○ 運動場や空地のような学習環境や条件整備の在り方については丁寧な議論が必要。
○ 特区制度が適用されるべきは経済効率性の追求が求められる分野であろうが,教育や医療については,経済効率性は重要であっても,その追求が一義的になされるべき分野とはいえないため,再考が必要。
○ 特区制度は,例えば,学生にとって,利益のあることを行うための改革を促進するのであれば,そのような改革を進める端緒となる役割はあると思うが,不利益の可能性があるものを促進するとなれば,それは特区制度の意義に反するのではないか。
○ たびたび設置基準の緩和を行ってきたが,グローバル化が進む中,国際的な大学間競争の観点から,我が国の大学の学習環境の在り方を考えることが必要。
○ 学外との交流を図る前の段階として,まずは学生同士が学内において顔を合わせて議論することを通じて,コミュニケーション能力を高めていくことが重要。
○ 大学にとって「空地」が存在しないというのは,ビルの一室のキャンパスであるということになるのではないか。
○ 大学はコミュニティであり,それを成立させるための空間は重要。
○ 「豊かな人間性を涵養する」には,知識だけでなく体育,徳育も必要であり,特に学部の教育において完全なデジタル化は困難。フィジカルに接触する場が必要。
○ キャンパスが必要なのは教育のためだけではなく,研究の場(学術空間)として,交流の場(社会空間)として,公共空間としての3つの役割があることを踏まえて,適切な空間を確保することが必要。
○ キャンパスにおいて,学生による議論の場が確保されることが教育上重要。
○ 大学は多様であり,学部・大学院・専門職大学院では様相が異なる面もある。例えば,学士課程,短期大学の課程は,特に教育の面で空地・運動場などの学習環境が必要であり,強調すべきではないか。他方,社会人のニーズにあった教育を提供する場合の学習環境は,立地条件なども考慮すべき。
○ 少なくとも学士課程や短期大学の課程の教育ついては,成長過程にある20歳前後の学生が多く在籍しており,一定の修業年限をかけて,他者との生活を通して育まれた,心身ともに健全な人材を送り出す役割があることを踏まえると,そのための学習環境は確実に担保すべき。
○ 現在の特区法では「学生が休息その他に利用するため」とし,「休息」が主のように見えるが,「その他」の方が重要なのではないか。能力開発・人格形成の場として必要性を重視すべき。
○ 教育空間を単純に資産価値に読み替える動きが出ないか懸念される。
○ 運動場や空地について代替措置を取った場合には,必要な情報を十分に公開すべき。
○ 空地・運動場に関する特区は,平成16年に制度化され,7年が経過している。平成23年現在,特区を利用している大学は,全国の大学780校及び短期大学387校の中で5大学である。(空地特区利用4大学,運動場特区利用大学4大学)
○ 平成21年9月から11月にかけて,これらの5大学の事務局・教員・学生に対し,文部科学省がアンケート及び実地調査により調査を行ったところ,利便性等については評価する声があった。一方,以下のように空地・運動場の代替措置が十分でないことによる弊害も見られた。
本調査結果については,平成21年12月10日の構造改革特別区域において講じられた規制の特例措置の評価に係る評価・調査委員会(以下「評価委員会」という。)教育部会に報告している。
○ その後,平成21年度の評価委員会においては,これらの5大学(このうち1大学は募集停止中)の状況を踏まえ,
といった経済的社会的効果の発現が認められるとし,平成22年3月,構造改革特別区域推進本部において,「特区における規制の特例措置の内容のとおり,全国展開を行うこと。その際,学生の教育環境等に適切に配慮できるよう,特区の活用事例における状況を踏まえ,弊害の予防措置については,その要件を一層明確化し,必要最小限のものとすること。なお,全国展開の具体的内容については,あらかじめ評価委員会に報告すること。」とされ,平成23年度中を目処にできるだけ速やかに全国化することが構造改革特別区域推進本部として決定された。
構造改革特別区域推進本部決定による運動場・空地要件の撤廃を行う特区の全国化について,評価委員会における議論を踏まえつつ,大学教育部会において,運動場・空地にとどまらず,大学のキャンパスに求められる機能・役割にさかのぼって検討を行った。
○ 大学は,学術の中心として行う教育研究活動を通じ,「知的,道徳的及び応用的能力を展開させ」(学校教育法第83条),「豊かな人間性を涵養する」(大学設置基準第19条)教育機関である。 具体的には,
