限必要な部分の1つになっていると思います。実務的な面もありますので法科大学院として行うにはちょっと難しい面もあるのではないかとも思いますが、もしそのような講座を検討する場合は、企業における実際の実務対応をご理解頂くことが必要と思います。どうもありがとうございます。
 
【松下座長】  ありがとうございました。それでは髙橋委員、お願いいたします。
 
【髙橋委員】  ありがとうございます。本日は大変参考になるご報告をいただきまして誠にありがとうございました。法学部、法科大学院と両方で企業法を教えておりまして、企業法務を専門にしたいと考えている学生と触れることが多いので、個人的にも大変勉強になりました。先程酒井委員から、早い時期からの情報発信の必要性があるというご指摘がありましたけれども、学部生には、民間企業への就職を志すほかの学生と同様に、ビジネスパーソンになりたいと考えつつ、大学で学んだ法的思考力を活かしたいと考えて法務部を志す、あるいはその法務部へのあこがれを口にする学生が少なからずいるように感じております。他方で、先程もご説明にあったように新卒採用が盛んに行われているためか、そうした学部生の中には、法科大学院に進学することに積極的な意義が見出せないという発言をする学生もおりまして、学部の卒業時点である程度志向が二分化してしまうところもあるように個人的には感じております。
そこで、貴重な機会ですので、学生の関心が実際高い事項として1つご教示をいただければと思っております。企業様によってもだいぶ異なるようにも聞いておりますので、一般化は難しいのかもしれませんけれども、新卒の学生と法科大学院修了の学生に期待するところとして、法律知識の豊かさという点以外にどのような相違があるのかということをご教示いただければと思います。また、可能であれば、両者の間で人事や待遇面について相違があるのかということについても教えていただければ大変ありがたく存じます。以上です。
 
【松下座長】  それでは、可能な範囲で、ということだと思いますけれども、よろしくお願いします。
 
【高野代表幹事】  はい、分かりました。大事なことは、これは本当かどうか分からないのですけれど、今は法学部よりも経済学部のほうが人気があるというような話を聞いたことがありまして、それが本当だとすると、ビジネスの世界に対する憧れみたいなものを学生も持っているのではないかなと思いました。実は法務の世界でも、例えばM&Aや合弁事業、プロジェクトといった分野で活躍している法務人材も多数いるわけです。ですので、こういった法務の専門性を利用して経済界で活躍する人材の姿をいかにして早い段階で伝えていくかはとても大事ではないかと思っています。大学は勿論ですが、もしかするとこれは高校レベルでも伝えていくべきことかもしれません。
学部卒と大学院卒の方の違いというのは、明らかに体系的な知識もそうですが、いろいろな訓練と言いますか、例えば論点整理やディスカッション、ケーススタディの類を非常に多く経験していますので、入社後の初期教育が法科大学院卒の方は楽と言いますか、基礎力はしっかりついていますので、導入段階がスムーズではないかと思います。これは学部卒の方と同じ場でディスカッションをやってみても、そこの差はかなりはっきりと出てくるケースもあります。ただ実務対応力というのはさらにOn the jobトレーニングをしっかりやって育んでいく必要があります。実務家として独り立ちするスピードは、先程も言いましたけれども、本人の資質によるところもあります。
 人事的な処遇の差ですが、例えば学卒の方と明らかに違うのは、法科大学院卒という「大学院卒」での入社になりますので、入社したときに入社年次の換算が、大学院相当で扱う対応をしている会社は多いのではないかと思います。話はそれますけれども、弁護士資格を持っているから特別な賞与がついているかどうかという点につきましては、そこの違いはあまり設けていない企業が多いと私は認識しておりますが、ただ企業側としても様々な工夫を進めていると認識しております。例えば三井物産ではエキスパート制度というものを設けておりまして、エキスパート人材として別のかたちでの処遇態様ができるかたちにしております。企業側もそうした処遇において柔軟性が持てるような対応に変えてきているとの認識でおります。以上になります。
 
【髙橋委員】  ありがとうございました。
 
【松下座長】  ありがとうございました。それでは佐久間委員、お願いいたします。
 
【佐久間委員】  今日は参考になるお話をどうもありがとうございました。今の髙橋委員とだいぶ重なるところがあるんですけど、結局現状では、法務部門に学部卒の方もだいぶ入っていると思うんですが、今回ご提案いただいたように法科大学院教育が充実した暁には、だんだん人材の供給元量が法科大学院にシフトしていくのか、それとも法務部門の人材が足りていないので、長期的にも学部卒がある程度残るのか、そこら辺何かお考えあれば聞きたいです。
 
【松下座長】  いかがでしょうか。
 
【高野代表幹事】  ありがとうございます。当面は多様なルートでの採用は続くのではないかと思います。法科大学院に入る方は司法試験を目指しますので、司法修習を経て入ってくるケースもありますし、一方では法科大学院卒業後にそのまま企業を目指すという方も一定数おります。弁護士事務所で一定期間働いたあとに企業に転職するケースも増えてきています。そこは採用ルートの多様化を維持したまま、選択肢として企業法務が1つの活躍の場として非常に素晴らしいということを伝えていくこと、有力な選択肢の1つとして頭の中にしっかりと浮かぶよう認識を高めていくことが大事であろうと思います。
 学部卒の採用は継続することになると思います。企業において法務人材が益々必要な時代ですし、着実に一定数の法務人材を確保していくためには、学部卒の採用は重要な採用ルートになります。母数もかなり法科大学院生と大学生では違いますし、先程言いましたように弁護士の絶対数も少ないですから、企業側は門戸を広く開いて、多様なルートで多様な人材を採用していく時代がしばらくは続くのではないかと私は考えております。ありがとうございました。
 
【佐久間委員】  法科大学院を含め人社系の大学院に関しては、キャリアパスの課題がありますので、ちょっと伺った次第です。どうもありがとうございました。
 
【松下座長】  ありがとうございました。現在田村委員、中川委員、大澤委員、大貫委員から手が上がっていますが、時間の関係もございますのでその4方の質問が終わったら次の議事に進みたいと思います。田村委員が順番で言うと一番手を挙げたのが早かったと思うので、田村委員お願いいたします。
【田村委員】  ありがとうございます。札幌で弁護士をしております田村でございます。高野部長、大変貴重なお話どうもありがとうございました。私は法科大学院開設以来、ずっと法曹養成に関わっていまして、非常に感慨深い思いを抱いています。と言いますのは、20年近く前に地元の大学で実務家教員をしていた当時のことですが、法曹人口が拡大しても企業内弁護士は本当に増えるのか増えないのかというような議論をしていました。当時私は学生向けの教科書を執筆した中でも、対立構造でそうした話を紹介したようなこともありまして、何故そのような見方を当時していたのかということなのですが、地元の北海道でも、たとえば銀行が新しい投資関連商品を開発する際に、どんな法的リスクがあるのかのようなことは内部でいろいろ検討しないといけない仕事というのが一方でありましたが、他方海外投資案件に関係して、現地の法律問題に関わるということは北海道ではほとんどお目にかかることはないという状況下で、実際に若手の弁護士は法律実務家を目指して事務所に入るというのが通常のニーズであろうとか、そもそも社内弁護士が担う仕事が増えていかないとすると、それまでの法務部員が担う規模で足りるのではないかというような、このような対立構造での議論が実際に行われていました。
しかし、その10年後には企業法務の規模は拡大し、実際法の支配とか人権感覚に非常に優れたトップの下で、ゼネラルマネージャーとして役割を果たす弁護士が増えてきているというのを、私が弁護士会の役員をしていた10年前に身近に感ずるようになったところであり、いまや社会の意識や構造が大きく変化して、昨日の日経新聞の一面にコンプライアンス違反倒産が増加しているという記事が出ている状況でございます。そういう中で若手弁護士の中にも、先程ビジネスへの憧れがあるというお話がありましたが、企業の最前線で働きたいというかなりのニーズがあります。さらには女性比率が高いというお話が部長からもありましたが、ワークライフバランスを重視するというのは当然の流れで、これはとりわけZ世代の人たちが登場してくるとますますそういう需要が高まっていくのかなと思っています。
 現在企業がIntegrityを重視している社会ですので、法務のトップが経営の中核に関わることで、企業の価値がますます高められていくと思っています。上場企業は、4,000社近くあるんでしょうかね。企業内弁護士に限るとまだ3,000名超えたぐらいだと思います。もちろんロースクール資格を持つ法務部員の方も含めると、相当数がいると思うんですが、まだまだ足りないし、ニーズがあるというのが現状だなということがよく分かりました。その上で、今日のテーマである、これを踏まえての必要な法科大学院教育なのですが、私はこれまで法律実務家を養成する教育とは何ら変わるところがないと、20年前に教えていた当時も思っていましたし、今も思っています。
法律家に必要な能力というのは要するに具体的な事案から争点を見つけて、それに関わる法律問題を手際よく取捨選択していく能力。そして置かれた状況の中で最も依頼者のためになる、依頼者の利益に資する法的な裏付けのある論拠を、きちんと解決策を踏まえて導くという能力であると思っています。今日のお話の中で、リスクが高まっている社会の中でオポチュニティの観点が必要だ、その中でソリューションの提案が必要だという部長のお話がありました。まさに企業自らどうやってプロテクトしながら企業価値を高めていくという観点で必要なことなのだろうなと思っていまして、これは一般民事訴訟でも、コーポレートガバナンスでも、契約の締結や交渉しかり、刑事事件でも、どれをとってもきっと変わらないことだろうなと思っていまして、ますます今日の部長のお話を聞いて、ますます意を強くしたというところでございます。本日はどうもありがとうございました。所感でございます。以上であります。
 
