大学教育部会(第22回) 議事録

1.日時

平成24年11月12日(月曜日)10時~12時

2.場所

文部科学省東館3階3F1特別会議室

3.議題

  1. 学位プログラムを構築するための大学のガバナンスの在り方について
  2. 求められる知識・技能の高度化に対応した進路選択・学修機会の充実について
  3. その他

4.出席者

委員

(部会長)佐々木雄太部会長
(副部会長)黒田壽二副部会長,谷口功副部会長
(委員)浦野光人,金子元久,長尾ひろみ,宮崎緑の各委員
(臨時委員)川嶋太津夫,林勇二郎,吉田文の各臨時委員
(専門委員)荻上紘一,篠田道夫,鈴木典比古,田中愛治,長束倫夫,納谷廣美,濱名篤,山田礼子の各専門委員

文部科学省

山中文部科学審議官,藤木文部科学審議官,德久政策評価審議官,合田生涯学習政策局長,板東高等教育局長,小松私学部長,関初等中等教育局審議官,常盤高等教育局審議官,山野高等教育局審議官,浅田高等教育企画課長,池田大学振興課長,田中高等教育政策室長,松坂大学改革推進室長,白井大学振興課課長補佐 他
    

オブザーバー

清水一彦(筑波大学副学長・理事)
中村慎一(金沢大学理事・副学長)
井上英明(厚生労働省職業能力開発局能力開発課課長補佐),
狩野琢哉(厚生労働省職業能力開発局能力開発課職業能力開発指導官)
河田悌一,有信睦弘の各分科会委員

5.議事録

(1)学位プログラムを構築するための大学のガバナンスの在り方について,清水一彦筑波大学副学長・理事及び中村慎一金沢大学理事・副学長から資料1及び2に基づいて説明があり,その後,意見交換が行われた。

 【佐々木部会長】  まず初めに,学位プログラム構築のための大学のガバナンスの在り方について審議をお願いします。8月28日に公表しました答申においても,この問題に関わって速やかに審議を開始する事項として,学位プログラムとしての学士課程教育の定着,あるいはそのための大学制度の在り方が挙げられております。答申では,そのプログラムとしての学士課程教育が定着していない理由の一つに,大学制度が学部,学科,研究科という,いわば組織に着目して構築されているという点を指摘をしております。本日は,学部,学科,研究科に代わる大学の教育課程編成の仕組みをお持ちである二つの大学,筑波大学と金沢大学の事例発表をいただいて,それをもとに意見交換をいたしたいと思います。
 それでは,最初に筑波大学の事例について,清水副学長からお願いをいたします。

【清水副学長】  筑波大学の組織改革と学位プログラムについて御説明したいと思います。
 筑波大学では,来年40周年を迎えるのですが,筑波スタンダードの具現化,その中で最も重要な課題として学位プログラムに基づく教学システムの開発を目標に改革に取り組んでおります。今日は,その学位プログラムの実践に向けた組織改革の話を最初にして,次に学位プログラムの改革の内容について報告したいと思います。
 筑波大学では,これまで27の学系がありました。法人化後もその学系を残しながら,更に大学院の研究科に教員が所属するようになりました。いわゆる部局化を実現しました。その意味で,教員の所属の二重性がこの間続いておりました。また,学群・学類の要望が人事に反映しにくいとか,あるいは研究の教員相互間の結びつきが希薄になっているということで,もう一度,筑波大学の新構想の原点に戻り,教員組織と教育組織をきちんと分けようということでこの改革を進めました。ほぼ2年間にわたって全学的に議論を進めて実現いたしました。
 これが今回の体制の改革の終着点となる図で,この4月から実施しているものです。これまでは,教員は学系と研究科に所属していたものを,はっきりと教員組織として,27の学系をほぼ200人規模の10の「系」にまとめました。「学」をつけるとどうしてもそこが権限を強くしてしまうということで,「学」を取った系という組織で10発足しました。研究機能の面でもこのようなリサーチユニット制を導入して,学際的な研究ができるような仕組みをとりました。この改革の観点は,教育の面では,学生本位に立った学位プログラム化の観点,運営面では人的資源の有効活用,研究ではリサーチユニット制度,こうした三つの観点から,全体の体制改革を行いました。
 特色として,教員組織としての系には必要に応じて50人程度の規模の「域」(フィールド)を置いてもいいとしております。系はファカルティーという英文名をつけております。運営体制においては,系長はもちろん部局長で,学長と同じように系長は選考会議によって選出することになり,意向投票をするかしないかは各系に任せられております。系長をもう一つ,「大学の執行役員」と呼ぶことにしました。部局の長だけではなくて,大学の執行役の一員として位置付けました。なお,系に所属する教員は,全員,教員会議というところで構成員となります。
 他方,教育組織の方には,これまでと同様に学群長,研究科長が置かれます。こちらの会議は教育会議ということで,会議の名称も教員会議と教育会議というのをはっきりと峻別いたしました。教員人事は,これは系のマターで,系の部局人事委員会に一元化いたしました。
 各教育組織の教員は,専任,兼担,協力教員という区分けで配置しております。この系長が所属教員の教育研究担当を決定します。毎年,系長は所属教員を評議会に報告させるということになっております。
 研究につきましては,5年ごとの評価制度を導入して,全学にある20以上の研究センターの評価をします。既に1回目の評価制度がこの間,終了しております。研究センター全体の中でのスクラップ・アンド・ビルドを行います。それと同時にリサーチグループ制,リサーチユニット制ということで,学内の複数の教員から成るグループ,ユニットを認定する制度を導入いたしました。既に100近いリサーチユニットが認定されておりまして,その業績によっては,将来,センターとか研究所に発展していくというものです。
 教員の業績評価,これも全学で本格的に始まっておりますが,系長の責任のもとで系の組織評価と教員の業績評価を行うことになっています。
 予算につきましては,従来,研究費は学系,その後研究科に配分していたのですが,今度は系の経費のほか学群や研究科の教育組織にも運営経費と教育経費を配分することになりました。このほか,事務体制も名称を変えて,事務区制からエリア制にいたしました。
 次に,このような特色を持った筑波大学全体の教育体制図を図式にいたしました。学長のもとに教育イニシアティブ機構というのを設置し,教育の質保証の企画立案は全てここで行います。また,教養教育に責任を持つ教養教育機構も,教育担当副学長のもとに設置しております。
 学位プログラムについて,筑波大学では既に法人化前に学位プログラムを一部実施しておりました。スライド9がその図ですが,生物科学研究科と農学研究科に「生物工学学際カリキュラム」という修士レベルの学位プログラムを設置して,その上に学位論文審査委員会を置いて学位を授与していました。これが筑波大学における学位プログラムのはしりです。
 法人化を迎えて,平成22年に人間総合科学研究科という,世界に類を見ない,650人以上の教員を擁する大研究科と,生命環境科学研究科の二つの生命系と生物系が「未来生命科学コース」を設置しました。運営体制はそれぞれの研究科のもとに組織を行い,教員はこのときには各研究科に所属していましたから,教員はそれぞれの研究科からこのコースを担当するという形になっていました。
 スライド11が昨年度から始まったもので,学位プログラムという名前をつけた最初のものであります。これは博士課程教育リーディングプログラムに採択された「ヒューマンバイオロジー学位プログラム」で,これは先ほどの未来生命科学コースを基盤につくられたものですが,教員は既に系に所属していますから,系の方からこの学位プログラムを担当するという形になります。
 今後,我々が検討しているものは,複数の研究科の横断的な学位プログラムをヒューマンバイオロジー学位プログラムと同様な形で幾つか設置する,こういう形を想定しております。そのため学位プログラムを統括する組織として「グローバル教育院」というものも設置して,教育担当副学長が院長を務めております。
 学士課程につきましても,既に筑波大学では創設期から学際的,学位プログラム的な学類があります。学際分野の学類へは複数の系から担当教員を配置するということが,今年度から明確に明示されることになりました。教員は系に所属して,そこから学群,学類を担当します。それぞれの学群,学類は教養教育についても分担して授業を開設するという仕組みをとっております。
 一つ例を示しますと,国際総合学類という学類がありますが,ここの担当はシステム情報系の教員と人文社会系の教員の関係する人たちが構成員になって教育を担当するということになります。教員は学類とか学群には一切所属しません。所属というのは全部系に所属し,教育組織は担当するという概念です。ですから,担当教員という形で学類や学群を構成することになります。
 今回,教育組織と教員組織そして研究組織を原点に戻って明確に分離いたしました。しかも200人程度の規模という教員組織になりますが,そのメリットを3点ほど挙げさせていただきます。
 1点目の利点は,教育の観点からいたしますと,学位の質の保証を進めていく上で,教員の所属という観点から教員数に特別な制約を受けることなく,教育改革が実現できるというメリットがあります。改組再編も教育上の目的に応じて柔軟に対応でき,新しい教育プログラムも創出できるというメリットがあります。
 2点目の利点は,研究の側面ですが,研究の組織的展開を強化するために多様な研究グループの形成と活動の活性化が推進できるということです。従来は研究というのは研究センターとか,あるいは学系という組織に閉じこもっていたものが,横断的な研究グループの形成がより可能になったということです。
 3点目の利点は,運営面ですが,学問分野の区分に沿った教員のまとまりごとに,過度に細分化することなく基本的な人的基盤を形成し,それを基盤として多様な教育研究活動が展開できることになり,昨今の限られた人的資源を有効に活用して,質の向上に応えるということがより可能になります。
 課題としては,系長が非常に強い権限を持ちますが,系長が毎年,関連する複数の組織からの要望を踏まえて人事を進めなければいけない。更に担当教員も毎年,配置を決めなければならない。まだ時間がそれほど経っていませんので,問題は残されています。
 筑波大学における学位プログラム化につきましては,二つの方向性を考えております。一つ目は,先ほど説明しましたリーディング大学院を母体に,大学院レベルの学位プログラムを推進することです。現在,このヒューマンバイオロジー学位プログラムにつきましては,ここに挙げた少なくとも八つの関係規定を制定し整備いたしました。これによってこの学位プログラムが従来の研究科に準じた形で運営ができることになっております。
 今後は,学士課程のリーディング構想でございます。こうしたリーディングプログラムを母体にして学位プログラムを推進するというのが一つの方向性です。
 二つ目の方向性は,既存の学類・専攻,特にディシプリン型の学位プログラムをどう進めるか。これについては,中教審の答申,学士課程の再構築にあった「学士力」を参考にしながら,学士課程におきましては全学共通の学士力を昨年度策定いたしました。筑波大学では五つの教育目標が定められておりますが,そこから16の学士力を抽出して,各教育組織に提示しました。各教育組織は,その学士力を踏まえた上で,それぞれの専門的能力を明示する作業を進め,それが一通り終わったところです。学士課程では39の学位の種類がありますが,それぞれの学位ごとに学士力と専門的能力という,この二つの能力(学習成果)が明示されて,これは間もなく「筑波スタンダード」で公表する予定です。
 他方,大学院課程につきましても,修士力,博士力の共通能力と同時に,それぞれの専門能力を踏まえた学習成果を明示する作業を今,進めているところです。
 図式化しますと,学位プログラム化というのは,要するに,従来の組織中心型から学生中心型の学位プログラムに移行するというものです。従来は組織の目的からカリキュラムポリシーとかアドミッションポリシーがつくられていたわけですが,これを学位の方からディプロマポリシーあるいはディグリーポリシーを策定して,そしてカリキュラムポリシー,アドミッションポリシーというように,学位の方から全てもう一度,教育の目的や能力というものを見直すというものが基本的なコンセプトです。
 現在,そのほかにも授業運営や学生支援の改革なども進めております。筑波大学では40年続いた3学期制を今,セメスター制の2学期制に変更し,来年の4月から本格実施します。その改革にも共通していますが,「学生本位の視点」,「国際的な視点」,「未来の視点」と,こういう三つの視点で全体の改革を進めているところです。

