資料3 高大接続特別部会における答申(案)取りまとめに向けた要点の整理(中央教育審議会高大接続特別部会(第20回)資料1)

高大接続特別部会における答申案取りまとめに向けた要点の整理(案)

1.我が国の未来を見据えた高大接続改革

(1)今後の教育改革が目指すべき方向性と現状の課題

○ 今後取りまとめられる高大接続に関する答申においては、我が国の未来を見据えた「新しい時代にふさわしい高大接続」の在り方として、高等学校教育、大学教育、及びそれらを接続する大学入学者選抜の抜本的な改革を提言する。

○ 我が国は、生産年齢人口の急減や、グローバル化・多極化の中での社会経済構造の変化、技術革新の急激な進展といった局面を乗り越え、希望に満ちた未来を歩んでいくための将来像を描いていかなければならない。
  そのために最も重要なことは、今後社会に出て国内外で仕事をし、家庭を築いていくことになる、現在学校に通う子供たち、今後入学していく子供たち、あるいはこれから生まれてくる子供たちの一人ひとりに、これからの新しい時代に自らの人生を切り拓き、他者と助け合いながら、幸せな暮らしを営んでいける力を育むための、教育の在り方を示すことである。

○ 子供たちに育むべきこのような力を言い換えるならば、それは「豊かな人間性」「健康・体力」「確かな学力」を総合した力である「生きる力」にほかならない。これまでの教育改革に関する中央教育審議会答申等も、子供たちにこうした「生きる力」を確実に育むことができるよう、提言を重ねてきている※1。
  このうち「確かな学力」については、「ゆとり」か「詰め込み」かの二項対立的な議論を乗り越え、「基礎的な知識及び技能」「それらを活用して課題を解決するために必要な思考力、判断力、表現力等の能力」「主体的に学習に取り組む態度」が、学力を構成する重要な三つの要素(いわゆる「学力の三要素」)であることが、平成19年の学校教育法改正により明確に示されている※2。

 本「要点の整理」においても、「学力」とは、特段の説明がない限り上記の「確かな学力」のことを指し、したがって、知識・技能やそれらの活用力だけでなく、主体的に学習に取り組む態度を含む。


※1 平成8年中央教育審議会答申「21世紀を展望した我が国の教育の在り方について」、平成17年中央教育審議会答申「新しい時代の義務教育を創造する」、平成19年中央教育審議会答申「教育基本法の改正を受けて緊急に必要とされる教育制度の改正について」、平成20年中央教育審議会答申「幼稚園、小学校、中学校、高等学校及び特別支援学校の学習指導要領等の改善について」、平成14年「確かな学力向上のための2002アピール『学びのすすめ』」、その他。

※2 学校教育法第30条第2項、第49条、第62条参照。

○ こうした改革の流れの中で、特に小・中学校においては、知識・技能の習得に加え、知識・技能の活用力を含めた育成が図られるよう、多くの関係者による努力が重ねられてきた。全国学力・学習状況調査において、主として「知識」に関する問題※3だけではなく、主として「活用」に関する問題※4も出題されていることも、関係者の意識改革や各学校における授業改善に大きな影響を与えている。また、現行の学習指導要領に基づく、学級やグループで話し合う活動や、調べたことや考えたことを発表し合う活動等を重視する「言語活動」、各教科や総合的な学習の時間等における探究的な学習といった、学力の三要素に対応した学習方法についても、評価の在り方と併せて実践が重ねられ充実が図られており、国内外の学力調査の結果※5にも、そうした努力の成果が表れてきていると見ることができる。

○ 高等学校教育及び大学教育においては、そうした義務教育までの成果を確実につなぎ、一人ひとりに育まれた力を更に発展・向上させることが肝要である。
  高等学校については、現行学習指導要領において、知識・技能の習得に加えて、知識・技能の活用力や、主体的に学習に取り組む態度の育成を目指しており、関係者が努力を重ねてきている。大学教育についても、中央教育審議会答申等において、初等中等教育段階における「生きる力」の育成を踏まえ、「学士力」をはじめとする育成すべき力の在り方や、その育成のための大学教育の質的転換について提言※6されてきており、学生が主体的に問題を発見し解を見いだしていく能動的学修(アクティブ・ラーニング)の充実など、様々な教育改善が図られつつある。


※3 身に付けておかなければ後の学年等の学習内容に影響を及ぼす内容や、実生活において不可欠であり常に活用できるようになっていることが望ましい知識・技能などを中心とした出題。

※4 知識・技能等を実生活の様々な場面に活用する力や、様々な課題解決のための構想を立て実践し評価・改善する力などに関わる内容を中心とした出題。

※5 PISA、全国学力・学習状況調査等

※6 平成20年中央教育審議会答申「学士課程教育の構築に向けて」、平成24年中央教育審議会答申「新たな未来を築くための大学教育の質的転換に向けて」

○ しかしながら、我が国が成熟社会を迎え、知識量のみを問う「従来型の学力」や、主体的な思考力を伴わない協調性はますます通用性に乏しくなる中、社会で自立して活動するために必要な力を育む観点からは、そうした改善が十分であるとは言い難い。高等学校、大学ともに進学率が高まり、多様な進路が開かれる中で、一人ひとりの生徒・学生に必要な力を身に付けるためには、上記のような教育改善の更に先にある、新たな時代に対応するための教育の在り方や高大接続の在り方を見出すことが不可欠である。
  そうした観点からは特に、現行の大学入学者選抜の大きな影響下での下記のような高等学校教育と大学教育の現状と課題について、改革が必要である。

