大学教育部会(第5回) 議事録

1.日時

平成23年9月26日(月曜日)16時~18時

2.場所

霞ヶ関コモンゲート西館37階 霞山会館「霞山の間」

3.出席者

委員

(部会長)佐々木雄太部会長
(副部会長)黒田壽二副部会長
(委員)安西祐一郎,金子元久,長尾ひろみ,宮崎緑の各委員
(臨時委員)川嶋太津夫,林勇二郎,吉田文の各臨時委員
(専門委員)荻上紘一,高祖敏明,篠田道夫,長束倫夫,納谷廣美,濱名篤,山田礼子の各専門委員

文部科学省

金森文部科学審議官,磯田高等教育局長,河村文教施設企画部長,小松私学部長,常盤高等教育局審議官,義本高等教育企画課長,勝野私学行政課長,藤原大学振興課長,榎本高等教育政策室長,石橋大学振興課課長補佐,西川高等教育政策室室長補佐 他

オブザーバー

伊藤順子(カリフォルニア大学教授),堀井秀之(東京大学大学院工学系研究科教授)

4.議事録

 議事に先立ち,故伊藤敦史氏(高等教育局高等教育企画課高等教育政策室企画審議係長)のご冥福を祈り,黙祷が行われた。

(1)空地・運動場に関する特区制度の全国化への対応について,文部科学省から資料1の説明があった。

【佐々木部会長】 この案件については,パブリックコメント終了後,その結果も含めて,次回またはそれ以降の大学分科会にご報告をし,改めて大学分科会において設置基準の改正をご審議いただくという段取りになっていますが,よろしいですか。

 (「異議なし」の声あり)

 それでは,この件については,文部科学省において適切な取り扱いについて,引き続き進めていただきたいと思います。

(2)学士課程教育に関する新たな検討について,文部科学省から資料2~資料3-2の説明があった後,委員から資料3-3~資料3-4に基づいて説明があり,その後,意見交換が行われた。

【吉田委員】 資料3-3をご覧ください。これは,全体はとりたてて目新しい話をしているわけではなく,これまでの部会でさまざま議論されてきたことが,結局このあたりの問題になるということでまとめたものです。今後の議論のたたき台にしていただければありがたく存じます。
 これまでの議論での内容を一言でまとめれば,日本の大学生は勉強していないということがさまざまに非難されてきたと思います。特に産業界の方々からは,そうしたところは大学の責任として問題が大きいというようなことを言われてきておるところがあります。では,なぜそうならないのかということ,あるいはそうするためにはどうしたらいいのかということを考える手がかりとして,0,1,2,3の4点にまとめてあります。
 まず最初に,問題を考えていく際に当たっての基本的なスタンスとして,当たり前のことをもう一度確認しておきたいと思います。それは,教育には,教授と学習という2側面があるということです。一般に言っている教育の成果は,学習の成果によって測定される場合が一般的だと思います。すなわち,学生がどれだけできるようになったのか,学生の成果は何かということによって測定されて,それをもって教育の成果と言われています。
 そうした学習の成果のためには,教授という教員が教えるという行為が必要になります。ただ,ここで踏まえておかなくてはいけないことは,教授をすればそれが学習に直結するわけではないとです。教える側と学ぶ側との両者があって,その関係が1対1対応にならないという,非常に当たり前の話なんですが,そこの部分は議論の前提として置いておく必要があるということです。
 そう考えたときに,教授の側の問題と学習側の問題として何があるのかということを次のところで論じていきたいと思います。まず,教授の側の問題としてこれまでの議論で特に言われたきたことは,カリキュラムが体系的に構築されていないことではないかという問題が指摘されていたと思います。
 しかし,確かに90年以降,大学改革の中で,カリキュラムを体系的にするためのさまざまな小道具は導入されてきました。シラバスとかGPA等々ですが,シラバスとかGPAは,言ってみれば,それぞれの科目ごとに適用できるものということが言えます。A先生が開講する科目のシラバス,A先生の授業に関するGPAになるわけです。
 また,科目区分,これは従来の考え方でいえば,共通教育とか教養教育あるいはそれに対する専門教育と言われるような科目区分の問題,それから,科目の必修とか選択といった問題。これはカリキュラムを考える上での基礎的なベースになるものですが,言ってみれば,単位数をもとにこれまで決定してきたと思います。専門科目が何単位であり,それが124単位中どのぐらいの比重を占めるのかといった議論であったということです。
 それはその次のところになるわけですが,こうした状況は,言ってみれば,4年間の学士課程を終えた履修証明として,学位,それは「学士(〇〇)」というものですが,そうした学位を,何々を理由として,何々ができるようになるというものとして十分に説明しなかったということが言えるではないかと思います。
 こうした状況に対して,これまで中央教育審議会大学分科会をはじめ,さまざまな部会等では,それにかかわるものとして,「学士力」という話が1つありました。これはこれまでの資料の中でもベースとなって引用されているものです。それともう1つが,前回,日本学術会議から北原先生がお見えになって,そこでの議論では,参照基準というものがありました。
 この学士力というのは結局何を論じてきたかといいますと,学位の「学士(〇〇)」のうち,下線を引いた「学士」のほう,その学士課程を修了したということについて,「学士」とは何々ができるようになることということで,さまざまな領域の何々ができるようになること,すなわち,能力について論じてきました。
 そこでの問題は,学士という共通性については論じてきたわけですが,括弧にある「〇〇」についてはどうなのかという問題が残りました。それについて,その問題を論じるために日本学術会議に諮問がなされ,「〇〇」を論じてきて,その結果出てきた答申が参照基準というものです。
 その参照基準で論じてきていることは「〇〇」,いわゆる各専門分野ですが,特定の専門分野では,何々を履修し,何々ができるようになるということを論じてきました。すなわち,学士力と参照基準というのは,一方があり,他方があり,両方あわせ持って,「学士(〇〇)」を説明するものとして位置づけることができます。
 ただ,学士力と参照基準との関係はどうなのかということは,先生方の中でも疑問を持たれる方がいらっしゃると思いますが,詳細は,参照基準の中できちんと位置づけております。ただ,簡単に言ってしまえば,学士力といったときに,それは包括的な概念であって,「〇〇」という各専門分野以外にも,教養教育の部分なり,共通教育等を含んだ包括的なものという形で位置づけております。
