大学教育部会の審議状況と課題について(骨子案)

グローバルに活躍する人材育成のための大学教育の方向性

○ 冷戦終結後の社会・経済の知識基盤社会化・グローバル化の進展は、社会や産業の構造を大きく変化させており、

  • エネルギーや環境の持続可能性、食料・医療・健康などの課題、
  • アジア経済の一体化、グローバル化と経済競争の激化、価値観の多様化、
  • 少子高齢化と労働人口減少、厳しい経済情勢での雇用への懸念、財政状況の悪化、社会の安全安心の確保

といった環境の中で、我が国は成熟社会に適合した新たな社会モデルを構築し、経済の成長と公正な社会の実現の両立を図ることが求められている。

○ そのような社会を生き抜くためには、これまでの大量生産・流通・消費などのニーズに対応するため与えられた情報を短期間に理解、再生、反復する力だけではなく、個人や社会の多様性を尊重しつつ、幅広い知識と柔軟な思考力に基づいて新しい価値を創造したり、異なる他者と協働したりする能力等が重要となっている。

○ 特に、大学教育においては、答えのない問題を発見し、その原因について考え、最善解を導くために必要な専門的知識及び汎用的能力を鍛えるとともに、社会体験活動や留学経験などを通じて、高い倫理観や社会貢献の精神、豊かな人間性を身に付け、全人格的に成長させることが必要である。

○ このように語学力や異文化に対する理解などの要素に加え、幅広い教養と深い専門性、問題発見・解決能力、自己表現力等をはぐくむためには、例えばアメリカの大学に比べても少ない学生の学習時間を増加させるとともに、一方向の知識伝達のみではなく、学生の思考や表現を引き出しその知性を鍛えるために、十分な準備とICTなどの活用による双方向の授業を中心とした質の高いものへと転換することが必須となっている。

○ そのためには、
(1)中央教育審議会「学士課程教育の構築について(答申)」(平成20年12月24日)で提示された学士力をはぐくむための体系的なカリキュラムの構築、
(2)ナンバリングをはじめとした体系的なカリキュラムの実効性を高めるツールの活用と学習支援環境の整備、
(3)カリキュラムを担う教員の教育力の向上、
(4)それぞれの大学の機能や学生の状況に応じた、学習到達度の把握や認証評価の活用など、教育成果を可視化し、学士課程教育の進化・革新を促す仕組みの確立、
(5)これら全体を支える全学的な学士教育課程充実のためのガバナンス、
が必要である。

○ イノベーションをリードする先進国の大学については、研究とともに教育についても国際的な通用性が求められている。大学がユニバーサル化する先進国において大学改革が大きな社会的・政治的な課題となっている所以である。文部科学省や関係機関は、大学の教育研究の自主性・自律性を前提としつつ、各大学において学士課程教育の進化・革新が進展するように各般の施策を速やかに展開することが求められる。その際、大学を含めた学校教育全体を通じて、それぞれの段階の教育プログラムが個々人の能力や技能をいかに伸ばすかが重要になっている中、高等教育におけるキャリア教育・職業教育の充実や初等中等教育と高等教育の円滑な接続に特に留意する必要があることは言を俟たない。

○ 他方、各大学においては、知識社会化・グローバル化の進展の中で、大学教育の質的な転換を図り、学生を知的に鍛える場として自らを進化・革新させることは、次代の担い手である学生だけではなく未来社会そのものに対する重要な責務であることを強く認識することを求めたい。もとより大学教育の進化・革新の具体的な方策は一つではなく、各大学がその創意工夫を活かすことが求められるものであるが、大学の自主性・自律性は各大学が柔軟な創意工夫を凝らして教育研究の質を高めるためにこそ認められているものである。自主性・自律性をいかに有効に活用できるか、大学の真価が問われていると言えよう。

 

求められる方策

○学士課程教育の実質化(学生の学習時間の確保と学びの質的転換)

 我が国の大学生は、授業外での学習時間が少なく、授業が一方向の知識伝達中心で十分な準備をしていないため学習密度が低いという課題意識が示されているが、それは単に学生が勉強していないということではなく、大学教育の内外において、その環境が整備されていないためである。そのような課題意識に対応するため、以下のような方策が考えられる。

(1)体系的なカリキュラムの構築

  • 大学は、学位授与の方針、教育課程編成・実施の方針、入学者受入れの方針の3つの方針を明らかにした上で、この3つの方針にそって、学生の体系的な履修を可能とするカリキュラムを編成。
  • 当該カリキュラムを履修することにより、学生が答えのない問題を発見し、その原因について考え、最善解を導く能力を身に付けることを可能とする。
  • 教養教育や専門教育などの科目区分にこだわることなく、一貫した学士課程教育として組織的に取り組む。
  • 教員は、当該大学の3つの方針について共通理解をもち、教員団として具体的な教育実践に取り組む(チームによる教育の実現)。

