大学教育部会(第2回) 議事録

1.日時

平成23年7月5日(火曜日)16時~18時

2.場所

文部科学省3階3F1特別会議室

3.出席者

委員

(部会長)佐々木雄太部会長
(副部会長)谷口功副部会長,黒田壽二副部会長
(委員)安西祐一郎,浦野光人,金子元久,長尾ひろみ,宮崎緑の各委員
(臨時委員)川嶋太津夫,佐藤弘毅,吉田文の各委員
(専門委員)荻上紘一,高祖敏明,篠田道夫,鈴木典比古,田中愛治,長束倫夫,納谷廣美,濱名篤,山田礼子の各委員

文部科学省

磯田高等教育局長,小松高等教育局審議官,河村私学部長,義本高等教育企画課長,内藤専門教育課長,榎本高等教育政策室長,岡本大学設置室長,西川高等教育政策室室長補佐,石橋大学振興課課長補佐 他

4.議事録

(1)文部科学省から資料1の説明があった後,学士課程教育を中心とした大学教育の主要課題について以下のとおり意見交換が行われた。

【荻上委員】 仕事の関係で相当数の大学を見てきておりますので,そういったことを踏まえて,少しお話しさせていただきたいと思います。これまで大学改革はそれなりに進展し,成果を上げてきているとは思います。資料の4ページ,あるいは,次の5ページに,どういったようなことをどのぐらいの大学が取り組んでいるかというようなデータが掲げられていて,この何年かの間にどれぐらい進んでいるかというようなことがわかるようになっていますので,この資料に書かれていることを枠組みとして少しお話ししたいと思います。順不同で申し上げます。これらの改革を進めるに当たって,かなり多くのキーワードが提示されたと思います。
 その大半が4ページ,5ページに並んでいるかと思います。まず,学位授与の方針について言えば,現在では相当多くの大学が,学位授与の方針はこれこれであるというようなことを掲げており,ホームページなどで公開しておりますが,それを見ると,学士課程答申において書かれた内容をほぼそのまま並べていると思われるようなところがたくさんあり,外から見て,その大学の卒業生は学士(○○)という学位を授与されて卒業することは理解できても,何ができるのかということがほとんどわからないという状況が私には感じられました。よく半分冗談で言いますけれども,自動車の運転免許証というのは運転ができるということの証明になっていますが,何々大学の何々学士というのは何ができることの証明になっているのか,必ずしもホームページなどを見てもはっきりしない。何とか力とたくさん「力」が並んでいても,具体的にどういう力をどの程度つけて卒業するのかが見えないというのが現状ではないかと思います。
 次に,FD,SDも今ではほとんどの大学が取り組んでいると思われます。数値でいうと90何パーセントの大学がFDを実施しています。確かに「FDを実施していますか」というアンケートをすれば,そういうデータが得られると思いますが,それが実質化されているかということになると,私は甚だ疑問だと思います。ある国立大学で,認証評価において,大学評価学位授与機構が訪問調査でうるさいことを言うと思われるから,まずFD委員会の規定をA4,1枚で作成する。年に2,3回委員会を開いて,その議事録を作成する。年に1度か2度の研修会を開催したら,そのレジュメを残しておく。A4が3枚程度あれば,エビデンスは十分だというような,半分冗談ですけれども,そういうようなことを学内でまじめに議論していたと思われる大学も初期のころは少なからず見られました。
 しかし,それでほんとうにFDが実質化できるのか疑問があります。FD研修会を開き,それでFDがおしまいというのでは全く話が違うのであって,出発点になるとは思いますが,FDというのは,日常的な教育活動の中で,教員がばらばらに教育に取り組むのではなく,打ち合わせなり,相談なりをきちんとしながら,体系的なカリキュラムに沿った教育を行う。大学としてのFD,学部としてのFD,学科としてのFD,様々なレベルがあると思いますけれども,そういったことをきめ細かく日常的な活動の中で行わなければ実質化できないと思いますが,回ってみた限りでは,なかなかそうなっているとは言えないと感じております。
 さらに,GPAです。いろいろ聞いてみると,あまり活用している様子がなく,単に加重平均を出しただけに近いという大学も見られます。それでは,GPAを導入したと言っていいのかどうか疑問があります。いかに活用し,教育の質を高めるかという,そここそが問題だと思いますが,そういうレベルにはまだ達していない大学が多いと思います。もちろん非常にGPAを有効に使っている大学があることも事実ですが,何パーセントが何を行っているというデータにあらわれているほど実質化が進んでいるとは思えませんでした。
 それから,単位制度の実質化,これは15週授業を行っているかということとも大いに関係があるわけですけれども,実際に単位の安売りをしていないかどうかという視点から,私ども,できる限りいろいろ見てきたつもりです。この授業を履修してどういう力がついたか,何ができるようになったかということをきちんと確認をして単位を授与するということがきちんと行われているかどうかということについては,まだこれからいろいろ各大学で努力をしていただかなければいけないのではないかと思いました。関連して,成績評価の厳格化,これについても,きちんとした取組が行われている大学は少ないのではないかと思いました。
 あと,シラバスです。シラバスをつくっていない大学は,今はほとんどないと思います。初期のころは随分シラバスに空欄が目立っていましたけれども,このごろ空欄は少なくなってきたと思います。学生に聞いてみると,シラバスは学期の初めに選択科目の選択の際,あとは試験の前に見ますという,大体そういう利用のされ方が多いようです。本来シラバスは,予習,復習の際に何を準備していけばいいのかというようなことで,日常的に活用されるのが望ましいかと思いますけれども,残念ながら現在そういう形で利用している学生は非常に少なく,そのように使えるシラバスがまだほとんどつくられていないというのが現状ではないかと思います。中には,大学としては,各科目A4,1ページのシラバスしかつくっていないけれども,先生方が個人的に詳しいシラバスをつくって学生に配布しているというようなところがあり,それは非常に有効に使われていると思いました。
 こういったようなことは,設置基準などでそれなりに決められていることで,各大学がそれぞれ独自のお考えに基づいて取り組みを推進しなければいけない内容のはずです。形式的には,ほとんどの大学がやっていると言っていいと思いますが,実質化されているかという点に関しては,まだまだ大分先が長いと見ております。

【佐々木部会長】 取り組みの進展は数値にすればこうあらわれるけれども,果たしてどこまで実質化されているかという点について,厳しいご指摘をいただきました。課題は,学士課程教育の確立の問題と,さらに産業・就業構造の変化,グローバル化の進展を踏まえた大学教育についてという,2つの柱がございます。

【谷口副部会長】 荻上委員のご発言は,大体そのとおりだと思います。しかし,この数字が増えていったというのは,1つの進歩であることは確かであり,最初から取り組まれた大学には,さらに進んでいるところあると思います。実質的に何も行われてないかというとそういうことでもなく,実質的に様々なことが進んでいるところも,中にはあります。この数字のすべてが理想的な形で進んでいるというわけではありませんが,例えば96と書いてあれば,その30パーセントぐらいは実質的に取り組んでいるというのも事実です。また,近くの大学同士,あるいは分野間で話し合いをしているという実績も結構あります,どのように教育を良くするのかということを真剣に取り組んでいるというものもあるものですから,この資料の数字がそのまま実質化されていないということでもございませんので,その辺は中身をもう少し細かく見て,正確に評価していかなければいけません。
 良くできているところは,できるだけ様々なところに,その成果を紹介し,少しでも良くなるよう進めていかなければならないと思います。後発部隊はやはり数字を上げたというだけでは,その1パーセントになったかもしれないけれども,まだ内容的には,改革がそこまでいってないというのは確かにあると思います。先行しているところは,かなり進んでいるところもあるので,できるだけそういうものをしっかりと示すことが必要です。こういう数字だけじゃなく,中身までわかるような統計のとり方ということも含めて進めていくと,もう少し実態が判ると思います。概括的には,荻上委員の言われた,そのとおりだと思います。

