資料2 入学者の質と多様性の確保(第1ワーキンググループにおける検討結果報告)

1.入学者の質と多様性の確保

1.競争性の確保

○現時点で、競争倍率(受験者数/合格者数)が2倍を下回っているなど、競争性の確保が困難になっている法科大学院については、質の高い入学者を確保するため、早急に入学定員の見直しなど、競争的な環境を整えることが不可欠である。

 <入学者選抜の状況>

 法科大学院入学者選抜における志願者数は、法科大学院を創設した平成16年度の72,800人を除き、平成17年度~19年度においては4万人台で推移したが、毎年、減少傾向にあり、平成20年度は4万人台を割っている。平成19年度と比較して平成20年度は5,652人減となっている。
  平均志願倍率は、平成16年度の13倍を除き、平成17年度~20年度においては7倍前後で推移しており、3倍を割っている法科大学院が13校に達している。
  現在、74校の法科大学院(国立23校・公立2校・私立49校)が設置され、入学定員の総計は5,795人であるが、定員過欠員の状況は、平成16年度(177名超過)を除き、入学定員に対して入学者数が下回る状態が続き、平成20年度では388名(46法科大学院)の欠員が生じている。このうち、平成19年度及び20年度の2ヶ年連続で入学者が定員に満たない法科大学院は28校あり、そのうち入学定員の8割を満たしていない法科大学院が10校ある。

<競争性の確保>

 企業の雇用動向、司法試験の合格率や法曹有資格者の就職状況等の状況の変化にもよるが、法科大学院の入学志願者数は、今後、ほぼ一定の水準で推移していくものと見込まれる。
  各法科大学院は、それぞれ魅力あるものとなるよう切磋琢磨し、自らの活動に関する情報を社会に対して積極的に発信するとともに、入学者選抜の工夫等を通じて、志願者の確保に努めていく必要がある。
  特に、競争倍率(受験者数/合格者数)が2倍を下回る状況は、入学者選抜における選抜機能が十分に働いているとはいえず、現時点で、このような状況にある法科大学院については、質の高い入学者を確保するため、早急に入学定員を見直すなど、競争的な環境を整えることが不可欠である。

2.適性試験の改善

○ 適性試験は、法科大学院入学時に、高度専門職業人として備えるべき不可欠の資質・能力を測るものでもあるため、法科大学院の入学者選抜においては、適性試験を重要な判定資料として活用することが求められる。
○ 適性試験を課している制度趣旨を無意味にするような著しく低い点数の者を入学させないよう、統一的な入学最低基準点を設定する必要がある。
○ 統一的な入学最低基準点については、総受験者の下位から15%程度の人数を目安として、試験実施機関が、毎年の総受験者数や得点分布状況などを考慮しながら、当該年度の具体的な基準点を設定すべきである。
○ 認証評価において、各法科大学院における入学者の適性試験の得点状況を調査し、当該年度の入学最低基準点に照らして適切に運用されているか否かを評価することが必要である。
○ 適性試験は、すべての法科大学院において有効に活用されるよう、適切な内容・方法について更なる改善が図られる必要がある。
○ 適性試験の公平かつ安定的な実施を図るため、法科大学院関係者の主体的な参画のもとに、適性試験の統一化が図られる必要がある。

<適性試験の在り方>

 法科大学院の入学者選抜では、適性試験、小論文、面接などの総合評価で合否が決定されているが、適性試験の成績と法科大学院の成績の間に強い相関関係は認められないため、年々、適性試験の成績の配点の比重を下げる法科大学院が増えている。
 適性試験は、法科大学院入学時に、法科大学院における学修の前提として要求される法律以外の能力を測るものであり、法律そのものの試験でないので、必ずしも法科大学院の成績や司法試験の成績と相関関係が強くないが、そこで測定される一定程度の判断力・思考力・分析力・表現力等は高度専門職業人として備えるべき資質・能力である。このため、法科大学院の入学者選抜においては、他の成績と合わせた総合判定の考慮要素の一つとして、または、もっぱら入学最低基準点として、適性試験を重要な判定資料として活用することが求められる。