 言ってみれば,学士力とか参照基準というものが今後の学士課程を考える上で必要だということについては,一定の共通認識が得られたのではないかと思いますが,それが一体どうやったら実質化するかということが今後の議論で必要ではないかということです。実質化するための方策としては,これまでの議論の中にも出ておりますし,まだそこの部分の議論が必要かと思いますが,4点ほど思いつくままに挙げておきました。
 まずaとしましては,学位授与にかかわる組織として,組織単位で,学士力なり参照基準を考えていくということ。
 それから,bとしては,これも何度も論じられておりますように,日本の大学の場合には,科目間のシーケンスが非常に弱いと思います。もう少し科目間の序列化をし,シーケンスをつくっていくべきではないかという議論もありました。
 cとしましては,同列科目間の調整をする。これは具体的には,同じタイトルの科目であっても,その内容調整が十分になされていない。要は,多くの大学では,ある科目を担当する先生の教育内容に関しては教員の専権事項となっている場合が多いという問題です。そのあたりをもう少しオープンにして調整していくという方法もあるかと思います。
 最後に,専門教育と教養教育は,現在では特段区別はされていないものとなりましたが,やはりそのあたり,もう一度両者の関係を踏まえて,総体として学士課程教育を考えるというような幾つかのレベル分けができるのではないかと思います。そのためには,大学の中では,教員間の議論が必要ですし,教員間の調整も不可欠になってくる,それを促すガバナンスも必要になってくるだろうということです。
 ここまでのところは大学の中でやるべきことでありますし,それはある意味,大学にとっての仕事であり,外側からとやかく言われるものではないのですが,でも,なかなかそういう方向に向いてこなかったという認識が共通にあるとするならば,そうした方向へ大学を向けていく外部からの仕掛け,それは支援や評価ということになるのでしょうが,それをどのようにつくるのかという議論がある意味こうした場で求められるのではないのでしょうか。
 その次の参考の部分は除いて,次に移ります。これが教授の側の問題として考えられることです。
 次に,学習の問題としては,学生が学習をしていないという話は,前回金子先生からの詳細なデータでも明らかになっております。それは,言ってみれば,単位制をしいているわけで,大学は今,15回の授業をきちんとやっているわけですが,そうした単位制の理念がうまく生きていないということになるわけです。
 なぜそうなるのかということはいろいろな原因が考えられると思いますが,1つは,学習させる仕組みがない。言ってみれば,授業には出てきても,その前の予習と復習といった課題が十分にないということです。また,課題等が出されたとしても,それを十分にチェックするような仕組みもないし,また,実際問題,大教室の大人数の講義ではなかなかそこまで手が回らないということも現実だろうと思います。さらに,学生にとってみれば,成績向上があまり大きなインセンティブになっていないということもあるかと思います。
 次に考えられる理由は,学生にとっては,学習に時間がとれないという問題もあります。これは言ってみれば,就活の早期化・長期化が一番の外部的な原因としてあるわけです。民間企業の場合,大体3年次後期に就活が始まりますし,それは4年次の前期まで続きます。民間企業だけではなく,例えば公務員試験を受ける学生にとっては,4年次の5月から9月まで順番に続いていきます。その間に,例えば私の所属するような教育系のところでは,教育実習があり,教員採用試験がありということで,授業にすら十分に出られないという状況があるのも現実です。
 こうした学習させる仕組みがない,学習に時間がとれないという状況をどうやって解決するのかということを考えなくてはいけないわけです。前者の,学習させる仕組みがないという問題に関しては,これは多くの大学でさまざまな工夫がされていることと思います。小人数ゼミであったり,TAによるセッションであったり,あるいは1週間に複数回開講するような授業等々もあり得るかと思います。ただ,これをやっていくためには,大学としてはかなりの資源が必要になります。
 もう1つ,学生の側の問題として学習に時間がとれないという状況を解消するためには,1つは就活の見直しを求めていくということは,これまでもなされておりますが,産業界に対する要望としては重要なことだろうと思います。学生が一体何社にエントリーシートを出して,何社の会社説明会に出ているかということについて,感覚的には皆さん非常によくわかっているのですが,そのあたりは現状を踏まえた上での議論がもう少し必要だと思われます。
 それとともに,大学にとってみれば,単なる半期15回の授業だけではなく,その15回分の授業をもう少し柔軟に設定するような仕組みができてもいいのかもしれません。例えば1週間に複数回開講するような授業で,半年ではなく,3カ月という単位もあり得るかなと思います。そうすれば,就活に多忙な時期はそこの部分は外すことも可能になり,現在のように,15回のうち半分ほどしか出てこないという状況は少しは改善するとも思われます。
 こうした問題に対しては,中央教育審議会としてどうやって議論するかということはいろいろあるかと思いますが,審議会としてできることは,制度的な対応をすることなり,財政条件を整えていくということになるかと思います。何度も繰り返しになりますが,1週間に複数回開講する授業がいいと言われても,現行の大学設置基準との関係の問題もありますし,また,TAによるセッションがあればいいといっても,そうした補助をどうやって予算化するかといった等々の問題があると思われます。このあたりが少し今後の議論のたたき台になればいいのではないかと思ってまとめました。
 もう1つ,言ってみれば,これは学生を学習させ,学習成果を上げるための仕組みをどうつくるのかという議論になるわけですが,学習成果を求める議論が先行する中で懸念とされる点について1点のみ挙げておきます。それは学習成果を求めるのであれば,学習成果をきちんと測定せよという議論があることです。それが先行するはやや懸念される事態ではないかと私は考えております。
 と申しますのは,学習成果を測定することが先に来てしまえば,それは一時点でのテストによってそれを測定すればよいという話につながるからです。したがいまして,AHELO等の話も出ておりますが,安易にテストの導入に結びつかないような形での教育課程編成の議論が必要ではないかと思っております。

