資料4-2 これまでの主な意見

1.「学士課程答申」以後の各大学の取組を踏まえた論点整理

【中心テーマ(イメージ)】
(1) 「学士力」→ 各大学の重点を置く機能や使命に照らしながら,修得すべき知識・能力を明確化すること,また,その取組状況の把握と,その充実。
(2) 教育内容・方法→ 学生の学習量と,その密度。
(3) 学内の実施体制→ 学長によるリーダーシップによる運営と,FD・SDを通じた教職員の職能開発と認識の共有を通じた運営。

【なお,検討に当たっての留意事項】
1. 初中教育との情報共有の必要性,また,産業界を含む社会との関わり。
2. 機能別分化の進展への対応(各大学で重点を置く機能や分野等は多様)
3. 各大学の取組とともに,大学団体などによる取組の重視

 これらに関し,更に審議を進める

 2.「学士課程答申」以後のグローバル化への急速な進展を踏まえた論点整理

  •  「学士課程答申」も,大学制度の国際的な共通性を前提としていたが,大学分科会では,この答申後,大学教育のグローバル化を意識した提言を一層重視。
    1.質保証の枠組み
    (例:国内の質保証システムの議論に加え,アジアにおける連携の枠組み)
    2. 情報発信
    (例:すべての大学を対象とする情報公表に加え,グローバルな情報発信)
    3.教育連携
    (例:国内の大学連携に加え,ダブル・ディグリー等の海外との連携ガイドライン)
  •  こうした蓄積に基づく論点整理をさらに進めつつ,グローバル化の進展や,震災後の我が国の人材育成の在り方を踏まえた審議が必要。

 3.これまでの検討課題として挙げられた意見例

 検討の方法

  • 実質化ができている大学の取組を手がかりとし,形式的になっている部分を見直すこと。
  • ポイントを精査し,各大学がどのように取り組めばよいか分かるよう具体的な提案を速やかに進めること。
    • 各大学が,機能別分化の進展の中で,社会の要請に応える人材養成のために,学生受入れ/教育のプロセス/学位授与,の3つの方針を設定し,その結果として,人材養成が本来の目標にのっとって行われたか評価し,教育改善にフィードバックする仕組みを整えることが課題となっている。そうした観点から,各大学で,3つの方針の設定とその運用が適切になされているか確認しながら,質保証の検討を進めるべきであること。
    • 大学改革に関する今日的な問題意識として,
      • グローバル化の中で高度な教育研究の必要性,
      • 大学の輩出する人材の産業界とのミスマッチとの指摘,
      • 少子化による経営困難な大学における対応,

     の3つの課題が挙げられ,これらを踏まえた検討が求められている。

(1) 学位授与の方針

 例:・人材養成目的の作成と公表
      ・修了時に修得することを想定する知識・能力

    • 本年4月の省令改正により,「修得すべき知識・能力に関する情報」を各大学で公表に努めることとされており,それを受けた各大学の取組事例は多様であるが現時点では,総じて,抽象的な記述にとどまっていないか。
    • 「学士力」に関連して,各大学で,学士課程を通じた学習成果を具体的に示す試みがどのようになされているか(それぞれの教育理念,学生の実態,分野の特性等を踏まえた検討の状況)。
    • 諸外国で,学修成果への関心が高まっている中で,我が国における推進方策について。その際,学修成果の設定と,その実現のための具体的な取組の課題について(分野横断的な学士力と,学部・学科ごとに修得すべき知識・能力の明確化の関係)。
  •  学習成果について
    • 学習成果を求める議論が先行するのには懸念がある。学習成果の測定(AHELOなどの卒業テスト,ルーブリック)により,学生の学習が実質化するというのは幻想。テスト導入は,テストに向けた教育課程編成につながる。
    • その考え方には同意するものの,大学の学科長へのアンケートでは,学力の底支えを求める観点から,汎用的能力の客観テストに関心があること。
    • ルーブリックの活用について。
    • 4年間よりも長い期間をかけて発現することを目指す教育をどのように考えるか。
    • 認証評価と関連付けや専門分野別の認証評価など,まずピアで取組を評価する状態をつくることが必要。
    • AHELOへの参画については,学習成果の測定そのものよりも,各国の教育の違いを発見し,改善につなげていくプロセスに意義がある。

