第3 法曹養成制度の在り方

1 法曹養成制度の理念と現状

(1)プロセスとしての法曹養成

○ 法科大学院を中核とする「プロセス」としての法曹養成の考え方を放棄し、法科大学院修了を司法試験の受験資格とする制度を撤廃すれば、法科大学院教育の成果が活かされず、法曹志願者全体の質の低下を招くおそれがある。

○ 「プロセス」としての法曹養成の理念を堅持した上で、制度をより実効的に機能させるため、教育体制が十分でない法科大学院の定員削減や統廃合などの組織見直しの促進とともに、法学未修者教育の充実など法科大学院教育の質の向上について必要な方策をとる必要がある。

(問題の所在)

 現在の法曹養成制度は、司法試験という「点」のみによる選抜から、法曹養成に特化した教育を行うプロフェッショナル・スクールである法科大学院を設け、法学教育、司法試験、司法修習を有機的に連携させた「プロセス」としての法曹養成を目指して導入されたものである。
 このような「プロセス」としての法曹養成の考え方を前提に、司法試験の受験資格は、原則として法科大学院修了者について認められている。
 これに対し、「プロセス」としての法曹養成の考え方について、法科大学院を中核とする制度の枠組み自体を批判する立場からは、法科大学院修了を司法試験の受験資格とする制度を撤廃して、法科大学院を司法試験の受験資格とは無関係なものと位置付けるべきであるとの指摘もある。
 そこで、「プロセス」としての法曹養成の在り方について検討する必要がある。

(検討結果)

  • 新しい法曹養成制度における中核的な教育機関である法科大学院では、ソクラティックメソッド等による双方向性の議論を重視した授業が実践され、学生に物事の本質や判断の分岐点を考えながら学習を積ませるようになるなど、優れた教育がされている例も報告されている。また、司法試験の結果においても、法科大学院修了直後の受験者の合格率が最も高く、修了後年数が経過するにつれて合格率が低下する傾向が定着し、法科大学院の教育と司法試験との連携が相当程度図られているといえ、これらの点により、法科大学院教育は、相応の成果を上げているといえる。
     このような「プロセス」としての法曹養成の考え方を放棄すれば、法曹養成課程の中核である法科大学院教育の成果と意義が十分に活かされないだけでなく、旧司法試験下の受験技術優先の傾向が再現されることにもなりかねず、法曹志願者全体の質の低下を招くことが危惧される。
  • 他方で、司法試験の受験資格を原則として法科大学院修了者に限定していることを踏まえると、法科大学院が、与えられた役割を踏まえ、十分な教育を行うことができることが求められるが、法科大学院の中には、入学者選抜や進級・修了認定が十分に機能せず、教育体制も十分整わないなど、法曹の養成のための教育機関としての役割を十分に果たしていない大学があることも否定し難い。したがって、「プロセス」としての法曹養成の理念を堅持した上で、制度をより実効的に機能させるため、これらの法科大学院の定員削減や統廃合などの組織見直しの促進(後記2(1)で検討する。)とともに、法学未修者教育の充実(後記2(2)で検討する。)など法科大学院教育の質の向上について必要な方策をとる必要がある。

(2)法曹志願者の減少、法曹の多様性の確保

○ 法曹志願者の減少は、司法試験の合格状況における法科大学院間のばらつきが大きく、全体としての司法試験合格率は高くなっておらず、また、司法修習終了後の就職状況が厳しい一方で、法科大学院において一定の時間的・経済的負担を要することから、法曹を志願して法科大学院に入学することにリスクがあるととらえられていることが原因である。また、このことは、多様なバックグラウンドを有する人材を多数法曹に確保することが困難となっている要因としても当てはまる。

○ 上記要因を可能な限り解消して、法曹志願者の増加や多様性の確保を図るため、法曹としての質の維持に留意しつつ、個々の論点における具体的な方策を講ずる必要がある。

(問題の所在)

