特別活動WGにおける取りまとめ(案)

1.現行学習指導要領の成果と課題

(経緯と成果)
○ 特別活動は,学級活動・ホームルーム活動,児童会活動・生徒会活動やクラブ活動(小学校のみ,以下同様),学校行事における集団活動や体験的な活動を通して,豊かな学校生活を築くとともに,公共の精神を養い,社会性の育成を図るという特質を踏まえ,特によりよい人間関係を築く力,社会に参画する態度や自治的能力を育成することに重点を置いて,その充実を図ってきたところである。
○ 平成20年,21年の改訂では,各内容に係る活動を通して育てたい態度や能力を明確にするために,特別活動の全体目標を受けて各活動の目標を明示したり,自主的,自発的な活動を一層重視したり,発達や学年の段階や課題に即した内容を示したりするなどの改善を行うことにより,その充実が図られた。
○ また,道徳的実践の指導の充実を図る観点から,目標や内容を見直し,「自己の生き方についての考えを深め,自己を生かす能力を養う」ことを目標に加えた。このことにより,道徳的実践の重要な学習活動の場としても充実が図られた。
○ 特別活動は,学級活動・ホームルーム活動,児童会活動・生徒会活動,クラブ活動,学校行事から構成されており,構成の異なる集団を通して行われるそれぞれの活動が,児童生徒が学校生活を送る上での基盤となる力や社会で生きて働く力を育む活動として機能してきた。
○ さらに,特別活動には,各活動及び学校行事が(望ましい)集団活動を通じて行われるという特質があり,各活動及び学校行事を通じて,協働性や異質なものを認め合う土壌を育むなど,生活集団,学習集団として機能するための基盤が創られている。さらに,特別活動のもつ生徒指導の機能,ガイダンスの機能が,それらを強固なものにすることに寄与している。
○ このことは,全国学力・学習状況調査の質問紙調査において,「学級会などの時間に友達同士で話し合って学級のきまりなどを決めていると思う」と肯定的に回答している児童生徒の方が,全ての教科で平均正答率が高い傾向にあることなどからも,見て取ることができる。
○ 加えて,特別活動における集団活動は,児童生徒にそれぞれの集団への所属感,連帯感を育み,ひいてはそれが学級文化,学校文化の醸成へとつながり,各学校の特色ある教育活動の展開を可能としている。
○ このような特別活動は,我が国の教育課程の特徴として,海外からも高い評価を受けているところである。

