大学教育部会の審議のまとめについて(素案)

1.問われる学士課程教育の「質」

 大学の教員は教育に比較的多くの時間を割くようになっており、改善のための様々な工夫も進んできている。にもかかわらず、国民、企業そして学生自身の学士課程教育に対する評価は総じて低い状況にある。これには種々の要因が関係しているが、特に、高校までの受け身の勉強とは質的に異なる主体的な学びのための学修時間が今日においても少ないという大きな問題がある。
 高等教育の課題が学生数等の「量」から教育の「質」へと転換しているユニバーサル段階において、また、我が国が激しさを増す社会変化に直面する中で、今まさにこの状況を踏まえた学士課程教育の質的転換への早急かつ効果的な取組が求められている。

 

○ 学士課程教育については、累次の中央教育審議会や大学審議会答申を踏まえ種々の改善が行われてきた。平成3年の大学設置基準の改正以降は、大学は学士課程教育を自らの理念に基づき組織的に提供し、それを常に改善することが求められ、その結果、例えば、授業計画(シラバス)を作成する大学は平成5年の80大学(15%)から平成21年の705大学(96%)、学生による授業評価は38大学(7%)から599大学(80%)、ファカルティ・ディベロップメントは151大学(29%)から746大学(99%)にそれぞれ増加するなどの進展が見られた。

○ 平成17年の中央教育審議会(「将来像答申」)は、我が国の高等教育がユニバーサル段階に入り、その課題は量的規模から質の保証に移ったことを明らかにするとともに、質の向上について機能別分化への対応を指摘した。この将来像答申を受けて、大学院の課程については同年に、学士課程については平成20年(「学士力答申」)にそれぞれ中央教育審議会答申がまとめられた。特に、学士力答申は、我が国の大学が授与する学士が保証する能力の内容として「知識・理解」、「汎用的能力」、「態度・志向性」及び「総合的な学修経験と創造的思考力」を挙げ、各大学が学位授与の方針を明確化すること促した。また、各大学において学生の学修時間の実態を把握した上で単位制度を実質化することを求めた。

○ 現在、我が国の大学の教員の一学期当たりの担当授業時数は8コマ程度と比較的多く、かつ、教員の勤務時間における教育に関する時間の割合は増加している。また、ナンバリングによる体系的なカリキュラムの編成や学生が予習するための工程表としての授業計画(シラバス)などによる学修時間の伴う質の高い教育を展開している大学もある。また、グループ・ディスカッション、ディベート、グループ・ワークなどによる課題解決型の能動的学修(アクティブ・ラーニング)に取組み、成果をあげる大学も出てきている。これらは、国際的通用性が問われる知識基盤社会、グローバル社会における高等教育において、日本型の学士課程教育モデルとしてさらにその発展、展開を図ることが期待される。

○ しかしながら、大学のステークホルダーである社会は、学士課程教育改善の現在の到達点に満足していない。新聞社の世論調査では、日本の大学が、世界に通用する人材や企業、社会が求める人材を育てているかとの質問に6割を越える国民が否定的な回答をしている。経済団体の調査によれば、企業の学士課程教育に対するニーズと大学が教育面で特に注力している点とでは、特に「チームで特定の課題に取り組む経験をさせる」、「理論に加えて、実社会とのつながりを意識した教育を行う」などにおいてギャップがある。また、5~6割の学生が「論理的に文章を書く力」、「人にわかりやすく話す力」、「外国語の力」についての大学の授業の有効性を否定的に捉えている。

○ これには種々の要因が関係しているが、高校までの受け身の勉強とは質的に異なる主体的な学びのための学生の学修時間が少ないという大きな問題がある。大学制度において、1単位は予習や復習などの自学を含めて45時間の学修を要する内容で構成することが標準とされている。これは学びの主体性という大学における学修の本質に基づく仕組みであり、体系的なカリキュラムに不可分に連動するものである。卒業の要件として4年以上の在学と124単位以上の修得が必要であることを踏まえると、学期中は、授業に加え予習など高校までの勉強とは質的に異なる主体的な学修を一日当たり8時間程度行うことが前提とされているが、実際には、我が国の学生の学修時間はその約半分の一日4.6時間とのデータもある。これに関連して、前述のとおり授業計画(シラバス)を作成している大学は平成21年度で96.4%まで進んでいるが、そのうち「具体的な準備学修内容を示している」大学は35.8%、「具体的な標準学修時間の目安を示している」のは6.8%にとどまっている。

