体制の整備において重要となるのは,コーディネート機能の強化である。地域学校協働活動としては,地域住民,保護者,企業,団体等,様々な関係者が,学校支援活動,放課後や土曜日の学習支援活動,家庭教育支援活動,学びによるまちづくり等の地域活動といった様々な活動に参画することが想定され,学校や学校運営協議会と連携を図りつつ,時には学校との連絡窓口となり,時には住民,保護者間の調整役となって協働活動を推進していくコーディネーターの役割が重要である。
これまで,地域による学校支援活動等に際しては,主に学校区における活動の連絡調整役として地域人材が務める「地域コーディネーター」がその機能を果たしており,地域の実情に応じた様々な学校づくりや地域づくり活動等の企画調整を担ってきている。
また,域内の各学校区の協働活動の進展に応じて,学校区ごとのコーディネーター間の連絡調整を行ったり,域内の地域コーディネーターの育成を支援したりする「統括的なコーディネーター」の必要性も高まってきている。
今後は,両コーディネーターの配置促進や機能強化が重要である。
地域における学校との連携の課題でも述べたとおり,これまでの体制では,多くは学校支援活動,放課後子供教室や土曜日の学習支援といった活動ごとに企画調整がなされ,活動間の効果的な連携によるそれぞれの活動の充実の視点が不足している傾向があった。今後,地域コーディネーターの役割は,これまでのように学校支援活動や放課後子供教室といった各活動ごとの担当にとどまらず,より広い視野で地域における学校との協働体制を作っていくことが必要である。
また,地域コ-ディネーターによるコーディネートは,
など地域や学校の実情に応じて,様々な態様で行われている。
どのような場合であっても,地域に根付いていく継続的な取組を行うことができるよう,持続可能な体制を整備していくことが必要である。具体的には,たとえ地域コーディネーターを務める人物に交代があっても,担当していた地域学校協働活動が継続した取組となるよう,都道府県や市町村の教育委員会において,地域コーディネーターの活動を行うための研修会等を通じて候補となる人材を育成・確保していきながら,必要な研修を修了したこと等を踏まえた職能的な要件を課し,資質・能力等が備わった別の地域人材がコーディネーターを引き継ぐ仕組みとする等の工夫が必要である。
地域学校協働本部(仮称)の中核を担う地域コーディネーターは,様々な人々や活動をつなぐ役割が大きく,それぞれの地域コーディネーターの経験の共有と継承が重要であるため,地域コーディネーター間の十分な情報共有や研修等を通じて,相互に学び合うことが有効である。
さらに,地域コーディネーターは,地域社会と関連の深い教育改革の動向を把握することが大事であり,学校教育で今後期待されていることについて,地域コーディネーターに対する十分な研修の機会が提供される必要がある。また,その際,大学や専門学校等との連携を図ることも有効である。
なお,地域コーディネーターは,子供たちの状況に触れることになるため,守秘義務を重視し,責任の所在の明確化を図る場合は,地域の実情に応じて,委嘱等の契約を行うなどのルールを設けることで,学校との情報共有が円滑になるものと考えられる。
また,地域コーディネーターとなる地域人材の確保は最も重要である。地域コーディネーターは,ボランティア経験者,PTA関係者・PTA活動経験者,地域の自治会等でネットワークを持っている人,社会教育も経験している元校長・教職員など,地域の実情に応じて様々な人が考えられる。それぞれの地域や学校の実情に応じて,求められる役割には幅があり得るが,効果的なコーディネート活動を行うことができるよう,例えば,
といった能力・資質を有していることが望まれる。都道府県や市町村においては,このような資質・能力を有する地域人材の確保に努めるとともに,このような資質・能力を育成していくことを目指して,地域コーディネーターに対し,それぞれの経験段階等に応じた研修会,ワークショップ等の人材育成を進めていくことが重要である。また,国や都道府県においては,各市町村で活躍する地域コーディネーターの参考となるよう,効果的なコーディネート活動の具体的な事例収集や分析を行い,その情報提供を行っていくことが必要である。