 (2) 教育課程の内容・方法の方針

 1.教育課程の体系化・単位制度の実質化
 例:・順次性のある体系的な教育課程の編成

    • 日本の大学では,教授の問題として,様々な改革の小道具が導入されたものの,カリキュラムが体系的に構築されていない。
    • 学習の問題として,学生が学習せず,単位制の理念が生きていない。そのための制度的・予算的対応を含めた検討が必要。
    • 一般的に,我が国では,履修科目数が多いと指摘されており,これらを分野別に細かく見る必要があること。
    • 医歯薬系は科目が細分化されているが,質保証が取り組まれており,分野によって違いがあること。
    • 認証評価において教育課程の体系化を検証すること。

   ・ 幅広い学修の機会を提供するための意図的・組織的な取組

    • 実質的な教育・学習の構造化が進んでおらず,大学の規模・分野の差も大きい。
    • 改革は教員任せでは進まず,ガバナンス改革を教育方法の改善支援とともに進めることが必要。

   ・大学間や地域の諸団体との連携強化による教育内容の豊富化
   ・学生の学修時間の実態を把握し,教育方法の点検・見直し

    • 我が国では,卒業研究やゼミが重視されてきたことと,学習時間の関係(それらを含めても学習時間は少ないのが実態)。
    • 日本の学生は勉強しないのではなく,大学がやらせていないこと。教員の意識改革と,勉強時間の確保は,大学のレベルにかかわりなくやれることであること。
    • 海外の大学を選択する高校生が出ており,そうした生徒の意識からは,学習時間が教育プログラムの魅力と関係すること。
    • 改革を学内から動かすための単位制度と財政との関連付け。
    • 15回の授業+1週の試験よりも,1単位45時間の学習確保が重要。
    • 語学のような科目では,大学共通なルーブリックを整備できるのではないか。
    • 新規のショートステイ事業では,滞在が最大90日なので,15週に満たず,恒常的な仕組みとして単位を出すのが難しい。
    • キャップ制が形骸化している一方で,15週+1週(試験)が厳しく取り扱われているが,むしろどのような活動を行うか明確化すべき。
    • ルーブリックやカリキュラムマップをウェブに掲載することが目的として受け止められがち。
    • 我が国の大学教員は,少人数教育を重視しているが,研究室・ゼミでの指導を含めても,学生の学習時間の確保に限界。大学全体で学士課程教育を設計することが必要であり,ガバナンスの問題と切り離せない。
    • 1単位45時間という設置基準の規定をどのように考えるか。もともと設置基準整備前の日米の実態を踏まえて整備された考え方。欧州でも同様であり,国際的なスタンダードと言える。
    • 米国では,学生の学習時間のデータは公表され,アクレディテーション団体もそれを要求している。欧州も単位互換の際,正味で同じ学修時間を要求している。
    • 時間と学習量を結びつけること,何を身につけたかという成果の測定の2つは国際的に課題。
    • 医療系分野における学習の取扱いが,ここで議論している単位制度と乖離が大きい。

   ・シラバスの整備,授業時数の確保

    • 学生の学習プロセスに関する実態の把握(例:各授業科目における授業時数の確保の取組方策を含む)と,その分析を通じた改善について。
    • シラバスが,学生の履修に役立つものとして整備されることが求められることについて。
    • 各大学の実質的な努力を把握する仕組み。欧米では,様々なセンターやコンソーシアムによる取組。
    • あわせて,ナンバリングの整備が課題であることについて(ナンバリングの検討を通じて,学位課程の共通性の形成と,各大学の個性・特色のあり方が示される)
    • 単位制度が実質化し,履修を通じて何を修得するのかを確認することについて。また,学生の学習時間を増やすような工夫について。
    • あわせて,就職活動の早期化の現状に関する認識について。

