修了者の質の保証(第2ワーキング・グループにおける検討結果報告)

1.共通的な到達目標の設定と達成度評価方法

  • 将来の法曹として、法科大学院修了者が共通に備えておくべき能力を明確にし、偏りのない学修を確保することにより修了者の質を保証するため、すべての法科大学院における共通的な到達目標を策定する必要があり、それによって各法科大学院における教育内容・方法の一層の改善を促進することが望まれる。
  • 今回、共通的な到達目標を策定すべき科目は、法律基本科目及び法律実務基礎科目とし、そこに掲げられるべき質・能力については、将来の法曹として必要な基礎的な理解、体系的な法的思考能力、創造的・批判的思考能力、事例分析能力及び論理的表現能力といった幅広い内容とすることが適当である。
  • 共通的な到達目標の水準は、すべての法科大学院における学修として共通に必要な水準(ミニマム・スタンダード)を定めるものであり、各法科大学院においては、それぞれの教育理念に則り、創意工夫によって、共通的な到達目標を超える到達目標を設定することが強く期待される。
  • 共通的な到達目標の内容は、法改正などの法的状況や社会的環境の変化あるいは学問分野の進展などに応じて適宜変更されるべきであり、少なくとも5年ごとに1回程度の見直しが行われる必要がある。
  • 各法科大学院においては、厳格な成績評価による単位認定・進級判定及び修了認定を実施し、それらが、各法科大学院修了者の共通的な到達目標の達成度を適切に評価するものとなっているかについて、認証評価機関による評価において適切に評価されることが期待される。

<共通的な到達目標の策定の目的>

 法科大学院の修了者に対しては司法試験の受験資格が付与されることとなっているが、法科大学院における学修は、司法試験科目にとどまらず、司法試験では測ることができないが、法曹になるために必要な内容を幅広く含んでいる。しかし、これまで、司法試験委員会の考査委員ヒアリングや司法研修所の教官の所感などにおいて、法科大学院を修了して司法試験を受験している者や司法修習を受けている者のうちに、基本分野の法律に関する基礎的な理解や法的思考能力が十分身に付いていないと思われる者が一部に見られる、との指摘がなされている。また、法科大学院が担うべき法律実務基礎教育の内容については、明確な共通の理解が必ずしもなく、法科大学院によって法律実務基礎科目の内容にバラツキがあるとの指摘もなされている。 このため、将来の法曹として、法科大学院修了者が共通に備えておくべき能力を明確にし、偏りのない学修を確保することにより修了者の質を保証するため、すべての法科大学院における共通的な到達目標を策定する必要があり、それによって、各法科大学院における教育内容・方法の一層の改善を促進することが望まれる。
 この共通的な到達目標は、デファクト・スタンダードとしての性格を有するものであるが、その内容は、授業において直接取り扱うかどうかにかかわらず、法科大学院の学生が修了時までに必ず修得しておくべき能力等を示すものである。また、共通的な到達目標は、ミニマム・スタンダードとして、法科大学院修了者として最低限度備えておくべき能力等を示すものであり、法科大学院での学修が、単に共通的な到達目標を達成すれば十分であるという趣旨のものではない。
 共通的な到達目標の策定・運用に当たっては、法科大学院教育の多様性と裁量を確保し、その水準及び対象とする法領域に関して、各法科大学院がその創意工夫によって共通的な到達目標を超える教育を実施することを尊重する必要があり、授業内容・授業方法への過剰な干渉や知識偏重型・暗記型学修を助長する内容とならないように、特に留意すべきである。

