教育課程部会 児童生徒の学習評価に関するワーキンググループ(第6回) 議事録

1.日時

平成30年7月9日(月曜日) 13時00分~15時00分

2.場所

文部科学省 東館3階 講堂

3.議題

  1. 児童生徒の学習評価の在り方について
  2. その他

4.議事録

【市川主査】  それでは,定刻になりましたので,ただいまより教育課程部会児童生徒の学習評価に関するワーキンググループの第6回を開催させていただきます。
 報道によりますと,西日本では大変な豪雨災害が起こっているということで,そのような中,本日そういう地方から来ていただいたという御発表の先生もいらっしゃいます。本当にありがとうございます。
 それでは開催させていただきますが,初めに,本ワーキンググループの審議等につきましては,初等中等教育分科会教育課程部会運営規則第3条に基づきまして,原則公開により議事を進めさせていただきます。それとともに,第6条に基づきまして議事録を作成し,原則公開するものとして取り扱うことにさせていただきます。よろしくお願いいたします。
 なお,本日は,報道関係者より会議の撮影及び録音の申出がございます。これを許可しておりますので,御承知おきください。
 それでは,事務局より配付資料の確認をお願いいたします。
【白井教育課程企画室長】  本日,お手元の議事次第にございますとおり,資料1から資料4までをお配りしております。不足等ございましたら,事務局までお申し付けください。
【市川主査】  よろしいでしょうか。
 それでは,議事に入ります。本日は前回と同様に,前半は有識者の先生からヒアリングを行います。後半は意見交換を行う予定です。
 前半のヒアリングにつきましては,3つの観点から御発表いただく予定です。
 まず1つ目は,学びに向かう力,人間性等,あるいは思考力,判断力,表現力等の評価の観点から,無藤先生と教職員支援機構の大杉センター長から御説明をいただきます。
 次に,2つ目ですが,授業におけるICT活用の取組についてということで,奈良教育大学の小柳先生と富士通の真弓先生に御発表をお願いいたします。
 最後に,前回の会議でも,民間の視点から御発表をいただきました。今回は学習塾の立場から,学校における学習評価の在り方について,大阪で学習塾を経営されている全国学習塾協会の理事でいらっしゃいます木村先生に御発表いただきます。
 そして最後に,質疑応答も含め意見交換という流れで,本日の議事は進めさせていただきたいと思います。
 それでは初めに,無藤先生から御発表をお願いいたします。
【無藤教育課程部副会長】  それでは,私の方から,15分と承ってございますけれども,発表したいと思います。お手元の資料1,学びに向かう力などの評価をめぐって私見という紙が2枚あろうと思いますが,それに沿いながら説明お話ししたいと思います。多少話の都合でいろいろ余分なことが入れてあるのですけれど,15分ということですので,省きながらお話ししたいと思います。
 まず,学習指導要領の新しい方向といいますか,改訂の基本的な考え方というのはもう,言うまでもないわけではありますが,一応確認のために,私なりの表現になってはおりますけれども書きました。
 第1が,自ら学び続ける学び手を育てることなんだということであります。これは1人で学ぶ部分,協同して学ぶ部分,また,様々な場で学ぶ部分を含めながら考えていくということが基本になると思います。その上で,資質,能力の三つの柱を考えているわけでありますけれども,大ざっぱに言えば知識の部分と思考の部分と学びに向かう部分でありますが,それらが循環していくんだということ,それぞれが別々ではなく,結び付きながら学習として成り立つことが大事であろうと思っております。
 知識・思考力のあたりは大杉先生のお話に委ねるといたしまして,特に学びに向かう力などのところでありますが,学びに向かう力というものの総体は何かということは,中教審答申,またその前の議論の中でいろいろと書かれております。私なりの言い方でまとめ直すと,情意に関わる部分,これは主に意欲や意志の部分,また社会性に関わる部分,人と協力して学ぶ部分,またいわゆるメタ認知,それは自ら学びを自覚し,見渡す力などと言えると思いますが,そういったものを含めたものや,そしてそれが知識・思考の循環過程を支えたり促したりしながら,その中でこの学びに向かう力そのものも伸びていくんだという理論構成であろうと思っています。
 もう一つ学習指導要領の方向として大事なことが,できるようにしていくこととなっていると思います。できるようになっていくということは,現実社会の力の発揮ということであると思いますけれども,そのためには同時に,そのできることをする手だてとか,スキルとか,わざとか,いろんな言い方を人によってしておりますが,そういうことの習得が必要であるということであろうと思います。
 そういたしますと,知識も思考もでありますが,この学びに向かう力もまた,それを改善,向上するためには,具体的なできることを可能にする手だて,学習者から見たときに,それはわざでありスキルである。さらに様々な道具――道具というのは,自分の考えを表すための表現する道具とか,思考を整理する道具とか,そういった類ですけれども,そういったものを生徒自身が使って身に付けることが授業として大事だと考えます。
 そういたしますと,この学びに向かう力,とりわけ情意的力や社会的力もまた,自己統制とか対話・協同するとか,そういったスキル,またツールによって発揮され,伸びていくものなんだと思うわけであります。
 こういう考え方が,私は今回の学習指導要領を支える重要なポイントの一つであると考えております。単に情意というのが,やる気というだけではないとか,興味ということだけではない,もっと持続的で,本人に身に付いて,本人が様々な場面で学ぶときに,それを使って学べるような,そういう力であるということと,その力というものが具体的なわざ,道具によって支えられ,その使い方によって発揮され,伸びていくものなんだという考えであります。
 そういう考え方を背景に,特に学びに向かう力に関わる評価を考えてみますと,従来このあたりのところが,心情・意欲と考えて,それが表れるところを見るということに限定されていたと思いますけれども,それに加えて,その意欲や意志,さらに協同性,自覚性などを喚起し維持するやり方,スキル,わざというものがどのぐらい身に付いたか,身に付けるように指導し,身に付けたかどうかについて評価をし,さらにそれを伸ばせるようにしていくことが重要なんではないかと思います。そこでの最大のポイントは,生徒自身が自己学習する,そのやり方の工夫,スキルにあろうと思っております。
 また特に学びに向かう力が発揮されるのは,学習活動が持続していく場面,15分とか1時間という範囲を超えて,何時間にも,場合によっては週,月単位で学習活動が続いていくような場面でよく見えてくることなのではないかと思います。
 さて,この3つ目の柱においては,学びに向かう力と人間性ということも示されております。この人間性に関わる部分というのは,特に思いやりなどとしてあると思いますが,これは,今のような学びに向かう力本体とはやはり分けて考えるべきことであろうと思います。思いやり等について具体的にどのぐらいできる,できないという形で評価したり,また指導したりすることは難しいし,適当でないと思います。
 そういたしますと,そういった人間性に関わるところはむしろ個人内評価ということであり,とりわけその子供のよさを取り出し,子供を励ます評価ということであろうと思います。別な言い方をすれば,A,B,Cなどの段階を設けて,十分であるとか,十分でないとかということの評価よりは,その子が人間性,思いやり等を発揮している場面に注目し,それをさらに子供自身が発揮できるようにするといいよねという励ましであろうと。そういう意味で,教師がその育成において心掛けていくものとして考えるべきことだと思います。
 さて,このような学びに向かう力の評価を押さえますと,では,そこからもう少し具体的に観点別等,あるいは通知表等の在り方にどう反映できるかについて考えてみました。このあたりはこのワーキンググループでもまだ議論が続く部分なので,本当に私の個人的考えでありますが,申し上げたいと思います。
 まず観点別の評価でありますけれど,これは従来中教審答申などでも,資質・能力の三つの柱に対応した観点というものを基本と考えるとされていると思いますが,その観点から指導の改善とともに,学習者自身がその学習の見直しと改善を図れるようにしていくということであります。そういたしますと,それは単によくできたというだけではなくて,一つの観点から,その具体的なやり方とかスキルとかパフォーマンスの中で具体的に捉えて,生徒自身がどこを直したらいいか,あるいは教師側がどこを改善したらいいか,どこの指導をより進めたらいいかということを,三つの柱のおのおのについてできるような形にしていくべきであると考えます。
 もう一つのことが,1時間1時間の細かい評価ではなくて,単元などの大きな単位で行うべきであるということ,これも中教審答申で述べられているところであろうと思いますが,そういった学習のまとまりにおける評価が有効なのであるということであります。そのために評価課題,作品などでの評価の読み取り方というものが必要になってまいりますし,また評価のフィードバックを生徒に対してどのように行うのか,またフィードバックするということは,不十分であれば指導を補う必要があると思いますけれども,そういう時間を含めた単元計画であるべきだとも思います。
 次に,評価というのが,指導と評価の一体化ということをしばしば言ってきたわけでありますけれども,それはもちろん教師が指導してうまくいっているかどうかを捉えながら,自らの指導を改善するということになるわけですけれど,したがって日頃の授業,また今申し上げた単元単位であることとともに,学期などのもう少し長い単位でも行われることになりますが,同時に,その教師が改善することとともに,その評価を生徒に伝える,フィードバックすることが重要であるわけです。