【濱名委員】 全体的には確かにこの数字のとおりであり,またその解釈は荻上委員が言われたことに非常に近いのですが,問題が出始めているのは,分散が大きくなってきているという感じがします。つまり,非常に先端的に進んで体系化,つまり,FDなど取り組む際に,この3つのポリシーのつながりがきちんと理解され,それをつなぐために必然的にFDが必要であり,というようなところに気がつき始めると,非常にシステマティックに動き始める,そういう大学は確かにあると思います。学部がそもそも2つぐらいしかないような大学は比較的やりやすいのですけれども,委員の先生方の大部分が所属されている大きな大学では,学部間の温度差というようなことを言われることを私ども非常に耳にすることが多いです。
 それともう一つは,分野格差が非常に拡大しているということだろうと思います。分野的に言うと,工学や医歯薬系が大変体系性を持った形で組織的な教育に向かっています。他方,分野別のリクワイアメントが非常にハードルを上げているので,単位の実質化等々含めて考えたときに,また異なるタイプの問題に直面してきています。キャップ制を守ると4年で終わらないというような話が聞こえてきたりもします。他方,分野によっては,大変のんびりした分野,人文社会学系であるとか,理系でいうと理学は甚だそういう点では分野差が大きく広がっています。これは川嶋委員や私どもが日本高等教育学会で取り組んできた課題研究でも非常にはっきり出ている傾向です。
 その状態の中で,次の課題というのは,これまでGP事業は賛否両論あったと思いますが,GP事業の果実として,様々な形で情報が,誇らしげにシンポジウム等々で流れていたものが,ここ5,6年で,お互いに情報を取り合っていました。逆にそれが刺激になって,何から始めていいかわからない大学は,それを見て学ぼうとし,一定の効果があったものが,採択率が非常に高いようなものはあるけれども,様々なタイプの大学のモデル事業になるような,あるいは参考事例となるようなものです。要するに体系化していく段階になると,実は今一番大事な時期で,ここまで広がったのはいいけれども,パーツとパーツをどうつなげていくか,どういう組み合わせをすることが効果を上げていくのかという大事なポイントであるにもかかわらず,ガス欠状態になってきているという感じがします。ですから,数年前と比べると,急速にそうしたシンポジウムや,GPの一環としてのものが以前と比べると少し落ちていて,その辺は次のステップに対する刺激の与え方とインセンティブを間違うと,以前と比べるとむしろ差は広がっていると思います。つまり,離陸はしたものの,その差をどうするかが課題になっているのではないかと思います。

【佐藤弘毅委員】 4ページに示された数値は,おそらくこの程度だという気もいたしますし,荻上先生が整理されたことも同感できるところが多いです。
 今回,学士課程に関することで,検証したいということで,4ページから少し抜けている大事な視点があるのではないかと思います。それは,学習成果目標に関してどういう具体的な取り組みが各大学でなされているかということです。調べるのは大変難しいかもしれませんけれども,この検証をぜひしてみていただきたい。学士課程答申の中で,おそらく各大学が非常に衝撃を持って受けとめたのは,学士力の提示だと思います。これについて,大学がどうとらえて,我が大学における学士力とはどうなのか。この例示されたものと引き比べながら,各大学でどう対応するのかということについて,かなり内部的な努力が進んでいるのではないかなと推察いたします。かくいう私のところでも,この3年来,繰り返し繰り返し取り組んでおります。
 そこへ持ってきて,ディプロマポリシーの関連はどうするのだということになりますと,はたとさらに難しさが増してきます。つまり学士力という分野横断的な到達目標ということと,最終的にはDPで指し示すべき学部,学科ごとの方針とどう折り合いをつけていくかという,かなり具体的なことが様々な大学で苦労しながら工夫しているのではないかと思います。そういう動きを何とかとらえてみることができないかと思っております。

【高祖委員】 4ページに具体的な進展の状況が書かれていまして,改革が進んでいるというような発表もなされました。5ページ,6ページに学士課程答申の主要な点が紹介されております。改めて4ページを見ますと,今佐藤弘毅委員がご指摘されたことと重なりますが,4ページに示されている改革の進展の例で挙げられているのは,それぞれ大事なことではありますけれども,教育の内容を実質化していくための仕掛けと言うべきものが並んでいます。これをもっと進めて考えると,重要なのはこの仕掛けが実際どう動いているかで,例えば5ページ,6ページの説明との関連で言いますと,教育課程の体系化がどれほど進んでいるのかです。そして,それが今,佐藤弘毅委員がご指摘された学習目標や成果とどうつながっているのかという,この本筋を押さえる,そういうことがやはり必要ではなかろうかと思います。その関係で,配られた資料の後半12ページ,13ページに日本学術会議について言及していただいております。学術会議の最近の動きの要点だけでもご紹介申し上げたいと思います。
 皆様もご存じのように,ここに持ってまいりましたが,学術会議は「大学教育の分野別質保証の在り方について」というレポートを去年の8月に公表しました。今は様々な広報を進め,分野別の質保証の参照基準に類するもの,つまり教育課程をどのように組めばいいかという場合の参考資料になるものを作成しようとしています。この検討を進めてきた委員会がこの6月で一応任期が来まして,6月29日に今度は「大学教育の分野別質保証推進委員会」という名になり,これを推進する委員会に衣がえして発足しております。7月7日,あさってでございますが,第1回目の会議が開催されることになっております。
 13ページには,学術会議における検討内容について記載がございまして,中央の白丸ですが,現在,言語・文学,2番目に法学,3番目に理工学の3分野が作業中と書いてあります。それぞれの専門分野をまずは大くくりにとらえ,各専門分野別にどういう能力を身につけて卒業してほしいかという基本的事項について,実際に活用いただける例を作成しようとしています。理工系につきましても,今理工全体の話が大体まとまりましたので,これから物理,化学などについて参照基準を作成する段階に移ろうとしております。ただし,今の学術会議の委員任期がこの9月で切れて入れかわるそうですので,これまで議論してきたものを積み重ねながら,新しい任期にかわったときに,それをスムーズに継続していくための,その橋渡しを今やっているという状況でして,学術会議も少しスピードを上げていかなければならないということを申し合わせています。状況を含めてご報告申し上げました。

【鈴木委員】 今のこの資料1の1ページ目に現在の大学教育の主要課題とあり,(1)と(2),つまり制度的な共通性の確保と各大学の個性・特色の発揮という,いわば共通性と個性という2つの課題があります。これを同時に達成しなければいけないと考えます。
 それで,この2つを達成した上で,あわせてこれらのためのガバナンスの強化ということがあるわけですが,この2つの共通性,個性を同時に達成するということのためには,2ページの論点のメモとございまして,「学位課程(プログラム)の確立」というのが(1)にありますが,その中の2番目のところの黒ポツの3つ目,少しくどいですが,ここに「計画的な履修方針に基づく授業科目とその体系の整備」とあり,科目を体系化していくということ,それがすなわち前のページの共通性と個性というものにつながっていかなければいけないと思うわけです。この中で,後の括弧に,ささやかにシラバスとナンバリングということが書いてあります。シラバスにつきましては,4ページ目の各大学がどういう取り組みをしてきたかというところでも,96パーセントはシラバス作成しているということで,その意味ではいろいろ成果が上がっているということですが,ナンバリングがどのくらい取り組まれているかが全く書かれておりません。これは非常に基本的で,非常に重要,しかし,非常に難しいことではあるのですけれども,私はこれをやらなければ,あるいはこれをやれば,一番初めのページの制度的な共通性の確保と各大学の個性・特色の発揮というのが可能だと,同時に達成することができると思っております。
 ですから,今後これからどういうことをやっていくのかといったときに,これを少なくとも取り上げて議論をする必要があると思います。とにかく124単位という卒業要件といいますか,これは例えば1科目が3単位と考えれば,124を3で割ると40科目,あるいは41科目ぐらいのことで,40科目で最終のディプロマのポリシーの成果というものを出さなければいけないということですから,40枚のジグソーパズルでどういう絵が描けるかということが問われているわけです。その辺を構造的に進めていくためには,どうしてもナンバリングということは避けて通れません。これができなければ,ディグリーの国際化や,本格的なダブルディグリー,あるいはジョイントディグリーということも難しいのではないかと私は思っております。