の機能及び役割がある。 ○ なお,「空地」に関しては,大学設置基準に明示する学生の休息のための役割だけでなく,上記の空間としても必要なものであり,その点に特に留意が必要。 |
また,弊害の予防措置については,下記の大学のキャンパスに求められる機能・役割を踏まえつつ,「要件を一層明確化し,必要最小限のもの」について検討を行い,別紙1及び別紙2のとおりまとめた。
(1)「空地・運動場」に係る特区制度の全国化について,代替措置を踏まえて大学設置基準等の法令上に位置づける際に,次のような趣旨を大学設置基準に加えることが考えられる。
(空地の代替措置に関する規定の追加) ○ 法令の規定による制限その他のやむを得ない事由により所要の土地の取得を行うことが困難であるため空地を校舎の敷地に有することができない場合において,学生が休息その他に利用するため,適当な空地を有することにより得られる効用と同等以上の効用が得られる措置(以下「空地の代替措置」という。)を当該大学が講じている場合に限り,空地を校舎の敷地に有しないことができること。
(運動場の代替措置に関する規定の追加) ○ 法令の規定による制限その他のやむを得ない事由により所要の土地の取得を行うことが困難であるため前項に規定する運動場を設けることができない場合において,運動場を設けることにより得られる効用と同等以上の効用が得られる措置(以下「運動場の代替措置」という。)を当該大学が講じており,かつ,教育に支障がないと認められる場合に限り、運動場を設けないことができること。
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※ 空地については,法令では「学生が休息その他に利用するのに適当な」ものとされており,屋外の広場や緑地・芝生,舗道,ベンチ等の懇話スペース等を意味するものと解される。
○ 正課外の教育活動や様々な学生の活動が展開されるとともに,闊達なコミュニケーションが許される,自由かつ余裕ある活動空間を保障することが重要。
○ 学修成果の効果的な定着を図るとともに,学習時間の合間の休息のための空間が重要。
→ 空地は,知的,道徳的及び応用的能力を展開させ,豊かな人間性を涵養する大学に相応しい学習環境として,心身の健やかな発達を促しつつ,学生の望ましい人格形成を図るためのもの。
空地に代わる屋内における措置としては,ラウンジや喫茶室,学生ロビーなど,学生が休息を図るにとどまらず,思索にふけり,自由に集まり,教育課程やそれ以外の課外活動を営むことなどができる環境が想定される。
○ 「休息するスペースが少なく息苦しい」「狭い」「空地の代わりに空き教室というのは釣り合いがとれない」・・・【A.休息のための場所の確保が不十分】
○ 「いただいていた大学のイメージとは違い,あまり良い印象が持てない」・・・【B.閉鎖性,抱いていた大学生活のイメージとの相違】
○ サークル活動等を行う希望があるにもかかわらず,それが難しい環境であることへの不満・・・【C.行うことができる課外活動に制約があること】
【A.休息のための場所の確保が不十分】
【A.休息のための場所の確保が不十分】+【B.閉鎖性,抱いていた大学生活のイメージとの相違】
【B.閉鎖性,抱いていた大学生活のイメージとの相違】
【C.行うことができる課外活動に制約があること】
大学の目的に照らし,また,興味関心の範囲が広がり,行動の幅も広がることで,多様な活動が展開される高等教育段階の課外活動等の役割を重視し,部活動やサークル活動など学生の様々な活動のための自由な活動空間を保障するため,屋内施設を含めできるだけ充実した体育施設を用意することが,体育の授業科目が開設されなくとも必要。(また,空地と同様の意義も併せて有している)
→ 運動場は,知的,道徳的及び応用的能力を展開させ,豊かな人間性を涵養する大学に相応しい学習環境として,心身の健やかな発達を促しつつ,学生の望ましい人格形成を図るため必要なもの
運動場の代替措置としては,設置基準で原則設置としている体育館の設置を一義的には求める。
また,できる限り設置を求めているスポーツ施設が代替措置を果たすこともできることとする。
さらに,例えば公共スポーツ施設や民間のフィットネスクラブ等を学生に利用させることも考うる。
○ 運動場がなく,フィットネス施設等では気軽に運動ができないという不満・・・【A.気軽な運動ができない】
○ 代替措置としての施設が遠方にあるなどアクセスが悪く,利用料負担がある場合は進んで利用しようとする気にならない・・・【B.使い勝手が悪く,利用しづらい】
○ 部活動やサークル活動等の課外活動が阻害されるといった意見が目立ち,ある大学では運動系の部活動もサークルも存在しなかったほか,代替措置としてフィットネス施設しかない場合,球技や陸上競技等ができる環境にない・・・【C.行うことができる課外活動に制約があること】
