第3章 地域の教育力の向上と地域における学校との協働体制の在り方について 第3節 地域における学校との協働体制の今後の方向性

ポイント

 「支援」から「連携・協働」,「個別の活動」から「総合化・ネットワーク化」へ

  • 地域と学校がパートナーとして,共に子供たちを育て,共に地域を創る。
  • 地域と学校が連携・協働して,地域全体で未来を担う子供たちの成長を支えていく活動を「地域学校協働活動」として,その取組を積極的に推進。
  • 従来の学校支援地域本部,放課後子供教室等の活動を基盤に,「支援」から「連携・協働」,個別の活動から総合化・ネットワーク化を目指す新たな体制としての「地域学校協働本部(仮称)」へ発展。
  • 地域学校協働本部(仮称)には,1.コーディネート機能,2.多様な活動,3.持続的な活動の3要素が必須。
  • 地域学校協働本部(仮称)の実施を通じて,教職員と地域住民等との信頼関係が醸成され,コミュニティ・スクールの導入につながっていく効果も期待される。
  • 地域学校協働活動の全国的な推進に向けて,地域学校協働本部(仮称)が,早期に全小・中学校区をカバーして構築されることを目指す。

1.地域における学校との協働体制の目指す姿

(1)今後の方向性-連携・協働と総合化・ネットワーク化-

 今後,国全体として,各地域を支援しつつ,目指すべき整備の方向性は,第一に,第1章第2節で既に述べたとおり,地域と学校がパートナーとして,共に子供たちを育て,そのことを通じて共にこれからの地域を創るという理念に立つことである。「支援」を超えて,目的を共有し長期的な双方向性のある展望を持った「連携・協働」に向かうことを目指す。
 第1章第1節でも述べたように,地域の人的・物的資源を活用するなど,学校教育の目指すところを社会と共有・連携しながら実現する必要がある。例えば,郷土学習の場合は,地域住民と学校とが相互に知識と経験,物や施設を提供し合って教育活動を行うことが望ましい。その際,話合いの過程と継続的な実施を通じて,地域の伝統文化の継承者が生まれ,地域の持続・発展の芽が育つこととなる。さらに,地域住民が「学び」を通じて子供たちや学校と新たな関係を作り,それぞれで考え,成長していくことが期待できる。
 また,これらの学習については,基礎的な教育を学校の授業でも行った上で,放課後や土曜日における社会教育の場で更に発展的な活動を行うことも考えられる。これは,学校教育と社会教育の連携によって学びを深める一例である。また,地域住民の身近な学習・交流の場である公民館等の社会教育施設には,多様な人々が集い,地域活動の歴史やノウハウが集積されており,世代間の絆(きずな)をつなぐ協働の場の一つとして期待される。
 第二に,活動やコーディネート機能のつながりを深めることが重要である。地域によっては,既に,授業への地域人材の協力,放課後子供教室,土曜学習,親子が参加する地域行事等を複数のコーディネーターが手分けしながら一体の組織で企画・実施している例がある。地域でどのような子供たちを育てていくのか,どのような地域を創っていくのかという目標・ビジョンについて熟議を行いながら,多様な活動の違いを超えて総合的な運営を進めることにより,地域の人的なネットワークが広がり,協力体制が手厚くなると考える。
 このように,活動を広げながら,学校・地域社会それぞれの特性を生かした「連携」と,共通の目標に向かって相互に意見を交わしつつ,それぞれの資源を最適に組み合わせて達成を目指す「協働」の双方の,地域における基盤となる体制が今後の教育には必要である。そのためには,従来の学校支援地域本部活動や放課後子供教室等の個別の取組を有機的に結び付けていくことが必要である。
 このように,「支援」から「連携・協働」,個別の活動から総合化・ネットワーク化を目指し,地域と学校が連携・協働して,地域全体で未来を担う子供たちの成長を支えていくそれぞれの活動を合わせて「地域学校協働活動」と総称し,その活動を推進する体制を,今後,地域が学校と協働する枠組みとして,「地域学校協働本部(仮称)(※1)」に発展させていくことを提言する。