【佐々木部会長】 それでは,引き続き,学びのイノベーションの促進という問題について,濱名委員からご発言をいただきます。

【濱名委員】 私学高等教育研究所では学士課程教育の全国学科長調査をやっております。サンプル構成は,2010年9月,10月に行われた,人文,社会,教育,家政,保健,工学,理学系の学科長を対象とした調査の結果です。それで,その結果の紹介とそれから何が言えるのかというようなことでしたので,データが若干多くなっています。
 まず,ディプロマポリシーをめぐる現状は,書いておりませんが,大体90%以上はディプロマポリシーをもう定めている。逆に10%定めていないというところもございましたが,問題は,定めることは定めたのだけども,そこに血が通っているかどうかということです。
 「目標設定の仕方による改革度の『差』」と書いているのですが,後ろのほうをめくっていただきますと,22枚目のスライド以降に若干書いています。我々の調査では,教育目標,学習目標,ディプロマポリシーの記述様式を3タイプの中から選んでもらっています。1つには教員の立場から何々を教えるか,2番目は学生の立場から何を学習するかというタイプで,3つ目は,行動目標のレベルで学習目標を定めているかというタイプです。
 実はこのタイプによる改革度の差がものすごく大きくて,22ページにございますように,シラバスに期待される学習成果の明示度ではそう変わらないのですが,その後の23ページ~26ページまでのところを見ていただきますと,授業と学部・学科の目標の関係の設定とか,シラバスの内容を第三者がチェックするとか,あるいは全学・学部の目標と学科の目標を図式化した資料(カリキュラムマップ)の作成などの大きな差につながっています。いわば学士力答申で意図された改革は,実は学習目標の設定が行動目標レベルまで可視化していなければ,ほとんど前へは進んでいないというような状態でございます。
 元へ帰っていただきますと,規模やガバナンス単位による違いも大きいのです。めくっていただきますと,次のスライドは学習目標の設定手続と規模の関係を見ています。この部会は大規模大学の先生方がほとんどだと思うのですが,大規模大学ほど,学部とか学科が決めたものがそのまま上まで通っていくというガバナンスの仕組みが強く,単科大学や中規模大学とはかなり様相が違っているということがございます。3ページのところですが,おそらく学部自治を想定してガバナンス論を語られる場合と小規模校でのガバナンスの問題とは,かなり問題の性格が違うと思います。
 さらに,ディプロマポリシーをめぐる議論でいいますと,図3というのが4枚目にあります。こちらでどんな内容が定められているかということについて,上位を見ていただきますと,専門分野特有の知識の習得とか,考え方,物の見方,あるいは分野に独特の技能・技術というように,専門教育を非常に重視して,実は教養教育的な要素は顧みられることは少ないということがわかります。学士課程教育として,専門教育と教養教育,全体を通して議論をすることになっていたにもかかわらず,目標設定をしてみると,やはり専門教育に非常に傾斜をしている。実は両者のバランスをどうとっていくのかということが問題になっていると思います。
 さらに,その分野差が5枚目のスライドの表1,他分野と比べて多いのが赤字で,他分野と比べて少ないものを青字であらわしていますが,分野によって様相が全く違うのです。それをどう見るべきか。専門分野ごとの質保証にゆだられるべきことはゆだねていく,しかし,全体共通として取り上げて考えていなければいけない問題もあり、ディプロマポリシーの現状としては両方が併存しているのではないかということです。
 「カリキュラムポリシーをめぐる現状と課題」というのが6枚目のスライドにございます。カリキュラムの構造化のあり方を見ていきますと,分野差が極めて大きい。図4を見ていただきますと,黄色が専門の必修の占める割合です。保健系は,国立が一番高いですが,7割が必修科目で,単位制と履修登録いった,実質的な履修選択はほとんどされていない。それに対して人文系は,選択ばかりで必修はほとんどない。分野差は非常に大きいですし,専門の比重も,必修の割合も非常にばらついております。
 表2を見ていただきますと,これはパーセント表示をしています。全体としていいますと,専門の必修が30%です。網かけをしているところは専門の必修の多い分野ですが,保健,工学,理学あたりは専門の必修の度合いが非常に大きい。
 表3は卒業要件単位数の内訳を,これは実単位の平均で出したものでございます。分野と設置主体ごとにあらわしたものです。
 カリキュラムに対する考え方は,そこにありますように,カリキュラムの志向性の分極化と書いているのですが,専門・教養のウエート,専門教育のレベル設定については,志向性に非常に違いが出ています。図5と図6がその資料です。
 分野ごとに見ていきますと,例えば「専門教育の履修単位数を増加すべき」というのは,これは分野を問わずそういう志向性が非常に強くなっている。全体で見れば,6割から7割の大学がこう考えている。しかし,「教養教育において基礎スキルを重視すべき」,このあたりになると,意見は完全に半々に分かれています。
 さらに,教養教育と専門教育のかかわりを持たないような内容が重要という考え方もあるのですが,実際のところは,次のページの図6を見ていただいても,分野ごとに専門教育の内容を高度化すべきかどうか。例えば家政は高度化志向が強いですが,人文系では学際的にすべきであるという考え方で,非常に分野差が大きいということです。さらに,その下の専門教育を学士課程で完結すべきかどうかということについても,意見はほぼ半分に割れています。
 この状態から今後どう取り扱っていくのかということです。現在,参照基準づくり,あるいは分野別の認証評価といったことを求める声も非常に強いです。後ろの参考資料のほうには,最後から開いていただきまして3枚目でございます27ページ~29ページというのは,大学生の学力を高中低という形で分けた場合に,専門別のコアカリキュラムの開発を志向する方が分野を問わず7割ぐらいあります。
 さらに,専門分野別に汎用的能力をはかる客観テストの開発ですが,先ほど吉田委員がやめたほうがいいと,私もやめたほうがいいと思うのですが,これについては学力が低い大学のほうが,専門教育の底支えを何とかしなければいけないという志向性を強く持っている。さらに,ジェネリックな能力をはかる客観テストすら期待する声が,どちらかというと学力の低い大学で見られているということは,学力差がかなり憂慮するべき問題になってきているのではないかと思います。
 私が申し上げたいことは,14枚目にあります「『学びのイノベーション』の現状とその促進」ということで,17枚目の図9にありますが,例えば期待される学習成果がシラバスにはっきり書き込まれているかとかといえば疑問大であるし、授業回数の15週確保は導入され,形式は整ってはいるのですが,問題は,実質的な教育内容の高度化は前へ進んでおらず,専門分野差も大きいままです。
 例えば図9を見ていただきますと,キャップ制を導入となっているのですが,年間40単位以内というのは,無茶なキャップ制ではないのですが,7割は導入していないと答えています。これは私も設置審の仕事等々で地方の大学に行くと,キャップ制が設定されていることになっていても,学生が制度自体について知らないとか,そういうケースも少なからずあります。さらに言えば,学部の目標,学科の目標との評価の全体の構造を示すことも進んでいないようです。
 ですから,先ほどの吉田委員の言われた,教授過程のマネジメントもできていないですし,学習過程のマネジメントもほとんどできていない。その結果が,学習しない学生という形になっているのかもしれまません。そうすると,例えば評価の中で,学生から見れば,どういうことができるようになるかということの可視化については,ルーブリックをきちんと設定していくようなことも含めて,教授過程あるいは学習過程のマネジメントが必要になってくるだろうと思います。
 続きまして,15枚目のところで,教育方法としては,アクティブラーニングとか,経験学習重視,ハイインパクトプラクティスをジョージ・クーが2008年に出して,今,AAC&Uあたりで,こういう体験学習を重視する,グループ経験を重視するという方向性が非常に注目されています。
 学習内容という形で見ますと,19ページの図11の新しい教育内容の採用状況を見ますと,レポートとかライティング,学習技術とか初年次教育に類するものの導入は進んだのですが,導入状況の分野差は,その後にございます表4で,この赤と青の分布を見ていただきますと,分野による差も非常にあったりしますし,21ページの表5を見ていただきますと,全般的に改革の度合いは,大規模大学ではこういう新しいスキル系のものや体験学習はあまり導入されていない。むしろ小規模大学とか,学力が低い学生を抱えている大学はそういうことを導入しているけれど,大規模大学では,せいぜい選択科目として外国語のみの授業が導入されているというような状態です。
 そうすると,学習成果にこのような方法の導入をどう促進していくのか。個々の教員任せで進むのかというと,これはおそらく進まないだろうと思います。もちろんこうしたことをやっていこうとすると,従属変数に何を置くのかということになります。例えばテストを導入すれば,大学生の学力で検証していけるのかもしれませんが,実はそこが問題でして,テストを導入するというよりは,きちんと自分たちが立てた目標と,何ができるようになるかを,ルーブリックのような形で評価の観点をしっかり示していくようなことが必要になってきます。
 そのためには,やはり今後もイノベーションを促進する仕組みはつくっていなければいけません。高等教育は学びのイノベーションを促進していくような仕組みをきちんとつくっていき,それの方向性とかサンプルとかがなければ,ガバナンスの議論だけやっても意味がないですし,規模とか文脈による違いを無視したガバナンス論は結局かなり乱暴な話になるだろうと思います。
 ですから,そういう点では,その両輪をどう組み合わせて考えていくのか。私自身は,吉田委員がおっしゃった話は非常に同意するところが多く,データ面でも多分それを補強する形になったのではないかと思います。

【川嶋委員】 お二方と少し観点が違うのですが,吉田委員の資料に,「大学を動かすための外部からの仕掛け(支援や評価)をどのようにつくるか」というご指摘があるのですが,私は逆に,大学の中から動かすための仕掛とは何だろうと考えて,学生の学習と教員の教育,あるいは学科のビヘービアをどういう仕掛けで動かすかということを日ごろから考えているところです。
 1つは,単位数と授業料でコントロールしていかないと,学生の学習も教員のティーチングもコントロールできないのではないかと思います。つまり,確かに就活はあるのですが,先ほどの濱名委員の資料にもありましたが,キャップ制を導入している大学が非常に少ない。それから,導入していても,1年間の上限が40数単位というところが多いわけです。それに対して,国立大学ですと52万円を払えば,学生はキャップ制がなければ,何科目でも何単位でも取れます。これは下世話な話ですが,1,900円で食べ放題ということと同じで,消費者意識からすれば,同じ金を払うのだったらできるだけたくさん取るということで,なかなか学生も限られた少数の科目を深く学ばない。だから,授業料と1年間に取れる単位数をきちんとリンクさせることがこれからは必要です。
 一方,教員や学科の行動を律するためには,やはりそれぞれの学科や学部といった教育組織がどれだけの単位数を生産したかということに対して,大学からきちんとリソースを配分するといったような形にして,前回の金子委員の最後のところにもありましたが,要するに,資源配分と教育や学習を結びつけて考えていかないと,教育のあり方だけとか学習のあり方だけを考えていては,なかなか大学を動かすことはできないのではないかと思います。

【佐々木部会長】 多分このあたりは,それぞれのご経験に基づいてたくさんご意見をお持ちだろうと思います。要は,カリキュラムの体系化という問題と,それをどう進めていくか,進めていくための仕組みがどういうところに考えられるかというところが1つのポイントだろうと思いますが,いかがでしょうか。

