資料2-1 短期大学の今後の在り方について(審議まとめ)(案)

はじめに

 

 短期大学は,社会に有為な人材を送り出す身近な短期の高等教育機関として,高等教育の機会均等を確保する役割や地域社会を支える職業人材の育成によって,地域の発展に寄与する役割を果たしてきた。
 現在,急速な少子高齢化の進行,地域コミュニティの衰退,グローバル化の進展等に直面する我が国においては,持続的に発展する活力ある社会を目指した変革が喫緊の課題であるが,高等教育機関は,これを担う人材育成の場として,社会からの期待に応えることが求められている。
 18歳人口の減少,学生のニーズの変化等によって,短期大学の数も年々減少が続くなど,短期大学全体としては厳しい運営状況が続いているが,高等教育の機会均等の確保,専門職業人材や地域の中核的人材の育成,生涯学習拠点機能,学生一人一人に対するきめ細かい教育など,これまで短期大学が実施してきた特色ある教育の内容や方法は,今後,社会の変化を誠実に捉えて,多様な人々の修学ニーズに応えていくことを通して,我が国の人材育成に大いに寄与するものと考えられる。
 このような短期大学を取り巻く状況の中,平成17年1月の中央教育審議会答申「我が国の高等教育の将来像」(以下「将来像答申」)においては,「短期大学の課程はユニバーサル段階の身近な高等教育の一つとして,また,地域と連携協力して多様な学習機会を提供する,知識基盤社会での土台づくりの場として,新時代にふさわしい位置付けが期待され,短期大学の課程の積極的な改革が期待される」ことが示された。
 さらに,平成24年8月の中央教育審議会答申「新たな未来を築くための大学教育の質的転換に向けて~生涯学び続け,主体的に考える力を育成する大学へ~」においては,「短期大学士課程について,知識基盤社会,成熟社会の中でその機能をどのように再構築すべきかなど,その在り方を検討すること」が要請された。
 このことを受け,平成25年12月,中央教育審議会大学分科会大学教育部会の下に,短期大学ワーキンググループが設置された。
 本ワーキンググループにおいては,委員や専門家による事例報告等も交えて,短期大学の機能の充実・再構築などを含む短期大学の在り方について審議を深めてきたところである。
 このたび,これまでの審議経過を「短期大学の今後の在り方について」としてとりまとめた。本とりまとめを活用し,国,地方公共団体,短期大学関係者などにおいて,短期大学の充実に向けて,より一層議論を深めていくことを期待したい。

 

第1章 短期大学の現状と課題

1.短期大学制度の成立とその後の経緯
○ 短期大学制度は,昭和24年6月の学校教育法(昭和22年法律第26号)の一部改正により,
1 旧制の高等学校,専門学校のうち,新制大学に転換することが困難であるものの救済(新制高等学校卒業者の進路の確保)
2 保護者及び学生の経済的負担の軽減
3 短期間における実務者の養成,女子教育の要望
などを踏まえ,暫定的な制度として昭和25年4月に発足した。

○ 昭和39年6月の学校教育法一部改正で短期大学は恒久的制度とされたが,大学の修業年限の特例として存置されてきた実態の尊重や教育水準をできる限り高く保持することを考慮し,大学の一類型という位置付けに変更された。

○ その後,昭和51年4月には短期大学設置基準が施行され,平成17年度には短期大学卒業者に対する「短期大学士」の学位授与制度が創設されている。

○ 短期大学の学校数及び学生数は,平成5年から平成8年までをピークとして減少し続け,平成26年5月現在の学校数は,公立短期大学18校,私立短期大学335校の353校となっている(学生募集停止中の短期大学を含む)。また,平成25年5月現在の学生数は約13万人で,そのうち約90%を女子学生が占めている。

○ 最も学生数の多い専門分野は教育系で,全体に占める学生比率で36.2%(平成25年時点)で,短期大学の学生総数が減少している中でも教育系は微減に止まっている。しかしながら,年々,比率を減らしている家政系(18.9%),社会系(9.8%),人文系(9.2%)(いずれも平成25年現在)の学生の減少は著しく,この3分野の学生は平成8年時点から20万人以上減少している。

2.短期大学における人材養成の実績
○ 短期の修業年限と低廉な学費負担という特性を有する短期大学は,女性の教育のニーズに適合した高等教育機関として発展し,我が国の女性の教育水準の向上と社会進出に貢献してきた。また,「職業と実際生活に必要な能力」の育成を目的とする高等教育機関として従来の学問体系にこだわらない学科を設置し,地域の様々な企業や事業所などで実務に従事する人材を養成してきた。
○ この結果,多くの短期大学が,女性への社会的ニーズが高い幼児教育や食物栄養といった特定分野での専門職業人の養成に多大な実績を上げるとともに,こうした分野における女性の活躍を促すことを通して,特定分野の振興にも寄与してきた。また,近年では,現職の専門職業人や再就職を目指す者に対する学習機会の提供など,短期大学が女性の学び直しの場としても重要性を増している。
○ このように短期大学は,時代ごとの社会的価値観やニーズの変化に即応しながら,女性に対する高等教育を支える存在として重要な役割を果たしてきた。 
○ 一方で,幼児教育・保育,看護,福祉等,これまで女子学生で占められていた分野において,これまでと比較すると多数の男子学生が短期大学に入学してきており,短期大学の男子学生比率は平成25年現在11.6%となっている。こうした分野を有する共学の短期大学では,従来の職業概念に捉われない専門職業人材の養成が行われている。

○ なお,専修学校の専門課程(以下,「専門学校」という。)の平成25年度における在学者の分野別比率は,医療関係(34.9%),次いで文化・教養関係(18.6%),工業関係(13.0%)であり,こうした専門学校の職業人養成の分野は,修業年限が2年から3年であることが多く,短期大学の職業人養成と競合している場合も生じてきている。

3.我が国の短期大学士課程の特長
○ 我が国の高等教育については,同年齢の若年人口の過半数が高等教育を受けるといういわゆる「ユニバーサル段階」に達しており,我が国の高等教育体系に多様性を持たせ,国民に高等教育を受ける機会を広く提供し,知識基盤社会を支える多くの優秀な人材を輩出することが求められている。

○ 修業期間が短く,全国の各地域に幅広く分布している短期大学は,4年制大学の進学者以外の多様な学生を受け入れる,教養教育と専門教育のバランスが取れた教育課程と,きめ細やかな学生支援による教育を展開し,地域社会のニーズに応える人材養成に対する実績を積み重ねてきた。