  • ※1 第2期教育振興基本計画(平成25年6月閣議決定)において,学校支援地域本部や放課後子供教室等の取組など「保護者はもとより,地域住民の参画により子供たちの学びを支援するための体制」を平成29年度までに全国に整備することとなっている。

(2)地域学校協働本部(仮称)の在り方

地域学校協働本部(仮称)に必須の要素

 地域学校協働本部(仮称)についての特徴は,社会教育のフィールドにおいて,地域の人々や団体により「緩やかなネットワーク」を形成した,任意性の高い体制としてイメージされるものである。一方で,より多くの,より幅広い層の地域住民が参加しやすい,つながりの緩やかなものではあるが,参加者の世代交代等も経ながら永く持続していくものでもある。
 各地域で展開されている活動の実態,組織の現状と課題から考察すると,この体制が恒常的,組織的,安定的に実質を伴ったものとして持続するためには,地域と学校が子供たちの育成の方針など目指すべき方向性を共有しつつ,「支援」から「連携・協働」,「個別」の活動から「総合化・ネットワーク化」へと発展させていくことを前提とした上で,次の3要素が必須となる。

  1. コーディネート機能
  2. 多様な活動(より多くの地域住民の参画による多様な地域学校協働活動の実施)
  3. 継続的な活動(地域学校協働活動の継続的・安定的実施)

 具体的にどのような内容の活動が行われるかは,地域の実情,本体制の発展段階に応じ,多様であるものと考える。例えば,放課後子供教室から始まり,次に学校の授業の支援が加わり,さらに,郷土学習の共同企画や学校と地域の行事の共催等を実施するという場合もあれば,学校の環境整備や登下校の見守りから始まり,放課後や土曜日の教育,家庭教育支援の取組に拡張する場合もある。このように,地域学校協働本部(仮称)の構築に向けては,このような様々な活動の全てを最初から行うことを求めるのではなく,それぞれの地域における学校との協働活動の進展状況に応じて,まずはその地域と学校の子供たちの成長にとって何が重要であるかを地域で共有しつつ,ある程度の期間を見越したビジョンを持つことが重要である。その上で,その活動主体のコーディネート機能を強化し,より多くの,より幅広い層の活動する地域住民の参画を得て,活動を広げ,継続的な活動を行っていく中で,徐々に活動を充実し,活動間の横の連携を促進し,学校と地域との連携・協働関係を構築していくことが重要である。

これまでの学校支援地域本部等から地域学校協働本部(仮称)への発展

 地域によっては学校支援地域本部が既に設置され,中心となって,地域と連携した学校支援活動を展開している場合がある。このような場合においては,学校支援地域本部の機能を基盤として,引き続きその活動を発展させながら,徐々に,1.コーディネート機能を強化し,2.より多くの,より幅広い層の活動する地域住民の参画を得て,活動の幅を広げ,3.継続的な地域学校協働活動を実施していくことで,地域学校協働本部(仮称)へと体制が発展していくことが期待される。
 また,地域や学校の実情やそれまでの経緯によって,地域学校協働活動を実施する組織体制や発達の度合いは様々な違いがあり,それぞれの違いを踏まえつつ,整備を進めていくことが望まれる。例えば,地域によっては,放課後子供教室における企画運営会議等の機能を生かして学校支援や地域活性化のための活動を展開している地域もあり,放課後子供教室における地域と学校との協働活動を担う部門が,学校支援活動や地域社会における地域活動等のコーディネート機能を発展的に整備していくことで,地域学校協働本部(仮称)へと体制が進化する場合など,地域学校協働本部(仮称)の整備には様々なケースが考えられる。
 なお,このような機能を担う主体が,それぞれの経緯や特色を踏まえて独自の名称を使用しているケースも見られ,地域学校協働本部(仮称)として活動する際にもそのような独自の名称を使用することを妨げるものではない。
 一方,これまでに学校支援地域本部や放課後子供教室等の活動が行われていない地域においては,まずは最初の一歩として,地域と学校が連携・協働して学校支援活動,放課後の教育活動や地域活動等のいずれかを実施する基盤づくりを加速し,地域学校協働活動を開始していくことが重要である。

