資料2-1 短期大学の今後の在り方について(審議まとめ)(案)

はじめに

   短期大学は,これまで短期に社会へ人材を送り出す身近な高等教育機関として,高等教育の機会均等を確保する役割や社会を支える職業人材の育成,地域の発展にも大きな役割を果たしてきた。
   現在,急速な少子高齢化の進行,地域コミュニティの衰退,グローバル化によるボーダレス化等に直面する我が国において,持続的に発展し活力ある社会を目指した変革を成し遂げるべく,これを担う人材育成の場である高等教育機関は,社会からの期待に応えることが求められている。
   18歳人口の減少,学生のニーズの変化もあり,短期大学の数も年々減少が続くなど, 短期大学全体としては厳しい運営状況が続いているが,これまで短期大学が担ってきた高等教育の機会均等を確保する役割,職業人材の育成,地域の中核的人材の育成,地域の生涯学習拠点機能,学生一人一人へのきめの細かい教育を実施してきた特色ある教育は,今後,社会の変化を誠実に捉え,多くの社会層からの修学ニーズに応え,人材育成に大いに寄与していくべきであると考えられる。
   このような短期大学を取り巻く状況の中,平成17年1月の中央教育審議会答申「我が国の高等教育の将来像」においては,「短期大学の課程はユニバーサル段階の身近な高等教育の一つとして,また,地域と連携協力して多様な学習機会を提供する,知識基盤社会での土台づくりの場として,新時代にふさわしい位置付けが期待され,短期大学の課程の積極的な改革が期待される」ことが示された。
   さらに,平成24年8月の中央教育審議会答申「新たな未来を築くための大学教育の質的転換に向けて~生涯学び続け,主体的に考える力を育成する大学へ~」においては,「短期大学士課程について,知識基盤社会,成熟社会の中でその機能をどのように再構築すべきかなど,その在り方を検討すること」が要請された。
   このことを受け,平成25年12月,中央教育審議会大学分科会大学教育部会の下に,短期大学ワーキンググループが設置された。
   本ワーキンググループにおいては,委員や専門家による事例報告等も交えて,短期大学の機能の充実・再構築などを含む短期大学の在り方について審議を深めてきたところである。
   このたび,これまでの審議経過を「短期大学の今後の在り方について」としてとりまとめた。本とりまとめを活用し,国,地方自治体,短期大学関係者などにおいて,短期大学の充実に向けてより一層議論を深めていくことを期待したい。

 

第1章 短期大学の現状と課題

1.短期大学制度の成立経緯
    ○ 短期大学制度は,昭和24年6月の学校教育法の一部改正により,
      1 旧制の高等学校,専門学校のうち,新制大学に転換することが困難であるものの救済(新制高等学校卒業者の進路の確保)
      2 保護者及び学生の経済的負担の軽減
      3 短期間における実務者の養成,女子教育の要望
      などを踏まえ,暫定的な制度として昭和25年4月に発足した。

    ○ 昭和39年6月の学校教育法一部改正で短期大学は恒久的制度とされたが,大学の修業年限の特例として存置されてきた実態の尊重や教育水準をできる限り高く保持することを考慮し,大学の一類型という位置付けにされた。
    ○ その後,昭和51年4月には短期大学設置基準が施行,平成17年度には短期大学卒業者に対する「短期大学士」の学位授与制度が創設され,現在に至っている。

2.短期大学における人材養成の実績
    ○ 短期大学は平成5年から8年頃をピークとして,その後は学校数,学生数とも減 少してきている。平成25年度の学校数は360校で,そのうち341校が私立短期大学となっている。
    ○ また,同年度の短期大学生数は約13万人でそのうち約9割が女子学生となっている。

    ○ 専門分野別に分類すると,平成25年度時点で最も学生が多い分野は教育系で全体の36.2%となっている。短期大学生の総数が減少する中でも教育系は微減にとどまっている。