 生徒の学習というものがよくなっていくときに最も重要な要因は,その生徒の学習のパフォーマンスについてフィードバックを与えることであるということは,いろいろな研究,また実践から分かっていることであります。そういたしますと,その評価を伝える必要がある。その伝えることによって,生徒自身が学習の仕方の改善や不足を補う,また得意な点には自信を持つなどの機能を持っていくべきだろうと思います。
 そういう意味においては,学びに向かう力などについても,テストの点としては出てこないにしても,このあたりがその生徒のよい点だとか,この辺はもう少し工夫してみたらいいとか,こういうやり方もあるんだということを伝え,話し合う場というものが用意されるべきではないかと思います。
 それから6番,通知表のことでありますが,通知表は必ずしも義務ではないにしても,ほとんどの学校で何らかの通知表で,しかも比較的要録に近い形のものが多いと思いますけれども,その通知表もある種の説明責任を果たすということとともに,保護者や子供への学習のフィードバックの機会でもあると思います。フィードバックであるということは,単に成績がいいとか,悪いだけではなくて,どのように生徒自身の学習を改善するかということを含めて伝えるものだと思います。
 そういたしますと,単に5段階とか3段階で出てくるということでは足りないことは明らかで,その内容の要点を伝えるべきだと思います。そしてそれを受けてどう学習していくか,また指導していくかなどの今後を考えるということが必要です。これは当然ながら極めて手間が掛かることでありますけれども,特に学びに向かう力などにおきましては,通知表だけではなくて,面談や日頃の授業でのフィードバック等を総合して行うことが必要だと思います。
 授業時間が足りないという意見はこれに対してしばしば出てくると思いますけれども,それは私から見れば発想が違う。そうではなくて,こういうことは本来的に授業時間の中に組み込むことによって,授業というのは本来的に成り立っているんだということを考えるべきだと思います。
 7番,所見欄の生かし方。所見欄については手間が掛かるなどの問題が大いにありますけれども,基本的には日頃の学びの在り方というものを簡単に教師が記録しながら,その中の顕著な伸びというものを取り出し,伝えるということがあるものだと思います。そういう意味で,あらゆる資料を精査して要点をまとめるということよりは,日頃のよい点を取り出すことを基本にすることが大事だと思います。
 8番,評定でありますけれども,評定ということは,観点別の評価をベースにしながら,最も簡便にその子供の進み具合を表すわけですし,それによって説明責任の一端が示しやすくなる。また保護者がそれを受け取ることによって,うちの子供がちゃんとやれていることが分かるという意味で,学校の最小限の責務の一端でもあると思います。
 しかしながら,個人内評価とか所見部分はそこには反映しようがありませんので,やはり所見,あるいは面談等の質的なやり方での話し合いが必要だと思います。
 なお,特に中学での評定を内申書に直結するやり方については,かなり大きな問題点があると思いますので,その検討がなされるべきだと思います。
 以上をまとめて8番と9番でありますけれども,子供自らがいかにして学びに向かう力に含まれることを伸ばし,継続して活用するかの手だての獲得,また利用を中心に評価として見ていってはどうか。人間性に関わる部分は個人内のよさ・伸びを見て,面談を中心に伝えていってはどうか。要録の記載は法令的な最小限の記載でありますけれども,実際の子供(そして保護者)とのコミュニケーションの中で,特に学びに向かう力の評価が生かされるべきである。そういう意味で,日頃の授業や折に触れての様子,また個別の指導や対話などの中で比較的にフォーマルな通知表なども生かされるものであると思います。
 そして最後に,教師は自らの実践を振り返り,よくしていくのに,学びに向かう力の様子なども含めて評価し,その伸張がどうすれば可能かの資料を,日頃の子供の様子や発表・作品などから捉えていくことが望まれると考えます。
 以上です。
【市川主査】  どうもありがとうございました。御意見,御質問あろうかと思いますが,最後にまとめて行っていきたいと思います。
 続きまして,大杉先生から御発表をお願いいたします。
【大杉先生】  それでは失礼します。教職員支援機構の大杉でございます。私は教科教育学が専門なので,この観点からお話をさせていただきたいと思います。
 本日の話のポイントは,指導の方向性が学習指導要領等でもう定められていますから,この指導の下で育った思考力,判断力,表現力をどう評価していくのかという観点からお話をさせていただきたいと思います。
 指導の方向性は既に皆さん御存じのように,教科の特質に応じた見方・考え方を働かせて,探究的な学習活動の中で資質・能力を育むと言われていますので,こういう学びの改善の学習活動をモデル化して考えてみたいと思います。学習活動は,問いと答えをつなぐものだと考えます。
 この追究過程の中で,考え,判断,表現することで思考力,判断力,表現力が育つのですが,このとき3つの思考・判断・表現の過程があります。
 教科の特質に応じて,物事の中から問題を見出し,その問題を定義し,解決の方向性を決定し,解決策を考えていくということ,あるいは情報を基に自分の考えを形成したり,あるいは集団の考えを形成していく過程とか,自分の思いや考えを基に意味,価値を創造していく過程であると考えます。
 ただ,これまで思考力,判断力,表現力というのは,重要だし,これを育てましょうと言ってきたわけですけれども,今回新たに加わったものが,見方・考え方を働かせというところなので,こういう観点から育つ思考力,判断力,表現力ということを考えないといけない。
 見方・考え方が各教科示されていますけれども,大きく見方・考え方を2つに分けたら,プロセス,手続き型と概念的な枠組み型と分けられると私は考えました。
 お手元のレジュメの中に,中学校の学習指導要領の解説に示されているいろんな教科の見方・考え方についての記述部分を抜き出しています。
 小学校のものについては私どもの機構のホームページ上に小学校担当の教科調査官の先生方が,学習指導要領のポイントを20分程度の動画で説明されているものを,今回ずっと見まして,小学校の見方・考え方を分類するとこの2つになるだろうと思いました。特徴的なものを挙げますと,例えば中学校社会科では,歴史的分野と公民的分野で,手続き型と概念的枠組み型に分かれると思う文章が,ここに示してあるものです。
 歴史的分野の方は,社会的事象の歴史的な見方・考え方については,社会的事象を時期,推移などに着目して捉えて,類似,差異などを明確にして,事象同士を因果関係などで関連付けるというもので,プロセス,手続き型です。
 公民的分野の方は,社会的事象を,政治,法,経済などに関わる多様な視点(概念や理論など)に着目して捉えて,社会の構築に向けて,課題解決のための選択・判断に資する概念や理論などと関連付けている。例えば経済現象について,需要,供給とか,いろんな概念で捉えた後,需要を創出すべきか,供給側から構造改革すべきかという観点で見ていくことになる概念的枠組み型だと思います。こうした2つのタイプの見方・考え方に沿って育てられた思考力,判断力をどう評価するかということですけれども,幾つか課題があるだろう,この課題を考えながら,思考力,判断力,表現力の評価を考えていくことがいいのではないかというのが,本日の私の主張です。
 課題を5つ挙げています。プロセス,手続き型,これは小学校の教科に多く,中学校でも非常に多いタイプですが,実際に手続に沿って答えや作品を導き出して,その導出過程と結論をうまく説明できたかどうかで評価すると書いていますけれども,思考力,判断力,表現力,とりわけ思考力,判断力は頭の中で行う活動ですから,頭の中をのぞいてみるわけにいきませんから,表現されたものから,思考力,判断力を使って生み出したものだと推論して評価するしかないと思うんです。そのとき結果として生み出されたものの質というもの,これもセットで評価を考えないといけないのではないか。
 課題の2は,概念的な枠組みの場合,特に活用する概念というものの習得が非常に困難で,なかなか小学校課程ではこういったものが多くないことになるので,小学校課程では操作的な,形式的な能力を捉えていく評価になるのではないか。
 課題の3です。これは思考・判断と知識・技能の関係性ですけれども,とりわけテスト問題作成においては,イモヅル式のテスト問題とよくやゆされるんですけれども,問題について考えるときに,問題状況とか課題そのものの理解に関する知識・技能と,答えを導き出すための知識・技能があり,これをセットで把握しないと,思考力,判断力の問題だとしても,最初の問題状況に関する知識が身に付いていないので答えられないとしたら,思考力,判断力,表現力まで行き着いていないということになるというのが,この課題3です。
 課題4は,問いが一つの正しい答えを導く問いなのか,まだ答えが定まっていない問題を追究するのかで,ここで働く思考力,判断力,表現力も違ってこないのか。
 これについては余談ですけれども,実在論と構成主義という2つの哲学上の考え方の違いがあり,一つの正しい答えが客観的にあるとする考え方,実在論と,いやいや,まだ答えがないというよりも,我々が答えを作り出すんだ,という構成主義の考え方があり,こういう二つの考え方に立って授業をしたり,あるいは評価をしたりする必要があるんではないかなと考えています。
 ということで,ちょっと抽象的だったので分かりにくいと思いますので,例えばこの問題を考えていただきたいのですけれども,これは大学入試のサンプル問題として紹介されたものですが,小学校6年生の質問に答える問題として設定されており,野菜の表面に水分があって,砂糖と塩を掛けたときに,砂糖の方が野菜から水分がたくさん出ました。どうして砂糖から水分がたくさん出るのか,という問題です。これにどう答えていくか。
