法科大学院特別委員会(第2回) 議事録

1.日時

平成17年7月26日(火曜日) 10時~12時30分

2.場所

三田共用会議所第三特別会議室(3階)

3.議題

  1. 法科大学院の教育水準の確保等について
  2. その他

4.出席者

委員

 木村委員(副座長)
臨時委員
 田中委員(座長)
専門委員
 磯村委員、大谷委員、小幡委員、鎌田委員、川端委員、川村委員、小島委員、瀬戸委員、永田委員、中谷委員、平良木委員、諸石委員、山中委員

文部科学省

 石川高等教育局長、泉高等教育局担当審議官、清木高等教育企画課長、浅田専門教育課長、長谷川専門職大学院室長、後藤専門教育課課長補佐
他

5.議事録

(1)法科大学院における教育の状況について委員から報告があった後、質疑応答・意見交換が行われた。

(2)法科大学院協会が実施予定の法科大学院における教育状況に関する調査について、報告があった。

(○:委員)

委員
 現在、最も大きな課題は、これまで全く法律を勉強したことのない「完全未修者」の教育をどのように行うかということである。法学未修者コースには、完全未修者と既に学部等で法律を学んだが敢えて法学未修者コースに入学した「隠れ既修者」が混在している。2年次に入った段階で、敢えて完全未修者のみのクラスを別途設けて教育を行うか、(2年コースである)法学既修者と一緒にして教育を行うかは考えの分かれるところだが、本学では両者が混在するクラス編制を採っている。この場合、最初の1年間で完全未修者に対してどの程度法律的な知識を付与することができるのかが悩ましい。多くの大学は1コマ90分だが、授業時間を増やして100分や110分、あるいはそれ以上の時間を充てている大学も実際にはあるようだ。また、夏季休暇等に補講を行って授業時間の不足を補っている大学などもある。授業時間を増やすことは、設置基準の年間登録単位数の上限設定の趣旨をかんがみるに問題があるかもしれないが、法学未修者コースについては授業時間の絶対数が足りないのが悩ましい。多くの教員からは、これでは本当に責任を負った教育ができないとか、修了生の質を確保できないなどの意見も出されている。

委員
 本学では昨年、どうしても時間が足りない場合は、担当時間外に補講をしたり、あるいは、学生1人1人に対応した補講を実施した教員もいた。また、2年次履修科目の行政法については、1年次終了後の春季休暇の時期に前倒しで数回授業をした。しかし、基本的には、新司法試験の導入を踏まえて、実務等の経験を経て、学生が理念に沿った高い能力を身に付けられるような授業を行えば目標は達成されると考えているので、特別な対応は取っていない。

委員
 本学では、法学未修者については、2年次以降は法学既修者と全く区別せずに同じクラスで授業を行っている。教員間では1年次からあまり教え過ぎるのは良くないということを共通認識とし、意識的に様々な課題を与え、授業中に質疑応答を行うことを重視している。また、授業の進度は完全未修者に合わせるよう心掛けている。1年次は法律の学び方自体を十分に体得できていないためオフィスアワーを設けているが、これは、学生からの質問と教員から授業を補足する内容の説明を主としており、平常授業で教える内容ではない。授業時間については他の法科大学院と共通の課題ではあるが、これは、結局は教えるべき内容と学生の自学自習のバランスをどう図るかということである。授業と質問時間をうまく組み合わせるという方法で、自学自習とのバランスを図ることが必要ではないか。完全未修者に1年間でどれだけの到達度を要求するかという点については、とりわけ知識の面で法学既修者と同じレベルに達していることを要求するのではなく、法学的な物の考え方について期待される水準に達していれば良いのではないか。3年間でどう伸びていくかということを検証しながら未修者制度を見ていくべきである。未修者が3年間で学べる情報量は限られているため、司法試験問題の作成者には、是非法科大学院の教育内容・方法を考慮した問題の作成をお願いしたい。また法科大学院の側も、成績評価の厳格性の確保は法科大学院の生命線の1つであり、司法試験委員会からの重要なメッセージと直接に関連する問題でもあるので、今後これをどうするのかというのは継続的に考えていく必要がある。

