第1 法曹有資格者の活動領域の在り方

○ 法曹有資格者の活動領域は、広がりつつあるものの、その広がりはいまだ限定的といわざるを得ない状況にあることを踏まえ、更なる拡大を図るため、関係機関・団体が連携して、各分野における法曹有資格者のニーズを多角的に分析するとともに、課題や解決策をきめ細かく検討し、拡大に向けた取組を積極的に行う必要がある。

○ 企業内の法曹有資格者は、企業にとって、案件の始めから終わりまで一貫して関与させ、その専門性を機動的に活かすことが可能となるなど、社外弁護士とは異なる役割・有用性が認められる。企業における法曹有資格者の活動領域の更なる拡大に向けて、関係機関・団体が連携して、企業における法曹有資格者の役割・有用性の周知、企業で勤務する意義についての法曹有資格者等の意識改革に向けた取組などを積極的に行うことが重要である。

○ 国家公務員については、これまで法曹有資格者を採用してきたところ、新たな採用試験体系の中でも、司法試験合格者を対象とする総合職試験の院卒者試験(法務区分)を新設しており、今後とも、有為な人材について、行政への関心を高め、公務に取り込んでいくことが重要である。

○ 地方分権改革や情報公開制度の浸透、住民の権利意識の変化等に伴い、地方自治体において法曹有資格者を活用する必要性・有用性が認められることから、関係機関・団体等が連携して、法曹有資格者の意識改革や能力向上のための取組、地方自治体における法曹有資格者の必要性・有用性の周知に向けた取組等を積極的に行うことが重要である。また、地方自治体を中心とした地域における福祉や教育等の様々な分野に着目した活動領域の開拓に積極的に取り組むことが重要である。

○ 法テラスの常勤弁護士の活動を通じ、福祉分野など弁護士の関与が必要な領域の開拓をなお一層図る必要がある。常勤弁護士の所要の態勢の確保が必要である。

○ 刑務所出所者等の社会復帰等に果たす弁護士の法的支援が必要かつ有用であるところ、これを充実・強化するなどの観点から、弁護士、弁護士会及び日本弁護士連合会並びに日本司法支援センター(法テラス)等との連携方策について検討すべきである。

○ 日本の弁護士が個別のビジネスサポートや国際的な貿易・投資ルールの策定等において一定の役割を果たすことが期待されることから、関係機関・団体等の連携の下、日本の弁護士の海外展開を促進する。また、日本の弁護士が国際案件処理についての能力向上に努めつつ、海外展開業務を充実させる必要がある。

○ 法務省を始め関係機関・団体が連携して法曹有資格者の活動領域の拡大を図るための体制の整備について検討する必要がある。

(問題の所在)

 司法制度改革審議会意見書では、「法の支配」を全国あまねく実現するため、弁護士の地域的偏在の是正が必要であるとともに、弁護士が、公的機関、企業、国際機関等社会の隅々に進出して多様な機能を発揮する必要があると指摘された。
 これまで、社会の隅々に進出することを目指した法曹有資格者の新たな分野への活動も広がりつつあるものの、いまだ限定的といわざるを得ない状況にあることを踏まえ、法曹有資格者の活動領域の拡大の状況や法曹に対する需要の現状及びこれまでの取組の状況等を検討し、そこで明らかになった課題を整理しつつ、弁護士の地域的偏在の解消等そのニーズに即した活動領域の在り方や、弁護士を始めとする法曹有資格者の需要が見込まれる官公庁、企業、海外展開等への活動領域拡大のための方策について検討する必要がある。

(検討結果)