    ○ 一方,家政系(18.9%),社会系(9.8%),人文系(9.2%)の3分野は年々比率を減らし,学生数はこの3分野だけで20万人以上減らしている。

   ○ なお,専門課程を置く専修学校(専門課程を置く専修学校は,専門学校と称することができるとされている。以下,単に「専門学校」と記す)の在学者の分野別比率によると,平成25年度で最も多いのは医療関係で34.9%,次いで文化・教養関係が18.6%,工業関係が13.0%となっている。こうした分野の中には,短期大学が実施している実務・職業教育と競合している場合もある。
3.我が国の短期大学教育の特長
    ○ 我が国の高等教育については,同年齢の若年人口の過半数が高等教育を受けるといういわゆる「ユニバーサル段階」に達しており,我が国の高等教育に多様性を持たせ,広く国民に高等教育を受ける機会を提供し,多くの優秀な人材を輩出することが求められている。
    ○ 修業期間が短く,全国各地に幅広く分布している短期大学は,4年制大学の進学者以外の多様な学生を受け入れるなど,社会からのニーズに応え,実績を積み重ねてきた。
    ○ 我が国の短期大学の特長は,次の6点に集約できる。

(1)第一段階(ファーストステージ)の学位が取得できる高等教育機関
    ○ 短期大学は,「大学」の一類型として学校教育法上位置付けられており,一般の大学の目的に代えて「深く専門の学芸を教授研究し,職業又は実際生活に必要な能力を育成すること」を主な目的とし,修業年限は2年又は3年とされている(学校教育法第108条)。
    ○ 短期大学には,「短期大学士」の学位を授与する権利が付されており,その卒業生は4年制大学に編入学することができる(学校教育法第104条第3項,同法第108条第7項)。また,短期大学専攻科を通じて「学士」の学位取得も可能となる。
    ○ このように,短期大学は,専門学校等と違って,その後の高等教育システムに接続する仕組みが法的に確立しており,高等学校卒業後,最も短期間で,その後の高等教育システムにつながる第一段階(ファーストステージ)の学位を得られる高等教育機関という特長を有している。
    ○ なお,設置主体としては,国立の短期大学は現在存在しておらず,公立短期大学が約5%,私立短期大学が約95%と,私学が圧倒的な多数を占めている。短期の高等教育の機会を提供するという公的な役割にあって,私学の果たす役割が大きくなっている。

(2)専門的・汎用的職業能力を育成する高等教育機関
    ○ 短期大学は,2年から3年間の修業年限の中で,教養教育と専門教育を体系的に編成された教育課程によって,幼稚園教諭,保育士,栄養士,看護師,介護人材をはじめ多くの専門職業人を養成してきた。幼稚園教諭(Ⅱ種),保育士,栄養士,司書などの数多くの資格は,短期大学を卒業することにより無試験で取得することができる。
    ○ また,教養に裏打ちされた汎用的職業能力を育成することによって,地域の多種多様な業種に卒業生を送り出し,地域の維持・発展に貢献してきた。短期大学における実務教育・職業教育は,教養教育の基礎に立ち,理論的背景を持った分析的・批判的見地からのものである点で,専門的能力に加え汎用的な能力も養成しており,専門学校等より提供される実務教育・職業教育とは異なる特長がある。
    ○ 特に,幼稚園教諭や保育士においては,短期大学卒業生の占める割合が圧倒的に高く,4年制大学や専門学校にはない,教養教育と専門教育とをバランスよく行うという短期大学教育の特長が,就職面においても評価されていると考えられる。
    ○ 高等学校を卒業した学科で見た場合,短期大学入学者は4年制大学の入学者に比べて総合学科や職業学科の卒業生が多いことも短期大学の特長のひとつとして考えられる。

(3)気軽にアクセスできる身近な高等教育機関
    ○ 短期大学は,4年制大学や専門学校よりは学費が低廉であり,地理的に見ても中小都市を含め全国各地に幅広く分布しており,短期大学のキャンパスは約40%が人口30万人未満の都市に所在している。このため,気軽にアクセスできる高等教育機関となっており,地元高等学校卒業生の進学率が全体の67%と4年制大学に比して高い。
    ○ また,私立短期大学卒業生の自県への就職率も7割以上と高い実績を有しており,地域コミュニティに密着した身近な高等教育機関として,特に地元に若年層を定着させる上で重要な役割を果たしている。
    ○ 短期大学の存在は,それぞれの地域での人材養成のみならず,地域文化や地域経済の発展にも寄与してきた。地元との関連性が強い教育研究活動が行われ,教職員と学生など多くの人が集まることによって地域住民との交流が活発になり,地域の振興にもつながっている。