○ 選抜性の高い大学へ生徒が進学する高等学校においては、国内外で活躍する次世代リーダーの育成に向けて、スーパーグローバルハイスクール、スーパーサイエンスハイスクールなどの取組や、国際通用性を高める観点からの国際バカロレアのプログラム導入、「総合的な学習の時間」を活用した課題探究の鍛錬など、これからの時代に必要な力の育成を見据えた積極的な取組も多く見られる。その一方で、学校の教育方針が選抜性の高い大学への入学者数を競うことに偏っている場合には、高等学校教育が、受験のための教育や学校内に閉じられた課外活動、文化的・体育的行事等の、同質性の高い画一的な教育に終始することになり、多様な個性の伸長や幅広い視野の獲得といった、多様性の観点からは不十分なものとなりがちである。こうした教育では、知識・技能やそれらの活用力は向上させられたとしても、主体性を持って、多様な人々と協働しながら学んだ経験を生徒に持たせることはほとんどできない。
  そうした生徒がそのまま選抜性の高い大学に入学した場合、知識・技能に優れ、それらの活用力においても一定の力を持っていたとしても、主体性をもって他者を説得し、多様な人々と協働して新しいことをゼロから立ち上げることのできる、社会の現場をリードするイノベーションの力を、大学において身に付けることは難しい。

○ 「従来型の学力」について中間層の生徒が多い高等学校では、知識量の多寡で進学先の難易度が決定される環境において、受験勉強が学習への動機付けになってきた。しかしながら、少子化の進展等により大学への入学が一般的に容易になっているため、それに対応して、従来のような受験勉強がそれほど必要でなくなっている。そうした中では、今まで以上に、社会で自立して生きていくために必要な力の獲得を目標として設定し、学習意欲を喚起する必要があるが、そうした動機付けを十分に行わず、自主的にはほとんど学習せず目標を持てない生徒を多数、選抜性が中程度の大学に送り出してしまっている例も多い。そうした場合、一人ひとりの知識・技能やそれらの活用力を伸ばす余地はあるにもかかわらず、学生に主体性や学修のための明確な目標が不足しているため、大学においてもそれができないままになっている。

○ 「従来型の学力」の習得に困難を抱えている生徒が多い高等学校では、家庭環境や所得格差等の問題も背景として、必要な力を育む以前に、まずは通学させ卒業させることで手一杯であるという状況も多い。そうした中で、生活指導や教育相談、将来を見通した進路指導等のサポートを熱心に行っている高等学校もあるが、入学者選抜が機能しなくなっている大学に漫然と送り出されるケースも少なくなく、そうした大学においては、知識・技能の活用力どころか、知識・技能自体の質と量が、大学教育に求められる水準に比して不十分な段階にある学生が多いことが深刻な問題となっている。

○ こうした現状から課題として浮かび上がってくることは、高等学校においては、小・中学校に比べ知識伝達型の授業に留まる傾向があり、学力の三要素を踏まえた指導が浸透していないことである。ここには、一般入試においては、知識の再生を一点刻みに、一度限りの結果で問う評価から転換し切れていないこと、またAO入試、推薦入試の多くが本来の趣旨・目的に沿ったものとなっておらず、単なる入学者数確保の手段となってしまっていることなど、現行の多くの大学入学者選抜における学力評価が、学力の三要素に対応したものとなっていないことが大きく影響していると考えられる。
  また、高等学校の進学率が98%に達する中で、高校生の進路が多様化し、教育課程や授業内容の在り方も多岐にわたり、高等学校教育として共通に身につける学力が確保されていないことも大きな課題となっている。

○ 大学教育については、我が国の大学生の学修時間は米国と比べて依然として短く※7、授業の形態についても、一方的な知識の伝達・注入のみに留まるものが多く見受けられる。大学教育において学生にどれだけの付加価値をつけて社会に送り出せているかという観点からは、依然として社会からの厳しい評価があり、国民、とりわけ学生や経済界は、大学教育の現状に満足しているとは言い難い※8。また、大学教育の場が、多様な学生が切磋琢磨する環境となっておらず、主体性を磨くことなく、自ら目標を持ってそれを実現していく力を身に付けないまま、社会に出る学生も多い。
  大学において育成すべき力とは何かを明らかにした上で、大学入学者選抜や高等学校教育との連携の在り方を変えていかなければ、大学入学のその先を見据えた、自らの人生を切り拓くための目標を高校生に持たせることも難しい。


※7 1週間当たりの学修時間が11時間以上の学生が我が国は約15%、米国の学生は約59%(東京大学大学経営・政策研究センター「全国大学生調査」(平成19年)、NSSE(National Survey of Student Engagement))。

※8 ある新聞社の世論調査では、日本の大学が世界に通用する人材や社会、企業が求める人材を育てているかとの質問に、6割を超える国民が否定的な回答をしている。また、経済団体の調査によれば、企業の大学教育へのニーズと大学が教育面で特に注力している点に認識の差異や隔たりがある。さらに、大学生の5~6割が「論理的に文章を書く力」や「人に分かりやすく話す力」について大学の授業の有効性を否定的に捉えているという調査結果もある。

○ 大学入学者選抜については、入学試験の点数だけの公平性・客観性を過度に重視するあまり、知識の記憶力などの測定しやすい一部の能力や、選抜の一時点で有している能力の評価に留まっていたり、丁寧な評価よりも学生確保が優先されるなど、高等学校教育で培ってきた力や、さらにはこれからの大学教育で学ぶために必要な力を評価するものとなっていない。そうした背景には、公平な選抜とは数値で採点結果を出せる問題を用いた試験の点数のみに依拠したものであるという、従来型の公平性の観念が社会に根付いていることがあると考えられる。

(2)高等学校教育、大学教育を通じて育むべき「生きる力」「確かな学力」の明確化

○ 「生きる力」や「確かな学力」の定義そのものについては、累次の答申等や関係法令において明示されている※9ところであるが、大学におけるその在り方を含め、学校段階に応じた具体的な在り方については、初等教育から高等教育を貫く視点に立って、今一度捉え直してみる必要がある。


※9 平成8年中央教育審議会答申「21世紀を展望した我が国の教育の在り方について(第一次答申)」など。

○ とりわけ、高等学校や大学の段階に進むに従い、身につけるべき力の在り方は小・中学校段階とは質的に変化していくものであり、特に、卒業後どのような進路を選ぶにしても、国家及び社会の形成者として自立して生きるための力を育成するため、社会とのより密接な関係を意識した学習が求められるようになる。このような観点も踏まえつつ、高等教育までを通じて育成すべき「生きる力」「確かな学力」の意義を明確にした上で、幼児教育、小・中学校で積み上げられてきた教育の成果を、高等学校、大学における教育で確実に発展させていくことが必要である。