<適性試験の統一的な入学最低基準点>

 適性試験の得点も含む総合判定方式で合否を決定する場合であっても、適性試験を課している制度趣旨を無意味にするような著しく低い点数の者を入学させるべきではなく、統一的な入学最低基準点を設定する必要がある。
 統一的な入学最低基準点については、総受験者の下位から15%程度の人数を目安として、試験実施機関において、毎年の総受験者数、平均点、得点分布状況や標準偏差など諸要素を考慮しながら、当該年度の具体的な基準点が設定されるべきである。この目安については、将来的に、受験者の状況等を踏まえながら、適切な時期に再度の検証をすることが求められる。
 認証評価において、各法科大学院における入学者の適性試験の得点状況を調査し、当該年度の入学最低基準点に照らして適切に運用されているか否かを評価することが必要である。
 このような適性試験の運用の厳格化に伴って、適性試験の年複数回の実施などの工夫により、法科大学院の入学希望者に幅広い受験機会を付与することを確保するとともに、将来的には、各年の試験の難易度を調整し、試験結果の複数年の利用についても検討することが望まれる。
 各法科大学院においては、入学者の適性試験の平均点や最低点などの状況を公表し、入学希望者や社会に対して適切に情報を提供することが求められる。

<適性試験の内容等の改善>

 適性試験は、多様な経歴を有する者について、法科大学院における学修の前提として要求される判断力・思考力・分析力・表現力等の資質・能力を試す共通の方法として、すべての法科大学院において有効かつ適正に活用されるよう、その内容・方法について更なる改善が図られる必要がある。
 その際、受験技術のトレーニングを積んだ者が対応しやすい試験となっているのではないかとの指摘もある中で、基本的な能力を問う多肢選択方式を基本とし、受験技術等による安易な対策が図りにくい試験となるよう配慮されるべきである。
 なお、適性試験は、現在、大学入試センター及び日弁連法務研究財団の2機関でそれぞれ実施されているが、適性試験の一層の公正かつ安定的な実施を図るため、それを用いて入学者選抜を行う法科大学院関係者の主体的な参画のもとに、その統一化が図られる必要がある。そのためには、法科大学院関係者と適性試験実施機関(大学入試センター及び日弁連法務研究財団)との間で、早急に、その統一化の検討が進められることが望まれる。
 また、表現力の評価について、日弁連法務研究財団においては、論述試験として実施しているが、その評価は各法科大学院に委ねており、大学入試センターの適性試験においては、文章の並べ替え等の多肢選択式試験をもって表現力の評価を実施している。表現力を適切に評価するための統一的な実施・採点体制の構築は、多大な人的負担を伴うため、大学入試センターの適性試験にある多肢選択式試験及び日弁連法務研究財団で実施されている各法科大学院に採点を委ねる論文試験の組み合わせのあり方について、統一後の適性試験実施機関において検討することが必要である。

3. 法学既修者認定の厳格化

○ 法学既修者の質を確保し、修業年限の1年短縮という制度が適切に運用されるために、各法科大学院で実施される法学既修者認定試験の試験科目と履修免除科目の関係につき統一的な運用を図ることが必要である。

【法学既修者認定試験の統一的な運用方法】
1. 法学既修者認定試験で課す試験科目は、履修したものとみなすすべての科目を対象とすることとし、その合格者については原則として対象となる1年次配当の必修科目すべての単位を一括して免除すべきである。2.各法科大学院において、法学既修者認定試験の各試験科目について、最低基準点を設定すべきである。3.法律基本科目のうち、少なくとも憲法、民法、刑法については、法的な文書作成能力を評価するため、論文試験を課すべきである。

