法科大学院特別委員会(第20回) 議事録

1.日時

平成20年7月18日(金曜日) 13時~15時

2.場所

文部科学省 東館 3階 1特別会議室

3.議題

  1. ワーキンググループの審議状況について
  2. 法科大学院の教育の質について
  3. その他

4.出席者

委員

臨時委員
 田中委員(座長)
専門委員
 磯村委員、井上委員、小幡委員、鎌田委員、川端委員、川村委員、小島委員、永田委員、中谷委員、林委員、諸石委員、山中委員、

文部科学省

 徳永高等教育局長、久保審議官、片山高等教育企画課長、藤原専門教育課長、浅野専門職大学院室長、神田専門教育課課長補佐

オブザーバー

その他
 山口第1WG委員(主査代理)、植草日弁連司法修習委員長(筑波大学教授)

5.議事録

 事務局より配付資料の説明が行われた後、ワーキンググループの審議状況及び法科大学院の教育の質について意見交換が行われた。

ワーキンググループの審議状況について

【委員】
 第1ワーキングについて、適性試験の受験者が非常に減っているので、全体の制度を良くしていくというのが本来あるべき姿。第2ワーキングの修了者の質の確保の検討というのは、その前提として、資料4-1の新司法試験考査委員に対するヒアリング概要というのがある。これを法科大学院生以外の人が見た時に、「本当にこんなに分かっていないのか」という誤解を与えかねないが、考査委員は学生に対して、もっとしっかり勉強して欲しいというメッセージを与えたくて厳しいことを言っているのがこのヒアリングの現実なので、これだけを根拠にされても困る。基本が分かっていないという指摘は、実は旧試験の合格者 1,500人の頃から言われていた話。具体的な法曹の質という到達点について、どの範囲まで内容として定めていくのかが大変重要なのではないか。例えば、基本ができていないと言われているが、法律基本科目については司法試験がある。つまり、司法試験が本来の果たすべき機能を果たせていないということになると、少し司法試験のほうを考える必要があるということもあり得るのではないか。試験との関係でいえば、法律基本科目についてはあまり枠をはめるということになるのは極めて望ましくないと思うが、実務基礎科目のカリキュラムでが法科大学院毎にばらばらなのも困るので、ある程度統一的なカリキュラムを示した方が有益ではないか。実務基礎科目というのは本来、基本科目の修得を前提としているので、全体として法科大学院の質を高めるということにも繋がるのではないか。また、例えば医学部で、医学部で作った統一共用試験のようなものを法科大学院でも作るという発想もあり得ないことではないかと思うが、これは2011 年から始まる予備試験との関係で大変危険をはらんでいるのではないか。予備試験というのは法科大学院修了程度を測る試験になっているが、法科大学院の修了の到達とか、例えば択一のような形である程度示すものを作り、それが修了の到達目標で質であると決めるとすると、予備試験というのは当然それに影響されるということになる。今、予備試験の制度設計をしているので、修了者の質というのを統一的に測る試験というのはかなり慎重に議論をする必要があるのではないか。

【委員】
 質を高めるためには、例えば修了要件を厳しくするために一定のGPAを修了要件に課すとか、全科目について試験をする修了試験を課す等の方法もあるのではないか。

【委員】
 コアカリキュラムにおける検討というのは、どういうことが法曹になるために必要かということを考えようということで、法曹に必要な基本的な能力という時に法律基本科目は括って、法曹実務基礎科目だけというのは少しスタンスが違うのではないかと。それからもう一つは、司法試験というのがどこまでフィルタリング機能を果たせるかという事を考えると、そこで試せる能力と試せない能力を含めて、法科大学院としてはこういうことがやはりコアであるということを示すということに意味があるのではないか。それから、到達目標で示される資質というのは、知識型をできるだけ避けて、それプラス例えば体系的な思考能力、創造的な思考能力というような、まさに法科大学院として要請されるものをどういう形でコアとして取り込んでいくかという事を検討している。

