資料7 法科大学院における司法試験に関連する指導方法等の具体的な取扱いについて(案)

1.趣旨

  • 法科大学院における授業・教育方法等について、中央教育審議会大学分科会法科大学院特別委員会(以下「当委員会」という。)は、平成19年11月、「司法制度改革の趣旨に則った法科大学院教育の在り方について-法科大学院設立の理念の再確認のために-」報告(以下「平成19年報告)という。)において具体的な取扱いなどについて提示しており、文部科学省より全ての法科大学院にその趣旨・内容について周知徹底を行ってきたところである。
  • このような中、本年3月に開催された政府の法曹養成制度改革顧問会議において、司法試験で問われているような将来の実務に必要な学識及びその応用能力等を学生に身に付けさせ、司法試験の合格に資するような教育を行うことは、法科大学院の本来の役割であるにもかかわらず、法科大学院における司法試験に関連する指導の扱い方に関し、法科大学院間で理解に差が見られるとの声もあることから、改めてその明確化に向けて検討すべきではないかとの指摘があったところである。
  • 以上のことから、当委員会として、平成19年報告の考え方をベースにした上で、法科大学院における司法試験に関連する指導方法等の適切な在り方について、教育現場で無用の混乱が生じぬよう配慮しつつ、具体的な取扱いに当たっての考え方を明確化することとしてはどうか。

2.原則として確認すべき事項

司法制度改革における新しい法曹養成の考え方

  • 今般の司法制度改革では、司法試験における競争の激化により、受験者の受験技術優先の傾向が顕著になるなど、法曹となるべき者の資質の確保に重大な影響を及ぼすに至ったという問題点を踏まえ、司法試験という「点」のみによる選抜ではなく、法科大学院における法学教育、司法試験、司法修習を有機的に連携させた「プロセス」としての法曹養成制度を新たに整備することが不可欠との考え方に立っている。
  • 上記の考え方に立ち、21世紀の司法を担う法曹に求められる資質を養うため、法科大学院教育においては下記の資質・能力の養成が求められる。
    • 専門的な法知識、それを批判的に検討し発展させていく創造的な思考力
    • 豊かな人間性、法曹としての責任感や倫理観、法的分析能力や法的議論の能力
    • 社会や人間関係に対する洞察力
    • 先端的法分野の知見 等

法科大学院における授業科目

  • 上記のような基本的考え方を踏まえ、法科大学院における授業科目については、文部科学省告示において、1.法律基本科目、2.法律実務基礎科目、3.基礎法学・隣接科目、4.展開・先端科目を開設し、1.~4.の全てにわたって授業科目を開設するとともに、学生の授業科目の履修がいずれかに過度に偏ることのないように配慮するものと定めている。

法科大学院における教育指導

  • 法科大学院は、法曹養成に特化した専門職大学院であり、司法試験で問われているような将来の実務に必要な学識及びその応用能力等を学生に身に付けさせ、司法試験の合格に資するような教育を行うことは、法科大学院の本来の役割である。
  • しかしながら、単なる受験技術優先の指導に偏った教育には弊害があることから、文部科学省としては、平成19年の中央教育審議会の特別委員会報告等を踏まえ、各法科大学院に対して次のような指導を行っている。
    • 司法試験での解答の作成方法に傾斜した技術的教育や理解を伴わない機械的な暗記をさせる教育などは不適当であること。
    • 一方で、司法試験の問題やそれに類する形式の事案が教材の一つとして使われることをもって直ちに、受験指導に偏った指導であるということは適当でないこと。
    • 個々の指導が本来あるべき法科大学院教育として適当であるか否かは、その目的と形式及び態様との組み合わせにより総合的に判断されるべきものであること。
  • すなわち、法科大学院における教育指導において重要なのは、教材として何を使用するかということだけではなく、法曹として必要な法的知識を身に付けさせ、法的思考力を涵養できるような教育方法であるということである。
  • したがって、司法試験の過去問を使用して法的知識の習得や法的思考力等の育成を図ることは何ら禁止されるものではないし、逆に、法科大学院が独自に作成した教材を使用していても、試験での解答の作成方法に傾斜した技術的教育や理解を伴わない機械的な暗記をさせる教育は不適当である。
  • 以上の基本的な考え方を前提に、当委員会として、法科大学院における司法試験に関連する指導方法の具体的な取扱いの考え方について、次の通り整理し、関係者に対して提示することとしてはどうか。