 新しい法曹養成制度の導入後、法科大学院の志願者数は年々減少を続けており、現状のままでは、法曹の質を維持しつつ、その大幅の増加を図るという所期の理念の実現は困難ではないかとの懸念が示されている。また、法曹志願者が減少している要因についても、様々な見方があることから、法曹養成制度の在り方の検討に当たっては、法曹志願者の減少の観点からも検討する必要がある。
 また、司法制度改革審議会意見書では、多様なバックグラウンドを有する人材を多数法曹に受け入れるため、法科大学院には学部段階での専門分野を問わず広く受け入れ、また、社会人等にも広く門戸を開放する必要があるとされた。しかし、法科大学院の志願者が大幅に減少する中で、法学部の学生以外の志望者も減少しており、司法制度改革の理念の実現に支障が生じている。

(検討結果)

  • 法曹志願者が減少する要因としては、司法試験の合格状況における法科大学院間のばらつきが大きく、全体としての司法試験の合格率がそれほど高くなっておらず、また、司法修習を終えた後も、法律事務所等に就職して活動を始めることが困難な者が増加しているといわれる状況にある一方、大学を卒業した後の数年にわたる法科大学院での就学やそのための相当額の金銭的負担を要することから、法曹を志願して法科大学院に入学することにリスクがあるととらえられている状況にあると考えられる。また、このことは、法曹の多様性確保が困難となっている要因としても当てはまる。
  • そこで、法曹志願者が減少する要因について、可能な限り解消するよう検討することにより、法曹志願者の増加や法曹の多様性の確保を図り、質・量ともに豊かな法曹の養成を目指すことが必要であり、法曹としての質の維持に留意しつつ、個々の論点における具体的な方策(司法修習終了者の就職状況については、前記第1及び第2で検討したとおりであり、法曹養成課程における経済的支援については後記(3)で、司法試験の合格率の上昇に資する法科大学院教育の質の向上については後記2で、司法試験制度については後記3で、それぞれ検討する。)を講ずる必要がある。また、法学部教育も含めた養成期間の短縮、例えば飛び入学の場合の進学方法などを検討すべきとの指摘もある。

(3)法曹養成課程における経済的支援

○ 法科大学院生に対する経済的支援については、通常の大学院生と比較しても、既に相当充実した支援がされているところであり、今後とも、意欲と能力のある学生に対する支援の取組を継続していく必要がある。

○ 司法修習生に対する経済的支援の在り方については、貸与制を前提とした上で、司法修習の位置付けを踏まえつつ、より良い法曹養成という観点から、経済的な事情によって法曹への道を断念する事態を招くことがないよう、司法修習生の修習専念義務の在り方なども含め、必要となる措置を更に検討する必要がある。

(問題の所在)

 法曹養成課程における経済的支援として、法科大学院生及び司法修習生に対する経済的支援の更なる充実を図る必要があるかどうかについて検討が必要である。

(検討結果)

  • 法科大学院生に対する経済的支援については、授業料の減免に加え、無利子・有利子(低利子)で最長20年間で返済する独立行政法人日本学生支援機構の奨学金制度があり、無利子奨学金の業績優秀者は奨学金の返還も減免されることがあるほか、有利子奨学金においては、法科大学院の授業料が相対的に高額であることをも考慮し、貸与月額も増額が可能とされているなど、既に充実した支援がなされているところであり、今後とも、意欲と能力のある学生が、経済的理由によって修学を断念することのないよう取組を継続していく必要がある。
  • 司法修習が、法曹養成において実務教育の主要部分を担う不可欠の課程として置かれており、司法修習生は、修習期間中は修習に専念することが求められていることから、司法修習生の修習期間中の生活の基盤を確保し、修習の実効性を確保するための方策として、司法修習生に対する経済的支援を行う必要がある。
     そして、具体的な支援の在り方については、給費制とすべきとの意見もあったが、貸与制を導入した趣旨、貸与制の内容、これまでの政府における検討経過に照らし、貸与制を維持すべきである。
     その上で、司法修習生に対する経済的支援については、司法修習の位置付けを踏まえつつ、より良い法曹養成という観点から、経済的な事情によって法曹への道を断念する事態を招くことがないよう、司法修習に伴い個々の司法修習生の間に生ずる不均衡への配慮や、司法修習生の修習専念義務の在り方なども含め、必要となる措置を本検討会議において更に検討する必要がある。