(課題とさらなる期待)
○ 一方,特別活動において,これまでの実績も踏まえつつ更なる充実が期待されることや,これまで必ずしもその役割を十分に果たし切れていなかったことから考えると,概ね以下のような点が今後の課題であると考えられる。
○ 一つ目は,育成すべき資質・能力の視点である。特別活動においては,「なすことによって学ぶ」ということが重視され,各小・中・高等学校で特色ある取組が進められている一方で,各活動において身に付けるべき資質・能力は何なのか,特別活動における学びがどのような学習過程を経て行われることによりさらなる資質・能力の向上につながるのかということが必ずしも意識されないまま指導が行われてきた実態も見られる。
○ 特に,特別活動においては,学級活動・ホームルーム活動,児童会活動・生徒会活動,学校行事や小学校のクラブ活動の時間の中で資質・能力を育成するという面と,特別活動の充実が,各教科等の学びの基盤となり,学級経営や個別の指導等との関連の中で効果を上げることによって資質・能力を育成するという面の両面がある。このように教育課程全体の中における特別活動の役割,機能という視点を明らかにすることが必要である。
○ 二つ目は,学習指導要領における内容の示し方という視点である。これまで,学級活動・ホームルーム活動,児童会活動・生徒会活動,クラブ活動,学校行事の各活動について,平成20年,21年の改訂で新たに目標が規定されたものの,それぞれの内容や指導(活動)のプロセスについて構造的な整理が必ずしもなされておらず,各活動等の関係性や意義,役割の整理が十分でないまま実践が行われてきたという実態も見られる。
○ また,学習指導要領に示す学級活動・ホームルーム活動の個別の内容が網羅的な記述となっており,項目数も多岐にわたり,項目自体が必ずしも構造的,系統的に示されてこなかったことから,指導の重点化を図りにくいことや,他教科との指導内容の重複感なども指摘されてきた。昭和52年・53年告示の学習指導要領までは分けて示されていた「学級会活動」と「学級指導」が平成元年告示の学習指導要領で「学級活動」として統合された。学習指導要領解説などでは内容の(1)と(2)(3)の違いが説明されているものの,学習指導要領上せつ然と整理され,学校現場が十分な理解の下に実践を行ってきたとは言い難い。
○ 特に中学校,高等学校においては学級活動・ホームルーム活動の内容項目が多いことが,話合い等の活動が深まらない要因の一つとなっていると考えられる。
○ 特別活動は,各教科等の学習のみならず,教育課程外の様々な学習活動や個別の指導と関わりあい,児童生徒の資質・能力の育成とともに,学校生活の向上,生徒指導の充実等に大きな役割を果たしてきた。この役割は「社会に開かれた教育課程」を目指す上で,ますます重要になると考えられる。一方で,そうした役割,機能が暗黙知となっている面があり,必ずしも特別活動として意識されていないため,学校の教育活動全体における特別活動の役割を今一度明らかに示すことが必要である。
○ 海外において我が国の特別活動を日本語名と同じ「Tokubetsukatsudou」あるいは「Tokkatsu」として取り入れようという動きがある。このことは特別活動がこれまで積み上げてきた実践が,他に類を見ない特色あるものとして評価されているという点において誇るべきことである。しかし一方では,特別活動の本質を一言で言い表して共有することの難しさがこの呼称に端的に表れているとも言える。
○ 次期学習指導要領改訂では,「社会に開かれた教育課程」の理念のもと,育てたい児童生徒の姿を学校だけでなく家庭や地域と共有していくことが求められる。改訂を通じて,改めて特別活動が果たしてきた役割,これから果たしていかなければならない役割を広く共有し,実践につなげていくことが必要である。教科書のように学校で共通に使用する教材のない特別活動において,そうした共有を図っていくためには,これまでの改訂のたびに積み上げられてきた議論を生かしつつ,これまで必ずしも特別活動に深く向き合ってこなかった教師も含め,すべての小中高等学校や幼児教育関係者,保護者や地域の人々にわかりやすく伝えられるようなものにしていくことが必要である。
○ 三つ目には,複雑で変化の激しい社会の中で求められる能力を育成するという視点である。社会参画に対する意識の低さが課題となっている中で,特別活動において自治的能力を育むことがこれまで以上に求められている。先の見通せない時代においては,多様な他者と互いのよさを生かしながら,自ら将来を切りひらいていく力が求められ,特別活動に求められるものは大きい。また,自己の在り方生き方を考えるキャリア教育を学校教育全体の中で進めていく中で,特別活動が果たす役割への期待も大きい。また,このほかにも防災を含む安全教育の充実,体験活動の充実など,社会の変化や要請なども視野に入れ,各教科等の学習と関連づけながら,特別活動において育成すべき資質・能力について更に検討していくことも重要である。
○ 今回の学習指導要領の改訂においては,以上の課題等を踏まえこれらに適切に対応できるよう改善を図っていくことが必要である。