コミュニティ・スクールとの関係

 地域学校協働本部(仮称)の整備を推進する際には,同本部とコミュニティ・スクールとの両者が相互に補完し,高め合う存在として,両輪となって相乗効果を発揮していくことが必要である。両者の一体的・効果的な推進の在り方については,第4章で述べる。
 また,地域学校協働本部(仮称)のパートナーとなる学校がコミュニティ・スクールではない場合には,地域学校協働本部(仮称)による地域学校協働活動の実施を通じて,その活動が学校や子供たちに評価され,教職員と地域住民等との信頼関係が醸成されていく中で,地域の活力を学校運営により生かしていくことを目指し,コミュニティ・スクールの導入につながっていくといった効果も期待される。

地域学校協働本部(仮称)の更なる機能強化

 現在の機能を更に進めるものとして,学校教育部局との連携強化や,教育委員会だけではなく首長部局の各部局との連携強化を推進することが挙げられる。これにより,取組の幅が広がっていき,子供たちの教育内容等の充実につながることが期待される。さらに,地域にある高等学校等と連携することは,設置者の違いを超え,高等学校や高校生等も協働の輪に入ってもらうことで,ネットワークのつながりが広がっていくことになる。
 具体的には,高等学校等の所在する地域の小学校や中学校に係る地域学校協働活動に高等学校等や高校生等が参画する,若しくは高等学校等がその所在する市町村の住民等と地域学校協働活動を実施するといったような取組が考えられる。このような取組を促進していくためには,学校が所在する地域において,都道府県教育委員会と市町村教育委員会とが密に連携を取って,子供,地域住民,保護者,学校のそれぞれにとって地域学校協働活動がより有意義なものとなるよう努めていくことが必要である。
 また,自分の卒業した小学校や中学校のある地域から離れた地域で暮らす場合において,自分の卒業校でなくとも,「地域の学校も自分の学校」として,自分の暮らす地域の学校に対しても関心を持って協働の輪に入っていくことにより,ネットワークのつながりが広がることとなり,今後は,このような意識の醸成も重要である。
 さらに,地域学校協働本部(仮称)への参加者一人一人が学び合う場を持って,子供の教育や地域の課題解決に関して,共に学び続けていくことは,正に生涯学習社会の実現のために求められることである。

地域学校協働本部(仮称)の有する可能性と留意点

 地域が学校との連携を深める中で,子供たちにとって,地域は学校や家庭ではない第三の場所として安心な居場所となる。また,地域における学校との連携協働体制に様々な悩み等を相談できる家庭教育支援の活動や機能が組み込まれることにより,孤立した保護者を支えることにもつながる。さらに,子供たちの非行防止,健全な育成の観点からも,地域学校協働活動を通して,放課後等の安全で健やかな居場所を作り,地域住民等が子供たちの成長を見守っていくことが重要である。
 なお,このような協働体制を目指すに当たり,最初の段階から学校に対して地域づくりへの過度な関与を求めることは,学校現場における負担を増大させる可能性もあることから,そのような協働の取組の基礎は,まず,地域住民等による学校支援の取組によって地域との接点が作られ,地域と学校が子供の教育に関わることを通じ,相互の信頼関係が醸成されていく中で徐々に形成されていくものであることに留意する必要がある。加えて,地域住民と学校,地域住民同士の信頼関係の醸成には,どの地域においても相当数の時間と経験の蓄積を要するものと十分に認識し,地域の特色や実情を踏まえつつ,社会教育としての協働体制を整備・強化していくことが重要である。

