1.「チームとしての学校」が求められる背景

 我が国の教員は,学習指導や生徒指導等まで幅広い職務を担い,子供たちの状況を総合的に把握して指導を行っている。このような取組は高く評価されてきており,国際的に見ても高い成果を上げている。
 しかし,子供たちが今後,変化の激しい社会の中で生きていくためには,時代の変化に対応して,子供たちに様々な力を身に付けさせることが求められており,これからもたゆまぬ教育水準の向上が必要である。そのためには,教育課程の改善のみならず,それを実現する学校の体制整備が不可欠である。
 平成27年8月に取りまとめられた「教育課程企画特別部会 論点整理」(以下「論点整理」という。)によると,子供たちに,必要な資質・能力を育むためには,学校が,社会や世界と接点を持ちつつ,多様な人々とつながりを保ちながら学ぶことができる開かれた環境となることが不可欠であり,これからの教育課程には,教育が普遍的に目指す根幹を堅持しつつ,社会の変化に目を向け,柔軟に受け止めていく「社会に開かれた教育課程」としての役割が期待されている。この理念を実現していくためには,各学校において,「アクティブ・ラーニング」の視点を踏まえた指導方法の不断の見直し等による授業改善と「カリキュラム・マネジメント」を通した組織運営の改善に一体的に取り組むことが重要である。
 さらに,コミュニティ・スクール(学校運営協議会制度)や様々な地域人材等との連携・協働を通して,保護者や地域の人々を巻き込み教育活動を充実させていくことも求められている。
 その一方で,社会や経済の変化に伴い,子供や家庭,地域社会も変容し,生徒指導や特別支援教育等に関わる課題が複雑化・多様化しており,学校や教員だけでは,十分に解決することができない課題も増えている。
 また,我が国の学校や教員は,欧米諸国の学校と比較すると,多くの役割を担うことを求められているが,これには子供に対して総合的に指導を行うという利点がある反面,役割や業務を際限なく担うことにもつながりかねないという側面がある。国際調査においても,我が国の教員は,幅広い業務を担い,労働時間も長いという結果が出ている。
 以上のような状況に対応していくためには,個々の教員が個別に教育活動に取り組むのではなく,校長のリーダーシップの下,学校のマネジメントを強化し,組織として教育活動に取り組む体制を創り上げるとともに,必要な指導体制を整備することが必要である。その上で,生徒指導や特別支援教育等を充実していくために,学校や教員が心理や福祉等の専門家(専門スタッフ)や専門機関と連携・分担する体制を整備し,学校の機能を強化していくことが重要である。
 このような「チームとしての学校」の体制を整備することによって,教職員一人一人が,自らの専門性を発揮するとともに,専門スタッフ等の参画を得て,課題の解決に求められる専門性や経験を補い,子供たちの教育活動を充実していくことが期待できる。

(1)新しい時代に求められる資質・能力を育む教育課程を実現するための体制整備

我が国の学校の特徴

 我が国の教員は,学習指導,生徒指導等,幅広い業務を担い,子供たちの状況を総合的に把握して指導し,高い成果を上げてきた。
 近年においては,平成20年及び平成21年に行われた学習指導要領(※1)の改訂等を受けて,各教育委員会,各学校では,学力向上等の取組が行われており,その成果は,近年,改善傾向にある国内外の学力調査の結果にも表れている(※2)。


  • ※1 我が国の学校の教育課程の基準となる学習指導要領等については,これまでも時代の変化や子供たちの実態,社会の要請等を踏まえ,改訂されてきた。平成20年及び平成21年に行われた改訂では,教育基本法の改正によって明確となった教育の理念を踏まえ,子供たちの「生きる力」の育成をより一層重視する観点から見直しが行われた。特に,学力については,「基礎的な知識及び技能」,「思考力,判断力,表現力」及び「主体的に学習に取り組む態度」の,いわゆる学力の三要素から構成される「確かな学力」をバランス良く育てることを目指し,教育目標や内容が見直されるとともに,学級やグループで話し合い発表し合うなどの言語活動や,各教科等における探究的な学習活動等を重視することとされた。
  • ※2 例えば,平成24年(2012年)のOECD生徒の学習到達度調査(PISA)では,我が国は,読解力,科学リテラシーの分野で調査開始以降,初めてOECD諸国中トップに,数学的リテラシーもOECD諸国中2位になるなど,過去最高の結果となった。また,習熟度レベル別でも,平成21年(2009年)調査から引き続き,レベル1以下の下位層の割合が減少し,レベル5以上の上位層の割合が増加している。その要因は,基礎的・基本的な知識・技能や思考力・判断力・表現力など確かな学力を育成するための取組の成果が現れてきたものと考えられる。