2.育成すべき資質・能力を踏まえた教科等目標と評価の在り方について

(1)教科等の特質に応じ育まれる見方・考え方
○ 今回の学習指導要領改訂では,各教科等において求められる資質・能力を育成するためには,各教科の特質に応じて育まれる「見方・考え方」が中核的な役割を果たすと考えられる。
○ 「見方・考え方」とは,「様々な事象を捉える教科等ならではの視点」と「教科等ならではの思考の枠組み」であるとされており,各教科等別ワーキンググループにおいて,それぞれの教科等の特質に応じて育まれる「見方・考え方」を検討している。
○ そもそも特別活動とは,学級活動・ホームルーム活動,児童会活動・生徒会活動,クラブ活動,学校行事という様々な構成の集団から学校生活を捉え,課題の発見や解決を行い,よりよい集団や学校生活を目指して様々に行われる活動の総体である。その活動の範囲は学年・学校段階が上がるにつれて広がりを持っていき,社会に出た後の様々な集団や人間関係の中でその資質・能力は生かされていくことになる。
・学級活動・ホームルーム活動は,児童生徒の学校生活においてもっとも身近で基礎的な集団である学級を基礎とした活動である。社会に出た後は,職業生活の中心となる職場集団や,家庭生活を支える基盤となる家庭といった集団における活動につながってくる性格を持つ。年齢が近く年間を通じて日々の生活を共にする集団であるが,その中でも多様な個性を持った人間同士の関係により構築される中で,一人一人が意志決定に参画したり様々な役割を負ったりする。また,楽しく豊かで規律ある生活を送るために様々な問題の解決方法を話し合って決めたり,協力して実践したりする。
・児童会活動・生徒会活動は,学校生活全般に関する自治的な集団である。卒業後においては地域社会の自治的な活動につながってくる性格がある。児童会・生徒会全体が一つの集団であるという面と,委員会活動などにおいては,異年齢の児童生徒と役割を同じくする集団を構成する場面もある。集団や社会の一員としてよりよい学校づくりに参画し,協力して諸問題の解決を行う。
・クラブ活動は,小学校において,主として第4学年以上の同好の児童から構成される集団による活動である。どのクラブ(集団)においてどのように活動するかということを児童が主体的に決定する点において,地域・社会におけるサークルや同好会など同好の者による自主的な集団における活動につながってくる。
・学校行事は,学年や学校全体という大きな集団で,一つの目的のもとに行われる様々な活動の総体である。学校が計画し実施するものであるとともに,児童生徒が積極的に参加協力し充実する教育活動である。儀式的行事,文化的行事,健康安全・体育的行事,遠足・集団宿泊的行事,勤労生産・奉仕的行事からなり,児童生徒の積極的な参加による体験的な活動を行うものである。こうした活動は,地域の行事,催物など,様々な者で構成される大きな集団で所属感や連帯感を強めながら一つの目標に向かっていく活動につながってくるものである。
○ 人は社会の中で,様々な集団を単位として活動する。家庭生活,地域での生活,職業生活などにおいて,時には目的によりつながっていたり,生活する地域を同じにするという点においてつながっていたりする。学級や学校も一つの小さな社会である。様々な集団の活動を通して,人間関係が多様になり様々な経験ができる。目的や構成が異なる様々な集団での活動を通して,自分自身を多面的・多角的に見つめたり,様々な個性を持つ他者と関わることで,認め合い,それぞれのよさや可能性に気付いたり,その発揮ができるようになったりする。
○ また,実生活の課題を解決するために,互いのよさや可能性を発揮できるような(望ましい)様々な集団活動を通して,各教科等における学びを実際の場面で総合的に活用して実践する時間であるとともに,特別活動の学びが各教科等の学習を行う上での土台となるといった各教科等と往還的な関係にあると言うことができる。
○ 現行学習指導要領の目標にある「望ましい集団活動」とは,どのような活動であるかについては学校段階にもよるが,集団を構成する一人一人が互いのよさや可能性を発揮できるような活動であることは共通である。この「望ましい集団活動」については,「なすことによって学ぶ」,特別活動の学習プロセスであると同時に目標であるとも言える。つまり,実際の学校生活に即した集団活動の中で互いのよさや可能性を発揮されることにより,それらの資質・能力が育まれ,より望ましい集団活動を実践できる力が身に付くという過程が特別活動の特性である。
○ 現在各ワーキンググループで検討されている見方・考え方は,教科の学習の中において働かせるということにとどまらず,実際の社会に出たときに様々な文脈の中で働かせることができるものとして議論されている。特別活動において集団の意思決定や個人の意思決定を行っていく中で,各教科等における見方・考え方を総合的に活用することも重要である。
○ 本ワーキンググループでは,このような特別活動について,これまでの目標を整理し,指導する上で重要な視点として「人間関係形成」,「社会参画」,「自己実現」の三つに整理した。
  ・「人間関係形成」は,集団の中で,人間関係を自主的,実践的によりよいものへと形成するという視点である。人間関係形成に必要な資質・能力は,集団の中において,課題の発見から実践,振り返りなど特別活動の学習過程全体を通して,個人対個人という関係性の中で育まれるものと考えられる。年齢や性別といった属性や考え方や関心,意見の違いを理解した上で認め合い,互いのよさを生かすような関係を作ることが重要である。(本まとめ案においては「人間関係形成」と「人間関係をよりよく形成すること」は同じ視点として整理している)
  ・「社会参画」はよりよい学級・学校生活づくりなど,集団や社会に参画し様々な問題を主体的に解決しようとするという視点である。社会参画のために必要な資質・能力は,集団の中において,個人が集団へ関与する中で育まれるものと考えられる。 論点整理で述べられているように,学校自体がひとつの社会であり,学級・学校での集団活動への主体的な参画から地域や社会に対する参画ということにもつながっていく。(本まとめ案においては,集団をよりよくしようとすることと,社会をよりよくするために参画すること等は同じ視点として整理している)
  ・「自己実現」は,一般的には様々な意味で用いられるが,特別活動においては,集団の中で,現在及び将来の自己の生活の課題を発見しよりよく改善しようとする視点である。自己実現のために必要な資質・能力は,自己の理解を深め,自己のよさや可能性を生かす力,自己の在り方生き方を考え設計する力など,集団の中において,個々人が共通して当面する現在及び将来に関わる問題を考察する中で育まれるものと考えられる。 (本まとめ案においては,「自己実現」「自己の実現」等は同じ視点として整理している。)
  ・これらはそれぞれ重要な視点であるが,相互に関わり合っていて,せつ然と区別されるものではないことにも留意が必要である。
○ 以上を踏まえて整理すると,特別活動の特質に応じて育まれる「見方・考え方」は,各教科等の特質に応じて育まれる見方や考え方を総合的に活用して,集団や社会の形成者という視点から問題を見いだし,よりよい人間関係の形成,よりよい集団生活の構築や社会への参画及び自己の実現の視点からその問題を解決するために考えることであると言える。