○ 短期大学入学者は4年制大学の入学者に比べて,高等学校の総合学科や職業学科の卒業生が多く,職業志向の強い学生の進学先の役割も果たしてきた。

○ こうした我が国の短期大学は,「高等教育のファーストステージ」として,次の6点の特徴を備えている。

(1)第一段階の学位の授与等を通じた高等教育機関
○ 短期大学は,「大学」の一類型として学校教育法上位置付けられており,4年制の大学の目的に代えて「深く専門の学芸を教授研究し,職業又は実際生活に必要な能力を育成すること」を主な目的とし,修業年限は2年又は3年とされている(学校教育法第108条)。

○ 短期大学には,「短期大学士」の学位を授与する権限が付されており,その卒業生は4年制大学に編入学することができる(学校教育法第104条第3項,同法第108条第7項)。また,短期大学専攻科を通じて「学士」の学位取得も可能となる。

○ このように短期大学には,次の段階の高等教育システムに接続する仕組みが法的に確立しており,高等学校卒業後,最も短期間で第一段階の学位が得られる高等教育機関である。

○ 短期大学の設置主体を見ると,国立の短期大学は現在存在しておらず,公立短期大学が約5%,私立短期大学が約95%と,私学が圧倒的な多数を占めている。国民に短期の高等教育の機会を提供するという公的な役割の大部分を私立学校が担っている状況となっている。

(2)教養教育と専門教育のバランスの取れた高等教育機関
○ 変化の激しい社会環境の中にあって,学生が主体的に自己を確立して自ら学び行動する力を付けるために,短期大学では,教養科目と専門科目を体系的に編成した教育課程を展開している。

○ 短期大学の教養教育と専門教育は,短期大学が目指す幅広い人間教育の実現に向けて,教育課程の中だけではなく,整備されたキャンパス内での学生と教員や学生相互の啓発・交流活動や,ボランティアやインターンシップ等,地域と連携した学外活動によって補完されている。

(3)職業能力を育成する高等教育機関
○ 短期大学は,2年から3年間の修業年限の中で,教養教育と専門教育を体系的に編成した教育課程によって,幼稚園教諭,保育士,栄養士,看護師,介護人材をはじめ多くの専門職業人を養成してきた。幼稚園教諭(二種),保育士,栄養士,司書などの数多くの資格は,短期大学を卒業することにより無試験で取得することができる。

○ また,教養に裏打ちされた汎用的職業能力を備えた卒業生を地域の多種多様な業種の企業・事業所等に送り出し,地域の維持・発展に貢献している。短期大学の職業教育は,教養教育の基礎に立ち,分析的・批判的見地に立ったものの見方を育むもので,特定の職業分野の専門的技能を伝授する職業教育とは異なる特徴を持っている。

○ 特に,短期大学卒業生の占める割合が圧倒的に多い幼稚園教諭と保育士においては,他の学校種にはない,汎用的な職業能力を育む短期大学士課程の特長が,就職時や職務活動上における卒業生の評価につながっていると考えられる。

(4)小規模できめ細かい教育を行う高等教育機関
○ 短期大学は,4年制大学に比べると総じて比較的規模が小さく,学長・教員から一人一人の学生の顔が見える関係の中で,伝統的にきめ細かい少人数教育を特色として,教育面により重点を置いてきた経緯があり,学生の判断力や思考力を養う授業や学生指導に力を入れる体制が整えられてきた。

○ 特に平成3年の短期大学設置基準の大綱化以降は,各短期大学において必修科目を減らして学生の選択肢を広げるようになり,学生主体のカリキュラムを重視するようになっている。

○ 学生の就職に対する目的意識が高いことから,短期大学としても,長期休業中や正規の教育課程以外でも,現場実習や海外体験事業などの異文化体験,地域活動等,短期集中型で多様な経験を積めるような機会を設け,学問的専門性や職業能力の育成に加え,幅広い人間形成を行っている。

○ 短期大学の指導方法の特色は,以下のように整理できる。
1 少人数教育(学校・学科・クラスの規模が小さく,教員と学生の距離が近いことを活かして,きめ細やかな教育・指導を行う。)
2 導入教育(入学予定者を対象に,基礎学力の補強,学習意欲の維持,大学生活への適応,教員や他の学生との関係構築などを目指して事前に指導する。)
3 担任制度(学業のみならず個々の学生の人間的成長をも支援する。)
4 一貫指導(教養教育,専門教育,職業教育から資格取得に導く教育,就職支援まで一貫した指導を行う。)

○ これらの特色を併せ持つことで,4年制大学や専門学校とも異なる,短期大学ならではの教育効果を上げてきており,その有意性は社会でも評価されている。

(5)気軽にアクセスできる身近な高等教育機関
○ 短期大学は,4年制大学や専門学校よりは学費が低廉であり,地理的に見ても中小都市を含め全国各地に幅広く分布しており,短期大学のキャンパスは約40%が人口30万人未満の都市に所在している。このため,気軽にアクセスできる高等教育機関となっており,地元高等学校卒業生の進学率が全体の67%と4年制大学に比して高い。

○ また,私立短期大学卒業生の自県への就職率も全国平均で7割以上,県によっては8割ないし9割と高い実績を有しており,地域コミュニティに密着した身近な高等教育機関として,特に地元に若年層を定着させる上で重要な役割を果たしている。

○ 短期大学の存在は,それぞれの地域での人材養成のみならず,地域文化や地域経済の発展にも寄与してきた。地元との関連性が強い教育研究活動が行われ,教職員と学生など多くの人が集まることによって地域住民との交流が活発になり,地域の振興にもつながっている。

(6)教育の質が保証された高等教育機関
○ 短期大学は,学校教育法第4条において,学科等の設置等については国の認可を要すること,また,同法第109条では,自己点検・評価の実施とその結果の公表や認証評価を受けることが義務付けられている。

○ また,「短期大学設置基準」によって,「教育課程」,「卒業の要件等」,「教員組織」,「教員の資格」,「校地・校舎等の施設及び設備等」について最低限維持すべき基準が定められている。

○ 以上のように,短期大学は,設置基準を遵守し,設置審査,認証評価,自己点検・評価を行うことによって,教育の質保証が担保されている。

4.短期大学の課題
(1)学生・社会のニーズを踏まえた検討の必要性
○ 女子の短期大学進学率は,平成6年の24.9%をピークに平成25年現在は9.5%と減少しており,一方,女子の4年制大学の進学率は平成19年に初めて4割を超え,平成25年には45.6%に増加している。
 このように以前から短期大学生の主流となっている女子学生については,女性の社会進出の高まりとともに,4年制大学への進学者が増加している傾向にある。

