第3章 地域の教育力の向上と地域における学校との協働体制の在り方について 第2節 地域における学校との連携の現状等

ポイント

  • これまでの,学校支援地域本部や放課後子供教室等の取組を通じ,学校と地域の関係構築につながるなど,一定の成果を上げてきたことを評価。
  • 一方で,現状の活動に関しては,更なる取組の充実と普及が必要であり,以下のような課題がある。
    • それぞれの活動が個別に行われ,必ずしも活動間の連携が十分でない
    • コーディネート機能を特定の個人に依存し,持続可能な体制が作られていない
    • 地域から学校への一方向の活動内容にとどまっている場合がある
    • 地域の活性化に向けた取組はなお発展途上にある
  • 地域住民等が学校のパートナーとしてより主体的に参画し,地域における学校との関係を新たな関係(連携・協働)に発展させることが必要。

1.これまでの地域における学校との連携の現状

(1)これまでの地域における学校との連携の経緯等

 学校週5日制への移行,少子化の進展とも併せて,学校・家庭・地域社会の相互の連携が重要になってきており,地域における学校との連携に関しては,これまで主に以下のような取組が行われてきている。

  • 平成14年度から,学校週5日制の完全実施と併せて実施された,学習指導要領で,生涯学習の基礎ともなる「生きる力」の育成が必要とされた(※1)。
  • 同じく,平成14年度から「新子どもプラン(※2)」が実施され,関係府省の協力の下で,子供たちの体験活動の充実に資する各種施策が推進されてきた。
  • 平成18年には,教育基本法が戦後初めて改正され,学校,家庭及び地域住民等の相互の連携協力の重要性がうたわれた(※3)。
  • 平成19年度からは,文部科学省と厚生労働省の連携により,「放課後子どもプラン」が推進され,放課後や週末等の子供たちの安心・安全な居場所を設け,全ての子供たちに学習や体験・交流活動等の機会を提供する「放課後子供教室」の取組が推進されている(※4)。
  • 平成20年には,平成18年の教育基本法の改正を受け,社会教育法が改正され,放課後子供教室や学校支援地域本部の活動を念頭に置いて関係規定が新設された。
  • これを受け,平成20年度からは,地域住民等の参画により,学校の教育活動を支援する仕組みであり,地域が学校と連携するための活動体としての「学校支援地域本部」が推進されてきた。
  • 平成25年には,第2期教育振興基本計画において,学校支援地域本部や放課後子供教室等の取組を充実するための体制を全国の小・中学校区に構築することが施策目標とされるなど,地域における学校との連携・協働に関する事項が政策体系に位置付けられてきた(※5)。
  • 平成26年度からは,子供たちが多様な技能や経験を持つ多くの社会人と出会う機会を作っていくことが重要との考え方から,地域の人材や企業・団体・大学等と連携した土曜日の教育活動が推進されている。
  • 平成27年度からは,経済的な理由や家庭の事情により,家庭での学習が困難であったり,学習習慣が十分に身に付いていなかったりする子供たちに対して,地域住民等による学習支援である「地域未来塾」の取組が推進されている。

  • ※1 平成10年から11年にかけて改訂され,平成14年度からの学校週5日制の完全実施と併せて実施された学習指導要領では,新たに設けられた「総合的な学習の時間」等を活用して,各教科等の学習で得た知識を様々な体験活動の中で実感を持って理解することや,学び方やものの考え方を身に付けさせるなど,生涯学習の基礎ともなる「生きる力」の育成が必要とされた。
  • ※2 平成11~13年度まで「全国子どもプラン」として,家庭や地域では,豊富な生活体験,社会奉仕体験,自然体験等を経験させ,子供たちに豊かな心やたくましさ等の「生きる力」を育むため,地域で子供を育てる環境を整備することとして,関係府省の協力の下で,子供たちの体験活動の充実に資する各種施策が推進されてきた。
  • ※3 近年,法令面において,地域における学校との連携・協働に関する規定が整備されてきた。平成18年の教育基本法改正では,学校,家庭及び地域住民等の相互の連携協力について規定が創設された(第13条)。それを踏まえ,平成20年の社会教育法改正では,放課後子供教室(第5条第13号)や,学校支援地域本部の活動も含む概念としての,「社会教育における学習の機会を利用して行った学習の成果を活用して行う教育活動その他の活動の機会の提供等」(第5条第15号)が教育委員会の事務として,新たに規定された。
  • ※4 特に,放課後や週末等の子供たちの安全・安心な居場所を設け,全ての子供たちに学習や体験・交流活動等の機会を提供する放課後子供教室(平成16年度から「放課後子供教室」の前身である「地域子ども教室推進事業」が始まっている)に関しては,平成26年7月に,文部科学省及び厚生労働省が策定した,「放課後子ども総合プラン」に基づき,「女性の活躍推進のためには,共働き家庭等の「小1の壁」を打破するとともに,次代を担う人材を育成するため,全ての就学児童が放課後を安心・安全に過ごし,多様な体験・活動ができるよう,関係府省が連携して総合的な放課後対策に取り組むことが必要」として,一体型又は連携型の放課後子供教室と放課後児童クラブの計画的な整備が推進されている。
  • ※5 続いて,平成25年1月にまとめられた第6期中央教育審議会生涯学習分科会における議論の整理では,「絆(きずな)づくりと活力あるコミュニティの形成に向けた学習活動や体制づくりの推進」のためには,「地域住民が積極的に参画して子供たちの学びを支援し,社会全体で子供たちを育むため,学校と地域が連携・協働する体制づくりが重要」とされた。これを受けて,第2期教育振興基本計画(平成25年6月閣議決定)において,「絆(きずな)づくりと活力あるコミュニティの形成に向けた学習環境・協働体制の整備推進」という基本施策の下,「「学校支援地域本部」,「放課後子供教室」などの取組を充実させ,保護者はもとより,地域住民の参画により子供たちの学びを支援するための体制を,平成29年度までに全国の小・中学校区に構築する」ための取組の推進について記載された。