(4)小規模できめ細かい教育を行う高等教育機関
    ○ 短期大学は,4年制大学に比べると総じて比較的規模が小さく,学長・教員から一人一人の学生の顔が見える関係の中で,伝統的にきめ細かい少人数教育を特色として,教育面により重点を置いてきた経緯があり,学生の判断力や思考力を養う授業や学生指導に力を入れる体制が整えられてきた。
    ○ 特に平成3年の短期大学設置基準の大綱化以降は,各短期大学において必修科目を減らして学生の選択肢を広げるようになり,学生主体のカリキュラムを重視するようになっている。
    ○ さらに,学生の就職に対する目的意識が高く,長期休業中や正規の教育課程以外でも現場実習や海外体験事業などの異文化体験,地域の活動等に関わることによって,短期集中型で多様な経験を積み,学問的専門性や職業能力の育成に加え幅広い人間形成を行っている。
    ○ 学生の指導方法については,特に以下のような特色を有している。
      1  少人数教育(学校・学科・クラスの規模が小さく,教員と学生の距離が近いことを活かして,きめ細やかな教育・指導を行う)
      2  導入教育(入学予定者を対象に,基礎学力の補強,学習意欲の維持,大学生活への適応,教員や他の学生との関係構築などを目指して事前に指導する。)
      3  担任制度(学業のみならず個々の学生の人間的成長をも支援する。)
      4  一貫指導(資格取得に導く教育方法から就職支援まで一貫した進路指導を行う。)
    ○ これらの特色を併せ持つことで,4年制大学や専門学校とも異なる短期大学ならではの教育効果を上げてきた。その有意性は社会でも評価されているところである。

(5)教育の質が保証された高等教育機関
    ○ 短期大学は,大学の一類型として,学校教育法の規定に基づき,学科等の設置廃止等の際は国が認可を行うともに,短期大学に対する認証評価制度が導入されており,事前及び事後チェック機能が制度化されている。
    ○ また,平成23年度には,学校教育法施行規則の一部改正が行われ,教育情報の公表が義務付けられた。
    ○ このように,短期大学は,教育の質の確保においても制度上保証されている。

  (6)女性の教育に対する重要な役割
    ○ 短期大学は主として女性教育へのニーズに対応して発展してきた。このため,各短期大学では,保育科や秘書科などをはじめとして4年制大学にはないバリエーションに富んだ学科や講座を開設するなど,従来の学問体系にこだわらない新たな試みが行われてきた。
    ○ 身近で低学費の大学という特性は,女性の高等教育の機会を大きく広げることにもつながり,女性の教育水準の向上と社会進出に絶大な役割を果たしてきた。この結果,多くの短期大学が,幼児教育や食物栄養といった特定分野での専門職業人の養成に実績をあげ,女性の社会進出と特定分野の振興に結びついていると言える。
    ○ 女性の社会進出が多様化すると,短期大学の学科も実務傾向が強まり,近年は,情報化・国際化に対応した学科の設置が増え,以前からの教養系学科でも実務教育講座を設けている。また,女性の学び直しの場としても重要性を増している。
    ○ このように短期大学は,時代ごとの社会的価値観やニーズの変化に即応しながら,女性に対する高等教育を支える存在として重要な役割を果たしている。
4.短期大学の課題
(1)社会のニーズを踏まえた検討の必要性
    ○ 女子の短期大学進学率は,平成6年の24.9%をピークに平成25年現在は9.5%と減少しており,一方,女子の4年制大学の進学率は平成19年に初めて4割を超え,平成25年には45.6%に増加している。
    ○ このように従来,短期大学生の主流となっている女子学生について,女性の社会進出の高まりとともに,4年制大学への進学者が増加している傾向にある。
    ○ 特に女性の社会進出の進捗に伴い,4年制大学指向と職業教育のはざまで短期大学の特色が見えにくくなってきており,方向性の検討に当たっては,短期大学の視点だけではなく,社会のニーズを踏まえた推進方策が必要である。
    ○ その中で社会の多様なニーズに対応することを目的として一般財団法人短期大学基準協会の認定事業として行ってきた「地域総合科学科」については,25短期大学26学科にとどまっており,平成21年以来新たな認定を行っていない状況であることを踏まえ,抜本的な見直しが必要である。その際,短期大学の特色をできるだけ可視化することが不可欠である。