(2)小学校,中学校,高等学校を通じて育成すべき資質・能力の整理と,教科等目標の在り方
【1】特別活動において育成すべき資質・能力について
○ 本ワーキンググループにおいては,学校段階ごとに育成すべき資質・能力について,「論点整理」(平成27年8月26日 中央教育審議会教育課程部会企画特別部会)に示された資質・能力の三つの柱(1)知識や技能,(2)思考力・判断力・表現力等,(3)学びに向かう力,人間性等)をもとに検討を行った。その際,上記(1)に述べた三つの視点(「人間関係形成」,「社会参画」,「自己実現」)を手掛かりとして以下のとおり整理を行った。

  1)知識や技能(何を知っているか,何ができるか)
  ・ 集団活動を前提とする特別活動においては,集団活動を営む上で,よりよい人間関係の形成や合意形成をどのように図っていくかということを大切にしている。こうした集団活動を通して,話合いの進め方やよりよい合意形成の仕方,チームワークの重要性や集団活動における役割分担をすることについて理解することが必要である。方法論的な知識や技能だけではなく,よりよい人間関係とはどのようなものなのか,合意形成ということはどういうことなのかという本質的な理解も極めて重要である
   ・  具体的には,例えば,集団で活動する上での様々な困難を乗り越えるためには何が必要となるのかという理解や,集団でなくては成し遂げられないことや集団で行うからこそ得られる達成感があることを理解するなど集団と個の関係を学ぶことが重要である。学校段階に応じて,例えば集団活動が社会の中で果たしている役割,自己の在り方や生き方との関連で集団活動の価値を理解することも必要である。
   ・  また,基本的な生活習慣,学校生活の決まり,社会生活におけるルールやマナー及びその意義について理解したり実践したりできるようにすることも特別活動を通して育成する知識・技能である。特別活動においてはこれらの知識や技能を教授するのではなく,教科等において学習したことを特別活動の実践を通して定着させ,日常の生活で実践できるようにすることが必要である。
   ・  さらに,現在及び将来の自己の課題との関連における学習の意義を理解することも必要である。特に,将来,自立した生活を営むことと現在の学校での学習がどのように関わるかということを理解することが重要である。そのためには,働くことの意義を理解することだけでなく,様々な集団活動を通して,自分自身のよさを生かすことを理解することも重要である。
 