【佐々木部会長】  本来ならばここで少し意見交換,質疑応答をさせていただきたいところですが,後ほど両大学をあわせて質疑応答の時間を取らせていただきます。
 それでは,引き続き金沢大学の中村理事から御紹介をいただきます。よろしくお願いします。

【中村理事】  私は学士課程中心のお話になるかと思いますので,よろしくお願いいたします。
 今日,この席にも金沢大学の前学長の林委員がいらっしゃっていますが,林委員が学長の時代にこの制度の学域学類制という金沢大学の制度の設計が行われました。私はそれに直接はタッチしておりませんでしたが,当時はこのような社会的な背景,それから受験生,在学生の要望というものをくみとって,新たな学域学類制という体制を構築するということになったというわけです。
 結果としてでき上がったものがスライド2の図でありまして,金沢大学の場合には,人間社会学域,理工学域,医薬保健学域という,これは全て学士課程のお話ですが,三つの学域,そしてその下に16の学類というのが置かれたことになります。一番左の下,学士課程,人間社会学域というところには,人文学類,学校教育学類,法学類,地域創造学類,経済学類,国際学類となっておりますけれども,こういう六つの学類が置かれています。理工には,そこに書いてありますように,同じく六つの学類が置かれているということになります。医薬保健は4学類ということになります。大学院の前期課程,そして後期課程との対応関係がこのようになっています。なお,自然科学研究科につきましては26年度に再度,若干の変更を予定しております。
 ちょっと細かな話になるかと思いますが,従来の学部と新しい学域,学類との関係をお示ししておきました。これはそのうちの人間社会学域に含まれる六つの学類,それぞれどういう学部を前身とするか。学部との対応関係ということを示しております。基本的には学生の定員,750名のまま変わっておりませんので,これまでのところ,もともとあった四つの学部,文学部,教育学部,法学部,経済学部,それぞれ定員を減らして,その分で新たに二つの学類,地域創造学類,国際学類をつくったということになります。特に学校教育学類の195から100という,95名の減というのが,いわゆるゼロ免課程をなくしたということに対応しているわけであります。
 詳しくは御説明いたしませんが,これが理工学域の部分です。同じような操作をしております。
 これは医薬保健学域ということになります。一番下に書いておりますように,入学定員の変更はありません。専任教員も,今は数年たちまして若干変わってきておりますが,改組当時はそのまま数字の上では横滑りということでした。
 それが学生の組織としての学域,学類ということですが,この学域学類制のより大きなポイントは,先ほど筑波大学のお話にもありましたとおり,学生の組織と教員の組織を分けるということでした。従来は,例えば文学部に教員も学生も当然所属していたわけですが,この学域学類制に伴いまして,教員の所属を研究域・系といたしまして,学生の所属と分けたわけであります。スライド6の一番左に書いてあるのがそれでして,人間社会研究域には,人間科学系,歴史言語文化学系,法学系,経済学経営学系,学校教育系という五つの系があるわけです。一方,学域・学類の方には人文学類以下六つの学類がありますので,これは1対1の対応になっていないということであります。理工と,それから医薬の方は比較的それがほぼ横並びで1対1の関係ですが,特に人間社会学域・研究域につきましては1対1になっておりません。もちろん大学院の方もまた,今は人間社会環境研究科というのが中心ですが,そのほかに教育学研究科,法務研究科がありまして,これももちろん1対1の関係ではないということになります。
 そこら辺をもう少し詳しく見てみますと,こういうことです。例えば,スライド7の人文学類,法学類という横の列を見ていただきたいのですが,人間科学系という教員組織に所属している教員,それがどの学類の専任になっているかというのが星印で示されたものであります。人間科学系であっても人文学類の教員にもなっているし,それから教育学類,それから法学類等の担当の教員がいるというように見るわけであります。歴史言語文化学系についても同じでして,人文学類,それから国際学類,教育学類,その担当になっている。このようにかなり複雑な対応関係になっております。
 このように教員の組織を分けてきたということは,いろいろメリット,デメリットあろうかと思いますが,やはり最大のメリットというのは,学生のニーズ,あるいは社会の要請,そういうものに素早く対応ができるということに尽きるかと考えております。そしてもう一つ,ある分野を選択的に強化しようというようなときには,今までの学部学科制とは違う,今回の学域学類制というのは大変に機動性を発揮しているということが言えるのではないかと考えているわけであります。
 その一つの例として,新領域の創成,文化資源学の場合ということで,これはお手元の資料が1枚抜けておりました。これは今日追加をさせていただいたものでありますが,それを例として挙げることができるのではないかと考えております。林委員が学長の当時,イタリアのフィレンツェの壁画修復のプロジェクト,それから日中両国の無形文化遺産のプロジェクト等が始まりました。その後,教員が,従来の学部で言いますと,文学部,教育学部が中心でありますが,現在で言いますと,人文学類,学校教育学類,地域創造学類,外国語教育センター,そういうところの教員が集って文化資源学というキーワードのもとに様々な教育研究のプログラムを展開してまいりました。今年幸いにそれが博士課程のリーディングプログラムに採択をされました。そういう形で,ここ四,五年という短い間でしたが,教員のグループも一生懸命いろいろな形でプログラムに取り組んでもらいましたし,また,大学としましても人,それから資金,その両面で様々なバックアップをしました。また,学類の中にそれに対応するコースを設け,また,平成24年度には博士課程の前期にそれに対応するコースを設けるということで,研究と教育というものを絡めながら押し進めてまいりました。そのような形での新しい領域の創成ということが,この今の体制では非常にやりやすいのではないか。こういうものをどんどん増やしていくということが今後の課題になっているかと思っております。
 学域学類制,いろいろな仕組み,仕掛けがありますが,一番大きな三つというのは,この経過選択制,それから転学類制度,副専攻ということになろうかと思います。従来で言いますと,学部の下の学科のレベルで入試を行っておりましたが,それが今は学類単位での入試ということで,従来に比べますとかなり大きなくくりになっております。そして,例えば法学類というところで入った,あるいは経済学類というところで入った学生が,更にその下のコースの選択というのは,2年生あるいは3年生で行えばいいという,それが経過選択制です。
 そして,学類の中のコースの所属が決まったが,やはり自分がやりたい勉強というのはどうも違うところにあったという場合には,2年生以降,適宜,随時といいましょうか,希望に即して転学類ができる。
 さらに,転学類しなくても,自分の専門の勉強とは別に副専攻としてほかの学類あるいは学域の勉強もあわせて行うことができる副専攻制度,こういうような仕掛けをつくってきております。
 これは副専攻を中心に少しまとめ直したものでありますが,一つの学類の中の副専攻,例えば社会学が専門だが,それとは別にフランス文学を副専攻として取るというような,人文学類の中で言いますと,そういう学類内の副専攻があります。それから,今度は学類をまたいで,自分は社会学の専門だが,今度は法学の方で国際政治を副専攻として取るというようなことができる。更に言えば,学域をまたいでの副専攻もありますので,今度は理系の副専攻で,例えば化学の副専攻を取るというようなことも可能ではあるということであります。残念ながら今のところ,学域をまたいでの副専攻の認定者というのは数はそう多くはおりませんが,学類間は結構な数,数十人という規模で副専攻の単位修了者が今のところ出ております。
 そうした様々な仕掛けを手助けするための支援策というものがいろいろ設けられておりまして,ここに書いたとおりであります。本学の場合ですと,学域に入る際に,1年生に入学する際に,ノートパソコンを必携としております。パソコンがありまして,学内でもLANの設備を充実させておりますので,そのパソコンを用いて双方向で教員と,あるいは学務係と,そして学生とがいろいろな情報をやりとりするアカンサスポータルという制度がありますし,また,それを通じてEラーニングの教材の配付なども行っております。そのほか,ポートフォリオのシステムがありまして,今まで自分がどういう勉学を進めてきたかというのが簡単にわかるようになっているということであります。
