資料1 法科大学院全国統一適性試験の在り方に関する検討WG報告書骨子案

1.法科大学院全国統一適性試験の趣旨、現状と課題

(1)法科大学院全国統一適性試験の趣旨

○ 法科大学院全国統一適性試験(以下、「統一適性試験」という。)は、公平性、開放性、多様性という法科大学院の基本理念に基づいた入学試験とするため、すべての出願者について、法律学の学識ではなく、法科大学院における学修の前提として要求される資質を判定する試験として創設。

(これまでの検討の経緯等)
※法科大学院(仮称)構想に関する検討会議の報告書(平成12年度)
・「法科大学院の入学者選抜に当たっては、公平性、開放性、多様性を確保すべき」
・「法科大学院における法学教育の完結性を前提とし、入学試験の開放性を徹底するならば、法学既修者として入学を希望する者と法学未修者として入学を希望する者とについて同一内容の試験を行うことが考えられる。その内容は、性質上、法律学についての知識を試すのではなく、法科大学院における履修の前提として要求される共通の資質、すなわち判断力、思考力、分析力、表現力などを試すことを目的とする適性試験となろう」
・「2.すべての出願者について適性試験を行い、法学既修者として出願する者には併せて法律科目試験を行うとする考え方、3.法学未修者として入学を希望する者には適性試験、法学既修者として入学を希望する者には法律科目試験を行うとする考え方があり得る」ところ、「公平性、開放性、多様性という法科大学院に関する基本理念からすれば、法学既修者として出願する者にも適性試験を課する方が適合的だと考えれば、3.よりも2.が妥当ということになる」
※司法制度改革審議会意見書(平成13年度)
・「入学者選抜は、公平性、開放性、多様性の確保を旨とし、入学試験のほか、学部における学業成績や学業以外の活動実績、社会人としての活動実績等を総合的に考慮して合否を判定すべきである。もっとも、これらをどのような方法で評価し、また判定に当たってどの程度の比重を与えるかは、各法科大学院の教育理念に応じた自主的判断に委ねられる。」
・「多様なバックグラウンドを有する人材を多数法曹に受け入れるため、法科大学院には学部段階での専門分野を問わず広く受け入れ、また、社会人等にも広く門戸を開放する必要がある。」
・「入学試験においては、法学既修者であると否とを問わず、すべての出願者について適性試験(法律学についての学識ではなく、法科大学院における履修の前提として要求される判断力、思考力、分析力、表現力等の資質を試すもの)を(中略)行うという方向で、各試験の在り方を検討する必要がある。その際、適性試験は統一的なものとすることが適切である」
※中教審答申「法科大学院の設置基準等について」(平成14年度)
・「法学既修者と法学未修者との別を問わずすべての出願者について、適性試験を実施」
・「法学未修者の選抜において、法律科目試験を実施することは認められない」
※法科大学院の教育と司法試験等との連携等に関する法律第2条
・「入学者の適性の適確な評価及び多様性の確保に配慮した公平な入学者選抜」
※専門職大学院設置基準第20条
・「法科大学院は、入学者の選抜に当たっては、入学者の適性を適確かつ客観的に評価するものとする」
※学校教育法第110条第2項に規定する基準を適用するに際して必要な細目を定める省令第4条
・「大学評価基準が、(中略)次に掲げる事項について認証評価を行うものとして定められていること
ロ 入学者の選抜における入学者の多様性の確保並びに適性及び能力の適確かつ客観的な評価に関すること」
※中教審法科大学院特別委員会の報告書(平成21年度)
・「法科大学院の入学者選抜においては、他の成績と合わせた総合判定の考慮要素の一つとして、または、もっぱら入学最低基準点として、適性試験を重要な判定資料として活用することが求められる」
・「適性試験を課している制度趣旨を無意味にするような著しく低い点数の者を入学させないよう、統一的な入学最低基準点を設定する必要」があり、「総受験者の下位から15%程度の人数を目安」とする旨の指摘がなされている。

(2)統一適性試験をはじめとした入学者選抜を巡る現状と課題

○ 統一適性試験は、平成23年度から適性試験管理委員会により、年2回5~6月に実施。
・実施場所:全国14カ所(ただし3カ所は1回のみ)(平成27年度)
・受験料:16,200円(平成27年度)
・平成28年度は、法科大学院入学志願者が著しく減少している現状などに鑑み、統一適性試験を継続的・安定的に実施するとともに試験会場数を維持・拡大すべく(2014年より1回のみ実施としていた金沢、岡山会場について2回に拡大)、受験料を21,600円に見直し

