資料4 大規模災害時の学校における避難所運営の協力に関する留意事項(案)

文部科学省初等中等教育局


   熊本県熊本地方を震源とする地震等により、地域コミュニティの中心である学校が避難所となり、数多くの避難者を受け入れ、学校の教職員が避難所運営に協力した。その際、多少の混乱が見られたことから、今後、災害発生時の混乱を最小化し、学校教育活動の早期正常化に資するため、文部科学省において、学校が避難所運営に協力する際の留意事項の検討を行った。
   検討に当たっては、阪神淡路大震災、東日本大震災において文科省の様々な有識者会議の検討結果の内容を踏まえるととに、熊本地震をはじめとして大規模災害に見舞われた教育委員会・学校からヒアリングを行った。


0.はじめに
   大規模災害の発生時における学校の教職員の第一義的な役割は、児童生徒等の安全確保とともに、児童生徒等の安否確認と学校教育活動の早期正常化に向けて取り組むことであり、避難所の運営については、一義的には、市町村の防災担当部局が責任を負うものである。
   しかしながら、これまでの大規模災害の経験を踏まえれば、発災直後には被害状況の把握に追われるほか、ライフラインの寸断等により、市町村の防災担当部局が直ちに避難所運営の十分な体制を整えることが困難であること等により、今後も、発災から一定期間は学校の教職員が避難所運営の協力を可能な限り行わざるを得ないことが予想される。しかし、教職員が避難所運営に協力し、円滑に防災担当部局に、さらに住民の自主運営へと移行すれば、早期の学校再開につながり、児童生徒等が日常生活をいち早く取り戻すことができる。また、特に特別支援学校においては、障害者が利用するにあたっての配慮も進んでいること等から、障害者や高齢者等の配慮を要する者のための避難所(福祉避難所)となることも想定される。
   文部科学省では、これまでも阪神・淡路大震災や東日本大震災等の大規模災害時の実態や得られた教訓から、学校やその設置者において適切な対応がなされるべく検討を行ってきたところである。(【参考資料】参照)これまでの取組も踏まえ、大規模災害発生時における学校の避難所運営について、下記のとおり留意事項を取りまとめたいと考えている。


1.学校が避難所になった場合の運営方策について
   大規模災害が発生した場合は、学校が市町村により避難所として指定されているか否かに関わらず、学校に地域住民や帰宅困難者が避難してくることも想定される。これまで文部科学省においては、「学校等の防災体制の充実について 第二次報告」(平成8年9月 学校等の防災体制の充実に関する調査研究協力者会議)(以下「第二次報告」という。)において、学校が避難所となる場合の運営方策(以下「学校避難所運営方策」という。)をまとめている。そのため、学校保健安全法第29条に基づく学校防災マニュアルに学校避難所運営方策が盛り込まれているところもある。学校避難所運営方策については、改めて防災担当部局と連携して、教育委員会及び学校において、以下の留意事項を踏まえて検証・整備を行う必要があると考えられる。

(1)教育委員会及び学校は、市町村から避難所として指定されているか否かに関わらず、学校が避難所になった場合を想定して、学校避難所運営方策の検証・整備を行うこと。その際、教育委員会は、学校が当該方策を検証・整備する際に必要な事項等を示すことや、防災担当部局に協力を依頼したりすること等、必要な支援を行うこと。
(2)学校避難所運営方策の検証・整備については、市町村が作成している避難所運営マニュアルや第二次報告、平成24年3月に文部科学省が作成した「学校防災マニュアル(地震・津波災害)作成の手引き」等も参考にしながら、次の各事項についても十分な内容であるか確認すること。その際、児童生徒等が在校中に学校が避難所となり、児童生徒等と教職員の安否確認や避難誘導等と同時に行われる場合も想定しておくこと。
    a 教職員の具体的な参集・配備の在り方や役割分担
    b 学校が避難所になった場合の開設や組織の立ち上げについての方法
    c 教育活動の円滑な再開を見据えた、避難所としての学校施設の利用計画
    d 学校施設・設備の被害状況の把握方法
    e 避難者の把握方法
    f 高齢者、障害者、妊婦等の配慮を要する者やペットを連れた避難者への対応
    g 水や食料等の確保や備蓄品の配分方針及び方法
    h 防災担当部局や教育委員会との情報連絡の在り方
    i 地域の自治組織やボランティア等との連絡・調整及び避難者との情報共有の在り方
(3)教育委員会は、学校避難所運営方策について、校内の教職員に共有するだけではなく、防災担当部局と協力して、地域住民が組織する自主防災組織、医療機関をはじめとした関係機関と共有を図るよう努めること。
(4)教育委員会及び学校は、学校防災マニュアルと併せて学校避難所運営方策についても、より実践的かつ実効性あるものにするために、類似の自然災害が予測される学校等における相互検証や有識者等の外部人材による検証、年度当初に学校防災マニュアルや学校避難所運営方策を踏まえた訓練を行う等の検証等を通じて、不断の見直しを行うとともに、その内容について教職員で共通理解を図るように努めること。