 そのようないろいろな仕組みを設けてまいりまして,9月28日に,私どもの大学でも大学教育改革地域フォーラムの開催をさせていただきました。250名余りの参加者がありましたが,そこでクリッカーを用いての学生のアンケートも実施いたしました。そういうところでコース,専攻,ゼミ等の決定について,あなたは第1志望のところに所属できましたかという質問,これはビデオの映像をそのまま取り込んだものでありますが,一番右側はまだ1年生とか2年生で,自分はまだそういう経験がないという学生ですが,それを除きますとおよそ9割の学生が,まあ,大体行きたいところに行けたという返答であります。
 このように金沢大学でいろいろな取組をしておりますが,それがどういう意思決定のプロセスで決まってくるのかというのを簡単な図としてお示ししたものがこれです。一番左の下に理事(教育担当)とあります。そのもとに,教育戦略会議という会議があります。これは教育担当理事と,それから教育関係の学長補佐4名。私どもの大学では学長補佐として学域学類担当,これは教務関係の学長補佐と考えていただければよろしいですが,それから学生支援担当学長補佐,入試担当,学生募集担当という4名の学長補佐がおります。それから,共通教育機構長,これが基本的なメンバーですが,ルーチンの会議の場合にはこれだけのメンバーで実施しておりますが,重要な問題の場合には,更に学域から1名ずつ,3名追加のメンバーで拡大の戦略会議を開くということで,そこで基本的な方針案というものが策定されます。そして,その具体の中身につきましては,共通教育の部分であれば共通教育委員会,更にはその下のワーキング等です。それから学域学類関係のことであれば,カリキュラム検討委員会というところで検討していただいて,具体案の作成をする。そして,教育企画会議という,これは教育担当理事の諮問機関ですが,そこで各学類,それから研究科・専攻,そういうところの意見を聴取し,決定をした上で教育研究評議会で最終的にオーソライズします。そこから更にまた各学域,研究科におりていくというような体制になっております。もちろん,そのボトムアップの部分というのもあるわけですが,基本的にはこのような形で教育担当理事のイニシアティブで新たな教育関係のプログラム,施策を開発するという体制ができております。
 例えば共通教育では,今,特設プログラムというようなものをつくっておりまして,こういうものも下から上がるというよりは,むしろ上からこのようにつくりましょうという形で,今,六つできております。最終的には10から11のプログラムができるという予定であります。
 それから,学士課程の場合に,昨年度もあったように,我々もAPは前からありました。CP,DPを全ての学類,コースにおいてつくりました。そして,学習成果を定めましたので,それをカリキュラム・マップとしてまとめました。それから,一方では授業科目と学年進行との関係につきましてはツリーをつくったわけであります。
 その一つの例ですが,国際学類のカリキュラム・ツリーが先に出てまいりました。1年生で入ってから4年で卒業するまでの間,どういう科目をどうやって学んでいけばいいのかということをこのように体系化,可視化したわけです。
 一方,カリキュラム・マップですが,少し字が小さくて見づらいかと思います。左上には学類のディプロマポリシー,その右にはコースのディプロマポリシー,学類のディプロマポリシーの下には学類及びコースのカリキュラムポリシー,そしてその右側に学生の学習成果というのが,ここでは六つ並んでおります。全体で六つの成果があって,各科目がそのうちどれに対応しているのかが,二重丸,丸,三角という形で示されていることになります。もちろん,これは,今,途中で切れておりまして,下にずっと続くわけですが,このようにマップをつくりました。
 昨年までにこれができ上がりましたので,今年度は更に学習の成果に基づいて今後は学生の成績評価を行います。それから,学生が自分で自己評価を行います。達成度評価です。それから,学生が教員の授業評価を行う際も,それぞれこういう成果が上がると言っているわけですから,そのとおりに授業をしてくれたかどうかというところを観点に評価をしてもらうというように,いろいろなところに新たなマップの体系というものを展開させている段階であります。
 例えば授業形態の多様化の問題でありますとか,授業評価アンケート,学習成果の,教員がどの程度それを自分の授業がうまくいったかということを自己評価をする,そういうアンケートとか,そういうものをやって検証を進めて,次のサイクルに回していきましょうという話であります。
 今,申し上げたとおり,昨年までにでき上がったマップ,ツリーというものを真ん中に置いて,それでの学習の効果,授業の効果というものが予定どおりに上がっているかどうかというのを様々な方法で検証し,情報を抽出して,そこから更にFDを通じて改善を図って,よりよいものにしていこうというのが現在のこのシステムです。
 以上,大変雑駁ではありましたが,学士課程を中心に金沢大学での取組についてお話をさせていただきました。最後に簡単なまとめですが,一つは,教育研究というのを分けたことによって,一つの,いわば学類というそのものも学生の所属の組織ですが,一種のプログラムというような形でとらえておりまして,そのプログラムをいわばアメーバが形を変えていくように,それぞれの時代,あるいは学生の要求に応えられるようなものに絶えず改める,そういう体制ができ上がりつつあるのではないかと考えております。私どもの大学では,そのプログラムを実施するための組織としまして学類会議というものが設けられておりますが,それが教育関係,そして系会議というのが予算と人事を行うという形になっております。そのように分離は今のところされておりますが,基本的にはプログラムという認識で教員もだんだんと自分たちの研究と教育というのは別のものであり,人が替わってもやはり教育はそのまま継続ができるというような形で進めていくべきであるとなってきているのではないかと考えているところです。

【浦野委員】  両先生,本当に教育というものを全学的な立場で,従来の学部を越えてという枠組みをつくられたことは大変いいと思っておりまして,敬意を表させていただきます。
 是非この形で進めていただきたいと思っておりまして,やはり産業界から見たときに,どうしても,例えば研究型と言われる大学の場合に,教育の質というのはやはり見えにくいものですから,こういう形でやっていただくと,非常に産業界のみならず,いろいろなステークホルダーから見て非常にわかりやすくなったというように思います。
 そんな中で一つ,中村理事に御質問なのですが,少し細かくなるかもしれませんが,副専攻制度は非常にいいことだと思うわけですが,この副専攻制度自体は,大学卒業の単位数の中で消化するのか,あるいは単位数の外で,主専攻の中で単位数を取ってもらって,その外でやるのかということが一つ目です。
 それから二つ目は,これは当然,学位としては主専攻の方の学位になると思うのですが,産業界から見たときに,大学としてこういう副専攻をしましたよということを証明してもらえるようなものが出るのかどうかです。それはいかほどの意味合いを持つのかというところです。その辺が産業界から見ると,今後,本当に大学で学んだことを尊重した採用をしたいという中では大事なことになってくるかと思ったものですから,その二つ,質問させてください。

【中村理事】  私どもの副専攻ですが,先ほど申し上げたとおり,いろいろなレベルがあります。例えば,一つの学類内の副専攻の場合には内で単位がカウントされます。ところが,学類をまたいだ場合には,自分のところの卒業要件の単位になりませんので,それはその分,外というようにカウントせざるを得ないというところです。
 証明証等のことなのですが,実はこの3月に初めての卒業生が出たばかりで,今後の部分もあるのですが,私どもでは副専攻修了証書というのを学長名で出しております。それを持っていったからといって,それでうまく就職ができるか,あるいは進学ができるか,大変今のところ,心もとないところがありますが,一応そういう形で,大学としてオーソライズをして,今後それが認知が広がっていけば,文学部の学生であってもきちんと環境問題についてもよく勉強しているというようなことがわかるような,そういうものとして今後も出していきたいなと考えております。

【浦野委員】  そういう形にしていただくと,企業としても,少なくとも副専攻を終えたという人は,相当頑張ったということの証明になります。是非,そういった形でやっていただければと思います。

