資料4(その2) 不登校の児童生徒への支援について

1.中央教育審議会初等中等教育分科会における主な意見

第61回:平成20年6月16日(月曜日)
第62回:平成20年10月15日(水曜日)
第64回:平成21年2月27日(金曜日)

● 不登校については、特定の子どもに特定の問題があることによって起こることではなく、どの子どもにも起こりうることとしてとらえることが必要である。

● 不登校対策は、ともすれば不登校になった子どもへの対応が中心となりがちだが、不登校に対する早期発見・早期対応の取組とともに、不登校の未然防止、不登校にならないための対策を講じていくことが必要である。
 ただし、一度不登校になった後でもきめ細かな対応をすることによって、立ち直らせることは可能であるという認識が不可欠である。

● 不登校の問題への対応は、学校のみの対応では限界があり、学校外の公的機関である教育支援センター(適応指導教室)やNPO、ボランティアといった民間組織・団体等とも連携した対応が必要になる。
 また、家庭と地域と学校が一緒になり、社会総ぐるみで子どもたちを育てていこうとする、コミュニティ・スクールの取組は、不登校の児童生徒への支援についても有効であると考えられる。

● いわゆる「中1ギャップ」が不登校対策における一つの課題ともなっており、不登校の児童生徒への支援を考えるに当たっては、小中一貫教育等の取組など小学校と中学校の接続、連携の在り方について検討を進める必要がある。

● 不登校や、いわゆるひきこもり、ニートといった現象は、人生のステップの間に一つの空白を作ってしまうことであり、将来の社会的自立に向けた支援という視点をもって対応することが重要となる。卒業後や学校教育を離れた後も相談に乗れるシステムが必要とされる。

2.文部科学省の基本的な考え方及び支援策

(1)不登校の基本認識について

 不登校児童生徒への支援に当たっては、今後とも平成15年5月16日付文部科学省初等中等教育局長通知「不登校への対応の在り方について」に基づき、施策の充実を図っていく必要がある。
 特に、1.不登校については、特定の子どもに特有の問題があることによって、起こることではなく、どの子どもにも起こりうることとしてとらえ、当事者への理解を深める必要があること、2.不登校という状況が継続すること自体は、本人の進路や社会的自立のために望ましいことではないこと、3.不登校は、その要因・背景が多様であることから、教育上の課題としてのみとらえて対応することが困難な場合があるが、一方で、児童生徒に対して教育が果たすべき役割が大きいことに着目し、学校や教育委員会関係者等が一層充実した指導や家庭への働きかけ等を行うこと必要があること、について、不登校に対応する上で持つべき基本的な姿勢とし認識しておくことが重要である。

(2)施策の具体的な充実方策について

<教育支援センター(適応指導教室)における取組>

○ 不登校児童生徒の学校復帰に向けた指導・支援を行うため、教育委員会が設置している、教育支援センター(適応指導教室)については、不登校児童生徒の集団生活への適応、情緒の安定、基礎学力の補充、基本的生活習慣の改善等のための相談・適応指導を行う上で、有効な取組を行っているところである。
 一方で、指導体制をめぐっては、指導員の非常勤職員の比率が高い(平成19年度においては73.4%)など、現状で必ずしも十分な体制となっていないなど課題が指摘されているところであり、常勤職員の配置やカウンセラー等の専門家の配置、指導員の研修の充実等が望まれるところである。

→ 今後は、文部科学省において設置された「教育相談等に関する調査研究協力者会議」の報告書(平成21年3月)などを踏まえ、学校、地域の実情に応じたスクールカウンセラー及びスクールソーシャルワーカーの柔軟な配置の在り方の一つとして、自治体の取組として、教育支援センター(適応指導教室)へのスクールカウンセラー及びスクールソーシャルワーカー等の配置・派遣を支援していく。

<指導要録上の出席扱い>

○ 不登校児童生徒の中には、教育支援センター(適応指導教室)やいわゆるフリースクールなど、学校外の施設において相談・指導を受けている者もおり、このような児童生徒の努力を学校として適切に評価し、学校復帰などの社会的自立を支援するため、小・中・高等学校の不登校児童生徒が学校外の機関で指導等を受ける場合について、一定要件を満たすとき校長は指導要録上「出席扱い」にできることとしている。
 また、指導要録上「出席扱い」となった児童生徒の経済的負担を軽減するため、学校外の施設に通所する場合、交通事業者の理解と協力の下に、通学定期乗車券制度(いわゆる「学割」)の適用を受けることができることとなっている。