【松下座長】  どうもありがとうございました。それでは中川委員お願いいたします。
 
【中川委員】  神戸大学の中川です。本日はありがとうございました。手短に3つ質問と、それから1つコメントです。
まずは,Integrityという言葉が気になったんですが、これがいわゆるヒューマライツとビジネスの話とか、あるいはマネロンみたいな話を指しているのか、それとももう少し広い意味なのかというところ、これが質問の第一です。
第二は、法科大学院において、企業内法務への道があるということがあまり知られていないという実感があるとおっしゃられたんですが、私は逆で、その道があるということ自体はさすがに今の法科大学院生は全員知っているんじゃないかと思っているんですね。そこら辺、どういうところから知られていないとお感じなのかということをお尋ねしたい、これが2点目の質問です。
3点目は意見なんですが、もしかすると法科大学院生に知られていないとおっしゃったのは、単に道があるないという話ではなくて、企業内法務とは何かということが知られていないというもっと深い意味なのかなとも思いました。それにつきましては、これは高野さんよくご存じかもしれませんが、神戸大学の場合は島岡聖也さんが非常に強く旗を振っていただいて、かなり強力な企業内法務の授業をやっていただいています。それを拝見すると、現役の企業内法務のその場にいる人が、企業でどのように事件というのは起きて、どういう事実があって、しかしその全てを外部法律事務所に言うわけにもいかない。かつ経営判断もある。その中でどういうふうに事件、事案の姿を作って解決につなげていくのかという、非常に生々しく、しかしエキサイティングな話をされているんです。これはとてもじゃないけど大学のほうで授業をセットするのは不可能なんですね。
実際われわれ見ていても、われわれの場合はOB、OGの方が献身的にやっていただいているんですが、事業の構成から講師まで全て島岡さんチームがやってくれているんです。そこまでやっていただいて初めて授業が可能だということがよく分かります。非常に高度な授業なんです。ですので、その深い意味で企業内法務を法科大学院生に伝えようと思うと、逆に言うと大学側としては、授業の中身は全部おまかせというスタイルにならざるを得ない。そういう難しい内容ですので、経営法友会の方、あるいは各企業の方で積極的にそういう体制を組んでいただかないとできない授業だというのが、これはコメントと言いますか、情報提供です。
 最後がもう一度質問です。ちょっと厳しい質問になるかもしれませんが、法科大学院修了者が、企業内法務に魅力はあるけれども必ずしも多くの人が行っていないという現実がある。修了者のうちとりわけ司法試験合格者が企業内法務に行く割合が少ないと思うんです。学生が迷うのは一度法律事務所の弁護士になってから企業内法務に行く道がある。しかしその逆がないんじゃないか。一方通行ではないかと。つまり一度企業内法務に行く場合は、あとはGeneral counsel、つまり経営層に行くことを目指すという道は確かにある。けれども、弁護士に戻る、弁護士になるという道がない、というところで、だったらより広い可能性のある弁護士になろうかと、法律事務所の弁護士になろうかと考えているように私には見えます。ですので、今後経営法友会として企業内法務の在り方は、今のままでその企業で、ほかの企業に移るかもしれませんけど、企業の中でより上を目指していくという養成の仕方だけをするのか、それとも法律事務所にも行っていい,行けるような能力も開発できるような、つまり企業内法務のほうでも法廷に立つと。そういう方向に発展することを考えることも今後あるのか。それがあれば非常に多くの学生が企業内法務を最初から目指すことになるんじゃないかと思っております。最後は本当に私の感想と言いますか、感じていることで、質問でもあるんですけど、以上です。
 
【松下座長】  ありがとうございました。それでは3つぐらい質問があったと思いますが、高野代表幹事のほうからよろしくお願いします。
 
【高野代表幹事】  それぞれ非常に鋭い質問をありがとうございます。Integrityという言葉は、われわれは企業人として正しいことを行う姿勢という意味合いで使っております。コンプライアンスという考え方はどちらかというと受け身で、そうではなくて、企業人として正しいことを貫くというIntegrityの考え方は、人の心を正しい方向にポジティブに動かすのではないかと考えております。その方が社員にも響くのではないかという考えのもと、Integrityというコンセプトを活用しています。当社の場合、法務部発で、「With Integrity」というグループ行動規範を導入し、三井物産グループ全体で事業を行いながら正しい姿勢を貫こうという活動を始めて、これが今や三井物産の経営理念の1つにも組み入れられております。そういった目的で、正しい姿勢を貫くという広い意味でIntegrityという言葉を使っております。
 2番目の講座の内容ですけれども、島岡先生の講座は、これは相当面白い講座であろうと私も想像できます。私が課題として感じているのは、現在の法科大学院におきまして、企業内で法務人材がどのように活躍しているのかを、自分の将来の姿として希望を持って聞けるような、そういった伝え方ができているかどうかという辺りです。実際に企業において、どのように実務対応をしているのかというのはなかなか伝えにくいところもありますし、各社そこまで踏み込んで紹介するのは難しいところは確かにありますが、企業法務という選択肢の実際の姿や、企業内で法務人材がどのような活躍をしているかということを、もっと生き生きと伝えることによって、自分のキャリアとしてのイメージがもっとわくようなかたちで伝えていくことが大事ではないかと思っております。
 あと、先ず企業に入社してから弁護士事務所に転職するというケースは確かにあまりないとは思うのですけれども、私は裁判実務というよりも例えばコーポレートガバナンスとかコンプライアンスというような切り口で企業実務を経験した上で、弁護士事務所で活躍する人材が出てきても、これはおかしくないと思っております。ただ、実例はまだ少ないですね。正直申しますと、企業側は今法務人材が足りないので、あまり外に転職してほしくないという気持ちがあります。自社で長く働いて頂くためには、できるだけ魅力的な環境を整えていく姿勢が大事だと思っております。そのような状況でありますので、積極的に外部事務所でも活躍できるような、そういう道を作っていくということは、多分各企業はあまりやってはいないと思います。ただ一点強調したいのは、企業内においても実務家としての専門性をもってキャリアを積むルートもあるという点です。我々は日々の仕事において、例えば先程のM&A、合弁事業、プロジェクトなど、企業実務ならではの知識と経験を積むことができますし、外部弁護士に伍するような知識と経験をしっかりと持つことはとても大切なことだと思っています。話が少しそれますが、外部の弁護士に丸投げするというのは会社経営上、コストマネージメントやクオリティマネージメントの観点でも良くないことです。自分たちもしっかりとした専門性を持っていないと、外部弁護士との強固な連携ができません。したがい、企業としても専門性をしっかり高めることは取り組んでいるところでありますし、先程例に挙げましたコンプライアンスやコーポレートガバナンスは、企業内にいないと実際の運営が分からないという面が相当ありますので、企業を経験した上で弁護士事務所で働くというのは十分選択肢としてあるのではないかと思います。ありがとうございます。
 