我が国の子供たちの課題

 その一方で,我が国の子供たちの課題としては,例えば,判断の根拠や理由を示しながら自分の考えを述べることについて弱い面があることや,自己肯定感や学習意欲,社会参画の意識等が国際的に見て低いことなどが指摘されており,新しい時代の子供たちに必要な資質・能力を育むために,教育活動を更に充実し,子供の自信を育み能力を引き出すことが求められている。
 また,成熟した現代社会において,新たな価値を創造していくためには,一人一人が互いの異なる背景を尊重し,それぞれが多様な経験を重ねながら,様々な得意分野の能力を伸ばしていくことが,これまで以上に強く求められている。
 このような子供たちの課題や,グローバル化,情報通信技術の進展など今後の社会の変化も見据え,自立した人間として,他者と協働しながら,新しい価値を創造する力を育成する観点から求められる資質・能力について,本審議会は,平成26年11月,「初等中等教育における教育課程の基準等の在り方について」諮問を受け,現在,教育課程部会で検討が進められているところであり,平成27年8月には,「論点整理」が取りまとめられた。

社会に開かれた教育課程

 「論点整理」では,学校教育において育むべき資質・能力(※3)を育むためには,学校が社会や世界と接点を持ちつつ,多様な人々とつながりを保ちながら守ることができる,開かれた環境となることが不可欠であると示されている。
 また,そのためには,学校生活の核となる教育課程には,社会の変化に向け,教育が普遍的に目指す根幹を堅持しつつ,社会の変化を柔軟に受け止めていく「社会に開かれた教育課程」(※4)としての役割が期待されているとされている。
 論点整理で示された,このような「社会に開かれた教育課程」を実現するためには,学校の組織や文化の在り方を見直し,コミュニティ・スクールや多様な専門性や経験を持つ地域人材等と連携・協働して家庭や地域社会を巻き込み,教育活動を充実していくことが大切である。
 例えば,平成27年6月に公職選挙法が改正され,選挙権年齢が18歳以上に引き下げられることとなり,大学や高等学校を中心に,主権者としての教育の充実が求められているが,学校だけで取り組むのではなく,都道府県の選挙管理委員会等の関係機関や,家庭,地域社会の様々な人材と連携して取組を充実させることが求められている。


  • ※3 「論点整理」においては,育成すべき資質・能力を,1)「何を知っているか,何ができるか(個別の知識・技能)」,2)「知っていること・できることをどう使うか(思考力・判断力・表現力等)」,3)「どのように社会・世界と関わり,より良い人生を送るか(学びに向かう力,人間性等)」の三つの柱で整理することが考えられるとしている。
  • ※4 「論点整理」においては,「社会に開かれた教育課程」として,次の点が重要になるとしている。
    • 1.社会や世界の状況を幅広く視野に入れ,よりよい学校教育を通じてよりよい社会を創るという目標を持ち,教育課程を介してその目標を社会と共有していくこと
    • 2.これからの社会を創り出していく子供たちが,社会や世界に向き合い関わり合い,自らの人生を切り拓いていくために求められる資質・能力とは何かを,教育課程において明確化し育んでいくこと
    • 3.教育課程の実施に当たって,地域の人的・物的資源を活用したり,放課後や土曜日等を活用した社会教育との連携を図ったりし,学校教育を学校内に閉じずに,その目指すところを社会と共有・連携しながら実現させること