【山田委員】 4ページの中で,GPAの導入,そして荻上先生からもご説明がありました厳格な成績評価ということに関連して申し上げたいと思います。この数値を見ますと,まだ平成20年では46パーセントということですから,これからもGPAが,あるいは厳格な成績評価というものがどんどん大学の中で入っていくのだろうと思うのですが,これはあくまでも,今までGPAや厳格な成績評価というのがグローバルスタンダードということで導入されてきたかと思います。それは実際そのとおりですけれども,ただ,私がこれから申し上げることは,グローバルな社会で学生がどう活用するかと,支援にもかかわってくるのですが,実は日本がGPAや厳格な成績評価を非常に後発的に導入してきているものですから,どうしてもGPAの平均が諸外国と比べると下になる,あるいは厳格な成績評価が非常に厳しめになるという状況があり,実は,特に学部を卒業して,海外の大学院,アメリカの場合なのですけれども,の修士課程に申請しようとする,応募しようとする学生にとっては非常に不利な状況になっております。
 というのは,アメリカの場合,ご存じのように,成績インフレが起こっておりますから,大学院に大体合格する学生たちの平均GPAは3.5で,日本であれば3.5は,非常に上になってまいりまして,それほど難しくない州立大学の足切りが3.3というように設定されていると,日本の中で3.1ぐらいのGPA平均を持っている学生も,足切りに遭ってしまうという状況になっております。これを博士後期課程の進学ということに関連して見ますと,そのようなことはなく,既に日本の博士前期課程におけるGPAなり成績評価というのはグローバルスタンダードになっていますので,十分に対応できるのですが,学士課程でのGPAや成績が,アメリカを中心とするGPAを導入している大学院への進学には対応できていない状況です。これは既に韓国などでは成績インフレの状況というものを知っておりますので,GPAを上げるような形で1つの基準にしていますけれども,単位の実質化ということの中で厳格な成績評価は当然しなければいけないことです。その基準をどういうところに持ってくるかというグローバルスタンダードというのをやはりこの時期においては考えていたほうが,学生がグローバルに外で活躍できるようになるためにも,海外の大学院に修士から行くというのは非常に私は必要だと思っておりますので,それを支援するという視点も必要ではないかと思います。

【田中委員】 学士課程教育の充実というところで,学士力の充実と共通だというお話がございまして,少し考えてみたいと思っておりますのは,8ページに学士力の表がございますけれども,この中で,汎用的技術というものや,知識・理解というようなものが分かれて書かれていますが,これをもう少し突き詰めて考えたほうがいいと思っております。学士教育課程を丁寧に考えるときに,汎用的というのは,私どもの大学では全学基盤教育と呼んでいるのですが,ここ5年ぐらいは,全学基盤教育という呼び方をしながら考えてきていますが,これはどういうことかというと,どの学問分野の教育を学んでいても共通であるものがこの汎用的ということだと思っています。
 我々が今3つ考えているのが,学術的文章の作成として,学術的な日本語を書く,論理的に書いて表現する力です。
 次に,数学的な論理的思考です。これは数学に限らないのですが,文系の学生でも数学的な思考というものが世の中でどのくらい使われているかということを教えることです。例えば法学部の学生に数学的な授業をとらせたときに,自分の学部には特に数学の専門科目はないけれども,論理性が必要だということはさんざん言われております。数学の授業を学んだことによって,なぜ法学部の先生たちが論理だとか数学が大事だと言うのかがよくわかってきたと感じているようです。数学を学んだことによって法学をもっと勉強したくなったというようなコメントが来ているわけですけれども,そういった学ぶことの意味を学問領域を分野を超えて教えられると思っています。
 それから,3番目には英語です。もちろん皆さんも発言されているような英語ですが,英語の発信力を強め,心理的なバリアを超えるということです。
 そういう3つを本学では,全学基盤教育として取り組んでいます。
 それ以外に体系性というものが必要になると思いますが,体系性というのは学問分野によって異なってくると思いますので,それは先ほどの荻上委員のご発言にありましたように,FDとつながっていると思いますが,FDの本質をすごく上手に教えていただいたと思いますけれども,ある分野の教員間がコミュニケーションをとって,その分野でどういうことを教えることが必要かということを意思疎通を図るということです。それがなければ,結局教員間が一緒に授業を組み立てていかなければ,体系化できないと思っています。例えば,自分の担当している科目が,一国一城の主として,私のやっていることは6割は,ほかの先生と同じでも4割違うことをやっているから絶対これは変えないと言って,1つの科目をつくるようなことを言っていたのでは体系化できないと思います。6割,7割のメニューが共通であるならば,それは同じ科目でもよいので,3人なり4人の先生が共同で,2つの科目をつくろうとか,5人の先生が5人で2つの科目をつくるということはできますが,5人が一国一城の主となって,自分の城を守っていて,重複があるのに全く目をつぶって,学生が重複しながらとっていくのがいいんだと言っていると,体系的な蓄積にならないと思います。並列になってしまいます。
 その意味では,体系化というのは,かなり専門的なところでの教員間の意思疎通であると思います。全学基盤教育は,学問分野,学部,研究科を超えての相当共通的なスキルの教育だと思っておりまして,この2つは異なるようですけれども,同時にすべきことだと思っております。そのようなことを突き詰めて積み上げることが学士教育課程の充実につながると考えております。それが学士力の意味づけ,具体的な意義づけになるかと考えております。

【川嶋委員】 3点述べます。1つは,これは事務局に対してです。この大学教育部会,あるいは大学分科会の審議の進め方ですが,本日だけでも非常に多様な課題や論点が示されています。しかしながら,大体月1回程度の会議で,実質的な審議ができるか懸念を覚えますので,もう少しインテンシブに議論を進められるような仕掛けなり工夫をしていただきたいというのが1点です。
 2点目は,非常に大きな問題です。本日の資料1の最初に書いてあります大学のとらえ方ですけれども,基本的に欧米の大学というのは,国,あるいは時代によっては宗教的な権威である法王が大学の設置を認めて学位授与権を独占的に与えてきたわけです。そして,どういう学位を与えるか,どういう分野のプログラムを提供するかは,独自の判断で大学が決定できることになっています。ただし,近年の考え方は,それぞれの提供している学位プログラムはある一定の水準に達し,質を担保しているかどうかを第三者評価機関が事後的にチェックするという仕組みです。日本の場合は,大学と国家・行政と第三者評価機関の関係が少しあいまいではないでしょうか。大学として設置が認められた後でも,新しい学部等を設置する場合は,設置審査にかからなければいけません。それは質の保証という点ではセーフティーネットというか,セーフガードになっていると思います。他方,この前の大学分科会では,リーディング大学院の場合は,組織変更がなければ設置審査にかけなくても新しいプログラムで対応していけるということでした。また,学位の種類と分野の変更を伴わなければ,届出だけで改組も可能となっています。さらに,法制度上は,必ずしも正確な表現ではありませんが,「大学は,文部科学大臣の定めるところにより,学位を授与するものとする」となっており,欧米のように国家ないし宗教的権威から,自律的かつ独占的に学位授与権を認められている大学像とは,ニュアンスが異なっています。今後,学位プログラムという考え方を推進するのであれば,学位授与権を国家が認可するという大学設置の可否と,学位プログラムの新設・改廃及び認証評価に関して,国・行政,大学,認証評価の関係を,より明確にする必要があるのではないか。これが2点目です。 最後の3点目は,少し具体的な話になりますが,単位の実質化ということについて言えば,いろいろご意見が今日も出ていますが,これは第5期の大学分科会から金子委員もご指摘のとおり,日本の学生の学習形態が非常に浅く広いものになっていることが問題として指摘できます。1単位が45時間の学習ということですから,半期は15週ですので,社会人がフルタイムで働くと40時間でが,大学での1週間のフルタイムの学修であれば,1単位が45時間の学修ということで,要するに1週に1単位ずつ履修すると考えれば,1学期15週ですので,フルタイムで学修すれば1学期で15単位を履修することになります。40時間か45時間は別にして,単純に考えると,2単位科目だと半期で7.5科目となり,本当にフルタイムで勉強するという意味で言えばこうなります。ところが,実際にはキャップ制がありますが,学生が履修しているのは1学期12,3科目です。ひどい場合には15科目ぐらい履修可能の場合もありますし,実際に学生も,受講しているかどうかは別にしても,15科目程度の履修届は出しています。最低限7.5科目にしても,週1回90分の授業を7科目というのは,学習の深さでいったら物足りないと思います。
 ですから,履修のシステムを,もう少しインテンシブに学ぶような仕組みに変えていかなければ,さきほど言われたように,国際的に日本の大学教育の質や水準が問われたときに,大いに懸念を覚えるということです。
 そこで,ぜひ調べていただきたいのですが,G30,実際はG13で,英語のプログラムをつくられた大学は13の大学があるわけですが,あるいは今度,世界展開力強化の事業もありますが,そういうところで外国との共通のプログラムを提供されている大学はどういう履修方式を採用されているのかということです。依然として日本型の週1回の授業で,外国からの学生対象のプログラムを実施しているのか,それとも,アメリカ型の週2回,3回の授業をしているのか,その辺の情報をぜひ教えていただきたいと思います。
 アメリカのように,週に同じ授業を複数回実施するには,就職問題も解決しないと実現しないと思います。というのも4年間で卒業し,就職するには,3年までに一定の単位数を履修しておかなければ,就職活動に従事できないということもありますので,この点については,産業界,企業側との連携で,きちんと4年間で学ぶということを,国としても,各大学としても保証するということが必要です。
 その点に関しては,東大において秋入学のことを検討されていますが,これがもしかすると1つの突破口になるかもしれません。国際化ということを強く意識されていますので,就職活動を含めて,学習のスケジュールの改革という点でも1つの突破口になるのではないかと期待しております。

