資料3 共通的な到達目標の在り方に関する検討結果

平成22年9月16日
中央教育審議会大学分科会
法科大学院特別委員会
第2ワーキング・グループ

1.共通的な到達目標の検討経緯

 中央教育審議会大学分科会法科大学院特別委員会(以下「法科大学院特別委員会」という。)が平成21年4月にとりまとめた「法科大学院教育の質の向上のための改善方策について(報告)」(以下「特別委員会報告」という。)において,修了者の質の保証のための改善方策の一つとして,「すべての法科大学院における共通的な到達目標を策定する必要がある」ことが提言された。
 法科大学院修了者の共通的な到達目標(以下「共通的な到達目標」という。)については,これまでに,文部科学省の「専門職大学院等における高度専門職業人養成教育推進プログラム」の支援を得て,研究者教員及び法曹関係者の参加のもとに調査研究が行われ,関係各方面の意見も踏まえ,本年3月に「共通的到達目標モデル(第二次案)」(以下「第二次案」という。)が公表されている。
 しかし,法科大学院関係者や法曹関係者間において,「共通的な到達目標」の法科大学院教育における位置づけや「共通的な到達目標」と認証評価との関係等についてなお十分な共通認識が得られているとは言い難いため,本年4月の法科大学院特別委員会の審議の結果,本ワーキング・グループにおいて,第二次案を参考にして「共通的な到達目標」についての検討を行うこととされた。

2.検討結果

 本ワーキング・グループでは,第二次案及びこれに対する関係者からの意見を参考にしつつ,「共通的な到達目標」の法科大学院教育における位置づけ及び「共通的な到達目標」と認証評価との関係について検討を行い,以下のとおり審議結果をとりまとめた(*)。
 今後,関係者のさらなる尽力により,本ワーキング・グループの意見を踏まえて,最終的に「共通的な到達目標」が策定されることを期待したい。

(*) なお,審議の過程で第二次案の内容について議論した事項については,参考として別紙に付した。

(1)「共通的な到達目標」の法科大学院教育における位置づけ

 特別委員会報告で提言されているとおり,「共通的な到達目標」は,法科大学院の修了者が共通に備えておくべき能力等を明確にし,修了者の質を保証することを目的とするものであり,すべての法科大学院において共通して学修することが求められる内容及び水準(ミニマム・スタンダード)を示すものである。したがって,「共通的な到達目標」の法科大学院教育における位置づけとしては,以下の点に留意が必要である。

  1. 各法科大学院においては,ミニマム・スタンダードとしての「共通的な到達目標」を踏まえ,それぞれの教育理念に則り,創意工夫によって,それぞれの到達目標を設定することが必要であり,自主的・自律的に「共通的な到達目標」を超える到達目標とすることが強く期待される。
     
  2. 各法科大学院において設定した到達目標の内容については,授業及び自学自習を通じて,修了時までに学生に確実に修得させることが必要である。なお,各法科大学院は,確実な修得を求める到達目標とは別に,その達成が望ましい,より高度の目標を自主的・自律的に設定することも考えられる。
     
  3. 授業で取り上げる事項及び自学自習を通じて学習する事項の決定については,各法科大学院が,授業の種類・性質や学生の資質・能力等に十分配慮し,適切に判断することが必要である。また,学生の到達状況を見極めながら,不断にその在り方を検証することが必要である。
     
  4. 自学自習に委ねる内容については,その学習方法等に関し適切に指導・助言することが必要である。

 なお,「共通的な到達目標」を「コア・カリキュラム」と表現することがあるが,「コア・カリキュラム」という用語は「授業」を連想させ,授業内容を直接規律するものとの誤解を招くおそれがあるとの意見もあり,「共通的な到達目標」の趣旨を踏まえた名称の工夫も必要であると考えられる。

(2)「共通的な到達目標」と認証評価との関係

 各認証評価機関は,「共通的な到達目標」に関し,認証評価において以下のとおり各法科大学院の取組について評価することが期待される。

  1. 各法科大学院が,学生が修了時までに確実に修得すべき知識・能力の内容・水準として,適切な到達目標を設定しているかを評価することが期待される。その際,ミニマム・スタンダードとしての「共通的な到達目標」に照らし,それと同等もしくはそれを上回る到達目標となっているかを評価することが適切である。
     
  2. 各法科大学院が設定した到達目標を踏まえ,適切に教育課程が編成され,学修指導が実施されているかを評価することが期待される。その際,組織全体として到達目標を踏まえた授業計画の作成・実施を担保するための措置が講じられているかを確認することが適切である。また,授業で直接取り上げない事項については,学生に対し,自学自習を促進・支援するための適切な手段を講じていることを確認することが適切である。
     
  3. 自学自習を通じて学習する内容を含め,各法科大学院が設定した到達目標に対する学生の到達レベルを測定するための適切な手段を講じているかを評価することが期待される。その際,組織全体として到達目標を踏まえた成績評価・修了認定の実施を担保するための措置が講じられているかを確認することが適切である。 

 

(別紙)調査研究班・共通的到達目標モデル(第二次案)について(参考) 

<総論>

 「共通的な到達目標」を策定するにあたっての基本的な考え方は適切であるが,共通的な到達目標とされる項目のうち,授業の対象として取り上げるべきものと自学自習に委ねるべきものをどのように振り分けるかについては,各法科大学院および授業を担当する教員が適切に判断する必要があることを,より明確に指摘しておく必要があると思われる。

<公法系>

○憲法
「共通的な到達目標」の趣旨に合致したものと認められるが,若干の項目については,整理統合,追補,求められる到達水準の見直し,及び字句の修正について検討すべきである。なお,行政法及び刑事訴訟法と重複する事項については,両者の記載に矛盾がない限り,それぞれの判断で記載することが適切であると思われる。

○行政法
「共通的な到達目標」の趣旨に合致したものと認められるが,若干の項目については,整理統合,追補,求められる到達水準の見直し,及び字句の修正について検討すべきである。なお,憲法と重複する事項については,両者の記載に矛盾がない限り,それぞれの判断で記載することが適切であると思われる。

<民事系>

○民法
「共通的な到達目標」の趣旨におおむね合致したものと認められるが,以下の点についてなお検討を要すると思われる。 まず,取り上げる項目については基本的に適切であるが,一部について追加や削除の可能性を検討する必要があると思われる。 また,項目の一部については,複数の内容が統合されており,その趣旨が必ずしも明確でないものが含まれており,その再整理を行う必要があるほか,総論に示されている項目表現の趣旨に照らして,各項目の表現が適切であるかどうかを吟味する必要があると思われる。

○商法
「共通的な到達目標」の趣旨に合致したものと認められるが,表現の点で修正を要する箇所や,項目の統合について,なお検討を要する点が若干あると思われる。

○民事訴訟法
「共通的な到達目標」の趣旨に合致したものと認められるが,若干の字句について修正することを検討すべきである。

<刑事系>

○刑法
「共通的な到達目標」の趣旨に合致したものと認められるが,若干の字句について修正することを検討すべきである。

○刑事訴訟法
「共通的な到達目標」の趣旨に合致したものと認められるが,若干の項目を追補することを検討すべきである。なお,憲法の刑事手続に関する権利の記述と刑事訴訟法との重複部分については,両者の記載に矛盾がない限り,それぞれの判断で記載するのが適切と思われる。

<法律実務基礎科目>

 民事実務の基礎,刑事実務の基礎及び法曹倫理に関する法律実務基礎科目のいずれについても,「共通的な到達目標」の趣旨に合致したものと認められる。

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