指導方法の不断の改善

 さらに,論点整理においては,上記の育成すべき資質・能力を育むためには,

  • 習得・活用・探究という学習プロセスの中で,問題発見・解決を念頭に置いた深い学びの過程が実現できているかどうか
  • 他者との協働や外界との相互作用を通じて,自らの考えを広げ深める,対話的な学びの過程が実現できているかどうか
  • 子供たちが見通しを持って粘り強く取り組み,自らの学習活動を振り返って次につなげる,主体的な学びの過程が実現できているかどうか

 といったアクティブ・ラーニングの視点から,子供たちの変化等を踏まえて,自ら指導方法を不断に見直し,改善していくことが必要であると示されている。
 そのためには,教員一人一人が,子供たちの発達の段階や発達の特性,子供の学習スタイルの多様性や教育的ニーズと教科等の学習内容,単元の構成や学習の場面等に応じた方法について研究を重ね,一人一人の子供の特性に応じたふさわしい方法を選択しながら,工夫して実践できるようにすることが重要であり,そのためには,教員が授業準備や教材研究,学校内外での研修等に参加するための十分な時間を確保していくことが,今まで以上に必要である。

カリキュラム・マネジメントの推進

 また,「論点整理」においては,学習指導要領の次期改訂が目指す理念を実現するためには,教育課程全体を通した取組を通じて,教科横断的な視点から教育活動の改善を行っていくことや,学校全体としての取組を通じて,教科等や学年を超えた組織運営の改善を行っていくことが求められているとしており,教育活動や組織運営など,学校全体の在り方の改善において核となる教育課程の編成,実施,評価及び改善という「カリキュラム・マネジメント」の確立が必要であることが示されている。
 こうしたカリキュラム・マネジメントは,次のような側面から捉えることができる。

  • 各教科等の教育内容を相互の関係で捉え,学校の教育目標を踏まえた教科横断的な視点で,その目標の達成に必要な教育の内容を組織的に配列していくこと。
  • 教育内容の質の向上に向けて,子供たちの姿や地域の現状等に関する調査や各種データ等に基づき,教育課程を編成し,実施し,評価して改善を図る一連のPDCAサイクルを確立すること。
  • 教育内容と,教育活動に必要な人的・物的資源等を,地域等の外部の資源も含めて活用しながら効果的に組み合わせること。

 このような「カリキュラム・マネジメント」を学校で実現していくためには,まず,カリキュラム・マネジメントについて,管理職も含めた全ての教職員がその必要性を理解し,子供や地域の実態等と指導内容を照らし合わせ,学年単位や学級単位,教科単位に陥りがちな学校運営ではなく,学校単位で教育活動をまとめることができるようなマネジメントに係る体制を整えていくことが大切である。
 あわせて,教員が,自分の授業やその授業準備だけで手一杯となるのではなく,学年全体,教科全体,そして学校全体を見渡して,授業を構想できるような場や時間することである。そのためには,必要な教職員定数の確保や,職員室で議論できるような雰囲気や場所の確保が求められる。
 さらに,教員だけでなく,保護者や地域住民その他の関係者が,それぞれの立場や役割に応じて,学校が抱える様々な課題に前向きに取り組んでいく学校文化を構築し,教育活動を推進していくことも重要である。

