5.特別支援教育を充実させるための教職員の専門性向上等

○ インクルーシブ教育システム構築のため、すべての教員は、特別支援教育に関する一定の知識・技能を有していることが求められる。特に発達障害に関する一定の知識・技能は、発達障害の可能性のある児童生徒の多くが通常の学級に在籍していることから必須である。これについては、教員養成段階で身に付けることが適当であるが、現職教員については、研修の受講等により基礎的な知識・技能の向上を図る必要がある。

○ すべての教員が多岐にわたる専門性を身に付けることは困難なことから、必要に応じて、外部人材の活用も行い、学校全体としての専門性を確保していくことが必要である。

○ 学校全体としての専門性を確保していく上で、校長等の管理職のリーダーシップは欠かせない。また、各学校を支援する、教育委員会の指導主事等の役割も大きい。このことから、校長等の管理職や教育委員会の指導主事等を対象とした研修を実施していく必要がある。

○ 特別支援学校教員の特別支援学校教諭免許状(当該障害種又は自立教科の免許状)取得率は約7割となっており、特別支援学校における教育の質の向上の観点から、取得率の向上による担当教員としての専門性を早急に担保することが必要である。このため、養成、採用においては、その取得について留意すべきである。特に現職教員については、免許法認定講習の受講促進等の取組を進めるとともに、その後も研修を通じた専門性の向上を図ることが必要である。

○ 特別支援学級や通級による指導の担当教員は、特別支援教育の重要な担い手であり、その専門性が校内の他の教員に与える影響も極めて大きい。このため、専門的な研修の受講等により、担当教員としての専門性を早急に担保するとともに、その後も研修を通じた専門性の向上を図ることが必要である。

○ 「共生社会」とは、これまで必ずしも十分に社会参加できるような環境になかった障害のある者等が、積極的に参加・貢献していくことができる社会であり、学校においても、障害のある者が教職員という職業を選択することができるよう環境整備を進めていくことが必要である。

(1)教職員の専門性の確保

1.すべての教員が身に付けるべき基礎的な知識・技能

○ インクルーシブ教育システム構築のため、すべての教員は、特別支援教育に関する一定の知識・技能を有していることが求められる。特に発達障害に関する一定の知識・技能は、発達障害の可能性のある児童生徒の多くが通常の学級に在籍していることから必須である。これについては、教員養成段階で身に付けることが適当であるが、現職教員については、研修の受講等により基礎的な知識・技能の向上を図る必要がある。

○ 「合理的配慮」については、特別支援教育に関わる教員の専門性として位置付けていくことが必要である。まず、これを特別支援教育に関わる教員が正しく認識して取り組むとともに、すべての教員が認識することが重要である。

○ 発達障害も含め、それぞれの障害種について、中心となる担当教員を任命権者が研修その他の支援により計画的に育成していくことが必要である。

○ 特別支援学校の教員については、特別支援教育の専門性を更に高めるとともに、教科教育の専門性をもバランス良く身に付けることが重要である。特に中等教育においては、教科担任制であることに留意する必要がある。

2.学校外の資源をも活用した学校全体としての専門性の確保のためのシステム構築

○ すべての教員が多岐にわたる専門性を身に付けることは困難なことから、必要に応じて、外部人材の活用も行い、学校全体としての専門性を確保していくことが必要である。

○ 現場での意識改革、指導方法の充実、人的・物的な環境整備、校長をはじめとする教員の指導力の向上(特に、特別支援教育についての専門性や多様性を踏まえた学校経営・学級経営といったマネジメント能力)等を総合的に進める必要がある。

○ 小・中学校においては、特別支援学級担当教員の多くは通常の学級と特別支援学級を行き来するので、長期間にわたり専門性を維持することが難しい。このため、特別支援学級等に配置した教員の異動について、学校全体の専門性の確保の観点からの配慮を行うことなども考えられる。また、特別支援学級等の担当教員の研修についても、例えば、特別支援学校を経験した教員が、特別支援学級等の担当教員に対し日常的なOJT(On the job training、職場内研修)で経験や知見を伝授する機会を設けるなど、設置者や学校長のレベルにおいて創意工夫を行うことが重要である。また、このような観点からも、特別支援学校と特別支援学級の間の双方向の人事交流を積極的に行っていくことは大きな意味がある。