【浦野委員】 少し企業の立場からお話をさせていただきたいと思います。大学の1つのアウトプットとして学位を授与するということがあり,このことが実質の価値を伴っているのかというのが質の保証の問題だと思います。この質の保証ということを考えたときに,本日荻上委員からもお話がありましたけれども,4ページ以降に書いてあります学士課程教育の確立・充実に関する策があります。こういった策を駆使しながら,大学として最終的にどういった質を保証し,何を実現していくのかということを,本日の資料の1の1ページからの関連でいくと,一言で言うと,各大学がみずからのミッションを実現することが最終的な目標になるのだろうと思います。これは企業も同じでして,企業もミッション,ビジョンというものを持っており,最終的にそのミッション,ビジョンを実現することが企業価値を高めることになると考えています。
 そのときに,企業では,社長の目標というのは,毎年新入社員の目標管理にまで連鎖していくということが必須とされているわけです。これは必ず社長から役員,部長,課長さんという形で,必ずこれは連鎖していきます。ですから,新入社員も,自分の目標が社長の目標とどう連鎖しているのかということをしっかり認識して,事業年度が始まっていきます。
 そのことを考えると,先ほど来いろいろお聞かせいただいた教育の確立・充実に関するいろんな策があるという,これがうまく連携できてないのではないかなと思います。例えば企業の場合,品質管理とか生産管理とかといったものが,例えば横文字で言えば,ISOがあったり,J-SOXがあったり,例えばBCPがあったりとか,様々な横文字があり,それぞれの担当者というのはそこだけ一生懸命深掘りしているのですが,企業としてはそれを全体まとめなければだめです。ということは,企業の場合には,そういった一つ一つの策を関連づけた相関図を持っており,それを見るのがガバナンスになります。全体像が見られないガバナンスというのはあり得ないわけで,それぞれ例えばFDとか,SDとかの推進で一生懸命取り組んでいる場合も,やはり学長なり理事長なりがそれと例えばシラバスとのGPAの関係はどうなっているのだとか,そういったことをきちんと見ているのが私はガバナンスのあり方だと思いますので,そういう意味で大学においても,トップのあり方といいますか,理事会のあり方ですか,教授会のあり方ですか,非常にそこは大事なところがあると思っております。
 もう一つ,先ほど鈴木委員が発言していたことでいいますと,本当にシラバスとナンバリングの話で大変よくわかりまして,企業ではシラバスとはもちろん言わないわけですけれども,コンピテンシーというのがあって,新入社員が持つべきコンピテンシーから社長にふさわしいコンピテンシーというのが何か,当然ナンバリングがありますので,このシラバス,ナンバリングの話というのは非常によく私もわかりました。
 企業のやり方と共通するところは大いにあるのではないかと思いまして,各大学がみずからのミッションを実現することが結果として質の保証をしている,そして,そのことを,それぞれの方策を全体像を持って鳥瞰図的に,相関図的に常にチェックしているのが大学幹部の役割,それがガバナンスなのだというようなところはぜひ共通に考えていただければと思いました。

【宮崎委員】 今のお話にも関係しますが,結果のアウトプットをどう評価するかという形というのはすごく大事だと思います。シラバスについても,シラバスをつくるのは当たり前ですが,本当にシラバスどおりに授業を実施しているのかどうか,そこで企画した学士力を,その授業の目標になったものを学生が身につけたかどうかというのをどこで判断するかというときに,非常に難しいと思います。しかも何百もある講座を学長,理事長が全部チェックできるかというと,これも非常に難しいですし,学生授業評価アンケートでそれが評価できるかといいますと,これは,途上にある学生が達成された後の目標との間の判断というのは非常に難しいのではないかと思います。そうすると,シラバスの作成そのものは私どもなどのFD委員会で,授業科目に対しあまりふさわしくないと思うものは書き直させたり,様々な指導はできるのですが,実際にそれを実施したかどうかが重要です。やらなかった場合の処分をどうするかというようなことは,ガバナンスの問題と非常にかかわってくると思いますが,現実ではできません。学部長にも権限がございません。
 その場合に,例えばそれを実現できなかった教授会メンバーに対してどのような対応をするか,いくら頑張って,何かを言っても,やれない場合というのはあります。それは気持ちの問題も,能力の問題もいろいろとあると思います。そのときのガバナンスをどう利かせていくのかというのは非常に大事だと思いますので,その仕組みについてぜひ何かヒントがあればつくり出していただきたいなと思います。それから,書くのは,こういう理想を持っていますとか,こういうのをしたいですと,ミッションは何かというのは,前回の大学分科会でも大変問題になったのですが,それを書くのではなくて,それをどのように実現することができているのかという部分を,証拠を含めて情報発信していくことが大事ではないかと思っております。

【吉田委員】 どの先生方のご意見も非常にごもっともだと思いますけれども,基本的に学士課程教育を実質化しようということであれば,学生に勉強させなければ意味はないわけで,教員がいくら旗を振っても学生が動かなければ実質化にはつながらないということは共通認識でいいと思います。何回も出ていますように,授業の時間ではなく,その前後に予習と復習の時間があるということは,それぞれの先生も認識されていると思いますし,大学そのものも当然知っている話なのですが,それをどうつくるかという仕組みができないというところが一番問題なのではないかと思います。
 例えばゼミのような単位で予習や復習の仕組みを入れて,要は学生に学習をしてこなければならないような仕組み,あるいは復習で何か課題が課されて,それを出さなくてはいけないような仕組みをつくるということは比較的容易にできるとは思います。ただ,講義形式の,それも大人数の講義形式になったときに,そこの部分というのは,「やっときなさいよ」と言っても,それを確認する仕組みというのはほとんどつくれないというのが実情だと思います。
 したがって,かなりの必修と言われる授業というのは大体大教室の大講義というのが日本の大学の常識ですので,そこの部分を実質化せよというのは非常に難しいというのが現実だと思います。
 じゃあ,そこに何か仕掛けを入れることで,支援をすることで,そこの部分の実質化ができるかどうかということは,議論の余地はあると思いますが,例えば大学院のTAに実質的なセッションを入れてもらうようなことをするための支援を我々が考えることができるかというようなことはあると思いますが,そこは議論の余地が一つあると思います。
 要は,学生は放っておいては勉強しないと思います。一部の学生はモチベーションがあれば勉強しますが,そうでない学生にとっては,やはりやらなくてはいけないような状況をどうつくり出すかということがないと,うまく動いてくれないと思います。また,学生が勉強しないと大学教育は実質化しないということがあるので,そこの仕組みについての議論というのはあってもいいのかなということです。
 それともう一つは,ただ,そうした仕組みをつくっても,今,非常に問題になるのは3年生から始まる就職活動でして,教員のほうは15回の授業をやらなくてはいけませんから,休講すれば必ず補講するということになり,こちらは開店をします。でも,開店をしても,学生が出てこられない状況にあって,いわゆる開店休業がずっと続くという状況があります。その問題は,教員の努力,あるいは大学の努力ではいかんともしがたいということがありまして,そこについては中教審としてきちんと声を発していただくようなことというのもあってもいいと思っております。
 それと,もう一つそのことで言えば,学生自身が勉強しなくても済んでしまう授業形態になっていることとともに,よい成績をとるということに対してのインセンティブが日本の大学の中ではあまり見られないという状況もあります。それは,よい成績をとるということは,本人の自己満足以上に外側に何か,それをとることが外側からのインセンティブになるということをつくっておかないと,GPA制度を導入したから,学生がみんな学習に向かうかというと,必ずしもそうでもない。それはある意味,大学を出た後に,あるいは大学を出ていくときに,よく勉強しました,いい成績をとりましたということを評価してくれるような仕組みを大学外にうまく認めてもらうようなことがないと,やはり学生は動いてくれないということがあるかと思います。
 したがいまして,今までは改革というときに,まず教育の改革ということで,教育をやる側,教員の側のほうが何をしたらいいのかということでいろいろな外形的な仕組みをつくってきまして,それはそこそこにいっていると思いますけれども,やはり学生を今度はいかに動かしていくか,勉強させていくかということの仕組みについてもう少し議論ができたらなと思います。
 ただ,非常に難しいのは,それを外形的に規制するということはかなり難しい。なぜならば,教育というのは教員にとってのオートノミーの範疇にありますから,そこまでなかなか外側から突っ込んでいくということは難しいので,それは慎重になるべきだと思いますが,ということを考えておりますということです。