(2)複雑化・多様化した課題を解決するための体制整備

学校が抱える課題の複雑化・困難化

 その一方で,社会や経済の変化は,子供や家庭,地域社会にも影響を与えており,学校が抱える課題は,生徒指導上の課題(※5)や特別支援教育の充実(※6)など,より複雑化・困難化し,心理や福祉など教育以外の高い専門性が求められるような事案も増えてきており,教員だけで対応することが,質的な面でも量的な面でも難しくなってきている。
 このように学校が抱える課題に複雑化・困難化をもたらした社会や経済等の変化としては,都市化・過疎化の進行,家族形態の変容,価値観やライフスタイルの多様化,地域社会等のつながりの希薄化や地域住民の支え合いによるセーフティネット機能の低下などが考えられる。また,情報技術の発展により,各種の情報機器が子供たちの間でも広く使われるようになり,人間関係の在り様が変化してきていることもある。
 さらに,我が国の子供の貧困の状況が先進国の中でも厳しいということも明らかになっており(※7),学校における対応が求められている。
 昨年度,新たに決定された「子供の貧困対策に関する大綱(平成26年8月29日閣議決定)」では,学校を子供の貧困対策のプラットフォームと位置付けて総合的に対策を推進することとされており,学校は福祉関連機関との連携の窓口となることが想定されている。
 また,「一億総活躍社会」の実現が政府の課題となっている。この課題を達成するに当たり,将来にわたって,全ての国民が活躍していくためには,一定水準以上の教育の機会が確保され,それぞれが持っている力を発揮できるような素地を作っていくことが不可欠であり,今まで以上に,一人一人の子供に時間と手間をかけて,個に応じた重点的な学習指導や分かる授業の充実により学力を保障していくことが求められている。


  • ※5 生徒指導の面では,平成26年度の小学校における暴力行為が調査開始以降最多の11,468件と増加傾向にあるほか,小・中学校の不登校児童生徒数も増加傾向にあり,特に小学校の不登校児童の割合が調査開始以降最多の0.39%となった。
  • ※6 特別支援教育の面では,特別支援学校や特別支援学級の在籍者,通級による指導を受けている児童生徒等,特別支援教育の対象となる児童生徒数は,近年増加傾向にあり,一人一人の教育的ニーズに応じたきめ細かな支援が必要となっている。
  • ※7 子供の貧困率16.3%(2012年厚生労働省)(2010年OECD加盟34か国中25位)(OECD(2014)データ※日本の数値は2009年15.7%)

生徒指導上の課題解決のための「チームとしての学校」の必要性

 学校が,より困難度を増している生徒指導上の課題に対応していくためには,教職員が心理や福祉などの専門家や関係機関,地域と連携し,チームとして課題解決に取り組むことが必要である。
 例えば,子供たちの問題行動の背景には,多くの場合,子供たちの心の問題とともに,家庭,友人関係,地域,学校など子供たちの置かれている環境の問題があり,子供たちの問題と環境の問題は複雑に絡み合っていることから,単に子供たちの問題行動のみに着目して対応するだけでは,問題はなかなか解決できない。学校現場で,より効果的に対応していくためには,教員に加えて,心理の専門家であるカウンセラーや福祉の専門家であるソーシャルワーカーを活用し,子供たちの様々な情報を整理統合し,アセスメントやプランニングをした上で,教職員がチームで,問題を抱えた子供たちの支援を行うことが重要である。
 さらに,いじめなど,児童生徒の生命・身体や教育を受ける権利を脅かすような重大事案においては,校内の情報共有や,専門機関との連携が不足し,子供のSOSが見過ごされていることがある。校長のリーダーシップの下,チームを構成する個々人がそれぞれの立場や役割を認識しつつ,情報を共有し,課題に対応していく必要がある。

特別支援教育の充実のための「チームとしての学校」の必要性

 特別支援教育の充実のためにも,医療の専門家等との連携が求められている。公立小・中学校で通級による指導を受けている児童生徒や日常的にたんの吸引や経管栄養等のいわゆる「医療的ケア」を必要とする児童生徒の数は,年々増加傾向にある。また,通常学級に在籍する児童生徒のうち,発達障害の可能性があり,特別な教育的支援を必要とする児童生徒は,約6.5%という調査結果も出ている。
 このような状況で,学級担任が単独で授業を行い,特別な教育的支援を必要とする児童生徒の個々の教育的ニーズに応じた適切な指導や必要な支援を全て行うことは難しい。
 特別な教育的支援を必要とする児童生徒を直接又は間接的に支援する職員や,高度化,複雑化した医療的ケアに対応できる看護師等を配置し,教職員がチームで,質の高い教育活動を提供していく必要がある。
 いずれの場合であっても,重要なことは,生徒指導上の課題や特別支援教育の充実等の課題は,限られた子供たちだけの問題ではないということである。教職員が心理や福祉,医療等の専門家等と連携して,複雑化・困難化した課題を解決することによって,学級全体,学校全体が落ち着き,大きな教育的効果につながっていることが多い。