 時間がないので説明しますと,皆さん方頭の中で,まず浸透圧と半透膜がすぐ浮かび上がったと思います。あとは塩よりも砂糖の方から水が出るとしたらどこが違うのか。これは調べてみますと,砂糖の方が塩よりも溶解速度が速いので,速く水に溶けるから,一瞬塩よりも砂糖水の方が濃度が濃いので,だから砂糖を掛けた方が野菜から水分がたくさん出るという,3つの概念(浸透圧,半透膜,溶解速度)を結び付けて答える問題になっていると思います。
 次に,これは高校入試問題なんですけれども,屏風に描かれた絵と錦絵に描かれた絵は,ヨーロッパから鉄砲がもたらされた頃に来た船と,ペリーが来航したときの絵,サスケハナ号を描いています。この鉄砲がもたらされた頃と開国が要求されたときの間に起こった出来事は,1から4のうちどれか。また,あなたの選んだ答えが正しい理由を,この絵から考えて答えなさいという問題です。
 先ほどの歴史的分野の手続き型と説明したのは,時期に着目して捉えて,差異などを明らかにして,因果関係と関連付けるということでした。二つの絵の差異は,動力が自然から内燃機関に変わるという動力革命が起こって,船が帆船から蒸気船に変わったということです。そうすると,この2つの間に起こったものは丸1(イギリスの産業革命)だろうということになります。
 次に,これも高校入試問題なんですけれども,図書館でおしゃべりをするのをやめさせるために,ポスターA,Bという2つのものが図書委員会で出された。ポスターAは禁止事項を書いており,ポスターBは,感性を味わって知恵を栄養にしましょうね,本は友達と,こうやったらいいよねということを書いているポスターで,このうちポスターAよりもポスターBにした方がマナーがよくなった。なぜよくなったのか,あなたの考えを答えなさいという問題です。答えが幾つもあるという問題です。
 最後は,中学校の入試問題ですけれども,羽田から釧路空港,山口宇部空港,佐賀空港へ行く時刻表がA,B,Cとして示されており,このうち釧路はどれですかと問うている問題なんです。これは,問題についての知識,つまり釧路と山口と佐賀がどこに位置しているのか,どこにあるのかが分からないと,そもそも解けない問題になっているわけです。また,偏西風というものを考えると,行きと帰りの風の向きの違いで時刻表にずれが生じていることから,Bが答えになるということを考えさせるものです。
 こうしたいい問題をストックしつつ,思考・判断・表現はどういう形で評価するのかを考えないといけないのではないか。テスト以外の方法を開発することも要求されますけれども,そもそも多くの人の関心の高いテスト問題そのものの改善も必要ではないかと思います。
 私の方からは以上で終わりたいと思います。
【市川主査】  どうもありがとうございました。続きまして,小柳先生と真弓先生から御発表お願いいたします。
【小柳先生】  それでは失礼いたします。奈良教育大学の小柳と申します。本日は,子供の学びの姿を単元レベルで読み取っていくときに,それを学年や学校全体で読み取っていき,授業改善につなげるときに,どのような環境があるとそれが可能になっていくのかということを,富士通さんと我々の教職大学院と附属小学校で,過去2年間やってきた成果の一端を,少しお話しさせていただきたいと思っております。
 これまでも教具としての活用や学習具としての活用としてのICTはあったわけですけれども,評価の道具としてそれらをどう活用していくのかということについて挑んだものです。実際これを進めていくときに,結構こういった単元レベルで授業を,子供の変容を捉えていくということに関わっては,言われている割にはなかなか難しくて,それらを進めていくときにも,やはり先生方の中でも,自分で授業に参加していないとそれについては分析できないとか,いろいろな考え方もありました。
 ただ,実際にうちの現職教員の皆さんとストレートの皆さんでみんなで読み取っていくときには,たとえその授業に参加していなくても,実際にデータを見ていく中で,子供の変容から,やっぱりトータルとして授業として何を改善していったらいいのかが読み取れたといったことがございました。
 例えば,これは資料の16ページで,この後真弓さんの方から詳細を語っていただくときにまた出てまいりますので,申し上げますが,実際に教員等が読み取ったことでございます。
 実際その単元レベルの学習記録そのものについて,毎回どんな発問があって,それに対してどんなふうに子供たちは答えたかということが記録されているものと,最後にパフォーマンス課題が出て,それについてどういうふうに考えたかというものを一覧できるものがあるんですけれども,その一覧を院生さんたちが,現職の皆さんも見当を付けながら読んでいくときに,例えばAさんの場合は,パフォーマンス課題は非常によくできていて,深く考えているのが分かったんですけれども,前をさかのぼってみますと,各授業で先生が発問されて書いていくときには,ほとんど間違っているということが起こってまいりました。何でそうなのかなということが,また考える機会になりました。
 一方Bさんの場合には逆で,各授業の発問に対してはしっかりと書いて答えているんですけど,最後のパフォーマンス課題が,どちらかというと今までのことをそのまま書き並べた形で書いていて,深みが出ないということがありました。
 じゃ,どう評価するんだといったときに,問題解決というよりは問題を意識化していくとか感じるみたいなところは強く,そのこだわりがあって毎回うまく書けなかったり悩みがあるけれども,最後は深みがあることが書けたAさんと,一方で,そういった悩みはないんだけど言われていることについてはそれぞれ答えている結果,最後はやっぱりまとめに関わっても,そのまま教えられた形をまとめていくような書き方をしているBさんという子がいました。
 そういった形を見ていく中で,現職の教員も,1時間の授業だけでは見えなかったものが単元をこう通してみると,ちょっと子供たちの評価の仕方ということについて,改めて考えていかなきゃいけないという意見が出てまいりました。
 またCさんの場合とかは少し異なっていまして,Cさんは毎回の活動の中では余りいい結果を出していなく,またまとめも必ずしもすぐれていなかった。ただ,具体的な操作があったり,そこから物事を考えたりするときには非常に反応しているのが見えて,そうなりますとやっぱり子供によっては,その学びの中に参画していくときに,どんな課題やどんな認知スタイルに影響を与えるようなことをやっていくと,そこに入っていき,学習に参画できるかということが見えて,なかなかそこについて通しで見ないと,この子がどんな認知スタイルとかどんな関心を持っているか見えないわけですが,通しで見たときにそういうのが分かり,授業改善をまた考えていくこと,教員たちはそこら辺を明らかにしました。
 本当に時間が長く掛かるんじゃないかということもありましたけれども,実際に2年続けていく中で,データの読み取りも速度も上がっていきましたし,また質も上がっていったということがございました。これから詳細について,真弓さんの方から説明いただきます。
【真弓先生】  富士通の真弓と申します。よろしくお願いいたします。先ほど小柳先生の方から,児童の評価について御説明いただきました。私からは,その児童の評価を実施するに当たって,どのようにして授業でデータを取得して,そのデータをどのようにして授業評価として分析したのかという点について,補足説明させていただきたいと思います。
 まず授業の方なんですけれども,授業を実施するに当たりまして工夫を施しました。1つは,ここに書いてありますけれども,全ての授業を定型化,ひな形化しました。簡単に言いますと,必ず児童には,その授業の中で一次思考,二次思考,そして最後に納得度の確認ということで,この3つのデータを残してもらうようにしました。そして納得度の確認につきましても,納得できたのか,できなかったのか,若しくは新たな疑問ができたのかというものを選ぶと同時に,なぜそう思ったのかというものを残してもらうようにしました。
 それから,本当に単元の最後の授業のときには,全ての授業を通して,自分で何を考えたのかというのを書いてもらうことで,その単元の内容を一般化できたのかどうかを確認できるようにしました。
 どのような授業の流れを行ったのかという形なんですけれども,こちらの前をちょっと見ていただきますと,左側が先生のフローになっています。右側が児童のフローになっています。
 まず先生は選択式の発問形式で児童に問います。児童はそれに対して選択肢のみをまず回答します。それを先生が共有します。それを見た上で児童は,なぜそれを選んだのかという理由を記載して回答します。そしてそれをまた共有します。そこで全員で発表したり反対意見を言い合ったり,また自分のタブレットで全員の意見が見えますので,そこから友達の意見を見ながら,あっ,この意見いいねと思ったら,ちょっと賛成ボタンを押してみたりとか,そういった形で意思表示をします。そしてそれをまた先生が集計した結果を説明して,同じ発問を二次思考ということで出します。それに対して児童が回答する。その回答が終わったら,その結果を実験などで実際に行って,最後に納得度の確認を先生の方からまた児童に発問する,こういった流れになります。
 ここの流れを少し簡単にデモで御紹介させていただきたいと思います。これが今児童の思考の結果が,全て座席表で出ているような状態です。まず最初にグラフを表示しますということで,こんな形で見せます。なるほど,ウで両方と選んだ答えの生徒が一番多いよねとか,両方動かないと答えた生徒も1名だけいるよみたいな,そんな形でまず始めます。
 そしてこの先生は非常に少数派の意見を大事にする先生でしたので,まず一番少なかったエを選んだ生徒だけを見せます。そうすると,今ここに1つだけいるんですけれども,それで発表してもらうような形です。次に少なかったのが,アの内側という意見だったんですけど,それがこんな意見ですよという形で,どんどんこんな形で見せていきます。一気にちょっと全部見せますけれども,こんな形でこれが今全員の意見が出ている状態です。