これまで,地域における学校支援活動等において,地域や学校に深い理解と関心を持ち,熱意を持って献身的に活動に取り組む地域コーディネーターの活躍により,学校支援活動,放課後子供教室,土曜日の学習支援活動等が徐々に発展を遂げてきている。
今後,このような学校と地域との連携が生じ,発展を遂げてきた都道府県や市町村において,新たなステージとして地域学校協働本部(仮称)の体制の整備を目指していく上で,地域コーディネーターの資質向上・ネットワーク化促進,各学校区における地域学校協働活動の充実・活性化,地域学校協働活動の未実施地域の取組開始の支援等を図っていくため,都道府県若しくは市町村の学校地域協働に関する統括的なコーディネート機能の強化が必要である。
都道府県や市町村においては,それぞれの規模,特色や実情,域内における地域学校協働活動の展開状況,そのための体制の整備状況等を踏まえつつ,域内の地域学校協働活動の経験が豊富な地域コーディネーター等の中から,高い資質・能力を有する者を統括的なコーディネーターとして委嘱・配置していくことが重要な方策となり得る。都道府県や市町村の教育委員会において,域内全体の地域学校協働活動の推進を担当する部門の設置や職員を配置するといったことも考えられる。また,都道府県や市町村の教育委員会において,NPO等の団体を活用して統括的なコーディネート機能を強化することも考えられる。
地域における学校支援活動等が充実・発展してきている地方公共団体によっては,地域コーディネーターに加え,このような統括的なコーディネーターを配置することにより,実際に,地域コーディネーター同士のネットワークづくり,地域コーディネーターの負担軽減,地域コーディネーター人材の確保,地域における学校支援活動の拡大等につながったといった効果が上がった例も見られる。統括的なコーディネーターの役割は,地域や学校の実情・特色に応じて様々なケースがあり得るが,主として,
といったことが想定される。
また,各学校区で活躍する地域コーディネーターの確保と同じく,こうした市町村域を統括的にコーディネートする役割を担う地域人材の確保も重要である。統括的なコーディネーターについては,地域コーディネーターのリーダー的な存在となることから,こうした役割を担う人材は,上記1(1)の地域コーディネーターに求められる能力・資質に加え,
等も求められる。
地方公共団体によっては,既にこのような統括的なコーディネーターを活用しているところもあるが,その主な役割や資質能力については,明確になっていない。今後,地方公共団体の判断により,このような新たな機能を担う統括的なコーディネーターを委嘱するなどして活用し,効果的で質の高い活動を行い,都道府県・市町村の広い範囲において学校地域協働の促進が図っていくことができるようにするためには,国は,統括的なコーディネーターに求められる役割・資質等といった事項について,明確化していくことが必要である。
都道府県及び市町村の教育委員会に置かれる社会教育主事は,社会教育を行う者に対して専門的技術的な助言・指導や,教育委員会主催の社会教育事業の企画・立案等の職務を担っており,地域と学校の協働活動が円滑に進むよう,地域コーディネーターや統括的なコーディネーターとなり得る人材を見いだし,育成したり,積極的に情報共有を図ったりすることが望まれる。今後,このような地域学校協働活動に関することを含め,さらに,社会教育主事に必要な資質や養成・研修の在り方について検討を行っていくことが必要である。
地域における学校と協働した活動の「内容」は,現状では,授業の補助として,大勢の地域人材の一斉支援によるドリルの丸付け補助や,地域人材の得意分野を生かした書道や家庭科の裁縫等の個別支援等が行われており,また,放課後や土曜日等では,例えば,読み聞かせ,昔遊び,実験・工作教室,自然体験活動,スポーツ・文化活動や地域の伝統芸能等のほか,宿題や基本的な学習習慣づくり等が行われている。今後は,「社会に開かれた教育課程」の実現に向けて,社会の状況を幅広く視野に入れよりよい社会を創るという目標を学校と地域で共有し,子供たちが社会に向き合い,自らの人生を切り拓(ひら)いていく資質・能力を育んでいくという観点も踏まえて,より幅広い地域住民が参画し,地域と学校が連携・協働して,活動内容を充実していくことが重要である。例えば,活動に参加する子供たちの発達段階に応じ,将来の職業の参考となるキャリア教育,地域の課題を分析・解決する学習,地域の大人と協働する地域活動の企画・参加など,地域の実情や特色を踏まえて,地域と学校の連携・協働により継続的に活動内容を検討していくことが肝要である。