○ こうしたことを踏まえ、高等学校教育、大学教育を通じて育むべき「生きる力」を、それを構成する「豊かな人間性」「健康・体力」「確かな学力」それぞれについて捉え直すと、以下のように考えることができる。

1.豊かな人間性

 高等学校教育を通じて、国家及び社会の責任ある一員として必要な教養と行動規範を身につけること。大学においては、それを更に発展・向上させるとともに、国、地域社会、国際社会等においてそれぞれの立場で主体的に活動する力を鍛錬すること。

2.健康・体力

 高等学校教育を通じて、社会で自立して活動するために必要な健康・体力を養うとともに、自己管理等の方法を身に付けること。大学においては、それを更に発展・向上させるとともに、社会的役割を果たすために必要な肉体的、精神的能力を鍛錬すること。

3.確かな学力

 学力の三要素(「学習意欲」「思考力・判断力・表現力等」「知識・技能」)を、社会で自立して活動していくために必要な力という観点から捉え直し、高等学校教育を通じて(1)これからの時代に社会で生きていくために必要な、「課題の発見・解決に向け、主体性を持って多様な人々と協働して学ぶ力(主体性・多様性・協働性)」、(2)その基盤となる「知識・技能の活用力」、(3)さらにその基礎となる「知識・技能」を育むこと。大学においては、それを更に発展・向上させるとともに、これらを総合した学力を鍛錬すること。
  なお、特に「多様性」については、生徒、学生の努力ももちろん求められるが、むしろ高等学校や大学の側において、多様な生徒、学生が多様な環境の中でともに学ぶことのできる場を用意し、その中で多様性を受容するし、尊重する力を育んでいく必要がある。

○ 高等学校、大学それぞれの段階において、これらの力が確実に育成されるようにするとともに、両者をつなぐものとして双方に極めて大きな影響を与える大学入学者選抜の段階において、これらの力を念頭に置いた評価が行われることが必要である。

○ なお、小・中学校において「学力の三要素」を踏まえた教育が定着してきている背景には、全国学力・学習状況調査など、活用力を含めた学力を評価する手法と、「言語活動」といった活用力や学習意欲を育むための学習・指導方法の具体的な在り方が明確化され、各学校に導入されたことがある※10。高大接続における改革の方向性も、改革のための具体策との組み合わせによって示していくことが重要である。


※10 ペーパーテストだけではなく、学習活動そのものを直接評価する「パフォーマンス評価」など、複雑な学びを筆記以外の方法で評価する方法の開発も、こうした「学力の三要素」を踏まえた教育の定着に大きく貢献している。

(3)高大接続改革の意義

○ 上記に示した現状の課題や、高等学校教育、大学教育において育むべき力を踏まえ、その育成に向けた改革の方向性を示すとともに、両者を接続させる重要な役割を有する大学入学者選抜の意義と在り方を改めて示し、新しい時代にふさわしい高大接続の在り方を再構築する必要がある。
  特に、こうした再構築を通じて、18歳頃における一度限りの一斉受験という特殊なイベントが、長い人生航路における最大の分岐点であり目標であるとする、我が国の社会全体に深く根を張った従来型の「大学入試」や、その背景にある、数値で採点結果を出せる問題を用いた試験の点数のみに依拠した「公平性」の観念という桎梏は断ち切らなければならない。大学入学者選抜は、一時点の学力評価によってその後の人生を決定させるためのものではない。先を見通すことの難しい時代において、生涯を通じて不断に学び、考え、予想外の事態を乗り越えながら、自らの人生を切り拓き、より良い社会づくりに貢献していくことのできる人間を育てることが高等学校教育及び大学教育の使命であり、そうした教育が、新たな大学入学者選抜の在り方によって円滑に結びつけられる必要がある。

○ また、高大接続を議論する際には、高等学校卒業生のすべてが大学に進学するのではなく、専修学校等に進学する生徒や、就職する生徒も多数いることを踏まえ、国家及び社会の責任ある一員として、自立して生きる力を高等学校教育において確実に育むという視点が重要である。併せて、高等学校卒業後、生徒がどのような進路を選択するにせよ、経済的な理由のみによりそれが左右されることのないような配慮も必要である。

○ 今後取りまとめられる高大接続に関する答申においては、上記のような考え方に基づく改革の方向性を、改革実現のための具体的な方策とともに示すことが必要である。国や高等学校、大学等の関係者、関係機関のみならず、社会全体で高等学校教育、大学教育、そしてそれを接続する大学入学者選抜の一体的な改革に向けた気運が醸成され、具体的な取組が強力に推進されることを期待する。

○ なお、本年7月には文部科学大臣から、小中一貫教育の制度化など今後の学制の在り方について、及び教員の資質能力と学校組織全体の総合力の向上について、中央教育審議会に諮問が行われており※11、また、本年中には、幼稚園、小学校、中学校、高等学校及び特別支援学校の学習指導要領等の改善について諮問が行われる方向性である。高大接続特別部会における審議の内容は、これらの検討事項にも深く関連するものであることから、それぞれの検討の過程において、今後取りまとめられる高大接続に関する答申を十分に踏まえた議論が行われるよう期待するとともに、国においてはこれらの議論の成果を一体的に推進し、教育改革全体の将来像の中で、新しい時代にふさわしい教育への転換が図られるよう求めるものである。


※11 平成26年7月29日に文部科学大臣から「子供の発達や学習者の意欲・能力等に応じた柔軟かつ効果的な教育システムの構築について」及び「これからの学校教育を担う教職員やチームとしての学校の在り方について」諮問が行われた。