<共通的な到達目標の内容>

 共通的な到達目標の対象となる法分野は、当面、法科大学院の教育において共通に修得することが期待される能力等の主要な部分を明確にするという趣旨から、法律基本科目及び法律実務基礎科目とすることが適切である。
 共通的な到達目標に掲げられる質・能力については、将来の法曹として必要な基礎的な理解、体系的な法的思考能力、創造的・批判的思考能力、事例分析能力及び論理的表現能力といった幅広い内容とすることが適当である。
 共通的な到達目標の対象とその到達目標の内容としては、当該法分野の理解にとって不可欠な法制度の枠組、基本となる法理、重要な条文等について、法制度、法理や条文の趣旨を理解しているか、条文の要件・効果を理解しているか、条文等の解釈・適用に関する重要な問題点を理解しているか、条文等の解釈・適用に関わる主要な判例・学説の考え方や対立点を理解しているか、複数の制度や複数の法分野の基本的な連関を理解しているか、などといったものが考えられる。その内容は、法科大学院生や各法科大学院において共通の理解が得られるよう、可能な範囲で、具体的な項目を定めて明確化される必要がある。
 共通的な到達目標の水準は、すべての法科大学院における学修として共通に必要な水準(ミニマム・スタンダード)を定めるものであり、各法科大学院においては、共通的な到達目標の水準の学修のみで満足するのでなく、それぞれの教育理念に則り、創意工夫によって、共通的な到達目標を超える到達目標を設定することが強く期待される。
 共通的な到達目標の内容は、法改正などの法的状況や社会的環境の変化あるいは学問分野の進展などに応じて適宜変更されるべきであり、少なくとも5年ごとに1回程度の見直しが行われる必要がある。

<共通的な到達目標達成の評価方法>

 各法科大学院修了者の共通的な到達目標の達成度の評価については、各法科大学院における厳格な成績評価による単位認定・進級判定及び修了認定において適切に行われるべきものである。それらの取組みについては、認証評価機関による評価において、適切に評価されることが期待される。なお、個別の修了者についてどのように評価を行うことができるか等について、将来的な検討が必要である。

 

2.教育内容の充実と厳格な成績評価・修了認定の徹底

(1)法律基本科目の基礎的な学修の確保(特に法学未修者1年次の学修について)

  • 今後、法学未修者の教育をより一層充実させるため、司法制度改革の理念・趣旨に反して法律基本科目以外の授業科目群を軽視することにならないよう十分に留意しながら、授業科目やその内容について、各科目群(法律基本科目、法律実務基礎科目、基礎法学・隣接科目、展開・先端科目)に即して適切な科目区分整理を行い、偏りのない履修・学修の確保に配慮しつつ、法律基本科目の質的・量的な充実を図る必要がある。
  • とりわけ、法学未修者1年次における法律基本科目の基礎的な学修を確保するため、各法科大学院が法律基本科目の単位数を6単位程度増加させ、これを1年次に配当することを可能にする必要がある。その場合、自学自習時間の確保などに配慮するため、履修登録単位数の上限を36単位とするこれまでの考え方を原則として維持しながら、1年次については、これを最大42単位とすることを認める弾力的な取扱いが必要である。これに伴い、この取扱いは、法学未修者1年次における法律基本科目の充実を図るという趣旨であることに鑑み、法学未修者の修了要件単位数についても、各法科大学院がこれを増加させることができるような弾力的な取り扱いを行う必要がある。
  • 法学未修者1年次においては、法学の基礎知識の定着とともに、体系的な法的思考方法の修得が求められていることから、授業の実施については、同一の授業科目の中でも、学修のテーマや学生の習熟度に応じて、双方向・多方向的な授業方法と講義形式による授業方法との適切な組み合わせを行うなど、授業方法の一層の工夫が必要である。
  • 法学未修者1年次における法律基本科目の基礎的な学修は、2年次以降の学修の前提となるものであり、また、2年次以降は法学既修者と同じ授業を受けることが通例であるため、法学未修者は1年次終了の時点で、少なくとも、法学既修者と同一の授業を受けるのに支障がない程度にまで到達している必要があり、1年次における成績評価・単位認定及び2年次への進級判定に当たっては、これらの観点にしたがって厳格に行われる必要がある。
  • 認証評価機関における評価に当たっても、法学未修者教育の改善に係る上記の単位数や教育方法の考え方に従い、法律基本科目の評価基準や解釈指針及びその適用の在り方について、今後の検討が必要である。