○ 統一適性試験の受験者の実人数は、平成23年度から半数程度に減少。
・統一適性試験受験者の実人数 7,249人(平成23年度) →  3,621人(平成27年度)
・制度創設時(平成15年度)大学入試センターの試験35,521人、適性試験委員会の試験18,355人

○ 法科大学院志願者数(同一者の複数校受験含む)は、ここ10年で4分の1程度に減少
・法科大学院志願者  40,341人 (平成18年度) → 10,370人 (平成27年度)

○ 法科大学院入学者数もここ10年で4割弱に減少、特に、社会人や法学未修者の減少が顕著。
・法科大学院入学者      5,784人(平成18年度) →  2,201人(平成27年度)
うち、社会人       1,925人(平成18年度) →   405人(平成27年度)
うち、法学未修者    3,605人(平成18年度) →    770人(平成27年度)
うち、法学部以外の者 1,634 人 (平成18年度)→     351人 (平成27年度)
・学部時代に法学以外の学問を履修した者の割合  34.5%(平成16年度) →  15.9%(平成27年度)
・法科大学院の定員充足率 69.5%(平成27年度)

○ 法科大学院入学者のうち、法学既修者・未修者の割合は、平成18年度は、既修38%・未修62%で、未修者の割合が大きかったところ、平成23年度より割合が逆転し、平成27年度は、既修65%・未修35%となっている。

・法学既修者・未修者の割合  平成18年度 既修 37.7%・未修 62.3%
平成23年度  既修 52.9%・未修 47.1%
平成27年度 既修 65.0%・未修 35.0%

○ 入学者選抜における競争倍率については、昨年3月の認証評価に関する文部科学省通知において、2倍という目安が示されるとともに、これを下回っている場合には、「競争的環境の下での入学者選抜が十分に機能しているとは言い難いなど、入学者の質の保証への影響が懸念される」とされているところ、平成27年度は1.87倍に低迷。こうした現状を踏まえ、文部科学省では、更に各法科大学院に入学者の質の保証を促すため、来年度予算から「公的支援見直し強化・加算プログラム」の基礎額設定の指標に、競争倍率を導入することを決定。

○ 一方、入学後については、進級判定や修了認定について、厳格化が進められており、標準修業年限修了率は低下傾向。
・標準修業年限修了率 80.6% (平成18年度) → 68.1% (平成26年度)

○ 文部科学省が実施した法科大学院に対する調査では、統一適性試験の各法科大学院入学者選抜における有効性について、未修者については肯定的・否定的双方の回答があり、既修者については否定的な回答が大半であった。また、入学者選抜(第1次)における考慮割合(統一適性試験第1部から第3部)は、未修者では多くの法科大学院(62%)で3割未満(5割以上は11%)、既修者では大半の法科大学院(93%)で3割未満(5割以上は5%)であった。さらに、統一適性試験の実施が、志願者確保の上で障害になっている面があるとする回答も大半であった。

(調査結果の概要)
・統一適性試験は全法科大学院が活用。統一適性試験(第1部から第3部)の入学者選抜(第1次)における考慮割合は、未修者では、1割未満が5校(11%)、1割以上3割未満が23校(51%)、3割以上5割未満が11校(24%)、5割以上が5校(11%)であった。また、既修者では、1割未満が13校(30%)、1割以上3割未満が28校(64%)、3割以上5割未満が0校(0%)、5割以上が2校(5%)であった。(未修・既修とも、考慮割合について無回答が1校)
・統一適性試験の、未修者入試における有用性については肯定的・否定的双方の回答あり(肯定的:19校、否定的:24校)既修者入試については否定的な回答が大半(肯定的:6校、否定的:37校)
・統一適性試験以外の方法により適性を判定する手段としては、未修者については小論文や面接等による選抜、既修者については法律科目試験や学部成績が有効との回答が多数を占めた。
・入学最低基準点設定の是非については、肯定的・否定的双方の回答あり(賛成:17校、反対:27校)
・統一適性試験の実施が志願者確保に与える影響については、障害になっている面があるとする回答が大半を占めた(ある:41校、ない:4校)。具体的理由としては、実施時期、実施場所・実施回数、社会人経験者が得点を採りにくい試験であること、受験料といった回答が多かった。

