資料2‐5 「学び続ける」社会、全員参加型社会、地方創生を実現する教育の在り方について(第六次提言)

平成27年3月4日
教育再生実行会議

はじめに

100年先を見据えた新たな教育の在り方 ~教育再生実行会議第2段階の検討課題~

 教育再生実行会議では、平成25年1月の発足以降、これまで五次にわたり、提言を行ってきました。これらは、我が国が直面する教育課題について早急に対処、解決すべきことを主題として提言したものであり、いじめ防止対策推進法の制定、教育委員会制度改革、大学ガバナンス改革のための関係法律の改正など、着実に実行に移されてきています。
 しかし、その一方で、急速な経済社会の構造変化を背景に、近代工業化社会を支えてきたこれまでの教育が、21世紀、22世紀に求められる人材育成に適合するのかどうか、どのような改革が必要であるのか、本質的な議論が求められています。これまでの成功体験は、今後の新たな時代状況においては、改革への足かせになりかねないからです。
 そこで、教育再生実行会議では、これからの時代に求められるリーダーシップや創造力を備え、主体的に課題を発見・解決し、国内外で活躍できる意欲ある人材をいかに育成するか、明治以来の教育から転換するための根本まで遡った議論を行うとともに、第五次提言でも述べた教育投資の在り方や教育財源の確保について、更なる議論の深掘りを行うため、昨年9月、3つの分科会を立ち上げました。
 第1分科会では、これからの時代に求められる能力を飛躍的に高めるための教育の革新、第2分科会では、生涯現役・全員参加型社会の実現や地方創生のための教育の在り方、第3分科会では、教育立国実現のための教育財源など教育行財政の在り方について検討を行うこととし、教育再生実行会議の委員が各分科会へ分属するとともに、それぞれに新たに分科会委員が加わり、議論を重ねてきました。
 今般、このうち、第2分科会において検討されてきた課題について、教育再生実行会議における議論も経て、第六次提言として取りまとめました。
 教育再生は道半ばです。教育再生実行会議では、引き続き、これまでの提言内容が教育現場に浸透し、現実の教育活動に反映されているか、その進捗状況をフォローアップしていくとともに、残された検討課題についても議論を続け、100年先を見据えた抜本的な改革について提言していきます。

社会に出た後も、多様な全ての人が、都市でも地方でも、学び、輝き続ける社会へ~「学び続ける」社会、全員参加型社会、地方創生を実現する教育~

 英国の研究者(※1)の予測によれば、今後10~20年程度で、米国の47%の仕事が自動化される可能性が高いとされています。また、米国の研究者(※2)は、2011年に米国の小学校に入学した子供たちの65%は、大学卒業後、今は存在していない職業に就くと予測しています。この問題提起は、日本でも無縁ではありません。また、現在存在している職業が将来自動化されたり、なくなったりしたときに、それに代わる新たな職業が創り出されるのか、という点については、より詳細な検討が必要であると考えます。経済社会の変化や科学技術イノベーションの進展等により、新たな職業が創り出される可能性もありますが、近い将来には、人工知能の飛躍的な発展により頭脳労働までもがコンピュータにより代替される可能性があり、同じ労働人口に値する新たな職業が創り出されると楽観的に考えることはできません。
 こうしたことを踏まえると、これからの教育の在り方について、二つの側面から考えることが必要です。
 一つは、急速な経済社会の変化に応じて、職業の在り方が様変わりしている中で、生涯を通して社会で活躍していくためには、学校卒業までに身に付けた能力だけでは不十分であり、社会に出た後も、学び続けることにより、新たに必要とされる知識や技術を身に付けていくことが不断に求められるということです。
 もう一つは、働き方の多様化により、フルタイム労働以外の柔軟な雇用形態が増え、また、仕事と生活の調和(ワーク・ライフ・バランス)の進展もあいまって、労働時間の短縮も見込まれる中で、これからは、一人一人が仕事以外の時間をいかに創造的、生産的に過ごすかということが、それぞれの幸せや生きがいにとって重要性を増してくるということです。そうした時間をいかし、更にチャンス・可能性を拡大できるようにすることが重要であり、そのための学びの機会を、いかに社会全体で提供できるかが大きな意味を持ってきます。
 このように考えると、今後、社会に出た後も、誰もが学び続けることができ、その成果を社会でいかし、何歳になっても夢と志のために挑戦することや、一人一人が自己充実感を持って幸福に生きていくことができる社会を実現することが極めて重要となります。これまでのような「教育→労働→(育児→家庭)→老後」といった人生を前提とした教育の在り方は根本的に改める必要があります。
 また、これからの持続的な成長は、現役世代の男性中心の労働だけで支え得るものではなく、年齢や性別、障害の有無、不登校や中退経験の有無、生まれた家庭の経済状況などの環境、さらには都市と地方の違い等を超えて、多様な経歴を持った人々が社会の担い手として能力を発揮できる全員参加型社会の実現によって可能となるものです。
 このような考えの下、国家戦略として、「社会に出た後も、多様な全ての人が、都市でも地方でも、学び、輝き続ける社会」を実現するため、我が国の教育が目指すべき方向性や理念、取り組むべき方策について、以下のとおり、提言します。
 今回の提言は、教育の在り方にとどまらず、我が国社会の在り方にも関わるものであり、また、このような社会の実現は、急激に変化する世界の中で、各国共通の課題でもあります。我が国が「課題解決先進国」として世界にモデルを提示していく上でも、本提言の実現に挑む意義は高く、政府、関係者の真剣な取組を期待します。