○ 小・中学校等の特別支援教育担当教員は、特別支援教育の重要な担い手であり、その専門性が校内に与える影響は大きいことから、特別支援学校との人事交流等により特別支援教育の中核となる教員を養成するとともに、障害のある子どもの教育的ニーズや学校の状況に応じ、それらの人材を各学校に配置するなどの人事上の配慮を行うことが考えられる。

○ 特別支援学校においては、学校として障害種ごとの専門性を確保していくことを考慮した上で、同一校における校長をはじめとする教員の在職年数の延長など弾力的な人事上の配慮を行うことも考えられる。一方で、各個人に着目すると教員採用後早い段階で、障害の重度・重複化に対応し複数の障害種の特別支援学校を経験させるため、教員の在職年数を短くすることを人事上の配慮として行うことも考えられる。

○ 特別支援学校における特別支援教育コーディネーターについては、校内委員会・校内研修の企画・運営、関係諸機関・学校との連絡・調整、保護者からの相談窓口に加え、前述した特別支援学校のセンター的機能を果たすため、その専門性の確保が期待される。特に、センター的機能を十分に果たすためにも、特別支援学校における特別支援教育コーディネーターが複数指名されるとともに、その機能強化のための人的措置が重要である。

○ 幼・小・中・高等学校等における特別支援教育コーディネーターについては、校内や地域の関係者、関係機関と効果的に連携する力が求められるが、それだけでなく、学校全体の教員の資質能力の向上に指導的な役割を果たすことも期待されることから、その専門性を高めるための方策について、今後検討していく必要がある。また、コーディネーターによる継続した支援や学校における専門性確保のためには、コーディネーターの複数指名が重要である。

○ 全国的な特別支援教育の質の向上を図るため、特別支援教育のナショナルセンターである独立行政法人国立特別支援教育総合研究所が実施する研究事業、研修事業、情報普及事業等を一層推進していく必要がある。また、インクルーシブ教育システム構築のための各教員の専門性の向上について、研修事業の実施や現在実施している研究の成果を普及させていくことが必要である。さらに、各大学における取組を国立特別支援教育総合研究所が支援するとともに、関係者に情報提供していく必要がある。また、通信制大学等においても、特別支援学校の教諭免許状の取得に活用できる科目が開設されており、それらの更なる充実・活用が求められる。

(2)各教職員の専門性、養成・研修制度等の在り方

1.校長等の管理職、教育委員会の指導主事等を対象とした研修

○ 学校全体としての専門性を確保していく上で、校長等の管理職のリーダーシップは欠かせない。また、各学校を支援する、教育委員会の指導主事等の役割も大きい。このことから、校長等の管理職や教育委員会の指導主事等を対象とした研修を実施していく必要がある。

○ 教員の資質を向上させるために重視すべきは、校長等の管理職の資質向上を図ることである。管理職の特別支援教育に関する認識、マネジメント力、リーダーシップの発揮が重要であり、これらに資する研修が実施されるべきである。

○ 教育委員会の指導主事の専門性も重要である。教育委員会の指導主事が、発達障害についての理解が十分ではない場合がある。学校を指導する指導主事が特別支援教育について十分理解していなければ、適切な指導が行き渡らない。指導主事の研修を徹底している自治体や特別支援教育の担当指導主事と連携しながら発達段階に応じた子どもの問題行動の理解に取り組んでいる自治体を参考にするなどして、指導主事に対する効果的な研修を実施すべきである。教育委員会全体で、特別支援教育についての理解が十分なものとなるよう、研修を行っていくことが望ましい。

2.すべての教員についての養成・研修

○ 特別支援教育の更なる推進のためには、すべての教員が特別支援教育についての基礎的な知識及び技能を有する必要がある。現在は、教員養成段階において、特別支援教育に関する内容を含む科目を単位修得することになっているが、特別支援教育に特化した科目は必修となっていない。現行制度下でも、特別支援教育についての科目の履修を推奨するとともに、将来的には、必要な単位数を決めて、必修とすることも考えられる。
 (参考資料26:特別支援教育に係る教育職員免許状について)

○ 発達障害に関しては、すべての教員が養成段階で学ぶ仕組みづくりが必要である。また、ぜん息や食物アレルギー等の子どもが増加傾向であることを踏まえ、養護教諭と連携しつつ、健康状態の把握や対応についても学ぶべきである。