○ 適性試験管理委員会からのヒアリングでは、統一適性試験スコアと法科大学院成績・司法試験の合否に一定の相関性がある旨の報告があった。

(ヒアリング概要(27.10.29))
・統一適性試験スコア成績と法科大学院における学業成績との間には相関関係がある。
・司法試験合格者の統一適性試験スコアは高い。また、司法試験に早く合格する者の統一適性試験スコアは高い。
・経営面では、志願者の急激な減少を受け、経費削減の努力を行っているものの、平成26年度試験より収支がマイナスである。


2.見直しの基本的考え方

○ 公平性、開放性、多様性といった法科大学院制度創設時の基本理念の堅持が必要。

○ 法科大学院志願者が大幅に減少するなど、法科大学院入学者選抜を取り巻く状況が制度創設当時とは大きく変化していることを踏まえることが必要。特に、社会人や法学未修者の入学者の減少が顕著であり、多様性の確保の観点からの見直しが必要。また、法学既修者・未修者の割合は、制度創設時から逆転して既修者が多数を占めるようになり、現在では、ほとんどすべての法科大学院が、既修者・未修者について別枠で選抜を実施していることについても留意が必要。更に、結果として志願者増にもつながることが望ましい。

○ 入学者の質の適切な確保、保証が必要。その際、平成13年の司法制度改革審議会意見書で法科大学院における履修の前提として要求される資質とされた判断力、思考力、分析力、表現力といった資質に加え、口頭によるコミュニケーション能力といった統一適性試験では扱っていない資質についても留意が必要。

○ 統一適性試験がこれまで果たしてきた役割や、統一適性試験に対する各法科大学院や適性試験管理委員会などの関係者の様々な見解も踏まえて適切な結論を出すことが必要。


3.改善方策

○ 適性試験管理委員会からの指摘のとおり、統一適性試験は、公平性、開放性、多様性という法科大学院の基本理念に基づき、平成15年の第1回目の実施以来、法科大学院における履修の前提として要求される資質(論理的判断力、分析的判断力、長文読解力、表現力)を試す全国一律の試験として、12年間にわたり、試験の専門的知見に基づく調査・分析、翌年度の試験へのフィードバックを継続的に行いながら実施され、これまで、プロセス教育の中核的機関である法科大学院への入学者の質を確保するための統一的な最低基準点としての役割を含め、既修者、未修者を問わず、一定の役割を果たしてきたと考えられる。

○ 一方、専門職大学院設置基準により、「法科大学院は、入学者の選抜に当たっては、入学者の適性を適確かつ客観的に評価する」ことが求められており、現状においては、すべての法科大学院が統一適性試験を活用しているが、本規定は、「適性を適確かつ客観的に評価する」方法として、統一適性試験以外の方法も許容しているものと解せられる。

○ 現在、ほとんどすべての法科大学院が、既修者、未修者について別枠で選抜を実施しているため、既修者、未修者に分けて改善方策を検討。


(1)法学既修者の選抜

○ 法科大学院志願者が大幅に減少している現状もあり、大半の法科大学院が法学既修者の選抜における統一適性試験の有用性に否定的であり、また、入学者選抜における考慮割合も3割未満にとどまっている。法学既修者については、統一適性試験を活用せずとも、法律学の学識を問うことに加え、学部成績、志望理由書・自己評価書等を含め選抜方法を工夫し、丁寧な評価を実施することにより、法科大学院における履修の前提として要求される判断力、思考力、分析力、表現力といった資質を適切に判定することは可能と考えられる。

○ また、ほとんどすべての法科大学院が、既修者、未修者について別枠で選抜を実施している状況等に鑑み、法学既修者について、統一適性試験を課さない場合であっても、基本理念を踏まえることや、配点や採点基準の公表等の工夫により、適確かつ客観的な評価は可能と考えられる。また、これまで統一適性試験が果たしてきた入学最低基準点としての役割についても、法律学の学識を問うこと等で代替可能であると考えられる。

○ このため、法学既修者については、統一適性試験の活用を法科大学院の任意とすることが考えられる。なお、その場合でも、入学者の質の確保のため、競争倍率の適切な維持(目安:2倍)は必要。