○ 高等教育の課題が学生数等の「量」から教育の「質」へと転換するユニバーサル段階において、また、我が国が激しさを増す社会変化に直面する中で、今まさにこの状況を踏まえた学士課程教育の質的転換への早急かつ効果的な取組が求められている。

 

2.学士課程教育の質的転換の確立

 学士課程教育に対する厳しい社会の評価の背景には、大学に対する高い期待がある。具体的には、グローバル化や少子高齢化、情報化といった急激な変化の中、雇用構造や労働市場の変化も加わった先の見え難い時代を生きる若者や学生にとって、「生涯学び続け、どんな環境でも勝負できる能力」の育成や知的な基礎に裏付けられた技術や技能などの習得は自らの人生を切り拓く上で切実な問題である。他方、先が見え難いという点は産業界や地域社会も同様であり、今後の変化に対応するための基礎体力を固め直したり、先端的な活路を見出したりする原動力となる人材を切望している。社会が大学とそこではぐくまれる若者や学生に対して大きな期待を抱いている所以である。
 このことを背景とした学士課程教育に対する社会の期待と厳しい評価に応えることは、我が国の成長や発展の重要な基盤であるとともに国際的な信頼や貢献につながる。これを実現するためには、それぞれの大学がカリキュラムの体系化や学修時間の確保による単位制度の実質化、教員の教育力の向上などに取り組み、学生の主体的な学びを引き出す「学士課程教育の質的転換」を確立させることが必要である。学修時間の問題もこの視点から取り組まれる必要がある。

 

○ このように社会が学士課程教育に厳しい評価をしているのは、大学に対する高い期待があるからに他ならない。

○ グローバル化や少子高齢化など社会の急激な変化は、少子高齢化による社会活力の低下、厳しさを増す経済環境、日本型雇用環境の変容、人間関係の希薄化、格差の再生産・固定化、豊かさの変容など我が国社会のあらゆる側面に影響を及ぼしている。「失われた20年」とも言われるように、企業も含めた社会全体がこのような社会経済の構造的な変化に直面し、科学技術から経営、社会システムに至るまでパラダイムの転換をもたらすブレークスルーを模索しなければならない厳しい環境におかれている。

○ このような中、雇用構造や労働市場の変化も加わった先の見え難い今の時代を生きる若者や学生にとっては、大学における学修が、専門的な知見やICT等を活用した新たなチャンスやイノベーションにつながったりケアなどの成長分野での就業に結びついたりするなど、自らの人生を拓き、個人として発展する基盤となるかどうかは極めて切実な問題である。

○ 大学において、「答えのない問題」を発見しその原因について考え、最善解を導くために必要な専門的知識及び汎用的能力を鍛えることにより、「生涯学び続け、どんな環境でも勝負できる能力」をはぐくむとともに、実習や体験活動などを伴う質の高い効果的な教育により知的な基礎に裏付けられた技術や技能を身に付けることは、学生が自らの人生を切り拓くための最大の「財産」である。

○ 先が見え難いという点は産業界や地域社会も同様であり、今後の変化に対応するための基礎体力を固め直したり、先端的な活路を見出したりする原動力となる人材を切望している。社会が大学とそこではぐくまれる若者や学生に対して大きな期待を抱いている所以である。

○ 大学がこのような個人や社会の強い期待に応えることはその最も重要な社会的責務の一つであり、我が国の成長や発展の重要な基盤であるとともに国際的な信頼や貢献につながるものである。