3.具体的な取扱いの考え方

(1)法科大学院における司法試験に関連する指導方法の具体的な取扱いに関し、法科大学院教育では、将来の法曹としての実務に必要な学識とその応用能力及び、法律実務の基礎的素養を涵養するための理論的・実践的な教育を体系的に実施することを前提とした上で、下記に掲げる場合については、試験での解答の作成方法に傾斜した技術的教育や理解を伴わない機械的な暗記をさせるなどの受験指導に過度に偏した教育に該当しないことを確認する。

【授業における司法試験過去問の扱い】

  • 授業において、事実認定・論点抽出・論理構成を修得させる際、司法試験論文式の過去問等を題材の一つとして使用すること。
  • 授業において、法学の基礎知識を修得させたり、その修得度合を確認したりする際、司法試験短答式の過去問等を題材の一つとして使用すること。

【授業の時間外における司法試験過去問の扱い】

  • 授業の時間外における答案の添削・指導に関し、試験での解答の作成方法に傾斜した技術的教育や理解を伴わない機械的な暗記をさせるなどの受験指導に過度に偏した教育とならぬよう配慮した上で、下記のような手法で指導を行うとともに、その指導結果を授業における題材の一つとして活用すること。
    • 司法試験過去問や教員が独自に作成した事例問題の答案を作成させて添削・指導すること。
    • 上記指導に関し、時間を区切って学生に答案を作成させて添削・指導すること。

※ なお、上記記載に関わらず、司法試験考査委員の経験がある者については、遵守事項に従い、試験の公正さに疑いを抱かせないように十分留意すること。

(2)下記に掲げる事項については、法科大学院における司法試験に関する指導方法として適切ではないと考えられる。

  • 授業において、司法試験の出題傾向の予測を行ったり、司法試験の模範解答や合格者の再現答案を使用するなどして、試験での解答の作成方法に傾斜した技術的教育や理解を伴わない機械的な暗記をさせるなどの答案作成技術に特化した指導を行ったりすること。
  • 授業において、専ら司法試験受験指導を目的とした団体や個人を講師として法科大学院に招き、試験での解答の作成方法に傾斜した技術的教育や理解を伴わない機械的な暗記をさせるなどの受験指導に特化した講義をさせること。
  • 授業の時間内、時間外問わず、法科大学院内の施設を使い、専ら司法試験受験指導を目的とした団体や個人が主催した答案練習において、試験での解答の作成方法に傾斜した技術的教育や理解を伴わない機械的な暗記をさせるなどの受験指導に過度に偏した教育を行うこと。
  • 法科大学院が学生を対象に受講料を支弁して、専ら司法試験受験指導を目的とした団体や個人が行う、試験での解答の作成方法に傾斜した技術的教育や理解を伴わない機械的な暗記をさせるなどの受験指導を受けさせること。

(3)以上、当委員会として、法科大学院における司法試験に関連する指導方法に関する具体的な取扱いの考え方を示したが、もとより、上記事例のみが当該指導方法に該当する/しないということの全てではない。
 各法科大学院において、基本的な考え方を踏まえ、適切に対応するとともに、また、認証評価においても、適切に評価が行われることが必要である。
 加えて、実際の教育現場における具体的な授業・指導方法等としては様々な形で行われていることが想定されることから、個別の事案については、上記事例を踏まえつつ、引き続き認証評価を通じて検証・評価されることが必要である。

(了)

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(高等教育局専門教育課専門職大学院室法科大学院係)