【山田委員】 お二人の発表で,私たちが今までやってきたことの問題点がかなり明確に見えてきたような気がいたします。
 1つは,カリキュラムということを考えたときに,専門ということは置かせていただいて,そこに共通教育の部分というのをどう考えるかということは,やはり見捨てられない部分があるかと考えています。と申しますのは,学習成果というときに,個別の大学でどうなのかということも含めまして,例えば言語,グローバル化を意識した場合の英語に関しては,私はやはりある程度の共通の仕様が可能であるとずっと考えてまいりました。
 これは自分たちの取り組みですが,4大学の連携,北海道大学,大阪府立大学,甲南大学,同志社大学という4大学で行ってきた,学習成果をどう改善していくかという取り組みの中で,英語はどの大学にとっても共通性があるだろうということで,ヨーロッパやアメリカで使われている,いわゆるルーブリック,CEFRという,どの言語にも対応できるようなルーブリックを使って,学習成果を測定するということを行ってきたわけです。そうすると,確かに4大学の中の学生データと結びつけることができますから,学習時間とCEFRの中の学びで習得した部分の関係性がある程度見えることがわかってまいりました。
 しかし,これだけでは単なる学習成果の検証だけになりますので,私どもが考えたことは,もともとどの大学にも共通してできる,それこそ鈴木委員がずっと言われてきたナンバリングだったのです。英語教育に関してのナンバリングをどうつくっていくかということについて3年間ずっとデータをためてまいりましたが,これが非常に難しいということがわかりました。
 と申しますのは,CEFRの指標という学習成果は一定の基準で汎用性があるのですが,それぞれの大学の入学時の部分が違いますので,ナンバリングの共通性が外との間にできないという現実的な問題があるのです。
 ここで,今日は伊藤先生がいらっしゃるのでお伺いしたいのですが,カリフォルニア州には,共通教育のIGETCというUCとCSUシステムとコミュニティカレッジの中で,共通で一般教育の部分をナンバリングの中で単位互換ができるシステムがあるかと思います。そこでどのようにして共通の部分をつくり上げてきているのかということももしお時間があればぜひ教えていただきたいのですが,そういう経験がカリフォルニア州はあるのですか。
 そうすると,どの大学に行っても,例えば哲学1であれば,UCのキャンパスであろうが,コミュニティカレッジであろうが,同じような内容を教えるというルーブリックができ上がっていると思います。そういうものをつくっていかなければいけないし,それがやはりいわゆるカリキュラムのフレームワークのナンバリングになっていくかと思うのですが,現実的にやはり難しい。それをどうするかということをぜひ教えていただきたいと思います。

【伊藤教授】 私の知っている限りでは、各UCキャンパスで、哲学1がPhilosophy101というコースナンバーで出ているわけではありません。必ず同じナンバリングがついているというよりは,各大学で、どういう基準で、ナンバリングがつけられているのかが明確化されているので、単位互換がかなりスムーズに行われているのだと思います。

【長尾委員】 先ほど吉田委員がおっしゃった中に,もう少し展開していただきたいことがあります。1科目につき半期15回行う授業について,柔軟に各大学が扱うことができる仕組みについてご提案がありました。現在,半期15回の授業プラス試験の計16回を確保することに、各大学大変苦慮しております。4月の頭から8月まで授業を行い,休日があれば振りかえを行い,スクールカレンダーで授業時間数が確保できるように努力しています。
 しかしこれが,1単位45時間の学習をどう保証しているのか,勉強させているのか,といった疑問があります。授業をすればいいということではなくて,教育力,先ほどの「教授」というところ,教員たちがそれをどう保証して,学習させようとしているかというところをもう少し掘り下げて,「教授」を発展させていかなくてはいけないのではないかと思っています。
 むしろ「中央教育審議会大学分科会のこれまでの主な論点について」というところで,出していただいている資料の中の第2段落では,教育の基本的な考えとして,「世界の動向を理解し,想定外の事象があっても,自ら判断し,リーダーシップをとれる人材の養成」云々と書いてあります。
 この大学教育の目的達成度について,数字だけを当てはめることによって本質を捉えていないのではないかと思います。例えばフィールドワークや,平和学習などについて,他団体のキャンプリーダーの派遣等が全くできなくなっている。そうすると,本当のリーダーシップは授業の中だけで保証することではない。といったことが起こりうります。だから,それぞれの大学が16回やったかやらないかということではなくて,もう少し柔軟に考え,1単位45時間の学習時間をどう保証するのか,というところにもっと重点を置くべきと思っています。
 それからもう1点,3の懸念で書かれている学習成果の測定ですが,これは専門教育の場合,ある程度容易かもしれないですが,いわゆる教養教育の測定は難しいだろうと思います。濱名委員がおっしゃった,4年間で何ができるようになるかということについて,教養教育は,4年間で何ができるかではなく,10年後何ができるようになるか,20年後人生の中で想定外のことが起こったときにきちんと判断できるか,というところまで見越した授業をしている教員もたくさんいると思うのです。ですから,この辺りも一概に何かを測定するということは難しいのではないかと思っております。

【濱名委員】 長尾委員がおっしゃったことと関連してですが,さっき言い忘れたのですが,今,ショートステイやショートビジットで,ショートビジットの学生が来るのに対して単位を出そうとするとどんなことが起こるか。それは,3カ月未満ですから,15週を確保できない。そうすると,科目履修させ,単位を与えようとすると,担当の専任教員に頼んで補講してもらわないとできない。非常勤にはそんなことは頼めない。こういうことがもう既に起こっていて,私どもの大学の教授会でも,今年は保証できるけれど,来年以降もそんなことを要求するのかという声が私に対するリアクションとして出てきたのです。
 15週プラス1回というと,キャップ制は実質的に形骸化しているにもかかわらず,そちらの試験のためのプラス1回の部分だけが金科玉条となってしまっている。実際に,認証評価団体によっては,形式的にアカデミックカレンダーで16週あればいいという話になっていたりします。
 ですから,そういう点では,今,長尾委員が言われたように,私はどうすればいいかというと,やはり学びのイノベーションの中でやっていかなければいけないことは,全体の目標と科目の関係づけも必要ですし,科目の中で何がどこまでできたらどういう評価をしていくのかという評価の観点・基準の明示と,どういう授業外での学習をしていかなければいけないかということをシラバスに書き込んでいくような形に誘導していくのが一番いいだろうと思うのです。
 私どもの大学でやり始めていることは,ライティングとプレゼンテーションと,もう1つはリサーチの3種類のスキルについて,学内共通ルーブリックをつくったわけです。最終的には,本学のベンチマークという到達目標として15項目挙げているもののルーブリックを血の通う使いやすいものにしなければいけないと思っています。
 一通りはできているのですが,それを実際に採点・評価に使おうとすると,まずスキルベースでルーブリックを作るほうがいいということでやり始めたのです。そうすると,6段階のルーブリックをつくってみましたが,それをすぐ採点に使えるかというと,使えないのです。共通のルーブリックを使うと1年生はみんな低い評価しかつかない。だから,下級生用と上級生用に分けて,さらにルーブリックをつくり直しました。その話をAAC&U(全米大学協会)に行ってすると,それでいいのだという話を今月行って聞いてきたところです。
 そういう取組をやっていかないと、実際はルーブリックをつくっただけではまだ不十分ですし,カリキュラムマップも,ほとんどの大学はつくって,ウェブページに載せて,それで終わってしまっているのです。GP事業の成果でそこまでは行ったのですが,残念ながら,それをさらに進めていくような支援とか,ノウハウ提供とか,拠点づくりをしていかないといけないと思います。それを内部的にどうしていくのかということになっていくと,認証評価とつなげていくのか,あるいは,分野による違いがあるので,専門別の認証評価に期待するのかです。専門別認証評価への期待感が結構あるのです。しかし、おそらく今のままでは,専門職大学院以外では専門分野別評価は到底やれる状態ではないと思うのです。
 そういう状況ですので,学外者からある程度助言をしてもらったり,意見のキャッチボールをしたりすることについて,外部者がかかわってくることを大学関係者はすごく嫌がっています。そういうことを考えていくときに,学外者というか,高等教育外の方もさることながら,まずは学外とはいえピアの有識者と、そういうことに対してディスカッションしていくような土壌をつくっていかないと,今抱えている問題はなかなか前に進まない。大きなテーマではありながら,地味ですが,そういうところを着実にやっていかないと,改革の細部のところで動脈硬化を起こしているというような感じがします。