  • ※1 カール・ベネディクト・フレイ氏(オックスフォード大学リサーチフェロー)及びマイケル・A・オズボーン氏(同大学准教授)
  • ※2 キャシー・N・デビッドソン氏(ニューヨーク市立大学大学院センター教授)

1.社会に出た後も、誰もが「学び続け」、夢と志のために挑戦できる社会へ

生涯で何度でも、学び中心の期間を持つ人生サイクルを

 高等学校・大学等の卒業までに学んだことで生涯通用する時代は既に過去のものとなった今、教育の在り方について、根本的な認識と仕組みの転換を迫られています。
 これからは、一たび、就職した人や、家庭にいる人も、生涯で何度でも、教育の場に戻って学び中心の期間を持ち、生きがいのための学びを追求することはもとより、知的・人的ネットワークを作り、学びの成果を社会に還元し、再び、新たなステージで活躍するという人生サイクルを実現していくことが不可欠になると考えられます。

大学等を若者中心の学びの場から全世代のための学びの場へ

 現在の教育システムは、基本的には、社会に出たときに必要とされる知識や技術を学校で修得させるもので、これまで有効に機能し、我が国社会の発展を支えてきました。しかし、必要な知識や技術が絶えず変化する、これからの時代には、学校においては、学び続ける意欲や態度はもとより、主体的に知識・技能を修得する方法やそれを活用する方法を身に付けることが重要であり、一人一人が、これを基盤として、その後、社会に出て直面する様々な課題に対応し、学びや考えを深めていけるようにすることが必要です。
 その上で、大学、高等専門学校、専修学校等は、これまでの若者中心の学びの場から、全世代のための学びの場への転換が求められます。また、人生を豊かにする学びに加え、「実学」を重視した教育を提供することや、社会人の働き方が多様化していることに対応し、柔軟に教育を提供していくことも必要です。例えば、職業や育児等と両立しやすい弾力的な履修形態で、社会人のニーズに合ったプログラムを提供するなど多様な学び手のニーズに対応した教育機関になっていくことが必要です。

社会全体で学びを支援

 教育と労働、出産・育児等の間の相互の行き来や両立をより円滑に行える社会に転換していくため、教育行政と労働、福祉行政の連携を強化し、誰もが学び続けやすい環境を整えるとともに、学んだ成果が社会での活躍につながるような切れ目のない支援が不可欠です。このため、行政の縦割りを廃した実効的な体制の構築が必要です。また、産業構造の変化を受け、企業戦略の転換が進む中、円滑な人材移動を実現する観点からも、企業等の理解と支援も不可欠です。
 こうした社会総がかりの取組を通じ、「大学・専門学校等で学び直しをする者や社会人受講者の数について、5年間で倍増(12万人→24万人)」という第三次提言で掲げた目標を達成するとともに、将来にわたって更に「学び続ける」人が増えていくことが期待されます。