 2.教育方法の改善
 例:・能動的な学習手法やボランティアをはじめとする多様な教育方法の導入

    • 震災後の人材育成の在り方として,ボランティアをはじめとする活動の充実
    • そうした活動が,教育課程の編成に当たって,どのように位置づけられ,それについて,学内の共通理解が得られているかどうか。

  ・教育研究上の目的に応じた情報通信技術の活用
  ・ツールとしての基盤教育(英語,日本語,数学的な思考)の体系的な実施
  ・入学した学生の意欲を持たせて成長させるための方策。

 3. 成績評価
 例:・GPA等の客観的な基準の認識の共有と厳格な適用

    • GPAが各教科の成績の加重平均の実施にとどまらず,教育の質を高めるための活用が求められることについて。
    • GPAの導入・実施に当たり,国際的に通用する仕組みとしての観点(評価の設定を標準的な在り方に揃える,不可となった科目も平均点に算入する,留年や退学の勧告等の基準とするなど)。また,GPAでの成績評価の設定に関する諸外国との比較について。
    • アメリカの大学(UC)では,日本の学生の交流に関連して,ナンバリングや体系的なシラバス整備の重要性が指摘されている。その中では,GPAの運用として,履修放棄した科目も成績に算定される。
    • アドバイザー制を導入するなど,きめ細かな履修指導や学習支援の実施。

  ・国際化を特色とする大学における外国語コミュニケーション能力の厳格な評価
 

(3) 入学者受入れの方針

例:・学位課程のあり方に照らした入学者受入方針の明確化
 

(4) 就業力の向上をはじめとする大学教育の課題について

  •  大学教育を通じて,専門的知識を培うとともに,知的・道徳的・応用的能力の育成の観点から,幅広く社会の形成と発展を担う人材育成の充実について,例えば,
    ・教育課程の内容・方法,
    ・学習成果の評価,
    ・実施のための学内のガバナンス
    などの観点から,どう考えるか。
    (震災後の我が国を担う観点からの人材育成の在り方を含む)

 例えば,
1.自然や社会の事象等に関し,正しい知識・理解を備え,発信できる知的人材,

    • 震災後の我が国の大学教育への問題意識をもとに,アメリカの動向を参考にしつつ,問題解決型教育プログラムに取り組んでいる事例について。

2.幅広い教養,高い公共性・倫理性を持ち,社会の安定・発展・創造に貢献する意欲・能力を持つ人材,
3.経済・社会のグローバル化が急速に進展する中で,グローバルな社会で活躍できるコミュニケーション能力や調整能力の高い人材。

    • グローバル化は,一部の企業と大学にとっての課題ではなく,基本的に,すべての大学にとっての課題であること(例えば,世界の動向への理解と,想定外のことがあっても自ら判断して,リーダーシップをとれる人材の養成)。
    • グローバルに活躍できる人材の育成が国内外の大学で行われており,また,産業界を含む社会の様々なセクターが,そうした人材を求めている中で,我が国の大学が,大学外の幅広い社会の多様な声を聞きながら,改革を進める必要がある。
    • 大学教育において,学問を通じて「問題設定-仮説設定-仮説検証-結果報告」を修得し,自ら考えることができる人材を育成することは,この大きな変化の時代に欠かせない。
    • 日本の大学で育った学生が国際社会でリーダーシップを発揮できるような教育を受けていないならば,我が国の発展に大きな影響を与えることとなる。
    • グローバル化した企業では,人材獲得は国際的な観点で行われており,そうした企業内の職員選考では,日本の大学の卒業者が,海外大学の出身者に勝てない事例がある。
    • 日本の大学が,ほかの国の大学に比べて劣っているということはないのではないか。理科系の者を多く採用する企業においては,専門分野の専門知識を修得していることを求めていることもあり,大学にそれほど問題点が多いということはない。企業は,採用後に,厳しいグローバル教育を実地で行っており,大学では,そうしたことに対応できるような,基礎的な知識・技能や,自らの専門分野を修得するような教育が求められる。
    • 大学教育を通じた共通基盤の確立という観点から,大学教育部会では,学士課程教育の課題について検討を開始している。そこでは,重要な課題は,学生にどう勉強させるかであって,その方策として,カリキュラムの体系性を整備すること,そして,教員の教育に向かう姿勢を個人的なものから組織的なものに変えていかなければならない。
      学士課程の施策を検証する際には,分野によって状況が違う原因も議論すべき。
  •  関連して,日本人・外国人学生を問わず,卒業後に国内外の多様な場で活躍できるような教育・学生支援の充実をどう図るか(国内外での雇用を念頭に置いた就職支援の推進を含む)。
  •  これらに関し,大学関係者と産業界等社会との対話の促進について。
    • 平成22年には,学生の社会的・職業的自立に関する指導等の実施の明確化のため,大学設置基準を改正(平成23年4月に施行)。
    • 文部科学省では,こうした設置基準改正を含む「就業力育成5カ年プラン」を公表。

