資料3 大学院教育における課題の整理

第63回大学院部会(平成24年11月26日開催)における議論

社会人教育について 1

・米国では20代後半から30代前半でプロフェッショナルスクールへ入学する層があり、また、30代から40代に、教員を中心とした、昇進に向けた資格としての学位取得希望者の層がある。
・ヨーロッパでは、職業訓練の側面もあるので、大学・大学院ともに社会人の割合は多い。
・イギリスはリサーチマスターと別にトートマスターと呼ばれる、講義中心で1年で学位を取得できるコースもあるので、社会人をそこで呼び込んでいる部分もあると思われる。
・東アジアでは、企業就職に有利であることから大学院に進学する学生が増えている。
・日本では、企業や官庁等、社会において学歴・専門性が適正に評価されておらず、修士・博士の学位取得者を使いこなせていない。昇進や給与などの処遇にも結びついていない(特に人文・社会科学系)。
・一方で、例えば学士と修士が身につける能力や知識の差が明確となるような教育が提供できているか、という大学側の問題もある。
・この点を解きほぐさなければ、大学院に社会人を呼び込むことは難しい。
・土日や夜間は、大学は事務的なサポート体制が取られておらず、土日・夜間の開講が難しいことが課題。

社会人教育について 2

・社会に出てから学位の必要性を感じた層に対し有益な教育プログラムを提供できるかどうかが鍵である。
・企業の中で大学院に入学してみたいと考える人は多くとも、人事担当者はそれを良しとしないなどのギャップがあり、経済団体に問題意識を持ってもらうべき。
・学部卒の知識を就職先企業のOJTによりアップデートすれば足りた、安定雇用の時代とは違い、大学卒業後も自らのキャリアアップ・キャリアチェンジのために最新の知に基づくリトレーニングをするニーズがある一方で、日本の大学院がその受け皿としての教育を実施しているか、今後実施できるかという点が問題。
・企業側からすれば先端的な知を求めての社員の派遣先はどうしても米国の大学が中心であり、日本の大学がその代替たり得るかが課題。
・企業人が大学院に行く際には、休職の問題や、就学期間中の給与の問題、学費の問題など課題があり、安心して大学院に進みそして企業に戻るモデルを、システムとして作っていかなければならない。
・企業側からは、夜間・休日のみで3年間かけて博士課程のコースに入るよりも、2年であれば仕事を離れて大学院での学修に専念してもらってもよい、との声もある。 

大学院教育の強化・実質化について

・例えば、研究大学を標ぼうする大学は、学士課程の学生を減らし、その分のリソースを修士・博士・専門職学位課程の教育、さらには社会人教育に回すという考え方をしなければ、限られたリソースの中で大学・大学院全体の質や水準の向上につながらない。
・大学院教育課程の早期に学修範囲が狭くなりすぎている傾向があり、そのような課程修了者が社会に受け入れられることが難しい現状。
・専門分野を超えた幅広い教育を経て「博士論文研究基礎力審査」により修士の学位を取得することを可能としたが、その趣旨が各大学に伝わっているか疑わしく、体系的な幅広い教育の実施については未だ課題の一つ。
・研究科・専攻を超えた、学位プログラムとしての幅広い教育の実施に際しては苦労する。
・附置研も含めた研究の推進力として学生定員を設定した大学院重点化の考え方は、課程制大学院制度のもとで教育を施すに適した定員規模とは異なっている。
・特に私学が中心だが、入学者数が3名未満の小規模専攻が多い状況では、幅広い教育を実現することも難しく、イノベーションにつながる大学院教育とはならないのではないか。日本全体に分散している大学院教育に係る資源を集約し、大学院教育の充実・実質化を図るべき。
・研究者養成なのか、高度専門職業人養成なのか、など大学院の教育研究目的を明確にした上で設置すべきであり、「大学である以上博士課程を擁する必要がある」という風潮だけに流されて設置しては、定員未充足や入学者・修了者の質の低下を生む。
・大学間の競争をうまく生かし、特色を出せるようなシステムを構築するべき。

分野ごとの課題について

・大学院の議論は理工系がベースになりがちだが、人文・社会科学系や医学系における現在の大学院教育の姿が世界標準であるかは疑問。
・一橋大学経済研究科の例で言えば、修士課程は一定程度の数の学生が集まり、ニーズがあるが、一橋大学の学部卒の学生は少ない。一方で、博士課程へ進む学生は少ない。
・学部から修士課程まで含めた6年間同じ大学にいることが多い理工系と異なり、人文・社会科学系では、上位大学において進学者が少ないことに由来し、課程が進むにつれて学生は上位大学へ吸い上げられる現状。
・人文・社会科学系は、学士と修士の学修内容・レベルの違いを明確にしなければ、企業としては支払う給料の少ない学士を採用しようというモチベーションとなる。
・企業が採用やその後の人事配置において、特に人文・社会科学系において、全く学生の専門性に留意せず、コミュニケーション能力や積極性、英語力やクラブ活動実績等にのみ重きが置かれている現状。
・米国、英国ではPhDとは別にプロフェッショナルドクターの学位があり、日本でもPhDとEdDを分けて考える教育学部もあるが、今後拡大すべきはプロフェッショナルドクターに相当する博士ではないか。

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