【中川委員】  ありがとうございました。
 
【松下座長】  ありがとうございました。中川委員、よろしいでしょうか。
 
【中川委員】  結構です。
 
【松下座長】  はい、どうもありがとうございました。それでは大澤委員お願いいたします。
 
【大澤委員】  東京大学の大澤でございます。高野さん、今日はまとまったお話をいただきましてありがとうございました。今、中川委員が言われたこととも関わりますけれども、私も企業法務という進路の選択肢があるかどうかということで言うと、今の法科大学院の学生は、その点は十分に意識しているように思いますし、少なくとも東大の法科大学院の学生は、実はかなり企業法務の分野にも進んでいると思うのですけれども、そのことにも現れているとおり、よく知っているのではないかという気がいたします。ただ企業法務の現場の方が教員の中に常勤でおられると、ロールモデルにもなりますし、いろんなことが聞ける機会も増えて、それが大きな役割を果たすように思います。東大の場合には、ご承知の通り、そういう教員の方がおられますので、それが非常にプラスに働いているかなという気がいたします。
裁判官、検察官、弁護士だけではなくて、企業法務というのも法律を専門的に学んだ人たちが、そして法科大学院を修了した人たちが進む1つの進路として大きな存在になっていると思いますので、そういう意味では、できれば企業法務の現場の方を教員としてお迎えして授業をしていただくというのが非常にいいように思います。そのための窓口みたいなものですよね。個別の企業に頼んでいくのはなかなか難しい場合もあるかもしれません。そのときに例えば経営法友会が窓口になってそういうつなぎの場を作っていただけるということになると、大学としてもまたお話がしやすいというところがあるのではないかという感想を持ちました。
それからもう1つ、ロールモデルというお話をいたしましたけれども、1回限りの講演で話を聞くとかそういうことだけじゃなくて、ある程度継続的に接して話ができる場があるとよいのではないかという気がいたします。常勤の教員としていていただくという話をいたしましたけれども、そのような形に限らず、先程、清原委員からリカレントの話がございましたけれども、企業法務の現場の方々に、例えば法科大学院の先端的な授業に聴講生として参加していただいて、そこで学生と一緒に学んでもらうというのも接点を作る1つの方法ですし、その場合、お互い高め合える関係が作れるというところもございます。そのような授業を法科大学院側でしっかりと提供することが前提になりますけれども、そういう方法もあるのかなということを思った次第です。
 教員の話を先程しましたけれども、例えば講演をしていただくというときにも、個別の企業に頼んでいくというのはなかなか大学としてはやりにくい場合もあるかもしれなくて、お願いの窓口として、例えば経営法友会が間に立っていただけると話もしやすくなるところがあるかもしれないと思いました。感想めいたことで恐縮でございますけれども、以上でございます。
 
【松下座長】  どうもありがとうございました。高野様から何かございますか。
 
【高野代表幹事】  講師という意味では、経営法友会を介して出講しているようなケースもありますので、これからニーズが拡大していくようでれば、どういうかたちで進めていくのが良いか、これは検討していくべきところかなと思います。あとリカレント教育も、私も決して否定しているわけではなくて、良いテーマがあれば、特に学生の方と若手の法務部員が一緒に学ぶような場が、実際にそういう場が現在もあるとは思うのですけれど、例えばサマースクールのような場で参加し合い、そのような場で、企業法務でどのような働き方をしているかを共有するというのは、これは非常に貴重な機会になると思います。そのような場を設けることができれば素晴らしいことではないかと私も思います。ありがとうございます。
 
【松下座長】  ありがとうございました。それでは大貫委員お願いいたします。
 
【大貫委員】  高野さん、素晴らしいプレゼンありがとうございました。中央大学の大貫です。最後のほうになりますと、既に清原委員と大澤委員が言われたことと重なるんですけども、繰り返しになりますが感想を申し上げますと、今プレゼンをお伺いしますと、本部の役割として紛争対応とか危機対応など、いわゆる問題事例対応の任務に加えて、むしろ経営判断における法務支援とかコーポレートガバナンス、General counselというような、語弊がありますけど、平時の経営活動の支援法務というのが大変大きな比重を占めているということが分かりました。これが1点本日非常に印象的でした。
 2点目ですが、こうした任務は平時の経営活動の支援法務ですけれども、予防的法務、経営戦略の法的支援というような位置づけができるかと思います。こういった事例は紛争解決事例を中心に学んでいる法科大学院で、必ずしも中心的に扱われているものではありません。しかしながら、先程田村委員から力強い言葉をいただいたように、この紛争解決事例を通して法律学者、法曹実務家の問題発見能力、問題解決能力の提案の基礎が鍛えられているので、必ずしも無縁ではないんですが、やはり法科大学院では紛争解決事例を元に、紛争を解決するという視点での授業が多いんだろうと思います。
基本的に先程高野さんからも何度も出てきていましたけれども、いわゆる平時の法務と申しますか、経営活動の支援法務の基礎というのはOn the jobで基本的に習得するものなのかなという気がいたしました。もちろん先程からいろいろ意見が出ていますように、法務ということがどういうことをやっているのか、どういう活躍をしているのかといういわゆる入口的なところは法科大学院で紹介してもよろしいんだと思いますけれども、やはり本格的なところ、例えば高野さんがおっしゃったガバナンスストラクチャーの話、事業ストラクチャーの話とか企業法務の実務なんていうのは、これはなかなか法科大学院で正面から取り扱えるものではないだろうと。On the jobにお願いするのが適切ではないかと思っております。
そこで、じゃあ法科大学院が何もできないかというと、ここで清原委員と大澤委員の言っていることと重なってしまうんですが、リカレント教育というのはやはり大いに考えられるのではないかと思いました。先程中川委員からも、法務の非常にディープなところをやるとなかなかやりきれないということがありましたけれども、恐らく学生の側もなかなか取りきれないというところもございますので、むしろ平時の経営活動の支援法務の、まさに基礎なり発展というのは法科大学院だけではできませんけれども、法科大学院修了後にリカレントというかたちでお支えするということが考えられるのかなと思った次第です。清原委員と大澤委員の見解と重なりますけど、私の意見でございます。
 
【松下座長】  ありがとうございました。それではこれまでで何か高野様のほうから何かございますか。
 
【高野代表幹事】 今の最後の点についてだけ少しコメントさせて頂きます。平時の経営活動の支援法務が予防的法務、経営戦略の法的支援というような面がある点はご指摘の通りだと思います。悩ましいことに今は平時が平時ではないといいますか、現在企業は次から次へと出てくる様々な複雑化・高度化したリスクに囲まれており、われわれ法務部のサポートが従来にも増して求められるようになった理由はそこにもあるのではないかと考えております。ご指摘のあった部分のトレーニングは、企業に入社してからという面は確かにありますが、法科大学院においても何かできないかという点は、引き続き考えていきたいと考えております。現在企業を取り巻くリスク、グローバルトレンドも理解しつつ、そのような環境下、様々なことを、最終的に企業法務として判断していくという局面、投資判断や紛争解決などがそうですが、また、会社対応や対応体制を積極的に提言していく局面などは、外部弁護士とも一番違うところでありまして、その究極のところの力を鍛えるには、どのようなトレーニングをしていくの有効かという点については、なかなか良いアイデアが出てきておりません。
確かに紛争解決視点でのトレーニングは、これもリーガルの力が総合的に試されるところでありますので、そこでの鍛錬は非常に有効であることは私も同感です。ただ、もう少し企業法務の実態にフィットする講座の在り方はないか、ここは引き続き考えていきたいと思います。具体的な企業法務に関する講座のアイデアが整理できましたら、ぜひ皆様方と改めて共有したいと考えております。どうもありがとうございます。
 