○ 一方、引き続き統一適性試験を課すこととするのであれば、法科大学院の協力を得て、有用性の向上について早急に検討するとともに、志願者確保の上で障害になっていると考えられる点についての見直しが必要と考えられる。

(2)法学未修者の選抜

○ 法学未修者の選抜にあたっては、多様なバックグラウンドを有する人材を多数法曹に受け入れる観点から、法律学の学識を問うことは不適切である。このため、法律学の学識を問うこと以外の方法により、法科大学院における履修の前提として要求される判断力、思考力、分析力、表現力等の資質を評価することが必要である。

○ 未修者入試における統一適性試験の有用性については、法科大学院から肯定的な回答が半数近くあったことや、これまで12年間にわたって実施されてきた統一適性試験の実績を踏まえ、法学未修者については、有用性の向上や志願者確保の上で障害になっていると考えられる点についての改善を図った上で、引き続き統一適性試験を課すことも考えられる。

○ 一方で、法科大学院への調査においては、統一適性試験は、実施時期、実施場所、実施回数などが受験生のニーズと比べ十分ではない、受験料が高額であるといったことに加え、社会人経験者にとって得点を取りにくい試験であるといった理由から、志願者確保の障害になっているとの意見が大半の法科大学院から挙げられた。また、法学未修者の入学者選抜については、受験者数の減少により、適性をみるための丁寧な入試を行うことが可能であり、必ずしも入学最低基準点を用いなくても対応可能と考えられるとの意見があった。加えて、半数以上の法科大学院において、入学者選抜における統一適性試験の考慮割合が3割未満にとどまっていることや、教育成果が上がっている法科大学院を中心に、すでに入学者選抜についての一定のノウハウが蓄積されていると考えられる状況も鑑みると、法学未修者についても、統一適性試験の活用を法科大学院の任意とすることも一案として考えられる。その場合、各法科大学院において、統一適性試験を活用せずとも、受験者の適性を適確かつ客観的に判定することが必要である。

○ このため、統一適性試験の活用を各大学の任意とする場合、文部科学省において入学者選抜についてのガイドラインを策定し、認証評価機関や法科大学院に提示し、認証評価機関において、当該ガイドラインを踏まえた各法科大学院の取組を評価することで、上記を担保することが考えられる。

○ ガイドラインに記載すべき内容としては以下が考えられる。
・ 入学者選抜にあたっては、公平性、開放性、多様性の確保を旨として、履修の前提として要求される判断力、思考力、分析力、表現力等の資質を、適確かつ客観的に試すことが必要。
・ その際、各法科大学院が創意工夫をこらし、アドミッションポリシーに基づく入学者選抜を行うことが重要。
・ 各法科大学院の判断で引き続き統一適性試験を活用することや、各法科大学院で統一適性試験の問題を活用するなどして統一適性試験に類する試験を作成することも考えられるが、これらを実施しない場合は、小論文・筆記試験、口述・面接試験、書面審査(学部成績、活動実績、志望理由・自己評価等)等を組み合わせて実施するなど、履修の前提として要求される各資質を試すことが必要。この際、法科大学院の授業は双方向・多方向を基本としていることに鑑み、口頭によるコミュニケーション能力についても適切に試すことや、小論文・筆記試験、口述・面接試験等の実施にあたって、全受験者が共通の講演、講義等を聞いた上でその内容に関連して行うようにするなど、より正確に適性を試すための工夫も考えられる。また、入学者選抜における配点や採点基準を公表することが必要。
・ 各試験において、複数の者により採点を実施するなど、客観性を高める工夫が必要。法科大学院間での連携や、学外有識者の参画を求めることも有益。



(3)その他入学者選抜等の改善方策

○ 各法科大学院においては、各選抜方法と入学後の成績や司法試験の合格状況等の相関関係を分析し、入学者選抜における判定精度の向上に努めることが必要。その際、これまでの入学者選抜における統一適性試験の成績とその他の選抜方法との関係性についても分析を行うことが必要。また、得られた結果については、各法科大学院間で共有するなどにより、入学者選抜の精度の一層の向上に努めることが望ましい。

○ 入学段階での選抜のみならず、入学後においても、厳格な進級判定や修了認定の実施が必要である。

(高等教育局専門教育課専門職大学院室)