【委員】
 このワーキングで何か最終的に決めるということではなく、議論の材料を整理し、最終的にはここで当然議論することになる。あと、ペーパーテストで選別するのには限界があるというのはそもそもの司法制度改革で新しい法曹養成制度の新を作る時の前提の基本認識の一つ。だからそこだけで締めればいいという話ではなく、法科大学院のミニマムとしてこの辺までやはりやるべきだというのがむしろ今回の議論だと思う。

【委員】
 司法試験考査委員や最高裁判所のペーパーで基礎的な知識が欠けているという言葉がずいぶん出てきているが、全員が不足している訳ではない。その意味で、この資料2-6の1、2で書かれている、各大学の教育の多様性と裁量の確保という点に十分配所するという方向を是非貫いていっていただきたい。

植草日弁連司法修習委員長(筑波大学教授)ヒアリング

【ヒアリング対象者】
 筑波大学法科大学院における実務導入教育について、民事・刑事の司法研修所教官のOBを教員に配置し、充実した実務教育を行っている。民事系については、要件事実や事実認定についての基礎的な部分、それから争点整理と訴状準備書面、契約書などの法律文書の起案をさせ、これを添削して講評を行う演習科目を必修科目としている他、選択科目としてリーガルクリニックやロイヤリングなどを実施している。教官OBが複数いることから、これらの科目は、従来の司法研修所における前期集合修習で行われた教育を意識した内容になっている。
 このような教育を受けた修了生の評価だが、本学では開講が平成17年4月だったため最初の修了生を出したのが本年3月。司法試験との関係は不明の状況にあるため、司法試験の結果を踏まえ詳しく分析するする予定。司法試験合格率にとどまらず、修了生や教育の評価をしていきたい。
 なお、本校の学生は公務員、金融証券等の民間企業、司法書士等の法律隣接職種など多種多様であり、それぞれが高い専門性を有している。しかも修了生31 名のうち28名は有職のまま修了している。このような多様な人材を法曹として輩出できるようになったことは、まさに法曹養成制度改革の成果の一つであると考えている。
 また、法学部以外の出身者、純粋未修者が半数程度を占めている。3年間で年々増えており、全国の他の大学の傾向とは異なっている。しかも、本年3月の修了生の成績を見ると、法学既修者にひけを取っていない。
 次に、日弁連の司法修習委員長として感じることとして、法科大学院毎に教育内容にばらつきがあり、特に実務導入教育について顕著である。新修習が始まった当初、各地の弁護士会では法科大学院の現状を必ずしも認識しておらず、従来の前期修習と同程度の教育が行われているという信頼に基づいて弁護実務修習生を受け入れていた。ところが実際はそうではなかった。実務修習の現場では、法科大学院では実務修習ができないという声が上がっていた。まず最初の新60期の司法修習生に対してはおよそ1ヶ月間の導入研修が実施されたが、新61期は入所後直ちに実務修習に望むことになった。そこで、日弁連司法修習委員会はその状態を放置できないと考えて、弁護実務修習の冒頭に冒頭修習を実施することが望ましいとし、そのための起案や講義用の教材を提供することにした。新61 期については、実施期間は異なるが35機関で実施。新62期についてはほとんど実施することが決まっており、そのための複数の教材を提供するため、現在懸命に作業を行っているところ。
 導入研修が実施された新60期生に対しては評価が高く、特に判例や文献の調査能力、コミュニケーション能力や口頭によるプレゼン能力は、従来の修習生より優れているという意見が多く寄せられている。一方、法律書面の作成技能は従来の修習生より劣っているが、これは第1クールの修習生に言えることで、それ以降の修習生については従来の修習生と遜色ないというのが多くの意見である。つまり、法科大学院生の1期生については、弁護修習の現場では評価が高かった。第61期生については、修習生が増えたこともあるかもしれないが、修習生の質にばらつきがあるという意見が多かった。導入研修がなくなったこともあるかもしれないが、実務的な知識・ノウハウをほとんど知らなかったり、書面で表現する技術が身についていない修習生に対するとまどいを述べた弁護士もいたようだが、これも第1クールの修習生に対してであって、第2~4クールを担当していた指導担当弁護士は、文書作成能力も徐々に向上していると評価している。第1クールの指導担当弁護士も、そういう文書作成について学んでいないという前提で教えていくと次第に実務に慣れていき、弁護修習修了までには従来の修習生と同じレベルに達するという感想が寄せられている。新61期生にはばらつきがあるという評価だったが、教えたことに対する吸収が早く、真面目に取り組んでいる修習生の水準が従来と同程度にするのがそれほど困難でないという意見だったと思われる。先ほどのコミュニケーション能力やプレゼン能力、判例や文献の調査能力等は法科大学院教育の成果ではないかと思う。そういう能力に長けていて、従来型の文書でものを表現するということについては確かに十分ではないが、それを実務の中で早く身につけていける能力を有していると考える。以上ご報告したように、実務修習の現場で修習生を指導した多くの弁護士は、全体としての資質や能力について従来の修習生に劣ることはないという評価をしているが、法科大学院においてどういう実務論理教育がなされているかによって実務修習の当初で差が出ることは、修習生にとって不幸なことである。