→ 今後は、高等学校における不登校は、中途退学に至るケースも多く、また、いわゆるニート、ひきこもりといった社会的問題との関連性も指摘されていることなどから、平成21年4月より新たにできることとなっている、高等学校における不登校生徒に対する指導要録上の出席扱いについて、この仕組みの活用を促進していく。

<不登校の児童生徒を対象とした学校の設置に係る教育課程の弾力化>

○ 平成17年7月6日、学校教育法施行規則の一部を改正する省令の施行等により、構造改革特別区域法による特例措置を、全国的に実施できることとし、学校生活への適応が困難であるため相当の期間小学校、中学校、高等学校又は中等教育学校を欠席していると認められる児童生徒等を対象として、文部科学大臣が認める場合、教育課程の基準によらずに特別の教育課程を編成して教育を実施することができることとしている。
 平成21年6月現在、10校が文部科学大臣の認可を受け、不登校児童生徒の学習状況にあわせた少人数指導や習熟度別指導、個々の児童生徒の実態に即した支援、学校外の学習プログラムの活用など、指導上の工夫を加えた特別の教育課程により、教育を実施している。なお、平成17年の全国化後、本制度を活用する学校数は、6校から10校に増加している。

→ 今後は、不登校児童生徒の原因・背景は様々であることから、より不登校児童生徒の実態に即した工夫を加えた特別の教育課程の編成ができるよう、本制度の更なる活用等を促進していく。

<IT等の活用による不登校児童生徒の学習機会の拡大>

○ 平成17年7月6日、構造改革特別区域基本方針に基づくによる特例措置において認定されたものを、全国的に実施できることとし、不登校児童生徒が自宅においてIT等を活用した学習活動を行うとき、保護者と学校との間に十分な連携・協力関係が保たれていること等の要件を満たすとともに、その学習活動が学校への復帰に向けての取組であることを前提とし、かつ不登校児童生徒の自立を図るうえで有効・適切であると判断する場合に、指導要録上出席扱いとすること及びその成果を評価に反映することができることとしている。
 平成19年度においては、小学校43人、中学校176人(合計219人)の児童生徒が自宅におけるIT等を活用した学習活動を指導要録上の出席扱いとされている。

→ 今後は、不登校児童生徒の中には、家庭に引きこもりがちであるため、十分な支援が行き届いているとは言えなかったり、不登校であることによる学習の遅れなどが、学校への復帰や中学校卒業後の進路選択の妨げになっている場合があること等から、本制度の更なる活用を促進していく。

<高等学校の不登校生徒に対する通信の方法を用いた教育による単位認定>

○ 平成21年3月31日付初等中等教育局長通知「高等学校の全日制課程及び定時制課程における不登校生徒に対する通信の方法を用いた教育による単位認定について」により、高等学校の全日制・定時制課程において、不登校生徒を対象として、通信の方法を用いた教育により、36単位を上限として単位認定を行うことを可能としている。これは、構造改革特別区域基本方針に基づく特例措置について、全国的に実施できることとしたもの。

→ 今後は、各学校において教職員等の体制整備や具体的な指導計画の作成など、通信の方法を用いた教育を実施する上で必要な事項に十分留意した上で、新たな不登校生徒への支援方策として有効に活用されるよう促進していく。

<中卒認定試験における受験資格の拡大及び高校入試における配慮>

○ 平成9年3月、学校教育法施行規則の一部を改正し、不登校のため,結果として中学校を卒業できなかった場合においても,同年齢の生徒に遅れることなく高校受験ができるようにするため,中学校在学中に中学校卒業程度認定試験を受験できることとしている。
 また、平成9年11月、「高等学校の入学者選抜の改善について」(初等中等教育局長通知)により、都道府県教育委員会等に対し、高等学校の入学者選抜にあたって,不登校生徒については,進学動機等を自ら記述した書類など調査書以外の選抜資料の活用を図るなど,より適切な評価に配慮するよう促しているところである。

→ 今後とも、これらの制度の周知徹底を図るなど、有効・適切に活用されるよう促進していく。

<スクールカウンセラー等活用事業>

○ 児童生徒の臨床心理に関して高度に専門的な知識・経験を有するスクールカウンセラーや、児童が気軽に相談できる相談相手として「子どもと親の相談員」等を配置するとともに、24時間体制の電話相談を実施し、教育相談体制の整備を支援している。