社会人の多様なニーズに対応する教育プログラムの充実

  • 大学、専修学校等は、社会人が職業に必要な能力や知識を高める機会を拡大するため、社会人向けのコースの設定等により、社会人や企業のニーズに応じた実践的・専門的な教育プログラムの提供を推進する。国は、こうした取組を支援、促進するとともに、大学等における実践的・専門的なプログラムを認定し、奨励する仕組みを構築する。
  • 大学、専修学校等は、民間企業などの多様な主体の参画の下で社会人教育プログラムを開発・提供する取組を推進する。その際、民間企業・団体や地方公共団体等と連携することにより、就業、起業、地域活動への従事などその後の実社会での活動に結びつくような支援を併せて行う取組も進める。また、国、地方公共団体は、地域や産業界のニーズを踏まえて、専修学校などの教育訓練機関を活用した公的職業訓練を一層推進する。
  • 国は、アスリートの引退後のキャリア形成について企業等とのマッチングや職業能力育成のための研修などの取組への支援を行う。また、現役中から将来を見据えた必要な教育や職業訓練を受ける「デュアルキャリア」の意識をアスリートや指導者が持つよう啓発する取組を支援する。あわせて、これらの支援を一元的に実施できるよう、スポーツ団体、大学、企業、スポーツクラブなどの関係者が一体となってアスリートのキャリア形成を支援する体制(コンソーシアム)を構築する。

学びやすい環境の整備

  • 大学等は、時間的に制約のある社会人がパートタイムで学んだり、在学期間を弾力的にして学んだりすることが可能となるよう、履修証明制度(※3)や科目等履修生制度を活用するなど、仕事等と両立しつつ必要な単位を取得しやすい教育プログラムの提供を進める。また、大学等が提供する履修証明プログラムを受講しやすくなるよう、国は、履修証明制度を柔軟に運用する大学等の取組を推進する。具体的には、大学等が学修の節目で一定の評価を与えたり、インターネットによる学修を取り入れたりするなど柔軟なプログラムを提供する取組を推進する。
  • 社会人が、24時間いつでも学び、キャリアアップを図ることができるよう、大学等は、e-ラーニングを活用した教育プログラムの提供を推進する。特に、放送大学において、資格関連科目の増設や、オンライン授業科目の開設、スマートフォン等での視聴への対応等を行う。また、単位互換制度の活用を通じた他の大学等への多様な科目の提供を進めるとともに、更なる学習者への支援策について検討を行う。
  • 国は、大学、専修学校等で、社会人が産業界のニーズに対応した実践的・専門的な学びを行う際の受講料等の経済的支援を充実する。このため、日本学生支援機構の無利子奨学金について、以前に貸与を受けたことがある社会人等の再貸与を可能とすることや、教育訓練給付金制度について、専門学校の職業実践専門課程(※4)や専門職大学院を対象とすることなどの措置が講じられており、これらの活用を推進する。また、社会人等のニーズに合った更なる方策を検討し、支援の充実を図る。
  • 国は、大学等の学修に加え、大学等の公開講座、各種の検定試験、通信教育など個々人が学んだ成果を蓄積し、その後の就業や更なる学修にいかせるような学習成果の評価・活用の仕組みや、それらが社会的に認められるようにその質、内容を保証する仕組みを構築する。例えば、ICTを活用し、学習履歴を記録し、活用できる基盤となるような仕組みを整備する。

  • ※3 大学等において、主に社会人向けに、120時間以上の体系的な知識・技術等の習得を目指した教育プログラムを編成し、これを修了した者に対し、学校教育法に基づいて修了の事実を証明する「履修証明書」を交付する制度。平成19年度から実施されており、平成24年度において72大学が136プログラムを提供している。
  • ※4 専門学校において、職業に必要な実践的かつ専門的な能力を育成することを目的とし、専攻分野における実務に関する知識、技術及び技能について組織的な教育を行うものとして、文部科学大臣が認定する課程。平成26年度から実施されており、673校、2,042学科(平成27年2月17日現在)が認定を受けている。(参考:平成26年度における専門学校の学校数・学科数は、2,814校、8,166学科)

教育行政と労働、福祉行政の連携強化

  • 産業構造、就業構造の変化に伴い、社会人が学び続けやすい環境の整備や、社会経済の変化を踏まえた教育内容、方法の改善充実、若者・女性・高齢者の就業支援等について、文部科学省と厚生労働省が中長期的視野で検討する場を設けるなど、教育行政と労働、福祉行政の一層の連携強化を図る。
  • その中で、事業主の協力も得て、社会人が、新たな知識・技能を身に付けるために、一旦仕事を離れ、あるいは、仕事と両立しながら学んだり、子育てや介護に従事中やそれを終えた後も学び続けたりできるようにするための支援策などの条件整備についても検討し、何歳になっても自らを磨き、新たな挑戦をすることが真に可能となるための実効的な取組を進める。