○ 女性の4年制大学指向と職業教育志向のはざまで短期大学の特色が見えにくくなってきているとの指摘もあり,今後の短期大学の在り方の検討に当たっては,短期大学側の視点だけではなく,学生・社会のニーズを踏まえた検討が必要である。

○ また,一般財団法人短期大学基準協会が認定する「地域総合科学科」は,25短期大学26学科にとどまっており,平成21年以降新たな認定が行われていない状況を踏まえ,再定義が必要である。

(2)短期大学の位置付けの明確化
○ 短期大学は,専門学校と役割が一部重複しがちであるとともに,制度上大学の一類型として位置付けられることが,その役割を曖昧にしているとの指摘がある。例えば,専門職業人の養成について,特に採用する側(がわ)から見た場合に,短期大学と専門学校において養成される人材の違いが一見して分かりにくいとの声があり,また一方で,政策提言や統計データ,情報発信の面で4年制大学と短期大学がまとめて整理される傾向が見受けられる。

○ 学校法人によっては,短期大学と専門学校を両方設置し,人材養成分野や学生の受入れなどについて異なる方針の下,明確に機能を分担しつつ運営を行っているところも存在している。

○ 今後,短期大学の推進に当たっては,短期高等教育が高等教育システムの中でどのような位置付けなのか,とりわけその中で短期大学が専門学校との役割分担を含め,どのような位置付けなのか明確にすることが課題である。

(3)産業界・自治体と連携した地域コミュニティの中核機能の確立
○ 短期大学について,社会人がより活用し得る方向を目指すという考え方は,既に「生涯教育について(答申)」(昭和56年6月11日 中央教育審議会)で示されていた。本答申では,教育内容を地域の要請に応ずるものとしたり,専門的職業教育や一般教養的なもので短期大学としての特色を生かした内容のものを取り入れること,地域の社会教育機関等と協力して公開講座を行うこと,短期大学の専攻科・別科を,職業に就いている者が新しい専門的・職業的技術や知識を学ぶための場として活用することなどが提言されている。

○ 将来像答申では,「ユニバーサル段階の身近な高等教育の一つとして,また,地域と連携協力して多様な学習機会を提供する」ことによって「米国のコミュニティ・カレッジのような知識基盤社会の土台づくりの場として,新時代にふさわしい位置付けがなされることが期待される」と提言されている。

○ このように,いわば「日本版コミュニティ・カレッジ」として,短期大学は地域の生涯学習体系の中でより重要な役割を果たすことが期待されるが,そのためには,まずは短期大学の側(がわ)から,地域の産業界や自治体に積極的に働きかけていくことが課題である。

○ 現状では,地方公共団体において高等教育政策を担う部門が極めて少ないため,地方公共団体と短期大学をはじめとする地域の高等教育機関との間の具体的連携が限定的になっている。

○ 短期大学が地域コミュニティの基盤と位置付けられるためには,地域の行政機関,企業や事業所,初等中等教育機関,各種の団体,地域住民などとの対話を図ることを通じて,地域のニーズに合わせた連携スキームの構築に着手することが必要である。
 その際,地域の産業振興,雇用動向,教育や社会福祉の政策に,高等教育機関がどのように関わり,どのような役割を果たしていくのか検討が必要である。

○ 社会人の学び直しなど,短期大学における生涯学習機能の充実は喫緊の課題であるが,現状においては,短期大学の学位課程への社会人入学生が極めて少ない状況である。社会人が大学や短期大学で学ぶことのできる生涯学習環境の整備について,産学官が一体となって推進することが必要である。

(4)学生に対する支援の充実
○ 短期大学は,4年制大学と比較すると学費は低廉であるが,経済的に厳しい中で短期大学に進学してくる学生も多く,気軽にアクセスできる身近な高等教育機関という特長からすれば,学生支援の在り方等についても検討が必要である。

○ 現状では,学生への経済的支援という面では,独立行政法人日本学生支援機構の奨学金が,私立学校に対しては,国から授業料免除の機関補助が措置されているが,学生個人への補助の問題点,国として措置すべき事項,公立短期大学における国と地方の役割分担など,それぞれの課題について整理すべきである。

(5)短期大学の教職員の資質と能力の向上
○ 短期大学は,職業又は実際生活に必要な能力を育成することを目的とし,多様な学習経験を持つ学生に対しきめ細やかに指導することが必要となるため,教員に求められる能力は研究力以上に教育力が必要とされる。

○ また,近年は専門職大学院や4年制大学において,いわゆる「実務家教員」が登用されているが,短期大学においても短期の職業教育をより効果的・効率的に実施していくため,職業上の専門知識やスキルを持った教員が必要である。

○ 教員の質を確保するためには,短期大学独自の教員評価基準の設定や優秀教員の顕彰は,教育力の高い教育機関を標榜(ひょうぼう)するためには不可欠であり,短期大学における教員の質の向上に関する検討は大きな課題である。

○ 更に短期大学の運営に関して,経営面・教学面での専門的知見を有し,地域の行政機関や関連団体との調整力を備えた職員の養成が必要である。 

第2章 今後の短期大学の役割と機能

1.短期大学の役割・機能
(1)社会基盤の維持・向上を担う職業人材の養成
~専門職業人材の養成~
○ 短期大学士課程の目的の一つは「職業に必要な能力の育成」であり,高校生が短期大学進学を選択する理由として,4年制大学よりも「資格取得」,「就職に有利」ということが挙げられる。

○ 「今後の学校におけるキャリア教育・職業教育の在り方について(答申)」(平成23年1月31日中央教育審議会)において,「短期大学におけるキャリア教育では,地域の実情に即した特色あるテーマを用いた課題対応型学習が実施されている例が多く,また,職業一般に必要な実務能力の育成等の取組が積極的に行われている。」と指摘されているとおり,キャリア教育及び職業教育に高い評価を得ている特長を活かし,今後も特色ある職業人材育成を行っていく必要がある。

○ 短期大学は,教養教育と専門教育のバランスの取れた教育課程の中で,職業教育に必要な実務能力の育成を基本として,その上で特定分野の専門職業能力の育成を図っている。