2.学校の組織体制の整備について
   発災時には学校防災マニュアルや学校避難所運営方策に基づき、全教職員は児童生徒等と教職員の安全確保、安否確認、避難所運営への協力や教育活動再開の準備等の対応に組織として取り組むことが求められると考えられる。
   そのため、以下の留意事項を踏まえて、発災時の学校の組織体制の在り方と校長を責任者として核となる教職員を中心に学校安全や防災を推進する体制を検証・整備し、役割分担を明確にすることが必要である。

(1)教育委員会及び学校は、各学校において発災時における教職員の具体的な参集・配備の在り方について、検証・整備すること。なお、大規模災害が発生した場合には教職員自身が被災者になり行動がとれない場合等、事前に組織した校内体制が十分機能しない場合についても留意すること。
(2)教育委員会及び学校は、大規模災害に備えて、各学校において学校安全や防災を推進する教職員・組織を校務分掌上明確にする等、組織として取り組むための体制の在り方について検証・整備すること。また、教育委員会は、必要に応じて、全ての学校において共通にとるべき組織体制の在り方について検討すること。例えば、宮城県では、東日本大震災の経験と教訓を踏まえて、県内全ての公立小中学校に防災主任を配置し、防災訓練や学校における避難所運営のための関係機関との調整等を行っており、そのような取組を参考にすることも有効であること。


3.災害時の教職員の避難所運営の協力業務と教職員の意識の醸成について
   大規模災害の発生時において、直ちに市町村の防災担当部局が職員を派遣して学校における避難所を運営することは困難な可能性が高い。そのため、やむを得ず発災から一定期間は学校の教職員が避難所運営の協力を可能な限り行わざるを得ない場合に備えて、以下の留意事項を踏まえて、必要な取組等を進めていくことが必要であると考えられる。

(1)教育委員会は、災害時に避難所運営の協力業務に従事することはあくまで防災担当部局の役割を補完する措置であって、教職員が、児童生徒等の安否確認や学校教育活動の再開等の本来業務に専念できるように、防災担当部局に速やかに担当職員を派遣できるよう調整を行うこと。
(2)これまでの大規模災害において、教職員が避難所運営の協力業務として、主に
    ・避難者の把握と名簿の作成
    ・教職員、地域の自治組織の代表やボランティア等を中心とした避難所運営のための組織の立ち上げ
    ・関係機関への情報伝達と報告
    ・備蓄品や救援物資の管理と仕分け、配布
    ・地域の自治組織やボランティア等との連絡・調整
    等の業務を行っていることから、教育委員会は、そのための事前の準備や発災時において避難所運営に関する業務のうち学校の教職員が学校現場の判断として実施することが可能な範囲を明確化すること等を防災担当部局が中心となって関係機関との調整・検討を行うことを促すとともに、防災担当部局と共同して、防災に係る研修等の中に避難所運営の協力業務のための訓練を取り入れる等の工夫を行うこと。
(3)教育委員会は、これまでの災害の教訓を踏まえて、教職員一人一人が災害の種類、学校教育活動の場面や時間帯に応じてどのように対応することが望ましいかを含めて、研修等を通じて、改めて防災意識や危機管理意識の醸成を図るよう努めること。特に、校長をはじめとした管理職を対象として、大規模災害時に学校組織のリーダーとして十分に対応できるように必要な研修等を行うこと。
 
4.教職員が避難所運営の協力業務に従事した場合の服務上の取扱いについて
   災害時に、教職員が避難所運営の協力業務に安全かつ安心して取り組むためには、以下の留意事項を踏まえて、教職員が当該業務に携わった場合についての服務上の取扱いを整理・明確化しておくことが必要であると考えられる。