 (5) 各大学の取組を把握・評価する仕組みについて

 例:・認証評価を通じた,各大学の活動状況に関する把握

    • 第5期の大学分科会の議論を踏まえて,認証評価機関(機関別評価と専門職学位課程評価とも)により,認証評価機関連絡協議会が発足しており,今後そうしたところでの議論の進展を期待。

・教育情報の公表の促進(本年4月に施行)

    • 省令改正を契機として,多くの大学が,ウェブサイトに「教育情報の公表」といったコーナーを開設し,情報を公表している。そうした各大学の取組状況の把握と,更なる検討(本年6月から,文科省の協力者会議で検討開始)。
    • 情報発信は各大学による取組が基本。加えて,大学団体の協力により,大学コミュニティによるオープンな検討を通じて,大学の取組を分析・発信するデータベースを整備することが課題。

・大学ポートレートの整備について

    • 「大学ポートレート」の整備に当たり,その予算・運営体制・スケジュールなど早急に具体化すべきである。
      グローバル化した企業では,人材獲得が国際的に行われており,国内の内輪での議論では切迫感がなく,「大学ポートレート」の整備は,スピード感をもって取り組むとともに,整備に当たって,海外の大学や企業の視点を取り入れることが重要である。
    • 大学教育に関する社会への発信に当たっては,どのくらい社会に寄与したか明らかにすべきである。大学教育における利益率(rate of return)の計測に関し,学生個人に着目した分析は蓄積されているが,大学教育の公共財として分析は難しい。大学の機能別分化の進展の中で,例えば,国際性・地域貢献などの観点から,公共財としての成果指標を編み出すことが重要である。
    • 企業は恒常的に社会の評価を受けている。大学も,教育の質の計測や評価などの検討を加速し,そうした状況を社会に公表していくことで,自然淘汰が進むような環境とすることが求められる。
    • 高校生などの大学への進路選択を検討している者には,大学評価の報告書を読んでいるものもおり,各種の報告書の公表と活用をさらに進めることも重要である。
    • 「大学ポートレート」を通じた情報公表は,大学の質の保証を伴ったものとしなければならない。例えば,「画一的なランキングを助長しない」ということは重要であるが,一方で,国際的な各種の評価や,社会からの評価などの客観的なデータの活用を工夫することが考えられる。

 

(6) そのほかの課題

例:・グローバル化への対応に関する制度的対応について

    • 大学の国際化に当たり,学位課程(プログラム)の確立(ダブル・ディグリーやジョイント・ディグリーへの対応を含む)。

・FD・SDの推進

    • 個々の教職員の努力とともに,教職員の組織的な活動を通じて,質保証・向上を果たす観点からどのように機能しているか。
    • FD・SDが形式化していないか(日常的な教育活動の中で,教員間の相談を通じて,体系的な学位課程を構築していくことが求められること)。
    • 学士課程の「三つの方針」の要素は互いに関連しており,FDを通じてそれらを結びつけて具体的な改革につなげていくこと。
    • FDを通じて,専門分野における教員間の意思疎通を図りながら,体系的なカリキュラムを構築すること。その場合の学内・学部内のガバナンスのあり方。

