資料1-2 沖立命館大学教育開発推進機構教育・学修支援センター長 説明資料

立命館大学教育開発推進機構教授
教育・学修支援センター長
沖 裕貴

3つのポリシー策定の意義

欧州教育制度のチューニング(ボローニャ・プロセス)(深掘・竹中、2012)

・欧州教育制度のチューニングにおいては、コンピテンス(汎用的技能と専門分野別コンピテンス)と学習成果に基づいて教育プログラムを設計する。コンピテンスとは、知識・技能・態度が有機的に結合したもので、教育プログラムを履修した総合的な成果として学生が獲得するもの。学術性を基盤としながらも雇用可能性や市民性も保証する。
・チューニングにおける学習成果とは、学生が教育プログラムを通して習得することが期待されている具体的な知識・技能・態度。大学はそれぞれの志向する学術的・職業的プロフィールに鑑みながら、目指すべきコンピテンスを特定し、その獲得が可能となるように計画的に教育プログラムを設計する。
・単位は所期の学習成果が習得された場合にのみ認定されることから、学習成果は測定可能でなければならない。

我が国の3つのポリシー

・コンピテンスは各学部・学科のディプロマ・ポリシー(DP)、学習成果は個々の科目の到達目標の達成度に相当すると考えることができる。
・各大学(学部・学科)は、学術性を基盤としながらも雇用可能性や市民性を考慮して自らのDPを特定し、その獲得が可能となるように計画的に教育プログラムを設計する。
・DPは、個々の科目の学習成果(到達目標の達成度)の総合的な成果であり、学習成果の測定(授業の到達目標の達成度の測定による成績評価)を基盤とする。
・計画的な教育プログラムとは、DPと個々の科目の関係性(整合性=scopeと体系性・系統性=sequence)を整理したプログラムのことであり、カリキュラム・ポリシー(CP)の本質である。
・カリキュラムの整合性を可視化するツールとして「カリキュラム・マップ」、体系性・系統性を可視化するツールとして「カリキュラム・ツリー」が有効である。履修系統図やナンバリングもこれらを可視化し、学生の学びを促進するツールと言える。
・個々の科目の学習成果(到達目標の達成度)が測定可能であることはもちろん、それらの総合的な成果であるDPも測定可能でなければならない。
・これらの測定や検証には、学生調査(DPの達成度や正課外学習の成果の測定)やパフォーマンス評価(科目の到達目標の達成度やカリキュラムの成果=DPの達成度の測定)などが有効である。
・アドミッション・ポリシー(AP)についても、入試科目や募集区分に即して(認証評価における「適切性」「妥当性」)、領域や観点に分け、できるだけ具体的な記述(学生を主語にした行為動詞を用いたもの)が求められる。各募集区分の具体的な記述の総合がその大学のAPであり、CPを通してDPに接続されるものである。
・3つのポリシーの策定とは、大学の理念や精神から具体的なDPを通して、計画的なカリキュラムの設計(CP)、個々の授業の実施と成績評価に至る「学士課程教育の一貫性構築」の営みである。また、内部質保証システムの構築とは、その策定作業がPDCAサイクルに基づいて自律的に進む組織であることを意味する。

3つのポリシー策定の際の組織・体制

体制

・学長や教学担当副学長(教学部長)を中心とした全学的な策定方針、支援体制が必要である。
・DP、CPに関しては講演会等による全学的な啓蒙(けいもう)と、学部・学科の執行部(カリキュラム作成委員)に対する具体的な策定のための学習会が必要である。策定は専門家(FDセンター等の教職員)の指導・支援のもとに取り組むことが望ましい。

組織と対策

・各科目の担当者(専任・非常勤)に対しても、全学的な策定方針やその意義に関する学習会が求められる。特に個々の科目の到達目標の記述(シラバス)には、測定可能で領域や観点別に学習者を主語とした行動目標を書くことが必須の条件となり、学習会やシラバス執筆要領の充実が不可欠である。
・成績評価とは、到達目標の達成度の測定に他ならない。また、これは一貫性のある教育プログラム(カリキュラム)の土台になることから、シラバスの成績評価方法や基準の明示化が求められるとともに、必要に応じてパフォーマンス評価の導入に関する学習会が開催される必要がある。
・同一科目には同じ科目概要、到達目標が必須であり、専任教員が代表となる科目担当者会議で議論、決定する。また、この会議はばらつきの多い成績評価方法や基準を統一するためにも有効であるとともに、授業研究会をはじめ、ミクロレベルのFDのもっとも効果的な機関になりうる。
・シラバスの到達目標の記述や成績評価方法の記述に関しては、執行部や科目担当者の代表によるシラバス点検が重要であり、シラバス点検要領を整備することが肝要である。

3つのポリシー策定手順

策定方法

・DPは学部則等に定められる条文とは異なり、学生や受験生に理解されやすいよう、また、その達成度の評価がしやすいよう常にブラッシュアップをすることを恐れてはならない。ただし、それらを変更する際には、全学的な教学会議等で周知徹底し、履修要綱や入試要項等も併せて改訂することを忘れてはならない。
・CPの本質であるカリキュラムの整合性、体系性・系統性については、カリキュラム・マップやカリキュラム・ツリーを整備する。しかし、カリキュラム・マップは整合性を点検するためのツールであり、特に公開は必要としないが、それに基づいたカリキュラム改訂が行われる(=PDCAサイクルが回る)よう、継続的な執行部やカリキュラム委員等の意識付けと専門家によるコンサルテーションや学習会が必要である(教学ガイドライン)。