2.多様な人材が担い手となる「全員参加型社会」へ

多様性(ダイバーシティ)を認め合う社会へ

 我が国社会は、明治以来、欧米に効率的に追いつくことを追求し、発展してきましたが、そのためには、同質性、均一性の高いことが好都合でした。しかし、変化の激しい、これからの時代においては、他と同じであることを重んじる、画一・均一的な社会に活力ある未来はなく、我が国社会は、多様性(ダイバーシティ)を認め合う、全員参加型の社会へと変革していかなければなりません。
 多様性を認め合うことは、一人一人のモチベーションの向上や自己実現を可能とするとともに、経済活動のグローバル化、製品やサービスのライフサイクルの短期化が進む中で、多様化するニーズへの対応が求められる企業などの組織や社会にとっても、発想の柔軟性やイノベーション力の向上をもたらします。
 教育の在り方についても、多様な経歴をもつ人々が、それぞれの能力、可能性を最大限伸長し、活躍する全員参加型社会を実現するものへと根本的に転換することが必要です。

これまでの考え方にとらわれない意識や仕組みの転換を

 全員参加型社会を実現するためには、我が国社会で長く当然と考えられてきた意識や仕組みの転換が求められます。
 現役世代の男性中心の経済社会から脱皮し、生涯現役で活躍することができ、また、女性が輝く社会を実現していく必要があります。そのためには、「高齢者」の捉え方の見直しや、男性も女性も仕事と生活の調和を重視した働き方や人生設計の見直しが必要です。その際には、生涯にわたって、仕事と生活、学びの調和(ワーク・ライフ・スタディ・バランス)を図る視点も重要です。
 また、障害者、不登校や中退の経験者等のための多様な学びの場や才能を見いだす機会をつくることや、失敗を経験しても何度でも再チャレンジ可能な社会を実現していくことが求められます。そのためには、不登校や障害の捉え方を見直し、全ての子供が、様々な才能を秘めているという意識を共有し、潜在的な能力を引き出すための教育の充実が必要です。
 さらに、貧困家庭の子供に対する支援も必要です。我が国は、貧困家庭に生まれた子供が、本人の努力だけで夢と志に挑戦することが困難な格差社会になっているとの認識を持つ必要があります。全ての子供に対し、機会の平等を保障することは、活力ある全員参加型社会の基盤であり、その核になるのは教育です。
 こうした社会全体の認識の転換とともに、個々人が自らの目標や次世代の育成のためになすべきことを自覚し、主体的に努力することが重要です。そして、夢と志に挑戦する人の自立に向けての努力を社会全体で支援していくことが必要です。

女性の活躍支援等

  • 大学、専修学校、社会教育施設等は、女性のスキルアップと、職場復帰や再就職等を支援する実践的なプログラムの提供を推進する。国は、そのようなカリキュラム開発を積極的に支援、促進する。また、子育てや介護に従事中の人が安心して学び続けられるよう、放送大学等による、キャリア支援のためのカリキュラムを充実したり、子育て中の人のため、大学による子供の保育環境の整備を推進したりする。
  • 大学は、出産・育児、仕事、介護等のために一旦学業を中断した人も、引き続き、学業を継続できるよう休学期間や在学期間の弾力的な運用を推進する。
  • 大学、専修学校等が女性のニーズに応えるプログラムを提供するに当たっては、産業界との連携や、各種の就業・起業支援策、事業主への助成措置等の活用を図りながら、学んだ成果が社会参画につながる支援を行う。また、地方公共団体、社会教育施設等とともに、結婚・出産等を機に離職した女性が地域活動に参画しやすくなるよう、NPO等と連携し、学びからその成果をいかした地域活動までの切れ目のない支援を行う。

高齢者等の活躍支援

  • 地方公共団体、社会教育施設、大学等は互いに連携し、高齢者の知識、経験を地域社会にいかすため、シニア層向けのプログラムの提供を推進する。また、地域活動と連動した学習の仕組みづくりなどにより、人材のマッチングも含め、積極的な社会参画を促す仕組みを構築する。例えば、地域活動を行うためのNPOなどの組織をつくる際、「肩書き」や「役職」を付与して、対外的な活動を行うなど、高齢者が参加しやすい工夫を行うことが効果的である。
  • 企業のミドル・シニア社員等が、退職後の地域での活躍のきっかけをつくるとともに、地域活動の活性化を図るため、国がイニシアティブをとって、地方公共団体、企業、NPO等との協働により、これらの人材が現役中から、地域における教育、文化、スポーツなどの活動に参画できる仕組みづくりを推進する。
  • ベテラン教師の大量退職が進む中、その優れた指導技術、知識、経験を学校現場で若手教師に継承するとともに、実験・実習や体験活動など多様な教育活動を充実し、学校の教育力の維持・向上を図るため、国、地方公共団体は、学校における退職教師の積極的な活用を推進する。

