資料1 大学教育部会の審議状況と課題について(骨子案)

グローバルに活躍する人材育成のための大学教育の方向性

○ 社会・経済のグローバル化が進展する中,我が国が持続的に発展していくためには、多様な分野でグローバルに活躍する人材の育成が急務である。

○ グローバルに活躍する人材に関しては,語学力や異文化に対する理解などの要素にとどまらず,社会の中核を支える人材として,幅広い教養と深い専門性,問題発見・解決能力,自己表現力等が共通に求められている。

○ とりわけ,大学における教育に対しては,高等教育の中核的な機関として,こうした将来の社会の中核を支える人材を養成していく機能を果たすことについての強い期待が寄せられており,各大学にはその責任を改めて自覚することが求められている。

○ 大学教育には,答えのない問題を発見し,その原因について考え,最善解を導くという作業が根底にある。また,大学は,授業だけではなく,学生生活全般を通じて,高い倫理観や社会貢献の精神,豊かな人間性を身に付け,全人格的に成長する場でもある。

○ 大学における教育・学生生活を通じ,学生が主体的に学び,切磋琢磨することで,専門的知識及び汎用的能力を身に付けるとともに,人格形成を行い,全ての人材がグローバル化に対応できる資質・能力,新たな価値や多様な分野での改善を生み出す資質・能力を獲得する必要がある。

○ このためには,「学生の学習時間の確保と学習密度の向上」が必要であり,それを促進するために,「全学的な教学マネジメント」,「教育研究成果を重視した評価」を確立することが求められる。

 

求められる方策

1.学士課程教育の実質化(学生の学習時間の確保と学習密度の向上)

  1. 体系的なカリキュラムの構築
    • カリキュラムの編成上の仕組みの総合的な導入と実質化。
      (例:シラバス(学習時間の目安や必要な課題の明確化等),プログラムシラバス,ナンバリング,GPA,キャップ制等)
    • 授業科目数の削減や科目間連携,週複数回授業の実施。
    • 大学の機能や人材養成目的に応じた多様な教育手法の導入。
      (例:アクティブラーニング(問題発見解決型学習,双方向型学習,ディベートによる学習等)等)
  2. 学習支援環境の整備
    • TA,教育支援員など教育サポートスタッフの充実(チームによる教育の実現)
    • ICTを活用した教学システムの整備
    • 授業外の学習のための環境整備
  1. 学士課程教育の学習成果の設定・把握,そのプロセス管理
    • 学習活動の把握(アドバイザー制,学習ポートフォリオのシステム)
    • 学習成果の直接的・間接的把握(アセスメントテスト,既存テストのベンチマーク,学習行動調査,ルーブリックの活用等)
  1. 教育活動の状況を発信する共通基盤の整備
    • 「大学ポートレート(仮称)」の早期整備

【具体的方策】

(1)学生の学習時間の確保と学習密度の向上のための体系的なカリキュラムの構築、学習支援環境の整備
 学生の学習時間の確保や学習密度の向上のための各大学の工夫,教育サポートスタッフやICTの活用事例の実態について調査・把握し,各大学で学生の学習支援環境整備が推進されるよう必要な対応を行う。

(2)学生の学習時間の確保と学習密度の向上をはかるための指標開発
 米国においては,以下のような学士課程の学習成果を測定する仕組みの開発が進んでいる(別紙2)。諸外国の例も参考にしつつ,学生の学習到達度をはかる方法や,学生の学習行動を調査する方法など我が国に適した評価手法を大学支援法人等において研究・開発することを推進し,そのような方法を各大学の判断で活用することを可能とする。

(3)評価を通じた大学の取組の促進
 学生の学びの充実のための取組の状況,学習成果を重視した評価を行うことにより,各大学の取組を促進する。

 

2.ガバナンスの確立(全学的な教学マネジメントの確立)

  1. 全学的な教学マネジメントの確立
    • 学部等のみならず,教務事務,経営部局等に存在する高度な専門職員・スタッフ等が,それぞれの専門的な見地から,多様なアプローチで教育改善
    • 全学的なリソース(人員・予算)の調整やデータ分析・教育開発支援
  1. ガバナンスの確立のための体制整備
    • 教学事務に関する学部・学科と本部の役割,本部での教学事務の責任者の明確化
    • 大学全体のガバナンスに関する専門スタッフの育成やデータ分析等のシステム整備