CPの具体的策定手順

・カリキュラムの整合性を点検するカリキュラム・マップは、学科単位で、表計算ソフトの表にDPの各項目を第1行に並べ、第1列に教養から専門に至るまでの科目名を、第2列にその到達目標を並べる。必要に応じて科目概要などをその次の列に並べると分かりやすくなる。教授会や非常勤講師の来校の際にその表を回し、自ら担当する科目の到達目標がどのDPに主に対応するかをチェックすることで完成する。
・カリキュラム・マップは教養と専門や、コア科目と選択科目等、学科の特性に応じて様々な科目区分に分けて表に配してもかまわない。ただし、受講生がどのような系列で履修しても、同じ学科であれば同一のDPの達成が可能であることが求められる。
・DPの各項目をルーブリックで表現し、初年次、中間、卒業時などのレベルごとに記述を変え、レベルごとに配置する科目群を選択し(カリキュラム・ツリー、履修系統図、ナンバリング)、カリキュラム・マップで整合性を確保することで、質保証やアカウンタビリティに対応することも可能である(長期的ルーブリック、関西国際大学)。
・上記のことを含め、DPの達成を可能にするために必要十分な科目が要卒科目に配されているかを点検することが、カリキュラム・マップの目的であり、使い方である。通常、様々な問題点が発見され、到達目標や科目内容を含めた見直しが多くの科目に求められることになる。この点について次回のカリキュラム改訂に生かすことこそが内部質保証システムの構築された組織になるということである。
・カリキュラムの体系性や系統性を可視化するカリキュラム・ツリーや履修系統図、ナンバリング等は、むしろ積極的に公開し、学生の利用に供するべきものである。1ページに収める必要はなく、学生が4年間、6年間の学習の航路を自覚し、主体的に学んでいくためのツールとして、オリエンテーションなどで冊子に含めて配付したり、十分な説明を行ったりして活用を進める必要がある(法学部学びマップ、産社ハンドブック、文学部教学の手引き等)。

3つのポリシー策定の際の工夫

意義の確認

・学科、学部のDP(c.f. DPが大学構成員に周知されているか)と各科目のカリキュラム・マップやカリキュラム・ツリー上の位置付けは、学部・学科教員の共有すべき情報である。高等教育といえども教育は組織的な取り組みであり、すべての科目担当者がDPや他の科目の到達目標、位置付けを意識して授業に取り組む必要がある。これにはカリキュラム・マップやカリキュラム・ツリーの策定作業自体が有効であり、また、様々な学習会(到達目標の書き方、パフォーマンス評価の方法)やシラバス執筆の際の適切な提示(カリキュラム・マップやカリキュラム・ツリーの提示)等が有効である。当然、非常勤講師の委嘱の際にもこれらが使われる必要がある。

点検と評価

・DPと各科目の位置付けは、シラバス点検や科目担当者会議における日常的なFD、シラバス執筆要領などで常に意識付けを図ることが大事である。また、DPの達成のために位置付けられた各科目の概要、到達目標や成績評価基準は、学生に公開された後は特別な事情がない限り変更することができないようにし(教授会審議事項)、授業アンケート等でもシラバス遵守度や到達目標の達成度などが受講生から点検される仕組みが望ましい。

今後の課題

カリキュラム・マップ作成で判明する問題点

・DP達成に必要な科目がそろっていない。特定のDPの項目に対応する科目数が決定的に不足している。選択科目によってはDPを満たさない。
・どの科目もすべてのDPの項目にチェックが入る。これは、到達目標の書き方が不適切な場合(行動目標による標記ができていない場合)と、成績評価に絡む到達目標に厳選されていない場合(成績評価に関係のない到達目標が多数記述してある場合)がほとんどである。
・DPの見直しや到達目標の書換えに応じてカリキュラム・マップは常に変更・修正されるものである。カリキュラム改訂の際には果敢に根拠資料に用いることが重要である。

パフォーマンス評価の有効性

・ルーブリックを用いたパフォーマンス評価は、レポートやプレゼンテーション、実技や演習のアウトカム評価として有効であり、学習者の学習の指針づくりや振り返りにも高い効果がある。また、客観的かつ公平な評価は、これまで感覚的に捉えがちであった学生の変化(学力や意欲)を的確に把握し、迅速な対応(補習や科目分割、ピア・サポートの活用、カリキュラム改訂)するための貴重なデータと方法論を提供することになる。一部にある「学生の留年や卒業率の低下をもたらす道具」という懸念は払拭すべきである。
・各科目の成績評価が到達目標の達成度(=学習成果)を客観的かつ公平に測定することができれば、CPを通してDPの達成が担保される。学士課程教育の一貫性構築は、最終的には各科目の成績評価にかかっている。

高等教育の質保証

・個々の科目のパフォーマンス評価の導入やカリキュラム・ルーブリック(長期的ルーブリック)、学生調査、標準テストなどの手法を併用して、DPの達成度を検証し、自らの大学の教育の質保証を進めることができる。
・シラバスや学生授業評価、GPAやCAP制など、高等教育に用いられる部品の導入はかなり進んだと言えるが、「内部質保証システムの構築とは」、「一貫性のある学士課程教育の構築とは」といった包括的な概念の理解が不十分であるように思われる。道具や手順の説明にとどまらず、これらを分かりやすく解説し、効率的な教育改革が進められるようなガイドラインの策定が求められよう。また、これらの方法は、決して評価疲れを招いたり、不毛な努力、場当たり的な対応を求めたりするものではなく、いったん軌道に乗れば、極めて合理的かつ省力的に改革を進める動力になることを強調していただけると有り難い。

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高等教育局高等教育企画課高等教育政策室

(高等教育局高等教育企画課高等教育政策室)