【長束委員】 高校現場から見た大学改革についてお話をさせていただきます。4ページにあるように,大学改革が進んでいるというのは,高校現場から見ても非常によく感じるところがあります。以前は大学は研究の場であって,教育というのは研究の後に来るものだというような意識もかなりあったと思うのでが,最近はかなり大学側も教育に力を入れて,授業に力を入れるような様子は,卒業生を見てもわかりますし,卒業生も授業は大事だというようなことを言うようにもなってきていると思います。
 ただし,先日もある卒業生を高校に招いて現役の生徒に話をさせる機会があったのですが,その卒業生は,授業が入っていたのですが,授業の内容は,10年ぐらいずっと前からノートが出回っていて,そのノートで事足りるから大丈夫ですという話をしていました。このような授業もまだまだないわけではないのかなということで,高校現場からすると,大学というのは教育の場という面を強く求めたい気持ちが非常にあります。そういった面で,研究の場でもあるのでしょうけれども,教育の場としての部分というのをできれば考えていただきたいというのが,まず第1点です。
 もう1点,前回の会議録等も読ませていただいての話をさせていただきたいと思います。高校という場にも中学校からいろいろな生徒が入ってきます。目標も様々ですし,なかなか学習意欲がわかないような生徒も実際にいます。その生徒たちに様々な授業だけではなくて,部活,または様々な企画等の教育活動を行い,生徒のやる気を引き出し,教育をしています。力をつけて,成長して,希望の大学に進学する生徒もいます。中には学校によっては就職を目指す生徒もいますが,とにかく成長させていくということだと思います。大学も,高校と同じで,目標というか,目的は一緒であるのではないかなと思います。高校も大学も生徒を成長させること,学生を成長させて社会に出していくことが目標であると思いますので,そういった面では共通するところがあると思いますので,その点について考えて,議論していただければありがたいと思います。

【佐々木部会長】 これまで学士教育答申にかかわる教育の質の保証について,大局的なご意見から,非常に細かいところのご指摘まで,たくさんご意見いただきました。
 2つ目の課題,就業力や社会人の教育については,本日議論ができませんでしたので,これもあわせて次回以降に先送りをさせていただきます。
 次のもう一つの課題は,いろんな事情があって,本日ぜひ少しご意見をいただきたいということですが,もし学士教育についてもう一言という委員がいらっしゃいましたら,最後に伺いますが。

【川嶋委員】 履修証明書制度について確認したいのですが,当該大学の学生以外の者を対象としたものと学教法105条では書いてあり,本日の資料を見ますと対象者は社会人とあり,しかし,当該大学の学生等の履修を排除するものではないという括弧書きがありますが,これは当初からそういう説明はされていたのでしょうか。法律の条文部分だけで,表面的に理解し,私の勤務する大学も学位につながらないようなプログラムを考えていたところ,学務の担当者から在学生は対象外ですという説明を受けて,ちょっと頓挫している件がありますので,ご説明をお願いしたいと思います。

【小松高等教育局審議官】 この履修証明の制度,まだでき上がって間もないので,確かに十分浸透してないところあるかもしれません。これについては,制度改正も,中教審で議論し,法律改正までしましたので,そのときのご議論の主たるねらいは,社会人を中心にこういうものを入れようというものです。平成18年から19年ぐらいというのは,経済的にも厳しかった時期で,中高年の方とか,そういう方がものすごく職業的に不安定になるという時期に,大学の役割の議論が非常に多かったところです。そのときに,公開講座でこれを身につけましたとか,それから正規の授業科目の1つだけをとって,科目と履修で単位をとりましたというのでは,なかなか新しいスキルや再就職とか,そういうことが身につかないのではないかと思います。一方で,学位をとれというのも困難な事情もあると思います。そこで,欧米,特にアメリカで比較的確立している,一定のコースをとって,これは正規の単位ではないけれども,大学が責任を持って,ここの部分についてはスキルができていますというものをつくることによって,提供できるという制度をつくるべきではないかと。そのときの証明力なり,大学の責任のとり方から考えると,法律改正を持ってすべきだという議論になって,正規の課程ではないのですけれども,これができたという経緯がございます。
 そこで,その運用として,最初の通知から,社会人というか,外の方が主となっているけれども,しかし,学生がとってはいけないのかというと,それは当然とってよく,そういうものを足しにしてやっていくというのは当然あり,最初から明記した形で出ているのですけれども,最初のご議論とか,あるいは社会人が中心でとか,転職みたいな,そういうことを考えてというのがどうしても強調されるので,おそらくそういう現象が起こっているのではないかと推測されます。

【川嶋委員】 在学生にも履修生証明書を授与できるのでしょうか。

【小松高等教育局審議官】 そういうことです。

 

(2)文部科学省から資料2-1~2-3の説明があった後,大学のキャンパスの在り方について以下のとおり意見交換が行われた。

【佐々木部会長】 大学のキャンパス問題は,本日の残りの時間で議論が尽くせるものとは到底思えませんし,また,一たん特区が認められた場合には,特区地域が全国化されるということが前提であるというふうにも伺っていますので,これを阻止するといいますか,予防措置を講じるということになると,相当きちっとした反論といいますか,論理構成が必要になると思います。そういう問題ですが,本日は,ひとつキックオフと思ってお考えいただいて,様々な角度からこの問題についてのご意見を賜りたいと思います。

【田中委員】 意見は後で申し上げることになるかと思うのですが,伺いたい質問がございます。構造改革特区推進本部というのは政府にあるもので,特にそれは文教政策に限らない,すべての政策をつかさどると思いますが,ここでは,我が国における構造改革特区の経済政策や,様々なものの中で教育政策が対象になってきていると思います。それを少し伺いたいのですが,そういう理解でよろしいですか。

【石橋大学振興課長補佐】 構造改革特区は,これはすべての日本における規制等々を対象としたものになりますので,文教政策のみならず,すべての政策が対象になっております。