・初中教育との情報の共有の必要性。また,産業界を含む社会との関わり。
・教学に関するガバナンスの確立

    • 全学的に教学改善に取り組む観点から,特に同じ分野の教員がチームとして何を教えるか共通認識を持つこと。
    • 800の大学のすべてで同じガバナンスは難しく、学長リーダーシップだけで大学がよくなるわけではないこと。
    • H7の大学審議会「大学運営の円滑化」答申を今日的状況から捉え直すこと。
    • 「学生受入れ→教育課程→学位授与」を一貫して捉え,教学経営におけるPDCAを明確化すること。
    • IRの体制や,職員の位置づけについて。
    • 大学のガバナンスについて,さらに議論する必要がある。ガバナンスのスタイルは各大学で多様であってよいが,ある程度の共通の改善点もあるのではないか。
      例えば,アメリカでは,学士課程教育は,部局単位ではなく,大学全体として管理運営されている。また,カリキュラムが構造化されることで,「この授業では何を教えなければならないか」が自ずと決まり,授業時間や,学生の個別指導に充てる時間量もある程度決まってくる。アメリカの大学教育は,時代に応じて変化しており,その際には,個別の大学の学長によるイニシアティブがきっかけとなって,様々な大学に広がった事例もある。
      一方,我が国の大学の各種制度は,時代とともに変化して現在に至っているものであり,大学の自治を前提としつつ,諸外国と比較しながら,より合理的な観点から検討を要する。そういった観点から,より具体的に議論すべきである。
    • 教育の質の向上や機能別分化に関連して,ガバナンスのあり方を検討することは重要な要素である。ガバナンスのスタイルには,一つの望ましい基準があるのではなく,各大学の目指す目的や多様な教育・研究のあり方に合った形で行われるものである。
    • 様々な大学改革のテーマがあるが,そうした改革が実行される仕組みがなければ実現しない。改革の方法は,大学によって多様であるべきだが,学内だけで議論するのに加え,地域や社会の期待に応えているかという視点から運営を改善する仕組みを整える必要がある。

・支援方策

    • 1週間に複数回開講する授業を行う場合の現行の設置基準との関係。また、TAによるセッションを開催するとして、その補助をすることなど。
    • 大学の機能別分化を進め,そのガバナンス強化を通じて,各大学が,個性・特色を生かして教育を行うことで,多様な人材を育成していくことが不可欠となっている。そうした質の高い教育に対し,財政的に支援するとともに,その状況を社会に対して公表する仕組みを整備することは喫緊の課題である。
    • 大学予算全体や各大学の経営資源が限られている中で,優先度を定めて支援することが必要である。
    • 地方の大学は,大学としての使命を定めて,幅広い職業分野で活躍する人材を養成するなど地域に貢献する多様な取り組みが見られる。従来のGP事業やCOE事業に変わり,機能別分化の進展に対応した取組への支援が必要である。
    • 従来のGP事業は,個々の教員の発想に基づくボトムアップ型であり,また,その成果の学内全体や他大学への波及について課題が残った。
      それに対し,大学としての全学的なイニシアティブに基づいて教育目標を設定し,それを中心にカリキュラムを体系化し,組織的に取り組むものを支援すべきではないか。
    • その際,学部や学科ごとではなく,学長のリーダーシップに基づいて行われる大学全体としての活動が支援されるべきである。
    • 学内外の厳格な評価や検証に当たっては,大学関係者だけでなく,幅広く社会の意見を求めることとしなければならない。また,評価に際し,各大学が目指している機能が実現できたか,また,他大学へのインパクトはどうかといった観点が必要である。