<法学未修者教育の現状>

 法科大学院教育においては、司法試験及び司法修習との有機的連携を図る法曹養成の中核的教育機関として、実務との架橋を意識した法理論教育を行うことにより必要な学識及び実務の基礎的素養等を身に付けさせるため、法律基本科目を中心として論理的・体系的な法的思考力や理解力を涵養することが求められている。
 法科大学院のカリキュラムにおいては、法律基本科目の他に、法律実務基礎科目、基礎法学・隣接科目や展開・先端科目といった各科目群が存在し、適切な科目区分整理が行われることを前提として、各科目群について偏りのない学修が求められており、法律基本科目の必要修得単位数は、おおむね、修了要件単位数の3分の2以内となっている。また、法科大学院の修了要件単位数は93単位以上となっているが、各学年について36単位の上限を標準とする履修登録単位数の制限があり、最終学年次については44単位を最大上限とする解釈・運用が認証評価機関における評価基準ないし解釈指針で認められている結果、現在において、標準修業年限3年間で履修が可能となる単位数は最大でも116単位となっている。
 法律基本科目の授業を正課外で実施することにより、実質的に履修登録単位数の上限を超過することや、実質的に法律基本科目の内容を有する授業科目を展開・先端科目等の他の授業科目群科目として開講することは、法律基本科目に偏り、それ以外の授業科目の履修が十分確保されない結果を生ずる恐れがきわめて高くなり、認証評価においても評価基準に不適合であると判断される例も見られる。
 平成20年度の新司法試験においては、法学未修者の新司法試験合格率(22.5%)は、法学既修者の合格率(44.3%)の半分程度になっており、法学未修者教育のための修了要件単位数や法律基本科目の授業時間数について十分でないとの指摘がなされている。

<法学未修者教育の量的充実>

 今後、法学未修者の教育をより一層充実させるため、司法制度改革の理念・趣旨に反して法律基本科目以外の授業科目群を軽視することにならないよう十分に留意しながら、授業科目やその内容について、各科目群(法律基本科目、法律実務基礎科目、基礎法学・隣接科目、展開・先端科目)に即して適切な科目区分整理を行い、偏りのない履修・学修の確保に配慮しつつ、法律基本科目の質的・量的な充実を図る必要がある。
 とりわけ、法学未修者1年次における法律基本科目の基礎的な学修を確保するため、各法科大学院が法律基本科目の単位数を6単位程度増加させ、これを1年次に配当することを可能にする必要がある。その場合、自学自習時間の確保などにも配慮し、履修登録単位数の上限を36単位とするこれまでの考え方を原則として維持しながら、1年次については、これを最大42単位とすることを認める弾力的な取扱いが必要である。これに伴い、この取扱いは、法学未修者1年次における法律基本科目の充実を図るという趣旨であることに鑑み、修了要件単位数についても、各法科大学院がこれを増加させる(現在の修了要件単位に、法学未修者1年次の法律基本科目増加分の単位数を上乗せする)ことができるような弾力的な取り扱いを行う必要がある。このような弾力的運用は、あくまで未修者教育の改善を図るためのものであることから、法律基本科目の単位数等を増加させる場合においても、各法科大学院は、在学する学生の学修状況を十分に踏まえ、未修者教育の充実に資する教育内容を増やすべきであり、導入的な内容などにも配慮し、法律基本科目の基礎的な力を着実に身に付けさせるために、このような弾力的運用を活用することが期待される。また、増加した単位数の枠内で、将来的に法曹として求められる法的なリテラシーを醸成する観点から、単に技巧的な答案練習とは区別された、法的文書の作成のための基礎教育が十分に行われるよう努めることが期待される。
  また、正課の授業以外においても、法科大学院の教員によるオフィスアワーなどにおける学修指導、上級年次の法科大学院生や修了者によるメンターないしチューター制度の活用やTAによるサポートなど、とりわけ法学未修者1年次生の自学自習を支援する体制の充実も図られるべきである。
 このほか、法学未修者1年次生については、法律基本科目の単位数を変更することなく、45時間の学修量を1単位とする枠内で、授業時間数と事前事後の学修時間の配分を見直し、15時間の授業時間数をより弾力的に運用することや、授業形態(講義、演習、実習等)の相違に応じて、授業時間数の計算方法を区別することも考慮の余地がある。ただし、このような措置は、法科大学院の法学未修者1年次の問題にとどまらず、大学院における時間計算に関わる一般的問題であるので、導入に当たっては慎重に検討すべきである。