障害のある児童生徒に対する支援等

  • 国、地方公共団体は、多様性を認め合う社会の担い手育成の観点からも、障害のある児童生徒が可能な限り障害のない児童生徒と共に、その特性を踏まえた十分な教育を受けることができる環境を整備し、教員の配置や特別支援教育支援員等の充実、交流や共同学習の充実などの取組を推進するとともに、全ての教師が特別支援教育に関する素養を備えることを目指し、専門性・指導力の更なる向上を図る。
  • 国、地方公共団体は、高等学校段階における特別支援教育の充実を図るため、発達障害等に関する教職員等の対応力向上のための研修、自立と社会参加に向けたキャリア教育の充実などの支援体制の整備等を一層推進する。
  • 国は、2020年東京オリンピック・パラリンピックが、多様性を認め合う全員参加型社会への転換の契機となるよう、パラリンピアンを「違い・個性」をいかしたロールモデルとして、その活躍の場を、教育の場をはじめ様々な分野において創出する。

不登校、中退、ニート等の若者への支援

  • 国は、不登校や中退、若者のニート化を防止するとともに、こうした経験のある人の再チャレンジを支援するための総合的な政策パッケージを策定し、推進する。
  • 具体的には、フリースクール等における多様な学びへの対応を含めた小学校から高等学校までを通じた抜本的な不登校等に係る対策を講じるとともに、スクールカウンセラー、スクールソーシャルワーカー、学力向上や進路支援を行う地域人材等の配置充実を図る。また、ハローワークや地域若者サポートステーション(※5)等と連携した就職支援、社会的・職業的自立に向けたキャリア教育、高等学校中退者に対する高等学校等就学支援金相当額の支給による学び直しのための経済的支援策等を一層充実強化する。

  • ※5 ニートの若者等の職業的自立を支援するため、キャリア・コンサルタント等による専門的な相談、コミュニケーション訓練、職場体験等を実施している。平成26年度において全国160箇所に設置されている。

貧困家庭への支援

  • 国、地方公共団体は、低所得世帯やひとり親家庭等の子供の教育の機会を確保し、貧困の連鎖を断ち切るため、夜間補充教室など地域の協力による放課後や土曜日等の学習支援の取組を支援、促進する。また、幼児教育無償化の段階的推進、義務教育段階の就学援助、高等学校等就学支援金制度や高校生等奨学給付金、大学等での無利子奨学金の拡充、所得連動返還型奨学金制度の導入、給付型奨学金の検討を含む奨学金の充実など、子供の成長段階に応じた教育費に係る経済的支援の更なる充実を図る。
  • 国、地方公共団体は、貧困家庭の子供の適切な生活環境を確保するため、教育、福祉、労働行政が密接に連携しながら、地域人材等の協力も得て、保護者への学習機会の提供や情報提供、相談対応、地域の居場所づくりなどの家庭教育への支援や、家庭の状況に応じた生活資金等の支援、子供の食生活や健康状態に対する援助、保護者に対する就労支援などの取組を一層推進する。
  • 国、地方公共団体は、こうした取組を、教育、福祉、労働行政が連携したワンストップサービス体制の構築を図りながら推進する。その際、支援を必要とする家庭にきめ細かに情報提供したり、参加を働きかけたりするスクールソーシャルワーカーなどの役割も重要である。

外国人の子供の教育

  • 外国人の子供の適切な教育環境を確保することが課題となっており、国、地方公共団体は、学校における円滑な受入れや、一人一人の実態に応じたきめ細かな日本語指導のための体制整備、日本語指導が必要な児童生徒を対象としたカリキュラム編成・実施など学校生活への適応を図る取組を進める。その際、日本の文化を体験したり、母国の文化に触れたりして国際理解を深めることも重要である。

3.教育がエンジンとなって「地方創生」を

「教育」の力で地域を動かす

 現在、我が国では、地方の人口減少と地域経済縮小という課題を抱えています。この二つが悪循環に陥り、地方の弱体化が進めば、我が国全体が衰退し、成長力を損ねることになりかねません。国、地方公共団体、民間の総力を結集して、これらの課題を克服し、地方創生を成し遂げる必要がありますが、その成否は人材にかかっています。まさに、「教育」の力は大きく、地域を動かすエンジンの役割を担うと言えます。