【検討スケジュール】

 審議まとめの方向性を踏まえて,国内外の事例を収集・検証した上で,大学全体のガバナンスについては,夏までに具体的な提言をとりまとめ。

 

3.評価制度の見直し(教育研究成果を重視した評価)

(1)評価を通じた質の保証・向上の促進
 
教育目的や教員数,教育課程の編成状況など,教育研究環境を中心とした評価から,教育研究活動の状況や教育研究成果,成果の把握とそれによる改善を中心とした評価に移行させていく。
 また,大学の機能別分化が進む中で,各大学の多様性に対応した評価を行うため,特定の教育研究活動(国際的な教育活動,教養教育,地域貢献,研究・イノベーションなど)に重点を置いて評価を行う。

  1. 教育研究成果を重視した評価
    • 教育活動の状況の評価の観点
       シラバスなどカリキュラムの編成上の工夫や大学の機能・人材養成目的に応じた多様な教育手法の導入など,学生の学習意欲を高め,教育効果を向上させる取組の状況
    • 教育研究成果の評価の観点
       学習活動や学習成果を直接的・間接的に把握する取組の実施状況や,各大学が目標として定める教育研究水準の達成状況
    • 教育研究の改善の取組の評価の観点
       授業評価とその結果の活用,教員間の連携による教育研究を改善するための取組,教育研究活動に関する公表の状況
  1. 機能別分化の進展への対応した評価の多様化
    • 多様な評価基準の設定
       評価機関が,複数の評価基準を設定し,各大学は個性や特色,重点を置いている教育活動に応じて,多様な評価を受けられるようにする。
    • 客観的な指標の開発
       各大学における具体的な目標設定や評価での活用に資するよう,特定の教育研究活動に関する客観的な指標を開発する。
  1. 評価結果を改善につなげる仕組みの構築
    • 評価のフォローアップ
       評価機関が,課題として指摘した事項について,どのように改善しているか,一定期間経過後に検証し,公表する。
    • 評価結果を踏まえた情報提供
       評価機関が,毎年度の評価を通じて把握し各大学の優れた取組や課題解決事例について幅広く情報発信する。

(2)社会との関係の強化
 
認証評価に関する社会的認知を高めるとともに,幅広い関係者の意見を踏まえた評価にすることによって,評価の質を継続的に向上させる。

    • 進学希望者(高校)や社会(産業界や自治体等)の意見を聞く。
    • 認証評価機関が,活動状況を積極的に社会へ公表する。
    • 認証評価機関が,関係機関と連携し,教育の質保証に関する調査研究を行い,評価の質を継続的に向上させる。

(3)評価の効率化

  1. 各大学における改革の進展に対応した評価の簡素化
    • 情報公表との連携
       大学ポートレート(仮称)を用いるなどにより,教育研究活動の状況の積極的な情報発信に取り組んでいる大学については,より簡素な評価を受けることができるようにする。
    • 評価の実績の考慮
       評価の実績や評価結果を踏まえた改善の取組などを踏まえて,評価機関の判断により評価項目を削減するなど評価に関する負担を軽減できるようにする。
  1. 国立大学法人評価における認証評価の活用
     国立大学法人の中期目標の達成状況の評価にあたり,認証評価の結果を活用するなど,評価業務の効率化を図る。

【検討スケジュール】

 審議まとめの方向性を踏まえて,法令上の措置を含めて夏までに具体的な方策をとりまとめ。

 

別紙1

【学士力(学士課程共通の学習成果に関する参考指針)について】

 学士課程答申では,学士課程教育を通じた学習成果の参考指針として,「学士力」を提示している。
 これは,教養教育と専門基礎教育とを中心とする学士課程教育において,どの分野を専攻するのか,将来像答申の掲げる諸機能のいずれに重点を置くかを問わず,それぞれの大学,学部・学科において,自らの教育を通じて達成していくものとして提起されている。