【松下座長】  どうもありがとうございました。それでは挙手をいただいた方にはご発言を一通りいただきましたし、時間のこともありますので、議事の1については以上とさせていただきます。改めまして高野様には大変素晴らしいプレゼンと質問に対するご回答、どうもありがとうございました。心より御礼を申し上げます。
 
【高野代表幹事】  どうもありがとうございました。
 
【松下座長】  それでは続きまして議事の2、法学未修者教育に進みたいと思います。法学未修者教育につきましてはこれまでもこの委員会で議論が進められてたきたところですが、多様なバッググラウンドを有する法曹の輩出に向け、重要な議題でございますので、今期も引き続き議論を深めてまいりたいと思います。まず事務局から資料の2-1、通しの27ページですね、の論点例を示した上で、資料の2-2から2-4に基づいて、未修者の入学者選抜について、事務局で調査した結果などについてご説明いただきます。その後、資料の3、通しで言うと103ページからですが、一橋大学法科大学院の本庄武法科大学院長より、未修者教育の取組や課題についてご説明をいただきます。質疑はその2つが終わったあと、まとめて最後に行うこととさせていただきたいと思います。それでは資料の2について事務局からご説明をお願いいたします。
 
【保坂室長(事務局)】  事務局でございます。このあとの本庄様のご発表、質疑応答がメインかと思いますので、資料2関係についてはごく簡単にご紹介させていただきます。通し番号の27、資料2-1をご覧ください。今回法学未修者教育に関してご審議いただくにあたりの論点案になります。総論については今期の審議開始にあたってお示しした主な論点案から抜粋したものです。また各論として4つお示ししています。1つ目、入学者選抜についてどのような取組、工夫が行われているか、どのような課題があり方策としてどのようなものが考えられるか、ということです。この論点に関連して文科省で調査を実施し、資料の2-2にまとめています。2つ目、法学を学修したことのない者と学修したことのある者が混在する中で、教育の充実に向けどのような方策が考えられるか。3つ目、在学中受験を選択する者、しない者、それぞれの対応について配慮すべき事項はあるか。なお受験の状況について本日資料5として用意しております。4つ目、修了者への学修支援、修了者との関係構築の充実に向け、どのような方策が考えられるか。以上の点を中心に、このあとの本庄様のご発表もお聞きいただいた上でご審議いただきたいと思っております。
 続いて通し番号29ページ、資料の2-2をご覧ください。今回34校の法科大学院に対して文科省から調査のお願いをさせていただきまして、まとめたものとなっております。32ページに未修者選抜の実施状況の概況を載せております。34校、全校がいろんな区分を設けて113件に渡る区分、選抜を行っているということでございます。うち特定の者を対象とする選抜枠を設けているものが30件14校ありまして、一番多いのが社会人経験で19件12校となっています。次いで法学以外の学部出身者14件、外国語能力、海外大学出身者ということを測るというので16件というかたちになってございます。
 34ページをご覧ください。小論文、対面審査、書面の組み合わせとしてどういったかたちで実施をされているかという概要でございます。小論文、筆記試験や対面、書面、全部実施をしていて、かつ一番件数が多いものとしては学業成績、志望理由を問うた上で、外国語能力の提出書類に関しては任意とするものというのが49件16校ということで一番多くなっております。次いで全体で件数が多いのは、対面審査を行わない上で学業成績、志望理由に加えて外国語能力を任意とするもの。これが26件というもので、合わせますと75件ですので半数を超えるというかたちでこれが一番行われています。なお下段にあります通り小論文を課すのが98件、86.7パーセント。対面審査は84件、74.3パーセントとなっております。以下の35ページから38ページに関しましてはそれぞれの審査において図っている資質、能力等々についてまとめたものでございます。適宜ご覧いただければと思います。
 39ページから、入学者選抜での適性・能力の評価、判定に係る取組、工夫、また課題についてまとめております。40ページご覧いただきますと、この回答例にあります通り、一番上の丸ですね、一番多かったのが全ての志願者に対し3つの審査を加えて判定をすると。次いで社会人経験者や法学部以外の学部出身者の一部の志願者については面接審査を行って、適性・能力を判定するといったかたち。こういったことで工夫、取組がなされているということです。41ページ、課題ですが、一番上の部分ですね、未修者については法的知識及びその運用能力を試験することなく選抜するということで、適性・能力を見極めることが難しい。これはやはり多数挙げられております。また次いで入学者選抜の成績と入学後の成績は相関しない場合があるというところも多数で、こういったところで非常に共通して課題があるというところでございます。
 42ページについては多様性の確保に関して取組、工夫と課題ということです。43ページご覧いただきますと、一番上、特定の者を対象とする選抜枠を設定。これは先程ご覧いただいた通り、いろいろな仕組みが設定されています。また2つ目は学修歴、語学試験や各種試験の成績等々、こういったところで多様な観点から評価をしているということが取組としてあります。
 次のページ、44ページ、課題としては一番上ですね、多様なバックグラウンドを有する入学者が、法律学のみを学んできた入学者に比べて合格率があまり高くない。司法試験の合格率の向上と多様性の確保のジレンマに苦慮しているということでございます。これは大学未修者コースの中での比較ということの回答です。大学によって様々な状況かとは思いますけれども、こういった回答もあったということです。2つ目ですね、入学者の多様性の確保が要請される一方で、標準修業年限修了率、司法試験合格率の向上を求められているけれども、両者は実際上両立しないと。この両立に苦心をしているということでございます。
 最後は45ページ、選抜の変遷についてお尋ねをしました。46ページに主なものを書いてございます。主要な変更について各法科大学院にお聞きしたところ、特に多く見られた回答は下記の通りということで、一番上が特定の者を対象とする選抜枠の新設です。これは今でも残っているものも多数ございますけれども、廃止をしたものもあるということでいろいろな変遷が見られたということでございます。次の部分ですね、提出を求める書面、面接審査の追加、記載を求める実務の追加等、こういったもので分量を増加して対応するといったものも多くあったということでございます。また一番最後は平成30年から全国統一適性試験が実施されなくなった、これを受けての見直しということも多かったということでございます。
 47ページは、少しでもその変遷の過去の状況が視覚化できないかということで作成したものでございます。特に大きな傾向、各大学それぞれにそれぞれの時期で、ということだと思いますが、特に選抜枠や審査内容、選抜の実施回数に関しましてはいろんな年度にいくつかの大学院が多く変更をしているのが、記号の多さで少し感じていただけるかなと思います。以下の48ページ以降は参考情報としまして各大学院での取組、工夫をもう少し具体の記述とともにご紹介をしているということでございます。
資料の2-3、2-4については、未修者関係のデータと中教審の議論を経ておまとめいただいた未修者の選抜のガイドラインをつけております。ここは適宜ご参照いただければと思います。事務局からは以上です。
 