    【具体的方策】
    ○各大学における学士課程教育の実質化に向けた取組状況の把握
     学生の学習時間の確保や学習密度の向上のための各大学の工夫の実態について調査・把握し、各大学で取組が推進されるよう必要な対応を行う。

 

(2)体系的なカリキュラムの実効性を高めるツールの活用と学習支援環境の整備

  • カリキュラムの編成において活用するツールの総合的な導入と実質化。
    (例:シラバス(学習時間の目安や必要な課題の明確化等)、プログラムシラバス、ナンバリング、GPA、キャップ制等)
  • カリキュラムを体系化するための授業科目数の削減や科目間連携、単位制度の実質化を前提とした週複数回授業の実施(授業期間の弾力化)。
  • 大学の機能や人材養成目的に応じた多様な教育手法の導入。
    (例:アクティブラーニング(問題発見解決型学習、双方向型学習、ディベートによる学習等)等)
  • TA、教育支援員など教育サポートスタッフの充実
  • ICTを活用した双方向型の授業や教学システムの整備
  • 授業外の学習のための環境整備
  • 学生の学びを支える環境整備(学生が安心して学べるための十分な経済的支援、就職活動の早期化・長期化の是正)

    【具体的方策】
    ○学習支援環境の整備の促進
     教育サポートスタッフやICTの活用事例の実態について調査・把握し、各大学の工夫の実態について調査・把握し、各大学で取組が推進されるよう必要な対応を行う。

 

(3)教員の教育力の向上と教職員の組織力の強化

  • 効果的な教育手法の開発など教員の教育力の向上
  • ティーチング・ポートフォリオなどを活用した教育業績の可視化
  • 組織的な教育を支える教職員の協働体制や職員の専門性の向上

    【具体的方策】
    ○FD・SDに関する取組状況の把握
     教員の教育力の向上や職員の職能開発など,FD・SDに関する各大学における工夫教育サポートスタッフやICTの活用事例の実態について調査・把握し、各大学で学生の学習支援環境整備が推進されるよう必要な対応を行う。

 

(4)教育成果を可視化し、学士課程教育の進化・革新を促す仕組みの確立

  • 学習活動の把握(アドバイザー制、学習ポートフォリオのシステム)
  • 学習成果の直接的・間接的把握(アセスメントテスト、既存テストのベンチマーク、学習行動調査、ルーブリックの活用等)
  • 分野別コア・カリキュラム(日本学術会議の参照基準等)の活用
  • 教育活動の状況を発信する共通基盤の構築

    【具体的方策】
    ○学生の学習時間の確保と学習密度の向上をはかるための指標開発の検討
     
    米国においては、以下のような学士課程の学習成果を測定する仕組みの開発が進んでいる(別紙2)。諸外国の例も参考にしつつ、学生の学習到達度をはかる方法や、学生の学習行動を調査する方法など我が国に適した評価手法を大学支援法人、大学間の連携、学協会を含む大学団体等において研究・開発することを推進し、そのような方法を各大学の判断で活用することを可能とする。

    ○「大学ポートレート(仮称)」の早期整備
     大学の教育活動の状況や成果について、社会に対する説明責任を果たすとともに、教育の質の向上を図る観点から、各大学の特色や強みをはじめとする教育情報が、大学関係者に共有されるとともに、幅広い関係者に対して分かりやすく発信する仕組みを、可能な限り早期に整備する。

    ○評価を通じた大学の取組の促進
     学生の学びの充実のための取組の状況、認証評価において学習成果を重視した評価を行うことにより、各大学の取組を促進する。

 

(5)全学的な学士課程教育の充実のためのガバナンス

 大学として一貫性・体系性をもったプログラムを合理的に提供し、各学生の学習密度を高めるためには、教員主体の授業科目の編成から教育課程中心の授業科目の編成が必要である。そのためには、教学システムの再構築やそれを支援するスタッフの充実が必要である。
 また、上記の教学改革を進めるには、学長のリーダーシップによる全学的な合意形成が不可欠であり、それを可能とする実効性のある全学的なガバナンスの確立が求められる。

  1. 全学的な教学マネジメントの確立
    • 各大学において、学位授与の方針、教育課程編成・実施の方針、入学者受入れの方針の3つの方針を明らかにした上で、学長のリーダーシップの下、この3つの方針にそって、全学的にカリキュラムの編成を実施。
    • 学長のリーダーシップによる意思決定メカニズムの確立
    • 学部等のみならず、教務事務、経営部局等に存在する高度な専門職員・スタッフ等が、それぞれの専門的な見地から、多様なアプローチで教育改善
    • 全学的なリソース(人員・予算)の調整やデータ分析・教育開発支援
  1. ガバナンスの確立のための体制整備
    • 学長が円滑に権限行使できる態勢の整備
    • 教員の意識改革を促す仕組みの構築
    • 教学事務に関する学部・学科と本部の役割、本部での教学事務の責任者の明確化
    • 大学全体のガバナンスに関する専門職の育成やデータ分析等のシステム整備