【田中委員】  教員の組織と学生の組織を分けるということは,筑波大学でやっていらっしゃるということは伺っておりましたし,ここのところで新しく再編されたということも伺っておりまして,今日具体的な内容を伺いまして,また金沢大学もそういうことをされているのは勉強になりまして,非常に魅力的だと思う反面,少し懸念もありまして,自分たちが同じことができるかどうかということについては大変ちゅうちょがあります。
 何を伺いたいかというと,学類と系というものは,すなわち学生組織と教員組織が全く分かれた場合に,教員のユニットにとって,これが自分たちの学生だというものはいなくなるということです。それから,学生が,例えばある類,もしくは研究科の所属の学生は,自分の指導教授たちがどの人たちかというのは,学生によって違う。例えば,少し専攻を広く取ると,X系とY系のあの二人の先生につくということになるのですが,狭く取るとX系の先生3人につくだけということになる可能性があると思うのですが,そのあたり,非常に柔軟になるので,すごくいい部分もあると思います。
 例えば,教育の内容がどんどん深化していって,学際的な研究科をつくるときに,今の従来の日本の大学のやり方ですと,研究科にまた人を置いて,非常にそこに重複するようなものができたり,新しい学科をつくって,既存の学科と教員の重複が出てくると思います。今の筑波や金沢大学のような形ですと,そういう教員の重複があまりなくて,新しい教育の専攻がつくれると思いますから,柔軟だと思うのですが,やはり不安は最初に申し上げた,学生にとってどれが自分の先生たちかがわからない。それから,教員にとってはどの学生が自分の学生かが明示できない。
 アメリカの場合は,前にも申し上げたことがありますが,例えば数学のデパートメントマスマティクスの人は,政治学にも文学の人にも数学も教えているし,博士課程も教えるし,文学の方は政治学にも物理学にも文学の入門も教えれば,自分たちの文学の専攻の博士課程も教える。しかし,彼らは学部のメジャーを宣言した学生は自分たちの学生と思っているし,大学院の博士課程から来ているものは自分たちの学生だと思っているので,すごく似ているのです。筑波大や金沢大の両大学と似ていながら,ただ,自分たちの学生というものがいるのです。そこが少しアメリカのやり方とは違うので,ここまで思い切って日本の各大学がやって,うまくいくのかどうかがわからないのです。筑波大学は御経験があると思うので,そのあたりの懸念について,教えていただければと思います。

【清水副学長】  筑波大学は一人の教員が複数の教育組織を担当しています。学士レベルから修士レベル,博士レベルです。学生にとっては学士課程のときにも,最初はクラス担任制という形で20人のグループで指導を受けるのですが,3年からは(卒論)ゼミ学生という形で1対1の対応になります。その意味で学生からは指導教員というのははっきりしており,その意識もあると思います。しかし,隣の学生はほかの系の先生だけど,自分はこっちの系だと,そういうことはあり得ます。その意味で,日本的な研究室グループとか,研究室文化にとっては,やや懸念されるところです。
 ただ,アメリカのデパートメント制のように,人事もする,研究もする,カリキュラムもつくるという,この三つの権限を与えてしまうと,今度は教育組織が新しいものをつくるときにつくれないのです。長い間,「教育組織の貧乏物語」といって,予算も少ない,人も適切に配置してくれないという声が大きかったことは事実です。そこで大きく考え方を変えたというか,むしろこれが新構想大学の創設の理念だったのです。筑波大学はこの間,その理念を実質化できなかった。ここへ来てもう一度,原点に戻ることになったのです。

【中村理事】  今,清水副学長から御説明があったのと,私どももほとんど一緒というように考えております。学生から見ますと,そこの専任の教員が誰かということは明示されておりますので,自分たちの先生がどういうグループの人たちなのかということは明らかになっていると思います。
 一方,教員から見た場合は,本当に一つのところしか教えていない先生もいる一方で,複数のところを教える先生もいるので,そういう意味では必ずしも1対1になっておりません。ですから,午前中はある研究室にいるが,午後になったら今度は別の学類のほかの研究室にいるということもあり得るわけです。ですから,それがいいことなのか悪いことなのかというのは判断の分かれるところかと思いますが,やはり限られた資源の中で教育組織の多様性というのを確保しようとすると,ある程度仕方がないのかなと考えております。

【河田副分科会長】  私は筑波大学の経営協議会の委員をさせていただいております。組織というのは30年たつと大体だめになるのが通例ですが,40年を迎えて,筑波大学は,山田信博学長のリーダーシップのもとで大きくまた本卦帰りをして,より立派になっていると強く感じております。
 金沢大学のことについてお聞きしたいと思います。今回の中教審の答申では授業の方法,そこにまで言及があって,教育方法をどう変えていくか,鈴木委員が御専門でありますが,いわゆる科目に番号をつけるナンバリングなども必要だということで,できれば私学助成などもそういうのをやっている大学にはめりはりつけてということで,鈴木委員にこの間,我々の私学事業団でもお話をいただいたのですが,今日いただいた金沢大学のプレゼンだと,学士課程教育の体系化・可視化という14ページのところに,カリキュラム・マップとかカリキュラム・ツリーが書かれていますが,この具体的な科目編成がよくわかりません。こういう中で,例えば100番から400番までの,授業にナンバリングを付けていただくと,学生としては非常に取りやすいし,外国の,特にアメリカの留学生が来たときには,彼らはナンバリングに慣れていますから,そういう意味での国際的な通用性があると思うのです。その辺の進展,あるいはお考え,これからどうされるのか。一応の枠組みはできたが,その中身をどう充実させるかという意味で,ナンバリングなどは非常に有効ではないかと思うのですが,いかがでしょうか。

【中村理事】  今,御指摘のとおり,まさにナンバリングというのは今後の課題になっております。私どもの大学でも,他大学とのダブルディグリーとかそういうものを進めていく必要があるという認識で,実際にもう始まっているものも幾つかあります。そうすると,自分のところの体系化だけではなくして,ほかのところとの対応関係がわかるように,どこでどういう勉強をした学生がうちに来るのか,あるいはうちの学生が外へ行ったときに,今までやったものを持っていけるのかどうかという,その関係で,やはりナンバリングというのは非常に重要だという認識にありますので,これは今,やっとマップ,ツリーができ上がった段階ですので,次はそれに取りかかろうというのをちょうどこの前の戦略会議でも話題にしたところです。

【谷口副部会長】  基本的な考え方というのは,今御説明があったことでやっていかないとうまくいかないだろうということは,だんだん明らかになってきているかと思いますが,先ほど,金沢大学で,学生さんの希望の9割が所定の思うところに,すなわち,コースとか,専攻に行きましたというお話がありました。何か特別な工夫があってそれができているのか,それとも放っておいても勝手にそのようになるのかについてもお聞きしたい。例えば,理工の系ですと,物質化学があったり,機械工学があったり,デザインがあったり,これは,建築系かもしれませんが,そういうコースとか専攻があると思います。大括りの入試では,大学に入ってきたときには何をするのが本人にとって一番良いのかがわからない学生でも入れる形になると思います。それで,今度は学類というのを選ぶときには,同じような学類の名前がありますが,必ずしも希望者がうまく希望するところに配置され,各学類がまんべんなく行き渡るのかなという,少し心配するところがあるのです。
 例えば,人数は,希望者があれば幾らでも受入れますと人数制限が無いようになっていれば,そのようにできるのかと思いますが,先生の数とかから考えても,教育はある種のフレキシビリティーがあるとしても,配属希望人数等が予定のそれと違うと,つまり,受け入れる数とかに限定があると,配属が,従って,教育自体がうまくいかないのではないかと思ったのですが,9割ぐらいが希望のところに行っているという,そこに何か工夫があるのかと思ったものですから,その辺少し,工夫があったら教えていただきたい。
 同じようなことが筑波大にはないのかどうかということもあわせて教えていただけるとありがたいです。

【中村理事】  今,谷口委員の御指摘の点は,実は学域学類制で一番大きな問題の一つだろうという認識があります。学類で大くくりで入試をします。その中で,例えば入るときには心理学をやりたいと思ったが,心理学だけで40人も50人もというわけにはいきませんので,一応,上限というのが定められております。結果的にその上限からあふれてしまった学生は,第2希望,あるいはときには第3希望に回らなくてはいけないということになるわけですが,そうしますと,これは経過選択制というのは,そういう意味では一つは,猶予がされているということの裏腹として,もしかすると大学に入ったはいいが,その後に自分のやりたいことはできないかもしれないよという,そういう危険性もはらんでいるという問題かと思います。
 そういう学生が全くいないかと言われますと,実際にはいます。しかし,そうならないように,なるべく授業の中で,あるいはガイダンスを複数回,大学として行っておりまして,本当に自分がやりたいものが高校から大学に入ったときに漠然と考えていた,イメージをしていたものなのかどうかというのを繰り返し確認をさせるという,そういうことはしております。

【谷口副部会長】  入学試験自身は,この学類単位でやるのですか。

【中村理事】  そうです,はい。

【谷口副部会長】  この場合,入試は一括して学域でやるのではなくて,学類でやっておられるということですか。

【中村理事】  はい。

【谷口副部会長】  筑波大はそういう問題はあまりないですか。

【清水副学長】  筑波大も試験は学類単位でやっております。転学類という制度も創設からあります。学類によってはコースとか専攻を設けているところもありますが,そこでは柔軟な対応をしており,割と希望どおりに行くようになっております。
 筑波大学の場合,大学院がかなり学際融合型にできておりまして,七つの大研究科があるのですが,その修士レベルには必ず学際複合のコースや専攻があります。ですから,学類と研究科専攻の1対1に必ずしも学生は進まない,幅広い選択ができるという特徴があります。