2.高大接続の再構築に向けた改革の方向性

○ 高大接続改革を実現するためには、高等学校教育及び大学教育を、上記1.(2)に示したような力を育成するにふさわしい教育内容、学習・指導方法、評価方法、教育環境へと大きく転換させなければならない。

○ そのための現実的問題としてまず立ちふさがるのが、大学入学者選抜の在り方である。現在直面する最大の課題は、高等学校教育と大学教育とを接続する重要な役割を果たすべき大学入学者選抜において、上記のような育成すべき力の在り方を踏まえた評価がなされていないことである。

○ 接続段階での評価の在り方が変われば、それを梃子の一つとして、高等学校教育及び大学教育の在り方も大きく転換すると考えられる。高等学校教育改革、大学教育改革の実効性を高めるためにも、大学入学者選抜の改革に社会全体で取り組む必要がある。

(1)各大学のアドミッション・ポリシーに基づく大学入学者選抜の確立と、「一点刻み」の公平性・客観性にとらわれた入学者選抜や本来の趣旨・目的に沿わず入学者数確保の手段に陥った入学者選抜からの脱却

○ 大学入学者選抜の改革を進めるにあたっては、「大学入試センター試験」の抜本的改革が必要であるが、それは全体の改革の一部にすぎない。

○ 何よりも重要なことは、各大学が個別に行う入学者選抜(以下「個別選抜」という。)を、知識の再生を一点刻みの一度限りの試験で問う評価に偏ったものとしたり、入学者の数の確保のための手段に陥らせたりすることなく、高等学校教育で身につけた「生きる力」「確かな学力」を大学教育でさらに発展・向上させ、社会へと送り出していく上で、大学の入り口段階で求められる力を多面的・総合的に評価するという、個別選抜の本来の役割を果たせるものにすることである。

○ また、そうした評価のためには、大学入学者選抜において、ペーパーテストの数値で表せるものだけを対象とすることが公平であると捉える、「公平性」についての社会的意識の変革も必要である。

<目指す大学入学者選抜改革の全体像(別添資料1のイメージ図参照)>

○ 全ての大学において、アドミッション・ポリシーに基づく多元的評価を重視した個別選抜を行い、様々な能力や得意分野、異なる背景を持った多様な学生を適切に評価する。また、現行の大学入試センター試験を廃止し、「知識・技能」を単独で評価するのではなく、「知識・技能の活用力」を中心に評価する「大学入学希望者学力評価テスト(仮称)」を導入する。

○ そうした中で、選抜性の高い大学においては、知識の再生を一点刻みの一度限りの試験で問う選抜から、より多元的な評価を行うことを通じて、「主体性・多様性・協働性」を含む「確かな学力」を高い水準で評価する選抜へと転換する。なお、「大学入学希望者学力評価テスト(仮称)」を活用しつつ、個別選抜において、高度な知識・技能の活用力を評価するための記述式・論述式の学力評価を課すこともあり得る。

○ 選抜性が中程度の大学においては、現在、個別選抜で2科目前後の特定科目の知識量のみを問う形態が多いが、作問の負担の影響も踏まえつつ、知識・技能の活用力を含めた評価を行う形態とするため、「大学入学希望者学力評価テスト(仮称)」を積極的に活用した個別選抜へと転換する。

○ AO・推薦入試が本来の趣旨・目的に沿ったものとなっていないなど、入学者選抜が機能しなくなっている大学においては、(2)に示す「高等学校基礎学力テスト(仮称)」の結果を含めた高等学校の学習成果を、調査書の活用等により確実に把握することにより、大学教育に求められる水準の学力を担保する。

○ 併せて、各大学においては、高等学校までの学習の成果を大学大学入学者選抜において適切に評価し、大学における初年次教育やその後の教育にしっかりと接続させていく。

○ 国は、上記の改革が実現されるよう、具体的な支援策やスケジュールをまとめ改革を強力に推進する。

1. 各大学の個別選抜改革

(アドミッション・ポリシーに基づく個別選抜の確立)

○ 各大学は、高等学校及び大学において育成すべき「生きる力」「確かな学力」の本質を踏まえつつ、入学者に求める能力は何か、また、それをどのような基準・方法によって評価するのかを、アドミッション・ポリシーにおいて明確化することが求められる。その際、個別選抜においては、高等学校教育、大学教育を通じた「確かな学力」として求められる三要素の中でも、特に「主体性、多様性、協働性」を評価する視点を担保する必要がある。

○ 具体的な評価方法としては、下記2.に示す、入学希望者に求められる学力を評価するための新テストの成績に加え、小論文、面接、集団討論、プレゼンテーション、調査書、活動報告書、大学入学希望理由書や学修計画書、資格・検定試験などの成績※12、各種大会等での活動や顕彰の記録、その他受検者のこれまでの努力を証明する資料などを活用することが考えられる。「確かな学力」として求められる力を的確に把握するためには、こうした多元的な評価尺度が必要である。各大学はその教育方針に照らし、どのような評価方法を組み合わせて選抜を行うかを、応募条件としての新テストの成績の具体的提示等を含め、アドミッション・ポリシーにおいて明確に示すことが求められる。

○ 特に、スーパーグローバル大学等をはじめとする、国内外で活躍できる次世代リーダー等の育成を目指す大学においては、リーダーとして活動するために必要な力とは何かを明確に示し、大学の使命としてその育成を目指すとともに、多様な学生が切磋琢磨する環境作りが不可欠である。特にこうした大学を含め、選抜性の高い大学の学生については、これまでのように「知識・技能」や「知識・技能の活用力」に優れていることは必要ではあるが、それらだけではまったく不十分であり、「主体性・多様性・協働性」を含む「確かな学力」を高い水準で評価する個別選抜を推進することによって、多様性のある学生の確保に努める必要がある。

○ また、選抜性が中程度の大学における大学入学者選抜の現状を見てみると、個別選抜で2科目前後の特定科目の知識量のみを問う形態が多い。今後は、知識・技能の活用力を含めた評価を行う形態とするため 作問の負担の影響も踏まえつつ、「大学入学希望者学力評価テスト(仮称)」を積極的に活用した個別選抜へと転換する。