2 法科大学院について

(1)教育の質の向上、定員・設置数、認証評価

○ 法科大学院は、法曹養成のための専門職大学院であり、その修了者に司法試験受験資格を与える制度としていることに鑑み、修了者のうち相当程度(例えば約7~8割)が司法試験に合格できるよう、充実した教育を行うことが求められる。

○ 司法試験合格の見通しを制度的に高めて、資質のある多くの者が法科大学院を志願するようになる観点からも、修了者のうち相当程度の者が司法試験に合格できる状態を目指すことが重要である。

○ 個々の法科大学院についてみると、法科大学院間のばらつきが大きく、充実した教育を行っている法科大学院がある一方で、教育状況に課題がある法科大学院もあり、このような課題のある法科大学院については、教育の質を向上させる必要があるとともに、定員削減及び統廃合などの組織見直しを進める必要がある。

○ 今後の法科大学院の統廃合や定員の在り方については、まずは、法科大学院が全体としてこれまで司法試験合格者を相当数輩出してきた事実を踏まえて検討すべきである。

○ 現在の教育力に比して定員が過大な法科大学院が相当数あり、また、全体としても定員が過大になっていることから、入学定員については、現在の入学定員と実入学者数との差を縮小していくようにするなどの削減方策を検討・実施し、法科大学院として行う教育上適正な規模となるようにすべきである。その上で、その後は、法曹有資格者の活動領域の拡大状況、法曹に対する需要、司法試験合格者数の推移等を見つつ、定員の見直しを行うべきである。

○ 司法試験受験資格を原則として法科大学院修了者に限定している以上、法科大学院が法曹養成の中核としての使命を果たし、それにふさわしい教育の質を確保する観点から、課題を抱える法科大学院の自主的な組織見直しを促進するためにも、公的支援の見直しの方策を更に強化すべきである。その際、財政的支援の見直しのみならず、人的支援の見直しについても実施すべきである。

○ このような自主的な組織見直しを促進するための方策を強化しても一定期間内に組織見直しが進まない場合、課題が深刻で改善の見込みがない法科大学院について、認証評価による適格認定の厳格化など認証評価との関係にも留意しつつ、新たに法的措置を設けることについても、更に検討する必要がある。

(問題の所在)

 司法制度改革審議会意見書は、プロセスとしての法曹養成制度の中核としての法科大学院において、法理論教育を中心としつつ、実務教育の導入部分をも合わせて実施することとし、実務との架橋を強く意識した教育を行うべきであるとした。また、法科大学院の教育方法は、少人数教育を基本とし、双方向的・多方向的で密度の濃いものとすべきとした上、厳格な成績評価及び修了認定の実効性を担保する仕組みを具体的に講じるべきであるとし、法科大学院の課程を修了した者のうち相当程度(例えば約7~8割)の者が新司法試験に合格できるよう、充実した教育を行うべきであるとした。また、併せて、法科大学院の設置は、関係者の自発的創意を基本としつつ、基準を満たしたものを認可することとし、広く参入を認める仕組みとすべきとした。
 この結果、法科大学院の定員数はピーク時には5,825人に上り、その後の定員削減により平成24年度には4,484人となっているものの、平成20年以降、司法試験合格者数は2,000人から2,100人程度で推移し、法科大学院修了者全体の司法試験合格率は、教育の目標とされていた修了者の約7~8割に達しておらず、単年合格率が約25%、累積合格率(ある年度の法科大学院修了者数のうち司法試験を受験した者の数に対する同修了者の受験期間中の累積合格者数の割合を指す。以下同じ)でも約5割程度にとどまっている。
 また、法科大学院ごとに見ると、司法試験合格率や入学定員の充足状況等のばらつきが大きく、一部の法科大学院において、司法試験合格率が著しく低迷しており、入学者数が定員を大きく下回るなど深刻な課題を抱えている。
 このような状況は、法曹志願者減少の要因となっており、教育の質を向上させ、司法試験合格率を上昇させるための改善方策を検討する必要がある。

(検討結果)