【金子委員】 非常に細かい点ですが,先ほど大学教育の成果測定の話が出ていまして,OECDのAHELOの話が出ていました。成果測定はあまり性急にやってはいけないということで実施されまして,OECDで大学評価の客観的な成果測定をやろうというプロジェクトが3年ぐらい前から始まっているわけですが,私はそれを始めるときに非常に反対しました。むしろ無理な測定をするよりも,学生の学習時間とか,むしろ学習プロセスのところをきちんと調査すべきだということをOECDでもかなり言いました。それで,かなり強力に反対したので,アドバイザリーグループというのに入れられました。
 今,それを見ているのですが,かなり問題があるところなのですが,1つ私がおもしろいと思ったのは,今,日本では,ご存じのように土木工学でこのテストに参加してやっています。今,問題のチェックをやっていまして,そのプロセスをやっていまして大変おもしろかったのですが,日本の学生にその問題をテストしますと,もう1つスウェーデンが入っているので,スウェーデンと日本の学生の反応がかなり違うのです。
 日本の先生は,きちんと何か一定の式を使える能力を教え込もうとしています。ところが,スウェーデンが出そうとしている問題は,人にそういったことをどう説明するかというところをかなり言わないといけないということになっていて,やはり能力に対する考え方が非常に違うのです。
 試験を受けた学生が1人,「もしこういう試験をやるのであれば,もっときちんと参加型の授業をしろ」と書いていましたが,私は非常に感心しました。そうだろうと思うのです。やはりそういう意味で,実は同じ教科書を仮に使っていても,先生のポリシー,考え方が相当違うのです。それは工学だけではなくて,いろいろなところに多分にあると思います。
 日本の大学教育はかなりよくやっているところもあるのです。前にも申し上げましたが,例えば研究室なり小集団で教育するということはそれなりに意味があって,かなりいろいろな意味で効果を上げているのですが,それでできないところが相当あるということもやはり事実です。
 AHELOのプロジェクトは,そういう意味では,むしろ結果としてのテストをどうつくるかということをそのプロセスですり合わせしているところに,相当大きな学習効果があるのではないかと感じました。一応,それは誤解といいますか,そういった点もあるということをご紹介しておきたいと思います。
 ただ,先ほどの一般的な問題に戻りますと,まず最初に,大学分科会の場では,どうもアメリカ型にしようという議論がかなり多くて,それは表面的に見ますと,初年次教育とかGPAとか,比較的管理統制型のアプローチ型をする。ところが,日本の大学の先生にそれを言っても,今のところ,実はあまり受け入れられていないと私は思うのです。なぜなのかというと,日本の大学の先生はそれなりに自分たちが信じていることがあって,それはやはり少人数の教育で,ゼミや研究室というところで研究しているとみんな思っているのです。
 私どもがやりました,5,000人ぐらいですが,大学教員に対する調査で,一番必要なことは何かというと,少人数のクラスだと言いました。TAによる補助とか,カリキュラムの内容を標準化するとか,そういったことは非常に支持が低い。日本の大学の先生はやはり小集団主義でやってきて,ある程度うまくいっていて,多分確信があるのだと思います。
 ただ,結果としては,それで学生は勉強していないと指摘されています。学生自身も実は小集団の中に安住してしまって,一般的に標準化されたものをきちんと体得するということができていないという結果になっています。それをどのように反省していくかです。全部,日本型の教育が悪いというわけでは必ずしもない。これはまた非常に問題が錯綜するところです。
 アメリカの管理型の教育は,管理することはなぜかというと,むしろ非常に脱落が起きるからです。全米全部でいうと大体半分ぐらい退学しているわけですから,その問題が非常に大きいので,むしろ少人数的な教育をやることが,サポートをするという意味でもワークしているのかもしれません。ただ,それでも限界があると思います。そこのところをどのように改善していくかというところが課題です。
 そのときにやはり,私は前回も言いましたが,そうすると,個々の小さい学科あるいは先生だけでの努力は,その範囲だけで考えるということは相当限界があります。むしろやはり学部全体あるいは大学全体,教養教育の問題点についてもそうですが,大学全体で学士課程教育を設計し,変えていくというメカニズムが必要だと思います。それはガバナンスの問題にかなり立ち返っていくので,そういった意味では,やはりガバナンスの問題も考えざるを得ないと思います。やはり学部教育の自治あるいは学科の中に全部任せていく,閉じ込めていくという形では,イノベーションは非常に起こりにくいということが議論になります。
 そういう意味でガバナンスの問題を取り上げざるを得ないと思うのと同時に,それを側面から支援するといいますか,そうすると,上からの改革だけになってしまうということもやはり非常に問題です。そういう意味で,大学支援機関というか,教員のニードをくみとってそれを大学にフィードバックしていくような第三者機関のようなものの役割は,これは非常に大きくなっていくだろうと思いました。

(3)伊藤順子カリフォルニア大学教授及び堀井秀之東京大学大学院工学系研究科教授から,それぞれ資料3-5及び資料3-6に基づいて説明があり,その後,意見交換が行われた。