    【検討スケジュール】
     審議まとめの方向性を踏まえて、国内外の事例を収集・検証した上で、大学全体のガバナンスについては、夏までに具体的な提言をとりまとめ。

 

○評価制度の見直し(教育研究成果を重視した評価)

 大学全体の教育研究活動の評価を行う認証評価は、平成16年度から実施され、大学の質保証の仕組みとして定着している。平成22年度までのいわゆる第1サイクルを通じて、教育研究活動の状況や課題の把握、教職員の教育研究への取組の意識向上などが進んだ。
 しかしながら、認証評価や自己点検・評価の結果に基づき、その教育研究活動の更なる改善を進めている大学はまだ多くないと指摘されている。
 そうした状況を踏まえ、また、各大学における学士課程教育の実質化の取組を促進させるため、認証評価制度について、評価を通じた質の保証・向上の促進、社会との関係の強化、評価の効率化の観点から見直しを行う。

(1)評価を通じた質の保証・向上の促進

 教育目的や教員数、教育課程の編成状況など、教育研究環境を中心とした評価から、教育研究活動の状況や教育研究の成果、成果の把握とそれによる改善を中心とした評価への発展を促進させる。
 また、大学の機能別分化が進む中で、各大学の多様性に対応した評価を行うため、特定の教育研究活動(例えば、国際的な教育活動、教養教育、地域貢献、研究・イノベーションなど)に重点を置いて評価を行う。

  1. 学習成果を重視した評価
    • 教育活動の状況の評価
       シラバスなどカリキュラムの編成上の工夫や大学の機能・人材養成目的に応じた多様な教育手法の導入など、学生の学習意欲を高め、教育効果を向上させるための大学の全学的な取組の状況を評価する。
    • 教育の成果の評価学生の学習活動や学習成果の直接的・間接的な把握についての全学的な取組状況や、各大学が目標として定める教育水準の達成状況を評価する。
    • 教育の改善状況の評価
       学生の学習成果の把握、教育方法の点検などを通じて組織的に教育を改善するための取組状況、教育活動に関する情報公表の状況を評価する。
  1.  機能別分化の進展に対応した評価の多様化
    • 特定の教育研究活動に着目した評価基準の整備
       評価機関が、特定の教育研究活動に着目した評価基準を設定し、各大学は個性や特色、重点を置いている教育研究活動に応じて、多様な評価を受けられるようにする。
    • 客観的な指標の開発
       各大学における具体的な目標設定や評価での活用に資するよう、特定の教育研究活動に関する客観的な指標を開発する。
  1.  評価結果を改善につなげる仕組みの構築
    • 評価結果のフォローアップ
       評価機関が、課題として指摘した事項について、一定期間経過後にどのように改善しているか検証し、公表する。
    • 評価結果を踏まえた情報提供
       評価機関が、毎年度の評価を通じて把握する各大学の優れた取組や課題解決事例について幅広く情報発信する。

(2)社会との関係の強化

 認証評価は、各大学や評価機関が多くの資源を投じて実施されており、様々な改善の成果が出ているもののそれらが十分に社会的に認知されているとは言えない。また、大学進学率の上昇や新規就業者の過半を大学卒業者が占める状況にあって、大学の評価について、幅広い関係者の意見を踏まえた評価にすることによって、評価の質を継続的に向上させる。

  • 評価にあたっては、高等学校や自治体、産業界など幅広い関係者の意見を聞く。
  • 認証評価機関が、活動状況を積極的に社会へ公表する。
  • 認証評価機関が、関係機関と連携し、教育の質保証に関する調査研究を行い、評価の質を継続的に向上させる。

(3)評価の効率化

  1. 各大学における改革の進展に対応した評価の簡素化
    • 情報公表との連携
       大学ポートレート(仮称)を用いるなどにより、教育研究活動の状況の積極的な情報発信に取り組む大学については、通常より簡素な評価を受けることができるようにする。
    • 評価の実績の考慮
       評価の実績や評価結果を踏まえた改善の取組などを踏まえて、評価機関の判断により評価項目を削減するなど評価に関する負担を軽減できるようにする。
       
  2. 評価制度間の関係の効率化
    • 国立大学法人評価における認証評価の活用
       国立大学法人の中期目標の達成状況の評価にあたり、認証評価の結果を活用するなど、評価業務の効率化を図る。
    • 認証評価の機関別評価と専門職大学院評価の調整
       機関別評価にあたり、専門職大学院評価の結果を活用するなど、評価業務の効率化を図る。