○ AO・推薦入試が本来の趣旨・目的に沿ったものとなっていないなど、入学者選抜が機能しなくなっている大学においては、(2)に示す「高等学校基礎学力テスト(仮称)」※13 の結果を含めた高等学校の学習成果を、調査書の活用等により確実に把握することにより、大学教育に求められる水準の学力を担保する。


※12 特に英語については、アドミッション・ポリシーとの整合性を図ることを前提に、4技能を測定する資格・検定試験の更なる活用を促進すべきである。「英語教育の在り方に関する有識者会議」報告書も参照。

※13 「高等学校基礎学力テスト(仮称)」は、入学者選抜への活用を本来の目的とするものではなく、進学時への活用は、調査書にその結果を記入するなど、あくまで高校の学習成果を把握するための参考資料の一部として用いることに留意。

○ なお、個別選抜全体の中では、多面的・総合的な能力を有する人物のみならず、特定分野の才能に優れた人物が評価される仕組みも重要である。各大学の教育方針に応じて、そうした才能が、高等学校段階までの様々な活動履歴等も含めて評価され、大学教育での更なる成長につなげられるような個別選抜の在り方が確保されるべきである。
  専門高校についても、主体的に自分の目標を持って専門性を育み、専門科目について高い知識・技能を獲得している生徒が、広範囲の教科・科目の知識が求められる選抜性の高い大学に進学できない場合もある。教育の場に多様性をもたらすためにも、こうした生徒に対応した個別選抜が、高等学校の進路指導や大学入学後の教育課程の多様性の尊重に向けた質的な転換とともに実施されるべきである。

○ また、上記のような改革の方向性と、「生きる力」「確かな学力」の本質を踏まえた上で、各大学のアドミッション・ポリシーに基づき、下記2.に示す新テストに加え、高度な知識・技能の十分な活用力を評価するための記述式・論述式の学力評価を個別に課すこともあってよい。

(多元的な評価に向けた意識改革)

○ 個別選抜における評価に当たっては、数値で採点結果を出せる問題を用いた試験の点数のみに依拠した、従来型の公平性・客観性と、多数の受験生に対して短時間で合否判定を行うための効率性を重視するあまり、面接、集団討論、小論文、調査書、その他による多元的な評価を重視しない傾向がある。この点に関しては、公平性・客観性とは何かについての意識改革※14と併せて、個別選抜を行う側が、自らの都合のみにより選抜する方法ではなく、一人ひとりの入学希望者が行ってきた多様な努力を受け止めつつ、入学者に求められる能力を評価し選抜する方法へと意識を転換し、アドミッション・ポリシーに示した基準・方法に基づく多元的な評価の妥当性・信頼性を高め、説明責任を果たしていく必要がある。


※14 「小学校、中学校、高等学校及び特別支援学校等における児童生徒の学習評価及び指導要録の改善等について(通知)」(平成22年文科初第1号)においても、学習評価について、客観性にとらわれ過ぎ、ペーパーテストのような数値で採点結果を出せる問題を用いた試験の点数のみに依拠した評価から脱却するため、「客観性」ではなく「妥当性、信頼性」という文言を用いることにより、指導改善や、きめ細かい学習指導の展開、児童・生徒一人ひとりの学習の確実な定着を目指していることにも留意。

○ こうした多元的な評価に対応した具体的な手法としては、複雑な課題に知識・技能を活用して取り組むことを求める「パフォーマンス評価」、そうした複雑な課題の達成度を数段階に分け、達成度を判断する基準を示す「ルーブリック」、様々な学習過程や成果の記録等を蓄積して学習状況を把握する「ポートフォリオ評価」等が着実に開発されているところであり、今後、初等中等教育関係者とも協力して具体例を蓄積し共有するとともに、新たな評価手法を研究・開発していく必要がある。さらに、入学後の学生の成績や活動実績、留年・中退率、卒業との進路等について追跡調査を行い、評価基準・方法の妥当性を検証していくことも必要である。

○ こうした評価には事務的な負担が伴い、高い評価能力が要求されることから、大学におけるアドミッション・オフィスの強化や、評価の専門的人材の育成、教職員の評価力向上に対する支援が急務である。また、評価のノウハウを一つのセンターに集約し共有することにより、各大学の負担を軽減することも重要である。

2.入学希望者に求められる学力を評価する新テストの導入

○ 毎年50万人以上が受験する大規模な試験である現行の大学入試センター試験は、大学入学希望者の基礎的な学習の達成度を判定するという本来的な役割のみならず、高等学校教育における質の保証が課題視される中で、高校生の一定の基礎学力の確保に大きな役割も果たしてきたと評価することができる。

○ 一方で、大学入試センター試験は「知識・技能」を問う問題が中心となっており、これからの大学入学者選抜において評価すべき「確かな学力」の在り方や、下記(2)に示す、高等学校において身につけた基礎学力を評価する新テストの導入なども踏まえると、現行の試験ではなく「知識・技能の活用力」を中心としたものにしていくことが必要である。

○ このため、現行の大学入試センター試験を廃止し、下記のような新テスト「大学入学希望者学力評価テスト(仮称)」を新たに実施する。

「大学入学希望者学力評価テスト(仮称)」の在り方

◆ 大学入学希望者が、これからの大学教育を受けるために必要な能力について把握することを主たる目的とし、「確かな学力」のうち「知識・技能」を単独で評価するのではなく、「知識・技能の活用力」を中心に評価する。

◆ 「教科型」に加えて、教科・科目の枠を越えた知識・技能の活用力を評価するため、「合教科・科目型」※15 「総合型」の問題を組み合わせて出題する。具体的な作問に向けた検討の状況を見据えつつ、将来は「合教科・科目型」「総合型」のみとし、教科・科目に必要な知識・技能とその活用力を総合的に評価することを目指す。