  • これまでの取組を通じ、法曹有資格者の新しい分野における活動が広がりつつあり、各分野について法曹有資格者の必要性や活躍の可能性は概ね認められるが、その広がりはいまだ限定的といわざるを得ない状況にあることから、更なる拡大を図るため、関係機関・団体が連携して、各分野における法曹有資格者のニーズを多角的に分析するとともに、課題や解決策をきめ細かく検討し、拡大に向けた取組を積極的に行う必要がある。
  • 企業の分野では、企業における法曹有資格者の採用者数がここ数年急増している。企業において、企業法務の役割の重要性の拡大を背景として、法曹養成課程を通じて一定の専門的能力を有し、社内事情に精通する法曹有資格者を社内に置くことにより、案件の始めから終わりまで一貫して関与させ、その専門性を機動的に活かすことが可能となるなど、社外弁護士と異なる法曹有資格者の役割・有用性が認められている結果であると考えられる。もっとも、法曹有資格者の有用性についての企業側の認識や、企業で勤務する意義についての法曹有資格者側の認識は、いずれも十分でないことから、今後、企業における法曹有資格者の活動領域の更なる拡大に向けて、関係機関・団体が連携しながら、企業における法曹有資格者の役割・有用性の周知や法曹有資格者等の意識改革などに向けた取組を積極的に行うことが重要である。
  • 国家公務員の分野では、これまで、国家公務員採用試験や任期付職員制度等により、法曹有資格者を採用してきた。また、平成24年度から実施されている新たな採用試験体系の中でも、司法試験合格者を対象とする総合職試験の院卒者試験(法務区分)を新設した。今後とも、有為な人材について、行政への関心を高め、公務に取り込んでいくことが重要である。
  • 地方自治体の分野では、少しずつ法曹有資格者の採用が増えてはいるものの、まだ多いとはいえない。地方分権改革に伴い、地域の実情に応じた独自の政策・条例の制定などに当たり法的な観点からの検討を行う政策法務の役割が重要となっていることや、情報公開制度の浸透・住民の権利意識の変化に伴い、自治体の業務において法的な対応が必要となる場面が増え、法曹有資格者が自治体内に存在することによって、業務の適正化・迅速化を図ることができることなど、地方自治体において法曹有資格者を活用する必要性・有用性は認められる。もっとも、その必要性・有用性についての理解は必ずしも浸透しておらず、更なる拡大のためには、関係機関・団体が連携して、法曹有資格者の意識改革や能力向上のための取組、地方自治体における法曹有資格者の必要性・有用性の周知に向けた取組のほか、複数の自治体が共同で法曹有資格者を採用する方法の検討や、地方自治体の理解を得て法科大学院生のエクスターンシップを積極的に実施するなど、法曹有資格者の採用を促進する方策を積極的に進めていくことが重要である。また、例えば、学校教育を支援する部署、児童虐待対応などを行う部署においては、法曹有資格者を配置することによって適正かつ迅速な業務の遂行が特に期待できることから、地方自治体を中心とした地域における福祉や教育等の様々な分野に着目した活動領域の開拓に積極的に取り組むことが重要である。
  • 福祉分野など法的ニーズがありながら、必ずしも一般の弁護士の手が届きにくい分野においては、法テラスの常勤弁護士を活用することにより、弁護士の関与が必要な活動領域の開拓をなお一層進めることも有益である。また、常勤弁護士は、災害の被災者に対する法律相談実施など公益性の高いサービスを組織的かつ迅速に実施し得る存在である。これらの要請に応えるため、常勤弁護士の所要の態勢の確保が求められる。
  • 「再犯防止に向けた総合対策」(平成24年7月犯罪対策閣僚会議)でも言及されているように、刑務所出所者等の円滑な社会復帰・自立更生には弁護士による法的支援が必要かつ有益であるところ、これを充実・強化するなどの観点から、弁護士、弁護士会及び日本弁護士連合会並びに日本司法支援センター(法テラス)等との連携方策について検討すべきである。
  • 日本経済のグローバル化の進む中、日本企業の戦略的かつ円滑な海外展開とその維持発展に資するよう、日本の弁護士が個別のビジネスサポートや国際的な貿易・投資ルールの策定等において一定の役割を果たすことが期待されることから、関係機関・団体等の連携の下、日本の弁護士の海外展開を促進し、日本の弁護士が国際案件処理についての能力向上に努めつつ、海外展開業務を充実させる必要がある。
  • 法務省を始め関係機関・団体が連携して法曹有資格者の活動領域の拡大を図るための体制の整備について検討する必要がある。

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