  • 法科大学院は、法曹養成のための専門職大学院であり、司法試験の受験資格は原則として法科大学院修了者に限定していることを踏まえ、法科大学院は、法曹養成の中核としての使命を果たし、それにふさわしい教育をすることが求められ、修了者のうち相当程度(例えば約7~8割)が司法試験に合格できるよう、充実した教育を行うことが求められる。
  • また、法科大学院全体としての司法試験合格率が低迷し、法科大学院を修了しても、司法試験に合格して法曹となることができる見通しが低いことが、法科大学院の志願者が減少している一つの要因となっている状況にある。この状況を改善し、司法試験合格の見通しを高めて、資質のある多くの者が法科大学院を志願するようになるという観点からも、法科大学院全体として、修了者のうち相当程度の者が司法試験に合格できる状態を目指すことが重要である。また、質が高く幅広い教育を行うためにも、上記のような状態を実現させることが重要である。
  • 個々の法科大学院についてみると、充実した教育を行い、修了者のうち相当程度が司法試験に合格している法科大学院もある一方で、司法試験合格率が低く、入学者数が定員を大きく下回るなど課題を抱える法科大学院もあり、法科大学院間のばらつきが大きい。教育状況に課題がある法科大学院は、教育の質を向上させることが必要である。また、法科大学院は、前述の使命を果たし、それにふさわしい教育を行うものであることが求められるという観点から、課題を抱える法科大学院については、定員削減や統廃合などの組織見直しを更に促進する必要がある。
  • 今後の法科大学院の統廃合や定員削減については、まずは、法科大学院が全体としてこれまで司法試験合格者を相当数輩出してきた事実を踏まえて検討すべきである。
  • 現在の教育力に比して定員が過大な法科大学院が相当数あり、また、全体としても定員が過大であるといわざるを得ない。教育の質を向上させる努力を払いつつも、まずは教育力に見合った適正な定員削減を行うべきである。
     そこで、入学定員については、現在の入学定員と実入学者数との差を縮小していくようにするなどの削減方策を検討・実施し、法科大学院として行う教育上適正な規模となるようにすべきである。その上で、その後は法曹有資格者の活動領域の拡大状況、法曹に対する需要、司法試験合格者数の推移等を見つつ、定員の見直しを行うべきである。
  • 文部科学省においては、司法試験合格率や入学競争倍率などにおいて深刻な課題を抱える法科大学院の自主的な組織見直しを促進するために、公的支援見直しを実施しており、これまでに6校が学生募集停止を実施又は公表しているものの、いまだ深刻な課題を抱える法科大学院は存在していることから、現行の施策の効果を見極めつつ、これを更に促進する方策を加速・強化するとともに、連携強化や改組転換等を促すなど積極的な改善策についても進める必要がある。また、法科大学院への裁判官及び検察官等の教員としての派遣についても、見直しを行うべきである。
  • このような自主的な組織見直しを促進するための方策を加速・強化しても一定期間内に組織見直しが進まない場合、課題が深刻で改善の見込みがない法科大学院について、認証評価による適格認定の厳格化など認証評価との関係にも留意しつつ、新たに法的措置を設けることについても、本検討会議において更に検討する必要がある。
     なお、法科大学院の地域的配置や夜間開講等の特性を有する法科大学院に対する配慮についても検討が必要である。

(2)法学未修者の教育

○ 法学未修者の教育の質の保証の観点から、法科大学院が共通して客観的かつ厳格に進級判定を行う仕組みとして、1年次から2年次に進級する際の「共通到達度確認試験(仮称)」の導入の早期実現を目指す。また、2年次から3年次への進級においても、客観的で厳格な到達度判定の仕組みの導入を検討するべきである。

○ 法学未修者が基本的な法律科目をより重点的に学ぶことを可能とするための仕組みの導入を検討するべきである。 

(問題の所在)