◆ 回答方式については、多肢選択方式だけではなく、記述式を導入する。

◆ 大学入学希望者に挑戦の機会を与えるとともに、資格試験的利用を促進する観点から、年複数回実施する。実施回数や実施時期については、入学希望者が他者からの指導に単に従うのではなく、自ら考え自ら挑戦することを第一義とした上で、高等学校教育への影響を考慮しつつ、高等学校・大学関係者を含めて協議する。

◆ 「1点刻み」の客観性にとらわれた評価から脱し、各大学の個別選抜における多様な評価方法の導入を促進する観点から、大学及び大学入学希望者に対して、段階別表示による成績提供を行う※16。

◆ CBT方式での実施を前提に、出題・回答方式の開発や、実施回数の検討等を行う。

◆ 特に英語については、民間の資格・検定試験を活用する※17。また、他の教科・科目や「合教科・科目型」「総合型」についても、英語についての検討状況も踏まえつつ、民間の資格・検定試験の開発・活用も見据えた検討を行う。


※15 「合教科・科目型」の作問に関するイメージは、別添資料3の通り。

※16 段階別表示の具体的な在り方や、併せてどのようなデータ(標準化得点や、パーセンタイル値に基づき算出されたデータ等)を大学に提供することが適当かについては、別途、専門家等による検討を行うこととする。

※17 「英語教育の在り方に関する有識者会議」報告書(平成26年9月26日)。

◆ 出題範囲は、選抜性の高低にかかわらず多くの大学で活用できるよう、広範囲の難易度とする。特に、選抜性の高い大学が入学者選抜の評価の一部として十分活用できる水準の、高難度の出題を含むものとする。

◆ 生涯学習の観点から、大学で学ぶ力を確認したいものは、社会人等を含め誰でも受検可能とする。

◆ 入学希望者の経済的負担や受検場所、障害者の受検方法を考慮するなど、受検しやすい環境を整備する。

○ こうした新テストの実施に向け、特に「合教科・科目型」及び「総合型」の作問の在り方については、知識・技能の活用力を問う問題(PISA調査、全国学力・学習状況調査の主として「活用」に関する問題、文部科学省が実施している情報活用能力調査、各大学の個別選抜における総合問題・小論文、高等学校の総合的な学習の時間における課題等)に関する知見を有する専門家を、民間も含めて結集し、早急に検討を進める。

(2)高等学校教育の質の確保・向上

○ 高等学校教育については、「国家及び社会の責任ある一員として、自立して生きる力」の確実な育成、またそのための教養と行動規範の涵養に向けて、教育内容、学習・指導方法、評価方法、教育環境を大きく転換させなければならない。

○ その際、高等学校教育部会が平成26年6月に取りまとめた「審議まとめ」において提言しているように、全ての生徒が共通に身につけるべき資質・能力の育成という「共通性の確保」と、多様な学習ニーズへのきめ細かな対応という「多様化への対応」を両者のバランスに配慮しながら進める必要がある。

○ このうち、「共通性の確保」という観点から、全ての高校生について、身につけるべき資質・能力を確実に育み、生徒の学習意欲の喚起、学習の改善を図ることができるよう、高等学校において身に付けた基礎学力を評価する新テスト「高等学校基礎学力テスト」(仮称)を導入する※18。

「高等学校基礎学力テスト(仮称)」の在り方

◆ 高校生が、自らの高等学校教育における基礎的な学習の達成度の把握及び自らの学力を客観的に提示することができるようにし、それらを通じて生徒の学習意欲の喚起、改善を図る。

◆ 上記以外にも、結果を高等学校での指導改善にも生かすことや、進学時や就職時に基礎学力の証明や把握の方法の一つとして、その結果を大学等が用いることも可能とする。
  ただし、進学時への活用は、調査書にその結果を記入するなど、あくまで高等学校段階における学習成果を把握するための参考資料の一部として用いることとする※19。

◆ 高校生の個人単位又は学校単位での希望参加型とする※20が、できるだけ多くの生徒が参加することを可能とするための方策を検討する。

◆ 対象教科・科目については、実施当初は国語、数学、外国語、地理歴史、公民、理科の必履修科目※21を想定して検討する※22(選択受検も可能)。
  英語等については、民間の資格・検定試験によって代替する。

◆ 出題内容については、高等学校で育成すべき「確かな学力」を踏まえ、知識・技能を活用する力を評価する問題も含めるが、学力の基礎となる知識・技能の質と量を確保する観点から、特に「知識・技能」の確実な習得を重視する。また、高校進学率約98%に達する高校生の知識・技能が広範にわたっていることに鑑み、高難度の問題から低難度の問題まで広範囲の難易度とする。

◆ 回答方式については、多肢選択方式を原則としつつ、記述式の導入を目指す。

◆ 高校生の主体的な学習を促進する観点から、在学中に複数回(例えば年間2回程度)受検機会を提供し、高校2年及び3年での希望に応じた受検を可能とする※23 。
  実施時期については、夏~秋を基本として、学校現場の意見を聴取しながら検討する。

◆ 各学校・生徒に対し、段階別表示による成績提供を行う※24とともに、各自の正答率等も併せて表示※25する。

◆ CBT方式での実施を前提に、出題・回答方式の開発等を行う。

◆ 家庭の経済的負担等を考慮するなど、生徒が受検しやすい環境を整備する。

◆ 「高等学校卒業程度認定試験」と統合する方向についても検討する※26。


※18 このテストで評価する学力を「基礎学力」としているが、これは「大学入学希望者学力評価テスト(仮称)」で評価する学力よりも低い学力という意味ではなく、高等学校教育で高校生が共通に身に付けるべき学力という意味である。

※19 高校部会の審議まとめにおいては、本テストの進学時への活用は、現在学力不問となっている推薦・AO入試を念頭に置いたものとされている。今後、大学入学者選抜について、一般入試、推薦入試、AO入試の区分を見直すことを踏まえ、今後の詳細な制度設計については、学校生活への影響も勘案しながら進められることが必要である。