なお,その活動「時間帯」は,学校の授業への協力のほか,平日の学校の放課後や登下校中等の時間帯,土曜日,日曜日,長期休業中等が挙げられる。
活動に参画する「子供」については,幼稚園・保育所,小学校,中学校,高等学校,特別支援学校,高等専修学校等の幼児・児童・生徒が考えられ,これからの地域を担う一員としての観点からは,特に中学生や高校生等の参加が重要である。
その際,経済的な理由や家庭の事情等で家庭での学習が困難であったり,学習習慣が十分に身に付いていなかったりする子供たちへの地域住民等の協力による学習支援や体験活動の機会を充実していくことが重要である。また,地域において仕事と子育てが両立できる環境づくりのため,地域住民等の協力により,放課後や土曜日等の安心・安全な居場所を設け,学習支援,体験・交流活動を提供することも重要である。これらにより,子供たちの学習する環境が整い,学習習慣が身に付いていくことで,地域全体で多くの子供たちを見守り,誰もが安心して子育てできる環境を整備することにつながるとともに,孤立しがちな保護者も,地域学校協働本部(仮称)があることで,気軽に悩みを相談しやすくなるなど,家庭教育への重要な支援となる。
活動に参画する「大人」については,保護者,PTA,社会教育関係団体,地域の自治会,NPО等や青年会議所,商工会等の団体,大学や専門学校等の高等教育機関,学校の元教職員や地方公共団体の元職員等の協力を得ることが挙げられるが,より多くの,より幅広い層の人々で取り組むことが重要である。これからは,多様な職業体験,生活体験を経た60代後半以上の人々が増えていく時期でもあり,多くの人々が学び合いながら,地域の教育活動に参画していくことが望まれる。また,活動に参画する地域住民等は,地域で子供たちの成長を支えるということを自覚し,学校等の関係者と協力して取組を行っていくことが重要である。
子供の教育に対する責任を社会的に分担する観点から,放課後の時間帯や土曜日,日曜日,長期休業中等に行われる地域における活動については,基本的には,地域が主体となって行っていくべきものである。教職員の多忙化が大きな課題となっている状況の中で,こうした活動について地域と学校が情報を共有することは重要であるが,教職員が子供と向き合う時間を確保する観点等からも,教職員が様々な地域活動に参加し地域課題の解決に取り組むことを過度に求めていくことのないよう十分に留意する必要がある。
地域における学校との協働による活動の場所は,「放課後子供教室」など学校の教室やグラウンド等で実施するのが適当と考えられるもののほか,学校外で行うことが適当なものもあるが,いずれにしても,その趣旨,内容に応じて最も適切な活動場所を確保することが求められる。
学校内の施設で活動を行う方が適当と考えられるものについては,1.施設整備面での工夫,2.余裕教室の活用など施設の有効利用を図ることによる工夫,3.施設管理面での管理責任等の課題の解決を図るための工夫について,教育委員会が主体となり,学校や地域学校協働本部(仮称)と積極的に連携・協働して解決策を見いだすことが求められる。
特に,上記3.については,既に,活動を学校内の施設を利用して行う場合の管理責任を学校に委ねるのではなく,教育委員会の責任とすることを明確にするといった工夫を行っている実例も見られるところであり,国は,こうした実例を他に情報提供することが有効である。
学校は,子供たちの学習・生活の場であるのみならず,地域コミュニティ形成の核となったり,災害時に地域住民の避難所となったりと,多様な役割を担っているものである。学校がこうした多様な役割を担うことを踏まえ,教育環境の改善を図りつつ,地域の実情に応じ,地域住民が利用することも念頭に置きながら,安全・安心で質の高い施設整備を行い,その活用を進めることが重要である。例えば,学校施設を整備する際には,地域への学校開放を前提としたコミュニティスペースを設けることや,社会教育施設等と複合化した施設とすること,既存の学校施設において余裕教室が生じている場合には地域住民が必要とする他の公共施設の用途に転用すること等により,日常的に地域住民が集う地域コミュニティの拠点となるものにすることが考えられる。
