法科大学院特別委員会(第7回) 議事録

1.日時

平成17年12月22日(木曜日) 13時30分~15時

2.場所

三田共用会議所 第三特別会議室(3階)

3.議題

  1. 法科大学院の教育水準の確保等について
  2. その他

4.出席者

委員

 木村委員(座長代理)
臨時委員
 田中委員(座長)
専門委員
 磯村委員、井上宏委員、小幡委員、鎌田委員、川端委員、小島委員、瀬戸委員、永田委員、林委員、平良木委員

文部科学省

 徳永高等教育局担当審議官、泉高等教育局担当審議官、浅田専門教育課長、長谷川専門職大学院室長、後藤専門教育課課長補佐

5.議事録

(1)事務局及び井上宏委員から資料について説明があった。

(2)法科大学院協会による「法科大学院の教育内容・方法等に関するアンケート1」(資料5)結果の取りまとめ状況について、磯村委員から紹介があった。

(3)資料6に基づき、今後の検討課題について意見交換が行われた。
(○:委員 ●:事務局)

委員
 法科大学院協会による調査では、法律実務基礎科目の履修については、どのような状況となっているか。

委員
 現時点では、修了要件単位を10単位とする大学が少なくないこと、開講科目数が多いことが顕著な傾向である。法律実務基礎科目については、法科大学院の教育内容、方法等に関する研究会の中間まとめにおいて、数年後には9単位程度とするのが適切との見解を示しているが、各大学においてはそれは先取りをしており、むしろ「リーガルクリニック」や「エクスターンシップ」などの臨床系教育をどのような形で実践するかに関心がいっているのではないか。

委員
 履修状況についても、3年次の学生は司法試験に視点が行き始め、司法試験科目以外の科目の履修に消極的な傾向があるため、履修の促進が必要であるとの認識の大学と、特に措置を講じなくとも積極的に履修するとの認識の大学と、大学によって状況は分かれると思うが、どちらが大勢なのか。

委員
 本学の学生は「リーガルクリニック」に非常に熱心に取り組んでおり、履修の促進の必要はなく、逆に教員間ではあまりの熱心さに懸念もある。現在、臨床系教育は2単位で実施しているが、実際に事件を担当すると、その負担は2単位どころの話ではなく、また、本学では訴訟まで行うので、開講期間を半年としても、期間内では終わらず、教員や学生の負担も多くなるので、工夫が必要である。

委員
 ある大学の刑事系クリニックに参加した学生の手記を読むと、本当に効果的な教育方法であると実感する。アメリカのあるロースクールを訪れた際、一番効果的な教育方法はクリニックだが、余りにも贅沢な方法であるので、学生全員に対して行うことはできない、との話があった。
 個人的にはクリニックを発展させていきたいが、中でも刑事系クリニックで学生が刑事記録を閲覧できるかどうかという入口の段階で引っ掛かりがある。特に開示記録については厳しい規制があり、現在の弁護士会の規則には、学生に刑事記録を閲覧させることができるという規定がないので、閲覧させた場合、何らかの処分があるのではないかとの懸念もある。クリニックを発展させるためには制度的な工夫が必要ではないか。また、単位の問題についても、クリニックはカリキュラム上総仕上げ的な位置付けとして、3年次に配当する大学が多いので、新司法試験を意識せざるを得ない学生は、クリニックを履修しない者も出てくる。学生が履修しやすいよう誘導するために、付与する単位数を増やすことも必要ではないか。

委員
 12月初めに法科大学院協会で臨床系科目に関するシンポジウムを行ったが、その中では、今意見があったように負担が大きい割に単位数が少ない場合と、それとは全く逆の両方の場合があるようだったので、ある程度標準的な方針を示す等の措置が必要かもしれない。また、多くの法科大学院にはクリニックについての明確な基準がなく、教員と学生の双方に大変な負担があるので、検討した方がよいかもしれない。