→ 今後は、平成20年度から配置をしている小学校へのスクールカウンセラーの配置をより一層促進していく。
 また、文部科学省において設置された「教育相談等に関する調査研究協力者会議」の報告書(平成21年3月)などを踏まえ、学校現場に定着したスクールカウンセラー制度が、今後においても教育相談の中でその専門性をいかし有効に機能するとともに、子どもたちが抱える問題にきめ細かく対応できるよう、地域や学校の実情に応じた柔軟な配置や、幅広い人材の活用を支援していく。

<スクールソーシャルワーカー活用事業>

○ 教育分野に関する知識に加えて、社会福祉等の専門的な知識や技術を用いて、児童生徒の置かれた様々な環境に働き掛けて、支援を行うスクールソーシャルワーカーを配置し、教育相談体制の整備を支援している。

→ 今後は、文部科学省において設置された「教育相談等に関する調査研究協力者会議」の報告書(平成21年3月)においても、スクールソーシャルワーカーの活用が、不登校など問題行動等の現象面でなく、その行動等の背景にある子どもを取り巻く環境にアプローチすることや、学校現場にソーシャルワーク的な手法を定着させることなどに有効であることが述べられており、地域や学校の実情に応じたスクールソーシャルワーカーの活用を支援していく。

<問題を抱える子ども等の支援事業>

不登校、暴力行為、いじめ、児童虐待、高校中退などの児童生徒の問題行動等への対応に当たって1.未然防止、早期発見・早期対応につながる効果的な取組、2.関係機関等と連携した取組、3.教育支援センター(適応指導教室)を活用した取組といった観点から、各地域において、先駆的な実践研究を行い、効果的な取組を全国に普及するため、「問題を抱える子ども等の自立支援事業」を実施している。
 また、不登校などの問題行動等を起こす児童生徒の背景や状況は個々のケースにより様々であることから、NPO法人や民間団体等を活用し、個々の児童生徒の実態に応じた問題行動等の解決を図るための教育プログラム等の開発を委託する、「問題行動等への対応におけるNPO等の活用に関する実践研究事業」を実施している。

→ 今後とも、自治体及びフリースクール等民間団体における先駆的な様々な取組みを支援し、その普及を図っていく。

<豊かな体験活動推進事業>

児童生徒の豊かな人間性や社会性をはぐくむため、成長段階に応じて、自然の中での長期宿泊活動や社会奉仕活動など様々な体験活動を行うことが極めて有意義であり、また、命を大切にする心や他人を思いやる心、規範意識等の育成を図ること等は重要であることから、他校のモデルとなるような体験活動を実施し、その成果を全国に普及させ、小・中・高等学校等における豊かな体験活動の円滑な展開を推進する、「豊かな体験活動推進事業」を実施している。

→ 今後は、特に、文部科学省、農林水産省、総務省の3省が連携して実施する「自然の中での長期宿泊体験事業(農山漁村におけるふるさと生活体験推進校)」により、一週間程度の長期宿泊体験、自然体験活動の取組を推進していく。

3.今後の不登校の児童生徒への支援に必要な視点

(1)学校における生徒指導の充実・強化について

○ 不登校となった児童生徒への対応を中心に、不登校児童生徒を支援する様々な施策を充実させることは重要であるが、不登校は、どの子どもにも起こりうる問題として捉えると、「児童生徒が不登校にならない、魅力ある学校づくり」も重要であり、2つの取組みが両輪となることで、根本的な不登校児童生徒への支援となる。

「児童生徒が不登校にならない、魅力ある学校づくり」には、学習指導の充実を図るとともに、教育課程内の活動のみならず、教育課程内の活動を含む学校教育活動全体を通して行う生徒指導を充実させていく必要がある。

○ その生徒指導は、児童生徒に自主的な判断、行動、積極的に自己をいかしていくことを促し、社会的な資質や能力、態度を修得させるなど、学校教育において重要な役割を担っているところだが、ともすれば学校における生徒指導が、問題行動等に対する対応にとどまる場合もあり、学校教育として、より組織的・体系的な生徒指導を行っていくことの必要性が指摘されている。