(2)地域における学校との連携の現状

 平成27年度,地域が学校と連携して行う様々な活動は,学校支援活動を行っている学校支援地域本部が,公立小・中学校のうち約9,600校で実施,放課後等に地域住民等の参画により,子供たちに学習支援や様々な体験活動の機会を提供する放課後子供教室が公立小学校で約14,100教室実施されている。また,地域の人材・企業等の協力を得て行われる土曜日の教育支援活動が,公立小・中・高等学校のうち約10,000校で実施されている(※6)。
 これらについては,取組が始まって10年以上が経過しており,その顕著な成果としては,例えば,登下校の見守り,花壇整備といった,地域住民にとっても比較的参画しやすい学校支援活動を通じて,地域の大人たちが,学校という場で子供たちに寄り添い,成長を支える「最初の一歩」となる活動として定着してきていることが挙げられる。地域によっては,その後,より多くのボランティアの参画を得て,より組織的な取組へと発展しながら,活動の充実につながってきているところもある。
 また,こうした様々な活動への長期の参画を経て,その間に構築した学校との信頼関係や,地域における人的ネットワークを活用して,特定の取組に参画するボランティアの一員から,学校を核とした地域活動の企画,連絡調整,人員配置等の調整を行うコーディネーター役を務めるに至るケースも次第に増えてきている(※7)。
 また,コーディネーター等の企画調整により,学校支援活動を各学校ごとだけでなく,幼稚園と小学校,小学校と中学校が連携して中学校区全体の活動とすることで,幼稚園・小学校の連携,小学校・中学校の連携も進展してきている事例もある。
 これらのそれぞれにおける活動や,その活動の長期にわたる蓄積等を通じて,参画するボランティアやコーディネーターに,地域の高齢者や子育て経験者をはじめとする一層多様な人材の参画が得られるようになってきた地域もあり,子供たちに多様性のある豊かな学習や体験活動を行う取組が全国各地で広まりつつある(※8)。また,地域によっては,こうした取組が始まる以前から,公民館等の社会教育施設により,長年にわたり社会教育活動を通じた地域の活性化のための諸活動が進められてきており,このような活動が,地域における学校支援活動等の円滑なスタートや,その後の速やかな定着につながっている。このような公民館等の社会教育施設による活動は,現在においても,地域の実情に応じた地域と学校の連携の場の一つとして機能している。


  • ※6 文部科学省所管の補助事業である「学校・家庭・地域の連携協力推進事業」及び「地域の豊かな社会資源を活用した土曜日の教育体制等構築事業」を活用した箇所数である。
  • ※7 なお,保護者や地域の人が学校支援活動に関わることで学校の教育水準の向上に効果があると回答している小・中学校は約90%であるなど,教育面も評価されている(平成25年度 全国学力・学習状況調査より)。
  • ※8 また,こうした活動の効果を示すものとして,東日本大震災の時に,避難所となった宮城県内の中学校で学校支援地域本部が設置されていた学校は自治組織が速やかに組織されるなど,緊急時の分担と協働作業につながった事例もあり,それを契機に,被災した各地において学校支援地域本部の設置が拡大した。

2.地域における学校との連携の課題と新たな関係(連携・協働)