<法学未修者の教育方法の改善>

 現在、法科大学院教育においては、法的思考力を醸成すべく、双方向・多方向型の授業を行うものとされているが、一方において、法学未修者1年次においては、基礎的知識が十分でない状態で双方向・多方向型の授業を行うと、授業の進捗が遅れ、教員負担も大きくなることから、体系的な法的思考方法を身に付けさせるためには講義方式の授業の方が優れているとの指摘がある。他方において、2年次以降の授業における双方向型授業とは質問の観点がやや異なり、1年次においては知識確認を中心とする質問が多くなるとしても、方法さえ適切に工夫すれば双方向・多方向型授業は法学未修者1年次生にとっても十分効果的である、との指摘もある。
 法学未修者1年次においては、法学の基礎知識の定着とともに、体系的な法的思考方法の修得が求められていることから、授業の実施については、同一の授業科目の中でも、学修のテーマや学生の習熟度に応じて、双方向・多方向型の授業方法と講義形式の授業方法を適切に組み合わせるなど、授業方法の一層の工夫が必要である。また、双方向・多方向型の授業は学生の予習・復習のインセンティブを高めることが期待されるが、その際、学生の予習・復習に偏りが生じることのないよう、適切な教科書の選択や補助教材の活用等による自学自習の支援のための工夫がとくに必要である。
 法学未修者1年次における法律基本科目の基礎的な学修は、2年次以降の学修の前提となるものであり、また、2年次以降は法学既修者と同じ授業を履修することが通例であるため、法学未修者は1年次終了の時点で、少なくとも、法学既修者と同一の授業を受けても支障が生じない程度にまで到達している必要があり、2年次への進級判定又は1年次の成績評価判定は、これらの観点に従って厳格に行われる必要がある。その際、2年次への進級を認めるのに必要な学力をどの程度に設定するかについても、共通的な到達目標を踏まえた共通認識が重要である。

<認証評価の考え方>

  認証評価機関における評価に当たっても、法学未修者教育の改善に係る上記の単位数や教育方法の考え方に従い、その評価基準や解釈指針及びその適用の在り方について今後の検討が必要である。

 

 (2)法律実務基礎科目のあり方

  • 法律実務基礎科目については、法科大学院における教育が司法修習における実務教育の導入的役割をも果たすことを念頭に置いて、法律基本科目の共通的な到達目標の設定内容を踏まえつつ、法科大学院修了時に最低限修得されているべき共通的な到達目標の設定が必要である。各法科大学院においても、共通的な到達目標を踏まえつつ、それを達成するための教育内容、教育方法についての様々な工夫を行うとともに、共通的な到達目標を超える法律実務基礎科目の充実の在り方も検討することが望まれる。
  • また、法律実務基礎科目の配当年次については、法律基本科目の基礎的な学修を終えた後の2~3年次とすることが望ましいとする考え方が有力である。さらに、法律実務基礎教育においては、授業を効果的なものとするため、研究者教員と実務家教員の緊密な連携協力が必要である。