【谷口副部会長】  でも,分野としては,ある種,大きいけれども,分野分野でやはりそれぞれ入試をやっているということでしょうか。

【清水副学長】  そうです。

【金子委員】  この2大学の例をお聞きすると,いろいろと努力されていて,こういう方向をいろいろなところで始められているというのはよくわかります。ただ,これはむしろ文科省にお聞きしたいのですが,このように様々な学類とか,いろいろな言葉を使って新しい試みをされているのはそれでいいのですが,法制上,学校教育法によれば,大学には学部を置くことを常例とするという表現があって,ただし書きで,教育研究上の目的を達成するため有益かつ適切である場合においては,学部以外の教育研究上の基本となる組織を置くことができるとあります。これは多分,筑波大学ができたときに学群をつくるというので,もう大分前に入れた条文だと思うのですが,今のような形で新しい組織をつくるというのは,具体的にはどの根拠になるのかといいますか,やはり学部以外のものを置いてもいいというところが根拠になっているのかどうかということです。これはあまり今まではっきりしていなかったと思います。普通の解説だと,筑波をつくったときに変えたという話で,このような新しい形が出てきたときにどのように解釈されているのかということが1点です。
 もう1点は,学校教育法施行規則によれば,学士の認定をするのは教授会がやるということになっているわけです。このような新しい組織ができたときに,一つの問題は,学士を認めるのはどこでやっているのかということがかなり大きな問題で,東大なども実はいろいろなところの合同プログラムをつくったときに,学位を認める権限のある教授会はどこにあるのかということがやはりかなり大きな問題になって,例えば,東大の場合には,やはりどこかの研究科かどこかの学部に帰属させて認定するという方法を多分とっていたと思うのです。ですから,このような場合にどのような形で学位を認めるのかということです。これは形式上の問題と,それから責任をどこが持っているかというのはかなり重要な問題なので,そういう問題があるということです。
 もう1点は,大学設置基準がいまだに学部,学科,課程を中心としてできているのです。ですから,大学設置基準,これは今の二つの例は設置した後の変更ですので,設置に引っかかってはいないのですが,いずれ認証評価とかそういうところでもどのような形で考えるかということが問題になると思うのですが,こういった点については,文科省はどのように解釈されているのかというのを少し伺いたいです。

【池田大学振興課長】  学部以外の組織ですが,これは学校教育法85条の,今,金子委員がおっしゃったところのただし書きで読むのだと考えております。「ただし,当該大学の教育研究上の目的を達成するため有益かつ適切である場合においては,学部以外の教育研究上の基本となる組織を置くことができる」ということだろうと思います。
 それから,設置基準や施行規則の関係は,確かにおっしゃるように,いろいろこの後も設置基準の議論を少ししていただきますが,今の体系が学部や研究科,昔ながらの組織を前提に考えられておりますので,だんだんと融合的なものが出てきたり,先ほどもお話がありました,リーディング大学院なども今までの枠組みではとらえられないものが出てきておりますので,少しこれから考えていかなければいけないと思っております。

【中村理事】  設置審関係でいきますと,私どもの大学では,学域が学部相当ということです。そういう意味では,8学部から3学部に小さくなったというように見えるわけですが,学生向けでは,やはり学類というのが従来の学部に相当するものであるという形で学生も認識しておりますし,我々もそういう形でアピールはしております。
 学位の認定の問題ですが,これは基本的には先ほど申し上げたとおり,学類会議というのがありまして,これは学類には教員は所属はしていないのですが,いわば学類というプログラムを動かしている教員の会議ということで学類会議というのがあるのですが,そこが実質的な審議を行います。最終的には学域の会議で認定はしております。それも代議員会という形での認定になるのですが,学域代議員会というところで最終的には認定がされます。実質的な審議はその下の学類で行っているということであります。

【清水副学長】  筑波大学でも各学類とか研究科の専攻をもとに論文審査委員会があります。それを経て,認定するのは,もちろん最終的には学長ですが,実質的には学群と研究科,ここが学位を授与します。学位プログラムのように複数の研究科の場合には,学位論文審査委員会というものを両方の研究科の代表からつくって,そこに認定する権限を与えるという形になっております。
 リーディング大学院の場合には,学位プログラムであり,組織ではないので,設置審にはかけられないということで,これは文部科学省と相談しながら,今後,設置基準とのすり合わせをお願いしたいと考えております。

【金子委員】  まだ矛盾が残っているところはあるような気がするのですが,法令が先ではなくて実態が先ですから,こういったことをどう生かしていくかという観点から法令も考えなければいけないのでしょうが,ただ,あまり多様になり過ぎて混乱するというのは少し問題かと思うのです。そこら辺の整理の仕方を今後考えていくというのは一つの大きな課題ではないかと思います。

【鈴木委員】  二つの大規模な大学が改革をなさっているというので,私は非常に大きなインパクトという意味合いを持っているという印象を強く持ちました。いろいろ御意見がありましたが,基本的には学生が入学してきて,自分の専攻分野,あるいはメジャーを選択する,入ってからもその余地を残していく,あるいはそれを拡大していくという方向に行くのではないか,あるいはそうする必要があると私は思っております。
 そのときに,先ほど谷口委員から,本当に学生がきちんとしたところに行けるのかとか,あるいは田中委員から所属意識がどうかということがありましたが,ICUの場合にも,完全に入ってくる場合には自分のメジャーやら何やらを決めないで入ってきてくれと言っているわけです。それで,2年終わるまでに決めてくれと言っております。それは教員側からすると,自分のところに学生が来ないのではないかという,つまりシャッターをおろすようになってしまうのではないかということと,学生の側からすると,自分の行きたいところに行けないのではないかということで,両方とも不安を持っているわけです。私も,当時,学長として,それは非常な不安を持って始まったのですが,これは大丈夫だと思いました。今までの経験からしますと,シャッターをおろして,学生が全く来ないというメジャーはありません。中村理事からも,学生にいろいろ説明をしながらということがありましたが,それでやはりやっていけるというのが今までの経験です。
 それからもう一つ,学生の専攻域と教員の所属を1対1の対応にしないということ,これは非常に重要な知恵でありまして,そうしてしまうと,ミニの学部とかミニの学科と固定化されていってしまうものですから,1対1にしないということが,大変でしょうが,これは非常に重要なことだということです。
 それから,先ほど,河田委員からナンバリングについて御発言がありましたが,カリキュラム・ツリーというところまでおつくりになったわけですから,これをもう一歩お進めになれば,ナンバリングになって,国際的な通用性までいくということで,私は文部科学省,それから私立学校振興・共済事業団もこういうところに多少お金をつけていただいて,インセンティブ的にやっていただければ国際通用性は非常に実質的に進むと思いますので,よろしくお願いいたします。

【有信委員】  二つの大学が執行部のリーダーシップが発揮された変更をやられているというのは非常にいいことだと思います。今日のテーマがガバナンスということだったので,それで出席したのですが,ガバナンスという観点で見ると,筑波大学も金沢大学も執行部のリーダーシップという意味では非常に優れたところでありますが,もう一つ,特に筑波大学にお聞きしたいのは,教育研究評議会のメンバー構成と役割です。つまり,執行部のリーダーシップとともに,ある意味でガバナンスという観点で言うと,別の視点でのそれに対する評価というのが必要になってくると思うのですが,それを教えてください。

【清水副学長】  これまで筑波大学は創設から評議会メンバーはほとんど学士課程のメンバーで,大学院は博士課程長と修士課程長,2名しか出ていませんでした。主には学系長や学群長が中心メンバーでした。法人化以後は,大学院の研究科長も評議員のメンバーになりましたし,今回からは系長もメンバーになりました。この系長が,さらに大学執行役員という名前を与えられ,本部の一員として,副学長とほぼ同等のレベルとなりました。
 その意味では,今,評議会は学長と副学長の執行役員,それに系長が中心になって運営していることになり,以前よりはガバナンス的な機能は強化されたと考えております。

【林委員】  いろいろ御質問がありましたが,金沢大学の学域・学類の検討は平成13年から始めて法人に移行する前に決定いたしました。改革には何らかのデメリットを伴いますが,大切なのは学生のための大学改革であり、学生の教育にどのようなメリットがあるかです。そのような議論を重ねて教員の組織と教育組織を切り離したほうがいいという結論を得たわけです。それから時代の要求に応えた教育には,専門のカリキュラムの最小単位である学科にはある程度の柔軟性を持たさねばならない。学科のカリキュラムは設置審が絡むので変えにくく,そこでコースという考え方が出てくる。教育の基本はきちんと押さえたうえで大学の判断である程度は自由に変更し得るコースです。また、学生がどのような専門を選択するのか、しかも学びの助走をしながら自ら判断し決定するプロセスは大変重要です。そのために専門のカリキュラムの最小単位を持つコースを大きく括った教育組織を学科とし、学生を学科で受け入れ最終的にコースへの選択していく。そうすることで学際的な学びや学融合的な視点も出てくるし,何よりも学生の自己決定による学びへの自覚がでてくる。そういう考え方をしています。
 教育プログラムについては,プログラムに直接ガバナンスを発揮するのか,あるいは学生の教育組織や教員(研究)組織を通してガバナンスを発揮していくのか。これについては両面あると思います。教育プログラムが学生の主体的な学びにつながり,教育の基本と時代の要求にあったものとなるためには,教学のマネジメントと大学マネジメントが必要だし,それが機能すれば今どのようなプログラムが求められているかが決まってくる。金沢大学の学域・学類と研究域・系はこのようなガバナンスが機能する組織・制度をデザインしたつもりです。