(2)短期大学の位置付けの明確化
    ○ 短期大学は,専門学校と役割が一部重複しているとともに制度上大学の一類型として位置付けられることが,その役割を曖昧にしているとの指摘がある。例えば,専門職業人の養成について,特に採用する側(がわ)から見た場合に,短期大学と専門学校において養成される人材の違いが一見して分かりにくいとの声があり,また,一方で政策提言や統計データ,情報発信の面で4年制大学と短期大学がまとめて整理される傾向が見受けられる。
    ○ 学校法人によっては,短期大学と専門学校を両方設置し,人材養成分野や学生の受入れなどについて異なる方針のもと,明確に機能を分担しつつ運営を行っているところも存在している。
    ○ 今後,短期大学の推進に当たっては,短期高等教育が高等教育システムの中でどのような位置付けなのか,とりわけその中で短期大学が専門学校との役割分担を含め,どのような位置付けなのか明確にすることが大きな課題である。

(3)地方公共団体や産業界との連携強化
    ○ 地域社会で活躍できる人材養成の充実に当たっては,地域の各種政策とマッチングを図ることが重要であるが,現状では,地方自治体において高等教育政策を担う部門が極めて少ないため,効果が限定されているのが現状である。例えば,雇用や社会福祉などの地方公共団体の政策と短期大学などの高等教育機関の振興策を両立させるような仕組みを検討することが必要である。
    ○ また,地元企業への就職率が4年制大学に比して高く,地域密着性の高い短期大学の機能を地域の活性化等に結びつけるためには,地域の産業界と更に連携を強化する仕組みの構築も課題として挙げられる。
    ○ 社会人学び直し機能など,短期大学における生涯学習機能の充実は喫緊の課題であるが,現状においては学位課程における社会人の入学生が極めて少ない状況である。社会人が大学や短期大学で学ぶことのできる環境の整備について,産官学が一体となって推進することが必要である。

(4)地域コミュニティの中核となる短期高等教育機関としての機能の確立
  ○ 「我が国の高等教育の将来像(答申)」(平成17年1月28日 中央教育審議会)では,「ユニバーサル段階の身近な高等教育の一つとして,また,地域と連携協力して多様な学習機会を提供する」ことによって「米国のコミュニティ・カレッジのような知識基盤社会の土台づくりの場として,新時代にふさわしい位置付けがなされることが期待される。」と提言されている。
    ○ 短期大学が真(しん)に地域のニーズに即した役割・機能を果たすためには,国や地方の政策と高等教育機関の密接な連携機能を構築し,地域総合科学科の抜本的見直しとともに,我が国の短期大学にふさわしい地域コミュニティの中核となる短期高等教育機関としての機能(言わば「コミュニティ・カレッジ機能」)をしっかり確立させることが必要である。
    ○ 短期高等教育機関の先進事例として米国のコミュニティ・カレッジは参考とすべき点が多いが,一方で米国では多くが州立として設置されており,制度面や社会的構造が我が国とは相違することを十分踏まえた上で,我が国の短期大学の推進方策の一つとして検討すべきである。

(5)学生に対する支援の充実
  ○ 短期大学は,4年制大学と比較すると学費は低廉であるが,経済的に厳しい中で進学してくる学生も多く,気軽にアクセスできる身近な高等教育機関という特長からすれば,学生支援の在り方等についても検討が必要である。

    ○ 現状では,学生への経済的支援という面では,日本学生支援機構の奨学金が,私立学校に対しては,国から授業料免除の機関補助が措置されているが,学生個人への補助の問題点,国として措置すべき事項,公立短期大学における国と地方の役割分担など,それぞれの課題について整理すべきである。
   

第2章 今後の短期大学の機能

1 短期大学の役割・機能
(1)社会基盤の維持・向上を担う職業人材の養成
 (専門職業人材の養成)
    ○ 短期大学には,目的の一つとして「職業に必要な能力の育成」が掲げられており,実際に高校生の進学の理由として,4年制大学に比べて「資格取得」,「就職に有利」ということを重視している傾向がある。

    ○ また,「今後の学校におけるキャリア教育・職業教育の在り方について(答申)」(平成23年1月31日 中央教育審議会)において,「短期大学におけるキャリア教育では,地域の実情に即した特色あるテーマを用いた課題対応型学習が実施されている例が多く,また,職業一般に必要な実務能力の育成等の取組が積極的に行われている。」と指摘されているとおり,キャリア教育及び職業教育に高い評価を得ている特長を活かし,今後も短期大学は職業人材育成の一翼を担っていく必要がある。
    ○ 特に,幼稚園教諭や保育士などにおいては,短期大学の卒業生が占める割合が極めて高く,短期大学における人材養成機能の維持・向上は不可欠である。さらには,栄養士や介護人材など,今後,少子高齢化社会を迎え,医療や社会福祉等の充実を図る上で必要とする人材養成機能については,引き続き短期大学において養成することによって,社会に貢献していくことが必要である。