2.地域における学校との協働体制の整備の方向性

 今後,地域における学校との関係を連携・協働へと発展させるとともに,地域住民自らが生活する地域を創っていくという考え方の下,全国どの地域においても子供たちが地域の協力を得て成長していくことができるようにすること,また,住民が子供たちの成長を支える地域学校協働活動に参画する機会を得ることができるようにすることが必要である。この達成に向けて,地域における学校との協働の取組を強く推進していくため,地域が学校と協働する枠組みである地域学校協働本部(仮称)が,早期に,全小・中学校区をカバーして構築されることを目指す。その際には,複数の小学校や中学校等を対象とするなどして地域学校協働本部(仮称)を整備していくなど,それぞれの地域や学校の特色に応じて効果的な協働体制の整備を図っていくことが重要である。また,小・中学校のみならず,高等学校,幼稚園,特別支援学校,高等専修学校においても有効な取組であるため,地域の実情に応じてこれらの学校も巻き込んだものとしていくことが重要である。特に,高等学校に係る地域学校協働活動を推進していくことは,高等学校の特性を生かした展開により,より幅広い地域住民,企業,団体等の参画を促進する可能性がある。また,こうした取組を通じてその所在する地域の小学校や中学校と連携することで,活動全体の活性化にもつながることが期待できる。
 このように,全国どの地域においても地域学校協働活動が推進されていくよう,地域による学校支援活動等を含む社会教育に関する事務を行う都道府県及び市町村の教育委員会において,域内の地域学校協働活動を円滑かつ効果的に推進するための体制の整備その他の必要な施策(例えば,地域学校協働本部(仮称)等の体制の整備,コーディネーターの配置,地域住民に対する地域学校協働活動に関する情報提供や理解促進等)を講じることとすることが必要である。
 他方,地域や学校の実情,特色,経緯によって,地域学校協働活動を実施する体制の在り方は異なり,その進展状況にも幅があり得る。また,地域学校協働本部(仮称)は,学校支援地域本部や放課後子供教室等の活動を基盤にして,「支援」から「連携・協働」への理念の転換を図りながら,コーディネート機能の強化,より多くの地域住民の参画,継続的な地域学校協働活動の実施を経て発展していくことが期待される。このため,地域学校協働活動を推進するための体制整備としては,都道府県や市町村の教育委員会において,それぞれの地域や学校の特色や,域内における体制整備の進捗状況に応じて,その責任の下に地域学校協働活動の推進に係る様々な体制の整備のための施策を講じることが必要である。
 都道府県や市町村の教育委員会としては,それぞれの域内の地域や学校の実情・特色や域内における整備状況を踏まえて,地域学校協働活動の推進に関する方針を定めて,どのような施策を講じていくべきかを検討し,実施していくことが必要である。
 このため,今後,都道府県や市町村の教育委員会は,まず,各学校区の活動を把握し,既に学校支援地域本部や放課後子供教室の活動,また,公民館を中心とした社会教育活動等が行われている場合も含め,今後,地域学校協働活動の推進に向けて,どのような活動を充実していくべきか,どのような体制で地域と学校との連携・協働を促進していくかについて検証を行うとともに,地方公共団体全体としての今後の推進の方向性を示していくことが重要である。
 このように,都道府県や市町村の教育委員会において,地域学校協働活動の推進に関する方針を検討する際には,地域の社会教育に関する諸計画の企画・立案,職務に必要な調査研究を行う等の職務を担う社会教育委員に意見を求めたり,調査研究を依頼したり,地域学校協働活動の推進に関し識見を有する者の協力を得て検討を進めていくことも有効である。
 また,このような地域学校協働本部(仮称)は,将来的には,子供たちを社会の主体的な一員として受け入れ,様々な実践への参加を促す機能を有する体制の構築へと進化・発展することが考えられる。その中で,子供も大人も加わって,ワークショップ等の手法を用いつつ,地域課題や地域の将来の姿,さらには子供たちの体験活動やキャリア教育等について議論を重ね,評価を加え,修正を繰り返すなどして,実践を継続し,改善の方向を探ることも期待される。そのような営みによって,より多くの,より幅広い層の地域住民が参画し,住民の意思を作っていくことは,地域の様々な課題に対して,それを解決しつつ,地域を経営することにもつながるものである。

お問合せ先

初等中等教育局初等中等教育企画課教育制度改革室

(初等中等教育局初等中等教育企画課教育制度改革室)

-- 登録:平成28年01月 --