○ こうした短期大学の職業教育の特色を活かす上でも,資格などに関わる知識・技能等に偏ることなく,当該分野における学問の社会的意義の理解や課題対応型学習等を通じて,社会的・職業的自立に向けて必要な基盤となる能力や態度の育成を図ることが重要である。

○ 特に,短期大学卒業生の占める割合が極めて高い幼稚園教諭や保育士の養成についてはその機能の維持と向上を図る必要がある。さらに,栄養士や介護人材など,医療や社会福祉に関する人材の養成機能については,地域のニーズに照らし合わせた上で迅速に機能の充実を図る必要がある。

(2)地域に密着した高等教育機関としての活用
~地域コミュニティの基盤となる人材の養成~
○ 我が国は,将来的には人口減少と都市に集中する傾向に拍車がかかり,地方都市が衰退,消滅していくことが危惧されている。このような事態に陥らないよう本格的に地域再生を図っていくことが不可欠であり,地域における高等教育機関の存在は極めて大きな意義がある。

○ 高等学校卒業者の進学率(専門学校を含む)をみると都道府県別の差が大きい。最も高い京都府(79%)と最も低い青森県(57%)で22%の差があり,教育の機会均等の観点からも地域間の進学率の格差を解消することも必要である。

○ 少子高齢化や人口減少社会を迎えた我が国では,特に地方都市における若者の大都市への流出は,地域の空洞化から崩壊につながる深刻な問題である。

○ 次世代を担う若者が,地域コミュニティを支える勤勉で良識のある職業人・社会人に成長するためには,教育を充実させることが不可欠であり,とりわけ,知識基盤社会を生きるために必要な高等教育を受ける機会を保障することは重要である。

○ このため,修業年限が比較的短く,学費負担が軽く,地方都市にも数多く設置されている短期大学は,気軽にアクセスできる,多様な職業教育や大学編入の機能を備えた地域密着型の高等教育機関としての役割を果たしていく必要がある。

(3)高等教育のファーストステージとしての期待と可能性
~知識基盤社会に対応した教養的素養を有する人材の養成~
○ 将来像答申では,「知識基盤社会」を支える人材を「21世紀型市民」と称して,専攻分野の専門性を有するだけではなく,幅広い教養を身に付け,高い公共性,倫理性を保持しつつ,時代の変化に合わせて積極的に社会を支え,改善していく資質を有する人材と定義している。

○ このような知識基盤社会の時代においては,短期大学士課程の特長を更に伸長して,「短期大学士」に必要とされる資質能力を明確に示し学位としての位置付けを確立することが必要である。

○ 短期大学の特長として,実際生活に必要な技能・知識の育成が目的の一つとなっていることが挙げられるが,コミュニケーションスキル,数量的スキル,情報リテラシーなど実生活に必要な技能と人文・社会科学,芸術等などの幅広い教養の育成を通じて「21世紀型市民」の人材養成機能を担う機関としての役割も期待されている。

○ さらには,我が国における「高等教育のファーストステージ」として,卒業後に4年制大学への編入学や大学評価・学位授与機構の認定を受けた専攻科での「学士」の学位の取得,その後の大学院への進学が可能となっている。

○ 短期大学卒業直後に進学するだけではなく,職業経験等,一定の期間を経てからの「セカンドステージ」への移行など,学習機会の選択の幅を広げて多様な学びの機会を求める人々の期待に応えられる可能性を持っている。

(4)生涯学習機能の充実
○ 個人が豊かで充実した人生を送るためには,職業においても,生活においても,高度で先端的な知識や能力を適時適切に修得することが必要となっており,自ら積極的に学習を行い,高度で多様な職業能力を身に付けることにより,生涯にわたるキャリア形成を積極的に展開することが求められている。さらに,高齢社会を迎えた我が国において,個人が自己啓発を図り,より一層心豊かで潤いのある人生を実現することを目指して,人々の多様な生涯学習需要は増大する傾向にある。

○ このような状況を踏まえ,我が国の高等教育機関は,社会に一層開かれた機関として,産学官連携の推進をはじめ,社会経済の活性化や地域コミュニティの形成に積極的に貢献することが求められてきており,それらに資する開かれた教育の在り方が重要になっている。

○ 短期大学を地域住民の学習拠点として活用する提言は,これまでも幾度もなされてきた。これに呼応した優れた取組も見られるが,短期大学全体を特徴付けるまでに発展しているとは言えない。従来の短期大学は,非学位課程など短期大学の独自性を発揮できる分野では十分な検討がなされてこなかった。

○ 終身雇用,年功序列制など雇用体制が固定した安定型の社会では,一たび習得した知識・技能・判断力は生涯にわたって有効で,就労先もだいたい生涯同一であった。
  しかし,社会の流動化によって人々の就労環境は激変し,転職・再就職が一般化する中で,状況は一変しつつある。知識や技能は常に新たなものが要求され,キャリアアップあるいは転職のために,学び直しの場が必要になっている。
○ 同時に,本格的高齢化社会,長寿社会が到来し,心身とも健康な高齢者が増加している。団塊世代の大量退職以降,向上心盛んな高齢国民層が精神的な満足を求めて,学びの場を欲している。単発の公開講座や講義では飽き足らず,系統立てた学び,広がりのある知を求める動きが,今後は大きな潮流になることが予想される。

○ 地域と短期大学が密接に連携しながら,人々の学習ニーズを把握した上で,短期大学の学習資源を有効に活用した多彩なプログラムを展開することが期待される。

○ 特に短期大学が地域に数多く配置してきた幼稚園教諭,保育士,福祉人材,栄養士等などのキャリアアップ支援につながる教育プログラムなど卒業生の学び直しの機会の提供は重要である。

2.短期大学における機能別分化の推進
(1)大学の機能別分化
○ 大学については,将来像答申の中で,
1 世界的研究・教育拠点
2 高度専門職業人養成
3 幅広い職業人養成
4 総合的教養教育
5 特定の専門的分野(芸術,体育等)の教育・研究
6 地域の生涯学習機会の拠点
7 社会貢献機能(地域貢献,産学官連携,国際交流等)
等の各種の機能を併有するものとし,各大学は機能の間の比重の置き方の違いに基づいて,機能別分化をしていくことによって,個性・特色を明確にすることが提言されている。

(2)専門学校における「職業実践専門課程」
○ 「高等教育における職業実践的な教育に特化した新たな枠組みづくり」に向けた先導的試行として,専門学校のうち,企業等と密接に連携して,最新の実務の知識・技能を身に付けられる実践的な職業教育に取り組む学科を文部科学大臣が認定する制度 が平成26年4月からスタートし,472校1,373学科が認定されている。