【田中委員】 政治学の観点から申し上げれば,特区が必要だということは,現行の法規制,規約,規則,市の条例とかでは,うまくいかないことを改革する場合,例えば今典型的なのは,東北の震災において,ごみは市が,地方自治体が処理するけれども,そうではない大きな道路などは国だというようなことになって,どちらとも判別がつかないものは,誰も手をつけないというのが現状ですので,特区を決めなければとても改革できないことだと思います。
 では,教育について特区の何が必要かというのは,特別な状況があるときに,それを認めたほうがよい場合であろうと思います。
 そしてもう一つ,特区は,私が1つ,ここの構造改革特区の推進本部のお考えが理解できないところがあるのは,特区というのは特別な特例の地区ですから,そこで実施して,うまくいった部分は全国化する。弊害がある場合には,それは当然全国化しない。うまくいった特区があり,うまくいかない特区があるのだとすれば,うまくいった特区は認める。その後もよい特区を認めるというのが本来の姿だと思います。弊害がある特区があるのに,それをすべて全国化するということは政治学的には非常に考えにくいです。本来の国のガバナンスとしては非常に拙い考え方だという気がします。ですから,弊害というものがあるならばある,何がいけないのかということは特定しなければならないので,特区になったから全国化するのが前提だという推進本部のお考えは全く政治学者としては理解できない内容でございます。
 ここの内容については,もう少しご議論していただくと思うのですが,私もあまり何回も発言するのを控えるために,ここで自分の意見を申し上げますが,例えばビジネススクールのような大学院,専門職学位課程のような大学院の場合には,キャンパスの広さとかいうことよりも,職業人の大学院生,社会人の大学院生生が通ってくる利便性というようなものが重視される場合もあると思いますし,様々な状況によっては,例えば,私どものところでも,人間科学というところで通信教育課程があり,そこの通信教育はすべてオンデマンドのインターネットの授業で配信しております。そういうところでは,日常的にはスペースはあまり多く使わないですが,それでもスクーリングをしておりますし,学生たちがフェース・トゥー・フェースのコミュニケーションを持つ場というものを設けているわけですけれども,特例というものがあると思います。サテライトキャンパスというものがあると思いますので,特区というのはやはりそういう何か特別な目的のときに,今までの条例や規則,法令ではうまくいかないところを抜けるためにすることであって,それが,1つつくったから全国化して一般化するというものでは本来ないのではないかという気がしまして,政治学者としてのご意見を申し上げました。

【佐藤弘毅委員】 改めて特区の全国化という非常に大きな瀬戸際に達して思いますのは,当時の一種の激しい状況の中で,参入規制を外すという部分と,それを強調したあまりに質の維持向上のための規制もしくはルールといったようなものをきっちりと峻別しないままに何もかも規制が緩和されたという印象を非常に強く持っております。当時それをしっかりと,きっちりと議論させてくれるほどの余裕もなく,一気に進んでしまい,非常に今も苦い思いを率直にしておるところでございます。
 ただ,実験を開始するにはそのぐらいの力といいましょうか,勢いが必要かもしれませんけれども,ここで全国化ということになってしまったら,改めてしっかりとした議論をさせてほしいと心よりそう思っております。文科省において,並びに中央教育審議会において検討しようということですので,その検討には非常に慎重な,多角的な検討をぜひさせてほしいなと思っております。
 とりわけ,先ほど田中委員が言及されましたように,今の大学は,大学という名で十把一からげにできるような単調な状況ではなくて,多様な大学,あるいは学位課程が成立しております。その一つ一つについて,空地・運動場に象徴されるような,様々な環境や条件整備が引き続きルールとして必要なのか,それとも撤廃しても,全国化しても構わないものなのかということを丁寧に実質的に議論させていただきたいなと心から願っております。

【谷口副部会長】 特区が全国化されるかどうかは別として,私個人的には,やはりきちんとしたキャンパスがあるほうがいいという感触は持っているのですが,これ(特区の全国化)を希望する人というのは多いのですか。全国化されれば,この制度を活用したいと思っているような大学が,多くなるという見通しがついているのでしょうか。
 それから,今こういう制度があることによって,特区を活用した大学の学生に対する教育の実が上がったのかどうか,教育の質まで含めてしっかりと目標を達成できたのかどうか,その辺がわからないのでお教えいただきたい。
 それから,これは何か代替措置があったらこれでもいいですよとか,さきほどご説明があったと思いますけれども,具体的に代替措置というのは,どういう場合にはそれが代替措置と認めていくのでしょうか。その辺がわかりましたら,参考までに教えといていただけると,いろいろ考える基になるかなと思います。

【石橋大学振興課長補佐】 まず1つ目でございますけれども,これが一気に全国化したらこういう大学が増えてくるかというところについては,具体的なニーズというものを文部科学省のほうが把握できているわけではございませんので,全国化すると,いきなり20,30と増えていくということではないと考えております。実際特区制度というものがございますので,各大学はこれを実際使うことが今も可能なわけでございますから,この5つができて以降,最後のビジネス・ブレークスルーは平成22年からでございますが,その後はまだそういう声が上がってきているというのは把握できているわけではございません。
 それから,実質的な教育の質が上がったかどうかというところに関して申し上げますと,なかなか一概に言いづらい部分というのはありますけれども,場所的にやはり駅前,中心部にこういう大学をつくるということで実際は各大学が設置されておりますので,そこで学生さんたちの利便性が上がっている部分というのは実際はあるのではないかなというふうに思います。

【谷口副部会長】 言い方を変えれば,逆にそこへの入学者は多いのですか。要するに競争倍率や,希望者がものすごく多いということはあるのでしょうか。このような大学は町の中にあって非常に便利であり,通学し易いとか,だから学生さんで行きたいと手を挙げる人が多いのでしょうか。

【石橋大学振興課長補佐】 非常に多いというわけではなく,ただ,定員が割れているというわけでもございません。ただ,1つ申し上げますと,LEC大学に関しましては,募集停止ということにもなっておりますので,うまくいってない大学も実際はあるというところでございます。
 最後のご質問に関して申し上げますと,代替措置に関しては,例えばですけれども,森ノ宮医療大学というところは大阪市にございますが,実は近くにオリンピックを想定してつくられた相当大きな総合的な体育館を大阪市がお持ちで,そこを借りて実際授業を行ったり,サークル活動を行うことでされておられます。ただ,学生さんは移動するためにバスで10分ぐらい移動しなくてはなりませんので,大学も非常に苦労しながら,でも,きちんと体育の授業も含めてやっておられるということはございます。
 また,宝塚大学は,新宿区にございますけれども,歩いて5分ぐらいのところに民間のスポーツ施設がございまして,そこと提携をして,実際運動ができるような形にされておられます。
 あとは,あいている教室等をラウンジということでやって,空地のかわりという形で対応されているというような状況でございます。

【谷口副部会長】 隣に公園があったらそこを使えますよという形になると,大学がそこまで全部持っていなくてもよいというようなことにもなりかねない面もあるかと思います。私どもの学生も,10分ぐらい車で行かないといけないような大きいグラウンドを持っていて,そこに行くのが遠いなど言う学生もいますから,そういうのを含めて考えると,教育の目的や効果等について,きちんとした考え方で議論しなければ,この制度を否定するのは結構難しい話になるのではないかなと思います。

【鈴木委員】 私が学長を務めております国際基督教学というのは,リベラルアーツのいわば単科大学である,小規模の大学であるということを特徴としているわけですが,リベラルアーツ教育というのは,今のところ,アメリカでかなり,600ちょっと欠けるぐらいの大学がリベラルアーツの大学として,小規模,それから都会を離れてとか,それから森の中,まあ,都会を離れれば森の中ということなのかもしれませんが,それから,全人教育ということをやっていますから,いわゆる体育といいますか,フィジカルエデュケーション,これなしのリベラルアーツ教育というのはあり得ないということは当然のことであります。本学も体育は必須でありまして,卒業までに実技が3学期,それから理論といいますか,それが3学期ありまして,クラスを学期に3回休むと,自動的にコースはF,つまりパスしないという,非常に厳格なあれをとっておりまして,本学におきましては体育というのは絶対に不可欠であります。
 ということで,先ほどの田中先生の政治学的に考えればということではないのですけれども,教養教育,というよりも,リベラルアーツの観点からすると,体育というのは絶対に不可欠であります。その観点からすると,これは私の個人的な考えも多少入っておりますけれども,そういうことができない大学の形態というのはリベラルアーツ的に考えて,あるいは学部の教育から考えて,非常に大きな問題を持っていると思っております。