2)思考力・判断力・表現力等(知っていること,できることをどう使うか)
・ 特別活動における集団活動を通して,所属する集団や自己の生活上の課題を見いだすこと,その解決のために話し合い,合意形成を図ったり,意思決定をしたりすること,実践すること,実践したことを振り返って次の課題解決に向かうことといった活動のプロセスが考えられ,これらを実態に応じて展開することにより,その過程においてそれぞれに関わる思考力・判断力・表現力等が育成される。具体的には,例えば,次のような力が考えられる。
- 人間関係をよりよくしていくために,様々な場面で,自分自身及び自分と違う考えや立場にある多様な他者と,互いを認め合いながら,助け合ったり協力し合ったり,進んでコミュニケーションをとったりして,協働したりしていく力。
- 集団をよりよいものへとしたり,社会に主体的に参画し形成したりしていくために,自分自身や他者のよさを生かしながら,集団や社会の問題について把握し,合意形成を図ってよりよい解決策を決め,それに取り組む力。
- 現在及び将来に向けた自己実現のために,自己のよさや個性,置かれている環境を理解し,それを生かしつつ決定することや,情報の収集・整理と,興味・関心,自己の適性の把握などにより,将来を見通して自己の生き方を選択・形成する力

  3)学びに向かう力,人間性等(どのように社会,世界と関わりよりよい人生を送るか)
・ 私たちは実社会において,何かの目的を達成するため,また,自己の実現を図るために集団に所属したり,集団を構築したりしている。そして,その中で自分を磨き高めている。
・ したがって,集団に所属し,その中でよりよい人間関係を形成しようとしたり,よりよい集団や社会を構築しようとしたり,自己実現を図ろうとしたりすることは,まさに自分自身の在り方生き方と深く関わるものである。
・ 特別活動では,集団活動のよさや難しさの理解の上に,在り方生き方と深く関わる集団活動について児童生徒自身が自主的・実践的に関わろうとする態度を育てることが求められる。具体的には,例えば,次のような態度が考えられる。

- 多様な他者の価値観や個性を受け入れ,助け合ったり協力し合ったり,新たな環境のもとで人間関係を築こうとする態度
- 集団や社会の形成者として,問題を解決し,よりよい生活をつくろうとする態度,多様な他者と協働して解決しようとする態度
- 日常の生活や自己の在り方を主体的に改善しようとしたり,将来を思い描き,自分にふさわしい生き方や職業を主体的に考え,選択しようとしたりする態度
○ なお,集団活動の中で合意形成を図ったり意思決定をしたりすることは,他者に迎合したりすることでも,相手の意見を無理にねじ曲げさせたりすることでもない。多数の構成員がいる集団では,意見の相違や価値観の違いがあって当然であり,そのような中で合意形成を図ったり,意思決定をしたりするためには,同調圧力に流されることなく,批判的思考力をもち,他者の意見も受け入れつつ自分の意見も主張するなど,よりよい解決策を得るために必要な力を育成することも重要な視点である。そして,このことが特別活動の活性化を図っていく上で重要であると考えられる。

(特別活動の目標について)
○ 特別活動においては,幼児教育や他教科等との関係性も意識しつつ,どのような資質・能力を身に付けさせるのかということをこれまで以上に明確にしていくことが必要である。
○ 本ワーキンググループにおいては,先に示した見方・考え方を働かせながら,特別活動において育成すべき資質・能力を育むため,特別活動の目標を以下のとおりとすることが適当であると考える。
 