<知識・理解>
●多文化・異文化に関する知識の理解 ●人類の文化,社会と自然に関する知識の理解

<汎用的技能>
●コミュニケーション・スキル ●数量的スキル ●情報リテラシー ●論理的思考力 ●問題解決力

<態度・志向性>
●自己管理力 ●チームワーク ●リーダーシップ ●倫理観 ●市民としての社会的責任 ●生涯学習力

<統合的な学習経験と創造的思考力>
●これまでに獲得した知識・技能・態度等を総合的に活用し,自らが立てた新たな課題にそれらを適用し,その課題を解決する能力

 

【機能別分化について】

○ 将来像答申では,大学が併有している機能の例を挙げ,これらの機能の比重の置き方の違いによって,大学が分化することを想定した(世界的研究教育拠点,高度専門職業人養成,幅広い職業人養成,総合的教養教育,特定の専門的分野の教育研究,地域の生涯学習の拠点,社会貢献)。

○ この機能別分化の考え方は,大学が7つに種別化されることを意味するものではなく,大学の個性・特色が,教育研究活動として具体化される際には,極めて多彩なものとして表現される。

○ 各大学には,それぞれの使命の実現にふさわしい教育課程,学生支援,学内の各種の組織等を整備し,教育の質を保証することが求められる。

○ このような機能別分化の進展への対応のための支援策として,

  • 機能別分化の進展に対応した取組への財政支援
  • 大学の教育活動の可視化(大学ポートレート(仮称)の早期整備)
  • 大学を支援する団体の役割の充実

 が示され,順次具体化が進められている。

 

別紙2

(米国における学士課程の学習成果を測定する仕組みの例)

【学生の学習到達度を測定することを主眼にしたもの】

  1. CLA(The Collegiate Learning Assessment)
     教育支援協議会(Council for Aid to Education)が実施する,大学生の到達度を測定する試験。
     実践的作業(Performance Task)や書き出しの定型語句(Written Prompts)を用いて,学生の批判的思考(Critical Thinking),分析的論理付け能力(Analytic Reasoning),文章表現能力(Written Communication),問題解決能力(Problem Solving)を評価する。第1学年時と最高学年時において学生を評価することで,学生の付加価値を機関ごとに評価することを目的としている。
     
  2. MAPP(Measure of Academic Proficiency and Progress)
     教育テスト事業団(ETS)が実施する主に学士課程前半の学生を対象に一般教育(General Education)の到達度を測定する。
     選択式試験(文章表現能力について小論文作成)で,学生の批判的思考(Critical Thinking),読解力(Reading),文章表現能力(Writing),数学的能力(Mathematics)を評価する。試験の結果は,各大学のカリキュラム向上等のための資料や,アクレディテーション等の指標として使用されることが意図されている。

【学生の学習行動を調査することを主眼としたもの】

  1. NSSE
     インディアナ大学が開発している全国規模の評価ツールであり,米国・カナダを合わせて1,300 以上の4年制大学に活用されている。
     調査項目内容は,「授業内外における活動」,「授業内における学習成果」,「教員や他の学生との関わり」,「その他の教育活動」に焦点を当てており,以下の5つの観点を学生アウトカム評価のベンチマークとして定めている。
    <NSSE調査の5つのベンチマーク>
    1. 教学のチャレンジレベル
    2. 積極的かつ協同的な学習 
    3. 学生と教員の関わり
    4. 教育経験の充実化
    5. キャンパス環境

     NSSE調査は大学での経験に関して学生の自己の振り返りを示すもので,間接評価にあたるものだが,参加大学数が多いことから特定のベンチマークにおいて他大学間の比較や学内の経年比較が可能であり,大学機関のニーズに合わせて比較対象をカスタマイズすることができる。
     さらに,NSSE調査は比較的短時間で回答ができるとのことでその使いやすさにも定評があり,全国レベルで高い利用率を得ている。
     回答は点数化され,他大学や全国平均との比較がされ,参加大学に提供される。大学はNSSEの結果の検討を通じて,学習過程を分析的・探索的に把握し,教育現場の改善に資することができる。

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高等教育局高等教育企画課高等教育政策室