○ 都道府県や市町村における特別支援教育に関する研修をすべての教職員を対象として実施することが重要である。そのため、教育委員会が主催する研修の実施に当たっては、教職員が研修を受けやすい環境づくりを行うことが必要である。また、国・私立学校関係者や保育所関係者も受講できるようにすることが望ましい。(参考資料27:教員の特別支援教育に関する研修の受講状況)

○ すべての教職員が最低限身に付けていなければならない特別支援教育の基本的な知識・技能を、経験年次別研修等を通して、身に付けられるようにしていくべきである。また、免許状更新講習における講義内容等に明確に位置付けて実施することも考えられる。

○ 校内研修等での教職経験豊かな教員を中心とした教員間の学び合いや支え合いにより、学校内で専門的知識・技能等を受け継いでいくことが重要である。文部科学省が進めてきた「特別支援教育体制整備事業」においては、各学校の様々な課題について、特別支援学校や特別支援教育センターが助言、協議する校内研修を支援している。なお、これらの校内における研修は重要であるものの、OJTだけでは、体系的な知識が身に付かないことから、人事交流等何らかの形で特別支援教育に携わる機会を設けるなど研修と実践を効果的に組み合わせることが適当である。(参考資料28:特別支援教育体制整備の推進)

○ 学生の段階で継続的に学校における特別支援教育を経験することは、実践的指導力を身に付けるという観点から効果がある。また、親の会等の障害者関係団体、NPO等が開催するキャンプ等に参加することは、障害のある子どもの状況を理解できるようになるという効果がある。これらの活動に学生が参加することについて、単位を付与するなど、各大学の養成課程において活用することを検討することも考えられる。さらに、教員養成段階において、聴覚障害の学生がいると学生は手話を覚え、視覚障害の学生がいると点字を覚え、肢体不自由の学生がいれば介助の方法を理解するなど、それぞれ支援を通じて周囲の学生の理解が深まる、といった効果が期待できる。

3.特別支援学校教諭についての養成・研修

○ 特別支援学校教員の特別支援学校教諭免許状(当該障害種又は自立教科の免許状)取得率は約7割となっており、特別支援学校における教育の質の向上の観点から、取得率の向上による担当教員としての専門性を早急に担保することが必要である。このため、養成、採用においては、その取得について留意すべきである。特に現職教員については、免許法認定講習の受講促進等の取組を進めるとともに、その後も研修を通じた専門性の向上を図ることが必要である。研修と実践を通じた授業力の向上を期待する。(参考資料29:特別支援学校教諭免許状の保有状況)

○ 特別支援学校の教員は必ず特別支援学校教諭免許状を保有するという方向で進めるべきである。そのため、保有率の計画的な引上げの方策として、同免許状を保有せずに特別支援学校に勤務することとなった教員には、数年内に保有させるなどの方針を教育委員会が明確にすべきである。また、そのために必要な環境整備や免許法認定講習が最優先で受けられるような配慮が必要である。さらに、専門性向上のため、地域の関係機関との連携による研修、大学等との研修を実施していくことが重要である。なお、大学の教員養成課程が限られている障害種についての教員養成の在り方についても、今後検討する必要がある。

○ 障害者の言語・コミュニケーションの手段の習得や補装具等について知識を身に付ける研修の充実を図るとともに、そのための教材の充実を図っていく必要がある。また、教員養成課程で学ぶ学生に対して、手話、点字、指点字、触手話といったコミュニケーション方法について教えることについて充実を図ることも考えられる。

○ 特別支援学校教諭免許状については、教員養成課程において必要な専門性を確保するために、教員の資質能力向上特別部会における議論を踏まえて検討していく必要がある。

○ 特別支援学校の特別支援教育コーディネーターについては、センター的機能の中心として、幼・小・中・高等学校等への支援を念頭においた発達障害についての知識・技能や実態把握の方法、関係機関との調整役としての障害者福祉・障害者雇用の制度に関する基本的な知識を身に付けることが必要である。

4.小・中学校の特別支援学級や通級による指導の担当教員の養成・研修

○ 特別支援学級や通級による指導の担当教員は、特別支援教育の重要な担い手であり、その専門性が校内の他の教員に与える影響も極めて大きい。このため、専門的な研修の受講等により、担当教員としての専門性を早急に担保するとともに、その後も研修を通じた専門性の向上を図ることが必要である。