【谷口副部会長】 隣にあるいは10分バスで連れていって,大きなグラウンドで目的を達成できるという代替のものがあることになれば,それは決してその制度を否定することにならないので,必ずすべての施設を自分で持つという話とは違うことになりますので,そこも合わせて考えなければいけないと思います。私どもも,グラウンドとか,いろいろ施設を整備しています。それは地震とか何か自然災害等があったときに,緊急避難所等として地域住民の皆さんもみんな受け入れたいと思っています。そういう地域のための整備ということを含めて,私どもの施設は整備もやらせていただいています。そういう側面は,やはり大学は公共的なものだと思っていますから,そういう観点からの役割も果たすということの中で,施設整備を今までしてきたものです。一方で教育ということだけに限ると,このような施設無しで教育がきちんとできるかどうかは,やはり教育内容や効果を含めて考えなければいけないです。しかし,代替があればと言われると,それはできるという話になるということももた考えておく必要があるのではないかということを申し上げただけです。

【鈴木委員】 そこが一番大切だと思います。

【谷口副部会長】 体育がだめだということは一切ありません。体育はぜひやったほうがいいと思います。

【浦野委員】 私も個人的にはこういう空地とか運動場というのは絶対必要だと思います。そういう環境で学問したいというか,学生生活を送れればいいと思いますけれども,今後のことをいろいろ考えたときに,大学は必ずしも若い人だけのものではなくなってくると思います。経営大学院みたいなものが,最近は駅前にどこの都市でもありますから,そういう大学院の場合のみであれば空地とか運動場は少なくてもよいと思います。大学そのものが本当に社会人に開放されてくるようになったときに,この問題をどう考えるかという視点は必要だと思います。
 したがって,私は,ここにも書いてありましたけれども,積極的な情報公開,これは義務づけたらいいと思います。やはりキャンパス情報の中で代替措置がどうこうと言ったときには,これをしっかり義務づけの情報として出してもらう。その中で,最終的に選択するのは学生ですから,例えばビジネス・ブレークスルーなんかが通信教育課程しか置いてないと書いてありますけれども,そういうことも含めて,緑豊かな環境で学生生活を送りたいのか,便利な駅前で送りたいのか,これも学生の選択ということで私はいいような気がしています。ただ,大学の理想像からいえば,もちろんあったほうがいいので,そのことが学生にアピールできるような情報公開を各大学に考えていただき,自分たちの大学は本当に緑豊かな中で学生生活を送れて,運動もこんなにできますということを言うというのが私はいいような気がして,この規制改革の流れにあえて反対してみてもあまりメリットはないような気がしました。

【金子委員】 一番初めに申し上げたいのは,これは各委員のご意見と同じですが,少なくともアンダーグラデュエートといいますか,学士課程で,要するに成長する過程にある学生にとっての大学というのは,やはり成長環境ですから,勉強するところだけではありません。それだけの環境を整えるということをきちんと保証すべきだということは原則として確認すべきだと思います。もちろん多様化とか,あるいは大学院とは違うとか,そういったことはあると思いますが,違うから何でもいいということにはならないので,少なくとも学士課程の学生については,きちんとした環境を保証するという原則は譲れません。ここは確認すべきだと思います。
 もう一つは,問題になったのは,特に空地と運動場でありますけれども,空地というか,これ,言葉が悪いので非常によろしくないのですが,空地がない大学がどういう大学であるかというと,通路とエレベーターと教室と事務室しかない大学になります。ほかにいるところがないのです。私は実は規制緩和委員会の委員もやっておりまして,見に行きましたけれども,そうなのです。要するに,いるところがないのです。公園が隣にあっても,雨が降ったらどうするのかという問題です。それから,運動施設についても,大学によって,そばにスポーツクラブ,ジムがあって,そこに入れるとかいう規定にしているところもあるのですが,学生がスポーツジムに入れるか,お金をどうするのかと,様々な問題が随分あるのではないかと思います。
 したがって,こういったことの必要性ということは,こういった措置が必要だということは強く中教審の場では確認するということが重要で,規制緩和というのは,余計な規制が多過ぎる,それを基本的にはなくしていく方向が正しいのだという原則で始まったもので,私はそれはそれなりに意味があると思いますが,ただ,個別の問題に関しては,個別の立場から独自の判断を加えるべきで,これに関してはそういう場合ではないかと思います。
 ただ,問題は,今のお話のように,全部こういった制限を撤廃するのではなくて,撤廃した場合には,それに応じた必要な情報公開をすべきだということだと思いますが,ただ,この情報公開の基準といいますか,そういったものについても何らかの形で考えるべきだろうと思います。
 これは,今この制度だけが問題になっていますが,私は文科省がつくった制度の中で少し変な制度が一部あるのではないかと思っていまして,特に大学院の入学資格として学部の卒業というのは必ずしも今絶対必要ではなくて,大学側が認めれば,3年修了であれば大体入学させることができるのですが,規制緩和の1つの大学院大学,これは営利大学院大学ですが,行きましたらば,非常にフランクに,入学者の大体4割ぐらいは大学を出てない。誰もそれを知らない。しかも特区は,自治体,東京都だと23区ですから,そこは千代田区でしたけど,千代田区の担当者は,何にもそういうことを知りません。実際に聞いたところ,そう言いましたけれども,千代田区は多分何にもそういうことを把握してないという状況なのです。
 担当者がいいと言えば,大学を卒業してなくても大学に入れるという状況になっているわけで,かなり規制緩和といいますか,規制を緩くしていくところで,非常に実質的な問題が起こっているところがかなりあります。それを一律的に規制するのは,やはり難しいというのは事実なのですけれども,それに対してどのように社会が判断するかという基準をきちんと出す。それについてやはりルールが必要だろうと思います。

【黒田副部会長】 今,金子委員が言われたように,大学が非常に多様化しているというのは事実です。こういう規則をつくるときに,学部段階も,大学院段階も同じような規則で認可されています。特に大学院については,ほとんど規則がないような状態です。それが問題だと思います。今では,様々な形態の大学院大学が出てきていますし,必ずしも学部を持たなくても大学院をつくれる状態になっていますので,そういう意味で大学院設置基準の整備が重要になると思います。一方では,校地校舎を自己所有しない都市部の真ん中にある大学院のほうが有効に機能している大学院大学も現にあるわけです。これらの事象を是としても,学部段階でのあり方と大学院でのあり方というのは切り離して考える必要がありますし,また,分野によっても違ってくると思います。
 今回は,空地とか運動場の問題だけですけれども,実際は設置基準上で緩和されたところ,図書館も要らないということになっていますし,様々なものが定量目標から外れているわけです。それで本当に世界に対して日本の大学院は伍していけるのだろうかということになります。
 今,特区の空地・運動場のこの問題,全国化してやるのだということになりますと,現に今膨大な敷地を持っている東京大学のあの敷地を売り払いなさいということになります。これは必ず出てくる話しです。そんなに要らないだろうということになります。だから,その辺をどう考えるのかということです。
 そういうことも考えながらこの問題は議論しななければなりません。その基本となるのは,やはり何といっても,今,学部段階の学生たちの教育環境の整備というのが非常に重要なのです。心身ともに健全な人材を世に送り出す入り口ですから。大学院はある程度成長した人材ですから,自分でコントロールできるわけですけれども,学部段階ではそのことをしっかりと教育の中に織り込んでいかないと,日本の国というのはますます衰退してしまうと思いますので,せめてその辺はしっかりと守るところは守っていただきたい。
 ちょうどこの構造改革特区のこの問題が起きたときに,私も大学設置審学校法人分科会の責任者をしておりましたので,直接こちらの担当者と話したこともありますし,委員長とも話をしました。そのときに言われたのは何かといいますと,文部科学省は何でこれだけの規制を撤廃するのだという話でした。我々が言っているのは,参入をしやすいようにして欲しいと言っているだけで,大学の基準まで緩やかにしてしまえということは言ってないのだということで,私は相当おしかりを受けました。そういうこともありました。私に対してだけそういうこと言っている,別のところでは別の話をするのかもしれませんけれども,そういう話でした。
 そのときに,私が端的な言い方をしたのは,大学設置基準というのは社会的規制で,経済的規制ではありません。道路交通法もやはりそうで,道路交通法なくして自由にしたら,右でも左でも走りなさいとなり,交通事故が起きて,道路を走ることができなくなります。それと同じなのです。だから,社会的規制としての大学設置基準というのが一定レベルを国家が保障しています。そういうシステムを崩すというのはおかしいのではという話をしたところ,いや,そんなところまで規制緩和は言わなかったと言っておりました。
 そういうこともありまして,どこでどうなったのか,こういう今の状態になっているので,これ以上大学,日本の教育システムを壊さないようにぜひ守っていただきたい。大学や大学院が多様化されていますので,様々なシステムのものがあっていいのです。特に大学院では,運動場とか空地を自己所有で持たなくてもいいわけですよ。借りていれば,代替があればいいということであれば,それでもいいのですけれども,要するに学生がそこで健全な生活が送れるかということ,学習環境の健全性,それが中心になってくると思いますので,どうぞよろしくお願いしたいと思います。