○ それを実現するためには、高校までの勉強から大学教育の本質である主体的な学修へと知的に跳躍すべく、学生同士が切磋琢磨し、刺激を受け合いながら知的に成長することができるよう、課題解決型の能動的学修(アクティブ・ラーニング)といった学生の思考や表現を引き出しその知性を鍛える双方向の授業を中心とした質の高いものへと学士課程教育の質を転換する必要がある。

○ 具体的には、学士力答申で提言されているように、各大学において、全学的な教学マネジメントのもと、「学位授与の方針」、「教育課程編成・実施の方針」及び「入学者受入れの方針」を明確にし、

  • カリキュラムの体系化
  • 学修時間の確保による単位制度の実質化
  • 教育方法の改善
  • 成績評価の厳格化
  • カリキュラム上の連携や入学者選抜の改善による高等学校との円滑な接続
  • 教員の教育力の向上

などに総合的に取り組む必要がある。これらの取組が相互に関連しながら、好循環を生み出すことにより、学士課程教育の質的転換が実現する。大学関係者の積極的で継続的な取組が必要であり、学修時間の問題もこの視点から取り組まれる必要がある。

 

3.好循環の始点としての学修時間の確保による主体的な学びの確立

 学士課程教育の質的転換については様々な見解や論点、手法、切り口が考えられるとしても、学士課程教育の質的転換は「待ったなし」の課題である。今は既にそのために何をすべきかを議論する段階ではなく、これまでの改革の成果を踏まえた具体的な行動を直ちに始めることが求められている。そのことが大学改革を通じた我が国社会全体の改革となる。
 そのため、具体性や効果、緊要性などを考慮し、各大学においてまず取り組むべき課題は、学士課程教育の質的転換への好循環の第一歩(始点)としての「学修時間の増加・確保による主体的な学びの確立」であると考える。学修時間の増加・確保による主体的な学びの確立は、1.高校までの勉強とは質的に異なる大学における学修の本質であり、2.学士課程教育の質的転換への好循環の始点となり、かつ、3.我が国の大学の国際的な信頼の源泉でもある。
 各大学における学士課程教育の質的転換の第一歩として学生の学修時間の増加・確保による学生の主体的な学びの確立を図るために、例えば、関係機関が、各大学における学生の学修時間の把握、その結果の学士課程教育の質的転換への活用、学修時間の増加・確保による主体的な学びの確立に向けての全学としての具体的な取組、これらの結果や取組の公表といったそれぞれの大学の積極的な取組を資源配分の際の参考資料の一つとしてエンカレッジすることが考えられる。
 その際、各大学における学修時間の増加・確保に当たっての様々な課題や各大学の対応などの実態を把握することも必要である。

 

○ 他方で、大学関係者、文部科学省などの関係機関は、学士課程教育の質的転換が「待ったなし」であることを改めて認識する必要がある。前述のとおり、先の見え難い今の時代を生きる若者や学生にとっては、人口減少で市場の全体規模が縮小する我が国経済の中で、大学における学修が自らの人生を切り拓く基盤となるかどうかは極めて切実な問題である。また、我が国に対する評価や信頼は将来にわたる知的な潜在力に少なからず依存するが、知的な潜在力とは全国の学生がいかにしっかりと主体的な学びをしているかどうかに他ならない。

○ このような状況やそれを踏まえた国民の大学教育への高い期待を考えた時、学士課程教育の質的転換については、既に、何をすべきかを議論する段階ではなく、具体的な行動を今から始め、すべての大学の学士課程教育が質的転換のために大きく動き出し、成果を挙げ、その実感を学生や保護者、企業、非営利法人など広く社会で共有し、大学の学びへの信頼が高まるという好循環を形成していくことが求められている。

○ 昨今の我が国の社会経済の閉塞感の打破は大学だけが解決できるものではないが、知識基盤社会にあって社会をリードするリソースと責任を持つ大学がまず学士課程教育を質的に転換し、学生をきちんと育てるという積極的な姿勢と実行を示すことが、社会全体に希望を与え、我が国社会全体の現状を変える第一歩となる。