【佐々木部会長】  今日いただいた御発表や質疑応答を生かしながら,今後,学位プログラム中心の教育課程の編成,そのためのガバナンスという問題を継続的に審議してまいりたいと思います。


(2)求められる知識・技能の高度化に対応した進路選択・学修機会の充実について,文部科学省から資料3~5について説明があり,その後,意見交換が行われた。

【佐々木部会長】  次に,学士課程教育の質的転換の実質化,これを進める際の具体的方策に関わって,文部科学省より審議を要請されている事項がこれを俎上にのせたいと思います。
 本日は,求められる知識・技能の高度化に対応した進路選択・学修機会の充実,その観点から教育機関相互の単位認定の促進,そして,柔軟なアカデミック・カレンダーの設定についてという二つの事項が課題とされております。これらは,10月29日の大学分科会において,今後の大学分科会及び大学教育部会の審議事項として提示されたものであります。この資料に基づいて,まず事務局から説明をいただきます。

【田中高等教育政策室長】  それでは失礼いたします。資料番号3を御覧ください。
 これは,ただいま部会長からも御紹介がありましたように,大学分科会(大学教育部会)の今後の審議事項について整理をさせていただいたものです。その趣旨といたしまして,一番上の括弧書きにもありますように,大学教育部会におきましては,今後,8月28日の中教審答申を踏まえまして,先ほど御議論いただきました学位プログラムを構築するための大学のガバナンスの在り方,更に短期大学士課程の在り方などについて審議をいただきたいと考えております。
 また,中教審の答申の中で求められておりました,高等教育との接続の改善については,別途,中教審総会のもとに特別部会が設けられまして現在,審議を行っているところです。
 そして,このペーパーにつきましては,それらの審議事項のほか,現下の課題,あるいはこれまでの本部会の審議の状況を踏まえて,これからの審議事項を3点ほど整理したものです。そして,3点のうち,最初の1点目につきまして,この後,具体的な審議をしていただきたいと考えているところです。
 まず最初の1です。「求められる知識・技能の高度化に対応した進路選択・学修機会の充実」です。検討の趣旨ですが,最初の丸にありますように,社会経済構造の変化に伴う雇用の流動化が進む中で求められる知識・技能が高度化している。そういったことを踏まえますと,幅広い知識・技能の習得ということが求められるわけです。そのために学校種間の移動も含めまして,様々な教育機関における多様な履修機会を確保していくことが求められると考えられます。
 そして2番目の丸にありますように,これまでも単位互換制度,あるいは他の大学や学部への転学・転部,短大,高専,専門学校からの大学への編入学などが行われてきたところですが,3番目の丸にありますとおり,更に学生の流動性を高めるためには,各学校種間における流動性の高い接続の仕組みの構築について更に検討を行うことが必要ではないかということです。
 具体的には,下の当面の検討課題にありますように,省庁系短期大学や高等学校専攻科における学習成果の単位認定・大学への編入学,あるいは現在,短大・高専・専門学校から大学への移動につきましては3年次への編入学が制度化されているわけですが,その逆の大学から短大・高専・専門学校への移動につきましては1年次から再度入学という取扱いになっておりまして,いわば学校の接続の袋小路になっているような部分も含めまして,学校間の接続の仕組みの構築について検討を行うことが必要ではないかというのが1点です。
 さらに,3番目の丸の「あわせて」のところですが,海外の留学,あるいは秋季入学,セメスター制といった取組のためには,柔軟なアカデミック・カレンダーの設定など,単一の教育機関においても様々な教育機会を確保するための取組について検討を行うことが必要ではないかというのが2点目です。
 そして2ページ目を御覧ください。その他の検討課題といたしまして,2番目です。「教学の質保証の充実」です。我が国の大学の質保証は,大学設置基準,設置認可審査,認証評価により担保されているわけですが,当面の課題にありますように,サテライトキャンパスのように抽象的な規定にとどまっている設置基準の明確化ですとか,これまでも大学教育部会でも御議論いただいたところですが,認証評価制度につきまして学習成果を重視した評価,あるいは大学が重点を置いている機能などに着目した評価,いわゆる機能別評価ということについて更に検討を行っていくことが必要ではないかということです。
 さらに3点目です。「わが国の大学のグローバル化の推進」です。大学のグローバル化という観点から,外国の大学との連携,あるいは外国における教育研究の拠点の設置などの取組を推進するためには3番目の丸,あるいは当面の検討課題のところですが,ジョイント・ディグリーの位置付けや在り方の整理などの海外の大学との共同プログラムの開設や,共同での学位授与,あるいは外国で学位を取得した学生の大学への円滑な受け入れ,あるいは海外キャンパス制度の在り方など,我が国の大学の海外における展開方策など,海外の大学との相互交流を一層推進するための方策について検討を行うことが必要ではないかということです。
 資料3についての説明は以上です。

【佐々木部会長】  今後の審議事項あるいはその中の優先順位等については,前回の大学分科会でも多少御議論がありましたし,さらに御意見もあろうと思いますが,本日は1ページ目の1,「求められる知識・技能の高度化に対応した進路選択・学修機会の充実」という問題に関連して文部科学省より審議を求められている事項がいくつかありますので,これについて少し踏み込んで,白井大学振興課課長補佐から御説明をいただきます。