 ここでちょっと並び替えを行いまして,今これは多いもの順に並び替えたんですけれども,こういった形で一人一人,ここから発表していくような形になります。こんな形です。そして児童はこれを見て,まず自分のタブレット,これが今自動のタブレットの画面なんですけれども,どれかを選んでいて回答しているような例になります。回答し終わったらみんなの回答を見て,お友達の意見の中から,あっ,この意見いいなと思ったら賛成ボタンを押して,みんなで投票するという形になります。
 投票された皆さんの結果をここで集約すると,こんな形になっていまして,例えばこの意見が賛成が2人といいねボタンが2人ということで,4名の生徒がこの意見に対してコメントしているよという形で進めていきます。その中で,特に特徴のある意見だけをピックアップして,例えばこの4つの意見をちょっと比較して見てみようかということで,もう一度発表してもらったりというようなことを行います。
 ちょっとスライドの方に戻らせていただきます。このような授業のパターン,今のが第1回の授業です。1回目の授業でこんな形でやったんですけれども,それと同じようなパターンでずっと繰り返し行っていって,単元の最後のときには,児童は今まで自分が回答してきたこの全ての回答をもう一度自分でここで確認した上で,最後にまとめを書いてもらいます。これはもう完全にフリーのフォーマットで,自分がどう考えたのか,何を学んだのかというのを書いてもらう。こういった形式にはめて授業を行ってきました。
 もう一つの工夫点としては,授業研究の前に少しだけ準備をしました。これはやはり大量のデータがありますので,できるだけその授業研究に時間を有効に活用していただきたかったので,私の方で少し簡単なものなんですけれども用意しました。それは,1つは先ほど見ていただいたような各発問ごとにこのようなシートをちょっと用意しました。もう一つは,全員の全ての単元の回答を俯瞰できるようなシートを用意しました。小さくて申し訳ないんですけれども,こちらの横軸の方が全ての発問になっていまして,縦軸の方が児童になっています。この中に書いてあるのがそれぞれの児童の選択肢の回答。ちょっと見づらいかもしれませんが,ピンク色になっているところが正解の回答だったところになります。
 これを使って授業研究をどういうふうにやったかというところなんですけれども,まず最初には,先ほどのこのエクセルシートを見て,特徴のある児童を探されました。この場合,Aさんというのがすごく特徴がありました。なぜAさんが選ばれたのかといいますと,もうちょっと大きくエクセルの方でお見せしたいと思いますが,このAさんという生徒だけを横にずっと見ていくと,実は6問の発問のうち,1問しか正解がありませんでした。残りの5問が全て間違えていました。
 なので,まずこのAさんはこの時点では,もしかしたら単元の狙いが達成できていないんじゃないかと判断されてしまいます。そこでAさんの記録を全部見直しました。今こちらに出ているのが,Aさんがこの単元で学んで提出した記録の全てになります。まず最初に見られたのが,この単元のまとめでした。この単元のまとめをちょっとピックアップしてみたいと思います。実際この単元のまとめを読むと,実はよく書けているんです。内容がすごくよく理解できていて,なぜそうなったのかという理由まできっちり書けていました。
 もう一つ気になったところが,納得できたのかどうかという発問に対して,この児童だけが唯一,7回のうち3回も新しい疑問ができたという形になっていました。なので,それをちょっと確認しようということで行いたいと思います。今納得できたか,の発問だけをちょっとピックアップしています。これが今7つのそれなんですけれども,このうちの3つがその回答になっていまして,これらを比較してみます。今ちょうど資料では17ページのところの話をしていますが,17ページのこの真ん中に書いてある黄色の3つのものがこれになります。これが「もう少し考えたい」と回答で得られたものになります。
 ここを読んでいくと,実はこの児童は前の実験でやったことが納得できなかったわけではなくて,そこからさらに発展的な疑問が湧いてこれを選んでいるというのが分かるようになりました。一つ一つこういう形で分析していきました。
 この後は,実はほかにもBさん,Cさん,Dさんと,たくさんデータがあるんですけれども,本日は時間の関係で省略させていただきますが,いずれも児童の個別の評価を見ながら,それぞれきっちり評価できているということが分かるようになっています。ちょっと割愛させていただきます。
 皆さんにお配りさせていただいた資料の方には,その後に単元レベルの授業研究を実施するためのポイントだとか,あとは成果と課題についても資料としては御用意させていただいておりますので,もし興味がありましたらそちらの方も御覧いただければなと思います。
 以上になります。御清聴いただきましてありがとうございます。
【市川主査】  ありがとうございました。
 それでは続いて,木村先生から御発表お願いいたします。
【木村先生】  こんにちは。大阪から来ました木村でございます。先日塾の勉強会で白井さんとお話ししていまして,一度来て現場の意見も聞かせてくださいということで呼ばれました。お話を聞いて初めて本日来させていただきまして,評価ということが一番の主題になっているようでございまして,まずうちの現場の先生ら全員に,今学校の先生たちの評価についてどう思うかということを聞きました。
 まず現状,お手元にある資料を見ていただいたら分かりますが,とにかく教師,学校の先生方の主観に左右されていることが多いんじゃないかということを,現場のうちの先生たちはすごく感じていまして,その主観に左右され過ぎないような評価の仕組みというのを作っていったらいいんじゃないかということで,まずは例えば1番,共通の事象について,その状況を一定のフォーマットに入力して,そのフォーマットから通知表に表示される評定が自動算出されるような仕組みを作ったらどうかと。
あるいは保護者から,通知表評価の基準が分からないという声を一番よく聞きます。ですので,その評価項目をしっかりと,例えばテストの点数が何%で提出物が何%で授業態度が何%かというものも,保護者にあらかじめはっきりと開示するのがいいんじゃないかとか,それから3つ目で,これもチェックリスト化し,そのフォーマットに反映されるようにすれば,こういう評価に近付くんじゃないか。
 4つ目で,定期テストについても,少なくとも市内の学校間でカリキュラムを統一し,共通テストを実施すればいいんじゃないか。学校によって非常に難易度に差があるということを聞きます。ですので,通知表で言うと,5段階で5が出やすい学校と非常に5が出にくい学校がはっきりとある。ですからどこの学校に行くかですごく不利になるということを,現場のうちの先生たちは言っています。そんな感じです。
 あとは,人物重視の評価規準についてですけれども,これはふだんからアクティブ・ラーニングを導入して,その姿勢とかそういうものをチェックするということで,今拝見させていただきました先生方の発表からしたら,まだまだ全然現場の先生たちが思っていることだけですので,この評価に関してはもう全然発表できるような種類のものではありません。いわゆる主体的に取り組むというのが,今回の教育改革の一つの大きな柱になっていると思うんです。本日はうちの塾でやっています,主体的にどうやったら生徒が勉強に取り組むか,その辺を中心に話をさせていただきたいと思います。
 うちの塾では,木村塾人生の勝利の方程式七カ条というものを,今から約8年ほど前に先生らみんなで考えました。これは,今まで過去に飛躍的に成績が伸びた生徒たちの共通点を洗い出して,7つに絞ったものです。
 ちょっと見にくいので読み上げますと,第一条が,いつも明るく元気いっぱいの挨拶を自分からすること。
 第二条が,「しんどい」「ムリ」「ダルい」などの“マイナス発言”は,教室ではもちろん,自分一人のときも絶対に口に出さないこと。
 第三条が,全てのことに「お願いします」の気持ちで取り組むこと。第三条はこうなっているんですけど,現実的には,お願いしますの気持ちということは,宿題を出してください,お願いします,テストを受けさせてださい,お願いします,受けたいんです,あるいは居残り授業をしたいんですと,全て前向きな気持ちでやるということが含まれています。
 第四条が,自分の能力・可能性に自分で“限界ライン”を引かないこと。自分は必ず成功すると心の底から思うこと。
 第五条は,「普通では無理」と思うような高い目標を期限付きで具体的に掲げ,地道な努力を決してやめずに続けること。
 第六条が,何かしてもらったときに「ありがとう」と言うことはもちろん,全てのことに対して常に感謝の心を持つこと。
 第七条が,他人を喜ばせる,幸せにすることが自分の幸せだと考えること。
 この六条,七条は成績向上に一体何の関係があるんだと思われると思うんですけれども,実は結果的に非常に関係があるということが分かってきました。
 次に,木村塾の「人間教育」の二本柱ということで,先ほど申し上げました全てのことを生徒に選ばせるということです。これは先ほど申し上げましたように,宿題するかしないか,テストを受けるか受けないかも,居残り勉強するかしないかも,全部生徒に選ばせています。つまり宿題をしたくないという子には宿題を出しません。テストを受けたくないという子には本当にテストも受けさせません。全部選ばせています。最初どのぐらい保護者からすごいクレームが来るか,ひやひやしたんですけれども,思ったほどクレームが来なくて,よかったなと思うんです。
 2つ目が,チームで頑張る。1クラスが大体20人から25人なんですけれども,その中で5人ぐらいのチームにチーム分けしています。チームで協力して頑張るという姿勢。この2つがうちの塾の二本柱です。これを取り入れてから,非常に成績が上がりました。