    【検討スケジュール】
     審議まとめの方向性を踏まえて、法令上の措置を含めて夏までに具体的な方策をとりまとめ。

 

別紙1

【学士力(学士課程共通の学習成果に関する参考指針)について】

 学士課程答申では,学士課程教育を通じた学習成果の参考指針として,「学士力」を提示している。
 これは,教養教育と専門基礎教育とを中心とする学士課程教育において,どの分野を専攻するのか,将来像答申の掲げる諸機能のいずれに重点を置くかを問わず,それぞれの大学,学部・学科において,自らの教育を通じて達成していくものとして提起されている。

<知識・理解>
●多文化・異文化に関する知識の理解 ●人類の文化,社会と自然に関する知識の理解

<汎用的技能>
●コミュニケーション・スキル ●数量的スキル ●情報リテラシー ●論理的思考力 ●問題解決力

<態度・志向性>
●自己管理力 ●チームワーク ●リーダーシップ ●倫理観 ●市民としての社会的責任 ●生涯学習力

<統合的な学習経験と創造的思考力>
●これまでに獲得した知識・技能・態度等を総合的に活用し,自らが立てた新たな課題にそれらを適用し,その課題を解決する能力

 

【機能別分化について】

○ 将来像答申では,大学が併有している機能の例を挙げ,これらの機能の比重の置き方の違いによって,大学が分化すること を想定した(世界的研究教育拠点,高度専門職業人養成,幅広い職業人養成,総合的教養教育,特定の専門的分野の教育研究,地域の生涯学習の拠点,社会貢 献)。

○ この機能別分化の考え方は,大学が7つに種別化されることを意味するものではなく,大学の個性・特色が,教育研究活動として具体化される際には,極めて多彩なものとして表現される。

○ 各大学には,それぞれの使命の実現にふさわしい教育課程,学生支援,学内の各種の組織等を整備し,教育の質を保証することが求められる。

○ このような機能別分化の進展への対応のための支援策として,

  • 機能別分化の進展に対応した取組への財政支援
  • 大学の教育活動の可視化(大学ポートレート(仮称)の早期整備)
  • 大学を支援する団体の役割の充実

 が示され,順次具体化が進められている。

 

別紙2

(米国における学士課程の学習成果を測定する仕組みの例)

【学生の学習到達度を測定することを主眼にしたもの】

  1. CLA(The Collegiate Learning Assessment)
     教育支援協議会(Council for Aid to Education)が実施する,大学生の到達度を測定する試験。
     実践的作業(Performance Task)や書き出しの定型語句(Written Prompts)を用いて,学生の批判的思考(Critical Thinking),分析的論理付け能力(Analytic Reasoning),文章表現能力(Written Communication),問題解決能力(Problem Solving)を評価する。第1学年時と最高学年時において学生を評価することで,学生の付加価値を機関ごとに評価することを目的としている。
     
  2. MAPP(Measure of Academic Proficiency and Progress)
     教育テスト事業団(ETS)が実施する主に学士課程前半の学生を対象に一般教育(General Education)の到達度を測定する。
     選択式試験(文章表現能力について小論文作成)で,学生の批判的思 考(Critical Thinking),読解力(Reading),文章表現能力(Writing),数学的能力(Mathematics)を評価する。試験の結果は,各大 学のカリキュラム向上等のための資料や,アクレディテーション等の指標として使用されることが意図されている。

【学生の学習行動を調査することを主眼としたもの】

  1. NSSE
     インディアナ大学が開発している全国規模の評価ツールであり,米国・カナダを合わせて1,300 以上の4年制大学に活用されている。
     調査項目内容は,「授業内外における活動」,「授業内における学習成果」,「教員や他の学生との関わり」,「その他の教育活動」に焦点を当てており,以下の5つの観点を学生アウトカム評価のベンチマークとして定めている。
    <NSSE調査の5つのベンチマーク>
    1. 教学のチャレンジレベル
    2. 積極的かつ協同的な学習 
    3. 学生と教員の関わり
    4. 教育経験の充実化
    5. キャンパス環境

     NSSE調査は大学での経験に関して学生の自己の振り返りを示すもので,間接評価にあたるものだが,参加大学数が多いことから特定のベンチマークにおいて他大学間の比較や学内の経年比較が可能であり,大学機関のニーズに合わせて比較対象をカスタマイズすることができる。
     さらに,NSSE調査は比較的短時間で回答ができるとのことでその使いやすさにも定評があり,全国レベルで高い利用率を得ている。
     回答は点数化され,他大学や全国平均との比較がされ,参加大学に提供される。大学はNSSEの結果の検討を通じて,学習過程を分析的・探索的に把握し,教育現場の改善に資することができる。

 

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