地域を担う子供を育て、生きがい、誇りを育む

 小中学校等の教育機関は、地域の将来を担う子供を育てるため、郷土の先人、歴史、文化等を教え、郷土への理解・愛着・誇りや人として必要な倫理観を育む教育を推進することが必要です。こうした教育を実践し、子供たちの志を育むことができる教師の育成も不可欠です。地方の豊かな環境と結びついた魅力ある学校教育の展開は、人口流出を防ぐだけでなく、良質な教育環境を求める都市部からの人口流入も喚起し得ます。また、文化、スポーツによる地域活性化策との連携を図り、地域の人々の生きがいや誇りを育むことも重要です。
 また、少子・高齢化が進展し、地域コミュニティに多様な機能が求められる中で、学校は、人と人をつなぎ、様々な課題へ対応し、まちづくりの拠点としての役割を果たすことが求められます。こうした観点から、全ての学校において地域住民や保護者等が学校運営に参画するコミュニティ・スクール化を図り、地域との連携・協働体制を構築し、学校を核とした地域づくり(スクール・コミュニティ)への発展を目指すことが重要です。その際には、学校教育と社会教育が一体となったまちづくりの視点も重要です。
 こうした取組に当たって、教育委員会制度改革によって新たに設けられる総合教育会議の役割が重要であり、地方公共団体を挙げての教育による地方創生の取組が求められます。

地域の産業、担い手を育てる大学等をつくる

 大学、専修学校等は、その知的資源や人的資源を活用し、地域と連携し、そのニーズにこたえる教育研究、人材育成を展開することや、学生や教職員が居住し学園都市が形成されること等を通じて、地域経済の活性化や地域課題の解決など地方創生に大きな効果をもたらします。
 地方では、特に、大学進学時や就職時に、都市部への人口流出が生じていますが、学生が地元に残り、地域の担い手が確保されるようにする上で、大学等が、地域産業を担う専門職業人育成をはじめ、魅力ある教育を提供したり、雇用やイノベーションの創出に貢献したりすることに対するニーズがかつてなく高まっています。特に、地方では産業集積が進んでいる都市部と異なり、中小零細企業が多く、自社で研究員や研究費を持ち、技術的な研究を進めることのできる大手企業が少ないという現状があり、こうした状況においては、新しい技術を生み出すために、大学が、その有する知的資源等を活用し、研究開発力を発揮するなど、大学等の知の集積が地域の産業振興にとって極めて重要です。
 大学等による地域連携は地方創生の鍵であり、地域の拠点となる大学等の一層の機能強化が図られ、地方における自県大学進学者の割合や、新規学卒者の県内就職の割合が高まることが期待されます。

地域を担う人材の育成

  • 学校は、伝統と文化を尊重し、それらをはぐくんできた我が国と郷土を愛し、志の高い人材を育成する観点から、郷土の先人、歴史、文化等を取り上げた様々な教材の活用や、地域を担う人材育成につながるキャリア教育等を含め、地域の人々の協力を得て、地域に誇りを持つ教育や地域貢献の意識を涵養(かんよう)する教育を充実する。国は、各地域における優れた取組の普及を図り、地方公共団体は、地域に根ざした教材の開発等に努め、学校の取組を支援する。
  • 国、地方公共団体は、子供たちが、一定期間、地方での集団生活や自然体験などの豊かな体験活動を行えるよう、長期滞在型を含めた農山漁村体験活動を積極的に支援する。こうした取組により、課題に粘り強く取り組む力、集団をまとめるリーダーシップ、仲間と連帯する力の涵養(かんよう)等を図るとともに、地方の良さに触れ、地方移住の推進や交流人口の拡大にも資するものとする。
  • 地方創生のためには、地域と協働した新しい人材育成が求められている。このため、大学等は、地域の求める人材ニーズの多様化に対応し、地方公共団体や企業等と連携して、実践的プログラムの開発や教育体制の確立など、「実学」を一層重視した、地域産業を担う高度な人材の育成を推進する。また、高等専門学校、専修学校、専門高校等は、地域のニーズに応じた学科構成の見直し、大学や産業界等と連携した長期間の実習・共同研究の実施等により、地域産業を担う専門的職業人材の育成を推進する。さらに、専門高校等において、育成した人材が地元企業等から適切に評価され、地域での認識が高まるよう、資格や公的な職業能力の検定等も活用し、卒業生の職業能力を明らかにする取組を進める。
     国は、これらの取組を支援、促進するとともに、第五次提言で述べた実践的な職業教育を行う新たな高等教育機関の制度化が地域の職業人育成に大きな効果をもたらすことが期待できることから、その実現に向けた取組を推進する。
  • 国、地方公共団体、大学等は、官と民が協力した海外留学支援制度(トビタテ!留学JAPAN日本代表プログラム等)の推進等により、地域に根差したグローバルリーダー(いわゆるグローカル人材)の育成を図るとともに、国内外の学生が交流する機会の創出やそのための宿舎・交流スペース等の整備、就職支援等を通じて、外国人留学生の受入れも拡大し、地域における留学生交流を促進する。また、国、地方公共団体は、こうした取組を行う大学への支援を行う。