地域における学校との連携の課題

 第2期教育振興基本計画(平成25年6月閣議決定)では,今後取り組むべき具体的方策として,「全ての学校区において,学校支援地域本部や放課後子供教室の取組の実施など,学校と地域が連携・協働する体制が構築されることを目指す」とされており,更なる取組の充実と普及が必要である。
 そのためには,長期に取り組んでいる地域も,始めてまだ数年の地域も,学校支援地域本部等による活動が,学校を核とした地域活動への参画の「最初の一歩」としての役割を果たすことを十分に生かし,まずはしっかりとその活動を定着させることが重要である。
 しかしながら,地域によっては,地域でどのような子供たちを育てていくのか,どのような地域を創っていくのかという目標・ビジョンについての熟議が十分でなく,参画する地域住民や保護者等が一部の限られた者にとどまり,活動内容についても限定的な内容になってしまっていることもある。また,活動に参画する住民は子供たちと接する教育活動に関わることとなるため,地域で子供たちの成長を支えるということを自覚し,学校等の関係者と協力して取り組む姿勢が重要である。
 より多くの,より幅広い層の地域住民の参画を得ながら,活動間の連携・協働を促進することにより,個々の活動の幅を広げることによって初めて,様々な可能性を持つ子供たちの成長を支える地域の活動が真に地域全体としての活動につながっていく。子供たちの成長を支える持続的な活動としていくには,単に学校を支援するという活動を超えて,子供たちの成長のための目標を地域で共有しつつ,様々な活動を全体的に俯瞰(ふかん)して,子供たちの成長にとって地域が果たすことのできる活動を地域と学校が協働しながら実現していくことが必要である。
 そのためには,地域住民自らが,活動実施のための適切なコーディネートを行い,無理なく,できる時に,できる人材が力を結集して効果的に活動できるよう進めていくこと,多くの地域住民の参画を得て学校を核とした地域協働の在り方について熟議・検討することが有効であるが,そのための企画立案,コーディネート機能を発揮する体制の整備が十分に行われている地域はまだ限られている。
 また,それぞれの活動ごとにコーディネートがなされる状況もある。この場合,例えば,放課後の支援活動,学校支援活動,学校と連携した公民館活動等の活動が,それぞれ個別に行われており,それぞれ互いの活動の目標や,主に参画している関係者等の情報の共有等について,必ずしも連携が十分でなく,調整ができていないことによる地域人材や活動機会,場所の偏り,不足等の場合が生じている。さらに,コーディネート機能の大部分を特定の個人に依存し,結果として,持続可能な体制が作られていない場合が多いことも課題である。

地域における学校との新たな関係(連携・協働)への発展

 学校支援地域本部については,当初からの事業の目的(※9)として,「多様な教育機会やきめ細かな教育の実現,教員の負担軽減による子どもと向き合う時間の確保」,「生涯学習社会の実現のため,地域住民自らの知識や経験を生かす場の拡充」,「地域の教育力の向上のため,学校を核とした地域の活性化」といったものがある。
 このうち,各地域における取組の開始当初,まずは地域住民の参画を得るため,登下校の見守りやドリルの丸付け等の授業補助等の,比較的容易に地域住民が参画できる内容から始めた地域が多く,そのような取組を通じて学校と地域の関係構築につながるなど,一定の成果を上げてきたことは評価されるものであり,今後も学校支援活動や放課後や土曜日の学習支援等の様々な取組を継続していくことが必要である。
 一方で,依然として地域から学校への一方向の活動内容にとどまっている場合もあり,子供たちと住民が共に活動することで地域の教育力の向上や地域の振興にもつながるという意識は必ずしも十分ではなく,地域の活性化に向けた取組はなお発展途上にあるという課題が挙げられる。
 また,10年以上の取組を経ても,地域と学校の連携・協働により取り組むべき課題である,次代を担う子供たちに求められる「生きる力」の育成に向けて地域住民等がより主体的に参画していくこと,活動を通じて地域の振興・再生につなげていくという,持続可能な地域づくりには至っていない地域が少なくない状況にある。
 既に述べたとおり,学校や地域が抱える複雑化・多様化した現代的課題に社会総掛かりで対応するには,いわゆる「教育は学校の役割」といった固定化された観念から離れ,子供たちの成長に対する責任を社会的に分担し,学校における「社会に開かれた教育課程」の実現に向けて,地域住民等がそのパートナーとして子供たちの成長を支える活動に,より主体的に参画するとともに,教育課程の内外の活動の中で地域住民等が持続可能な地域社会の創生につなげていくため,地域における学校との関係を新たな関係(連携・協働)に発展させていくことが必要である。


  • ※9 「学校支援地域本部事業」は,平成20年度から国の委託事業として取組を開始。平成21年度からは,国と地方公共団体の分担による補助事業(「学校・家庭・地域の連携協力推進事業」)における取組の一つとして実施されている。

お問合せ先

初等中等教育局初等中等教育企画課教育制度改革室

(初等中等教育局初等中等教育企画課教育制度改革室)

-- 登録:平成28年01月 --