 司法制度改革においては、多様なバックグラウンドを有する人材を多数法曹に受け入れるため、法科大学院においては、学部段階の専門分野を問わず広く受け入れ、また、社会人等にも広く門戸を開放する必要があるとし、入学選抜において法律学についての知識を問わない法学未修者を原則としてその標準修業年限を3年としつつ、法律学の基礎的な学識を有すると認められた法学既修者については2年での修了を認めるとの制度とした。
 しかしながら、現状を見ると、法学既修者の司法試験の累積合格率が約6割から7割であるのに対し、法学未修者は約3割から4割となっており、法学未修者に対する教育に課題が大きいことが明らかである。
 このような法学未修者の司法試験合格率の低迷は、特に法学部以外の学部出身者や社会人経験者の志願者減少の要因となり、多様な人材を法曹に受け入れようとした司法制度改革の理念の実現に支障が生じることから、法学未修者教育の充実のための方策を検討する必要がある。

(検討結果)

  • 法学未修者は、入学選抜段階で法学の基礎的な学識を有するとの認定を受けていない者であるから、基本的な法律科目を重点的に教育し、基礎・基本の習得の徹底を図るとともに、その到達度を、教育課程の各段階に応じて客観的に判定する仕組みが必要である。
     特に、学修の出発点である1年次においては基本的な法律科目の修得を徹底し、2年次以降は法学既修者も受講する授業を受けることになることから、進級に当たり厳格な到達度判定を行う必要がある。そこで、法科大学院が共通して客観的かつ厳格に進級判定を行う仕組みとして、平成24年11月30日付け中央教育審議会大学分科会法科大学院特別委員会法学未修者教育充実のためのワーキング・グループ報告で提言されている「共通到達度確認試験(仮称)」の導入を、その具体的内容が上記報告の趣旨に沿うものとなるよう配慮しつつ、早期に実現することを目指す。また、2年次から3年次への進級においても、客観的かつ厳格に学修到達度を判定する仕組みの導入を検討すべきである。
  • また、法学未修者のうち特に社会人や法学部以外の学部出身者に対する教育の充実は、法曹の多様性を確保する観点から重要であるため、法律基本科目をより重点的に学ぶことを可能とするためのシステムの改善を検討するとともに、現在優れた法学未修者教育を実施している法科大学院については、それらを更に充実させる取組が必要である。 

3 司法試験について

(1)受験回数制限

○ 受験回数制限制度は維持した上で、制度の趣旨も踏まえつつ、その制限を一定程度緩和することが適当かどうか、更に検討する。

(問題の所在)

 司法試験の受験資格は、法科大学院修了又は予備試験合格後、5年間に3回まで受験できるとの受験回数制限が設けられているが、これを撤廃又は緩和すべきであるとの意見があることから、受験回数制限制度について変更を加えるべきかどうかを検討する必要がある。

(検討結果)

  • 受験回数制限制度は、旧司法試験の下での問題状況を解消するとともに、プロセスとしての法曹養成制度を導入する以上、法科大学院における教育効果が薄れないうちに司法試験を受験させる必要があるとの考え方から導入したものである。この点について、法科大学院の教育状況が目標としていたとおりにはなっていないことや法科大学院修了後5年の間に合格しない者が多数いることなどから、受験回数制限自体を撤廃すべきであるとの立場もあるが、受験回数制限を撤廃して旧司法試験の下で生じていた問題状況を再び招来することになるのは適当ではなく、また、法科大学院修了を受験資格とする以上は法科大学院の教育効果が薄れないうちに受験させる必要もあると考えられる。さらに、法曹を目指し、司法試験を受験する者の多くを占める20歳から30歳代は、人生で最も様々なものを吸収できる、あるいは吸収すべき世代であり、本人に早期の転進を促し、法学専門教育を受けた者を法曹以外の職業での活用を図るための一つの機会ともなる。したがって、受験回数制限を設けること自体は合理的である。
  • 受験回数については、現行制度は、3回程度の受験回数制限を課すことが適当と考えられ、その上で、受験生が特別の事情で受験できない場合があり得ることも考慮し、5年間に3回受験できることとされている。
  • もっとも、現在、多くの受験生がより多くの回数受験することができるものとすることを求めている。そもそも、受験回数制限制度において制限される回数については、3回とすることが必須であるというものではなく、その制度の趣旨に反しない限度であれば、受験回数制限を緩和することも考えられる。
     この点に関し、これまでの司法試験の結果によれば、法科大学院修了直後の者の合格率が最も高く、受験期間が長くなるにつれて合格率が低下する傾向にあるところ、受験期間を維持するのであれば、この傾向に与える影響は大きくないとの指摘もあるので、更に検討する。また、受験期間と受験回数との差がない方が、受験資格があるのに受験を控えるようなことはなく、全ての受験者が法科大学院教育の効果が最も高いときから間断なく受験することになるとの指摘もあるので、この点について、更に検討する。
     さらに、受験回数制限を緩和し、受験期間内において司法試験を受験できることとしても受験期間の途中で司法試験を受験しなくなる者も相当数いることが想定されることからすれば、合格率の低下はそれほど大きくない、あるいは、累積合格率は低下しないとの指摘もあるので、この点について、更に検討する。
     以上のとおり、受験回数制限制度については、制度の趣旨も踏まえつつ、その制限を一定程度緩和することが適当かどうか、本検討会議において更に検討することとする。