 <法律実務基礎科目の現状>

 法律実務基礎科目には、多様な目的を有した科目が各法科大学院において開講され、すべての法科大学院において6単位以上の教育が行われ、修了に必要な法律実務基礎科目単位数が10単位未満となっている法科大学院が23校となっており、多くの法科大学院において、法律基本科目の学修を経た2~3年次での履修となっている。
  新たな法曹養成制度においては、法科大学院教育と、その成果を確認する司法試験及び司法修習課程との連携や相互の情報交換が重要であるが、民法、刑法等の基本法分野について、表面的な知識はあるものの、その理解が必ずしも十分でない法科大学院修了者がいるとの指摘がある。また、法律実務基礎科目の内容及び学修の到達水準について、法科大学院関係者や司法修習に関わる実務家の間で明確な共通認識が得られていなかったことも与って、司法修習に必要な水準に到達していない者が法科大学院修了者に含まれていると指摘する司法修習関係者がいる。
  また、法律実務基礎科目の多様な教育目的と教育効果について、関係者の中でも統一的な認識が形成されておらず、法律実務基礎科目に属する各授業科目における教育が、教員相互間の連携が不十分なままに、それぞれ別個独立に行われているだけでなく、法律実務基礎科目の学修は法律基本科目の学修を踏まえたものである必要があるにもかかわらず、各科目の教員相互間の連携や各科目の内容の整合性が十分でない例があるとの指摘もある。

<法律実務基礎科目の充実>

 法律実務基礎科目は、法律基本科目における基本法分野の基礎的な学修(それ自体が実務との架橋を意識したものであることが前提である。)がなされていることを前提として、法律実務教育の導入部分(例えば、要件事実や事実認定に関する基礎的部分)を行うこととされており、その内容・方法の充実が求められる。このため、法律実務基礎科目(特に法曹倫理、民事訴訟実務の基礎及び刑事訴訟実務の基礎に関する科目)については、法科大学院における教育が司法修習における実務教育の導入的役割をも果たすことを念頭に置いて、法律基本科目の共通的な到達目標の設定内容を踏まえつつ、法科大学院修了時に最低限修得されているべき共通的な到達目標の設定を検討することが必要である。各法科大学院においても、共通的な到達目標を踏まえつつ、それを達成するための教育内容、教育方法についての様々な工夫を行うとともに、共通的な到達目標を超える法律実務基礎科目の充実の在り方も検討することが望まれる。また、法律実務基礎科目の配当年次については、法律基本科目の基礎的な学修を終えた後の2~3年次とすることが望ましいとする考え方が有力である。さらに、法律実務基礎教育においては、授業を効果的なものとするため、研究者教員と実務家教員の緊密な連携協力が必要である。
  法律実務基礎教育の充実を図ることは、法科大学院教育が従来の司法修習における前期修習相当部分の実務教育を肩代わりすることを意味するものでないが、これにより円滑に司法修習との円滑な接続を図ることが期待され、他方、司法修習においてもあるべき法科大学院教育との連続性を意識した修習内容となることが望まれる。
  なお、臨床系科目については、現在、多くの法科大学院が選択または選択必修科目として開講しているが、科目の性質もあって、それらの法科大学院においても必ずしも多数の法科大学院生が履修できる教育体制が確保されているわけではない。法律実務基礎科目については、これまで、臨床系科目の導入を含めて、平成23年を目途に、修了に必要な単位数を10単位程度とする議論がなされているところであり、各法科大学院においては、法律実務基礎科目の充実が期待される。また、エクスターンシップや模擬裁判などの実施に当たっては、これを短期間で集中的に実施することが有効であることから、夏季・冬季の休業期間の活用など、2セメスター制や授業時間帯の枠にとらわれない工夫も期待される。

 

(3)厳格な成績評価・修了認定の徹底

  • 厳格な成績評価を徹底するため、一部の成績区分への偏りが生じることのないよう、適切な成績分布の確保が必要であり、また、これを前提として、GPA制度を進級判定や修了認定において積極的に活用することも望まれる。
  • また、再試験を実施する場合は、それが定期期末試験における成績不良者の救済措置とならないよう、適切に運用される必要がある。