(3)短期大学における機能別分化の推進
○ 以上のような環境の下で,今後,短期大学は,これまでの実績や特長を踏まえつつ,以下の4つの機能を重点的に担って行くことがふさわしいと考える。各短期大学は自校の特色を活かしつつ,適切に機能別分化をすることによって個性・特色を明確にしていくことが期待される。
1 専門職業人材の養成
・幼稚園教諭,保育士,看護師,栄養士,介護人材等の専門職業人材養成
2 地域コミュニティの基盤となる人材の養成
・金融,商業,ビジネススキル,情報,被服,芸術などの専門知識・技能と幅広い教養を併せ持つ地域コミュニティの基盤となる人材の養成
3 知識基盤社会に対応した教養的素養を有する人材の養成
・短期大学の特色を活かした教養教育と専門教育の提供による知識基盤社会に対応した人材の養成
4 生涯学習機能の充実
・資格取得やキャリアアップを目指す社会人の学び直しプログラムや地域のニーズに対応した生涯学習プログラムの実施 

 

第3章 当面の機能別振興方策
短期大学の特長的な教育機能をより伸長させ,我が国の高等教育機関としての位置付けを再構築するため,短期大学自らが改革に取り組むとともに,国はそれぞれの短期大学の特色に応じた機能別分化を推進すべきである。

1.短期大学が取り組むべき方策
(1)専門職業人材の養成機能の充実
○ 現在,我が国において少子高齢化社会の進展など,社会構造の変化によって大きな転換期を迎えており,医療・福祉の充実や女性の社会進出への支援が最重要課題の一つとなっている。

○ その中で短期大学は,これまで特に高い実績を有してきた幼稚園教諭及び保育士の養成とともに,これから更に質・量ともに人材を養成することが必要となる医療系人材や福祉施設の中核的役割を担う介護人材養成について,短期大学士課程の機能を一層活用することが期待される。

○ 専門職業人養成のうち,教育課程の中心となる資格取得のための学習については,卒業と同時に取得できるものと,受験資格を得るものの違いはあるが,取得要件は主務官庁ごとに規定され,同一資格であれば学校種が異なっていても資格における差異はない。

○ その中で短期大学が役割を担って行くためには,地方公共団体や関係団体と連携を図りつつ,人材養成機能の独自性や有意性を高めていくことが不可欠である。

○ 短期大学士課程の特長は,幅広い教養教育と充実した専門教育や職業教育を体系的に組み合わせた教育課程を編成することによって,職業に必要な専門的な能力の育成と職業人としての汎用的な能力として必要となる豊かな教養をはじめ,思考力,判断力,応用力を育成する機能であり,この特長を活かしつつ短期大学の専門職業人材養成の機能を強化していくことが必要である。

○ さらには,短期大学と専門高校や高校の総合学科との連携によって,5年間で質の高い職業教育を円滑に実施することも可能である。

○ グローバル化や産業構造の変化の中で,職業分野や職種はますます多様化の一途(いっと)をたどっている。これまで短期大学で養成していなかった職業分野の人材養成に関しても,地域の人材ニーズ等に照らし合わせて,積極的に取り組んでいくことも期待される。

(2)地域コミュニティの基盤となる人材養成機能の充実
○ 中央集中型の社会から,各地域の特色を活かした機能分散・地方分散型の社会への転換,広い意味での地域再生は,現代日本の大きな課題である。地域産業の発展に貢献する人材育成や,地域の社会人学び直しニーズなど,地域社会の活性化に対して,地域密着型の短期大学が主たる役割を担って行くことが期待される。

○ とりわけ,短期大学は地域に密着した高等教育機関として,地域の多様な学習ニーズに応えて地元の企業や事業所などに,多くの人材を輩出している。
短期大学の教育課程には,地域と密接に関わる地元企業や教育,福祉,医療関係施設での実習やインターシップが数多く展開され,また,ボランティアやクラブ活動等の課外の活動の中でも学生・教員が地域の人々と積極的に関わり,地域コミュニティの一員としての自覚を高めている。

○ 短期大学では,いずれの業種・職種にも有用な汎用的実務能力を育成しており,短期大学卒業生の多くが,地元の公共機関や企業の事務職,販売職,営業職等として就職している。このような機能と地方に幅広く分布している設置の特徴を踏まえ,地元地域における中堅実務者として活躍できる人材養成機能の充実を図っていくことが必要である。

○ 今後,更に地域コミュニティの基盤となる人材を養成していくには,地域社会のニーズに的確に対応し,真(しん)に必要な人材養成機能を地域一体となって確立することが必要である。

○ このため,例えば地域における複数の高等教育機関によるコンソーシアムの形成や高等教育機関と地方公共団体や産業界等との協議体を設置し,産学官が一体となった人材養成に対する取組などを積極的に推進することが必要である。
特に短期大学においては,自らの特長と地域のニーズを適合させることによって,地域コミュニティの基盤となる人材養成機能の充実を図る必要がある。

(3)知識基盤社会に対応した教養的素養を有する人材養成機能の充実
○ 短期大学では,幅広い教養教育に加え,人文学,社会学,自然科学,芸術,文化などの分野における人材養成にも実績を有してきたが,「知識基盤社会」の構築のためには,身近でアクセスしやすい地域に密着した教育機関である短期大学において,引き続き重要な役割の一つとして推進していく必要がある。

○ とりわけ短期大学は,少人数制のきめ細やかな指導で,双方向の演習形式での授業も可能であり,全人格的な成長を促す短期大学が若年層に対して教養教育の機会を提供することの意義は大きい。

○ 今後,更に特色ある教育課程や学習指導法の開発や教育改革に関する取組を一層推進し,短期大学の特長を活かした教育機能を再構築することによって,知識基盤社会にふさわしい人材養成機能の一翼を担っていくべきである。

○ 短期大学は,職業能力又は実際生活に必要な能力の育成を目的としており,すなわち幅広い教養と,実際的な専門教育や技能を2年ないし3年の学修によって修得できることが特長であり,教養教育と専門教育のバランスのよい教育課程は,学士課程教育の前半部分としてもふさわしい機能を有している。

○ 次世代を担う若年層が,幅広い教養を身に付けた「21世紀型市民」として成長し,「知識基盤社会」を支える人材となるために,短期大学は専門分野を超えた汎用性のある能力を育成する教育課程を展開することが重要である。