【白井大学振興課課長補佐】  先ほどの御説明に引き続きまして,資料の4-1から4-3まで,また,資料5につきまして順次御説明をさせていただきたいと存じます。
 初めに資料4-1の2ページをお開きいただきたいと存じます。現在,社会でも求められる知識・技能が高度化していく中で,各専門分野を深めるとともに,特に複数分野にわたって多様な幅広い知識・技能を習得することが大変重要になってきているところです。そのためには,例えば一つの大学に所属しながらも別の教育機関の授業を受けたりする,様々な教育機関における履修機会を確保することであるとか,あるいは,最近でも大学を卒業した後に,特に技能を身につけるために専門学校に再入学をするというような事例もありますが,学校種間での流動性を確保していくということが必要かと存じます。
 この点につきましては,従来から短大,高専,あるいは専門学校等につきまして大学との単位認定,あるいは大学の編入学につきましては,この2ページの下の表にありますように,制度的には大分整備が進んでいるところですが,なお一部,この赤字の部分ですが,高校専攻科,あるいは省庁系の大学校,短期大学校につきましては,今後整理が必要ということで残された課題となっているところです。
 具体的には,単位認定,編入学について拡充すること。また,これらの教育機関から大学等に編入学をするということについて検討を行っていく必要があろうかと存じます。
 次に資料の3ページにお進みいただきたいと存じます。3ページは,これらの単位認定あるいは編入学の関係について図として整理をさせていただいたものです。黒い線が単位認定の関係,また,緑の線が編入学の関係です。今回,今後の検討として必要があることですが,赤い線としてあらわしていただいております。1が大学と省庁系短期大学校との関係です。特にここでは,後ほど御説明いたしますが,職業能力開発短期大学校,同大学校について明示をしてございます。また,2が高等学校の専攻科と大学との関係,また3の赤い線が大学から短期大学,あるいは専門学校等への編入学といったことについて整理をしております。
 なお,下の方の注意書きですが,1,2の関係が逆になっておりましたので,訂正させていただければと存じます。
 それから,資料の次の4ページにお進みいただきたいと存じます。単位認定・編入学についての関係法令等を簡単に整理したものです。現行制度では大学設置基準29条に基づきまして,大学以外の教育施設における学修についても,大学において単位認定が可能になっております。この中で大学以外の教育施設における授業等としましては,特に,現在,1,2,4のところで,短大,高専,特定の専門学校について認められているところです。こうしたものに,更に先ほど申し上げましたような高校専攻科等についても加えていくのかというところが今後の課題となっているところです。
 また,編入学についてですが,一般に異なる学校種の途中年次への入学のことと考えられております。この編入学の場合,法律で規定されている修業年限を特に縮めるということになりますことから,法律上の根拠が必要であると考えております。学校教育法第108条以下,短期大学,高専,専門学校については学校教育法において明確な法律上の根拠が定められているところですが,先ほど申し上げましたような大学から短大等への編入学につきましては,現在,明確な根拠規定がないということから,今後,法的な整理が必要になっていくという課題があります。
 資料4-1については以上でして,資料4-2にお進みいただきたいと存じます。資料4-2ですが,職業能力開発短期大学校及び大学校について,大学との単位認定,また編入学についての整理ペーパーです。現在,省庁系の大学校としましては様々なものがあるところですが,多くのものが,例えば防衛大学校ですとか,あるいは海上技術大学校ですとか,基本的には極めて専門的な特殊な資格等を得るための訓練施設といった特色が強いものです。その中で,この職業能力開発短期大学校につきましては,後ほど資料でも説明させていただきますが,ものづくりの専門家等の養成に主眼が置かれたものでして,大学と比較的近いといった要素もありまして,従来から,平成15年に特区提案という形で大学への編入学を認めてほしいというような要望が出されております。その後,一旦取り下げられたりしたのですが,平成21年に再度,山形県から同様の要望が出てきたところです。
 この要望自体は編入学を認めてほしいと,短期大学校2年生の課程から大学への編入学を認めてほしいという要望ですが,編入学を認めるためには,一足飛びではなく,単位が高等教育として認めるにふさわしい内容を有しているのかということがまず前提となろうかと思います。私の方で確認しましたところ,この職業能力開発大学校また短期大学校につきましては,省令等で教員の要件,施設要件,カリキュラム等がかなり明確に定められておりますので,まずは単位認定から認めることとしていきたいと考えてございます。また,その上で大学への編入学については,その状況なども踏まえながら,再度御審議をお願いできればと思っております。
 参考資料の1,3ページ以降については,この職業能力開発短期大学校・大学校の概要について整理したものですが,詳細については差し控えたいと思いますが,基本的にはものづくりの人材を養成する施設ということでして,訓練期間についても実習を中心に大体年間1,400時間の授業を行っているというようなところです。
 参考資料2の4ページですが,特区に関する過去の経緯をまとめたものです。
 また,参考資料3については,教員,施設設備,カリキュラムについての概略をまとめたものですが,大学設置基準等と比較しましても,専任教員なども同種のものと比較しても手厚い配置がなされているといったような状況です。
 また,参考資料の最後の4番ですが,本日,厚生労働省から本日,担当官に御臨席もいただいておりますが,厚生労働省からも職業能力開発短期大学校・大学校と大学の間で単位の相互の認定をすることによって,双方向で実践的な技能を習得できるようになるということで,単位認定について要望されているというような状況です。
 資料4-2については説明,以上です。
 続いて資料4-3にお進みいただきたいと存じます。高校専攻科の単位認定・編入学についてです。この高等学校専攻科ですが,現在,初等中等教育分科会の高等学校教育部会で審議が,特に高校専攻科の役割や位置付けの明確化についての審議が行われているところでして,今後,そういった議論も踏まえながら,高校専攻科の大学において単位認定・編入学をどうしていくのかということについて検討をしていく必要があろうかと存じます。
 なお,この高校専攻科についてはあまりなじみがない方もいらっしゃるかと思いますので,次の3ページに参考資料として資料を用意させていただいております。学校教育法に高校専攻科の目的として,精深な程度において,特別の事項を教授し,その研究を指導することといった目的規定が置かれておりまして,修業年限1年以上とされております。ただ,多くの場合は2年制の課程を敷いているところが多いようです。基本的には高校卒業者程度の者を対象にしたものでして,高等学校の設置基準に基づいて編成や施設,設備等について定められております。
 数としては,この表にありますとおり,あまり多くはありませんでして,全国で平成22年度現在137校の高等学校に専攻科が置かれているという状況です。その中で最も多いのが看護の専攻科,続いて水産の専攻科という状況でして,この二つ,看護と水産だけで,全体137校のうちの約100校近くを占めるというような状況になっております。
 この専攻科の教育の例ということですが,看護の場合には高校3年プラス2年の専攻科における課程を終えることによりまして,いわゆる正看護師の受験資格を得ることができるというような状況でして,基本的には看護師の資格を目指してこの専攻科で勉強されているという状況です。
 また,水産の場合も同様に,高校3年間では5級の海技士という初級の船舶資格が得られるのですが,特に専攻科に進んだ場合には中級資格である3級の海技士の資格が得られるということで,こういったことを特に目指して専攻科に進まれている方が多いという状況です。
 なお,この専攻科に関しましては,参考資料の2番ですが,キャリア部会の答申,昨年出されたものでございますが,この中で専攻科の役割,位置付けを明確化するとともにその拡充を図ることが必要という指摘がありながら,最後の下から二つ目の丸のとおり,専攻科の学修を大学の単位として認定することについて検討すること,あるいは一定の条件を満たした専攻科の修了者について,大学における単位認定の状況を見極めながら大学教育の国際通用性にも留意をしつつ積極的に検討することが必要とキャリア部会においても答申をいただいているところです。
 資料4-3についての説明は以上です。以上が教育機関相互における単位認定・編入学についてです。
 資料の5番としまして,続きまして若干テーマが変わりますが,柔軟なアカデミック・カレンダーの設定についてということで御説明をさせていただきたいと存じます。この件につきましては昨年11月の大学教育部会においても各委員の方々から,大変いろいろな御意見をいただいたところです。今回,大学設置基準23条の具体的な改正案ということで御提案をさせていただきたいと存じます。
 基本的な考え方ですが,従来,この事業期間の問題につきましては,15週で行うという設置基準23条の規定と,また,1単位当たり15時間の学修を必要とするという,15時間と15週ということが若干混乱をして受けとめられていたきらいがあろうかと思いますが,そこについてしっかり整理をしたいと思います。
 現在,多くの授業が週1コマ,15週で2単位といった形で行われているかと思いますが,そういった授業の在り方について,先ほど,金沢大学の御説明にもありましたが,授業の在り方を多様化して授業の質の向上を図っていきたいということを考えております。具体的には講義だけではなくて,演習や実習,あるいは小論文指導等を含めたもの,ブレンド学修といいますか,そういった多様な授業を展開する,あるいはその授業期間についても15週きちんとということだけではなくて,例えば13週とか8週とか,いろいろな形での授業期間の設定を可能にするということにしていきたいと思います。
 一方で,1単位当たりの授業時間,15時間ですが,これは平成20年の学士課程答申におきましてもきっちりと,講義であれば最低でも15時間の確保が必要であると明言されておりますし,また,国際的な信頼性,通用性の問題もありますので,単位の修得に必要な学修時間については適切に確保していきたいと考えております。
 具体的な方向性ですが,10週または15週につきましては,これは学期制の原則の裏付けともなっておりますので,これについては原則を残しながら,例外の部分で弾力的な授業期間の設定を可能にしていきたいと考えております。
 次の3ページにお進みいただきたいと存じますが,3ページの上段に具体的な改正案について,赤字において記載をさせていただいております。現行の第23条では,原則は10週または15週としながらも,ただし書きにおきまして,教育上特別な必要があると認められたときは,これらの期間よりも短い特定の期間において授業を行うことができるというようにしております。これにつきまして,改正案では,教育上必要かつ適当と認められるときはこれらの期間と異なる特定の期間において授業を行うことができるとすることで,特にこのただし書きの部分をより弾力的に適用することで,大学側の多様な授業の在り方を促進していきたいと考えております。
 また,同時に施行通知におきまして,これまでの中教審の議論の趣旨も踏まえまして,周知事項について,この下段の方に掲げさせていただいております。この設置基準の改正については,授業期間を弾力化することで授業の在り方の多様化を促進することが目的であるということでして,同時にこの弾力的な授業期間を設定することで,講義だけでなく学生の主体的な学びを促すことができるように双方向型の学修,例えば小論文の指導であるとか,ディスカッション,ディベート,いろいろなものがありますが,そういった主体的な学びにつながるような授業への転換を促すということのきっかけにしたいと考えております。
 新しい改正案にあります,教育上かつ適当と認められる場合ということですが,基本的には教育上,合理的な必要性があって,かつ,そのことによって10週または15週の原則どおりに授業を行う場合と同等以上の教育の効果があるということを条件にしたいと考えております。
 また,従前,認証評価機関等におきまして,この10週または15週,きちんとアカデミック・カレンダーが確保されているのかということについての評価が行われてきたと存じます。それによって授業の単位の実質がある意味担保された面もあるわけですが,授業の在り方が多様になるほど,外形的には10週または15週にわたって授業が行われていることが確認できず,また,15時間確保されているのかがわからないということにもなりかねませんので,そういった弾力化をする場合においては,当該授業の内容が単位の修得に必要な授業時間数に相当しているということをシラバスなどで必ず明記をしていただきたいということをお願いしたいと存じます。

【佐々木部会長】  問題が多岐にわたりますので,本日,残り20分で全てを扱うのは不可能です。事前の打ち合わせでは,資料の4-2にあります職業能力開発大学校及び短期大学校の単位認定・編入学についてのうち,大学校の科目履修を大学の単位として認定できるかどうかについて部会として了承ができないかという点,もう一つは,最後に御説明がありました弾力的なアカデミック・カレンダーの設定に関する設置基準の改正について,方向性としてこれでお認めいただけるかどうかという課題をいただいております。
 まず,ただいま4-2に基づいて御説明をいただいた職業能力開発大学校及び短期大学校の単位認定について,御意見をいただきます。