 
  【小学校】
◎ 集団や社会の形成者として,特別活動の特質に応じて育まれる見方・考え方(P)を働かせて,様々な集団活動に自主的・実践的に取り組み,互いのよさや可能性を発揮しながら集団や自己の生活上の課題を改善することを通して,次のとおり資質・能力を育成する。
(1) 多様な他者と協働する様々な集団活動の意義や,そうした実践をする上で必要となることを理解し技能を身に付ける。
(2) 所属する様々な集団や自己の生活上の課題を見いだし,その解決のために話し合い,合意形成を図ったり,意思決定したり,人間関係をよりよく構築したりすることができるようにする。
(3) 自主的・実践的な集団活動を通して身に付けたことを生かし,人間関係をよりよく構築しようとしたり,集団生活をよりよく形成しようとしたり,自己の生き方についての考えを深め自己の実現を図ろうとしたりする態度を育てる。
  【中学校】
◎ 集団や社会の形成者として,特別活動の特質に応じて育まれる見方や考え方(P)を働かせて,様々な集団活動に自主的・実践的に取り組み,互いのよさや可能性を発揮しながら直面する課題を解決することを通して,次のとおり資質・能力を育成する。
(1) 多様な他者と協働する様々な集団活動の意義や,そうした実践をする上で必要となることを理解し技能を身に付ける。
(2) 所属する様々な集団や自己の生活上の課題を見いだし,その解決のために話し合い,合意形成を図ったり,意思決定したり,人間関係をよりよく構築したりすることができるようにする。
(3) 自主的・実践的な集団活動を通して身に付けたことを生かし,人間関係をよりよく構築しようとしたり,集団生活や社会をよりよく形成しようとしたり,人間としての生き方についての考えを深め自己の実現を図ろうとしたりする態度を育てる。
【高等学校】
◎ 集団や社会の形成者として,特別活動の特質に応じて育まれる見方や考え方(P)を働かせて,様々な集団活動に自主的・実践的に取り組み,互いのよさや可能性を発揮しながら争いや課題解決を繰り返すことを通して,次のとおり資質・能力を育成する。
(1) 多様な他者と協働する様々な集団活動の意義や,そうした実践をする上で必要となることを理解し技能を身に付ける。
(2) 所属する様々な集団や自己の生活上の課題を見いだし,その解決のために話し合い,合意形成を図ったり,意思決定したり,人間関係をよりよく構築したりすることができるようにする。
(3) 自主的・実践的な集団活動を通して身に付けたことを生かし,人間関係をよりよく構築しようとしたり,集団生活や社会をよりよく形成しようとしたり,人間としての在り方生き方についての考えを深め自己の実現を図ろうとしたりする態度を育てる。
○ これらの資質・能力が確実に育成されるよう,上記目標を踏まえ,各活動の目標や内容に適切に反映されることが必要である。

(「望ましい集団活動」について)
○ なお,これまでの特別活動の目標では,特別活動の特質を「望ましい集団活動を通して」という点に置いてきた。この「望ましい集団活動を通して」とは,一人一人の児童が互いのよさや可能性を認め,生かし,伸ばし合うことができるような実践的な方法によって集団活動を行ったり,望ましい集団を育成しながら個々の児童に育てたい資質や能力を育成したりするという特別活動の方法原理を示したものであるとしている(小学校学習指導要領解説より)。例えば,学級全体としては協力的に実践が進められ,児童生徒同士で結束しているように見えても,一部の限られた児童生徒だけが考えていたり,単なるなれあいとなっていては,特別活動の学習過程として望ましいものとは言えない。このことは,特別活動の在り方だけでなく,大きく言えば社会の在り方そのものにも当てはまる。特別活動は「集団活動」を掲げるに当たり,このことを常に意識してきた。
○ 一方,次期改訂に向けて,各教科等において求められる資質・能力を育成するための学習プロセスを重視することとされ,本ワーキンググループにおいても,学級活動・ホームルーム活動,児童会・生徒会活動,クラブ活動,学校行事のそれぞれの学びのプロセスを解きほぐしながら検討を進めてきた。
○ これまで示されてきた「望ましい集団活動」は,「望ましい」ということが,学習のプロセスというよりは到達すべき目標を示しているような印象や,あらかじめ望ましい集団があることが学習の前提となっているかのような誤解を与える可能性がある。現実の社会における様々な集団は,意見や立場等を異とする者,根本的に利害が相容(い)れない者同士によって構成される。全員が完全に合意できる「正解」がない中で,互いを認め合い,意見や立場等の違いを尊重しながら,熟慮し意見を交わしながら少しでも納得できる意志決定に向けて進んでいく。あらかじめ特定の「望ましい集団活動」が存在しているのではなく,より望ましい集団活動ができる資質・能力を育んでいくため,実際にそのための力を発揮し伸ばしていくことができるような学習のプロセスが求められている。
○ 特別活動がこれまで大事にしてきた「なすことによって学ぶ」という視点から,これまで「望ましい集団活動」として大切にしてきた要素を具体的に目標の中に示し,特別活動においてどのような活動や学習のプロセスが重要であるかが明確になるようにしていくことが必要である。
○ 特に,学級や学校がひとつの小さな社会であり,そこでの活動が,多様な構成員からなる様々な集団での活動につながっていくことを踏まえ,普遍的な価値のようなものがそこから見えるようなものにしていくことも考えられる。(例えば,民主的な合意形成,多様性の尊重,相互理解と寛容など。)こうしたことによって,特別活動の特質を社会と共有することがやりやすくなると考えられる。