【松下座長】  ありがとうございました。それでは続きまして資料の3について、一橋大学の法科大学院の本庄院長よりご説明をお願いいたします。
 
【本庄院長(一橋大学)】  それでは説明をさせていただきます。一橋大学法科大学院の本庄でございます。今日はこうした貴重な機会を与えてくださいましてありがとうございます。それでは早速説明に入りたいと思います。
 まずごく簡単でございますが、一橋大学法科大学院の概要についてであります。入学定員は85名で、うち未修者は20名となっております。入試の方法については、先程もご紹介があった小論文、対面審査、書面の3種類の選抜を全て行うということで、一次選抜では英語の外部試験について書類審査を行っております。二次選抜で、未修者は小論文の試験で、それから自己推薦書、学業成績等で二次選抜を行います。最後に三次選抜で面接試験を行っているということでございます。面接試験は人間性や意欲を見極めるという趣旨で実施しているものでございます。手間はかかりますけれども、これによって良い人材を獲得することにつながっているのではないかと考えております。
 それでは次、3ページ、現状です。今年度は、1年は定員ちょうど20名おります。2年生、3年生については定員よりやや多いという状況になっております。のちほどもご紹介するように、標準修業年限で修了する学生が大多数でございますので、留年している学生は非常に少なく、このような状況になっております。
 次のスライドです。司法試験の合格の実績です。合格率を単年度で見ると、4年分載せておきましたが、表の通りになっております。今年度の入試については180名が受験をし、合格者は121名、合格率は67.2パーセントということになっております。なお在学中受験については、非常にいい成績であったと考えておりまして、合格率83.3パーセントになっておりました。在学中受験率については、ほとんどの在学生が在学中に受験をしました。既修者についてはほぼ全員が受験をしており、未修者についても大部分、具体的には15名中11名が受験をしたということになっております。法科大学院開設以来の累計合格率というデータがございまして、これによると83.5パーセントの修了生が合格をしているということで、これは非常に高い値です。学生の努力の結果であると考えております。
 それでは次のスライドです。ここから未修者教育の話になります。まず受験の倍率なんですけれども、少し前までは受験倍率が長期的に低下傾向にあって、このままではまずいのではないか、ということをずっと議論しておりました。ですが、コロナ禍になりまして競争倍率が回復し、令和3年度以降は倍率が高い状態を維持できております。この要因なんですけれども、コロナ禍で英語の外部試験がそもそも実施されなくなってしまったため、一次選抜を実施しておりませんでした。そのため志願者が増えたということは容易に想像できます。ところが令和5年度以降は一次選抜を復活をさせたのですが、倍率はまだ高い状態を維持できているという状態にあります。これがなぜなのかにつきましては、いろいろな仮説はあるのですが、決め手になるような考えはまだありません。理由は不明であるものの、現状としては高い受験倍率を維持できているということでございます。
次、6枚目のスライドで、未修者の入学者の数ですが、令和2年度は13名と少ない状態でした。これは先程の受験倍率との関係で、未修者の入学者数を絞らざるを得なかったためであります。多くの志願者を確保できた令和3年度以降はほぼ定員に近い入学者を獲得できているという状況であります。その中で社会人の方と他学部出身の方に常に一定数入ってきていただいているということで、これが1つの特色といえるのではないかと考えております。ただしこの他学部という括りなんですけれども、この中には本当に法学を学ぶのは初めてという方もいらっしゃいますが、そうではなくて、法学部ではないものの、例えば法学科の出身の方であるとか、法学科ではなくても一定の法律科目を学んできている方もいらっしゃいます。他学部といっても、その中でも法学学修経験は様々かなと考えております。
続きまして未修者の標準修業年限修了率を見ますと、表の通りでございまして、これまではほぼ全ての方が標準修業年限で修了していかれているという状況であったんですけれども、直近の令和4年度については38.5パーセントと非常に低かったということでございます。対象である令和2年度に入学された方たちは入学する直前にコロナになってしまいまして、1年間完全にリモートで授業を受けることを強いられ、そのことにより多大な影響を受けた世代です。そのために学業不振に陥ってしまい退学したり留年されてしまう方が多数出てしまったということで、この事態を防げなかったことは非常に問題であったと考えておりますが、ともかくも、こうした外的特殊要因がこの年度についてはあったということになります。ただ、翌年からは回復していくことを見込んでおります。
8枚目ですけれども、司法試験合格率を見ますと、高ければ40パーセント台ですけれども、低いと30パーセント台ということになります。直近の令和5年の合格率を見ますと、修了生の未修者の合格率は非常に厳しい状況でした。これは先程のコロナ禍のなかで入学された世代が受験生の中心であり、そのことに起因してやはり苦戦されたというところでございます。令和5年度の合格率がそこまで悪くなかったのは、ご覧になって分かる通り、在学生の方の合格率が50パーセントであったということで、全体として見ると33パーセントにとどまったということでございます。
9枚目のグラフは、開設当初からの合格率の推移を示しております。当初は極めて高い合格率でありましたが、これは参考にならないと考えると、合格率は年によってかなり変動する状況がずっと続いていることが分かります。全国平均と比べるとなお相対的には優位を保ってはおりますけれども、合格率が2割に落ち込む年もございますので、全体的に高いとは言いづらい状況で、なかなか課題が多いと考えている次第です。
10枚目のスライドからは、現在課題と考えているところを書いてあります。まず優秀な入学者を確保しなければいけないと感じております。それは先程も言及したように、競争倍率を確保することが非常に重要なことであると考えていて、そのために多くの志願者を集めなければいけないということでございます。ただその取組としてはオープンキャンパスが中心であり、この場で本学の強みをいろいろアピールしておりますけれども、しかしこれはどの大学でもされていることだと思いますので、独自性があるかと言われれば、そうは言い難いかなと思います。
留意していることとしては、社会人経験のある方や他学部出身の方を必ず一定数確保することが重要ではないかと考えております。未修者コースでも法学部出身の方が多い状況は本学でもそうなんですけど、それでもなお常に一定数の社会人の方、他学部の方に来ていただいており、そのことが重要ではないかということです。一定の目標値を設定しているわけではないのですが、結果としては一定数来ていただいていて、そのことがいい作用を及ぼしているのではないかと考えております。そのために自己推薦書とか面接を通じて、多様な入学者の確保に努めております。非常に特徴的な経験をお持ちの方であるとか、特徴的なバックグラウンドをお持ちの方については、積極的に入学していただこうとしております。
 先程ご説明のあった特別選抜についても、過去にはこれに取り組んでおりました。小論文を課さずに特別な選抜をしておったのですが、適性試験がなくなった際にこの制度について廃止せざるを得ないということになり、現在では特別選抜は実施しておりません。
 どのように優秀な入学者を確保するかということで、現在1つ課題だと感じているのが、学内外の非法学部の方にアプローチすることが上手くできないかと考えております。とりわけ学内の他学部生の中には、少数ではありますけれども法律家になることに魅力を感じている人がいて、この人たちへのアプローチの仕方を模索しているのですが、現実にはなかなか難しいところがございます。ここを上手く進めていけないかと考えているところです。これが課題です。
 次のスライドは純粋未修者教育についてです。純粋未修者の中には、法学の学修に適応できない人が常に一定数存在するという状況にあります。こうした人は競争倍率の高低とかかわらず、常に一定数存在すると言わざるを得ません。恐らく現在の入試で法学の適性を上手く測れておらず、それがよくない作用を及ぼしている面があるのかなと思います。
 他方で飛躍的に能力を向上させる未修者が存在するというのも、これもまた確かなところでございます。既修者よりも上位の成績を収める、学年1位の成績を未修者が取るということも珍しくないのが本学の現状でございます。本当に法学をほとんど学んだことがないような純粋未修者でもそのようになるということですので、上手くいい人材を見つけて、その人に適切な教育を施すことにより、飛躍的に能力を向上させることができています。法科大学院制度のもともとの理念にかなったかたちでの教育を実現できている面もあるということも確かかなと思っています。ですので課題としては、法学への適性を見極める選抜方法をなお模索しなければいけない。現状ではなかなかそこが上手くできていない面があるのかなというところでございます。選抜方法の改革をより本格的に検討しなければいけないのではないかと現在考えているところでございます。ただそもそも法学への適性とは何なのかということ自体が今一つまだはっきりしないところがございまして、そこから見極めていかなければいけないという段階でございます。