委員
 各大学によってクリニックの中身が全く異なるのは明白である。学内外の法律事務所で担当教員が事件を受任し、学生が関わる形を採用するか、あるいは無料法律相談をし、学生がその相談を担当して、然るべきところで答えるのみか、などによって双方の負担は全く異なる。従って、中身によって単位数が異なってよいのだということを、法科大学院協会等で一つのモデルとして提示してはどうか。

委員
 本学の場合、「リーガルクリニック」で付与する単位を考慮すると、実際のところ教員と学生の労力は二倍以上であるが、単位数を増やすことは、全体としての履修単位の制限があり、他の科目へ影響が及ぶので悩ましい。「リーガルクリニック」はカリキュラム上、最後の仕上げとして3年次に配置しているが、履修者が非常に少ないので、単位認定はせずに1、2年生の参加を認めている。実際に相当な効果があったので、前倒して参加できるようにすべきではないかと考えている。クリニックの問題点として、実際の訴訟になると、相手方の弁護士の理解を得るのが非常に難しく、学生の現場への立ち入りは許可されないので、弁護士会にも趣旨を理解して御協力いただきたい。

委員
 実務修習を中心とした司法修習制度があることを前提に考えると、法科大学院生に共通に求められるものは、基本的な実務的論点の理解であり、その理解のためには別の教材の利用等が有効なこともあり、あくまでプラスアルファとして「リーガルクリニック」を実施すればよいと思う。「リーガルクリニック」の長所は明らかだが、生の事件を扱うために、機会に左右され、良い事例に当たる者と当たらない者、あるいは複数の類似の事例に当たってしまう者が出ることから、履修内容の不均衡が避けられない。刑事のクリニックでは開示記録の閲覧の限度や接見の問題があり、司法修習生とは異なる法科大学院生にどこまで認めるべきかは検討すべき重要な事項であると思うが、どのような場、どのような形で検討し、決定するのが一番良いかは難しい問題である。しかし、法科大学院協会や裁判所、検察官、弁護士会が真剣に話し合う必要があると思う。

委員
 単位の軽重は「リーガルクリニック」だけの問題ではない。標準的な基準を作ることは難しいだろうが、臨床系科目がどの学生にとっても望ましいのならば、必修科目化することで各大学が並びを取ることを一つのガイドラインとすることも考えられる。
 「リーガルクリニック」は学生の能力の高さと、実務家教員の指導力の高さの両方が必要だが、先般の法科大学院協会のシンポジウムでのある大学の報告によれば、非常に充実した形でクリニックが行われているようだ。後で弁護士の実務家教員の方と話をした際、シミュレーションによる授業は展開が最初から決まっており、その展開通りに進められるに過ぎないが、「リーガルクリニック」等の臨床系科目で生の事件を受任し、解決策を見出す必要を迫られることは、学生にとって最も刺激的であり、かつ現実の事件を扱う最大の意味はそこにあるとの説明を受け、全く同じ思いだった。
 法科大学院協会の中には臨床系教育に関する専門委員会があるが、その委員会とも連携をし、また法務省や司法研修所、日本弁護士連合会等と相談しながら臨床系教育を充実させることは、法科大学院教育に必要ではないか。

委員
 展開・先端科目の履修が消極的ではないかとの懸念があるが、本学では、選択必修として一定の単位数を必要とし、また、学生は余裕を持って進級するためにもう1、2科目程度履修する傾向があり、全体として展開・先端科目は比較的積極的に履修されている。
 新司法試験には選択科目が導入されるが、各大学では選択科目の内容について個性を強調している大学もある。しかし、展開・先端科目でそれぞれ個性ある法律家を養成しようとする目的や内容が新司法試験の影響を受け、各大学で一律化していっているのではないかと感じている。学生は法律基本科目と展開・先端科目の両方を履修して充実した法律家になるとの認識よりも、選択必修科目の単位数や司法試験の選択科目に縛られてしまい、展開・先端科目の意味を十分に捉えていない傾向にあるように感じる。