【納谷委員】 今黒田委員も,それから金子委員も非常にいいことを言ってくださったと思うのですけれども,やはり制度を設計するときに,私,実はこれは少しまずいと思っていました。もちろんこの特区の審議では私はかかわっていませんけれども。田中委員がおっしゃられたように,どうして必要かというぎりぎりのところで詰めていなかったことが1つあったのではないかということを私は思います。株式会社のときもそうでしたし,意見はいいのですけれども。社会制度として特区を設けるような形の考え方が産業界を中心か,政治家にあったかはわかりませんけれども,もう少し慎重にあそこでは問題提起をしてテーマを出すべきだったと思います。いずれも,今結果的に残ったのはこの5つのケースだけです。結局それぐらいのニーズのためにあんなに大上段に振り上げて議論すべきことだったのかどうかということは,今になってみると非常にどうかと思います。国の制度を考えるときの議論としてどうかと個人的思います。 それからもう一つ,私は設置審の委員もやっていまして,アフターケアもやったり,いろいろしました。特に大学院で出てきたニーズは非常にわかります。しかし,あの当時のことをよく考えていきますと,学部がきちんとあって,その上に大学院があるから,こういう空地の問題や運動場の問題は考えなくてもよかったわけです。しかし,そこのすき間を抜いたところで,様々なものが次々と設置申請が来て,それで,「これは」と思った申請は幾つかありました。教職大学院でも,行ってみたら,エレベーターがあって,事務室があって,要するにエレベーターから出たら事務室ですよ。廊下もない。教室がそのまま。このような状態でずっと遠くのところにどこかの運動場その他を借りるというような形で本当に教育が展開されるのか,様々な問題が出てきたので,やはりもう少しきちんと見たほうがいいのではないかと思います。特に設置を審査する立場から見れば,今この時期できちっとこの2つのテーマについては,議論し,基本は金子委員が発言されたように,学部教育ではきちっと少なくとも,ここまでオープンにすると,今でもすごく大学がたくさんある状況の中で,特にこういうものを認めなければ大学がつくれない状況にあるのかどうか,これはもう少し日本の国全体の総和として,そういうものかどうかということも考えてみる時期に来ていると私は思います。
 そういうことも参考にして,具体的な実態を検討なされて,提案していただければありがたいと,私はそう思っています。もちろん田中委員が発言されたように,ものによってはこういうことを外してもいい,さっき黒田委員が発言された多様性がある中で,ここはこういう例外を設けてもいいのではないかというのは,個別論ではあってもいいかもしれません。これはもう少し詰めてみる必要があるかもしれません。ただ,獏として一般的に話すことは少し危険だと私は思いますので,慎重に審議していただければと思います。

【田中委員】 先ほど大枠の話を申し上げたので,具体的なことは少し控えておりましたけれども,今納谷委員の発言と関連するのですが,大学院などで特別な状況は認めることはあり得るだろうと先ほど私申し上げましたけれども,ただ,ビジネスなどでも,学生同士のコミュニケーションが非常に必要だと思っています。今,私のいる大学でもよく言われているのは,ビジネススクールで,世界のトップクラスのビジネススクールはみんな学生のラウンジがあります。そこで院生同士が議論し,外に出ていって様々なプロジェクトをやっています。その議論する場もなければ,何もできない。こちらの中に,学外の運動施設や幅広い年齢層と地域住民と接する機会を得ることによって,社会人としてのマナーを向上させるからいいのだというご議論が出ているわけです。特区を全国化したほうがいいというご議論の中にありますが,それは一律には言えません。やはり高校でもそうだと思いますし,大学でもそうだと思いますが,学生,もしくは高校であれば生徒が,外の方と接するのはすごく重要ですけれども,地域社会とかに出る前に,様々なプロジェクトを考えて,体育祭や文化祭を実施するときに,地域の方と取り組むという計画を立てて出ていって接触しているのだと思うのですね。そういうフェース・トゥー・フェースのコミュニケーションがない中で,外の人とつき合いなさいというのはやはり無理があると思います。いきなり教室から外に出なさいということはなかなか難しいと思っておりまして,若い人たちが育っていく過程では,院生でもそうですけれども,学部生も,高校の生徒さんもそうですが,やはりそういう共有する空間が必要なのだと思います。それは教育というものにとっては非常に重要なものなのだろうと思います。

【荻上委員】 先生方のご意見に私も基本的に賛成でございますから,繰り返す必要はないと思いますが,一言だけ。特区を外すということは,非常につくりやすくなるわけですから,今まで5つしかニーズがなかったというのは,特区という枠組みの中だからそうだったのかもしれません。緩和されれば,ニーズが出てこないとも限りませんので,ぜひそこを踏まえた上で,これはやはり絶対に必要なものである。しかし,どうしてもそれをやるというのであれば,例外的に認めるかというところをきちんと,これは文部省がおやりになるべき部分ですから,そこはしっかりとお願いをしたいということだけ申し上げたいと思います。

【宮崎委員】 大学を経営体として見たときに,これだけ,およそ800の大学がひしめいている中で,将来,例えば整理統合であるとか,企業でいうM&Aであるとか,そういう時代が来ないとは限りません。言論機関にはないだろうと思ったら,放送局が買収にかかったりという歴史があるわけです。そうすると,その場合のマーケットメカニズムに従うと,空間が教育空間ではなくて,土地の価値に読みかえられてしまった場合に,やはり質の保証というのは大変難しくなってくると思います。その場合に,この空地・運動場などが抑止力として働く機能を持っているのかどうかということについては,どう考えてよいのかを質問します。

【納谷委員】 私は答えられないですが,心技体,この3つが教育の本体ですから,やはりある程度空間がなければならないと思います。さっき鈴木委員,金子委員がおっしゃられたように,若者を教育していくためには,そういう場所というのでしょうか,物理的な意味の,それはどうしても必要だと思います。だから,基本は必要だと。だけど,こういう場合どうしても例外的な対応の方が望ましいケースをここで決めていかないといけません。それはどこかで決めければいけないと思うのですけれども。我々も例えばものを考えるときに空間のないところでやらされたらとても無理です。ここの会場一つ見ても,これだけの空間があるから我々は自由に話せるので,べったり顔を合わせて話し合っていたのじゃ,いろんな考え方できないです。ですから,学校の教育の場というのは,そういうむだなような場所がなければ重要な発想ができないのではないかなと私は思っております。ただ,これは自分の考え方で,決して正当的にいいかどうかということはわかりませんけど,そんな考え方を持っています。

【宮崎委員】 申し上げたかったのは,要するに教育という空間の中で,違う文脈で動くようなことがあってはならないのではないか。それから,特区も,冒頭に田中委員おっしゃったように,ほかの政策分野と横並びの特区という考え方というのはなじまないのではないかということで,わざとそういう伺い方をしたところです。

【佐々木部会長】 いろいろご意見ありがとうございました。また議論を整理し,引き続き詰めたところまで持っていかなければならない課題だろうと思います。
 本日は大きな2つの課題をご議論いただいて,とりわけ最初の大学教育の課題につきましては,浦野委員がご指摘なさいましたように,資料1の下段に書かれている,制度的な共通性の確保と個性・特色との関連です。前回の大学分科会ではミッションということをめぐって種々ご議論があったと伺っておりますけれども,とりわけこれは質の保証とかかわってどういうミッションか,どういうこととかかわって質の保証かという相関関係がございますし,それをさらに充実していく,保証していくためのいわゆるガバナンスという問題があると思いますので,この図を頭のどこかにおさめていただいて,今後のご議論を続けていただけると幸いと存じます。

 

(2)事務局から,大学教育部会の次回以降の日程について資料3の説明があった。

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