新たな教育課題への対応

 さらに,学校が抱える課題は,複雑化・困難化するだけでなく,拡大し,多様化している。既に(1)「新しい時代に求められる資質・能力を育む教育課程を実現するための体制整備」で記したような,新たな教育課題への対応が求められていることに加え,例えば保護者や地域住民の期待に応えるため,土曜日の教育活動への取組や通学路の安全確保対策,感染症やアレルギー対策のような新しい健康問題への対策も求められている。
 また,帰国・外国人児童生徒等(※8)の増加や母語の多様化,学校への在籍における散在化,集住化が進展していることを踏まえ,国内の学校生活への円滑な適応や日本語指導などについて,個々の児童生徒の状況に応じたきめ細かな指導を行うための体制整備を推進していくことも必要とされている。


  • ※8 平成25年4月1日から26年3月31日までの1年間で,海外に1年以上在留した後に帰国した児童生徒は,公立の小学校,中学校,高等学校及び中等教育学校に8,679人在籍している。また,公立学校に在籍する外国人児童生徒は,26年5月1日現在,73,289人で,このうち,日本語指導が必要な外国人児童生徒は29,198人であり,24年度と比べて2,185人増加している。さらに,日本語指導が必要な日本国籍の児童生徒は7,897人であり,24年度と比べて1,726人増加している。

(3)子供と向き合う時間の確保等のための体制整備

我が国の学校や教員の業務実態

 これまでの文部科学省やOECD等の調査によると,我が国の教員は,授業に関する業務が大半を占めている欧米の教員と比較すると,授業に加え生徒指導,部活動など様々な業務を行っていることが明らかとなっており,勤務時間も,国際的に見て長いという結果が出ている。
 具体的には,文部科学省が平成18年度に実施した教員勤務実態調査において,教諭の残業時間は,一月当たり,約42時間という結果が出ている。昭和41年度の調査では,約8時間であったことから,大幅に増加している。昭和41年度と平成18年度を比較すると,生徒指導や学校経営に係る業務や事務的な業務が増加している。
 国際的な比較として,平成26年に6月に公表されたOECD国際教員指導環境調査(以下,「TALIS」)(※9)では,日本の教員の1週間当たりの勤務時間は参加国中で最長となっている。勤務時間の内訳を見ると,授業時間は参加国平均と同程度であるが,課外活動(スポーツ・文化活動)の指導時間が長く,事務業務の時間も長いという結果が出ている。
 また,TALISでは,日本の教員は研修のニーズが高いが,研修参加の妨げとして,業務スケジュールが合わないことを挙げる教員が多く,多忙であるため研修に参加が困難な状況にあることが明らかになっている。


  • ※9 学校の学習環境と教員の勤務環境に焦点を当てた国際調査(調査時期は平成25年(2013年)2月中旬~3月中旬)。調査対象は,中学校及び中等教育学校前期課程の校長及び教員であり,1か国につき200校,1校につき教員(非正規教員を含む)20名を抽出。日本の参加状況は,全国192校,各校約20名(校長192名,教員3,521名)。国公私立の内訳(参加校に所属する総教員数における割合)は,国公立校が約90%,私立が約10%。

学校種や学校の規模による違い

 学校の業務の状況は,学校種や学校の規模等によっても異なる。
 例えば,文部科学省の学校教員統計調査(平成25年度)によると,授業に係る担任授業時数は,授業担任をしている教諭の週当たりの担任授業時数は,小学校で24.5(単位時間),中学校で17.9(単位時間),高等学校で15.4(単位時間)となっている。
 小学校は,学級担任制であることから担任授業時数が多くなっているが,昼休みも給食指導を行ったり,休憩時間も児童と一緒に活動したりするなど,児童在校中は,校務や授業準備を行う時間をとることは難しい状況にある。
 それに対して,中学校,高等学校は,教科担任制であり,教科により担任授業時数が異なっているが,小学校と比較すると,補習授業や部活動に関わる時間が長くなっている。
 授業に加えて,教員は,それぞれ校務分掌に係る業務を担っている。校務分掌は,学校種によっても異なり,また,個別の学校でも異なるが,多くの学校では,