(1)避難所となっている学校の教職員が災害時に避難者の救援業務をはじめとした避難所運営の協力業務に従事することについては、当該学校の管理業務の一環を担っているものと考えられ、服務上の職務として取扱い、通常、公務災害補償等の対象となること。また、災害時における避難者の救援業務をはじめとした避難所運営の協力業務については、公立の義務教育諸学校等の教育職員を正規の勤務時間を超えて勤務させる場合等の基準を定める政令(平成15年政令第484号)における「非常災害の場合、児童又は生徒の指導に関し緊急の措置を必要とする場合その他やむを得ない場合に必要な業務」に該当すること。
(2)他県を含め避難所となっている学校の教職員以外の教職員が避難所運営の協力業務に従事する場合については、当該教職員の服務監督権者である教育委員会において、その属する地方公共団体が決定した方針等に基づき、救援活動への円滑な実施に協力する観点から教職員を派遣する場合には、公務出張の扱いをすることも可能であること。
(3)教育委員会及び学校は、教職員が災害に対応するためにやむを得ず交代制で夜間も泊り込む場合や休日に対応する場合もあり得ることから、教職員に過重な負担を強いることのないよう、勤務時間の割り振り変更や週休日の振替等について十分に配慮すること。
 
5.防災担当部局との連携・協力体制の構築
   学校が避難所となった場合は、市町村の防災担当部局が責任者となり、運営されることになることから、事前に当該部局と必要な調整等を行うことが重要である。また、教職員が避難所運営の協力業務を行った場合、市町村の防災担当部局に円滑に引き継げるようにしておくことが重要である。したがって、以下の留意事項を踏まえて、市町村の防災担当部局と密接かつ十分に連携・協力を図ることが必要であると考えられる。

(1)教育委員会は、市町村の防災担当部局に対して、発災時に避難所となる学校ごとに担当を明確に定めておくよう促すこと。また、地域の自主防災組織・ボランティア組織等を含めて災害時の対応や住民の自主運営へと移行した際の避難所運営の代表者をはじめとした役割分担の確認等について定期的に学校と協議を行うことや、学校において行われる訓練を共同して行うことについても防災担当部局に促すこと。特に、都道府県立学校については、都道府県教育委員会が積極的に域内の市町村の防災担当部局に対して連携・調整するように促すこと。
(2)教育委員会は、防災担当部局を中心とした体制の下、学校ごとに、学校施設の利用計画やあらかじめ整備すべき施設設備、非常用物資等の備蓄の在り方等について防災担当部局と積極的に共有し、取組を進めるよう努めること。その際、総合教育会議を活用することも有効であること。
(3)特別支援学校を設置している教育委員会は、当該特別支援学校が、障害者や高齢者等の配慮を要する者のための避難所(福祉避難所)に指定されるに際しては、必要な施設面のバリアフリー化の状況、想定される避難者数に応じた人材の確保や非常用物資の備蓄等についてあらかじめ防災担当部局と検討・調整を行うこと。


6.地域との連携・協力体制の構築について
   大規模災害において、学校における避難所運営が長期化する場合には地域住民の自主的な活動が極めて重要である。地域住民等と日常的に連携がとれていた学校等は、地域の自主防災組織等に避難所運営を引き継ぎ、児童生徒等の安全確保や教育活動の早期正常化が円滑に進んだという報告もあることから、教育委員会は、コミュニティ・スクール等を活用して、防災も含めて学校と地域の連携・協力体制の構築を進めるよう努めること。併せて、教育委員会は、防災担当部局と協力して、学校が地域の自治組織等からなる自主防災組織等と協議・連携できるような場の設定等について支援を行うことが考えられる。


7.教育委員会間の連携・協力体制の構築について
   学校が避難所になった場合には、当該学校に所属する教職員は、児童生徒等の安全確保をはじめとした様々な対応を行うことが必要となる。その際、人的な支援は必要不可欠であるが、学校教育活動に知見・理解のある人材の支援は、当該学校に所属する教職員に安心感を与えるとともに、教育活動の再開のために大いに役立つことになる。
   そのため、以下の留意事項を踏まえて、都道府県教育委員会と市町村教育委員会、同一都道府県内の市町村教育委員会間、他の都道府県教育委員会との間における連携・協力を積極的に図ることが必要であると考えられる。