法科大学院の教育の質について

【委員】
 最近、法曹人口論との関係で質の問題が問われ、二回試験の関係が注目されているが、二回試験で落ちて法曹になっていない人たちが増えたことによって法曹全体の質が低下するという議論自体おかしい。資料4-3、4-4で気をつけていただきたいのは、これは「最近の司法修習生」と書いてあるに、新だけを対象としているものではない。しかも、1(1)は、教官や指導官の多くが言っている感想を中性的に取り上げたもの。2枚目の二回試験の不可答案の傾向はどちらかと言えば新60期の二回試験の不可答案の傾向について書いてある部分が認められるが、二回試験受験者986名のうち927名つまり94パーセントに相当する人が合格していて、ここに書いてある不可答案の傾向というのは落ちた6パーセント。したがって、このペーパーだけで二回試験における修習生の質を議論するのはいかがなものか。もう一点が、不可答案の傾向の中で法的知識が足りないことを問題としているのではなく、むしろ大事なのは、論理的・体系的な法のものの考え方を法科大学院で身につけることだと思う。

【委員】
 法科大学院の全体的な教育の現実と成果を社会に発信していくべきであろう。それを法科大学院協会は著しく怠っているのではないか。説明責任違反のきらいが多分にある。それが混乱を招いている原因ではないか。やはり批判というのは肯定的に受け止めて、それを法科大学院の改善の機会として活用していくということが大切。今回、新しい教育システム及びその後の養成課程の全体としてプラスの面とマイナスの面をきちんととらえて、全体的に良い悪いに直結しないで各論的に考えて、その後でじっくり制度の行方を考えるべき。

【委員】
 根拠のあるご指摘は重く受け取り、それを踏まえて無くしていこうという姿勢は基本的に維持するが、いわれのないバッシングについては、言うべきところは言っていこうと考えているし、また関係する日弁連等と意見交換を行っていこうと思っている。

【委員】
 資料4-3、4-4のペーパーについては不合格だった人にしか焦点が当てられていないが、合格した人を見てほしい。基礎・基本ができていないと言われるが、知識量については基本的なものの考え方で補える。もう一つは実務技能は、修習期間が大幅に短縮したのでそこで面倒見切れないわけだが、司法制度改革審議会の意見書では、前期修習を法科大学院でやるという前提にはなっていないのに、そういう前提で組まれたのが問題。その辺の修習の在り方を柔軟にこれから考え直していくべきではないか。一番の懸念は、優秀な方がこの道に進むことをためらうようになっているのではないかということ。