○ このような認識に立ち、中央教育審議会大学分科会大学教育部会としては、学士課程教育の質的転換については様々な見解や論点、手法、切り口が考えられるとしても、「待ったなし」の状況を踏まえ、具体性や効果、緊要性などを考慮し、各大学においてまず取り組むべき課題は、学士課程教育の質的転換への好循環の第一歩(始点)としての「学生の学修時間の増加・確保による主体的な学びの確立」であると考える。

○ 当部会が、各大学において学修時間の増加・確保による主体的な学びの確立にまず取り組む必要があると考える理由は以下のとおりである。

○ 第一に、予習・復習などを含めた学修時間の確保による主体的な学びは、大学における学修の本質だからである。初等中等教育と学士課程教育との本質的な違いは、学びの主体性である。高校教育までは与えられた問いをいかに解決するかの「課題解決能力」が重要であるのに対して、学士課程教育は「答えのない問題」自体を発見する「課題探求能力」をはぐくむことが求められる。高校までの勉強から大学における学修へと知的跳躍を図り、学生が主体的にその「答えのない問題」を考え、最善解を導くために必要な専門的知識及び汎用的能力を鍛えることに学士課程教育の本質がある。授業だけではなく、学生が予習や復習など主体的な学びを行うことを前提にしている単位制が、大学制度の本質を形成する仕組みの一つとなっている所以である。したがって、主体的な学びが本質である大学の学修において、学修時間は単に学修の量の問題ではない。学修時間は、主体的な学びの確立の一つの指標であると言えよう。

○ 第二に、学修時間の増加・確保は、授業計画(シラバス)が学生が予習など主体的に学ぶに当たって必要ないわば授業の工程表として機能しているかどうかだけではなく、例えば、カリキュラム全体でどのような能力をはぐむみ、知的な基礎に裏付けられた技術・技能を習得させようとしているのか、そのために各科目同士がどのように連携・関連し合う必要があるのか、学生に主体的な意欲や関心、学びを引き出す効果的な教育方法や成績評価とは何か、これらを担う教員にはどのような教育力が必要か、カリキュラムの編成や改善を全学的な観点から行うことができるマネジメントとは何か、といった課題に大学全体として取り組み、学士課程教育の質的転換への好循環が動き出すためのいわば始点となるからである。その意味でも、学修時間は単に学生の学修の量の問題ではなく、それぞれの大学における学士課程教育の質的転換への好循環のための第一歩であると言えよう。

○ 第三に、我が国の大学が海外から信頼を得るに当たっても、学修時間の増加・確保による学生に主体的な学びの確立が欠かせないからである。その社会制度としての本質として国際的通用性が常に求められてきた大学であるが、今、グローバル化の中で質の伴った多様性をどう確保するかがさらに強く要請されるようになっている。国際的な信頼を得るための一つの指標として、学修時間の増加・確保による主体的な学びの確立があると言えよう。

○ 各大学における学士課程教育の質的転換の第一歩として学生の学修時間の増加・確保による学生の主体的な学びの確立を図るために、例えば、関係機関が、各大学における学生の学修時間の把握、その結果の学士課程教育の質的転換への活用、学修時間の増加・確保による主体的な学びの確立に向けての全学としての具体的な取組、これらの結果や取組の公表といったそれぞれの大学の積極的な取組を資源配分の際の参考資料の一つとしてエンカレッジすることが考えられる。

○ なお、当部会としても、各大学における学修時間の増加・確保に当たっては様々な課題があることが言を俟たないことは深く認識している。今後、関係機関によるこれらの課題や各大学の対応などの実態の把握を踏まえた審議をさらに深めることとしている。

 

4.さらなる学士課程教育の質的転換への好循環に向けて

 各大学においては、学修時間の増加・確保による学生の主体的な学びの確立を第一歩として、学士課程教育の質的転換への好循環を働かせることが必要である。また、関係機関には、引き続き各大学における学士課程教育の質的転換のための取組への継続的な支援を求めたい。特に、1.優れた授業の顕彰(ティーチング・アウォード)、2.高校教育と高等教育との円滑な接続、3.学生の学修到達度を測る方法等の研究・開発の推進、4.大学ポートレート(仮称)の早期整備、などの積極的な支援が必要である。