※20 実施場所については、高等学校単位の受検の場合は高等学校で、個人の受検の場合は都道府県毎に会場を設ける方向で検討。

※21 高等学校学習指導要領を踏まえた問題とする。また、学習の達成度を測る性質の問題とし、選抜的なものとはしない。

※22 保健体育、芸術、家庭、情報及び職業に関する各教科は、実習等による幅広い学習活動によって評価される比重が高く、一般にペーパーテストになじみにくいこと等にも配慮して検討する。

※23 高校1年生からの受検を可能とするかは、学校現場の意見を聴取しながら検討する。

※24 テスト結果については、学校や生徒の序列化にならないよう、その取り扱いについて十分注意する。

※25 学習指導上の困難を抱える学校では、希望に応じてテストの一部問題の活用等の工夫を行う。

※26 単に統合するのではなく、両制度の趣旨を踏まえたテスト問題の在り方等、多様な観点から検討。

○ また、「多様化への対応」という観点については、高等学校が、高校生の能力、適性、興味・関心、進路希望等の多様化を受け止めて必要な対応を行うのみならず、年齢、性別、国籍、文化、障害の有無、家庭環境等にかかわらず多様な生徒を積極的に受け入れ、多様な学習環境を創り出すべきである。

○ 高等学校における教育内容については、「国家及び社会の責任ある一員として、自立して生きる力」を育む観点から充実を図るとともに、そのための教養と行動規範を涵養することとする。そのため、高等学校の教育課程について、例えば、自立して社会生活を営むために必要な内容を実践的に指導する時間の確保や、大学における卒業論文のような課題探究を充実させるための「総合的な学習の時間」の見直しなどを行う。具体的な教育課程の在り方については、今後予定される学習指導要領等の改善についての諮問を受けて更に検討する。

○ また、学習・指導方法については、大学入学者選抜の改革と併せて、知識・技能の習得のみならず、学力の三要素を踏まえた主体的・協働的な学びを中心とする授業へと飛躍的に発展させる。そのために、きめ細かな指導体制の充実を図るとともに、教員の資質・能力を新しい教育方法が実践できるように向上していくよう、研修・採用等の方法を整備する。

○ 加えて、新たな評価方法の研究・開発を行い、生徒の多様な学習成果や活動を評価する方法に転換する。
  進路指導についても、そうした評価を踏まえつつ、単なる知識・技能の習得度に基づく指導を行うのではなく、多面的・総合的な評価に基づき、生徒一人ひとりの将来目標の実現を支援する観点に転換する。
 併せて、調査書及び指導要録の様式等についても、新たな高等学校教育の在り方を踏まえ、生徒の多様な学習成果や活動が反映されたものになるよう改訂する。

(3)大学教育の質的転換の断行

○ 大学教育においては、高等学校教育において培われた「生きる力」「確かな学力」をさらに発展・向上させるよう、教育内容、学習・指導方法、評価方法、教育環境を抜本的に転換する。

○ 「主体性・多様性・協働性」を育成する観点からは、大学教育を、従来のような知識の伝達・注入を中心とした授業から、学生が主体的に問題を発見し解を見いだしていく能動的学修(アクティブ・ラーニング)に転換し、特に、少人数のチームワーク、集団討論、反転授業、実のある留学や単なる職場体験に終わらないインターンシップ等の学外の学修プログラムなどの教育方法を実践する。

○ 大学において育成すべき力を学生が確実に身につけるためには、大学教育において「教員が何を教えるか」よりも「学生が何を身に付けたか」を重視し、各大学が大学教育で身に付けさせる力等を明確にした上で、教育課程の体系化・構造化を行う。また、大学全体としての共通の評価方針のもと、学生の学修成果を把握・評価し、これに基づく厳格な成績評価や卒業認定を行う。そのためには、多様な評価手法の開発や、評価に係る専門的人材の育成を迅速に行わなければならない。

○ 認証評価制度についても、教育環境等の外形を中心にした現在の評価方法から、学生の学修成果や各大学における成果把握と転換の取組(内部質保証)といった、成果を重視した評価に改善することが求められる。

○ さらに、大学教育の質的転換を進める上では、学生同士が切磋琢磨し、相互に刺激を与えながら成長する場を創ることが重要である。このため、国籍、文化、年齢、性別、障害の有無、家庭環境等にかかわらず、広い分布を持って教職員や学生を受け入れることによって、大学の構成員の多様化を進め、主体性をもって多様な人々と協働するとともに創造性を磨くことのできる学習環境を実現するとともに、多様な学生に対応できる教育カリキュラムが用意しなければならない。
  なお、大学への入学についても、高等学校卒業後に入学する道だけではなく、編入学や転入学、社会に出た後の学び直しも含めた社会人入学など多様な道を開くことにより、容易に進路を変更でき、生涯を通じて学修に取り組める環境を実現する。

○ また、大学入学後の初年度における教育については、初年次教育、導入教育、リメディアル教育等の様々な概念が混在している。高大接続の観点から、高等学校教育の質の確保・向上とアドミッション・ポリシーに基づく大学入学者選抜の確立の上に、その意義をもう一度見直すならば、初年次教育は、高等学校で身に付けるべき基礎学力の単なる補習とは一線を画すべきであり、高等学校教育から大学における学修に移行するにあたって、大学における本格的な学修への導入、能動的な学修に必要な方法の習得等を目的とするものとして捉えるべきである。
  こうした大学初年次教育の展開・実践は、高校教育の成果を大学入学者選抜後の大学教育へとつなぐ、高大接続の観点から極めて重要な役割を果たすものであり、その質的転換を断行するには、高等学校教育、大学教育の新しい姿を確立するととともに、これらの教育で育成すべき力を円滑に接続するための研究開発が必要である。

○ 上記の改革を実現するためには、学長のリーダーシップの下での戦略的な大学経営が必要であり、来年4月から施行される学校教育法改正の趣旨も踏まえ、大学のガバナンス改革を推進する必要がある。

(4)新テストの一体的な実施 

○ 「高等学校基礎学力テスト(仮称)」と「大学入学希望者学力評価テスト(仮称)」とは、目的や性格の違いがある一方で、CBTの導入や両テストの難易度・範囲の在り方など、共通に検討すべき事項が多く、一体的な検討が必要である。