 月1回こういう自分で自己採点をするフォーマットがありまして,第一条から第七条まで通して,もう非常に細かく自己採点をする。このときに,もちろん自己採点なので,甘く付ける子もいると思うんですけれども,とにかく辛く辛く付けなさいと。幾ら低く付けても別にしかりもしないし,幾ら高く付けても何も御褒美は出ないよと。とにかく厳しめに付けて,幾ら厳しめに付けても10点だと思う人は10点,8点だと思う人は8点と,厳しめに付けなさいと。
 それからもう一つは,そのチーム間で,チームのみんなに胸を張れるような,つまり自分が例えばこの第一条の項目について8点と付けたときに,チームから,えーっ,君8点と言われそうだったら8点と付けたらだめだと。つまりみんながどう思っているかということも客観的に考えて,10点で8点とか9点とか言ってもチームから何も異論がない,そう自分で胸を張れる人は付けなさいということを一言添えると,結構みんな本当にメタ認知ができて,客観的に付けます。比較的辛め,厳しめに付けます。
 それで,そのスコアを毎月取っていっているんですけれども,一番左が講師名,講師A,B,Cにしましたけれども,ちょっと見ていただきたいんですが,授業アンケート,その先生の授業がよく分かるか,分からないかというアンケート。100点満点で付けていますけれども,うちの塾は結構研修を徹底的にしますので,授業アンケートは割とみんないいんです。平均が95点ぐらいになっていますので,かなり細かい項目に分かれていますけれども,それでもみんな授業アンケートそのものはいいんです。悪い先生は随時研修を徹底してブラッシュアップ掛けますので,授業アンケートそのものは非常に高いです。ですから,AからLまで余り遜色はないと思うんです。つまり生徒たちはよく分かる,あるいは面倒見がちゃんとしてもらえている,公平だということを評価しているわけです。
 ところが,授業自体には遜色ないんですけれども,右から2つ目のこの七カ条の得点,10点満点の平均を取りますと,AからFまでの先生は平均が大体7.5。つまりこの先生のクラスです。この先生,A先生,B先生それぞれの先生のクラスの平均が,全部7.5を超えています。次,GからLの先生たち,彼らのクラスは7を切っているわけです。そうすると,合否判定模試というのが塾で年に4回ほどあるんですけれども,それの偏差値にこのぐらい差が出ます。明らかに,この勝利の方程式七カ条という先ほど申し上げたもののスコアがいい場合は,成績の向上も非常に高いということです。
 やっぱり嫌々勉強しても絶対成績は上がらないと思うんです。生徒たちを見ていたら,やっぱり宿題とかを本当に嫌々やっているわけです。テスト勉強も,もうテストがあるから仕方ないからという感じで嫌々やっている。その嫌々やっている子と前向きにやる子では,本当に伸び方が全然違うので,こういうのを取り入れた結果,はっきりと成果に出ているということです。そんな感じです。
 あともう一個は,先ほど申し上げました,自分で全てを選ぶということです。私は一般社団法人の日本青少年育成協会の副会長もやっているんですけれども,そこで教育コーチングというものを前面的に取り入れています。教育コーチングの2本柱,2つの考え方として,基本の姿勢があるんですけれども,人は育とうとする生き物だというもの,もう一つは人はそれぞれ自分の中に正しい答えを持っているという考え方,この2本の2つの考え方があるんですけれども,まさに子供たちも,本当は自分自身育とうと思っているわけです。
 ところがやっぱりああしろ,こうしろとか言うことによって,なかなか育ち切れない,受け身になってしまうということで,しかも正しい答えをちゃんと分かっている,メタ認知して,何がいいのか何が悪いのかも分かっているんだけれども,周りのいろんなことでそうならないということで,ここに挙げましたように,全てのことを生徒に選ばせる,徹底的に選ばせる,それからチームで考えるということが,すごく効果がある感じがしています。
 ですから学校教育においても,いろんな場面で生徒に徹底的に全てのことに関して,やるのか,やらないのか,やるんだったらどういうふうにしてやるのかということも選ばせる。そのときに,個人で選ぶんじゃなくて,いわゆる協同性,今回のこの改革の中にも出てきています協同性。この場面ではどうすることが一番いいのか,何が正しいのかということをチームでそれぞれディスカッションして,ベストな答えを探し出していくことを組み合わせると,非常に大きな効果が出ているような気がします。
 そんな感じですけど15分たちましたか。以上です。ありがとうございました。
【市川主査】  どうもありがとうございました。それでは今,5人の先生方から御発表いだきました。それに関する御質問,御意見がございましたら,いつものように名札を立てていただければと思います。
 すぐにないようでしたら,せっかくの時間がもったいないので私の方から,時間のブランクができないように聞いてよろしいでしょうか。今の木村先生の最後の御発表,最後のデータは非常におもしろいと思ったんですが,3つちょっと伺いたいです。
 1つは,これは入塾時にはどの先生のクラスもほぼ同じだったのに,例えば七カ条の得点とか偏差値がだんだん開いてきたと理解してよろしいのかどうかです。
【木村先生】  入塾時すぐに取らせます。そうしたら入塾したばかりの生徒たちの平均が大体5点ぐらい。5点行くか行かない。
【市川主査】  余り変わっていない。それがだんだん開いていく。
【木村先生】  そうですね。
【市川主査】  ということですね。すると,開いてくるというのは,恐らくこの講師の方々の特徴があると思うのですが,一体それぞれの講師の方はどういう特徴を持っているのかということは,ある程度分かっていらっしゃるんでしょうか。
【木村先生】  そうですね。うちは塾なんですけれども,毎週1回ホームルームというのをやっています。そのホームルームで先生たちが,やっぱり上手にトークというか,話す,話力のある先生,それから生徒たちを上手に引っ張っていく。やっぱりその先生の力量というのはすごく左右する。
【市川主査】  それが何も授業のうまさとかだけではなくて,こういう日常生活とか。
【木村先生】  モチベーションとか。
【市川主査】  態度面とかに関しても,そういうホームルーム的なところで働き掛けがあるので,差が開いてくるということでしょうか。
【木村先生】  そうですね。そこはやっぱり先生の力量に結構左右されます。
【市川主査】  あと,最後の質問なんですけど,これはクラス替えをするとどうなっていくんですかね。クラス替えというのもあるんでしょうか。悪かった子供たちでも,今度いい先生のクラスに入ると,ちゃんとよくなるということはあるのでしょうか。
【木村先生】  あります。全然変わります。
【市川主査】  そうですか。分かりました。どうもありがとうございます。
 それでは,名札を立てていただいたので,鈴木委員からどうぞ。
【鈴木委員】  大杉先生の発表を聞いて思ったんですけれども,この会の一番最初に,8つのレベルの評価規準を作って,その幾つかを学年の枠を超えて使ったらどうかということを申しまして,言った手前,8つのレベルは各教科でどんなふうにというのを今考えておりまして,一部雑誌にも出しておりますけれども,やっているうちに,今,大杉先生がおっしゃったことについて私も考えるようになりました。
 要するに評価規準も――私の言う評価規準は,ここは特に思考・判断・表現,大杉先生と同じように,そこを問題にするわけですけれども,プロセス,手続き型の評価規準と概念的枠組み型の評価規準と2つがあると。ただ,我が国の場合は,学習指導要領自体の性質もあると思いますが,どちらかというと概念的枠組み型の評価規準が非常に多い。
 実は昨日まで数学の評価規準を,この土日考えていたんですけれども,数学の評価規準は学習指導要領を読む限り,学年が上がるにつれて,例えば反比例とか一次方程式だとか,高校になりますと集合ですけれども,こういう集合が理解できるとか,一次方程式が分かるとか,比例,反比例というのは小学校1年か2年ですが,そういう学習概念を中心に,主として例えば,昨日まえやっていたものですから,数学の評価規準が作られている。
 逆に言うと,私はオーストラリアとイギリスの評価規準に詳しいんですけれども,イギリス,オーストラリアの評価規準は,その概念的枠組み型についての記述はほとんどないんです。どっちかというとプロセス,手続き型の評価規準が作られているわけです。我が国は,学習指導要領はしようがないとは思いますけれども,今のところ思考・判断・表現の部分の記述を見ますと,概念的枠組み型を主として考えている。
 そうしますと,大杉先生の御意見も伺いたいんですけれども,プロセス,手続き型の評価規準というのをもう少し付け加えないと,概念的枠組みを中心とした今の学習指導要領の記述だけでは,そのプロセス,手続き型の思考・判断・表現というのがなかなか育成できないんじゃないかと。これは昨日特に数学を,ずっと学習指導要領とイギリスとオーストラリアの評価規準を見て感じたことでして,手続き型の部分を評価の部分で補わないとまずいんではないかと考えるようになりました。同じことは化学についても言えると思います。
 しかしながら,国語に関してはもともと余り概念的なものがないと言っていいのか,髙木先生に聞きたいぐらいですが,比較的この手続き型,プロセス型の評価規準が学習指導要領自体にも出ている。そのバランスが問題ではないかと思うんですが,大杉先生はどうでしょうか。
【大杉先生】  おっしゃるように,学習指導要領は従来コンテンツを中心に示されていたので,そのように先生が受け取られていると思うのですけれども,私が分類したのは,見方・考え方で,これを分類したら,手続き型の方が多いです。ここの資料で見ていただいても,見方・考え方自体は手続き型,プロセス型の方が多いです。従来学習指導要領には,見方・考え方の中身は書いてなく,コンテンツが書いてあったんです。比例とか反比例とか,需要とか供給とか希少性とかという概念,枠組みが書いてあったと思うんです。