 

○ 各大学においては、学修時間の増加・確保のよる学生の主体的な学びの確立を第一歩として、学士課程教育の質的転換への好循環をしっかりと働かせることが必要である。また、「学位授与の方針」、「教育課程編成・実施の方針」及び「入学者受入れの方針」に基づいた学士課程教育の改革サイクルやそれを支える全学的な教学ガバナンスの確立が図られるために、文部科学省などの関係機関が取り組むべき施策は以下のとおりである。

 

(1)学位プログラムでどのような力をつけるか

○ 「学位授与の方針」は、各大学がそれぞれの機能に応じて学生にどのような付加価値をつけ、自信を持たせて社会に送り出したり進学させたりするかについての到達目標である。この学位授与の方針があることにより、それぞれの科目の総学修時間において学生がどのような学びを主体的に行うことが必要かを教員が他の科目を担当する教員と連携しながら設計できるとともに、ティーチング・ポートフォリオなどを活用して個々の教員が自分に求められている役割を理解し全学の方針に沿って十分な指導をしているかを評価することもできる。その教員評価の結果を教員への顕彰やその処遇の決定等に活用している大学をエンカレッジする観点からも関係機関が優れた授業を顕彰(ティーチング・アウォード)などの取組を行うことが必要である。

 

(2)カリキュラムや学修支援環境の充実

○ 学生が予習など主体的に学ぶに当たって必要ないわば授業の工程表である「授業計画(シラバス)」、カリキュラムの国際的な通用性を視野に入れつつ、科目同士の整理・統合と連携により教員が個々の科目の充実にエネルギーを投入することを可能とするための「ナンバリング」などは、学生の学修時間を増加・確保させる上でも極めて有効な仕組みである。

○ 学士課程教育はキャンパスの中だけで完結するものではない。サービス・ラーニング、インターンシップ、社会体験活動や留学経験などは高い教育効果を持つ。まず大学は学生の学修時間の増加・確保を始点とした学士課程教育の質的転換に向けて不退転の決意を持ち、その姿勢を学内外に明確に伝え、理解を求めるとともに、その意識を産業界や地方公共団体、地域と共有するように努める必要がある。その上で、産業界や地方公共団体、地域が学士課程教育に積極的に協力、参画することが重要であると考える。知識基盤社会にあっては、その地域に即したイノベーションを生み出すとともに個人に対し生涯にわたり知的な基礎に裏付けられた技術や技能を習得する機会を提供できる大学は、地域再生の核である。なお、学修時間の増加・確保し、学生の主体的な学びを確立するため、企業には就職活動の早期化・長期化の是正を引き続き求めるものである。そのことは質の高い人的資源を得るという形で長期的には必ず企業の利益になる。

○ 関係機関には、学士課程教育の質的転換を支える学修支援環境(ティーチング・アシスタント(TA)など教育サポートスタッフの充実、ICTを活用した双方向型の授業や教学システムの整備、学生に対する経済的支援、学生の主体的な学びのベースとなる図書館の機能強化等)の実態把握や効果的な教育を行うためのコスト分析、それに基づく支援のほか、大学における教材や方法論の開発などの研究に対しても積極的に支援することが必要である。

 

(3)どのような入学者を受入れ、はぐくむか

○ 初等中等教育においてはぐくむべき学力の要素を定めた学校教育法第30条第2項の規定を踏まえた平成20年の学習指導要領改訂を一つの契機として、義務教育から高校教育にかけて基礎的な知識・技能の習得とともにそれらを活用した学習活動や探究活動を発達の段階に応じて展開するため言語活動などが重視されるようになった。これらの学習活動を通じてはぐくまれる能力は、学士力答申で提言された「知識・理解」、「汎用的能力」、「態度・志向性」及び「総合的な学修経験と創造的思考力」の基礎となる。高校教育と高等教育、職業を教育内容という観点から円滑に接続し、一人ひとりの能力をいかに伸ばしたかをベースに学校教育が柔軟にその役割を果たすようにすることは次期教育振興基本計画について審議している中教審教育振興基本計画部会においても重要な課題の一つとなっている。