【2】教育課程全体における特別活動の役割とカリキュラム・マネジメントについて
(特別活動と各教科等の学びの関係)
○ 特別活動は,学習集団・人間関係の形成を通じて,以下のように,各教科等の学びの基盤を支える機能を果たしている。
○ 各教科において「対話的な学び」を効果的に行うためには,児童生徒の人間関係が大きく影響すると考えられる。互いの考えを認め合う集団でなければ,感じたことや考え方を素直に共有し,互いに考えを広げるような学びを実現することは難しい。学級活動を通して,学級経営の充実が図られ,学びに向かう学習集団の形成に寄与することが,各教科等における「対話的な学び」を支えることになる。
○ また,特別活動において,各教科等において育まれる見方・考え方を効果的に活用することにより,より実践的な文脈で見方・考え方を用いることができるようになるなど,教科等の見方・考え方が成長し,「深い学び」が実現するという面もある。これまでも,例えば体育的行事と体育・保健体育,文化的行事と音楽・図画工作・美術等の教科の学習内容を関連づけることは行われてきたが,直接的に内容でつながるだけでなく,各教科の見方・考え方,資質・能力を生かすことでつないでいくという視点も必要である。
○ また,特別活動は,各教科等の学習と,教育課程外,学校外の学習や活動をつなぐ役割,機能も期待される。各教科等で学んだことを学校行事で生かしたり,学級活動での学びが家庭での学習や長期休業中の過ごし方などにつながったりする。様々な学校内外の学びを見通したり,振り返ったりしながら,自己の生き方についての考えや自覚を深めたり,キャリア形成につなげていったりすることも期待される。
○ 特別活動は,学級や学校全体での行事等,あるいは生徒指導等の機能を含めて,集団活動を通して学級や学校の文化を創造し,伝統や校風といったものを創造していくという機能も果たしている。特に長い歴史を持つ学校に受け継がれているものは財産であるが,それらを継承すること自体を目的とするのではなく,それらを通じて子供たちにどのような資質・能力を育むのかという本質を大事にし,児童生徒が発展的に新しいものを生み出していくことができるようにすることが必要である。
○ 2(2)【1】で述べたことと,これらのことをまとめると,特別活動は,教育課程全体の中で,1)特別活動の各活動において資質・能力を育む役割 2)各教科におけるより主体的・対話的で深い学びの実現に寄与する役割 3)教育課程外も含め学校文化の形成等を通じて学校全体の目標の実現につなげていく役割 の三つの役割を担っており,この三つの役割をバランスよく果たしていくようなカリキュラム・マネジメントが求められる。