【伊藤教授】 今日は、カリフォルニア大学の交換留学制度についてお話させていただきます。資料3-5のスライドは,協定大学の日本人学生向けのカリフォルニア大学の紹介を少し抜粋したものですが、最初のスライドは、カリフォルニア州についての説明です。州の面積は日本よりやや大きく、人口は日本の3分の1、人種構成は白人が42.3%でマイノリティーであることや、州としてのGDPが世界ランキングで10位などというような内容です。次のページから、州立大学としてのUniversity of Californiaの紹介になっております。1868年に研究大学(research university)として設立され、現在、学生数は総勢22万ほどです。キャンパスは10校、北カリフォルニアに5校 — サンフランシスコ,デービス,バークレー,サンタクルーズ,マーセド、そして南カリフォルニアに又五校 — サンタバーバラ,ロサンゼルス,アーバイン,リバーサイド,サンディエゴです。ご存じのように,個々のキャンパスは独立した総合大学で,各分野での教育及び研究を行っていますが,カリフォルニア大学全体で担っている業務が幾つかあります。図書館業務がその1つで,10校合わせると,書籍量は大学としてはアメリカ一だと言われていますし、UC生への奨学金制度も一貫して行っている業務です。また、国際教育を重視した交換留学プログラムも,カリフォルニア大学全体で担っていますので、旧帝大が統合した一つの交換留学プログラムを運営しているというような形になるのかもしれません。
 UC EAP(Education Abroad Program)の開始は50年前,1962年にフランスのボルドー大学が最初の協定校でした。アメリカではそのころから交換留学が盛んになり,ヨーロッパ中心の東海岸の大学と違い、太平洋側のカリフォルニア大学は、第2協定校を日本のICUにしました。おそらく、このような規模の交換留学制度は、日本で、そしてアジアでも初めてだったと思われます。
 現在はUCは世界中で35カ国の120校ほどと協定があり,毎年3,000人ほどの交換留学生を送っています。日本の大学10校と協定を結んでおり、今年は震災の影響で減りましたが,通常は、年間200人程です。 EAPはサンタバーバラに本部事務所、そして、各キャンパスにもそれぞれオフィスが設けられています。日本では最初の協定校の国際基督教大学の中にUC Centerがあり、日本でのEAPの業務を担っていおります。UC Centerには、カリフォルニア大学の教授がセンター長として着任し、日本でのパーマネントスタッフが3人います。私は、UC Santa Cruzの言語学科の教授で、2009年からセンター長として着任しておりますが、私の前任は、UCアーバイン校のSusan Klein 教授、その前は、UCLAのMichael Bourdaugh教授でした。このように、いろいろなキャンパスから、任期2,3年で、UC全体の交換留学プログラムの運営に携わるUCセンター長が着任しております。 
 UCセンターではUCから来ている留学生及びUCへの留学を希望する日本人学生のアドバイスや、オリエンテーション、協定校との折衝などの業務のほか、今日の会議のテーマでもあります単位互換にかかわる教務が主だったものです。15ページにあります交換留学プログラムの申請は,在籍大学からの推薦,及び,ESLスコア,そして,先ほどからのお話にもありましたGPA(Grade Point Average)で3.0以上が必要です。日本への留学を希望するUC生も日本の協定大学からの学生も、3.0以上でなければこの交換留学プログラムの申請資格がありません。
 アメリカの学生は、いつでも、自分のGPAをかなり正確に知っています。それは、各種奨学金、あるいは学生ローンを申し込む時の記入事項の一つだからです。又、卒業後、大学院、及び、medical school, law school等の願書、また、入社の申し込みにも、成績が“above B average”であるということが、大切です。このように、GPAをいろいろなところで重視するので,勉強するインセンティブにもなり、単位を落とさない努力をする傾向があるのだと思います。
 カリフォルニア大学に留学する際に、日本のGPAのスコアが本当に学力や、勉学に対する心意気を反映しているのかどうか問題になることがあります。大学によって違いますが、学生が単位を落とした場合には、成績がつかないというようなケース(がその一例)です。例えば2科目のコースを受講し、それぞれ、AとFをとった場合には,GPAはC averageになるはずです。ところが、講義を放棄したということで、Fの方を、GPAの計算にいれないと、A averageになります。交換留学なので,同じ学力レベルの学生を相互に送るということが前提ですので、こういった違うGPAの計算方法は問題となります。UCでは、卒業に必要な単位数 (minimum graduation units)だけではなく、それ以上にとってはいけない卒業最高単位数(graduation unit ceiling) が決められていますので、必修科目などをよく見極めてスケジュールを組み、大切な単位を落とさないようにしていかないと卒業できなくなるケースも出てきます。
 EAPでは、UCからの留学生が単位互換をスムーズに行えるようにする為に、各協定校のコースが、カリフォルニア大学のどのコースに匹敵するのかどうか(UC equivalent)を確認しながら、整理していく業務を行っているので、東京のUC Centerでは、日本の協定校のコースについての最初の確認作業を担っています。ICUのコース資料をお渡ししていますが、ICUのコースナンバーが右の欄に、カリフォルニア大学のEAPプログラムのコースナンバーが左の欄にあります。最初のコースがSociety and Culture in the USA ですが、ICUでは Anthropology departmentのANT211JEというコースナンバーがついています。UCでは,American  Studies 101です。ICUでのコースタイトルとシラバスからの内容を検討した上で、UC コースで、最も内容が近いものがAmerican Studies101だという認識の結果、このコースナンバーがついています。
 ICUの場合は,以前から、英語と日本語と両方のコースタイトルやコースナンバリングがありましたので、それほど難しいケースは少ないのですが、ほかの大学では,まず日本語のコースタイトルを英語に直さなければいけないというところから始まり、コースナンバーがまったくなかったり、整備されていないため、そのコースがどういうレベルのものなのか,1、2年生向けの教養の授業なのか,あるいはかなりレベルの高い3,4年生向けの専門科目なのかなどを見極めるのに時間がかかります。学部のコースナンバリングのもっとも基本となる区分がLower division course (1,2年生向けのコース)と Upper division course (3,4年生向けの専門科目) ですので、そこがシステム化されていると、どの大学のどの科目がUCでは自分の専攻科目になり得るかを見極められると、日本に留学することを決めるに当たって、一つの大切な資料になります。これから、海外留学生を増やしていくにあたって重要なことではないかと思われます。
 コース内容を把握するためにはコース番号だけではなく、もちろん、コースシラバスが不可欠ですが、やはり、大学間で、かなりの差があります。シラバスの例としてお渡ししてあるのは、カリフォルニア大学からICUへ客員教授でいらしているエドワード・ファウラー先生のコースシラバスです。1ページにCourse Description,Course Learning Goals,2ページに,各週の講義・ディスカッション内容、そして、Evaluation and Grading Policyなどが詳しく載っています。
 このような充実したシラバスがないようなコースをUCの留学生が必要とするときは、資料の最後のページのSTUDENT COURSE INFORMATION FORMを学生に記入・提出してもらいます。「You need to submit this form if the class is not listed on approved course list or is marked C or E」とありますが、approved course listというのは,もう既にシラバス及びUCコースナンバーができているコースのことです。そのコースリストに載っていないコース、あるいは、担当の先生が換わって内容が違う場合はC(changed)、5年以上オファーされていないコースはE (Expired)というマークがついています。先ほどのICUのコースリストの中にも左側にマークがついているコースもあります。
 STUDENT COURSE INFORMATION FORMの空欄に記入していくわけですが、大半が簡単な情報収集です。まず、Course English Title,英語でない場合には,オフィスのほうで、本部と日本の大学の双方に確認をとります。次が、授業時間数、レクチャー形式、セミナー形式、ラボなどの授業内容の確認。そして,Behavior objectives,コースの目標を、適切なパラグラフ形式で書くこと。学生が書いてきたものを確認してUCのコースリストに載せるのも東京オフィスの業務の一つです。これが正しい授業内容を適切にあらわしているかを、確認するためには、日本語であってもかまわないのですが, かなり詳しいシラバスが必要となり、先生方には、UC生のために、是非、コース内容をお伝えくださるようお願いしております。そして最後にGrading Policyですが、成績がどのようにつくのか、Class attendance,Participation,Homework,Final Examなどをパーセンテージで、表すようになっています。グレーディングについては,先ほども少し触れましたが、アメリカの学生にとってはGPAが非常に大切ですので,いろいろな意見がでてきます。グレーディングポリシーが曖昧だった、勉強の仕方がわからなかった、クラス全員同じ成績をもらった、最初にシラバスに載っていなかった内容が後から重要になってきた、日本人の学生は難しいコースは放棄することができるのは不公平だ、等等です。

【山田委員】 私どもの大学もUCとEAPプログラムを結んでおりますので,何とか学生を送り出すのに一生懸命やっているのですが,なかなか基準に到達できない学生が多くて,苦労しております。
 ただ,UCに行って帰ってきた学生が例えば授業を受けたときに,やはりいろいろなときに向こうの授業と比較して,もっと先生たちの授業を改善してほしいということはよく言われます。そのときに,学生の学習時間も非常に大事なんですが,多分,UCの先生方が学生に教えるための授業にかける準備時間はかなりかけていらっしゃるというのを思うわけです。そうすると,UCはセメスターとクオーターという両方の制度があると思うのですが,1セメスター,1クオーターに平均でどれぐらいの授業時間を先生方は持っておられるのかをお伺いしたい。
 もう1つは,グレーディングポリシーとGPAは非常に大事でして,日本の大学はGPAというのは歴史がまだたっておりませんので,GPAはどのぐらいが適正水準かということがまだ模索中ということがあるかと思います。ですから,ここのB+ averageの3というのは,GPAを導入している大学の中で考えますと,かなり上の層になってしまうわけです。そうした場合に,UCの大学でしたら,学生の平均のGPAはどれぐらいなのか。おそらく3.0以下ではないと推測するのですが,日本ではまだまだそういうところまで行っておりません。2.3,あるいは高くて2.5ぐらいではないかと思うのですが,そういうグレードの歴史的経過がありますので,そういう差をどういうように見たらいいのかというところも教えていただければと思います。

【伊藤教授】 授業時間については、学科によって違いますが,私のサンタクルーズ校の言語学科の場合には,1年で4コース持っています。 クオーター制なので,2コース教えているクオーターが一回、1コースだけ教えているクオーターが2回です。年度によって違いますが、大体4コースのうち、2コースが学部のコース、2コースが大学院のコースです。
 授業の準備時間は、もちろん先生によって違いますが,学部教育に非常に力を入れている先生もたくさんいらっしゃいます。学部の大人数のクラスを担当している学期には、研究時間はあまり取れないというのが普通ではないかと思います。 授業が教授によるレクチャーと大学院生のTAによる少人数セッションとで構成されているのが一般的です。ただ、先生にとっては、レクチャーだけをしていればよいわけではなく、TAのスーパ-バイザーとして、セッションでの内容をどのように効果的に教えるかのアドバイスを行ったり、セッションでの問題点に取り組んだりしなければなりませんので、TAの授業補佐があることにより、かえって時間がとられることもあります。TAトレーニング、TAの教育養成を組み込んだ大学院課程が充実しているのが望ましいのですが、必ずしもそうではありません。
 GPAについてですが、EAPの応募資格の3.0+とは、B average以上ということです。UCの平均のGPAのデータは持ち合わせていないのですが、GPA 2.0以下だと、UCの卒業資格がありません。日本と違って、GPAは大学内だけで使われる基準ではなく、奨学金の申し込み、あるいは、企業入社の際などにも必要になって来るので、学生一人一人にとって重要性を担っているのではないかと思います。