委員
 授業と自学自習のバランスの問題があるが、授業時間を増やすという対応をした場合、それは結局、法律知識を次々と教え込むだけということになりはしないか。

委員
 確かに1年次は大変だが、あらかじめシラバス等で予習する箇所を具体的に明示し、また授業中も裁判例や文献等を指示している。1年次に関しては、既定のカリキュラムをこなすだけでほとんど手一杯という状態だが、やむを得ないと考えている。

委員
 法律学は基本的に自分で勉強するものであると思う。法科大学院における教育の基本は、自学自習を前提に講義ではポイントをしっかりと教える。その上で、ポイントを含む様々な理論を教え、学生自身が考えていくという反復学習ではないか。教え込む範囲を広く設定した講義体制の中で、新たな法曹養成制度の理念でもある応用力や瑞々しい感性といったものをどのように養っていくのか。

委員
 完全未修者は法的思考が身に付いておらず、法学の概念も分からない。基本的な思考や判例の読み方を教えなければ授業に付いてくることは難しい。また、法学未修者コースの中で、隠れ既修者と完全未修者の双方を同じクラスで教育する問題として、2クラスに分けてしまうことも1つの方法と思うが、やはり完全未修者に対しては丁寧に指導する必要があるのではないか。逆に3年次は授業時間数の制限を徹底している。1年次に基礎を懇切丁寧に指導した方がよいのか、あるいは3年次に手取り足取り指導した方がよいのか。おそらく逆の発想であり、本学での取組みは、長い目で見れば他の大学と変わりがないのではないか。

委員
 教えるべき内容と自学自習のバランスが重要との話があったが、本学では、完全未修者に対して何を教え、どこまで自学自習させるのかとういことについてはさらに工夫しなければならないと考えている。全体的に授業時間が不足していることは共通しているが、法科大学院の理念は、従来の法学部の教育内容に更に何か加えて教え込むということを出発点にしているわけではない。本当の意味での法科大学院教育は、ある程度この時間内でできるのではないか。本学でも、月1回の拡大オフィスアワーを使って発展的な学習を積み重ねてきたが、授業と自学自習のバランスは試行錯誤だ。これまでの教え方にこだわると、新しい制度設計の中で求められる法曹の養成にマイナスになってしまうのではないか。今後、考えていかなければならないことである。

委員
 法科大学院制度の創設に当たって前提とした法曹像は、先例のない問題や、あるいは先例をどのように変えていくかということを自分自身で考えられる法曹であったと思う。それを達成するためには、授業時間を多くし、知識量を増やすということでは駄目だと考えたと認識している。法科大学院の教育内容は、知識量は減っても自分で考えられる法曹を育てることを目標としてきたのであり、今分岐点にあるのではないか。第三者評価機関でトライアル評価をした際、明らかに司法試験対策として、法律基本科目ばかりのカリキュラムを編成して履修単位数を多くし、1コマ180分で授業をしている大学があった。評価委員の中からは、制度趣旨に反するので警告的な意見を出すべきとの意見が出た。知識量の確保のため、1コマ90分を前提とした単位数では不足してしまうとなると、全体として知識量を重視した学生ばかりになってしまう。結局、司法試験も知識量を重視した学生が多く合格し、知識がなければやはり合格できないという錯覚を生んでしまうので、カリキュラム編成を工夫していただきたい。

委員
 法的思考と法的知識は二律背反ではなく、物の考え方を修得するためには相当の知識量が必要であることは、法律学に携わっている者は皆認識している。どの程度の量を教えるか、どの程度の自学自習をさせるべきかは、各法科大学院が模索している状況であり、こうやっているから駄目だとか、このようにしているから良いということではないのではないか。設置基準を策定する際も、どの程度単位数が必要であるか議論があったが、様々な事情の中で現在の単位数に決定しており、恐らくその許容範囲は自ずから分かるのではないか。