学生等の地方への定着等

  • 国、地方公共団体は、地域の活性化を実践的に担うために重要な人材の確保の観点から、地方にある大学等への進学、地元企業への就職、都市部の大学等から地方の企業への就職を行う者を対象に、奨学金の優先枠(地方創生枠(仮称))を設けたり、返還額を軽減したりする措置を講じ、学生の地元定着へのインセンティブを高める取組を進める。
     また、ICTを活用して地方と都市部の学生、大学等が交流する取組等を促進するとともに、都市部にある大学等と地方にある大学、地方公共団体等とが連携・交流を行うこと、ギャップイヤー等を活用し、学生のインターンシップを地方の企業等で行うことなど、都市部の学生が地方の魅力を実体験できる取組への支援策を講じる。
     さらに、大学教員が意欲的に教育研究に取り組めるよう、地方にある大学の教育研究環境の充実を図るために必要な財政基盤の確保を目指す。
  • 大学進学時には、地方から都市部への大きな人口流出が生じているが、その背景には、都市部の大学等において定員を上回る学生を受け入れている実態があり、教育環境を改善する観点からも、この状況を是正する必要がある。このため、国は、入学定員超過に対する基盤的経費の取扱いの更なる厳格化など、特に大都市圏の大学等における入学定員超過の適正化について検討し、成案を得る。

教育機関を核とした地域活性化

  • 国は、コミュニティ・スクール(※6)の取組が遅れている地域の存在を解消し、一層の拡大を加速する。このための制度面の改善や財政面の措置も含め、未導入地域における取組の拡充や、学校支援地域本部等との一体的な推進に向けた支援等に努める。そして、全ての学校がコミュニティ・スクール化に取り組み、地域と相互に連携・協働した活動を展開するための抜本的な方策を講じるとともに、コミュニティ・スクールの仕組みの必置について検討を進める。
     地方公共団体は、国の支援策も活用して、全ての学校においてコミュニティ・スクール化を図ることを目指す。その際、学校と地域をつなぐコーディネーターを配置することや、地方公共団体の判断により、小中一貫教育の取組と連携して進めることも効果的である。さらに、こうした人的ネットワークが地域課題解決や地域振興の主体となることを目指す。
  • 地方において、限界集落に陥る最大の要因の一つが、学校の消滅である。国、地方公共団体は、地域コミュニティの核としての学校の役割を重視しつつ、各市町村の実情に応じて、活力ある学校づくりを実現できるよう、市町村の主体的な検討や具体的な取組をきめ細かに支援する。
     具体的には、例えば、学校統合を検討する場合には、通学手段の確保など統合に付随する課題の解消への取組を支援する。小規模校の存続を選択する場合には、ICTの活用等により小規模のデメリットを最小化する取組等を支援する。さらには、休校した学校についても児童生徒が増加した場合には、その再開に向けた取組を支援する。
  • 少子・高齢化が進む過疎地域等では、地域コミュニティの拠点としての学校の場を活用して、子供への教育のほか、地域住民の生涯学習や健康、福祉等に関する機能をも集積していくことが考えられる。こうしたことを踏まえ、国は、地域の実情に応じ、学校の場が有効に活用され、各種機能の複合化・集積化が図られるよう、その仕組みの在り方について検討し、取組を進める。
  • 国は、地域のニーズに応える人材の育成や地元産業の振興、地域課題の解決に取り組み、地(知)の拠点となる大学に対する支援を引き続き充実強化する。また、多様な地域振興の担い手をコーディネートする大学の取組も支援する。さらに、国は、雇用創出、若者定着のため、具体的な目標を設定して大学と連携した取組を行う地方公共団体に対し支援を行う。地方における産業振興のためには、的確なビジネスプランをつくり、付加価値が高い商品開発を行い、全国的に販路を開拓するなどの事業展開を、産学官民が一体となって推進していくことが重要であり、こうした取組において、大学はその知見を生かし重要な役割を果たすことが求められる。
  • 国公私立の大学は、地方においてそれぞれの強み・特色をいかして機能強化を図り、若者を地方につなぎとめ、かつ、呼び込むために魅力向上に取り組むことが求められている。このため、国は、地域活性化の中核となる国立大学においては、第3期中期目標期間の評価に地域連携の視点を取り入れるなど、大学の地域連携に対する評価と資源配分が連動するようにしていく。また、地方における大学機能の集積や大学間連携などの経営改革や、地方の「職」を支える人材育成などの教育研究改革を通じて地域の発展に寄与する私立大学の取組を支援する。国、地方公共団体は、学生が地方に定着する環境づくり等に貢献する公立大学の取組に対する支援を行う。
  • 国は、「日本版CCRC(Continuing Care Retirement Community)(※7)」の導入に向けて、有識者や関係省庁が参画して検討を行う際、高齢者が大学の近隣等に居住し、必要に応じ、医療・生活支援サービスを受けながら、大学での生涯学習や学生への指導等に参加できるコミュニティ(日本版大学連携型CCRC)を形成することについて検討し、モデル事業等を通じて全国展開する。