 今回,見方・考え方が学習指導要領の目標部分で示され,この概念に対してこういう見方・考え方(プロセス,手続き)に沿っていくと非常に学習が有効じゃないかということになっているので,見方・考え方として学びの手続き,プロセスと,内容としてのコンテンツが組み合わさって,思考力・判断力・表現力を育てることを明確に打ち出されたのかなと私は思っているんです。
【市川主査】  どうぞ。
【鈴木委員】  すみません,私はそれも思うんですけれども,実は小学校段階の見方・考え方,中学校段階,高校段階,数学等で見てみますと,変化が少ない。要するに言及は多いんですが,中身はそう変わっていない。要するに,論理的に考えるというようなものを反比例にも入れ,一次方程式にも入れ,集合にも入れと。ですから,言及は多くなったんですけれども,その中身の変化が,要するに発達段階の記述が少ないという意味もあると思います。
【大杉先生】  先生が提出された資料を見せていただいたんですけれども,やっぱりルーブリック的には1から8段階までそろえて学年を見ていくと,小学校などの校種の低学年の方は,ルーブリックとしては非常に数値が低い。ということは,扱う内容が概念とか理論とかいうものではなくて,事実とか簡単な内容になっているので,そこで働かせて考えて得た結論は,そんなに高度なものにはなっていないと思うんです。
 そういう意味では,小学校,中学校,高等学校にかけて,扱う知識の質量が大きくなっているから,それを使いこなすのはなかなか難しいだろうと思っていますので,中・高の方が手続き的,プロセス的なものをしっかり前提として置きながら,質量の大きい知識を使いこなしていくという学びが,これから大事になっていくんじゃないかなと思っております。
 大学入試問題の野菜に塩と砂糖を掛けて,砂糖の方がよく出てくるというのは,教科書で半透膜とか浸透圧とかの概念と,溶解速度の学びとか,いろんなことを組み合わせて長い期間学んだいろんな概念を使って問題を解けるのが,高度に考えて答えを出していくことだと考えますので,先生が作られたルーブリックの8段階,高校の段階のところに該当するんじゃないかなとは思ったんです。ちょっとすれ違っていると思うんですが。
【市川主査】  すみません。まだ,私も正直なところ,プロセス・手続き型と概念的枠組み型の違いというのが,十分分かっておりません。例えばさっき出てきた大学入試,高校入試,中学入試の問題それぞれは,この問題はプロセス・手続き型を評価していますとか,この問題は概念的枠組みを評価していますとか,こういう分類ができるものなのでしょうか。
 じゃ,これは改めて,少しほかの御質問もほかの先生にあると思いますので,ちょっと最後の方でまたもう一度御説明いただければと思います。
 それでは,佐藤委員,どうぞ。
【佐藤委員】  関西学院大学の佐藤でございます。無藤先生に御質問させていただきたいと思います。先生,ありがとうございました。先生の発表に対しては,総論では私も同じだなと思っていて,大変お聞きしてよかったですけれども,各論でちょっと3点ほど確認をさせていただきたいと思います。
 レジュメの番号の2番,学びに向かう力の評価というところですけれども,先生は人間性ということで,思いやり,個人内評価ということをお話になったと思いますが,現在ですと,特別な教科道徳の評価は個人内評価ということで,認め,励ます評価でありますけれども,先生がここで述べられている個人内評価に対しては,ここでは各教科等についても個人内評価ということをお考えでしょうか。その点をお聞かせいただきたいと思います。
 2点目は,レジュメの番号の3番の観点別の評価でございます。2008年の学習指導要領の改訂のときには,国研の方からその後評価規準ということで,規準表の参考の資料を出されましたけれども,この場合にもここでは,資質・能力の三本柱に対応した観点ということで,観点に従いまして,評価規準というものを設定しての評価ということをお考えでしょうかという点で,その評価規準の設定についてお考えをいただければと思います。
 3点目は,レジュメの番号の5番でございます。評価を学び指導するポイントを伝える場ということですけれども,大変私もお聞きしていて,このようなカンファレンスみたいな場が教育の場でもあればいいなと思っておったところですけれども,ここでのやっぱり評価の場合には評価資料と,それから評価場面というのが重要だと思っていまして,そこまでどのような評価資料を蓄えておけばいいのか。
 例えばポートフォリオですとか,それをデジタル化しておくことですとか,加えてその評価場面ですけれども,学校現場は大変多忙なわけですが,日々なのか,先生がおっしゃますように,単元ごとの内容のまとまりごとにそのようなカンファレンスの場が必要であるのか,それとももう少し大くくりで,学期ごとで今のような面接でもよろしいのかという,その評価場面についてということのこの3点をお聞かせいただければと思います。よろしくお願いします。
【市川主査】  すみません,それでは立てている先生が何人かいらっしゃるので,質問を先に出していただいてから,その後,ちょっとまとめてということでお願いしたいと思います。
 それでは,まず河野委員,先に挙げていらっしゃったのでどうぞ。
【河野委員】  本日はどうもありがとうございました。ICTを使いました御発表の富士通の先生と,それから大杉先生に1つずつ教えていただきたいことがございます。よろしくお願いします。
 まず,ICTを活用したこちらの授業の評価ですが,非常に興味深く伺いました。まず公平性の点,それからあとは先生が,一人一人の生徒さんを非常にプロセス等理解しやすいのではないかなと感じました。その上で,最後ちょっと時間がなかったんだと思うんですけれども,課題もあるなとおっしゃってくださっていたので,こちらを導入するときの課題,そして先生たちがこれを活用するときの課題がもしあれば,こちらにまとめも頂いているんですけれども,口頭で教えていただければと思います。
 それからもう一つは,是非大杉先生に教えていただきたいことがございます。私はこの学校での評価の専門家ではないものですから,ちょっと外れてしまったら申し訳ないんですけれども,先生の御発表の中で,これからの見方・考え方の重要性のところに焦点を当ててパワーポイントを作っていただいていまして,特にそこの中で,私は社会人,企業人の人材育成と評価をするので,答えがない分野についていろいろ評価をするときに,私は各教科の中でのみではなくて,教科間がすごく重要だと思っていまして,ある教科,地理と化学を両方使って,ある一つのことを解決する,そういうような考え方も重要だと思うんですが,その教科横断型の何か評価の仕方みたいなものをもし考えていらしたら,教えていただきたいと思いました。
 以上でございます。
【市川主査】  伊藤委員,続けてどうぞ。
【伊藤委員】  ありがとうございます。5人の先生方,大変ありがとうございました。私の方からは,奈良教育大学と富士通株式会社さんからの御発表について少し,感想と,それから御質問させていただきたいと思います。学校現場にいる者にとりましては,授業研究という点で大変新鮮に聞かせていただきましたし,幾つかの御示唆を頂いたように思いました。
 1つは,授業研究というものが単一授業を対象とすることが通常であることに対して,本研究は単元レベルで行われているということです。そのことによって,評価という視点での研究がよりやりやすくなるし,特にエビデンスに基づいた形で進められている点というのはすばらしいなと思いました。
 もう一つは,教職大学院です。奈良教育大学の教職大学院と附属学校,そして民間企業の共同研究によって御提案がされているという点です。3者がそれぞれの特色や強みを提供し合いながら開発を進めていくといった一つのモデルを,ここでお示しいただいたように思いました。特に教職大学院は,今全都道府県での設置がほぼ達成されたともお聞きしています。理論と実践の往還,こうした手法を活用しながら,学校現場の質の向上を図っていく,これは非常に私たちは期待をしている部分なんですけれども,これからますますこういうニーズは高まっていくと思いますので,是非国が大きな枠組みを示した中で,各地域でこうした創意工夫をされた研究開発が進められていくことを大変期待しています。
 そこで,3点ほどお伺いします。1点目は,先ほども少しおっしゃいましたけれども,単元レベルの授業研究ということで,毎回全員が出てこられるわけではないというお話がありましたけれども,実際にはどのように行われているかということを,もう少し詳しくお聞きしたいということです。
 それから2点目は,この授業スタイルですが,授業展開が定型化している分,場面や教科もある程度限定されるのではないかと感じました。そこら辺を少し教えていただければということと,最後に,こうした研究成果がどの程度地元の小・中学校,あるいは高等学校等に紹介され,還元されているのかということについてお聞きしたいと思います。よろしくお願いします。
【市川主査】  それでは,松尾委員まで,質問どうぞ。
【松尾委員】  いろんな御発表ありがとうございました。私は無藤先生について1点だけ質問させていただきます。項目番号の8番でございますけど,評定の在り方について。先生は評定は最も簡便にその子供の進みぐあいを表すもので,一定の意義があるとお考えのようでございますが,最後のところに,受験のために内申書に直結するやり方については少し検討が必要なんじゃないかとお書きになってありますが,先生としてはどういうところが問題点と思っているのか,教えていただければと思います。
 以上です。
【市川主査】  順番に,無藤先生,それから小柳先生,真弓先生と大杉先生の順に,御回答をお願いいたします。
【無藤教育課程部副会長】  では,私には佐藤委員,松尾委員から御質問いただきました。
 佐藤委員の方から3つでございますけれども,まず学びに向かう力及び人間性の人間性につきまして,各教科ごとにということでありますけれども,学びに向かう力の部分と人間性の部分を分けることが1つ,そして学びに向かう力の部分は3観点の一つとして,各教科ごとに生かすことができる。それに対して人間性の部分はそういうものにはなじまないので,例えば行動の記録のようなところに反映するところもあると思いますし,また日頃の教師と子供のコミュニケーションの中で,特に子供のよさが見受けられた場合に,それを子供に伝えていくということも大いにあるのではないかと思います。