【委員】
 日本では、知識量が専門性を決めるという観念から抜けられないが、法知識量が専門性の評価の主要な指標になるというのはある種の方針性を表すものでしかない。それで問題になるのがコアカリキュラムだが、全くの未修者が3年間で学べる量というのは物理的に限られているので、その範囲できちんと深く理解すれば司法試験に受かり二回試験に受かり法曹になれるというシステムとして用意してあげることが必要。そうすれば能力ある人がためらわずに来て受験生の母集団の質が高まり、法曹の質が高まる。

【委員】
 法科大学院における実務導入教育の重要性についてだが、法律基本科目群の学修達成目標が法学教育の経験を踏まえてかなり具体的に見えるのに対して、実務系の科目の達成目標の設定というのは、何をどこまで教育すれば良いのか見えにくい。大学の規模や地域によっても違うと思うが、それを担う実務家教員の個人的な能力次第でカリキュラムの内容や実際に実践されているところが規定されている部分がかなりあるように思う。従って、この実務系科目について、どのように改造すれば良いのかが、法科大学院の教育の質を考える際に重要なファクターになるのではないかと思う。ワーキングで書かれていたように、コアカリでどのように対応するのか、司法研修所の修習の見直しや在り方も含めて、少し大きなところを確認して押さえていかないと、法曹の能力の確保というのがなされないのではないか。実務系の科目の教育をどうすべきか、そのあたりが重要になるのではないか。

【委員】
 法科大学院における実務教育の在り方について、前期修習肩代わり論あるいはそれに相当したものという議論があり、それに対して問題意識を持っているところ。おそらく新しいプロセスになった以上、修習前の修習生の状況は従来型の修習のものとは姿が変わってくるものだと思う。そういう意味で今、修習サイドで指摘があったように、新しいプロセスに生まれ変わっていかなければならないということで議論を始めているところで、公表できるところは順次公表し批判にさらしていくということをしていきたいと思うが、改めて修習サイド側では法科大学院の実務教育に何を求めていくのかということについて、議論をしていきたいと思う。

【委員】
 基本的なことを分かっていないと言っても昔の基本と今の基本は違う。一定の角度から基本を設定して、分かっていないと言われては立つ瀬がない。法科大学院の教育は、アメリカでは入門の入門で、正しい方向に向けて考えるということ。専門性とは専門への着眼点を持つことであって、専門を法科大学院で勉強するというのはありえない。

【委員】
 重要な点は、法曹養成機関として法科大学院がきっちり育てた者の中に59名の不合格者が出ているというところ。基本的な理解ができていない層があるということが指摘されているが、法科大学院の入口を出口でそれをどうやって改善をしていくか。

【委員】
 司法試験で卒業生が全員通らないから、法科大学院は間違っている、修習生で落ちる数が相当あるから司法試験あるいは法科大学院がおかしいということに直結するのかという事ををまず問うべき。途中で脱落させられる人が出てくるというのはむしろ健全に機能している証拠だと思う。今まで研修所を出たら誰でも就職できた、あるいは初任給が下がってきたと言われているが、この新しい制度は法律家の活動する分野をもっと拡げることがベースにあったはずで、それを拡げていくためにはまず、それをやる人間がいて努力して初めて拡がるので、ニーズのほうが手を広げて待っててくれるということではない。過渡期で溢れるというのは健全な姿で、それが努力の中で吸収されて結果として法曹の役割が拡がっていくのがあるべき姿。かつては合格者数をもっと増やせという声が世に強くあがっていたが、今度は弁護士のほうからあまり増やすなという声があり、弁護士の数が増えて従来に比べると旨みがなくなってきたことが背景にある。減らせ、合格者をこれ以上増やすなという意見はかなり切実なニーズに立脚した声なので、その力は大変強い。そこで例えば法科大学院協会がそのまま黙っていると増えなくなる。もう少し拮抗するくらいの声を出していただけたらありがたい。

【委員】
 法律基本科目の到達目標については今、研究者教員が担っており、コアカリについて現場から法科大学院版学習指導要領ではないかという疑念が上がっているので、その点を留意しながら進めていったほうがよいのではないか。

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