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(参考)


学校の管理運営の在り方等に関する米国調査結果概要

−チャータースクール等の公設民営型学校制度が直面する制度的課題等−




平成15年7月



米国におけるチャータースクール制度の概要・現状等について

【チャータースクールの概要】
   チャータースクールとは、もともとは、従来の公立学校では十分な対応が期待できないような、学力不振をはじめとする様々な子どもの教育問題等に取組むため、保護者や教員、地域団体などが州や学区の認可(チャーター)を受けて設置する学校で、公費によって運営されている、いわゆる公設民営型の学校。
   チャータースクールは、州や学区が定める教育に関する法令・規則の多くについて、その適用が免除されており、通常の公立学校とは異なる方針・手法による教育の提供が可能。ただし、公費を用いて学校を運営していることから、成果(州統一テストの成績の向上等)をチャーター交付者等により定期的に評価され、一定の成果が挙がらなければ、是正措置が講じられ、さらにはチャーターが取り消される。
   なお、アメリカ合衆国では教育に関する責任・権限は州にあり、チャータースクールに関する制度も、州によって若干異なっている。


【チャータースクールの意義・目的】 
   チャータースクール設置の意義・目的は、制度創設当時からは多少変化しており、今回の調査において関係者が指摘した意義・目的として、以下のようなものが挙げられる。

1. 教育環境の改善・充実
小規模な学校の設置による教育環境の改善(特に、貧困地区に住む子どもやスペシャルニーズのある子どもに対して)
急激な児童生徒数増への対応          等
   
2. 教育内容の改善・充実
特色あるカリキュラムの実施
きめ細かい指導の実施
自由度の高いカリキュラム・教育方法による教育の実施
保護者の学校教育への参画機会の拡大
学校の保護者や地域に対する説明責任の強化         等
   
3. 制度的改善
人件費等を含め、弾力的な予算執行の実現
保護者及び児童生徒による学校選択の幅の拡大
学区教育委員会と教員組合間の労働協約体系からの離脱          等


【経緯】
   1991年、ミネソタ州でチャータースクールの設置を認める法律が成立。翌92年に同州で全米最初のチャータースクールが設置された。これに続き、92年にはカリフォルニア州で、93年にはコロラド州やジョージア州など6州で同様の法律が制定された。設置を認めた州の増加にともない、設置数も増大した。
   1997年の一般教書演説でクリントン大統領(当時)は、西暦2000年までにチャータースクールを全米で3,000校にまで増やすことを提言した。
   2001年に就任したブッシュ大統領も就任直後に発表した教育改革方針(No Child Left Behind)において、チャータースクールを支持することを明らかにした。


【設置・運営】
設置を認めている州……2003年1月時点で36州及びワシントンDC
設置数の制限……多くの州では設置数を制限
財政……経常費は学区が公費を配分。一般的に、施設・設備等にかかる経費はチャーター申請者が負担(ただし連邦政府等からの補助金有り)
チャーターの期限……多くの場合数年(5年程度)


【設置の現状】
設置状況…2,695校(2003年1月:全米の公立学校の約2%)
在学者数…約68万人(2003年1月:全米の公立学校在学者の約1%)
学校の規模……一般の公立学校に比較し小規模
教育プログラム……多様
在学者の特徴……個別の学校の人種構成をみると偏りがみられる学校が多い
設置形態…新設:約7割/公立からの転換:約2割/私立からの転換:約1割
チャータースクールの閉校状況……最近の調査では、2002年10月までに開校したチャータースクール2,790校のうち、約9.7%の学校が閉校もしくは他校に吸収されている(閉鎖194校、吸収77校、計271校)。




米国におけるチャータースクール制度創設の背景について



1. 学区間の経済格差・地域的な教育環境格差の存在
米国においては、一般的に州が公教育に関する法令を定め、地域ごとの学区(school district)が公立学校を設置し、管理運営を行っている。公立学校の設置・管理運営に係る経費は、州によって異なるものの、平均すればおおよそ州と学区が折半して負担している。しかしながら、学区の教育予算は、一般的に所管地域の住民の財産税(property tax)で賄われており、地域的な格差が大きい。これが直接的に教育環境の地域格差に結びついている。(財政力が弱い地域では、教員給与圧縮のため、授業日数を削減したり、教員のレイオフを行うようなことがしばしば起こる)
特に、都市部においては、往々にしてマイノリティが多く住む地域と、財政的に困窮している地域が重複しており、そのような地域では、通常の公立学校では十分に対応しきれないような「危機に瀕した(at risk)」子どもたちがいる。