○ 特別支援教育に関する免許状や特別支援学級担当教員免許状の創設を求める意見もあるが、教員の資質能力向上特別部会の議論も踏まえつつ、中長期的に論議することが必要である。特別支援学級や通級による指導の担当教員が現在の特別支援学校教諭二種免許状を保有していることが望ましいが、短期的に保有率を大幅に引き上げることは難しい。このため、同免許状取得を奨励しつつも、現在早急に必要とされているのは、特別支援学級や通級による指導の担当教員としての専門性を担保することである。

○ 担当教員としての専門性を担保するため、新たに担当教員となった者を対象とした研修を都道府県教育委員会等が年度当初に実施することが考えられる。教員の資質能力向上特別部会で議論されている「一般免許状(仮称)」の詳細な制度設計の際に、このような専門性を担保するための内容について、教員養成段階においてあらかじめ学ぶことについても検討する必要がある。また、年度当初の研修終了後も、例えば、授業研究の指導ができる退職教員を講師として研修を実施して専門性を向上させるといった取組が必要である。担当教員の配置の際は、地域全体の専門性の確保の観点から、その中核を担う担当教員については人事異動上の配慮を行うことが適当である。さらに、各学校において新規採用された教員一人のみを担当としないことが適当である。

5.幼・小・中・高等学校等の特別支援教育コーディネーターの研修

○ 経験のあるコーディネーターと新任のコーディネーターが少人数で研修を行うことにより、経験や情報・知見を共有し、新任者の専門性を高め、具体的に校内の分担を決めたり、学校組織を動かせるようになったり、多様な関係者をコーディネートすることができるようになることが望ましい。例えば、地域のネットワークの中で効果的な支援ができるような調整能力の向上のための研修を実施することに加えて、専門的な知識・技能についての研修を実施することが重要である。

○ 特別支援教育コーディネーターは、障害のある児童生徒等への支援として、教育分野のみならず、医療、福祉等多様な行政サービスがあることを把握した上で、その対象児童生徒等の状況に応じてコーディネートができることが重要である。このため、事例研究的に障害のある者の立場や多様な関係者の声を聞き、ケースカンファレンスを行う研修が有用であり、このような取組が教育委員会と首長部局の連携の中で進められるべきである。

6.特別支援教育支援員の研修

○ 特別支援教育支援員の資質向上を図るため、各教育委員会は、研修を計画的に実施するとともに、これまでの研修成果等を踏まえつつ、特別支援教育支援員の研修カリキュラムを検討し、採用時研修やフォローアップ研修を実施することが必要である。
 (参考資料30:特別支援教育支援員について)

(3)教職員への障害のある者の採用・人事配置

○ 「共生社会」とは、これまで必ずしも十分に社会参加できるような環境になかった障害のある者等が、積極的に参加・貢献していくことができる社会であり、学校においても、障害のある者が教職員という職業を選択することができるよう環境整備を進めていくことが必要である。

○ 児童生徒等にとって、障害のある教職員が身近にいることは、障害のある人に対する知識が深まるとともに、障害のある児童生徒等にとってのロールモデル(具体的な行動技術や行動事例を模倣・学習する対象となる人材)となるなどの効果が期待される。このため、特別支援学校をはじめとする様々な学校においては、障害のある者の教職員が配置されるよう、採用や人事配置について配慮する必要がある。併せて、学校においては、教職員の障害の特性等に考慮し、職務遂行に必要な支援を行う必要がある。

○ 助け助けられる、教え教えられる、といった関係は、双方向で立場が相対化されるインクルーシブな人間関係であり、児童生徒間で見られる関係であるが、障害のある教員は、その関係に自ら自然に参画し実践する役割を果たすことができる。

○ 高等教育の教員養成課程において、入学者選抜時の配慮も含めて、障害のある学生のための環境整備が行われることが望まれる。そのため、高等教育においても、「合理的配慮」についての普及啓発が行われていくことが望ましい。

お問合せ先

初等中等教育局初等中等教育企画課教育制度改革室義務教育改革係

(初等中等教育局初等中等教育企画課教育制度改革室義務教育改革係)

-- 登録:平成24年09月 --