○ 知識基盤社会においては教養的素養を有する人材を養成するためには,多様な教育機会の提供が不可欠であり,短期大学士課程を高等教育のファーストステージとして4年制大学への編入学や専攻科を活用した学位取得につながる接続教育の機能としても大きな役割を担うことが期待される。

(4)生涯学習機能の充実
1 学位課程の拡充
○ 知識基盤社会では,生涯学習の需要が一層大きくなる。複雑化・高度化する現代社会では,変化に即応する必要性から,短期完結型で,かつ教養的内容から実務能力の習得,資格取得を目指すことができる短期大学は生涯学習機関として大いに期待される。

○ 短期大学が生涯学習拠点(いわば「日本型コミュニティ・カレッジ」)として機能するためには,社会人学生のような「新しい学生」の出現を直視し,「入学者は18歳が中心」という既成概念から脱却しなければならない。真(しん)に一般市民のための身近な高等教育機関になるためには,市民との交流に向けた働きかけを短期大学側から積極的に行い,同時に産業界・地方公共団体・短期大学の連携を強化する仕掛けづくりに積極的に取り組むことが必要である。

○ 短期大学士課程が地域の生涯学習の一翼を担うためには,教育課程編成の段階から地方公共団体,産業界,住民自治組織等と協議し,地域に必要な人材養成を目指して授業科目を設定することが考えられる。例えば地域の文化,産業,社会,歴史など多方面から深く,かつ実証的・実践的に地域を学ぶことによって,新たな知見につながることが期待される。

○ 授業の実施に当たっては,地域の自治体,産業界,ボランティア団体等から講師を起用し,現実的かつ多角的なアプローチをすると同時に,地域の自治体や企業にインターンシップとして学生を派遣し,学生が貴重な社会経験,就労体験を重ねることで,豊かな人材養成の一助となる。地域社会と様々な形で交流することで,相互理解が醸成され,地域振興と短期大学の機能強化につながることが期待される。

○ 中小都市を含め全国に幅広く分布している短期大学は,地域に生涯学習の機会を提供しやすい高等教育機関である。このため,共に生涯学習の場を創設するという発想で地方公共団体等と積極的に連携を図ることによって,地域社会のニーズに沿った教育機会を提供することが期待される。有識者の職位保証や,求職者の就労支援など,労働政策との連携も重要である。

○ 短期大学においては,高校卒業で就職した人に対し,高等教育を受ける機会を提供し,社会人としての基礎的能力のブラッシュアップの支援,既に高等教育機関を卒業した社会人に対し,新たな分野へのチャレンジへの支援,結婚や育児で仕事を一時離れていた女性に対しての就労支援など,多様な人々にとってアクセスしやすい,短期大学士課程の特長を活用した生涯学習機能を積極的に提供することが期待される。

○ 短期大学の認定専攻科は,平成26年7月時点で80専攻に達しており,短期大学士の取得者が,専攻科で学士を取得して,大学院に進学する道も積極的に推進していくことが期待される。

2 多様な非学位課程の展開
○ 短期大学は,専攻科等や科目等履修生制度,長期履修制度,履修証明プログラム,昼夜開講制などを活用して,多様な機能を充実させることが必要である。

○ 有職者や,専業主婦,求職者,高齢者など,多様な学習者は必ずしも学位取得を目指すわけではない。むしろ個々の学習ニーズに沿った実際的,集中的な学びを求めることが多いと考えられる。そのようなニーズに細かに対応するプログラムを開発し,短期長期の多様な非学位課程を編成する努力が求められる。

○ こうした非学位課程の修了者には履修証明プログラムを活用し,学習到達度を証明することが求められる。短期大学において非学位課程が増えていけば,外部の公益機関が基準時間数・単位数等を定め,基準に合致したプログラムを認定する仕組みも検討されてよいであろう。

○ 社会人の受入れには,開講する場所と時間に配慮する必要がある。昼夜開講,土
日コース,長期休暇中の集中講座,あるいは駅近くのサテライトや公設の学習センター等の学外会場において,短期大学が教育ソフトを持ち込むなど多様な形態が想定できる。

○ 教員組織にも配慮が必要である。学位課程の教員が非学位課程の授業を担当することがふさわしいとは限らない。海外のカレッジでは,教授・准教授といった階層を設けず,教員全員がティーチング・プロフェッサーという例もある。プログラムのコーディネーターとして実務専門家を登用し,社会人学生のためにアカデミック・アドバイザーを配置するなど,柔軟な指導体制を整える必要がある。

2.国による支援方策
○ 短期大学は高等教育機関であり,自主的・自律的に教育研究活動の充実を目指すことを前提として,国は各種の制度改善や,財政的な支援を行う役割を担っている。

○ 将来像答申においては,「我が国においては,私立学校が高等教育の普及と発展に大きな役割を果たしてきた沿革もあり,伝統的に私費負担の割合が高く,高等教育対する公財政支出の対GDP比は0.5%と,諸外国に比べて極めて低い状況にある」ことを踏まえ,「今後,高等教育に対する公的支出を欧米諸国並みに近づけていくよう最大限の努力が払われる必要がある」と指摘しており,社会への説明責任を果たしつつ,今後も引き続き,高等教育機関に対し国が一定の支援を行うことが必要である。

(1)基盤的経費の充実
○ 将来像答申は,公財政支援について,「機関補助と個人補助の適切なバランス,基盤的経費助成と競争的資源配分を有効に組み合わせることにより,多元的できめ細やかなファンディング・システムが構築されることが必要」であり,「国公私それぞれの特色ある発展と緩やかな役割分担,質の高い教育・研究に向けた適正な競争が目指されるべき」としている。

○ 短期大学の基盤的経費については,公立短期大学には地方公共団体が措置しているが,私立短期大学に対しては,国による私学助成が重要な役割を果たしている。
このうち,私立大学等経常費補助の一般補助では,「地方中小規模校」に対してより手厚い単価が定められており,私立短期大学の多くがこの適用を受けている。また,特別補助においては,特に短期大学・高等専門学校を対象として,認定専攻科の運営や研究機能の向上といった積極的な取組に増額する制度が設けられている。
私立短期大学への基盤的経費の充実のためには,こうした私学助成全体を拡充していくことが不可欠である。