 次のスライドですけれども、法学部出身の未修者の方の課題として感じているのは、偏った学修方法を取る人がいるということであります。具体的には授業を軽視してしまう。そうした方は、もともと学部時代も授業を中心としてではなく、予備校のテキストなどで勉強されてきており、法科大学院入学後もその勉強方法を継続するという場合がございます。そういう方は基礎力が十分身についていないのに応用に走る傾向がございます。それで成績も伸び悩んでしまうということがございまして、これは非常に大きな課題だと思っています。あとから申し上げるんですけど、本学では共助の精神、助け合いが大事だということをずっと強調しているんですけれども、クラスの多数にはそれが浸透しているにもかかわらず、法学部出身の方で自分だけの力で今までのやり方でやっていこうという人がいると、クラスの中で浮いてしまうという問題があるということでございます。逆に、法科大学院での学修に適応してくれた法学部出身者は学部時代に培った基礎知識を活かしてクラスを引っ張っていってくれますので、法学部出身者の方をいたずらに敵視する必要はありません。この人たちがいることでいい効果もあるということを感じています。
 次のスライドですけど、2年次以降、授業内容が一気に難しくなってしまって授業についていけない未修者がいるという課題も感じているところです。そういった方は既修で入ってきた方とあまりにも自分が違うということで、極度に委縮をしてしまい、既修者の方と一緒に交わりながら学修をすることができなくなってしまいます。そうではなくて、既修者から謙虚に学ぶ姿勢をもって、教えを乞うことも重要であると伝えてはいるのですが、それがなかなか上手くいかない場合もあるということです。
 未修1年次については全員面談をしているのですけれども、2年次以降は成績不振者のみを面談の対象としています。本来は未修者については、成績不振とまでは言えなくても、もう少し対象を拡大して面談をしたほうがいいのではないかとも思うのですけれども、人的リソースの問題もあってここはまだ実現できていないところです。未修者に対しては司法試験を受験するまでに既修者に追いつけばいいのであって、2年の最初にいきなり既修者と同じ段階になっているはずがない、むしろ差があって当然だということはずっとお伝えはしているのですけれども、そうはいってもなかなか難しく、2年次以降も未修者同士で固まってしまう場合もあるということでございます。
 それから在学中受験についてですけれども、一般論としては未修者にとってはじっくり3年間をかけて学修を進めていきづらい環境になってしまったということは、これはもう否めないことだと考えています。どうしても2年次になると、1年後に司法試験を受験することを意識し、それに直接役立つような勉強をしていかなければいけないという思いが強くなってしまいます。そうすると、基礎力がまだついていないにもかかわらず起案の訓練だけをするみたいな場合もあって、それは非常によろしくないことだと思います。他方で、未修者でも先程ご紹介した通り、在学中の合格者は出ておりますので、ことさらに在学中受験を抑制する必要はないとも考えていて、この辺りが難しいところかなというところです。現在は、個々人の状況に応じて適切な選択を行うように、というメッセージを発しているのですが、より具体的に個々人に対してメッセージを発していかないといけないのではないかと感じているところです。
 では次のスライドからなんですけれども、未修者教育でどういったことを心がけているかということでございます。まず大前提として、質の高い授業をしなければいけないということです。司法試験の合格につながるだけではなくて、その先に優れた法律家になることにも資する授業を心がけているということです。当たり前のことなのですが、授業を面白く感じてもらうことが、特に純粋未修の方にとっては重要だと思います。あと1年次の要求水準を下げすぎないことも重要だと思っています。どうしてもいきなり難しいことに触れさせるとよくないということで、優しく、優しくという方向になりやすいのですが、そうすると2年次になって未修者の方は授業レベルの落差に非常に苦労しますので、そこのバランスを上手く取るということです。それから質疑応答も積極的に活用して、緊張感のある授業をすることも重要だと考えています。あとは小テストするとか、適正な内容と分量の予習指示を出すといった、当たり前のことですけれども、そういったことをやっているということです。
 それから特色のある授業ですけれども、純粋未修者の人のための導入ゼミというものを用意しているのと、1年次から起案訓練を意識させるための授業を用意しているのが特色だと思っています。それから1年次には担任制度というものを設けておりまして、学期末に必ず担任が面談をしています。学修方法や学修時間、予習、復習のバランスなどについてアドバイスをしています。時間を取って面談をして、一人一人の学修状況を確認して、こういったところに問題があるというのをお伝えするというのは、それなりに機能しているのではないかと感じているところであります。2年次以降についての面談対象の拡大は今後課題だというのは先程申し上げた通りです。
 それから次の18枚目のスライドですけど、進級試験というのを独自に実施しておりまして、憲法・民法・刑法・民訴法・刑訴法の5科目についての進級試験をやっています。論述式の試験です。これに合格することが進級要件になっているということですね。出題範囲が限られた定期試験とは異なって、当該科目の全体を俯瞰した総復習の機会を1年生に提供するという意味はあるだろうと思っています。共通到達度確認試験が始まった際にこの進級試験をやめるかどうかを議論したんですけれども、正確な理解の定着を図るという意味では、択一式の試験ではなお測れない能力を測る意味があるということで、なお実施を継続しております。
 それから課外のゼミなんですけど、学修アドバイザーゼミと称して、修了生の弁護士の方に指導していただいています。近年ではなるべく早い時期からやろうということで、1年次の春夏学期、前期の終わりぐらいから開講しているところです。もちろん受講生の要望を聞きながらということにはなるんですけど、多くの学修アドバイザーの方には早期の段階から司法試験の過去問を中心とした実践的なゼミを実施していただいています。内容については教員との間の意見交換会を実施しておりまして、そこで緩やかに統一を図っているという状況です。この学修アドバイザーゼミ制度というのは学生にも非常に好評を博しております。
 それから自主ゼミですね。学生同士のゼミも奨励をしています。自主ゼミの中で、自分が教える立場と学ぶ立場、相互にやるということは、学修を進める上で非常に有効ではないかと考えております。自主ゼミをきちんと有効に機能させるためには、まず自分の強みと弱みを把握しなさいということをお伝えしています。それを分かったうえで、自分にとって有益な人を見つけて自主ゼミを組みなさい、ということを伝えています。そうすると理想的には複数のゼミに所属する、そうなると学生能力が伸びていくんじゃないかなと感じています。
 それから修了生による支援として、教育の循環サイクルを確立するということを実現できているのは本学の強みかなと思います。つまり、在学中から修了生によるいろいろな援助を受けながら、司法試験に合格し、その後自分が弁護士になった立場で母校に恩返ししていただける方が多数存在しているということであります。学修アドバイザーというものだけではなくて、キャリアアドバイザーと称されておりますが、就職の相談にも乗っていただいています。
 どうすればこういったサイクルが確立するのだろうかということなのですけれども、在学中から修了生の支援を受けていますので、そうすると自分も修了後に支援してくれるようになってくれる、ということが1つあるかと思います。それから修了生同士のネットワークですね。同窓会組織が存在しておりますので、その中で、多忙な今はアドバイザー業務はできないのだけれども、機会があればやりたいと思ってくれている人がそれなりにいらっしゃいます。実際例えば裁判官だった人が裁判官を辞めて弁護士に転身されたタイミングでアドバイザーになっていただくということもあります。必ずしも修了直後の人だけではなくて、いろいろな修了生に支援していただいています。そのためにも、在学中に大学との間で信頼関係を構築することが重要ではないかと思っています。
 それからICTについては授業録画を提供しております。コロナ禍で教員にノウハウが蓄積されました。具体的には補助教材として活用する例であるとか、あるいは欠席した人のための自主教材として授業録画を提供するといった実践例がございます。ただ安易な欠席を誘発しないことも重要だと思っております。ICTは必要に応じて活用すると。全面的に使っていけばいいというものではないと考えています。
 それから22枚目のスライドですけど、再チャレンジ修了生、再チャレンジと呼んでいますが、再度司法試験に挑戦するような修了生を対象とした支援というのにも、最近力を入れているところです。具体的には、合格者講演会とか座談会という催しがあるのですが、その際に再チャレンジで合格された方、しかも未修者の方に来ていただいてお話をしていただくということをしていますし、再チャレンジゼミと称して、再チャレンジの人だけを対象としたゼミというのも学修アドバイザーの人に開いていただいて、その中で未修者を特に対象としたものもございます。修了後についても、ともに学ぶ精神が浸透しています。例えば実家に戻って勉強を続ける方もいらっしゃいますが、そうした方も一人で勉強するのではなく、ほかの人と一緒に勉強することができているのかなと考えています。
 最後に成果と今後の展望についてです。質の高い教育を提供することと、緊張感の高い1年次を送らせることができており、これが重要ではないかと思います。加えて、一人一人に対するきめ細やかな対応を心がけています。さらに。共助の精神が十全に発揮できるようにすること、これが最大の成果であり、今後を展望する上でも重要なことかなと思っています。未修者の強みは多様な人がいるということですので、それぞれの強みを生かしつつ、それを融合させながら、ともに助け合う。自分の強みと弱みをきちんと認識し、それを相互に還元し合うかたちで切磋琢磨していくということですね。そういったことができれば実力が伸びていくと思いますし、それを今後とも強化していきたいと考えている次第です。ご清聴ありがとうございました。
 