<法学既修者認定試験の意義>

 法科大学院の法学既修者認定は、法科大学院の基礎的な法律基本科目の履修を省略できる程度の学識を備えているかどうかを判定するため、法科大学院ごとに個別に実施されているが、現状においては既修者の水準もある程度確保されており、統一的な試験を直ちに実施することは必要と思われない。
 しかしながら、各法科大学院において既修者の入学者選抜の水準に関する基準が必ずしも明確となっていないことから、既修者枠を埋めるために法学既修者認定試験の低得点者も合格させることで入学者の数を確保している場合も一部見られる。法学既修者の質を確保し、修業年限の1年短縮という制度が適切に運用されるために、各法科大学院で実施される法学既修者認定試験の試験科目と履修したものとみなす科目の関係につき統一的な運用を図ることが必要である。

<法学既修者認定試験の統一的な運用>

   現状としては、法学既修者認定試験において6科目の試験を課すのが一般的な傾向であるが、特に、多くの私立の法科大学院においては夏期休暇中に入学者選抜を実施するため、6科目の試験を課すことは現役の法学部生(4年生)の負担が大きいので、4科目で実施する大学院もある。
 法学既修者認定試験は、履修したものとみなす予定の科目すべてを対象とすべきであり、民事系・刑事系・公法系等の複合型の試験により行われる場合であっても、すべての当該科目が試験の出題範囲に含まれていることは必要である(なお、既修者認定試験において、総合的な法律的な能力の判定を行うことを目的として、履修免除とならない科目についても試験科目に含めることを、必ずしも排除するものではない。)また、既修者認定は、修業年限の1年短縮を伴っているため、修得免除とする単位の認定は、原則として、対象となる1年次配当の必修科目を一括して免除するべきである。ただし、全体としては優秀な成績を修めているが一部の科目においてのみ合格点に達することができなかった者について、教育上有益と認められる場合には、当該不合格科目の履修を義務づけるという条件の下で法学既修者認定を行うことも考えられるが、これはあくまで例外的にのみ認められるべきであり、履修免除を行わない科目は、2年次以降に履修する必要があることに鑑み、6単位を上限とすべきである。
  このため、1年次配当科目のうち免除の対象とならない科目や既修者認定試験で合格点に達せず免除されなかった科目については、2年次以降に履修することになるが、2年次の履修登録上限が設定されている趣旨を踏まえ、上記6単位の上乗せの範囲内で履修を認めることが適当である。
  各法科大学院の法学既修者認定試験においては、択一試験のみで実施される場合、択一試験と論文試験の組み合わせで実施される場合等があるが、法律基本科目のうち、少なくとも憲法、民法、刑法については、論文試験を課すことにより、法的な文書作成能力を評価することが求められる。
   また、法学既修者認定試験の合格判定について、例えば、ある科目で1割程度しか得点できていなくても、各科目の総合得点で一定水準に達しているため合格としているなど、法科大学院によっては、もっぱら総合点の成績のみを勘案して、個別の科目の点数が著しく低い場合も法学既修者として認定している場合も見られるが、履修免除措置の厳格な運用の観点から、各法科大学院においては、それぞれの試験科目について、最低基準点を設定することにより、一定水準の学修を終えたとは認められない科目について単位修得を免除することがないようにすべきである。
  一方、法情報基礎などの基礎的な能力の醸成に係る教育については、法学既修者認定試験による履修免除判定に適さず、また、法学既修者のみにこれら科目の履修を義務づけることも容易ではないから、適切な時期に導入教育を実施するなどの方法により、その教育が実質的に担保されるようにすべきである。

4. 多様な人材の確保

○ 今後、より多くの多様な経験を有する優秀な社会人学生の法科大学院への入学を促進するため、入学者選抜方法における社会人に対する一定の配慮のみならず、夜間コースの設定や長期履修コースの運用により、働きながら学習できる環境を整備するとともに、より一層社会人、他学部出身者を法科大学院に受け入れるためには、法学未修者コースにおけるカリキュラムや授業内容・方法の改善にさらに努めるべきである。
○ 社会人等の多様な人材を確保するため奨学金の充実が求められ、社会人入学者等につき、大学院の課程全体における家計基準の合理化など公的奨学金制度のさらなる充実が図られるべきである。
○ 司法試験の合格率の向上のために優れた入学者を確保することを意図して、法科大学院間で奨学金や授業料免除の拡大などの競争が生じつつある中で、公的助成や学生納付金を財源として奨学金の充実を図ることによって、奨学金の特典を受ける学生と受けない学生との間に過度の不均衡を生じさせることがないよう配慮することが求められる。