(2)競争的資金の充実
○ 公私立大学の短期大学が申請できる競争的資金としては,成長分野等における中核的専門人材養成等の戦略的推進(平成23年度~),地(知)の拠点整備事業(大学COC事業)(平成25年度~),大学教育再生加速プログラム(AP)(平成26年度~)などが相次いで開始されており,既に複数の短期大学がこうした事業に採択されている。

○ 短期大学としては,各短期大学の個性・特色を活かしつつ,自らどのような機能を果たすかを選択し,社会的要請に応える改革を推進しながら,国全体の政策の方向性を見据え,今後もこうした競争的資金の新規公募が行われることを想定して十分に準備をした上で,申請につなげていくサイクルを確立していくことが必要である。

◯ 国は,以下の3つのタイプを中心として,先導的な取組について支援を行っていくべきである。

1 産業界・自治体等と連携して専門職業人材を地域に輩出する短期大学の支援
・これまで短期大学が高い実績を有してきた幼稚園教諭,保育士,栄養士,介護人材などの専門職業人材については,今後,女性の社会進出や少子高齢化社会に伴う福祉機能の向上に欠かせない人材となっている。

・このため,国は,短期大学と地域の産業界(職能団体,企業等)や自治体が協議体などを組織し,地域政策を踏まえて人材養成機能を強化し,地域に必要とされる専門職業人材を輩出する先導的な短期大学の取組について支援することが適当である。

・新卒の学生を地域に輩出する取組に加え,地域の自治体や職能団体等と連携して,現役の職業人が自身のキャリアプランに合わせて学び直すことができる取組を実施する場合についても,同様に支援することが適当である。

2 地域活性化のリード役となる短期大学の支援
・高齢化,人口減少社会を迎えている我が国の地域社会では,持続可能な都市・地域の形成や地域を支える産業の成長等の課題が山積している。このためには,地域再生について産学官が一体となって推進することが不可欠となっている。

・地域の活性化を目的として地元の高等教育機関を活用することを施策として挙げている地方公共団体は多いが,具体的に連携を図る体制が整っておらず,実績が少ないのが現状である。

・このため,国は,地域との密着性が高い短期大学の特長を活かし,短期大学がリード役となって,地方公共団体や地域の産業界と密接に連携して行う地域再生・活性化に直結する教育研究や地域貢献活動の先導的な取組について支援し,地域再生・活性化を推進することが適当である。

・成人を対象とした生涯学習については,受益者に応分の負担を求めていくことが基本であるが,短期大学が学位課程に加えて,地方公共団体・産業界の協力を得ながら,専攻科,科目等履修生制度,履修証明プログラム等の非学位課程も積極的に活用した地域コミュニティの基盤となる人材の生涯学習事業を実施する場合には,国としてもその立ち上げを支援することが適当である。

3 大学に進学することを前提としたファーストステージ教育を行う短期大学の支援
・短期大学では,学内での学習を中心とした教育課程に加え,海外体験,ボランティア,インターンシップなどの幅広い教育活動を展開している。

・短期大学においてこのような教育活動を更に推進し,4年制大学と体系的な接続を行う,高等教育の第一段階(ファーストステージ)としてのモデルとなる取組を国が支援することによって,短期大学士課程の特長を伸ばしつつ,高等教育機関における多様な進路の選択肢を充実させていくべきである。

・なお,高等学校卒業後の進路をより柔軟にするため,また,短期大学が身近な「高等教育のファーストステージ」として機能するためには,4年制大学における編入学の機会の拡大が課題であり,国はその具体的方策について検討していく必要がある。

○ 以上の3つのタイプによる短期大学の先導的な取組については,国だけではなく,地方公共団体や産業界からも理解され,積極的に支援されるような努力が不可欠である。

(3)学生に対する経済的支援の充実
○ 平成24年9月に我が国においても,経済的,社会的及び文化的権利に関する国際規約(国際人権規約A規約)第13条2(b)及び(c)の規定に係る留保が撤回され,高等教育の無償化の斬新的導入に向け,学生の経済的支援の拡充が図られている。

○ 短期大学の学生は,厳しい経済的状況に置かれる者も少なくない。平成24年度に日本学生支援機構が行った調査 によると,短期大学の昼間部の学生における奨学金の受給状況は,53.4%となっている。

○ 短期大学の学費は4年制大学に比較すると低廉であるが,意欲と能力ある学生が経済的理由により学業を断念することがないよう,授業料免除の充実と日本学生支援機構の無利子奨学金の貸与人員について増員を図り,学生に対する支援を充実させることが不可欠である。私立大学等においては,授業料減免の原資が経常的経費の内数であり,限られた財源の中では授業料減免とその他の事業がトレードオフの関係に立たされることに留意しつつ,私学助成の充実に努めるべきである。

(4)短期大学制度に関する広報の充実
○ 短期大学については,上述のような様々な優れた特長があるにもかかわらず,社会的に十分に認知されていないのではないか,という懸念が特に短期大学関係者から繰り返し表明されてきている。

○ こうした指摘は,国が4年制大学と短期大学とを共に「大学」として区別せずに取り扱っていることにも一因があると考えられることから,国は,4年制大学と異なる短期大学の特色が,統計的にも裏付けできるように各種データを整理していくべきである。

○ また,短期大学自らが社会にその特長をアピールする取組に加えて,国としても,関係団体等と協力しながら,短期大学の役割・特長や機能,各種データ等を積極的に広報し,社会的に短期大学の存在がしっかり認識されるよう努めるべきである。

3.地方公共団体による支援方策
○ 将来像答申は,地方公共団体の取組について,「国公私立を通じた地域の大学全体との関係については,委託研究等の産学官(公)連携の推進や学校教員の養成,公開講座の実施等につき,大学の教育・研究活動と地方公共団体の施策展開の有機的な連携を図ることが期待される。その際,地方公共団体側がその判断に基づき,受益の程度やその見通しに対応した財政的支援を行うことも有効であると考えられる。」と提言している。

○ 教育基本法(平成18年法律第120号)に基づき,都道府県及び中核市においては,国の教育振興基本計画を参考にしつつ,その地域の実情に応じ,教育施策に関する基本的な計画を定めるよう努めることとされている。現在,ほとんどの都道府県等の教育振興基本計画には高等教育に言及があり,地域の人づくり・生涯学習への貢献,学生の地域社会との関わり,高大連携,地元企業との連携等,高等教育機関に対して多様な役割が期待されている。

○ 一方で,地方公共団体では高等教育行政を担当する窓口が必ずしも明確ではなかったり,地方公共団体から公立以外の高等教育機関に対して人的・財政的な支援が行われる例もまだ多くはないという状況がある。