(1)都道府県教育委員会は広域的な観点において指導助言を行う役割をもつことから、発災した場合の都道府県内の教職員の人的支援体制や情報集約・共有体制の在り方について検討を行っておく必要があること。発災にあたり、被害状況等の情報収集は迅速に行うことが必要であるが、市町村教育委員会は十分な体制がとれない可能性もあることから、教育事務所等を活用して都道府県教育委員会が積極的に職員を派遣して行うことを検討すること。
(2)指定都市教育委員会及び指定都市が所在する都道府県教育委員会は、発災時には互いに情報集約・共有を積極的に図る必要があることから、その在り方等について事前に調整を図っておくこと。
(3)他の都道府県及び指定都市からの教職員の人的支援体制については、地方公共団体間で締結される相互援助協定等に教職員の援助派遣を規定する等、都道府県教育委員会及び指定都市教育委員会において、あらかじめ体制の整備を図るよう努めること。例えば、兵庫県では、阪神・淡路大震災の経験と教訓を踏まえて、災害により避難所になった学校を支援する専門的な知識や実践的な対応力を備えた教職員組織を設立しており、その活動は大規模災害時に有効であったとの報告もあることから、そのような取組を参考にすることも有効であること。


8.教育活動の再開について
   大規模災害後に児童生徒等の心の平穏を回復・維持するためには、学校生活を再開し、平常時の日常生活を取り戻すことが必要不可欠である。その一方で大規模災害発生後であることを踏まえると児童生徒等が安全かつ円滑に学校生活に戻るためには、以下の留意事項を踏まえて、教育活動再開の準備を進めることが必要であると考えられる。

(1)教育委員会及び学校は、教育活動の再開に向けて、児童生徒等の登下校ルートの安全確認、児童生徒等の居住地、健康状況の把握、教科書・教材の有無の確認、授業再開、学校給食再開の見通しの確認等、段階的対応をまとめたチェックリストを教育委員会において作成し、それを活用する等、再開を判断するにあたり児童生徒等の安全確保等に遺漏のないように最大限の配慮をすること。
(2)教育委員会及び学校は、早期の教育機能回復を図る観点から学校再開の見通しを早めに防災担当部局及び避難者も含めて共有を図ること。そのためには、防災担当部局とも連携して、必要な情報を一元化し可視化することで現状について共通理解が図れるようにすること。また、学校内の避難者の居住場所の集約や他施設への移動を行う際には、防災担当部局が中心となって行うことになるが、教育委員会と学校においては学校再開の時期を踏まえて避難者の理解を得られるよう防災担当部局と慎重に調整を行うこと。
(3)教育委員会及び学校は、教育活動を再開するに当たり、未だ学校内に避難者が存在する際に、一定期間、避難者と児童生徒等が同じ施設を共有しなければならない場合の両者の動線の設定等、施設利用の在り方について検討しておくこと。
(4)教育委員会は、被災した児童生徒等や教職員について、心的外傷後ストレス障害(PTSD)と呼ばれる症状をはじめとした心の健康上の問題が生じている可能性もあるから、外部機関と連携しながら心のケアに努めること。

【参考】
   阪神・淡路大震災や東日本大震災の発生を踏まえて文部科学省において行った、学校が避難所になった場合の運営の協力に関する検討結果を含むものは以下の通り。
   ○学校等の防災体制の充実に関する調査研究協力者会議
    ・学校等の防災体制の充実について 第一次報告(平成7年11月)
    ・学校等の防災体制の充実について 第二次報告(平成8年9月)
   ○東日本大震災を受けた防災教育・防災管理等に関する有識者会議
    ・最終報告(平成24年7月)
   ○文部科学省
    ・学校防災マニュアル(地震・津波災害)作成の手引き(平成24年3月)
     
   また、地域の避難所となる学校施設の在り方等に関する検討結果は以下の通り。
   ○東日本大震災の被害を踏まえた学校施設の整備に関する検討会
    ・東日本大震災の被害を踏まえた学校施設の整備について 緊急提言(平成23年7月)
    ○学校施設の在り方に関する調査研究協力者会議
    ・災害に強い学校施設の在り方について~津波対策及び避難所としての防災機能の強化~(平成26年3月)
    ○熊本地震の被害を踏まえた学校施設の整備に関する検討会
    ・熊本地震の被害を踏まえた学校施設の整備について 緊急提言(平成28年7月)

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