・大学団体の活動の充実

    • 今回の3つの課題(大学教育の共通基盤の確立,機能別分化の進展への対応,そのための学内ガバナンスの強化)に向けて,様々な大学の成功事例や困難な課題などについて,大学間で交換すべき情報がまだあるのではないか。
      例えば,過去のGP事業がもとになって,カリキュラム改革に発展したり,何らかの形で学部・学科の再編等につながったりしている事例も少なくないと思われる。こういう事例の情報を交換していくことで,改革を進める余地があるのではないか。こうしたことは,従前より課題とされてきたが,さらに検討を深める余地があるのではないか。
    • 各大学が,それぞれの目的やその達成方法,あるいは地域・分野などの多様性の中で,それぞれが掲げる多様な機能がどのように実現されているかが評価の対象とされるべきである。
      そうした取組を進めるためにも,大学により構成される包括団体や,そのほかの中間団体の役割が重要である。

(参考)平成20年「学士課程教育の構築に向けて(答申)」の冒頭部分の抜粋

はじめに

 審議における問題意識は以下のとおり,学士課程教育の構築が,我が国の将来にとって喫緊の課題であるという認識に立っている。
 第一に,グローバルな知識基盤社会,学習社会において,我が国の学士課程教育は,未来の社会を支え,より良いものとする「21世紀型市民」を幅広く育成するという公共的な使命を果たし,社会からの信頼に応えていく必要がある。

    参考:平成17年「我が国の高等教育の将来像(答申)」

    • 活力ある社会が持続的に発展していくためには,専攻分野についての専門性を有するだけでなく,幅広い教養を身に付け,高い公共性・倫理性を保持しつつ,時代の変化に合わせて積極的に社会を支え,あるいは社会を改善していく資質を有する人材,すなわち「21世紀型市民」を多数育成していかねばならない。

 第二に,高等教育のグローバル化が進む中,学習成果を重視する国際的な流れを踏まえつつ,我が国の学士の水準の維持・向上のため,教育の中身の充実を図っていく必要がある。
 第三に,少子化,人口減少の趨勢の中,学士課程の入口では,いわゆる大学全入時代を迎え,教育の質を保証するシステムの再構築が迫られる一方,出口では,経済社会から,職業人としての基礎能力の育成,さらには創造的な人材の育成が強く要請されている。
 第四に,教育の質の維持・向上を図る観点から,大学間の協同が必要となっている。

第1章 グローバル化,ユニバーサル段階等をめぐる認識と改革の基本方向

1~2 (略)

3 これまでの改革の進展と懸念

(1) これまで,国においては,様々な規制を緩和し,大学間の競争的な環境づくりを進め,各大学の個性化・特色化を促す方針を取ってきた。
 具体的には,大学運営システムの改革(国立大学の法人化,公立大学法人制度の導入,学校法人制度の改善等),大学の質保証のための制度改革(設置認可の弾力化と第三者評価制度の導入等),国公私立大学を通じた優れた教育研究活動(GP: Good Practice)への重点的支援(以下,「GP事業」という。)等の取組を推進してきた。本審議会も,将来像答申において,大学の個性・特色の一層の明確化を求めるとともに,7つの機能類型を例示し,各大学が自らの選択により緩やかに機能別に分化していくことが望ましいと述べた。
 近年の文部科学省の調査によれば,各大学において教育内容・方法,成績評価,入試など各般にわたる改革の取組が見られたことから,大学の個性化・特色化が着実に進んできたと言えよう。

 (2) 他方,大学とは何かという問題意識が希薄化し,ともすれば目先の学生確保の必要性が優先される傾向がある中,我が国の大学,学位が保証する能力の水準が曖昧になることや,学位そのものが国際的な通用性を失うことへの懸念も強まってきている。
 例えば,学部・学科等の組織名称や,学士に付記する専攻分野の名称の多様化が進んでいるのは,そうした懸念を強める一因である。また,改革を通じて,学生の学習活動や学習成果の面で顕著な成果を上げてきたかという観点では,いまだ改革が実質化していない面も少なくないと考えられる。