2. 政治的支持
政治的な観点からは、一般的に以下のような点が指摘されている。
 保守派は、学校の選択の幅の拡大により、市場原理を通じた公教育の活性化を支持している。
 リベラル派は、特に都市部の貧困地域における教育環境の改善の手段として、チャータースクールを支持している。



3. 学区教育委員会の運営上の課題
学区教育委員会は、市町村等の行政機関からは独立した存在であり、殆どの場合、教育委員は住民による直接選挙によって選ばれる。学区教育委員会は州が定めた教育に関する法令・規則に従いつつ、その地域における初等中等教育段階の公立学校の管理運営についての権限と責任を有している。
一方、教育委員の選挙における当落は、地域によっては教員組合の意向に強く影響されることがあり、そのような地域では、教育政策は教員組合の意向に沿ったものになりやすい。
一般的に学区教育委員会は教員組合と労働協約を締結する。学区によっては、この労働協約が、教員の処遇のみならず学校運営に関わる事項などを詳細に規定することがあり、そのような協約の存在が、学区教育委員会による教育改革の取組や、教員の発意による教育改革の試みを阻害しているとの指摘もある。


   上記以外にも、地域住民の教育参加についての伝統など、様々な要因が存在していると考えられる。




チャータースクール制度が抱える課題について


   米国においてチャータースクール制度が最初に創設されてから10年余りが経過しているが、これまで各州で様々な制度改正が行われている。これは、そもそもチャータースクール制度が州や学区の法令・規則の適用を免除することを前提としていたものが、この10年余りの間に様々な課題・懸念が明らかになってきたためである。
   今回の調査においても、複数の関係者から、チャータースクール制度にはまだまだ改善の余地があり、絶えず変化している旨の指摘があった。

   今回の調査において、チャータースクール制度が抱える主な課題・懸念として、関係者から以下のような指摘があった。


コストニュートラル(追加財政支出がないこと)に対する疑念
   小規模校の増加や行政側の監督体制整備のため、全体としての支出が増加
学校事故についての不明確な責任の所在
   チャータースクールにおいて重大な事故が発生した場合の責任関係が不明確
営利企業等によるCounseling out(学業不振者等の追い出し)の懸念
   利潤確保のためのコスト削減や、州統一テストの成績向上のための手段としての濫用の懸念
人種分離/社会経済的格差による差別発生の懸念
   マイノリティや貧困地区に住む子どもたちを排除するような学校の設置
評価の在り方・中立性についての課題
   州統一テストの成績中心の評価についての課題、評価の公平性についての懸念
教育内容の中立性についての懸念
   特定の人種・思想・宗教等に偏った教育が実施された事例が発生
組織管理能力・予算の適正執行に関する懸念
   組織の空中分解、予算の不適正な執行により、閉鎖された事例が発生
不適切な教育環境
   教育の場に相応しい校地校舎が確保できず、劣悪な環境で教育が行われる懸念
学校閉鎖時の混乱
   教育機会の損失についての懸念
営利目的等での制度の悪用
   いわゆるホームスクーリングを受けてきた子どもたちを利用した、制度の悪用等


   上記に加えて、仮に我が国において同様の制度を創設しようとする場合、文化的・社会的背景の違いから、米国では想定されないような問題が生じる可能性がある。




学校の管理運営の在り方等に関する米国調査―参加者及び訪問機関―


【南西部班】
1. 日   時:平成15年6月25日〜7月4日
2. 参加者
   木村      孟 大学評価・学位授与機構 機構長(一部)
   有本   昌弘    国立教育政策研究所初等中等教育研究部総括研究官
   次田      彰 文部科学省初等中等教育局教育制度改革室専門官
3. 訪問機関
ロサンゼルス統一学区(LAUSD)教育委員会
アクセレレーティッド・スクール(LAUSD内にあるチャータースクール)
アリゾナ州教育委員会
フェニックス大学(株式会社立大学)
西部大学協会(WASC)高等教育アクレディテーション委員会
サンフランシスコ統一学区教育委員会
カリフォルニア大学バークレー校
カリフォルニア州教育委員会


【東海岸班】
1. 日   時:平成15年7月6日〜7月12日
2. 参加者
   田村   哲夫    学校法人渋谷教育学園理事長
   小川   正人 東京大学大学院教育学研究科教授
   小松   郁夫 国立教育政策研究所高等教育研究部長
   前田   有紀 文部科学省生涯学習政策局調査企画課専門職
3. 訪問機関
米国連邦教育省
ワシントンDC学区教育委員会
米国教育評議会
独立大学アレディテーシン協会
フィラデルフィア学区教育委員会
コロンビア大学教育私営化研究センター
エジソン社(株式会社立公立学校管理運営会社)
ニューヨーク学区教育委員会


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