教育課程企画特別部会「論点整理」(芸術系科目に関する抜粋)

2.新しい学習指導要領等が目指す姿

(1)新しい学習指導要領等の在り方について

(学習プロセス等の重要性を踏まえた検討)

○ こうした検討の方向性を底支えするのは、「学ぶとはどのようなことか」「知識とは何か」といった、「学び」や「知識」等に関する科学的な知見の蓄積である。

 

○ 学びを通じた子供たちの真の理解、深い理解を促すためには、主題に対する興味を喚起して学習への動機付けを行い、目の前の問題に対しては、これまでに獲得した知識や技能だけでは必ずしも十分ではないという問題意識を生じさせ、必要となる知識や技能を獲得し、さらに試行錯誤しながら問題の解決に向けた学習活動を行い、その上で自らの学習活動を振り返って次の学びにつなげるという、深い学習のプロセス(注16)が重要である。また、その過程で、対話を通じて他者の考え方を吟味し取り込み、自分の考え方の適用範囲を広げることを通じて、人間性を豊かなものへと育むことが極めて重要である。

 

○ また、学習のプロセスにおいて、人類の知的活動を通して蓄積され精査されてきた多様な思考の在り方を学び、その枠組みに触れることは、問題発見・解決の手法や主体的に考える力を身に付けるために有効であり、その点で教科間の区別を超えて重要である。

 

○ 身に付けるべき知識に関しても、個別の事実に関する知識と、社会の中で汎用的に使うことのできる概念等に関する知識とに構造化される(注17)という視点が重要である。個々の事実に関する知識を習得することだけが学習の最終的な目的ではなく、新たに獲得した知識が既存の知識と関連付けられたり組み合わされたりしていく過程で、様々な場面で活用される基本的な概念等として体系化されながら身に付いていくということが重要である。技能についても同様に、獲得した個別の技能が関連付けられ、様々な場面で活用される複雑な方法として身に付き熟達していくということが重要であり、こうした視点に立てば、長期的な視野で学習を組み立てていくことが極めて重要となる。

こうした「学び」や「知識」等に関する知見は、芸術やスポーツ等の分野における学びについても当てはまるものであり、これらの分野における学習のプロセスやそれを通じて身に付く力の在り方も含めて、教育課程全体の中で構造化していくことが必要である。

 

(2)育成すべき資質・能力について

2)特にこれからの時代に求められる資質・能力

(グローバル化する社会の中で)

○ また、グローバル化する中で世界と向き合うことが求められている我が国においては、日本人としての美徳やよさを備えつつグローバルな視野で活躍するために必要な資質・能力の育成が求められる。言語や文化に対する理解を深め、国語で理解したり表現したりすることや、さらには外国語を使って理解したり表現したりできるようにすることが必要である。こうした言語に関する能力を向上させるともに、古典の学習を通じて、日本人として大切にしてきた言語文化を積極的に享受していくことや、芸術を学ぶことを通じて感性等を育むことなどにより、日本文化を理解して自国の文化を語り継承することができるようにするとともに、異文化を理解し多様な人々と協働していくことができるようになることが重要である。

(略)

 

(3)育成すべき資質・能力と、学習指導要領等の構造化の方向性について

1)学習指導要領等の構造化の在り方

(教科等の本質的意義)

○ 育成すべき資質・能力と学習指導要領等との構造を整理するには、学習指導要領を構成する各教科等をなぜ学ぶのか、それを通じてどういった力が身に付くのかという、教科等の本質的な意義に立ち返って検討する必要がある。

 

○ 教科等における学習は、知識・技能のみならず、それぞれの体系に応じた思考力・判断力・表現力等や情意・態度等を、それぞれの教科等の文脈に応じて育む役割を有している。

 

○ 例えば、思考力は、国語や外国語において様々な資料から必要な情報を整理して自分の考えをまとめる過程や、社会科において社会的な事象から見いだした課題や多様な考え方を多面的・多角的に考察して自分の考えをまとめていく過程、数学において事象を数学的に捉えて問題を設定し、解決の構想を立てて考察していく過程、理科において自然の事象を目的意識を持って観察・実験し、科学的に探究する過程、音楽や美術において自分の意図や発想に基づき表現を工夫していく過程、保健体育において自己や仲間の運動課題や健康課題に気付き、その解決策を考える過程、技術・家庭科において生活の課題を見いだし、最適な解決策を追究する過程、道徳において人間としての生き方についての考えを深める過程などを通じて育まれていく(注26)。これらの思考力を基盤に判断力や表現力等も同様に、各教科等の中でその内容に応じ育まれる。

 