(2)方式・内容、合格基準・合格者決定

○ 法科大学院教育との連携や、司法試験受験者の負担軽減を考慮し、試験科目の削減を行うことなどを更に検討する。

(問題の所在)

 司法試験の出題内容は、各科目とも法科大学院での教育内容を踏まえたものとなっていると評価されているとの意見もある一方、旧司法試験に比して科目が増えていること等から受験者の負担が重いため、科目数等を限定し、負担を軽減すべき等の意見もあり、方式・内容、合格基準・合格者決定の在り方について検討する必要がある。

(検討結果)

 法科大学院教育において、基本的な法律科目をより重点的に学習できるよう改善を図ることとされる(前記第3の2(2)参照)ことから、司法試験についてもそのような法科大学院における教育との連携を図る必要があるとともに、現在の司法試験が、旧司法試験のときの試験方式と比べて科目が増えており、司法試験受験者の負担軽減を図る必要があることを考慮し、試験科目の削減を行う(選択科目を廃止するなど。)ことなどを、本検討会議において更に検討する。
 また、試験科目以外の具体的な方式・内容、合格基準・合格者決定の在り方に関しては、司法試験委員会において、現状について検証・確認しつつより良い在り方を検討するべく、同委員会の下に、検討体制を整備することが期待される。

(3)予備試験制度

○ 予備試験制度については、現時点では、制度の実施後間もないことから、引き続き、予備試験の結果の推移、予備試験合格者の受験する司法試験の結果の推移等について必要なデータの収集を継続して行った上で、法科大学院教育の改善状況も見ながら、予備試験制度を見直す必要があるかどうかを検討すべきである。

(問題の所在)

 予備試験制度は、司法制度改革審議会意見書において、経済的事情や既に実社会で十分な経験を積んでいるなどの理由により法科大学院を経由しない者にも法曹資格取得のための適切な途を確保すべきとされたことから導入された制度であり、予備試験は、法科大学院修了者と同等の能力を有するかどうかを判定することを目的として行われ、その合格者には、司法試験の受験資格が与えられる。
 予備試験については、その導入の趣旨を踏まえて実施すべきとの立場から、本来の制度の趣旨とは異なる状況が生じており、何らかの受験資格制限を設けるべきとの指摘がある一方、予備試験を受験者の多様性を確保するための重要な制度であると見る立場から、予備試験の科目数等を簡素化・簡易化して受験生の負担を軽減すべきであるとの指摘もあり、制度の実施状況を踏まえつつ、この点を検討する必要がある。

(検討結果)