【松下座長】  どうもありがとうございました。私の進行の不手際で12時に終了するのは難しそうな状況で、15分程度の延長をご容赦いただければと思います。ご協力をお願いいたします。ただいまの事務局のご説明、それから本庄院長からのご報告について、ご質問、ご所感があればお願いいたします。それでは加賀委員、お願いいたします。
 
【加賀委員】  一橋大学の本庄院長、どうもありがとうございました。的確に、また悩みも様々言っていただいて、共通すること多いなと感じながら聞かせていただきました。1つ所感ですけれども、前半の入学者選抜のところの未修者のことですけれども、あるいは対面、つまり面接試験がないということについては、一部法学部出身者にはしないとかそういう話だと思うんですけれども、これは割合理解できたんですけれども、小論文がないということが少数の法科大学院に見受けられるということは、なかなかこれは理解しづらいなとは思っておりました。先程の本庄院長のお話にもありましたように、小論文というのは、それで全て測れるとは思いませんけれども、やっぱり今後は必要なんじゃないかなと思っています。
 あともう1つは、本庄先生にご質問させていただきたいんですけれども、私はなるべく未修者が司法試験に合格をしていくためには、とりわけ1年次の勉強が重要であるとかねがね思っております。その合格率を上げないことには未修者で入ってくる人の層が厚くならない、循環ができないということにもなりますので、そこで先程いくつか教えていただきましたけれども、最後の今後の展望のところにも、緊張感の高い1年次の実現というところまで掲げていらっしゃいました。何か本庄先生、一橋大学のほうで、特に1年次にサポート体制であるとか、そういったことについてでなさっていることがあれば、少し詳しくお願いしたいと思います。以上です。
 
【松下座長】  ありがとうございました。それでは本庄院長、お願いいたします。
 
【本庄院長(一橋大学)】  ありがとうございます。特別なことは特にはしておりません。緊張感が高いと申し上げたのは、1年次であっても質疑応答を積極的に活用していくことが有効なのではないかと思っているということです。予習課題を課して、授業中の質疑を通じて、きちんと予習してきたということを確認するということもありますし、それだけではなくて、授業の中でその場で考えさせるということも、可能な限り取り入れて授業をやっていくことにより、授業中に学生も気を抜かずに集中してくれるのかなと感じています。法科大学院ではそういった授業が当然だと言われてるのではないかと思うのですけれども、そういったことを2年次以降だけでなく、1年次でもやっていくということが重要ではないかということです。かなり負荷をかけることにはなってしまうんですが、1年次は未修者だから、語弊がある言い方ですが、お客様的な意識で教育するということではなくて、未修者も難関試験の突破を目指す法科大学院生だという前提の中で、それをやっていかなければならないと思っています。併せて、それをやっていく中で実力を伸ばしていってもらいたいというメッセージも伝えながら実際にやっていくのが重要ではないかなと感じている次第です。
 
【加賀委員】  ありがとうございます。
 
【松下座長】  ありがとうございました。それでは続きまして富所委員お願いします。
 
【富所委員】  本庄先生、どうもありがとうございました。1点だけ意見を簡潔に述べさせていただきたいと思います。言うまでもなく、法学部以外の出身でありながら法曹を目指そうという方々は、特別な志をお持ちだと思います。そういう意味では非常に有為な人材だと思うんですね。ですので、そうした方々への教育で成果を上げていくのが法科大学院教育の肝の部分だと考えます。未修者については合格率もかなり大学院ごとに格差があります。全体の底上げのためには、今お話いただいたようなメソッドやノウハウ、抱えている課題などを、大学間で共有することが大事だと思います。大学院間の連携協定も進んできておりますし、加算プログラムでも好事例が提示されていると思いますので、成果の出ている教育法を参考にしてほしいと思っています。互いに競争しなければいけない部分もあるでしょうし、指導法など門外不出の部分もあるかもしれませんが、未修者教育に関しては、もっと大学間で協力しながら全体的に質を高めていくことが必要だと思っております。以上、1点申し上げさせていただきました。ありがとうございました。
 
【松下座長】  ありがとうございました。それでは続きまして前田委員お願いいたします。
 
【前田委員】  神戸大学の前田でございます。本庄先生におかれましては、充実したプレゼン、ありがとうございました。一橋大学の事例を伺って、未修者一人一人の特徴に沿ったきめ細かい指導が重要なんだなということを再認識いたしました。私からは未修者選抜の在り方について、コメントというか意見を申し上げたいと思います。事務局からのプレゼン等を拝聴して感じたことなんですけれども、各法科大学院、いろんな工夫はしているけれども、これだという決定的な選抜方法は今のところ見いだせていないというのが現状なのかなと感じております。法律知識を問わない試験だということが前提ですので、そういった試験で法曹としての資質を完全に見分けることはそもそも難しいということかもしれません。したがいまして、ある程度適性が合わない方が入学する事態というのは完全には避けられないと感じております。
 もちろん入学した全ての人に対して充実した未修者教育を施していくのが前提となるとは思うんですけれども、未修者コースの1年間を通じて、法曹に適性を有する人を選抜していくという、そういう発想もある程度取り入れる必要があるかもしれないと感じております。つまり、未修者コースにある程度間口を広げて入学者を受け入れつつ、全員が1年で既修者コースに合流できるということを必ずしも前提とせず教育を考えていくということもあり得るのかなと思う次第です。と申しますのは、意欲と能力のある未修者の方に数多く法科大学院に進学していただくということが重要だと思っておりまして、あまり入試段階で選別を厳しくすることによってそういった方々が法科大学院にそもそも進学できないということよりは、そちらのほうが良いのかなということも感じたりする次第です。私からは以上です。
 
【松下座長】  ありがとうございました。ご意見ということでよろしいですかね。
 
【前田委員】  はい。
 
【松下座長】  それでは続きまして酒井委員お願いいたします。
 
【酒井委員】  酒井でございます。私からは手短に2点、まず選抜に関する問題意識と、本日本庄先生から充実したご報告をいただけましたので、一橋の修了生の立場から実感を申し上げたいと思います。まず選抜に関する問題意識なんですが、スライド41ページの冒頭に、未修者については法的知識及びその運用能力を試験することなく選抜するため非常に難しいという、率直なご意見が挙げられているかと思うんですけれども、そこがやはり非常に大きな問題だなと感じております。確かに法的知識は未修者ですので問わないというのは当然だと思うんですけれども、その運用能力を試験するのもダメという縛りがいたずらに広がって解釈をされてしまうと、適切な選抜に対する委縮効果になってしまうのではないかなという気がいたします。直近の司法試験に合格しなければいけないという観点からは、やはり法的三段論法を身につけて展開できる力を持てるポテンシャルがある人かどうかということを見極めなければいけないと思うんですけれども、例えば何かルールのようなものが想定されて、事案が与えられて、そこでそのルールを適応して与えられた問題を解決していくというような、そういうタイプの試験は出していいのかいけないのかというようなことですとか、そういう幅が生まれてしまっている気がして、古くは認証評価の関係で受験指導を大っぴらにしてしまうのはよくないということが、かなり非常に気をつけられていた時代が長かったと思うんですけれども、それと似たような事態が生じてしまっていないかなという問題意識がございます。これぐらいの問題だったらいいですよというような、そういうものが提唱されてくると、もう少し各校様々工夫をする中でも、足かせがないような、より柔軟な問題を作問していくことができるのではないかなと思いましたので、問題意識として1つご提示させていただきたいと思います。
 また次に一橋の未修教育に関してなんですが、私も一橋の2期の未修出身ですので強く1つ思うところが、1年の終了時で進級試験を課しているということは、非常に教育効果が高いという実感がございます。経過としていったん一橋の未修者の進級試験をなくしていた時期があったんですけれども、これは修了生の学修アドバイザーのほうが察知いたしまして、先生方とのFDの際に、未修者に進級試験を課さないことは非常によろしくないと思うと、先生方に期末試験のあと、もう一度試験をなさって採点されるのは非常大変だと思いますが、未修者のためにもすぐに復活させてください、ということを修了生から陳情して、先生方がそれを速やかに受け入れて下さり、、次年度から進級試験が復活したという経過があります。大学側が修了生の意見を柔軟に受け止めてくださって、未修者に有効だと思う教育をきちんと残し続けてくださっているというところは、修了生としても大変嬉しく思いますし、非常に効果的な制度であろうということをお伝えしておきたいと思います。また共通到達度確認試験導入後も論述式試験の意義を感じ、進級試験を残すという選択をされたことは英断だと思っておりますので、その点もお伝えしておきたいと思います。以上になります。
 