○ 地域密着性の強い短期大学が持つ教育や知の資産は,当該地域にとって欠くことのできない公共財と言える。短期大学の発展は地域の活性化につながることから,地方公共団体には,短期大学を含む地域の高等教育機関の役割を十分認識し,教育振興基本計画を更に具体化し,地方公共団体の判断により,実情に応じた適切な支援を行うことが期待される。

4.短期大学関係団体等が取り組むべき方策
(1)短期大学関係団体の役割
○ 短期大学関係団体は,公立,私立という短期大学の設置形態によってその役割が異なる面もあるが,短期大学の発展に寄与するとともに,会員校である短期大学に対する適切な支援を行うことが求められる。特に,小規模な短期大学にとっては,他の短期大学と一緒に取り組むことで効率的に行うことができることも多く,こうした共通の関心事項についてのプラットフォームを提供することが,短期大学関係団体の大きな役割であると言える。

○ 「学士課程教育の構築に向けて(答申)」(平成20年12月24日中央教育審議会)においても,大学や大学教員の教育研究の質的向上を支援するために,学協会や教員職能団体と並んで,大学団体の果たす役割機能が重要であると指摘している。

○ 個々の短期大学が諸課題に適切に対応し,短期大学士課程の進展に寄与するために,短期大学関係団体は,今後,以下のような役割を強化していくことが期待される。
1 短期大学の教育研究の質的向上を支援する役割
2 教員・職員等の能力開発を促す取組
3 短期大学の振興を図る役割

○ 具体的には,
・専門職業教育のモデル・コア・カリキュラムの策定等に関する調査研究
・教職員に対するFD(ファカルティ・ディベロップメント)やSD(スタッフ・ディベロップメント)などの活動を通じた能力向上プログラムの開発
・短期大学の振興に資する情報収集や対外的な広報活動などの機会を積極的に提供する役割を担うことが考えられる。

○ また,短期大学の強い地域性を一層活かすためには,地方ごとに編成された地方協会の活動を促進する方策も検討されることが望まれる。

(2)認証評価団体の役割
○ 短期大学における教育の質保証の仕組みとして,事前規制・事後チェックの適切な役割分担と協調を確保することが重要であり,国による設置認可制度と認証機関による第三者評価制度の枠組みは今後も維持していくべきである。

○ その中で平成16年度から導入された認証評価制度については,教育の質保証に加えて短期大学の役割や特長を社会に対し説明していく機能を有しているが,今後更に短期大学の個性・特色等を積極的に示していけるよう,認証評価団体における評価システムの更なる充実を図ることが期待される。

○ また,一般財団法人短期大学基準協会が認定している「地域総合科学科」については,その称号や位置づけがわかりづらくメリットが見えにくいことが,課題の一つとして指摘されている。したがって,その再定義に当たっては,中核となる人材養成を教育目的に明確に位置付け,地方公共団体,地元企業及び関係団体等との連携が確保されている短期大学に対し「コミュニティ・カレッジ」と称することができるようにするなどのインセンティブを付与し,短期大学の強みや特色を社会に対し積極的に示していくシステムを取り入れることが期待される。 
第4章 中長期的検討課題
○ これまで述べてきたとおり,短期大学は,社会環境やニーズが大きく変化する中で,その発足から現在に至るまで柔軟に位置付けや教育内容等を見直しながら,社会から求められる役割を果たしてきた。

○ 短期大学は,2年又は3年の修業年限でしっかりした教育課程が編成され,設置基準に則(のっと)った教育が実施されていることを前提として学位授与権を付与されているのであり,修業年限の上限を撤廃することには慎重を要する。
  むしろ,歴史的過程を通じて形成されてきた短期大学の特長と機能を認識した上で,今後は各短期大学がそれぞれの機能の強化を図り,国が機能別に推進していくことで,短期大学の必要性と位置付けが社会のより幅広い層から認知されるようになることが期待されている。

○ 今般,政府の教育再生実行会議「今後の学制等の在り方について」(第五次提言)(平成26年7月3日)は,「高等教育段階では,社会的需要に応じた質の高い職業人の養成が望まれますが,i)大学や短期大学は,学術研究を基にした教育を基本とし,企業等と連携した実践的な職業教育を行うことに特化した仕組みにはなっていない(中略)などの課題が指摘されています」とし,「質の高い実践的な職業教育を行う新たな高等教育機関の制度化」が望まれると提言した。

○ 同提言では,高等学校や専修学校高等課程と専門学校や短期大学との連携,大学への短期大学からの編入学の機会の拡大などもうたっており,基本的には,本審議まとめを受けた短期大学の機能別強化により,こうした取組が進展していくことになると考えられる。

○ 同提言で「高等教育機関における職業教育の体系を確立する」とされたことについては,今後,更に制度化に向けた検討が行われることが予定されている。短期大学にとっての中長期的な課題として,特に「専門職業人材養成機能」を充実・強化していく短期大学において,職業教育の新しい高等教育体系との関係で,目的や制度の在り方も含め,自らどのような位置付けを求めていくかについて,更に慎重に検討する段階が生じるであろう。

○ また,4年制大学との比較において,短期性に着目して付けられている「短期大学」の名称の見直しについても長年の課題となっているが,名称を変更する際には短期大学の性質・設置基準を再定義することとなることを踏まえ,更に議論を深めていく必要があろう。

○ 加えて,短期大学が地域ニーズを踏まえ,より多くの非学位課程を開設していくことを推進する観点から,一定の基準に合致したものを認定する仕組みも,地域総合科学科の再定義と併せて,今後の検討課題である。なお,中長期的には,非学位課程における単位を累積することによって,将来の学位取得につながる可能性も検討されることが望ましい。

○ このほか,国家資格等の取得要件と短期大学の教育課程や修了要件等における文部科学省と関係省庁との調整や,公立短期大学における設置団体(地方公共団体)との関係構築とそのための国の役割なども,今後の重要な課題である。

○ こうした中長期的課題の検討が進展するためには,それぞれの短期大学がこれまでの実績を踏まえつつ,今後の社会構造の変化を捉えて,他の高等教育機関とは異なる特長や独自性を更に発揮していくことが重要である。
 短期大学がこれからも,社会から求められる役割を積極的に果たしながら発展していくことを切に期待する。

 

お問合せ先

高等教育局大学振興課

(高等教育局大学振興課短期大学係)