【濱名委員】  確認というか,お伺いしたいのですが,この資料4-2のところで,訓練期間の時間の設定なのですが,この件については,時間で単位認定をされる厚生労働省と,文部科学省の1単位45時間でいわば教室外学修も含めて主体的な学修ということで議論してきている我々とはスタンスがかなり違います。この現状には問題があるのではないかということは申し上げてきたのですが,最後の答申の表現では何かマイルドになり,途中段階まで研究するということが具体的に書いてあったのですが,研究することも消えてしまっているので,そことの関係です。2年間で2,800時間ということは,どういうアカデミック・カレンダーでやっておられるのかということと,その内容はどのようになっているのかを伺いたい。
 例えば,日本の工学教育は別に実習だけで成り立っていないと思うのですが,2,800時間というのは,奇しくも45で割ると,ほぼ62単位なのですが,62単位ということは,全て実習だけで成り立っているような形になるのです。つまり,教室外学修を前提としないで短期大学相当分の学修をしておられるというような形になります。更に30週という形になると,1日あたりとてつもない授業時間数になってしまうので,おそらく40週とか,そういうアカデミック・カレンダーで組んでいらっしゃるのではないかと思います。つまり,かなり性格が違うのではないかということを疑問に思うのですが,そのあたりについて御説明いただけるとありがたいです。

【白井大学振興課課長補佐】  今,時間制のことについて御質問いただきましたが,専門学校の場合も,1,700時間以上ということで,その授業時間がある者については大学での単位認定を認めるということで,ある意味,時間を一つの基準としております。専門学校について最近,単位制についても使えるようになりましたが,時間であるからだめということでも必ずしもないと考えております。時間と比較すれば専門学校よりもはるかに多い時間を確保していただいているという実態があります。
 それから,教育課程についてですが,少し私の説明が不十分だったかもしれませんが,実験,実習は大変多いものではありますが,いわゆる一般教養科目的なものもかなりその中に加えられておりまして,例えば語学でありますとか,コンピューター基礎,基礎製図,物理といったような科目についても十分取り入れられていると考えております。
【濱名委員】  やはりこういう説明をされるときには,どういう設置基準であるとか,要件を求めているのかということをお出しにならないと,教員が修士が多いというのと,時間数が多いという根拠であれば,授業時間が最大のメルクマールになってくるのかという形になってまいりますので,その辺りの情報がないと議論しづらいのではないかと思います。
 あるいは,工業系の短期大学等々と比べて,これはおそらくこの次の段階で編入学資格というような形になってくるのであるならば,当然この段階できちんと確認をしておかないと,単位を認めたのに編入学を認めないのはどういうことだという議論になると思いますので,そこらの説明は十分にしていただく必要があるのではないかと思います。あるいは,教員の要件も,学位の話だけではなくて,どういうことを要件として教員資格を認めているのか。今の状況から言うと,工学系とかエンジニア系で修士を持っている方が多いのは当然のことで,39%というと,逆に低いのではないかとさえ思えます。そういうことになりますので,教員の基準等々についてどういう定めがあるのかとか,そのあたりの情報を御提供いただかないと,私は決めるのは難しいのではないかと思います。

【納谷委員】  この資料を見ていたときに,今,言ったような問題点があることは前提にしてですが,省庁系大学校というのは幾つかあります。防衛大学校などもそうです。こういう大学校をどういうぐあいに我々が今後対応していくかということ,まず国の政策として基本にそこをしっかりおさめなければならないと,私は思います。省庁間の切り方の問題に伴った,こういう高等教育の在り方の問題だと思います。
 それで,二つ目は,今の時点でこの問題を取り上げるとすれば,少し時期が早過ぎるかという感じがするので,大学評価・学位授与機構において,実は学位を与えるための単位認定はやっているのです。機構で少し検討していただいたほうが,横並びのことがよくできるのではないかと思うので,ここだけ単独で取り出すと大きな問題が生じて,かえって対応が非常に難しくなるのではないかと思いますので,そちらでやられたらいかがかということを提案したいと思っております。
 実は,大学評価・学位授与機構の評議員会に出ていていろいろ話を聞きましたら,もう防衛大学校などの場合には,ほとんど自動的に単位化を認め,かつ学位を与えていくというやり方をとっているのではないかと思われるほどです。それらとの動きで,この問題も文部科学省としてどうとらえるかということをきちんとしておかなければならない時期だと思います。そちらでしっかりとやっていただくか,もちろんこちらで独自の方向性を出すかはここで決めるべきだと思いますが,問題が少し唐突過ぎる感じがするので,少しそういう検討を踏まえてここで議論なされたほうがいいのではないかと思います。

【川嶋委員】  今日いただいた資料の4-1の3ページに,各学校種間の単位とか編入学の現状の図があるのですが,このように学校種間で単位認定とか編入学を決めるときは,先ほど,濱名委員からもお話がありましたが,最近は時間ではなくて,やはり学修の質が非常に重要で,時間ではなくて,むしろどういうことを学んだとかいう学修成果の同等性,単位の同等性ということが重要です。むしろ学修成果の同等性で単位認定とか編入学を認めるという方向に我が国も変えていかないと,国際的通用性という観点から日本の単位とか学位の通用性が損なわれるのではないかと思います。
 なかなか難しい話ですが,キャリア教育の検討の場でも出ていましたし,大学分科会でも出ていたと思うのですが,将来的には資格枠組みというのをつくっていくという学修成果の観点からそれぞれの学位レベルを規定するような,そういう資格枠組みを将来的につくっていくような大きな方向の中で考えていかないと,単に単位時間数だけで単位認定,単位が同等だというのは今後,国際的に見て難しいのではないかという気がしました。

【黒田副部会長】  これは職業能力開発大学校のことだけを言っているわけですが,日本の高等教育というのは,このようにすごく幅の広い学校があるわけです。今,一番問題になっているのは専修学校の問題です。専修学校を本当に高等教育機関として認めるか認めないか,今,議論をやっている最中です。その根本は何かというと,そこで行われる教育の質保証の問題です。こういうほかのところも同じように質保証,教育の内容がこういう単位認定をするにしても,編入学をさせるにしても,同等に扱えるような内容でないと,これは困るわけです。こっちの大学校を出たから,もう全部認めるということでやったのでは,受け入れたところが対応しきれなくなる。そういうことがありますので,それをしっかりまとめていくという,その方が私は大事だと思います。
 日本の高等教育というのは,こういう範囲のことを言い,いろいろな多様なものがあっていいと思うのですが,それがお互いに行き来ができるようにするためには,やはり同等のレベルの教育が行われているということが大前提なのです。その中でそれぞれの分野の特徴が出てきているという,そういうことが重要でありますので,先ほど,これはキャリア教育のときにも話が出ておいましたが,職業と教育の内容の一つの枠組みです。どういうレベルのものを,どういう段階で修得していくかという,そういうことをしっかりと決めていかないと,軽々にこれはこうだからといって判断しきれないと思うのです。だから,その辺をもう少し煮詰めていただきたいと思います。ただ単に時間数だけでいい悪いは言えないと思います。

【林委員】  国際通用性も質保証も大事ですし,このことに反対するわけではありませんが,大切なのは日本の高等教育をどうするかであり,初めにその議論がありきと考えます。我が国の学校教育がリニアシステムをとる中で多様な複線化はきわめて重要な課題です。私はこの3月まで高専にいましたが,グローバル化が進む中で東南アジアを中心にいろいろなポリテクが拡大し日本の高専の存在が高まっている。急速に変化する時代にはディシプリン中心の大学だけではなく時代が要求する人材,時代に合った職業教育が必要になっているのだと思います。
 昨年の夏,高専にワシントンポストがやってきました。金子委員のところにも寄ったはずですが,元アジア支局長の方が四日間高専に張りつきました。聞きますと来年の11月にはオバマ大統領の選挙がある。政権の節目にはアメリカでは教育はどうあるべきかの議論から始まるということです。OECDの高等教育調査団も常に世界の高等教育を調査している。世界の高等教育がどのように動いており,それに対して自分のところの国はどうあるべきか。専門職業人としてどのような技術者が必要なのか。福祉なのかゼネコンがいるのか。いろいろな視点から人材を育成する戦略を立て,それをデザインした枠組みを持っているわけです。
 そう言っているうちにアメリカでは高専を作り始めている。日本の高専を参考にしているわけですが,もちろん科学技術や工業の高等専門学校だけではありません。私が言いたいのは,申請に対する審査はきちんとやらなければいけないが,そのためにも日本の高等教育がどうあるべきかを議論しておかないと全てが遅れてしまう。そういう骨太の議論はどこでやるのでしょうか。是非,中教審あたりでそういう検討を進めていただいて,そのうえで申請を受け付け審査する。審査ではこれは審査要項に合わないからだめだというやり方ではなくて,合わないところは変えてもらうという国の政策を動かす審査が本来だと考えます。

【佐々木部会長】  この点は,前回の大学分科会でも御意見が出ましたように,どうも大学教育部会で背負うには大き過ぎる課題のように思われます。ですから,ここは継続審議ということにさせていただいて,審議の進め方や段取りについて事務局でもう一度御検討いただきたいと思いますが,よろしいですか。
 確かに,個別の問題一つ一つに決着をつけていくことはできないわけではありませんが,この単位認定の先にやはり編入学があり,この大学校から大学への編入学の関係の先には,いわば高等教育の全体像の問題があるわけですから,ここは慎重に議論を重ねたほうがいいのではないかと,判断します。
 では,そういうことで合意をいただいたと思いますので,この資料4に盛り込まれている案件については継続的に審議をするということにいたしたいと思います。

 

── 了 ──

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