【松下座長】  ありがとうございました。それでは続きまして青竹委員お願いいたします。
 
【青竹委員】  本庄先生ありがとうございました。大阪大学の青竹と申します。大阪大学では未修者の中で、特に社会人でフルではないですけれども、仕事と学修学修を両立させている純粋未修者から要望が、苦しんでいるという窮状が伝えられています。学生によりますと、予習量が多すぎてカリキュラムに対応できないということで、場合によってはソクラテスメソッドをやめてほしい、見直してほしいという意見もあります。効率的な勉強を促すための工夫を何かされているのかどうか、もしありましたら教えていただければと思います。よろしくお願いします。
 
【松下座長】  それでは本庄院長、よろしくお願いします。
 
【本庄院長(一橋大学)】  ご質問ありがとうございます。本日私は効率的な学修とはおそらく反対方向のことを申し上げたと思います。意図的に負荷をかける学修をさせていますので、そこは仕事をしながらというのはなかなか難しいのかな、というふうに感じています。本学の未修者で、もちろんアルバイトをされている方はいらっしゃいますけれども、仕事を続けながら通っていらっしゃる方はいないと認識しています。
1つあるのは、特に純粋未修の方は予習で手一杯になってしまうと。これはよくあることでして、そういう方には予習だけではなくて復習も大事なので、予習に際しては、ある程度時間を費やして、それでも分からなければそこはもう見切りをつけなさい、ということはお伝えしています。予習は限られた時間でやるんだと決めてしまうやり方もあるとお伝えをして、その中で上手くいく人はだんだん自分なりに予習と復習のバランスを取れていくのですが、そこが上手くいかないと、おっしゃる通り非常に苦しい状況になってしまいます。そうした方が今でもいらっしゃるので、そこは課題であると感じております。
 
【松下座長】  ありがとうございました。それでは北居委員お願いいたします。
 
【北居委員】  本庄先生ご指摘の通り、法学への適性を見極める選抜方法、これが上手くいかないし、その適性というのは何かというのを言語化することは非常に難しい。私は未修コースについて、1つ最大の問題だと思っておりますのはやはり選抜方法でございます。法律科目、法律の知識を問うてはいけない。これは法律の知識のない方を広く受け入れるために取られている措置だとは思うんですけれども、例えばお試しみたいなコースをとって、それで上手く成績を取れば、それで初めて入学するということを認めればミスマッチがかなり少なくなると思うんですね。大事なのは、法律科目を試験しちゃいけないことではなくて、多様な人を取れればいいわけですから、その入り口の敷居の設定の仕方がちょっと違うんじゃないかという気がしておりまして、ここを今後見直すようなことが必要ではないかと、勝手な意見でございますけれども、一言でございます。以上です。
 
【松下座長】  ありがとうございました。それでは全体を通じて本庄先生のほうから何かございますか。特によろしいですか。
 
【本庄院長(一橋大学)】  はい。
 
【松下座長】  それではどうもありがとうございました。議事の2については以上とさせていただきます。続きまして議事の3、令和5年司法試験予備試験口述試験の結果等についてということで、本委員会の委員でもいらっしゃいます法務省の加藤司法法制課長から、資料の4-1から4-8に基づいてご説明をお願いいたします。
 
【加藤委員】  法務省司法法制部司法法制課長の加藤でございます。お手元の配布資料、資料4-1から4-8までが令和5年司法試験予備試験の結果等に関する資料となります。時間の関係もあるので主なところをかいつまんで申しますと、まず資料4-1の通り、最終合格者は479人。受験者数は、短答試験の受験者数が1万3,372人でございまして、前年と比べても大きな変化はございません。またこのほかに大学や法科大学院別の受験状況や、職種別の合格者数の推移等について資料には盛り込んでおります。さらには資料4-8の通り、法務省と文部科学省において、令和4年度、法学部に在籍する学生に対して実施した法曹志望に関するアンケート調査結果がございますので、それぞれ適宜ご参照いただければと思います。また今年度も同様のアンケート調査を実施しまして現在取りまとめ中というところでございます。これについては公表を予定しておりますので、またご意見、ご指摘のほどよろしくお願いいたします。説明は以上でございます。
 
【松下座長】  ありがとうございました。それでは時間限られていますけれども、ただいまの加藤委員からのご説明につきまして、もし何かご質問等ございましたらお願いしたいと思いますが、よろしゅうございますか。それでは、先を急がせていただきます。議事4その他ですけれども、事務局から令和5年司法試験の在学中受験の結果についてご紹介をいただきたいと思います。資料の5、通しで言うと229ページ以降ですけれども、事務局からご説明をお願いいたします。
 
【保坂室長(事務局)】  資料の5です。こちら令和5年司法試験の在学中受験の状況について文部科学省が、学生募集を継続している34の法科大学院を対象に調査を行った結果となります。上の全体の表について、縦行の上から、在学中受験資格(学長認定)取得者数、受験者数、合格者数、合格率となっており、横列の左から大きく全体の合計、既修、未修の順に区分をしております。まず合計という列を縦から見ていただきますと、在学中受験資格の取得者数が1,342人、うち受験者数が1,066人、合格者数が637人、合格率が59.76パーセントということになっています。また各人数の下にある青字のパーセントは表の下部の注にある通り、最終年次在籍者数に占める割合です。同じ行の既修の列、未修の列も同様となっております。さらに内数として法曹コース修了者(早期卒業等)の状況についても調査をしておりまして、その全体の人数と、さらにこれを法曹養成連携協定における協定先の法科大学院に進学した者の状況と、非協定先に進学した者の状況に分けて結果を示しています。
なお、うち法曹コース修了者の受験者数と合格者数については、法務省からご報告いただいた人数と差異が生じています。これは法務省の数値が司法試験の願書における受験者本人の自己申告に基づくものである一方、この調査の数値が各大学院において合格者のデータと個人の学修状況の照合等を行って提出されたものであり、両者のデータの把握の方法が異なることにより生じたものと考えられます。ちなみに法務省の資料では、①の法曹コース修了者の受験者数については187人、合格者数は122人、合格率は65.24パーセントとなっておりました。
 続いて下段の表、標準修業年限修了予定者の表です。上段の全体の表から、既修では2年、未修では3年で修了予定の者を抜き出したものであり、全体の内数となっています。各種の割合を見ますと、全体の表における割合よりも高い数値となっているということです。また231ページから233ページに、別紙として各大学院別の状況についての資料を用意しております。説明は以上です。よろしくお願いします。
 
【松下座長】  ありがとうございました。ただいまの事務局からの説明についてご質問、あるいはご所感、ご意見等があればお願いします。よろしいでしょうか。それでは、進行の私の不手際でだいぶ時間が延びてしまいました。15分と言いながら既に15分を経過していますけれども、それでは本日の議事をこれで終了させていただきます。本日も熱心なご審議を誠にありがとうございました。今後の日程については事務局から追って連絡していただきたいと思います。それでは閉会といたします。どうもありがとうございました。
 
以上
 

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