なお,学校外で活動を行う場合の活動の場所は,公民館等の社会教育施設や,児童館その他の公共施設,商店街など,地域との協力の下で様々な場合が考えられ,活動場所を広げることは,活動内容の充実にもつながるものである。
幼稚園,高等学校,特別支援学校や高等専修学校については,小・中学校と比べると地域の概念が異なるが,社会全体で子供たちを育むことの重要性はどの段階でも変わらないことから,学校種の特徴を生かしつつ,幼児・児童・生徒の発達段階等に応じて,地域における学校との協働体制を構築する必要がある。
幼稚園については,地域との協働による幼児期の豊かな体験活動の充実,保護者も参加する小学校との円滑な接続に向けた取組の充実,近隣の地域との協働による保育所との円滑な連携の推進等が期待される。また,平成27年4月からは,幼児期の学校教育・保育の質の向上をはじめ,預かり保育や子育て相談等の地域の子供・子育て支援を総合的に推進する「子ども・子育て支援新制度」が開始されており,こうした新制度の取組を進め,幼児期の子供一人一人の健やかな成長を着実に支援するためにも,地域学校協働本部(仮称)における幼稚園等との連携・協働体制の構築を進めることが重要である。
高等学校等については,今後望まれる授業改善の視点である「アクティブ・ラーニング(※1)」の有効な展開の観点からも,地域学校協働本部(仮称)との連携・協働体制の構築を進めることが重要である。こうした体制構築が進むことにより,高校生等が地域の商店街,企業,NPO等の団体,地方公共団体等と連携し,地域課題の解決に参画する取組が進めば,キャリア教育の推進や地域貢献にもつながるとともに,地域に愛着を持ち,自分が学んだ地域で働きながらその地域を活性化していくことにつながっていくことも期待される。高校生が地域課題の解決に取り組む活動に参画することは,高度な課題解決型の学習への意欲を喚起する上で有意義なものとなり得る。また,高校生等が地域の小学校や中学校に係る地域連携活動にボランティアとして協働の輪に入ることで,ネットワークのつながりが広がっていくことも期待される。
特別支援学校については,当該学校に通う子供たちが自立し,社会参加できる環境の充実には,保護者のみならず,地域,医療,福祉等の関係機関との連携が必要であり,ここでも地域学校協働本部(仮称)との連携・協働体制の構築を進めることが重要である。
なお,今後このような学校種との連携・協働による地域活動を充実していくに当たり,地域においては,地域学校協働本部(仮称)の活動を通じて,幼稚園,小・中学校,高等学校等,特別支援学校の各段階の学習を全体的に理解する視点を持つことが重要である。
こうした視点を持つことにより,例えば,「高等学校でこのような学習が成り立つためには,小・中学校段階でこのような活動が必要であり,また,地域と連携・協働した支援活動は,子供たちが地域に目を向けるようになり,将来的に必ず自分たち地域に返ってくるものである」という関連性が理解されるようになり,地域住民のモチベーションが高まるとともに,活動の充実に結び付くと考えられる。
地域が学校との連携を深める中で,地域は,子供たちにとって,学校や家庭ではない第三の場所として安心な居場所になることが考えられる。
地域学校協働本部(仮称)には,直面する子供たちの課題等にもよるが,教育関係者のみならず福祉,医療の関係者との連携強化や,孤立しがちな保護者の支援という観点からも,地域の人材で構成する家庭教育支援チームと連携していくことが重要である。地域学校協働本部(仮称)の中に家庭教育支援の機能も組み込むことで,家庭教育支援の充実や安心して子育てできる環境の整備を図るとともに,困難を抱える保護者への対応の充実を図ることが可能となる。また,孤立しがちな保護者が学校支援等の地域と学校が連携・協働した活動に参画するよう促し,実際に活動に関わることで,こうした保護者が前向きになり,家庭教育の充実につながることも期待される。
家庭教育支援チームによる取組としては,保護者が主体的な家庭教育ができるよう,学習機会や情報の提供,様々な相談への対応,地域における居場所づくり,さらに,訪問型の家庭教育支援等の取組を推進することが挙げられる。
初等中等教育局初等中等教育企画課教育制度改革室
-- 登録:平成28年01月 --