【佐々木部会長】 それでは,続いて,堀井先生から,グローバル化という問題も踏まえて,問題解決型教育プログラムのご経験についてお話しいただきます。

【堀井教授】 資料3-6ですが,1ページ目の下,スライド2ですが,東日本大震災,特に原子力発電所の事故によって,大学教育の課題が明らかになってきたのではないかと私は考えております。
 それは何かということですが,分業の弊害ということで,科学技術が高度化されるに伴って高い専門性が求められるようになって,専門性を高めるために領域を細分化してということを行ってきているわけです。それ自身は必要なことですが,その結果として,異なる分野の方々が一緒に意見交換をしたり,知識の交換をしたり,問題解決策を一緒に考えるというようなことが社会として行えなくなっている。大学だけの問題ではありませんが,大学としても反省するべき点があるのではないかと考えています。
 専門性・知識偏重教育の弊害ということで,膨大な知識を伝えなければならないという課題があるということで,どうしてもその知識をどう使うかという部分の能力とかスキルの部分の教育になかなか手が回らないというところがあるかと思います。
 また,意思決定能力の不足ということで,意思決定をするために,知識だけが,あるいは専門性があれば,意思決定ができるというわけではないので,意思決定のために本来大学で教えるべきことに欠けている部分があるのではないかと思います。
 そういうことを踏まえまして,複数分野の知識を活用した問題解決あるいは目標達成能力の育成が必要なのではないかと考えています。例えば工学のいろいろな分野で,問題解決とか知識の活用ということは,演習とか実験とかさまざまな工夫がなされていますが,やはり分野を超えた,自分の不得意な知識をうまく活用して問題を解決する,あるいは異なるバックグラウンドを持った人たちがグループをつくり,意見交換をしながら問題解決に当たっていく,そういうトレーニングが不足していると考えています。
 そこで,これから日本の教育としてどんなことが大切かということを図に表したものが1枚目の裏のシート3です。複数分野の知識を活用した問題解決の教育プログラムということですが,既存の伝統的な分野の教育をベースとしつつも,教養教育を体系的に教授し,専門教育の基礎を徹底するといったその上で,さまざまな角度から事象をとらえ,問題解決を行うような教育を実施するというようなイメージです。
 こういうことを考える上で参考になるような事例にはどのようなものがあるのだろうかということで探してみました。下のシート4ですが,アメリカにおける大学教育の学際化ということで,参考文献が下に書いてありますが,松尾先生の書かれたその内容を1枚のシートにさせていただきました。
 知識の専門化や断片化が急速に進む一方で,多様な知識から問題を総合的に理解したり,知識の統合を図ったりする知の枠組みの学際化が進展しているということと,それから,予測困難な現代社会や学問分野をまたぐさまざまな問題に対処する必要があるというような背景から,アメリカでは,大学教育の学際化,学士課程教育の学際化が進んでいるということです。具体的な手法としては,カリキュラムの編成,教育方法の工夫,それから,評価法の改善というようなことで改革がなされているというふうなことが書かれております。
 2枚目の上,シート5ですが,具体的にはという事例を探してみまして,スタンフォード大学における学際領域型教育への転換というものが少し参考になるかなと思いました。これは学長のリーダーシップで始めたスタンフォードチャレンジというものでありますけれども,20年後のスタンフォード大学のあるべき姿を実現するためのプログラムということです。学際性にフォーカスが当たって,たくさん課題のある中から,ヒトの健康,環境のサステナビリティー,国際というような3つの柱が選ばれ,さまざまなプログラムが進められているということです。全学から120億に上る申請があった中から,学長の判断で43億に絞り,それで募金をしたところ,半年もしないうちに23億ドルが集まって,さまざまなプログラムが実施されているという話です。
 こうした動きは,別にスタンフォード大学だけなくて,全米のさまざまな大学で起こっていることかと思います。差しかえ前の資料3-6の後半,11ページから,事例として幾つかの大学のインターディスプレナリースタディの目につくところを収集いたしましたので,後でご覧いただければと思います。
 シートの6に戻ります。具体的にどんな事例が考えられるのかということで,私どものところでこのような問題意識から行っている教育のご紹介を少しさせていただきたいと思います。ケースメソッドによる問題解決の教育を工学という分野でやっております。ケースメソッド自身は,ハーバード大学の経営大学院で1900年の初頭から行われていて,現在ではさまざまな分野で重要な教育方法になっているということであります。
 ケースと呼ばれる事例を記述した文章を学生に読ませて,それから,グループワークによって,問題の分析,解決策の立案,意思決定の評価等の分析を行わせる。グループワーク,グループディスカッション,プレゼンテーション,それから,全体ディスカッションなどを講義の中で行っております。私たちは,ケースに登場する人物をお招きして,あるいは関連の専門家をお招きして,学生が問題解決策をいろいろ議論した後に,実際それに携わっていた方と質疑応答するというようなことを行っております。
 裏に参りまして,シート7です。具体的にどんな内容なのかということで,これは3年生に行っている国際プロジェクトのケーススタディという講義であります。国際プロジェクトということで,私どもでは国際社会で活躍する人材を育てる,そのためにこういうケースメソッドを行っておりまして,1から5の5つのケースを行っております。
 各ケース,始まる前の週に10ページから20ページほどの資料,ケースと呼ばれるものを渡して,読んできて,内容をうまく整理した資料をつくるとか,年表をつくってくるとか,課題を与えて講義に臨んで,それから,グループに分かれて,本質的な問題点はどこにあるのかとか,最善の解決方法というのは何かとか,そういう課題を与えてグループで議論させるという形で,1つの講義で5つのケースを扱っております。4番目のケースと5番目のケースは,当事者をお呼びして議論をするというようなことをしております。
 それから,8ページです。これは同じようなケースメソッドによる講義ですが,今年から,日本・アジア学概論ということで,国際社会で活躍する基盤を身につけるというタイトルをつけて,全学の1,2年生に受講してもらうものであります。これは全体として4つのテーマ,タイとインドネシアとベトナムと中国を取り上げて,それぞれ3回の講義がセットになっています。ケースメソッドによる教育を2回して,3回目に背景となる人文科学系の先生にお話をしていただくと,こういうセットの講義を行っています。
 大学でケースメソッドの教育を進めていく上では,やはり教育と研究の循環が重要で,やはり教育だけでなくて,研究とうまく結びつくということがどうしても必要となってきます。私どもの場合でいいますと,国際プロジェクトにかかわる卒論とか修論とかいうことで事例を研究させて,卒論・修論の副産物として,講義で使うケースをつくってもらいます。1年間かけて調べた内容を二,三週間のケースメソッドの講義で体得できるようなケースをつくってもらうという形です。
 そこに挙げた事例は,昨年の卒論です。ストックホルムにおける渋滞緩和事業ということでIBMがこの渋滞緩和事業に成功したんですけれども,その成功要因はどこにあったのか,それから,IBMの改革とその成功との関係はどういうことなのか,それが今後日本企業が海外で社会イノベーションの事業を進めていく上でどんな教訓を学べるのか,こういうことを卒論生に研究してもらい,それをケースにしてもらい,それを先ほどのグループワークで学生に学んでもらうと,こんなようなことをしています。
 まとめというわけではありませんが,複数分野の知識を活用した問題解決の能力を育成させるということを,具体的にどうやっていったら,学生が積極的に取り組み,実際,教育効果が上がるのかということでずっといろいろ工夫しながら考えてきたのですが,何かのヒントになればということでご紹介させていただきました。