    ○ その際,「今後の学校におけるキャリア教育・職業教育の在り方について」において指摘されているように,当該資格に関する知識・技能等に偏ることなく,当該分野における学問の社会的意義の理解や課題対応型学習等を通じて,専門分野の教育を通じた社会的・職業的自立に向けて必要な基盤となる能力や態度の育成を図ることが,短期大学の特長を活かす上でも重要である。

(2)地域に密着した高等教育機関としての活用
  (地域コミュニティの基盤となる人材養成)
    ○ 都道府県別の高等学校卒業者の進学率(専門学校含む)においては,最も高い京都府(79%)と最も低い青森県(57%)で22%の差が生じており,地域間における進学率の格差の解消も必要である。

    ○ 今後,我が国はさらなる少子高齢化や人口減少社会を迎え,特に地方都市においてはこれに加え若者の大都市への流出という大きな課題を抱えている。このような中で学費が低廉で地方都市に設置されている短期大学の存在は,気軽にアクセスできる身近な高等教育機関として欠かせないものとなっている。

(3)高等教育のファーストステージとしての期待と可能性
  (知識基盤社会に対応した教養的素養を有する人材の養成)
    ○ 知識基盤社会の時代にあるといわれる我が国においては,短期大学教育の特長を更に伸長し,「短期大学士」に必要とされる資質能力の位置付けを確立しつつ,更に充実させることが不可欠である。
    ○ その特長の一つとして,我が国における「高等教育のファーストステージ」として,幅広い社会のニーズに応えられる大きな可能性を有しており,卒業後に4年制大学への編入学や大学評価・学位授与機構の認定を受けた専攻科を通じて「学士」の学位の授与や,大学院への進学が可能となり,かつ,就職後に一定期間を経て「セカンドステージ」へ進学するなど,多様な教育機会を受ける選択肢が広がる可能性を有していることから,更に短期大学の機能を有効に活用することが期待される。

(4)生涯学習機会の提供
    ○ 学位課程だけではなく,専攻科や別科,履修証明プログラムを含めた非学位課程も積極的に活用し,地域と短期大学が密接な連携の下,更に生涯学習の拠点となって幼稚園教諭,保育士,福祉人材,栄養士等が更に上位の資格の取得やキャリアアップにつながる教育プログラムなど,社会の需要に合わせて設置し,生涯学習や社会人の学び直しニーズに即した教育を提供することが期待される。

2.短期大学における機能別分化の推進

(1)大学の機能別分化
    ○ 大学については,「我が国の高等教育の将来像(答申)」(平成17年1月28日)の中で,高等教育機関のうち大学の機能として
      1  世界的研究・教育拠点
      2  高度専門職業人養成
      3  幅広い職業人養成
      4  総合的教養教育
      5  特定の専門的分野(芸術,体育等)の教育・研究
      6  地域の生涯学習機会の拠点
      7  社会貢献機能(地域貢献,産学官連携,国際交流等)
      等の各種の機能を併有するものとし,各大学は機能の間の比重の置き方の違いに基づいて,機能別分化をしていくことによって,個性・特色を明確にすることが提言されている。
(2)専門学校における「職業実践専門課程」
    ○ 「高等教育における職業実践的な教育に特化した新たな枠組みづくり」に向けた専門学校の先導的な取組として,企業等と密接に連携して,最新の実務の知識・技術・技能を身につけられる実践的な職業教育に取り組む学科を文部科学大臣が認定する制度1が平成26年4月からスタートし,472校1,373学科が認定されている。
(3)短期大学における機能別分化の推進
    ○ 以上のような環境の下で,今後,短期大学は,これまでの実績や特長を踏まえつつ,以下の機能を重点的に担って行くことがふさわしいと考える。

    ○ さらに,各短期大学は自校の特色を活かしつつ,適切に機能別分化をすることによって個性・特色を明確にしていくことが期待される。
      1  専門職業人材の養成
            ・幼稚園教諭,保育士,看護師,栄養士,介護人材等の専門職業人材養成
      2 地域コミュニティの基盤となる人材養成
            ・金融,商業,ビジネススキル,情報,被服,芸術などの専門知識・技能と幅
            広い教養を併せ持つ地域コミュニティの基盤となる人材の養成
      3  知識基盤社会に対応した教養的素養を有する人材の養成
            ・短期大学の特色を活かした教養教育と専門教育の提供による知識基盤社会に対応した人材の養成
      4  生涯学習機会の提供
          ・資格取得やキャリアアップを目指す社会人の学び直しプログラムや地域のニーズに対応した生涯学習プログラムの実施
   