<社会人学生の入学の促進>

 社会人入学者の割合は、平成16年度は全入学者の48.4%と高い割合であったが、平成17年度~20年度にかけては30%前後で漸減傾向である。他学部出身者の割合は、平成16年度は全入学者の34.5%を占めていたが、平成17年度に30%台を割り、その後は20%台後半で推移している。
  社会人ないし他学部出身者を対象とする特別選抜での入学者の全入学者に占める割合は、平成16年度~20年度にかけて、3%~4%にとどまっている。法科大学院制度創設前に存在していた社会人の入学希望者は、かなりの部分が法科大学院1期生等として、すでに入学したと考えられ、今後も、社会人の潜在的なニーズは少なからずあるものの、入学志願者数は、ほぼ一定した水準で推移していくと考えられる。法学部以外の出身者についても、現在、25%程度で安定しており、社会人入学者と同様の状況と考えられる。
   適性試験の実施回数・時期の検討とともに、多くの法科大学院において8月下旬から12月にかけて実施されている入試時期の弾力的な運用等、入学者選抜方法における社会人に対する一定の配慮が必要である。
   また、優れた資質を有する社会人が法科大学院にアクセスしやすい環境を整えるため、働き続けながら法科大学院に通学することを希望する社会人に配慮して、既存の入学定員の枠内での夜間コースの設定や、標準修業年限よりも時間をかけて履修していく長期履修コースの運用等により、働きながら学習できる環境を整備する必要がある。その際、複数の法科大学院が共同して夜間コースを設置することも考えられる。現在、夜間コースは関東地域に多く設置されているが、今後、既存の法科大学院の改編等により、関西地域や他の地域にも整備されていくことが望まれる。
   一方で、働きながら法科大学院で学ぶことを希望する者については、高度な法律的知識・思考力を身に付けることにより、一層質の高い業務が行えるようになるという利点があることから、雇用者側の理解と積極的な協力が望まれる。なお、多様なバックグラウンドを持つ法曹を養成する観点から、より一層社会人、他学部出身者を法科大学院に受け入れるためには、法学未修者の中でも、とりわけ、法学を全く学んだことのない者が3年の教育課程を経れば法科大学院修了にふさわしい質と能力を備えることができるよう、カリキュラムや授業内容・方法の改善にさらに努めるべきである。

<奨学金の適切な運用>

   日本学生支援機構の奨学金(または公的奨学金)の家計基準においては、自宅通学生の場合、親の所得は対象とならず本人のみの所得が対象となるため、高額所得者の子弟であっても奨学金の貸与が受けられるが、共働きで勤務していたが退職して法科大学院に入学した社会人学生は、本人及び配偶者の所得の合算額が対象となるため、それほど所得が多くなくても奨学金の貸与を受けられないといった事態が生じている。今後、社会人等多様な人材を確保するためには奨学金の充実が求められることから、社会人入学者等につき、大学院の課程全体における家計基準の合理化など公的奨学金制度のさらなる充実が図られるべきである。
  また、司法試験の合格率の向上を図るため、優れた法学既修者を獲得することを目的として、入学試験成績の優秀な法学既修者に対して過大な奨学金の付与や授業料全額免除等を行っている法科大学院も見られるとの指摘がある。経済的に厳しい状況にある学生の経済的負担の軽減を目的とした奨学金や授業料免除の制度の拡充は望ましいが、もっぱら司法試験の合格率の向上に資することが期待される入学者を確保することを意図して、法科大学院間で奨学金や授業料免除の拡大などの競争が過熱化しつつある中で、公的助成や学生納付金を財源として奨学金の充実を図ることによって、奨学金の特典を受ける学生と受けない学生との間に過度の不均衡を生じさせることがないよう配慮することが求められる。

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