  • 担任としての業務や同じ学年団としての業務,
  • 教務部,生徒指導部など,担当主任と部に所属する教員で構成される組織に関わる業務,
  • 防災委員会,いじめ防止委員会など,管理職と関係教職員で構成される組織に関わる業務,
  • PTAや地域との連携に関わる業務

 等を教職員が分担して担っている。
 校務分掌は,教職員のOJTとしても重要な機会であるが,比較的規模の小さい学校では,一人の教員が多くの分掌業務を兼ねて担わざるを得ない状況が見られる。

我が国の学校の教職員構造

 教職員総数に占める教員以外のスタッフの割合は,日本が約18%であるのに対して,米国が約44%,英国が約49%となっているなど,諸外国と比較した我が国の学校の教職員構造は,教員以外のスタッフの配置が少ない状況にあると考えられる(※10)。この調査結果から,我が国の教員は,多くの業務を担わざるを得ない状況になっていることがうかがえる。
 教員が子供と向き合う時間を十分に確保するため,教員に加えて,事務職員や,心理や福祉等の専門家等が教育活動や学校運営に参画し,連携,分担して校務を担う体制を整備することが重要である。
 特に,副校長・教頭は,学校内外の複雑な調整業務を中心的に担うとともに,各種調査依頼への対応等や,学校内のどの分掌や委員会にも属さない業務を担うなどしている。教職員等がチームとして機能するための調整役として,副校長・教頭の役割は大きく,副校長・教頭の勤務状況を改善することは,学校全体の機能が大きく改善することにつながる。


  • ※10 各数値は,日本は文部科学省「学校基本統計報告書」(平成25年度),米国は”Digest of Education Statistics  2012”,英国は”School Workforce in England November 2013”から引用。

「チームとしての学校」の必要性

 以上のような状況に対応していくためには,個々の教員が個別に教育活動に取り組むのではなく,学校のマネジメントを強化し,組織として教育活動に取り組む体制を創り上げるとともに,必要な指導体制を整備することが必要である。
 その上で,生徒指導や特別支援教育等の充実を図るために,学校や教員が,心理や福祉等の専門家(以下「専門スタッフ」(※11)という。)や専門機関と連携・分担(※12)する体制を整備し,学校の機能を強化していくことが重要である。
 このような「チームとしての学校」の体制を整備することによって,教職員一人一人が自らの専門性を発揮するとともに,心理や福祉等の専門スタッフの参画を得て,課題の解決に求められる専門性や経験を補い,教育活動を充実していくことが期待できる。


  • ※11 本答申(案)では,子供たちへの指導を充実するために,専門的な能力や経験等を生かして,教員と連携・分担し,教員とともに教育活動に当たる人材のことを「専門スタッフ」という。専門スタッフは「チームとしての学校」の一員として,学校全体や子供たちの状況に関心を持ち,教員の職務を理解して,必要に応じて柔軟に業務を担うことができる者を想定している。
  • ※12 本答申(案)では,「連携・分担」と「連携・協働」について,基本的に,以下のような意味で用いている。
    • 「連携・分担」は,校長の指揮監督の下,権限や責任が分配されている教職員や専門スタッフとの間の関係など,学校内の職員間の関係に用いる。
    • 「連携・協働」は,学校と家庭や地域との間の関係や,学校と警察,消防,保健所,児童相談所等の関係機関との間の関係など,学校と学校から独立した組織や機関との関係に用いる。
    • 「連携・分担」と「連携・協働」の双方が含まれる場合は,まとめて「連携・協働」として表現する。
      なお,辞書では,以下のとおり記述されている(広辞苑第六版)。
      • 連携:同じ目的を持つ者が互いに連絡をとり,協力し合って物事を行うこと。
      • 分担:分けて負担すること。一つのことを分けて受け持つこと。
      • 協働:協力して働くこと。

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