1 「職業実践専門課程」の認定要件
  ○ 修業年限が2年以上
  ○ 企業と連携体制を確保して,授業科目等の教育課程を編成
  ○ 企業等と連携して,演習・実習等を実施
  ○ 総授業時間数が1,700時間以上又は総単位数が62単位以上
  ○ 企業等と連携して,教員に対し,実務に関する研修を組織的に実施
  ○ 企業等と連携して,学校関係者評価と情報公開を実施


第3章 機能別の推進方策
    ○ 短期大学の独自性を有する教育機能をより伸長させ,我が国の高等教育機関として位置付けを再構築するため,短期大学自らが改革に努力するとともに,国はそれぞれの短期大学の特色に応じた機能別分化を推進すべきである。

1.短期大学の機能別強化の方向性
    1 専門職業人養成機能の充実
    ○ 現在,我が国において少子高齢化社会の進展など,社会構造の変化によって大きな転換期を迎えており,医療・福祉の充実や女性の社会進出への支援が最重要課題の一つとなっており,特に医療,介護人材や保育人材の養成とスキルアップが不可欠となっているが,これらの専門職業人養成についても短期大学も大きな役割を担うことが期待される。
    ○ 資格取得のための学習については,卒業と同時に取得できるものと,受験資格を得るものの違いはあるが,専門学校や4年制大学における取得資格と同様のものが多い。取得要件は主務官庁毎(ごと)に規定され,同一資格であれば学校種が異なっていても資格における差異はない。その中で短期大学教育の特色を発揮し,人材養成機能の独自性や有意性を高めていくことが不可欠である。
    ○ 短期大学教育の特長は,幅広い教養教育と充実した専門教育や職業教育を体系的に組み合わせた教育課程を編成することによって,職業に必要な専門的な能力の育成と職業人としての汎用的な能力として必要となる豊かな教養をはじめ,思考力,判断力,応用力を育成する機能であり,この特長を活かしつつ短期大学の専門職業人養成を機能強化していくことが必要である。
    2 地域コミュニティの基盤となる人材養成機能の充実
    ○ 我が国においては,将来的には人口減少と都市に集中する傾向に拍車がかかり,地方都市の衰退が危惧されており,このような事態に陥らないよう本格的に地域再生を図っていくことが不可欠であり,地域における高等教育機関の存在は極めて大きな意義がある。
    ○ 我が国は中央集中型の社会から,各地域の特色を活かした機能分散・地方分散型の社会への転換,広い意味での地域再生は,現代社会の大きな課題である。地域産業の発展に貢献する人材育成や,地域の社会人再教育ニーズなど,地域社会の活性化に対して,地域密着型の短期大学が主たる役割を担って行くことが期待される。
    ○ 短期大学は地域に密着した高等教育機関として,地元企業に就職する人材養成に実績を有していることから,今後も,教養教育と専門教育などの正規のカリキュラムに加えインターシップや課外活動等においても,体系的にプログラム化された教育の質を更に高めることによって,地域と密接に関わる人材養成機能の充実を推進していく。

    ○ 短期大学では,いずれの業種・職種にも有用な汎用的実務能力を育成しており,短期大学卒業生の多くが,地元の公共機関や企業の事務職,販売職,営業職等として就職している。このような機能と地方に幅広く分布している設置の特徴を踏まえ,地元地域における中堅実務者として活躍できる人材養成機能の充実を図っていく。
    ○ 今後,更に地域コミュニティの基盤となる人材を養成していくためには,地域社会のニーズに的確に対応し,真(しん)に必要な人材養成機能を地域一体となって構築することが必要である。
    ○ このため,例えば複数の短期大学によるコンソーシアムの形成や地方公共団体や産業界等との協議体を設置し,産官学が一体となった人材養成に対する取組などを積極的に推進し,地域コミュニティの基盤となる人材養成機能の充実を図る。
    4 知識基盤社会に対応した教養的素養を有する人材養成機能の充実
    ○ 「我が国の高等教育の将来像(答申)」(平成17年1月28日 中央教育審議会)では,「知識基盤社会」を支える人材を「21世紀型市民」と称して,専攻分野の専門性を有するだけではなく,幅広い教養を身に付け,高い公共性,倫理性を保持しつつ,時代の変化に合わせて積極的に社会を支え,改善していく資質を有する人材,と定義している。