 予備試験制度について、制限的にすべきとの立場は、予備試験制度が、司法制度改革審議会意見書において、経済的事情や既に実社会で十分な経験を積んでいるなどの理由により法科大学院を経由しない者にも法曹資格取得のための適切な途を確保すべきとされたことから導入された制度であり、このような制度の趣旨を踏まえて実施すべきであるとする。そのような立場からは、これまでの2回の予備試験及び予備試験合格者が初めて受験した平成24年司法試験の結果によれば、既に本来の制度の趣旨とは異なる状況が生じており、その傾向が拡大して法科大学院を中核とする法曹養成制度のいわゆるバイパスになるおそれや、それが法科大学院の教育及び法曹を目指す者の学習に及ぼす影響等への懸念が示されている。
 一方で、予備試験制度について、積極的に評価すべきとの立場は、予備試験制度が、法科大学院を経由せずに法曹を志願する途を確保する制度であり、法科大学院の時間的・経済的負担を考えると、予備試験制度について、法科大学院を中核とする現在の法曹養成制度においても、重要な制度として位置付けるべきであるとする。
 このように、予備試験制度については、様々な見方があるものの、現時点では、制度の実施後間もないことから、引き続き、予備試験の結果の推移、予備試験合格者の受験する司法試験の結果の推移等について必要なデータの収集を継続して行った上で、法科大学院教育の改善状況も見ながら、予備試験制度を見直す必要があるかどうかを検討する必要がある。

4 司法修習について

(1)法科大学院教育との連携

○ 司法修習について、法科大学院教育との役割分担を踏まえ、法科大学院教育との連携が図られているが、今後ともその連携状況を把握しつつ、その連携の更なる充実に向けた検討を行うべきである。

(問題の所在)

 司法修習については、法科大学院における教育との有機的な連携の下に、法曹としての実務に必要な能力を修得させることが求められているところであり、法科大学院教育との連携の在り方について検討する必要がある。

(検討結果)

 法科大学院教育と司法修習の役割分担について、法科大学院教育は、法理論教育及び実務への導入教育を行うものであるのに対し、司法修習は、法科大学院における教育を前提とし、これと連携を図りながら、実務修習を中核とする実務に即した教育を行う課程と位置付けられる。
 そのような役割分担を前提とし、法科大学院教育から司法修習への円滑な移行を行い、修習の効果を上げるために、司法研修所及び配属庁会において、修習の開始前後に導入的教育が実施されている。
 司法修習生は、これらの導入的教育を経て分野別実務修習に取り組むことにより、集合修習の開始までに概ね必要な水準に達すると評価されており、法科大学院との連携に関する取組は相当程度効果を上げていると考えられるが、今後ともその連携状況を把握しつつ、その連携の更なる充実に向けた検討を行うべきである。

(2)司法修習の内容

○ 司法修習の実情を踏まえつつ、選択型実務修習も含めて、今後とも司法修習の更なる充実に向けた検討を行うべきである。

(問題の所在)

 新しい時代の多様なニーズに則した法的サービスを提供する法曹を養成するものとしてふさわしい司法修習の内容について、検討する必要がある。

(検討結果)

 司法修習においては、多様化する法曹に対する社会的ニーズに応えるべく、幅広い法曹の活動に共通して必要とされる汎用的能力を修得していくための指導が行われるとともに、選択型実務修習では、これまで、多岐にわたる分野で幅広く修習が実施されてきたところである。今後法曹が地方自治体など幅広い領域で活動することを更に促進するため、司法修習の段階でも、より多様な分野について知識、技能を修得する機会が設けられていることが望ましい。
 その上で、司法修習は、新しい制度の下で修習期間が短縮されたことなどから、実務に即した教育を行う課程として、より密度の濃いものとするための工夫が求められており、その実情を踏まえつつ、選択型実務修習も含めて、今後とも司法修習の更なる充実に向けた検討を行うべきである。

5 継続教育について

○ 法曹となった者に対する継続教育の在り方について、弁護士会を始めとする法曹三者の取組を更に進めるとともに、法科大学院においても、法曹資格取得後の継続教育について、必要な協力を行うことを検討すべきである。また、法科大学院には、法曹が先端的分野等を学ぶ機会を積極的に提供することも期待される。

(問題の所在)

 法曹となった者に対する継続教育の在り方についても、検討する必要がある。

(検討結果)

  • 法曹となった者に対する継続教育について、弁護士会を始めとする法曹三者の取組を更に進める必要があるとともに、法科大学院においても、法曹資格取得後の継続教育について、必要な協力を行うことを検討すべきである。
  • 法科大学院の在り方については、法曹有資格者の養成機関としての役割に加え、今後、制度全体の改善を図った上で、法曹が先端的分野等を学ぶ機会を積極的に提供するなど、法曹への継続教育機関としての役割を果たしていくことが期待される。

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