○ そのため、「入学者受入れの方針」については、主体的な学びという大学での学修の本質を十分に踏まえ、「K-16」や「カレッジ・レディネス」といった発想も参考にしつつ、初等教育、中等教育及び高等教育を分断することなく、これらを通じて知識基盤社会で必要な汎用的能力や専門的知識、技術や技能等をはぐくむことを重視すべきである。

○ 中教審大学分科会としても初等中等教育分科会と連携の上、多様化する高校教育、一般入試以外による選抜を経た入学者の増加、学修時間の少ない学士課程教育という構造の中で、それぞれの学力層に着目した学修時間の増加・確保のためのきめの細かい施策を講じることにより、各学校段階において個々人の能力が実際に伸長する仕組みを検討することとしている。

 

(4)学士課程教育の改革サイクルと全学的な教学ガバナンスの確立

○ 学内における学士課程教育の改革サイクルを確立するに当たっては、学生の学修成果の把握や大学情報の積極的発信が極めて重要である。

○ 学生の学修成果の把握については、アセスメントテスト、学修行動調査、ルーブリックの活用等が考えられるが、関係機関が、諸外国の例も参考にしつつ、学生の学修到達度を測る方法や学生の学修行動を調査する方法など我が国に適した評価手法の大学支援法人、大学間の連携、学協会を含む大学団体等における速やかな研究・開発を推進することが必要である。また、学修評価、ティーチング・ポートフォリオなどによる教員評価についてはその評価手法の研究・開発とともに、評価に関する専門的な人材の養成方途についても検討することも求められる。

○ 大学情報の積極的発信については、一年間の成果を比較可能な形で情報発信するいわばアニュアル・レポートとしての自己・点検評価書の公表や活用とともに、関係機関による「大学ポートレート(仮称)」の早期整備が極めて重要である。大学ポートレート(仮称)の重要な役割の一つは、保護者、受験生、高校生、企業、高校等のステークホルダーが、それぞれの大学がその機能に応じてどのような教育に取組み、成果を挙げているかなどについての情報を知ることにより、従来の偏差値によるランキングなどとは異なる実態に即した確かな大学像が共有できるようになることである。

○ 平成16年度からスタートし22年に7年間の第一サイクルが終了した認証評価は、現在第二サイクルに入っている。各認証評価機関は、第二サイクルに入るに当たり認証評価の見直しを図っており、内部質保証が行われているかどうかを重視する動きも見られる。関係機関が、学士課程教育の改革サイクルが適切に機能しているかどうかなど学修成果を重視した評価が認証評価で行われることを促すことが重要である。また、学士課程教育もそれぞれの大学の機能や学生の能力や適性によって、その実際や力点、強みや課題は大きく異なる。それぞれの大学の特徴がより明確に把握できる客観的な指標の開発、大学がその機能を踏まえて重点を置いている教育活動や研究活動に着目した評価など認証評価の改善も求められる。

○ なお、学士課程教育の質的な転換のための全学的な教学ガバナンスの在り方については、国内外の事例を収集・検討した上で、引き続き審議を重ねることとしている。

 

5.今後の検討課題と短期大学士課程

○ 今後の審議において検討すべき課題としては、例えば、

  • 各大学における学修に関する実態把握
  • 学修成果を重視した認証評価の在り方
  • 全学的な教学ガバナンスの在り方

 などがある。引き続き検討を重ねることとしている。

○ なお、今回の「審議のまとめ」は学士課程教育の在り方に焦点を当てており、短期大学士課程固有の問題にかかわる提言を行っていない。ただ、学修時間の増加・確保をめぐる課題は共通するものであり、短期大学士課程についても、その特性等を踏まえつつ、中教審大学分科会大学教育部会の審議を短期大学における主体的な取組に活かしていただくことを望むものである。

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