委員
 授業終了後に30分から1時間程度質問を受けるが、質問内容が非常に良い。したがって、授業中に質疑応答をし、その後、意見交換という形で時間が延長するが、学生にも好評である。成績に不安がある学生に対してはある程度手取り足取り指導することも必要であるが、これは一教員では対応できないので、他大学同様、アカデミックアドバイザー制度を利用し、不十分な箇所は復習させている。しかし今後、法学未修者も法学既修者と対等の立場で司法試験を受験するのに、本当に責任が持てるのか不安が残る。

委員
 授業時間を増やすということは現実を踏まえた対応であると思う。確かに2年次以上からは、他の学生にも聞かせたい質問を受けることがあり、実際、周りに自然発生的に10人ほど集まって聞いている。一方、司法試験の厳しさが増した中で、重圧感を感じた学生の顔を見ると、やはり学生に対する責任を感じる。どうしても司法試験に合格させてやりたいが、では我々は何をすべきか。特に3年次の教育方法は法科大学院を左右しかねない危険性も同時に抱えている。その中でどのように対応していくかという体系的なモデルをつくることは、実際問題を含め、そう簡単に解を見出せない問題だろう。
 アメリカの法学教育には非常に定評のある厚い教科書があり、ざっと見ると日本の体系書とは書き方が違う。アメリカの学生はその教科書を読み、授業を受けなくとも非常によく授業に付いてきている。その事実をもう一度認識する必要がある。これは教室と教材の問題だけではなく、より根源的な問題があると思う。例えば、日本の法律用語は翻訳用語が語源であり、非常にわかりにくく、法典主義の下で書かれた判例も学生にとっては理解しにくい。法文化そのものの課題の中で学習しなければならない学生の困難さを理解する必要があるが、それは打開できないことではないだろう。
 確かに法学論では考え方が大切であり、ある程度の法的知識なくして本当に創造的な思考はできない。しかし創造的な思考には、事実が存在する必要がある。教室には事実はあるが、現場の人間が抱えた問題としての事実は存在しない。つまり法学教育の現場と実務での思考は全く異なり、それを同視することに非常に大きな問題がある。この誤解に基づいて様々な発言がなされ、問題が増幅されていると思う。

委員
 1年次の教育の現実について、例えば私は前期は個人的に忙しくてなかなか学生に対応できないこともあった。すると、学生から答案をしっかりと見てほしいとの意見があり、非常に大変な思いをしたが、その後はきちんと学生に対応している。学校の規模に関係なく、やはり私立大学は努力をしなければならないと思う。確かに優秀な学生は多いが、一方で私立大学の歴史が浅く、また法科大学院の将来の見通しに対する周囲の不安の声も届いていて、このことは非常に不本意である。本学同様、私立大学は法科大学院に対する思い入れが本当に強いのではなかろうか。したがって、学生に対して良い教育をしたいと思うが、初めての試みであるので試行錯誤をしている。

委員
 学生は自学自習の重要性をあまり理解しておらず、授業として対応してほしいとの要望が強い。一方、何人かの教員からは、学会等の関係でやむを得ず授業ができない場合は別として、シラバスで授業計画を発表している以上、計画どおりに授業が進行せず、補講を行うこと自体がそもそも学生に対して責任を果たしていないのではないか、との意見が出た。学生の要望にどの程度対応するべきか、昨年は大分議論をした。また、授業時間が足りず補講を行った教員もいたが、後期試験で相当数落第者が出た際、学生から、「補講は必要ない。授業の中に補講を組み込んだカリキュラムを立てるのは如何か。」という意見も出た。学生は自学自習をしなければ試験に通らないことを認識し、補講を行うことに対して懐疑的になってきたようだ。確かに未修者は大変だが、手取り足取り指導が必要な学生に対しては、教員が教え込むよりも、何らかの制度を設け、個別にアドバイスする方がよいと思う。法学既修者から質問を多く受けるが、教員には時間の余裕もあまりなく、学生に考えを押し付けてしまう可能性もある。学生同士で議論できる者もいるので、小グループで議論した方が勉強になると思う。