【A,B,Cを踏まえて】
○ 規制改革・民間開放推進3か年計画(平成14年3月29日閣議決定)で,以下のような指摘。
「…それぞれの基準の必要性等を十分に吟味し,例えば,施設設備や教員組織の基準において不必要なものは廃止するなど,全体として最低限必要な基準となるよう厳選する」 |
○ 構造改革特区提案主体から,株式会社立大学を認めるとともに,中心市街地や駅前など,用地の確保が難しい場所にも大学を設置するため,空地・運動場要件を撤廃してほしいという特区要望を受け,特区を制度化(平成16年4月1日施行。短大についても制度化)。
○ 平成22年3月25日の構造改革特別区域推進本部決定(「構造改革特別区域において講じられた規制の特例措置の評価に係る評価・調査委員会の意見に関する今後の政府の対応方針」)において,平成23年度中を目処に,できるだけ速やかに,全国化(特区措置の内容を,特区指定地域に限らず全国で利用可能とすること)を行うことが決定。
・・・特区における規制の特例措置の内容のとおり,全国展開を行うこと。その際,学生の教育環境等に適切に配慮できるよう,特区の活用事例における状況を踏まえ,弊害の予防措置については,その要件を一層明確化し,必要最小限のものとすること。なお,全国展開の具体的内容については,あらかじめ評価委員会に報告すること。 |
○ 具体的な予防措置の内容については,文部科学省及び中央教育審議会において検討して策定し,特区評価委員会に報告することとなっている。
○ 大学設置基準(昭和31年文部省令第28号)(抄)
(校地)
第34条 校地は、教育にふさわしい環境をもち、校舎の敷地には、学生が休息その他に利用するのに適当な空地を有するものとする。
(運動場)
第35条 運動場は、教育に支障のないよう、原則として校舎と同一の敷地内又はその隣接地に設けるものとし、やむを得ない場合には適当な位置にこれを設けるものとする。
(校舎等施設)
第36条 大学は、その組織及び規模に応じ、少なくとも次に掲げる専用の施設を備えた校舎を有するものとする。ただし、特別の事情があり、かつ、教育研究に支障がないと認められるときは、この限りでない。
一 学長室、会議室、事務室
二 研究室、教室(講義室、演習室、実験・実習室等とする。)
三 図書館、医務室、学生自習室、学生控室
2 研究室は、専任の教員に対しては必ず備えるものとする。
3 教室は、学科又は課程に応じ、必要な種類と数を備えるものとする。
4 校舎には、第一項に掲げる施設のほか、なるべく情報処理及び語学の学習のための施設を備えるものとする。
5 大学は、校舎のほか、原則として体育館を備えるとともに、なるべく体育館以外のスポーツ施設及び講堂並びに寄宿舎、課外活動施設その他の厚生補導に関する施設を備えるものとする。
6 夜間において授業を行う学部(以下「夜間学部」という。)を置く大学又は昼夜開講制を実施する大学にあつては、研究室、教室、図書館その他の施設の利用について、教育研究に支障のないようにするものとする。
○ 文部科学省関係構造改革特別区域法第2条第3項に規定する省令の特例に関する措置及びその適用を受ける特定事業を定める省令(平成15年文部科学省令第18号)(抄)
第6条 地方公共団体が、その設定する構造改革特別区域内の大学において、法令の規定による制限その他のやむを得ない事由により所要の土地の取得を行うことが困難であるため大学設置基準第34条又は短期大学設置基準第27条第1項に規定する空地を校舎の敷地に有することができないと認められる場合において、(中略)学生が休息その他に利用するため、適当な空地を有することにより得られる効用と同等以上の効用が得られる措置を当該大学が講じている場合に限り、大学設置基準第34条又は短期大学設置基準第27条第1項に規定する空地を校舎の敷地に有することなく、大学の設置等を行うことができるものとする。
第7条 地方公共団体が、その設定する構造改革特別区域内の大学において、法令の規定による制限その他のやむを得ない事由により所要の土地の取得を行うことが困難であるため大学設置基準第35条又は短期大学設置基準第27条第2項に規定する運動場を設けることができないと認められる場合において、(中略)運動場を設けることにより得られる効用と同等以上の効用が得られる措置を当該大学が講じており、かつ、教育に支障がないと認められる場合に限り、大学設置基準第35条又は短期大学設置基準第27条の規定にかかわらず、大学の設置等を行うことができるものとする。
高等教育局高等教育企画課高等教育政策室