○ さらに、近年では、特に、基本的な生活習慣が身に付かないまま小学校に就学する児童が増えるなど、小学校段階から学校全体で継続的に生徒指導を行うことが求められている。

○ その一方、学校における生徒指導の中核的な役割を担う「生徒指導主事」は、中学校、高等学校においては、教諭をもって充てることと学校教育法施行規則で規定されているが、小学校においては、「生徒指導主事」の規定の適用がなく、必要に応じ、校務を分担する主任等を置くことができる規定により、生徒指導を担当する主任等が置かれているケースが多い。このような状況を踏まえ、「生徒指導提要」については、小学校における生徒指導を含めて作成されることから、今後においては、学校における「生徒指導主事」の在り方などを含め、小学校における生徒指導の充実について取り組んでいく必要がある。

○ また、このように、生徒指導は、すべての教員が担当することになるため、ともすれば、教員の力量や経験に頼り、その専門性が十分に認識されていないこともある。このため、学校における生徒指導の充実を図るため、生徒指導の専門性を認識し、教育委員会においては、継続的な人材養成を図っていくことも必要である。

→ このような状況を踏まえ、文部科学省においては、平成21年6月に生徒指導に関する学校・教員向けの基本書として生徒指導の意義・理念や実施の指導方法などを平易に解説する「生徒指導提要」を作成するため協力者会議を設置している。今後作成される「生徒指導提要」を活用するなどし、学校における生徒指導の充実・強化に取り組んでいくことが必要である。

(2)不登校の児童生徒のその後の支援について

○ 平成15年5月16日付文部科学省初等中等教育局長通知「不登校への対応の在り方について」に示されているように、不登校の解決の目標は、児童生徒の将来的な社会的自立に向けて支援することであり、不登校を「心の問題」としてのみとらえるのではなく、「進路の問題」としてとらえ、本人の進路形成に資するような指導・相談や学習支援・情報提供等の対応をすることが必要である。不登校、引きこもり、ニートと言われる現象は、人生のステップに一つの空白を作ってしまうことでもあり、将来の社会的自立に向けた支援という視点が大切である。

平成20年12月に決定された「青少年育成施策大綱」においては、様々な事情で、健やかな成長を遂げていく上での困難を抱えたり、不利な立場に置かれている等のために特別な支援を必要とする青少年に対し、困難な状況ごとの取組を行う必要があるとしている。その中に、不登校・高校中途退学者の対策も位置付けられている。
 「青少年育成施策大綱」では、このような困難を抱える青少年に対し、関連機関が連携し、問題発生の未然防止、早期発見・早期対応及び困難克服までの切れ目ない支援を総合的に行うこととしている。

○ また、平成21年7月1日に成立した、総合的な、子ども・若者育成支援のための施策を推進することを目的とする、「子ども・若者育成支援推進法」においては、子どもから若者まで幅広い年齢層の円滑な社会生活に困難を有する者について、早い段階からその状況を適切に把握するとともに、円滑な支援につなげていくこととされている。

→ これらのことを踏まえ、進路が未定のまま学校を卒業・中途退学した不登校児童生徒及び高校中退者への継続的な支援についても、関係機関等と連携し、学校、教育委員会は取り組んでいくことが必要である。

(3)不登校の児童生徒への対応における小中連携について

平成19年度の中学校1年生の不登校生徒は、25,120人と、平成18年度の小学校6年生の不登校児童8,164人と比較して、3.1倍となっている。不登校の原因・背景は様々であり、一概に論ずることはできないが、1.集団構成が変わり、新たな人間関係が生じたこと、2.小学校の学級担任制から中学校の教科担任制に変わったこと、3.思春期における心と体のバランスの問題など、小学校と中学校の環境や人間関係の変化について何らかの関係があると推測される。

○ また、一部の自治体における小中一貫や連携の取組みでは、いわゆる中1ギャップを防ぐのに効果があるとの報告もあり、また、国の調査研究事業である「問題を抱える子ども等の自立支援事業」においても、不登校の未然防止、早期発見・早期対応につながる効果的な取組として、小・中学校の連携に取り組んでいる自治体もある。

→ これらのことを踏まえ、不登校児童生徒への支援という観点からも、小中一貫教育の仕組みも含め、学校種間の連携・接続の在り方等について検討を進める必要がある。

お問合せ先

初等中等教育局初等中等教育企画課教育制度改革室

(初等中等教育局初等中等教育企画課教育制度改革室)

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