委員
 確かに各法科大学院が各々の法曹養成の理念に即し、モデル的な指標を示して開設しているにも関わらず、学生は、先端科目に重点を置いた履修状況に変わっており、また大学も科目の入替えは先端科目に合わせている大学もあると聞く。私は基礎法学・隣接科目を担当しているが、1年次から履修できる4単位の必修科目で学生も履修しやすく、新司法試験に大きな影響は受けていないが、展開・先端科目の履修状況については、新司法試験の影響を受けている印象がある。

委員
 本学では基礎法学・隣接科目も新司法試験にかなり影響されているが、各大学でも新司法試験に応じて選択科目の単位数を増やす等の措置を講じていると思う。
 本学では履修登録の上限を36単位としているが、科目によっては負担の差もある。学生はせっかく法科大学院に入学したので多様な科目を履修したいと考えており、当初は40単位程度を考えていたが、文部科学省告示第53号第7条で履修登録単位数の上限が定められているので、36単位までしか履修登録できず、基礎法学・隣接科目はほとんどの学生が履修しない。例えば展開・先端科目の選択科目を2単位から4単位にすると、履修単位が増え、36単位の上限にかかる場合には、せっかく開講していても学生は履修しないということになるが、そのような状況が果たしてよいのか。履修登録の上限を設けることにはかえって不自然さを感じている。

委員
 半期毎の2単位科目を設ける大学が多いが、例えば科目を通年開講にしたり、前期開講後に後期を緩やかにする等のカリキュラム配置をすると、36単位の履修登録の上限は少し厳しい、との声を聞く。基本的に学生は勉学意欲が旺盛であり、ある学生からはその制度は、法学基礎・隣接科目や展開・先端科目を履修する上での障害である、との意見があった。
 学生に対しては、時間に余裕があるならば他にもっと勉強すべきことがあるのではないか、との説明をした。法律基本科目はかなり負担が多いが、基礎法学・隣接科目、展開・先端科目は授業内容や方針をある程度改善しなければ学生に負担を課すことはできないので、そのことが学生にとって単位を修得しやすい印象を与えている点もあるようだが、様々な面を考慮して履修した方が得である、とも考えているようだ。

委員
 学生からの履修登録の上限に対する不満には、きちんと予復習をした上での単位修得のためには余裕はないはずではないか、と説明しているが、学生にも個人差があり、非常に優秀な学生は、開講科目を履修できないのは勿体無いと感じている。平均的な学生を念頭に置いた制度かもしれないが、優秀な学生にとっては物足りないだろう。

委員
 1年次の前期に半期開講科目の単位を修得すれば、後期は時間が空いているので、36単位の履修登録の上限を見直しても良いと思う。

委員
 本学では単位従量制(学生本人が履修する単位数に応じて授業料を支払う制度)を採用しているので、科目を多く履修することはなく、逆に授業を履修した場合にコスト意識が育ち、計画以外のことをすると学生から不満が出る。展開・先端科目等の履修について、当初は科目数を多く配置し過ぎたとの懸念があったが、学生は非常にバランス良く履修している。学生は司法試験合格はともかく、将来を見据え、法科大学院で様々な勉強をする必要がある、と考えており、非常に満足している。教員も一般的に展開・先端科目の方に力を入れ、遠慮なくレポートを課している。

委員
 展開・先端科目に取り組む学生の姿勢は、各大学の学生の資質に関わる。司法試験に自信のない学生が多い大学では、展開・先端科目は形式化し、自信のある学生が多い大学では、本来の目的である学生自身が学習したいことを学習している、との印象がある。

委員
 基礎法学・隣接科目や展開・先端科目の実施状況については、今後関係者を招いて話を伺いたい。また、認証評価も予備評価が終了した段階なので、認証評価機関からも調査結果についての全体的な印象や問題点を伺う機会を設けたいと思う。大学設置・学校法人審議会でも昨年度と同様、年次計画履行状況調査の総括的な整理をするので、然るべき時期に全体的な状況を伺った上で意見交換していただきたいと思う。法科大学院協会によるアンケートにおいて、厳格な成績評価や修了認定についての状況はどうか。