    ○ 短期大学では,幅広い教養教育に加え,人文学,社会学,自然科学,芸術,文化などの分野における人材養成にも実績を有してきたが,「知識基盤社会」の構築のためには,身近でアクセスしやすい地域に密着した教育機関として短期大学において重要な役割の一つとして推進していく。
    ○ とりわけ短期大学は,少人数制のきめ細やかな指導で,双方向の演習形式での授業も可能であり,全人格的な成長を促す短期大学が若年層に対して教養教育の機会を提供することの意義は大きい。
    ○  今後,更に特色ある教育課程や学習指導法の開発や教育改革に関する取組を一層推進することによって,短期大学の特長を活かした教育機能を再構築することによって,知識基盤社会にふさわしい人材養成機能の一翼を担っていくべきである。

    ○ 短期大学は,幅広い教養と,実際的な専門教育及び実践的な技能を修得できる職業教育を2年ないし3年の学習によって完結させていることは,大きな特色であり,教養教育と専門教育のバランスのよい教育課程は,学士課程教育の前半部分としてふさわしい機能を有している。
    ○ 知識基盤社会においては教養的素養を有する人材を養成するためには,多様な教育機会の提供が不可欠であり,短期大学教育を高等教育のファーストステージとして4年制大学への編入学や専攻科を活用した学位取得につながる接続教育の機能としても大きな役割を担うことが期待される。
    ○ 教育再生実行会議第5次提言にも掲げられている,高等学校卒業後の進路をより,柔軟にするため,また,短期大学が身近な「高等教育のファーストステージ」として機能させるためには,4年制大学における編入学定員の拡充や編入学制度の柔軟化が不可欠となり,国はその具体的方策について検討していく必要がある。

    4 生涯学習機会の提供
    ○ 知識基盤社会では,生涯学習の需要が一層大きくなる。複雑化・高度化する現代社会では,変化に即応する必要性から,短期完結型で,かつ教養的内容から実務能力の習得,資格取得を目指すことができる短期大学教育は生涯学習機関として大いに期待される。
    ○ 例えば,高校卒業で就職した人に対し,高等教育を受ける機会を提供し,社会人としての基礎的能力のブラッシュアップの支援,既に高等教育機関を卒業した社会人に対し,新たな分野へのチャレンジへの支援,結婚や育児で仕事を一時離れていた女性に対しての就労支援など,短期大学教育の特長を活用した生涯学習機能を積極的に提供することが期待される。
    ○ また,専攻科等や科目等履修制度,履修証明プログラムなどを活用して社会人再教育機能や地域住民に対する生涯学習など,多様な機能を充実させるためにも短期大学と地域の政策を連携させることも不可欠である。
    ○ さらには,短期大学教育を活用し,現役の職業人が自身のキャリアプランに合わせて学び直すことができるプログラムを地域の自治体や職能団体等と連携して実施することを推進する。
    ○ とりわけ短期大学は設置されている地域的な分布状況から,4年制大学に比べ地域社会において効果的な役割を果たしやすい。このため,地方公共団体等と積極的に連携を図ることによって,地域社会のニーズに対応した教育機会を提供する。
    ○ 短期大学における生涯学習機能の充実のための取組は喫緊の課題であるが,現状においては,循環型学習の機能整備が進んでおらず,社会人学生の入学者数が極めて少ない状況である。知識基盤社会にふさわしい生涯学習機能を充実させていくためには,社会人が大学や短期大学で学ぶことのできる環境の整備について,産官学が一体となって取り組むことが必要である。

2.国による支援方策
    ○ 短期大学が特色ある教育や地域貢献活動を展開することは,地域再生や専門職業人の養成など,社会への貢献を果たすのみではなく,我が国の高等教育全体の活性化の上からも重要である。
    ○ このため,各短期大学の個性・特色を活かしつつ,自ら機能を選択し社会的要請に応える先導的な取組について,国による支援を行っていくべきである。
    1 職能団体や企業等と連携して専門職業人材を地域に輩出する短期大学の支援
    ○ これまで短期大学が高い実績を有してきた幼稚園教諭,保育士,栄養士,介護人材などの専門職業人については,今後,女性の社会進出や少子高齢化社会に伴う福祉機能の向上に欠かせない人材となっている。
    ○ このため,短期大学と地域の行政,職能団体,企業等が協議体などを組織し,学位課程教育の充実,学び直しプログラムの提供について当該専門職の人材養成ニーズに的確に対応した人材養成機能の整備を支援する。