委員
 いずれの法科大学院でも既に留年者が相当おり、退学者も出ている。適性試験を経て入学したとはいえ、その全員が法科大学院を修了し、司法試験に合格できる能力があるわけではない。法曹としての適性がない者を無理に修了させようとすると、相当な努力が必要となる。そこまでして全員を修了させるべきなのか。適性のある者をきちんと育て、適性がない者には転身を進めることを前提とした教育をした方がよい。そこを割り切らないと、落第候補者に対する対応で法科大学院が振り回されてしまわないか。

委員
 法学未修者を教えている立場から言うと、授業時間を増やす方法はよく理解できる。完全未修者は、法律を始めてほんの数ヶ月で基本法を全部教わり法的な基礎知識を身に付けなければならない。法的思考をする上では、最低限の法的知識は必要である。しかし、授業時間を増やす趣旨は知識をたたき込むことではない。むしろ、授業で不十分であると感じることは、知識を教え切れないということではなく、学生自身が議論をする時間が足りないということである。そこできちんとした議論をし、法的思考を身に付けなければ、法学未修者同士で何となく、悪く言えば見当違いな議論に時間を費やしてしまう。暗記できる知識よりも、議論に重点を置いても良いのではないか。将来的に本当に立派な法曹としての素養を養成できるか非常に不安がある。その点については、未修者の素養を養成していく上での問題解決の方法の一つとして、増やした授業時間の内容を踏まえて、考えていく余地もあると思う。
 法科大学院の教育目標は一体どのレベルにあるのか。その大学での司法試験合格者のレベルを念頭に置いていると言われているが、いずれにせよ、現行司法試験の対策をしてきた者を新司法試験に合格させるために入学試験を実施するのではないにもかかわらず、現実はそういった者が法科大学院に入学してきたと思う。法科大学院では知識偏重型の学生ではなく、もっと自由な考え方のできる学生を法曹へと養成していくのが理想だが、学生は必ずしも自由な発想で様々なことを考えているわけではなく、やはり司法試験を意識しており、短時間に多くのことを 、教員から指示された課題も含めてしっかり学習しなければならず、その到達目標は我々の考えているよりはるかに高いレベルにある。今の枠組みが完璧というわけではないので、様々な試行錯誤の中で考えていかなければならないと思う。

委員
 法学未修者に対する教育の問題は、法科大学院の制度設計の全般に係る問題だと思う。制度の充実に向け検討を進めるため、さらにサンプルとして個別の法科大学院を抽出し、教育状況を把握することが適切である。本委員会で直接大学の教育に対して意見することは適切ではないので、他の委員の方の所属大学についても報告いただき、引き続き本委員会で個々の法科大学院、そして法科大学院全体の状況の把握を続けたい。各委員所属の大学ばかりではなく、法科大学院協会の協力を得て、他の法科大学院からも教育状況を御報告いただければと思う。

委員
 法科大学院協会としても、法科大学院全体の状況を客観的に把握し、問題点の改善のための検討を行うことが何より必要との認識でおり、このたび、全法科大学院に対す教育内容や教育方法、成績評価・修了認定などに関するアンケート調査を行うことにした。今のところ統計データ・資料編だけでも20枚弱の分量になり、回答頂く分量は恐らく50枚ほどになるのではないか。最終的にデータの整理・分析をして公表をする。この公表の趣旨は、各法科大学院を特定して公表するのではなく、全体の状況を数値として示すことを考えている。本調査は、本日問題提起のあった授業時間の在り方等についても、議論するに当たっての基礎資料になるだろう。

委員
 調査がまとまった段階で、法科大学院協会から当委員会に結果を御紹介いただき、意見も伺いたいと考えている。

6.次回の日程

 次回の日程は、8月中を目処に、改めて調整することとなった。

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高等教育局専門教育課専門職大学院室

(高等教育局専門教育課専門職大学院室)