【荻上委員】 これは簡単に議論できる問題ではないかと思いますが,大学設置基準で,1単位は45時間の学習をもって云々と,定量的な規定があります。同じく定量的な規定でも,35週だの15週だのというほうは,わかりやすいのですが,45時間で1単位というほうは,どういうふうに考えるべきでしょうか。
 そう決められているわけですが,果たしてきちんと大学設置基準が守られているのかどうかということを確認できるのか,できないのか。評価で最も苦慮するというか,実際どうにもならないのがこの点です。しかし,これは大学設置基準でそう決められている以上きちんとしなければいけないことだろうと思いますが・・・。

【金子委員】 これは,前回も前々回も申し上げましたが,要するに,今の単位制度というのは1930年とか40年代ぐらいに大体できてきたもので,できたときは,これ,必ずしも明文化していない。要するに,授業時間15時間プラス,自習時間が2掛ける15,30時間という原則で,そのころやった調査によると,やはりそれぐらいやらせているということが出ています。もちろんそのころだって,ほんとうに厳格にそういう調査をしているわけでもないでしょうから。
 それから,アメリカでもこれ,実は最近大きな問題になったのですが,実はかなり学習時間が減りつつあるということです。一貫した調査がないものですから,エコノメトリックのほうを使ってかなり錯綜したものでやっているのですが,これは,経済学者がやっています。経済学者がこういうことをやるのだから,よっぽど関心が出たんだろうと思います。やはりアメリカ人でも相当勉強しなくなっていると思っているということはあるようです。ただ,やはり原則は原則です。
 それから,最近は,要するに,学生調査,NSSCなんていうのは学生の学習時間を公表していますから,ある程度低ければ,社会的な問題になりますし,それから,そういったデータをアクレディテーション団体が要求していますので,それはチェックしているのだろうと思います。
 それから,これも前回申し上げましたが,ヨーロッパの単位互換システムでも,基本的には正味同じ時間,ウイークデーで8時間ぐらいの授業時間と学習時間を要求していまして,それについて調査を幾つかやっています。ただ,ヨーロッパの場合には,ご存じのように,社会人なんかも多かったり,なかなか強制できないようですが,一応,それは国際的なスタンダードとなっているということは事実だと思います。
 ある意味では,日本のアクレディテーション団体が,そういうところに全く今まで関心を持たなかったと思います。
 ただ,これ,これから国際的にやると,それから,カリフォルニア大学との互換の問題もそうですが,単位の基礎をいろいろと見なければいけないことになると,相当大きな問題です。
 私が聞いたことは,オーストラリアなんかは3年間で学士号を出そうということになっておるらしいですが,3年では短いではないかといっても,実質的には学習時間が少なければ,だめとは言えないのではないかというような議論にもなるわけで,これはどうでもいい,形式化していいという問題ではなくて,やはりかなりまじめに考えるべき問題ではないかと私は思います。

【川嶋委員】 今の時間数と単位の関係ですが,多くの先生方ご承知でしょうが,もともとカーネギー財団が高校教育の互換性をきちんと保証するためにつくったところからクレジットアワーという考え方が出てきて,アメリカでは,1時間授業を行うと1クレジットです。ただし,実際には60分ではなくて50分です。10分は休憩という形で,1単位1時間という計算がされているということです。ところが,今,金子委員のご指摘があったように,1時間のクラスでの教育学習の2倍の予習・復習が期待されています。教員もそういうふうに期待している。ただ,実際はそうなっていないのです。
 アメリカで今,問題になっているのは,オンライン大学でいかにこの単位制を徹底させるかということで,連邦教育省が,特にフォー・プロフィットのオンライン大学に対して,そこで登録している学生に奨学金を払うか払わないかのところの基準として,厳密に1時間の授業に対して2時間予習・復習をさせる仕組みをきちんと明確にしていないフォー・プロフィットの大学には,そこに在籍する学生に対する奨学金は出さないという法律改正を予定していて,それに対して非常に大きな論争が起きているようです。
 ですから,先ほどからお話があった,時間で学習を代替できるのかという問題はあると思うのですが,時間で学習を,ある意味で国際的な共通理解です。ただし,それに加えて最近では,時間だけでなくて,あるいは単位という数字だけではなくて,きちんと何を学んだかという学習成果でもって,お互いの教育の互換性を保とうという動向になっているということだろうと思います。

【濱名委員】 これは文部科学省に教えていただきたいのですが,今後この仕組みを考えていくときに,文部科学省の仕組みと他省庁の専門職養成制度が違いますが,厚生労働省は,例えば,福祉系の資格養成を行うときに,単位ではない,何時間講義をやったかということが要件になります。教室外のことについては最初から想定外でやっています。
 あと,非常に微妙なことは,医学などの領域になると,指定規則を厚生労働省の資格制度に沿った形で定めて,ただし,実際の運用は文部科学省の定める大学の制度に基づいてマネジメントするという話になってくると,指定資格制度と大学の単位制度自体の間に実はギャップがあったり,あるいは,他方,他省庁と中教審自身が出している指定規則等々の問題まで論及していいのかという問題があります。
 でも,論及しないと,実は高等教育局の所管の問題ではないところにむしろ細分化した単位制度などが問題としてあるわけです。例えば教員養成のところはものすごく細かく細分化した形で科目設定をしていますし,厚生労働省の所管のところについて見ても,同様のことです。ですから,我々がここで話をしたとしても,例えば先ほどの私の資料の9枚目のスライドで見ますと,それは分野によって大分違いが出てくる。必修が7割というのは指定規則に縛られているから,もう選択の余地がないということです。
 私が,設置審の調査である大学に行ったときに,看護の学生8人にインタビューして,今,何単位取っていますかって聞いても,だれ1人わからなかったのです。つまり,取らないといけないものをただ取りなさいという履修指導だということなのです。その大学でいえば,とにかくキャップ制もあることにはなっているのだけども,低学年のうちにできるだけたくさん取っておきなさいという形で先生から言われて取っているわけです。
 要するに,医学専門職の養成としてはそれでいいのでしょうが,大学との制度の間,そういう基準の運用の問題まで扱わないと実はいけないと思います。そのあたりはどちらかというと質保証が進んでいると言われている分野ですから,その辺はどう考えればいいのでしょうか。

【義本高等教育企画課長】 ご指摘のとおりです。ただ,特に指定制度の問題は,これは,大学だけではなくて,専門学校とか他の学校種も含めて時間で押さえるところがありますので,なかなかその辺の運用上の難しさがあることは事実です。
 東日本大震災直後に,アカデミックカレンダーの問題について,授業時間数の取扱いを厚生労働省だけでなくて,国土交通省も含めて,お話をして,連携したことがあります。
 先生ご指摘のとおり,実質的なところまで進めようとすると,そこまで議論を進めないとなかなかいけません。ただ,これはどういうふうに優先度をつけていくかという問題ですので,文部科学省の中でも今の課題を含めて,ご検討させていただきたいと思います。

【安西分科会長】 大変活発な議論をしていただいておりますので,また,伊藤先生,堀井先生,私のほうからも御礼を申し上げます。
 前から申し上げておりますように,日本の大学問題は今,かなり急を要しておりますので,できるだけ早くまとめていただきたいと思います。端的に申し上げて,大学分科会にここでの案をお出しになると,大学分科会のほうで,それは少しどうかということには,それはなかなかやりにくいので,ほんとうにこれからの日本の特に学部教育の将来を見すえた案を早急につくっていただきたい。
 日本の大学がそれぞれの大学は一生懸命やっておられると言われつつ,全体としては,世界の大きな流れの中でやはり沈んできているように思いますので,それを何とか戻すといいましょうか,逆にするのはむしろほんとうに教育界の皆様の肩にかかっていると思いますので,ぜひ前向きに積極的な案をつくっていただければと思っております。よろしくお願い申し上げます。

【佐々木部会長】 それでは,本日いただいたご意見を整理しまして,少しずつ議論を収れんさせていきたいと思っております。どうぞ先生方からも,いろいろとお気づきの点,特に議論の進め方,議論すべき課題等について積極的にご指摘いただければ,それを取り込んで,次回の議題の整理をしたいと思いますので,よろしくご協力をお願いいたします。

(4)今後の日程について,文部科学省から資料5の説明があった。

―― 了 ――

 

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