 2番目ですけれども,評価規準をどう作っていくか。私は作るべきだと思いますが,同時に,どこで誰がどう作るかは別として,もっと具体的な評価の在り方についての資料というものが必要だと思いますし,また,特に学びに向かう力については,どういうスキルといいますか,わざを身に付けさせることがよいのか。これは実は非常に多様だと思いますけれども,そういうことをやる。そのための資料はどういうものがあるか,どういうふうに資料を集め,整理し,評価につなげるかなどの実践的な検討が必要であると考えております。
 実は本日お聞きして,学習塾の木村先生のお話でありますけれども,私の立場からすると,こういう7つほどに分けるというやり方は,学びに向かう力のスキルとその育成のやり方の一つであると位置付けていいと思います。例えば生徒なりに目標を立てたり,計画したり,選択したりというのも一つのスキルであると思います。
 3番目でありますけれども,評価をコミュニケーションとして生徒に伝えることは好ましいにしても,どういう場面でどういう時間で行うのか,どういう資料を使うか,確かにこれは非常に難しいところであると思います。授業時間が十分とは言えない中でどうしていくかでありますが,基本的には評価資料,ポートフォリオ等を通して豊かに持っているということが第1点だと思います。
 2番目に,時間,場面につきましては,各単元ごとでは基本的には集団的に,ごく簡単な資料を子供にフィードバックするということと,とりわけ困難を感じる場合に個別ということがあり得ると思います。同時に学期ごとで言えば,個別指導の時間を確保するということが基本であっていいと思います。そのようなことを可能にするような授業全体のゆとり時間をどう作るかの工夫が望まれると考えております。
 評定と内申の関連でありますけれども,これは私の個人的意見でありますが,観点別評価からさらに評定にまとめる,そしてそれを基にして,それとほぼ同じ形で内申書を作ることでの弊害というのは,やはり1点を争うような形になりやすいとか,客観性を求めるがゆえに,例えば学びに向かう力など,あるいは思考力などについても厳密な判定を求められると,非常に表面的,外観的な,トリビアルな規準に陥りやすいと思います。
 そういう意味では,私は観点別評価やそれをベースにした評定というのが,このようないわゆるハイステークスというんでしょうか,個人の進路における重大な判定資料に直結することは好ましくないと考えております。そういう入試に関わる分は別な資料で考えるべきであると思います。
 以上です。
【市川主査】  ありがとうございました。
 それでは,小柳先生,真弓先生の方からお願いできますか。
【真弓先生】  富士通の真弓と申します。御質問いただきましてありがとうございます。先ほど御質問いただきました課題のところを少し回答させていただきたいと思います。
 まず導入の課題のところにつきましてなんですけれども,今回授業研究自体は初めて,昨年,2016年,17年とやってきたんですが,実は先生方はもっと前から既にこのシステム,ICTは御活用いただいておりましたし,このシステムは非常に使いやすくなっておりますので,その辺は特に抵抗なく使えました。それから生徒の方も特にICTに関してはもう,もともと慣れておりましたので,特に何も負担なく導入できております。
 ただ先生の方で,導入に際して1点だけあったのが,発問をどういう形で出すか,どういう選択肢にするかというところについては,今回これをやるに当たっていろいろ検討させていただきましたので,そこについては幾つか議論させていただきながら,まとめてまいりました。
 それからもう一つ,先生の活用に関する課題にということだったと思いますが,ここはちょっと説明がもしかしたら余りうまく伝わっていなかったかもしれないんですが,資料の4ページのところを少し御覧になっていただけますでしょうか。資料3-1の4ページのところに,少し体制を書かせていただいているんですけれども,今回授業は奈良教育大学の附属小学校の方でやっていただいたものを,教職大学院の先生方に分析をしていただきました。
 なので,この教職大学院の先生方はもちろん授業も一度も見られておりませんでしたし,このシステムについても全く理解されていなかったんですけれども,そこは簡単に最初にレクチャーさせていただくことで,特にここも問題なく,スムーズに授業研究を進めていただけたと考えております。
 以上です。
【小柳先生】  それでは僕の方からなんですけれども,御質問いただきました,実際に単元レベルの授業研究をどういうふうにやっているのかということなんですが,授業そのものに関わった附属小学校で,今真弓さんからもお話があったように行われておりますので,それについて展開されている間に,院生さんたちにはそれらがいつ展開されているかということはお話ししていて,今見ていないと言っていましたけど,参加できるときには実際には行って,授業を見ております。
 分析に関わっては,11月から僕の大学院の授業の中で,3時間連続で行っている授業があるんですけれども,そこで院生さんたち,受講している子たちが3週にわたって分析をしていくというシステムで,集中的にその単元を分析していくような形で行っていきました。ですので,全部の単元のところにはやっぱりそれぞれ予定があって参加はできないので,実際に授業を見たところは認識はしていますけれども,見ていないところも多く,そういったデータが集まっている中での分析を,まとまった大学院の授業の中で実際に,そのデータを見て一つ一つ単元分析をしていく,分析した結果を附属学校に返すという形で行っておりました。そういったやり方です。
 2つ目の授業そのものの定型化に関わっては,これはもう確かに御意見はあるんだろうと思いますが,このたび理科の先生が中心に行ってくださいまして,理科は仮説実験授業の歴史もあり,ある程度やっぱりどちらかというと,まず意見を持つという形から始まっていきまして,その説明をという形を大事にされていたので,そういったプロセスを大事にしていったということがございました。ですのでほかの教科でいろいろ当たっていくとしたらば,御指摘どおりにそこはまた考えていく必要があるのかなとは思っております。
 3つ目,地元への還元の件は,本当にまだ実は十分に行うことができておりませんで,1年目の取組については論文化してまとめてはいるんですけれども,別に学校にそれを紹介できているかというとそういった時間がなく,2年目のことは今整理はしております。ただ,奈良県に関してだけじゃなく,ほかのところで富士通さんはされていらっしゃいますので,そちらの方の学校のところでは,いろんな取組については広がっていくことはなさっているかなと思います。
 最後になんですけど,先ほど御質問いただいた中でもあったかなと思いますが,本当にこういったことを行っていくときに,悩みや壁になることってやっぱりあって,教員の皆さんはこれを行っていくときに,従来の授業研究は単元全体を見通しますけれども,1時間の授業を取り上げることが多く,そのときはどうしてもその授業の指導案を見たり,参画していたりとか,終わった後に入れたりするとすごく時間を伴ってやってくださるので,今回それとは違う文化で進めていきますから,そこは物すごく抵抗感がございました。
 ですので,最初は授業を実際に見ていないことはどう分析するんだという形とか,非常なる抵抗もございまして,そういった中で行っていくんですが,どうしても1時間の授業で行うときは,やっぱりその授業の子供たちの姿を見ますが,どうしても教授行動の方にみんなの意見が向かっていくんです。
 今回逆にそこは見られていなくて,データを見ていきますので,子供の姿から,1時間の授業でそこのところは何したのかという質問はもちろん出ますけれども,通しでやっぱりどういった授業改善の方法はいるのかという話ができていったということがあり,最終的に回数を積んでいくと,ちょっと今までと違う感覚で授業を考えることができるということが先生方から出てきました。その点が壁として出てきたところですけれども,ある程度そういったことに関わっても,新たな知見が出てきたかなとは理解しております。
 そういった意味で,単元レベルでもし授業研究をやっていこうとすると,本当にまず我々が遭遇したような壁と必ずぶつかるような気がしていまして,幾らこういったシステムがあっても,そのシステムそのものをどう使うんだとか,時間が掛かるじゃないか,誰が分析するんだとかいろんなことが出てくると思いますので,そのときにどんな要件があったらいいのかとか,どうやったらコンパクトに進むのかということを,この2年間富士通さんと一緒に考えてまいりましたので,それらで見えてきている中身を,先ほど御質問いただきましたけれども,学校へ還元できるように努力していきたいと思っております。
【市川主査】  それでは,大杉先生,お願いします。
【大杉先生】  第1に御質問いただいた点については,入試問題は分類できるかということだったんですけれども,手続き型で言いますと,高校入試問題に当たると考えています。手続き型で申しますと,時期や推移などに着目して捉え,類似や差異などを明確にして,事象同士を因果関係などで関連付けるように考えていくということが,歴史的分野の見方・考え方になっています。
 入試問題は,屏風に書かれたポルトガル船,帆船と,サスケハナ号の蒸気船の2つを見比べて,共通点,違いはどこにあるかというものを見て,結果として船が蒸気船に変わっているということであれば,原因は何かを関連付けて考えてみましょうということで,産業革命,動力革命が関連しているとなるわけです。これは,手続を中心に見ていくと考えられます。概念的枠組み型というのは,野菜を見て,塩よりも砂糖の方から水がたくさん出ている。これは何か分からない。分からないというときに,自分の持っている枠組みとして,浸透圧と半透膜,濃度という概念を頭に思い浮かべて,それを当てはめて解釈して説明している。