 4 (略)

 5 危機感の共有と実効ある改革の必要性

(1) 以上の通り,国際的な動向と我が国固有の事情を背景に,学生の学習成果の達成に向けた教育内容・方法の格段の充実,高等学校との接続のシステムの見直しなどに向けて,真剣に取り組むことが急務である。このことは,我が国の学士の国際的通用性を確保するためにも不可欠である。

 (2) 特に,ユニバーサル段階,少子化等の環境変化の中,我が国の学士課程教育は,量の拡大を積極的に受け止めつつ,質の維持・向上を図るという,重大な課題に直面している。
 我が国の大学の大きな問題の一つは,教育内容・方法,学修の評価を通じた質の管理が緩いということである。そうした弊を放置すれば,我が国の学士課程教育の質は,大きく低下し,国内外からの信用を失う危機に晒されよう。質の維持・向上に向けた努力を怠り,社会からの負託に応えられない大学があるならば,今後,その淘汰を避けることはできない。

 (3) 現実の大学を見れば,多様な学生を迎え入れながら,個性化・特色化の徹底に向けた改革に汗を流す機関が多数ある。一方,学生や社会のニーズを十分に顧みない旧態依然とした機関も存する。
 しかし,後者に目を奪われ,大学教育の持つ社会的な意義や効用,その可能性を過度に低く評価し,将来的な大学教育の規模等の在り方を論ずるとすれば,失当である。未曾有の人口減少社会,少子高齢化社会という我が国の特質を踏まえるならば,大学教育をめぐって,量か,質かという二者択一を安易に行えば,人材育成等に関する国家戦略を誤ることともなりかねない。

 (4) こうした危機感を各界で共有し,中長期的な視野に立って論議を深め,改革の基本方向に関する社会的な合意形成を図り,実効ある改革につなげていくことが必要である。
 その際,国においては,必要な改革を果断に進めながら,新しい教育基本法の謳うとおり,大学の自主性・自律性を十分に尊重する姿勢を堅持していく必要がある。多様な大学の存在こそが,大学という社会制度がその機能を最大限発揮し,社会の発展へ寄与していく基礎的な条件であることを,改めて強調しておきたい。    

 6 学位授与,教育課程編成・実施及び入学者受入れに関する方針の重要性

(1) 改革の実行に当たり,もっとも重要なのは,各大学が,教学経営において,「学位授与の方針」,「教育課程編成・実施の方針」,そして「入学者受入れの方針」の三つの方針を明確にして示すことである。
 これらは,将来像答申で言及した「ディプロマ・ポリシー」,「カリキュラム・ポリシー」,「アドミッション・ポリシー」にそれぞれ対応する。大学の個性・特色とは,そうした方針において具体的に反映されるのである。

 (2) あわせて,各大学において,学士課程教育が組織的・総合的に運用されるには,学内の全教職員が共通理解を持って具体的な教育実践に取り組む必要があり,そのための教職員の職能開発が必要となる。
 また,設置認可・届出制度や第三者評価制度,自己点検・評価,情報公開等の各大学の自主的な質保証の取組,さらに大学間の連携や大学団体等による取組の充実を通じて,学士課程教育の質を保証する仕組みを強化することが必要である。

 (3) 国においては,このような各大学の取組に対して適切に支援していくことが必要である。あわせて,国際的な大学改革の潮流や社会の要請等を踏まえ,大学や大学関係者の主体性を尊重しつつ,学士の水準に関する枠組みづくりが進むよう,必要な役割を果たしていくことが望ましい。
 こうした枠組みは,分野横断的な水準の確保につながり,各大学における学位授与の方針の策定・見直しの指針となることが期待される。また,分野別の学位水準の確保に向けた取組の基盤になるものとしても重要である。

お問合せ先

高等教育局高等教育企画課高等教育政策室