学校週5日制への移行,少子化の進展とも併せて,学校・家庭・地域社会の相互の連携が重要になってきており,地域における学校との連携に関しては,これまで主に以下のような取組が行われてきている。
平成27年度,地域が学校と連携して行う様々な活動は,学校支援活動を行っている学校支援地域本部が,公立小・中学校のうち約9,600校で実施,放課後等に地域住民等の参画により,子供たちに学習支援や様々な体験活動の機会を提供する放課後子供教室が公立小学校で約14,100教室実施されている。また,地域の人材・企業等の協力を得て行われる土曜日の教育支援活動が,公立小・中・高等学校のうち約10,000校で実施されている(※6)。
これらについては,取組が始まって10年以上が経過しており,その顕著な成果としては,例えば,登下校の見守り,花壇整備といった,地域住民にとっても比較的参画しやすい学校支援活動を通じて,地域の大人たちが,学校という場で子供たちに寄り添い,成長を支える「最初の一歩」となる活動として定着してきていることが挙げられる。地域によっては,その後,より多くのボランティアの参画を得て,より組織的な取組へと発展しながら,活動の充実につながってきているところもある。
また,こうした様々な活動への長期の参画を経て,その間に構築した学校との信頼関係や,地域における人的ネットワークを活用して,特定の取組に参画するボランティアの一員から,学校を核とした地域活動の企画,連絡調整,人員配置等の調整を行うコーディネーター役を務めるに至るケースも次第に増えてきている(※7)。
また,コーディネーター等の企画調整により,学校支援活動を各学校ごとだけでなく,幼稚園と小学校,小学校と中学校が連携して中学校区全体の活動とすることで,幼稚園・小学校の連携,小学校・中学校の連携も進展してきている事例もある。
これらのそれぞれにおける活動や,その活動の長期にわたる蓄積等を通じて,参画するボランティアやコーディネーターに,地域の高齢者や子育て経験者をはじめとする一層多様な人材の参画が得られるようになってきた地域もあり,子供たちに多様性のある豊かな学習や体験活動を行う取組が全国各地で広まりつつある(※8)。また,地域によっては,こうした取組が始まる以前から,公民館等の社会教育施設により,長年にわたり社会教育活動を通じた地域の活性化のための諸活動が進められてきており,このような活動が,地域における学校支援活動等の円滑なスタートや,その後の速やかな定着につながっている。このような公民館等の社会教育施設による活動は,現在においても,地域の実情に応じた地域と学校の連携の場の一つとして機能している。
第2期教育振興基本計画(平成25年6月閣議決定)では,今後取り組むべき具体的方策として,「全ての学校区において,学校支援地域本部や放課後子供教室の取組の実施など,学校と地域が連携・協働する体制が構築されることを目指す」とされており,更なる取組の充実と普及が必要である。
そのためには,長期に取り組んでいる地域も,始めてまだ数年の地域も,学校支援地域本部等による活動が,学校を核とした地域活動への参画の「最初の一歩」としての役割を果たすことを十分に生かし,まずはしっかりとその活動を定着させることが重要である。
しかしながら,地域によっては,地域でどのような子供たちを育てていくのか,どのような地域を創っていくのかという目標・ビジョンについての熟議が十分でなく,参画する地域住民や保護者等が一部の限られた者にとどまり,活動内容についても限定的な内容になってしまっていることもある。また,活動に参画する住民は子供たちと接する教育活動に関わることとなるため,地域で子供たちの成長を支えるということを自覚し,学校等の関係者と協力して取り組む姿勢が重要である。
より多くの,より幅広い層の地域住民の参画を得ながら,活動間の連携・協働を促進することにより,個々の活動の幅を広げることによって初めて,様々な可能性を持つ子供たちの成長を支える地域の活動が真に地域全体としての活動につながっていく。子供たちの成長を支える持続的な活動としていくには,単に学校を支援するという活動を超えて,子供たちの成長のための目標を地域で共有しつつ,様々な活動を全体的に俯瞰(ふかん)して,子供たちの成長にとって地域が果たすことのできる活動を地域と学校が協働しながら実現していくことが必要である。
そのためには,地域住民自らが,活動実施のための適切なコーディネートを行い,無理なく,できる時に,できる人材が力を結集して効果的に活動できるよう進めていくこと,多くの地域住民の参画を得て学校を核とした地域協働の在り方について熟議・検討することが有効であるが,そのための企画立案,コーディネート機能を発揮する体制の整備が十分に行われている地域はまだ限られている。
また,それぞれの活動ごとにコーディネートがなされる状況もある。この場合,例えば,放課後の支援活動,学校支援活動,学校と連携した公民館活動等の活動が,それぞれ個別に行われており,それぞれ互いの活動の目標や,主に参画している関係者等の情報の共有等について,必ずしも連携が十分でなく,調整ができていないことによる地域人材や活動機会,場所の偏り,不足等の場合が生じている。さらに,コーディネート機能の大部分を特定の個人に依存し,結果として,持続可能な体制が作られていない場合が多いことも課題である。
学校支援地域本部については,当初からの事業の目的(※9)として,「多様な教育機会やきめ細かな教育の実現,教員の負担軽減による子どもと向き合う時間の確保」,「生涯学習社会の実現のため,地域住民自らの知識や経験を生かす場の拡充」,「地域の教育力の向上のため,学校を核とした地域の活性化」といったものがある。
このうち,各地域における取組の開始当初,まずは地域住民の参画を得るため,登下校の見守りやドリルの丸付け等の授業補助等の,比較的容易に地域住民が参画できる内容から始めた地域が多く,そのような取組を通じて学校と地域の関係構築につながるなど,一定の成果を上げてきたことは評価されるものであり,今後も学校支援活動や放課後や土曜日の学習支援等の様々な取組を継続していくことが必要である。
一方で,依然として地域から学校への一方向の活動内容にとどまっている場合もあり,子供たちと住民が共に活動することで地域の教育力の向上や地域の振興にもつながるという意識は必ずしも十分ではなく,地域の活性化に向けた取組はなお発展途上にあるという課題が挙げられる。
また,10年以上の取組を経ても,地域と学校の連携・協働により取り組むべき課題である,次代を担う子供たちに求められる「生きる力」の育成に向けて地域住民等がより主体的に参画していくこと,活動を通じて地域の振興・再生につなげていくという,持続可能な地域づくりには至っていない地域が少なくない状況にある。
既に述べたとおり,学校や地域が抱える複雑化・多様化した現代的課題に社会総掛かりで対応するには,いわゆる「教育は学校の役割」といった固定化された観念から離れ,子供たちの成長に対する責任を社会的に分担し,学校における「社会に開かれた教育課程」の実現に向けて,地域住民等がそのパートナーとして子供たちの成長を支える活動に,より主体的に参画するとともに,教育課程の内外の活動の中で地域住民等が持続可能な地域社会の創生につなげていくため,地域における学校との関係を新たな関係(連携・協働)に発展させていくことが必要である。
初等中等教育局初等中等教育企画課教育制度改革室
-- 登録:平成28年01月 --