委員
 数値的に見て、本アンケートからは読み取りづらいが、例えば成績分布割合の具体的なデータを全般的に見ると、大学によって随分評価が違うのではないかとの印象はある。

委員
 評価基準は各大学によって異なり、標準的な評価はなかなか示しにくい。本委員会で法学未修者に対する教育について何度か御議論いただいたが、制度設計時の意図より法学未修者と法学既修者の境目が薄れてきたので、法学未修・既修の問題についても考える必要があるのではないか。

事務局  資料6の中で「教員指導力向上のための方策」を挙げたが、法科大学院で目指す教育について、実務家教員と研究者教員との共通認識が出来ているのか。仮に出来ていないならば、どうすべきか、意見をいただきたい。また、そもそも法科大学院での教育の質を高めるため、各大学において教員の指導力の向上に努めていると思うが、どのような方法が必要であり、かつ効果的であるのか。

委員
 それは大学設置・学校法人審議会でも問題になっており、具体的な現状を詳しく報告していただいている。また、年次計画履行状況調査でも、留意事項として横並びで指摘しているが、その重要性を全く認識していない大学、認識はしているが実際にはなかなか対応できない大学等、各大学で様々な問題がある。各大学では教員が協力して学生アンケートや、授業参観等の標準的なFD(ファカルティ・ディベロップメント)活動を行っているが、なかなか難しい問題である。

委員
 根本的な問題として、原則的な手法であるケース・メソッドやソクラティック・メソッドについても各大学で大きな違いがあるが、その方法は必ずしも確立されていない。ある程度授業を行い、その実績の中で探していくべきであり、最初から抽象的に行っても定まらないので、完成年度後にそれについても本質的な検討をする必要がある。
 法科大学院等の教育は、従来のマスプロ教育の中で普遍的に行われた教育方法と比べれば、飛躍的に前進しているが、法科大学院教育の議論をする際に問題点を認識すべきことを見失いがちであるので、そのような視点で様々な検討をすべきである。

委員
 どの大学でも優れた実務家教員や研究者教員は教員や学生からの評価が高いが、完成年度を迎える3年後に新たに教員を採用する場合、その資質の在り方を考慮しなければ、今後授業面でも失敗してしまう可能性がある。その際の指針については、問題点も併せて意見交換をすべきである。

委員
 完成年度を迎える3年後には教員審査もなくなり、各法科大学院が独自に採用することになるが、きちんとした見識がなければ教員の資質の問題が再燃する可能性があり、どのような方法で採用を行うかは難しい問題があるので、検討すべき事項である。

委員
 多くの大学で実務家教員に対する評価は非常に高い。学生も自分の将来の姿として尊敬しているが、その質は問う必要がある。教員や科目によっては随分実態が違い、結局質は低いとの結論に達することもあるので、現実のデータ等を吟味することが、今後どのような教員を迎えるのかに関連して重要であると思う。

委員
 法科大学院に対して熱意のある実務家は、既に教員になっており、その多くは任期付で採用されているので、次の世代の教員となる実務家が育成されているのか懸念がある。各大学を訪れても、素晴らしい授業をする実務家教員もいるが、実際にはそうではない教員もいる。

委員
 実務家教員だけでなく、研究者教員も教員資格のある若い人をなかなか法科大学院に配置できない難しさがあるので、それも検討いただきたいと思う。
 今後は、これまで議論されなかったテーマについて、本日議論に上った問題を含めて議論を進めていきたい。次回は、本日少し御紹介いただいた法科大学院協会におけるカリキュラムに関するアンケートの調査結果を御紹介いただくほか、議論する準備ができたテーマについて順次取り上げたいと思う。

6.次回の日程

 次回の日程は、平成18年1月27日(金曜日)13時30分~15時30分、三田共用会議所第三特別会議室で行うこととなった。

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高等教育局専門教育課