<進級率・修了率等の現状>

法科大学院修了者には、司法試験の受験資格が付与されることとなっており、法科大学院の教育において厳格な成績評価による単位認定・進級判定・修了認定が行われることが求められている。現在、1年次から2年次への進級率が9割以上の法科大学院は22校、進級制を採っていない法科大学院は16校、修了率が9割以上の法科大学院は9校、進級時や修了時の判定の際に単位修得以外にGPA制度の数値を考慮している法科大学院は22校、平成21年度以降にGPA制度を導入予定の法科大学院は12校となっている。

<成績評価・進級判定・修了認定の厳格化>

 厳格な成績評価を徹底するため、各授業科目の単位を認定するについては個々の法科大学院ないしはクラスにおける相対評価でなく、全国的な水準を踏まえた絶対的な到達度を基準とする必要がある。また、一部の成績区分への偏りが生じることのないよう、適切な成績分布の確保が必要であり、これを前提として、GPA制度が進級判定や修了判定に積極的に活用されることも望まれる。GPA制度の運用に当たっては、形式的な導入にとどまり、厳格な成績評価による単位認定・進級判定・修了認定の機能を十分に果たさないという事態に陥らないように運用されるべきである。
 また、再試験を実施する場合は、それが定期期末試験における成績不良者の救済措置とならないよう、適切に運用される必要がある。
 なお、厳格な成績評価の実施に当たっては、成績評価の水準に関して教員間での共通認識の形成が不可欠であり、これを実現するためにFDの実施などを通じた努力が必要である。

 

3.司法試験との関係

  • 司法試験の合否のみにより法科大学院の教育成果のすべてを評価することは適切とはいえないが、法曹を養成するという法科大学院の設置の目的に鑑みれば、3回の司法試験の受験の結果、修了者のうち、司法試験に合格し、法曹として活躍できる者の割合が相当に低い状況が継続的に見られる法科大学院については、入学定員数の調整を含めた適切な入学者選抜、教育水準の確保・向上並びに、厳格な成績評価及び修了認定の徹底などを担保するための方策を早急に講じ、現状の改善を図る必要がある。
  • なお、これまでの司法試験において、合格者が全く又はごく少数しか出ない状況が見られる法科大学院については、その在り方について、抜本的な見直しが必要である。

<現状>

 大多数の法科大学院において、平成17年度に修了した法学既修者の50パーセント以上が、平成18年から平成20年までの3回の新司法試験において合格しているが、50パーセントに満たなかった法科大学院は8校であった。また、法科大学院の修了者が、直近の司法試験で合格している割合が、全国平均の半分にも満たない法科大学院は、平成18年は11校、平成19年は30校、平成20年は 34校であった。平成18年から平成20年までのいずれの司法試験においても、上記割合が全国平均の半分にも満たなかった法科大学院は、8校であった。

※ 合格率の算出に当たっては、法科大学院によって、修了者数と実際の司法試験受験者数との乖離がある例も少なくないことに十分留意する必要がある。

 法科大学院は、新たな法曹養成制度の中核的な教育機関として、司法試験及び司法修習と有機的連携を図りつつ、法曹に必要な学識及び能力を備えた者を養成することを目的として設置されているものである。司法試験の合否のみにより法科大学院の教育成果のすべてを評価することは適切とはいえないが、法曹を養成するという法科大学院の設置の目的に鑑みれば、3回の司法試験の結果、修了者のうち、司法試験に合格し、法曹として活躍できる者の割合が相当に低い状況(例えば、現在の司法試験合格率を前提とすれば、平均合格率の半分にも満たない状況)が継続的に見られる法科大学院については、入学定員数の調整を含めた適切な入学者選抜、教育水準の確保・向上並びに厳格な成績評価及び修了認定の徹底などを担保するための方策を講じ、現状の改善を図る必要がある。
   なお、合格者が全く又はごく少数しか出ない状況が見られる法科大学院については、その在り方について、抜本的な見直しが必要である。

 

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高等教育局専門教育課専門職大学院室

(高等教育局専門教育課専門職大学院室)