  • ※6 地方教育行政の組織及び運営に関する法律に基づき、当該学校の所在する地域の住民や当該学校に在籍する児童生徒等の保護者等で構成される委員が当該学校の運営に関して協議する機関を置く学校。
  • ※7 米国では、高齢者が移り住み、健康時から介護・医療が必要となる時期まで継続的なケアや生活支援サービス等を受けながら生涯学習や社会活動等に参加するような共同体が約2,000か所存在している。

地域、家庭の教育力や、スポーツ・文化をいかした地域活性化

  • 国、地方公共団体は、地域住民が主体となって、地域コミュニティの活性化・再生を図る観点から、公民館、図書館などの社会教育施設を拠点に、NPO等と連携しつつ、分野横断型の、地域課題解決につながる活動を推進する。また、こうした活動を行うために、様々な地域資源を活用し、活動をコーディネートする人材の育成を国として支援、促進する。
  • 国、地方公共団体は、三世代同居・近居への支援を行うなど、若年層の定住や家庭教育支援の充実を進めながら、多様な年齢層の中で地域の教育力を高める取組を推進する。
  • 国、地方公共団体は、スポーツによる元気で活力あるまちづくりの観点から、地元の企業等と連携した地域スポーツコミッション(※8)などの活動を一層促進し、障害者スポーツを含め、スポーツ大会やアスリートなどの地域における多様なスポーツ資源を活用した地方創生の取組を推進する。
     また、総合型地域スポーツクラブの自立支援やマネジメントの強化に関する人材確保などの取組を進める。
     さらに、国、地方公共団体、スポーツ団体等が連携して、子供たちが夢や志を持ち、努力する姿勢を育むことを促進する観点から、部活動や地域の教育にアスリートやその経験者等が積極的に関わる仕組みを構築する。
  • 国、地方公共団体は、地域の文化や歴史を地域活性化に活用する取組を推進する。具体的には、新たに「日本遺産」を認定する仕組みを創設するなど、観光・産業資源としての魅力の向上等の強化や、地域の多様な文化財を一体的に活用する取組を支援する。また、地域の特色ある文化芸術活動や地域の文化拠点である劇場、音楽堂などにおける文化芸術の創造や発信等の活動を活性化し、地域コミュニティの創造と再生を推進する。
     さらに、こうした取組を、教育や人材育成に連動させ、地域への愛着心を高めるなど、文化資源をいかした地方創生を進める。
  • 国、地方公共団体は、地方における教育交流事業や地域のイベント、伝統芸能など教育、スポーツ、文化による地域協力活動への都市部からの人々の参画を支援、促進するとともに、その活動が参画した人々のその後のキャリア形成等で評価され、いかされるような工夫を行う。

  • ※8 地域におけるスポーツ振興、スポーツツーリズム推進に、地方公共団体、民間企業(スポーツ産業、観光産業等)、スポーツ団体等が連携・協働して取り組むことを目的としている地域レベルの連携組織。

世界への発信

  • 我が国の教育システムやノウハウ、優れた教育プログラムは、我が国の文化又は産業の一つにもなり得るものであり、国は、これらを学校教育や人材育成に対するニーズがある海外の国や地域に向けて、戦略的に発信する取組を進める。

お問合せ先

初等中等教育局初等中等教育企画課教育制度改革室

(初等中等教育局初等中等教育企画課教育制度改革室)

-- 登録:平成27年07月 --