5.各学校段階、各教科等における改訂の具体的な方向性

(2)各教科・科目等の内容の見直し

1)総則

○ 加えて、学校の教育活動全体を通じて実施することが求められる事項(道徳教育、体育・健康や安全等に関する指導、特別支援教育、キャリア教育、生徒指導、海外から帰国した子供や外国人児童生徒への日本語指導・適応指導等、優れた才能や個性を有する児童生徒への指導や支援、情報機器やネットワーク等の活用、学校段階間の接続、地域社会との連携や社会教育施設等の活用、学校図書館を活用した読書活動、部活動の位置付けと留意点、美術館や音楽会等を活用した芸術鑑賞活動等)についても、既存の記載事項を踏まえつつ、総則において、育成すべき資質・能力や各教科等との関係性をより明確に示していくことが求められる。

 

7)音楽、芸術(音楽)

○ 音楽科、芸術科(音楽)においては、音楽のよさや楽しさを感じるとともに、思いや意図を持って表現したり味わって聴いたりする力を育成すること、音楽と生活との関わりに関心を持って、生涯にわたり音楽文化に親しむ態度を育むこと等に重点を置いて、現行の学習指導要領に改訂され、その充実が図られてきているところである。

 

○ 一方で、感性を働かせ、他者と協働しながら音楽表現を生み出したり音楽を聴いてそのよさや価値等を考えたりしていくこと、我が国や郷土の伝統音楽に親しみ、よさを一層味わえるようにしていくことや、音楽文化についての関心や理解を深めていくことについては、更なる充実が求められるところである。次期改訂に向けては、幼児期に育まれた豊かな感性と表現等の基礎の上に、小・中・高等学校教育を通じて育成すべき資質・能力を、三つの柱に沿って明確化し、各学校段階を通じて、創造的に表現したり鑑賞したりする力の育成、生活や社会における音楽の働きや音楽文化に関する学習活動の充実等を図り、豊かな情操を養っていくことが求められる(注71)。

 

8)図画工作、美術、芸術(美術、工芸)

○ 図画工作科、美術科、芸術科(美術、工芸)においては、創造することの楽しさを感じるとともに、思考・判断し、表現するなどの造形的な創造活動の基礎的な能力を育てること、生活の中の造形や美術の働き、美術文化に関心を持って、生涯にわたり主体的に関わっていく態度を育むこと等に重点を置いて、現行の学習指導要領に改訂され、その充実が図られてきているところである。

 

○ 一方で、感性や想像力等を豊かに働かせて、思考・判断し表現したり鑑賞したりするなどの資質・能力を相互に関連させながら育成することや、生活を美しく豊かにする造形や美術の働き、美術文化についての実感的な理解を深め、生活や社会と豊かに関わる態度を育成すること等については、更なる充実が求められるところである。次期改訂に向けては、幼児期に育まれた豊かな感性と表現等の基礎の上に、小・中・高等学校教育を通じて育成すべき資質・能力を、三つの柱に沿って明確化し、各学校段階を通じて、育成すべき資質・能力の相互の関連や学習内容との関係を一層明確にした主体的で創造的な学習活動、生活や社会の中の造形や美術の働きや美術文化に関する学習活動の充実を図り、豊かな情操を養っていくことが求められる(注72)。

 

9)芸術(書道)

○ 芸術科(書道)においては、書の文化の継承と創造への関心を一層高めるために、書の文化に関する学習の充実を図るとともに、豊かな情操を養い、感性や想像力を働かせながら考えたり判断したりするなどの資質・能力の育成等に重点を置いて、現行の学習指導要領に改訂され、その充実が図られてきているところである。

 

○ 一方で、書の伝統と文化を踏まえながら、生徒が感性を働かせて、表現と鑑賞の相互関連を図りながら能動的に学習を深めていくことや、書への永続的な愛好心を育むこと等については、更なる充実が求められるところである。次期改訂に向けては、中学校国語科の書写との関連を図りつつ、育成すべき資質・能力を、三つの柱に沿って明確化し、各学校段階を通じて、育成すべき資質・能力と学習内容との関係を明確にした学習活動や、書と生活や社会の関わり、書の伝統と文化の理解を深める学習の充実等を図り、豊かな情操を養っていくことが求められる(注73)。

注16 認知過程や学習プロセスなどに関する研究例については、補足資料191・192ページ、195ページなどを参照。

注17 知識の次元や階層性、構造などに関する研究例については、補足資料191ページ、197・198ページ、203ページなどを参照。前回改訂においても、「生命やエネルギー、民主主義や法の支配といった各教科の基本的な概念などの理解は、これらの概念等に関する個々の知識を体系化することを可能とし、知識・技能を活用する活動にとって重要な意味をもつものであり、教育内容として重視すべきものとして、適切に位置付けていくことが必要である」とされたところ(「幼稚園、小学校、中学校、高等学校及び特別支援学校の学習指導要領等の改善について(答申)」(平成20年1月中央教育審議会))。

注26 中学校の教科構成を基に例示。

注71 芸術教育は、子供たちが自分の発達特性を認識し、感情や行動をコントロールしていくための素地を作るという側面があることを踏まえた指導の充実が必要との指摘があったことも踏まえつつ検討が求められる。

注72 脚注71と同様。

注73 脚注71と同様。

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