 概念的枠組み型としたのは,カール・ポパーのサーチライト理論,つまり,我々は暗闇の中では何も分からないけれども,理論という光,これを当てることによっていろんな物事の関係性を捉えることができる,という考え方に立つからです。概念的な枠組みを持つことによって,分からなかった関係性を捉えて解釈できと考えるからです。そういう見方で考えたときに,この大学入試のサンプル問題,これは概念的枠組み型の見方・考え方に基づいて,説明できるんじゃないかと判断しました。
 繰り返しますが,歴史の方は両方の絵を見比べた上で,帆船と蒸気船の違いを見つけて,それで産業革命,宗教改革,ルネサンス,新航路開拓と,いろんな原因と考えられるもののうち,この船の違いをもたらしたものは何かを考えて答えていく問題ではないかと考えました。
 あともう一つ御質問いただいたのは,答えのない問題を考えるときの評価に当たって,教科横断的な評価の仕方というものが必要じゃないかというお話だったんですけれども,これは総合的な学習の時間の問題追究というのが,いろんな教科の学びを使って考えて,自分たち自身が答えを作り出していくという学習だと思います。ただ,同じ教科でも違う分野の学びを結び付けて答えを出すという力が,本来の教科で求めている思考力・判断力・表現力ではないかと考えております。
 あと補足的に,鈴木先生に,十分答えられていなかったのでお話をしたいと思うんですけれども,新しい学習指導要領を分析しますと,中身は,見方・考え方を働かせて,次の知識を活用して,このことについて考えるという形式でほぼ全教科そういう書き方になっていたと思うんです。つまり見方・考え方を働かせて,この知識を使ってこのことについてこう考えたときに,考える力が育つんではないかなと私は捉えたんです。
 従来は,見方・考え方が示されておらず,コンテンツが示されていたので,概念的枠組み的なものが多かったと捉えられるかもしれませんが,今度は探究の仕方が,見方・考え方として示されたので,非常にバランスよく示されるようになったと思います。
 すみません,十分な回答になっていないかもしれません。
【市川主査】  どうもありがとうございました。
 ほかの委員の方,いかがでしょうか。じゃ,嶋田委員,どうぞ。
【嶋田委員】  本日は大変勉強になりました。ありがとうございました。単元レベルの授業研究について,小学校の段階で感じたことをお伝えさせていただければと思います。大体やはり研究授業をやっていくときには,数時間の指導計画の中のある時間で授業研究を行う。それをいろんな方に見ていただきながら,特にその時間を切り取っての指導法について,児童の理解について評価したり,協議をしていくということが多いんですが,自分でもやってみてそうなんですが,やった後の,例えば3時間目であったら,4時間目から6時間目までの子供たちの変容とか,理解の定着度がどうだったかということについての意識というのは,やっぱりどうしても弱くなっていってしまう。
 そこの部分について,こうやって単元を通して見ることの考え方は非常に大事だなと思いましたし,子供たちがどう納得しているかという視点は,これから学びに向かう部分の評価をしていく際には,非常に大事だなと思いました。ですので,特にこれからのことを考えていったときに,単元を丸ごと見ていく評価の在り方という視点をやはり入れていく必要性の大切さを,非常に感じていたところでございます。
 以上です。
【市川主査】  これは御質問ということではなくて。
【嶋田委員】  いえ,感想です。
【市川主査】  御意見,感想。ありがとうございます。
 ほかにいかがでしょうか。じゃ,2巡目でも結構ですので,鈴木委員,どうぞ。
【鈴木委員】  先ほどの議論を続けますが,ちょっと1つだけここで出た例を。高校生をどう考えるかということをお話ししますと,黒船と帆船で,間に産業革命の問題ですが,高校生はこれは年代を知っておりますので,知識の問題で答えると思います。中学生ならば,思考・判断の問題として考えるかもしれませんが,高校生は大体産業革命はいつだとか分かっていますから,これはもう知識の問題になってしまう。ですから,評価はいつでもそうですが,思考・判断・表現の問題を作ったつもりでも,結構生徒は知識で答えるということがあると思います。
 それから先ほどの問題に戻りますと,要するに小学校で教える概念等は,重さで言うと1キロという質量,高等学校や中学では5キロ,10キロと重くなって,それを同じ1メーター動かすのに必要なエネルギーは全く違う。ですから高等学校はその概念自体が大変難しいので,それを同じように想像するのでも相当なエネルギーが要る。
 ただ,同じ1メーターを小学校から高校まで動かすんではまずいんじゃないか。高校ではやっぱり重くなっても,それを3メーターとか4メーターとか動かさなければまずいんじゃないか。ですから質量が重くなっていくことも事実ですけれども,その動かし方も,ここで言うとプロセスの方も,もう少し複雑な動きとか,長く動かすというものが必要ではないかと私は思っております。
【市川主査】  じゃ,ほかにいかがでしょうか。
 まだ時間がちょっとありますので,私の方からも改めて伺ってよろしいでしょうか。小柳先生と真弓先生に質問なんですが,先ほどのこの4ページの三角形の図を見ますと,今回授業をなさったのは附属小学校の先生で,そして,これは授業研究チームになっているんですが,教職大学院の方にその授業データを分析する方々がいて,いろんな技術的な支援などは富士通さんの方でなさったということだと思います。
 最終的には,学校の先生が自分たちでこのシステムを使って,自分たちで授業研究しながら授業をすると。普通は授業研究といっても,結局は授業をする先生が自分たちで研究をして授業改善を図るということになると思うんですけれども,今回の場合は,こういう研究のためのシステムということなのか。最終的にはそれぞれの個々の先生が,自分でこのシステムを使いながら授業改善をしていく,そういうことが想定されているのか,これはどちらなのでしょうか。
【真弓先生】  御質問いただきましてありがとうございます。まず附属小学校では,既にこの2つのソリューションの方,システムを随分前からもうお使いいただいて,いつでもこういった授業だったり授業研究はできるような環境にあります。そして授業の終わりには,必ず先生はこの振り返りをこのシステムのデータを見ながら,実際に一つ一つの授業についてはやられていたということは事実です。今回単元を通してというのは実はやっていなかったので,そこについて,大学院の小柳先生のところで一緒にやっていただいたという形になります。
【小柳先生】  大学院のところに県立の高校とか公立の中学校,小学校の先生方もみんな来られているので,実際に分析する中で,質問に答えるとすれば,自分たちの学校でいけるかということを見てもらったもので,研究環境でずっといこうというわけじゃなく,実際に富士通のシステムを公立の学校で用いているところも存在していて,そこはそこでやっていますけれども,今回我々は,その院生さん,現職の皆さんが,実際にこれを使ったら自分の学校でどうできるのか,どれぐらい時間が掛かるのかとか,何が必要なのか,もし学校で自分が研究主任になってこれをやっていくときに何が壁なのかということを,みんなに言ってもらったりして,その導入に関わって,立場に立ってもらっていろいろ考えてもらうということはやってまいりましたので,研究のためにこれをやっているというよりは,遠い見通しとして学校で使っていただくための研究をやっているという形のスタンスでおります。
【市川主査】  ありがとうございました。これだけ見るとやっぱり研究プロジェクトとしてすごく大掛かりなので。今はこういうやり方で3者がかなり絡んでやっているけれども,最終的にはノウハウ,このシステムの使い方というのがむしろ学校に還元されれば,それぞれの学校が自律的にこのシステムを使って授業改善を図れるということを目指している,そういうふうに理解してよろしいでしょうか。どうもありがとうございます。
 ほかにはいかがでしょうか。じゃ,河野委員,どうぞ。
【河野委員】  富士通の真弓先生に1つ,確認というか,教えていただきたいと思います。今回話の中にはなかったんですが,これは例えばインクルーシブ教育などのようなところで,障害を持ったお子さんも参画できるようになっているのかとか,あとはそれから音声でのサポートがあるのかとか,ちょっと予算的なこともあるとは思うんですが,発展性も含めて何かそのあたりの御意見がもしあれば,教えていただければ幸いです。よろしくお願いします。
【真弓先生】  御質問いただきましてありがとうございます。インクルーシブ教育に対して,実はこのソリューションでなくてほかのソリューションで,今いろいろ研究しているものはあります。ただ残念ながらこのソリューション自身は,そこには具体的にこう対応できていますというわけではないんですけれども,実際にはこのクラスには場面緘黙の子供たちがいたりしまして,自分では発表はできないんですけれども,書いたものを皆さんで共有したりとか,それを先生が代わりに読んであげたりと,そういった使い方はさせていただいております。
 以上です。ありがとうございます。
【市川主査】  それではいかがでしょうか。時間はまだ六,七分ありますけれども,一応御意見,御質問も出たようですので,ひとまず本日は少し早いですが,これでよろしいですか。
 それでは事務局の方から,よろしくお願いいたします。
【白井教育課程企画室長】  本日もありがとうございました。次回の第7回の学習評価ワーキングですが,8月7日の午前中,10時からの開催を予定しております。
 以上でございます。
【市川主査】  それでは,定刻より少し早いですけれども,本日は順調に進んだということで以上にさせていただきます。どうもお忙しいところありがとうございました。

―― 了 ――

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