    2 地域活性化のリード役となる短期大学の支援
    ○ 高齢化,人口減少社会を迎えている我が国の地域社会では,持続可能な都市・地域の形成や地域を支える産業の成長等の課題が山積している。このためには,地域再生について産官学が一体となって推進することが不可欠となっている。

    ○ しかしながら地域の活性化を目的として地元の高等教育機関を活用することを施策として挙げている地方自治体は多いが,具体的に連携を図る体制が整っておらず実績が少ないのが現状である。

    ○ このため,地域との密着性が高い短期大学の特長を活かし,地方公共団体や地域の産業界が一体となって地域再生・活性化に直結する教育研究や地域貢献活動について国が支援を行うことによって,地域再生・活性化を推進する。

    ○ さらに,専攻科,科目履修制度,履修証明プログラム等の非学位課程も積極的に活用して地域コミュニティの基盤となる人材のキャリアアップに資する生涯学習プログラムを実施することも推進すべきである。

    3 大学に進学することを前提としたファーストステージ教育を行う短期大学の支援
    ○ 短期大学は,正規の教育課程と海外体験,ボランティア,インターンシップなどの活動を組み合わせた教育活動を展開している。

    ○ 短期大学において更にこのような活動と4年制大学との体系的な接続機能を組み合わせた新たな高等教育の第一段階(ファーストステージ)としてのモデルとなる機能を構築する取組を支援することによって,短期大学教育の特長を伸ばしつつ,高等教育機関における多様な進路の選択肢を充実させていくべきである。

    4 学生に対する経済的支援の充実
    ○ 平成24年9月に我が国も国際人権規約A規約の留保が撤回され,高等教育の無償化の斬新的導入に向け,学生の経済的支援の拡充を図っている。

    ○ 短期大学の学費は4年制大学に比較すると低廉であるが,意欲と能力ある学生が経済的理由により学業を断念することがないよう,授業料免除の充実と日本学生支援機構の無利子奨学金の貸与人員について増員を図り,学生に対する支援を充実させることが不可欠である。

  
第4章 中長期的検討課題
    ○ これまで述べてきたとおり,短期大学は,社会環境やニーズが大きく変化する中で,その発足から現在に至るまで柔軟に位置付けや教育内容等を見直しながら,社会から求められる役割を果たしてきた。歴史的過程を通じて形成されてきた短期大学の特長と機能を認識した上で,今後は各短期大学がそれぞれの機能の強化を図り,国が機能別に推進していくことで,短期大学の必要性と位置付けが社会のより幅広い層から認知されるようになることが期待される。

    ○ 今般,政府の教育再生実行会議「今後の学制等の在り方について」(第五次提言)(平成26年7月3日)は,「高等教育段階では,社会的需要に応じた質の高い職業人の養成が望まれますが,i)大学や短期大学は,学術研究を基にした教育を基本とし,企業等と連携した実践的な職業教育を行うことに特化した仕組みにはなっていない,・・・などの課題が指摘されています」とし,「質の高い実践的な職業教育を行う新たな高等教育機関の制度化」が望まれると提言した。

    ○ 同提言では,高等学校や専修学校高等課程と専門学校や短期大学との連携,大学への短期大学からの編入学の機会の拡大などもうたっており,基本的には,本審議まとめを受けた短期大学の機能別強化により,こうした取組が進展していくことになると考えられる。

    ○ 同提言で「高等教育機関における職業教育の体系を確立する」とされたことについては,今後,更に制度化に向けた検討が行われることが予定されている。短期大学にとっての中長期的な課題として,特に「専門職業人養成機能」を充実・強化していく短期大学において,職業教育の新しい高等教育体系との関係で,自らどのような位置付けを求めていくかについて,更に慎重に検討する段階が生じるであろう。
    ○ また,国家資格等の取得要件と短期大学の教育課程や修了要件等における関係省庁間の調整や公立短期大学における設置団体との関係構築なども,今後の重要な課である。
    ○ 短期大学はこれからも,社会から求められる役割を積極的に果たしながら発展していくことを切に期待する。

 

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(高等教育局大学振興課短期大学係)