○ 出題範囲についても、「高等学校基礎学力テスト(仮称)」は、6教科の必履修科目について、主として学力の基礎となる「知識・技能」を評価するものであり、「大学入学希望者学力評価テスト(仮称)」は、主として「知識・技能の活用力」を評価するものである。両者はテストの目的だけでなく出題範囲についても異なっているが、高校から大学への学力の円滑な接続を図るために、両テストの難易度をできるだけ連続的にすることが必要である。

○ 国においては、一体的な検討を行う専門家会議とその事務局体制を早急に立ち上げるとともに、両テストの円滑な実現に向けて、一体的な実施体制を構築することが必要である。

○ 新テストの実施主体については、共通一次試験や大学入試センター試験等、高等学校教育の達成度を把握する試験や全国的な大規模の試験の実績・ノウハウを有する大学入試センターを念頭に置きつつ、その機能や在り方の大幅な見直しを含めて検討すべきである。
  また、実施主体においては、新テストの実施のみならず、「個別選抜」、「アドミッション・オフィス強化」等を含めた支援と方法開発、面接や集団討論等を含むテスト支援と方法開発、調査書の評価等を含む評価支援と方法開発、専門的人材の育成、人材の選抜・評価についての新しい方法の開発、左記の事項に関わる国内外の調査等を行うことが必要である。

3.改革を実現するための具体策(「高大接続改革実行プラン(仮称)」の策定)

○ 高大接続改革を実現するためには、改革に向けた具体的施策や改革スケジュールの明確化が必要である。そうした具体策やスケジュールについて、国や新テストの実施主体等に検討を求める事項の骨子を、以下の通り示すこととする。この骨子をもとにさらなる検討を重ね、その詳細については国が「高大接続改革実行プラン(仮称)」といった具体的な形で公表し、強力に推進することを求める。

<高大接続改革の実現に向けた、具体策とスケジュールの骨子>

1.各大学における個別選抜体制の強化

○ 各大学における個別選抜改革が実現するかどうかは、アドミッション・オフィスの強化にかかっている。国は、各大学のアドミッション・オフィスの整備・強化の在り方について検討を行い、具体的な支援策を取りまとめる。

○ 併せて、アドミッション・ポリシーの在り方について専門家による検討を行い、平成26年度中に策定事例集とガイドラインを策定する。

2. 各大学における改革実現のための実効的な政策手段

○ 国は、大学にとって改革のインセンティブとなるような財政措置や、認証評価、情報公開の在り方を検討し、具体策を取りまとめる。

○ 大学入学者選抜実施要項を抜本的に見直し、一般入試、推薦入試、AO入試の区分を廃止し、実施方法や実施時期等について新たなルールを構築するため、高校生をはじめとした関係者が見通しを持って対応できるよう配慮しつつ、平成26年度中に見直しの具体案を取りまとめるものとする。併せて、新たなルールに基づく入学者選抜への転換を促進するための具体策についても検討する。

3.新テストの制度設計、実施体制

○ 「高等学校基礎学力テスト(仮称)」と「大学入学希望者学力評価テスト(仮称)」について一体的な検討を行い、「高等学校基礎学力テスト(仮称)」については平成31年度から、「大学入学希望者学力評価テスト(仮称)」については平成32年度から段階的に実施する。
  国は、高校生をはじめとした関係者が見通しを持って対応できるよう、実施までの具体的な制度設計、プレテストの実施等に係る詳細なスケジュールを策定し、公表する。

○ 国は、新テストについて早急に専門家会議を立ち上げ、対象となる教科・科目、「大学入学希望者学力評価テスト(仮称)」における「教科・科目型」、「合教科・科目型」、「総合型」等の具体的な枠組み、問題の蓄積方法、作問の方法、記述式問題の導入方法、CBT方式の導入方法、成績表示の具体的な在り方などについて検討を行い、今後取りまとめられる高大接続に関する答申後一年を目途に具体的な内容について結論を得る。

○ 「大学入学希望者学力評価テスト(仮称)」における知識・技能の活用力を問う問題については、「教科型」において他教科の内容も掛け合わせつつ活用力を問う問題と、「合教科・科目型」として教科・科目の枠を越えた活用力を問う問題の両方について検討し、平成32年度から実施する。

4.評価方法の改革

○ 国は、調査書や高等学校の指導要録の改訂に関する専門家会議を立ち上げ、今後取りまとめられる高大接続に関する答申後一年を目途に具体的な改訂内容について結論を得る。

○ 新テストを担う実施主体においては、高等学校教育・大学教育・大学入学者選抜を通じた新たな人材選抜方法・学力評価方法の開発、評価方法に関する専門人材の育成、教員の評価力の向上等に関する具体的な検討を行う。
  併せて、大学入学後の学生の追跡調査等、アドミッション・ポリシーに示した評価基準・方法の妥当性を検証する方法についても、具体的な検討を行うものとする。

4.社会全体で改革を共有するための方策

○ 高大接続の再構築という大きな改革を、我が国の社会全体で実現していくためには、教育関係者はもちろんのこと、子供たちやその保護者、企業、地域社会、その他、社会のあらゆる人々が改革を共有する必要がある。我が国の将来の社会構造の在り方や、そのために必要な人材像を社会的に共有し、特に、高等学校・大学の卒業生の就職先である企業における人材開発・人事採用等の長期的展望と、本方針に基づく改革をしっかりと接続していく必要がある。

○ 今後取りまとめられる高大接続に関する答申を受けて、国が、「高大接続改革フォーラム」の全国実施など、理解啓発のための広報活動をあまねく展開し、答申の提言内容及び「高大接続改革実行プラン(仮称)」に対する社会への周知・理解を十分に広げるとともに、各団体等に要請を行うことを求める。

お問合せ先

初等中等教育局初等中等教育企画課教育制度改革室

(初等中等教育局初等中等教育企画課教育制度改革室)

-- 登録:平成27年05月 --