(3)資質・能力を育む学習過程の在り方
○ 上記に掲げた目標に基づき特別活動において育成すべき資質・能力を確実に育成していくためには,学習過程及びその過程において育成する資質・能力を意識して授業が展開されることが望まれる。特に,特別活動においては,実践場面のみを意識するあまり,その前後の学習過程やそこで育成すべき資質・能力ということが意図的,計画的に行われていない例も散見される。
○ 本ワーキンググループにおいては,特別活動の意義を明確にするため,資料6のとおり現行学習指導要領の内容をもとに改めて学習過程や,その過程の中で,三つの柱で整理した資質・能力がどのように育成されることが考えられるかということを整理した。
○ 特別活動の特質に鑑みれば,「決めたことの実践」が重要であることはいうまでもないが,特別活動おいて育成すべき資質・能力は,実践も含めた全体の学習過程の中で育まれるものである。例えば,学級活動においては「問題の発見・確認」,「解決方法の話合い」,「解決方法の決定」,「決めたことの実践」,「振り返り」といった学習過程を示している。
○ その中で,「問題の発見・確認」においては例えば,課題を発見する力や自己の課題に気付く力が,「解決方法の話合い」では,協働して問題を解決しようとする態度や生活を改善したり,将来を見通して自己の生き方を選択したりできる力が,「解決方法の決定」では,合意形成を図る力やよりよい生活をつくろうとする態度が,「振り返り」では,希望や目標をもって現在の生活を改善しようとする態度や学級や学校の中で自分のよさや可能性を生かそうとする態度が育まれるものと考えられる。
○ 特別活動の学習過程は,集団と自己の二つの軸がある。学級全体や学校全体での活動と,一人一人が考えることの両方が折り重なって展開される。例えば,学級活動で,学級で課題を見いだし取り組んできたことを振り返るに当たり,学級で話し合いながら全員で振り返るということも重要であるし,一人一人が活動を通して自分がしたこと,学んだことなどを振り返ることもまた重要である。
○ また,特別活動においては,実践の場が休み時間や給食の時間,放課後であったりすることも考えられ,資料6において示されている学習過程の全てが特別活動の授業時間内に行われるわけではない。したがって,学校教育全体を見渡して,教師が意図的,計画的に指導を行うことが大変重要である。


(4)「目標に準拠した評価」に向けた評価の観点の在り方
○ 現在,小学校,中学校の特別活動の評価については,「各学校が自ら定めた特別活動全体に係る評価の観点を記入した上で,活動・学校行事ごとに,評価の観点に照らして十分満足できる活動の状況にあると判断される場合に,○印を記入」することとなっている。
○ また,評価の観点については,学習指導要領に示す特別活動の目標を踏まえ,「小学校,中学校,高等学校及び特別支援学校等における児童生徒の学習評価及び指導要録の改善等について(通知)」(平成22年5月11日初等教育局長通知)を参考に定めることとされている。
○ 高等学校においては,特別活動において行った生徒の活動の状況について,主な事実及び所見を文章で記述することとなっている。
○ 高等学校の評価については,高等学校の多様性などの観点から,現状のとおりとなっているが,小学校から高等学校を通じて系統性,一貫性をもたせるとともに,評価が,児童生徒の側から見れば,自らの成長を実感し,意欲の向上につなげていくものであり,教師の側から見れば,教師が目標や計画,指導方法の改善・充実に取り組むための資料となるものであるという評価そのものの趣旨に鑑みれば,活動・学校行事ごとの指導に照らした評価を行うことが求められる。
○ 評価の観点については,これまで「集団や生活についての知識・理解」,「集団の一員としての思考・判断・実践」,「集団活動や生活への関心・意欲・態度」という三観点を例示してきたが,これらを特別活動において育成すべき資質・能力という観点から,三つの柱で整理し直し,「生活や人間関係をよりよくするための知識・理解」,「集団の一員としての話合い活動や実践活動を通じた思考・判断・表現」,「主体的に生活や人間関係をよりよくしようとする態度」といった形で整理し直すことが適当であると考えられる。
○ なお,これまで「思考・判断・実践」としていた「実践」の部分については,話合いを重視する特別活動においては,思考・判断と並んで「表現」が大切であること,実践は三つの観点すべてにかかるものであることから,「思考・判断・表現」とすることが適当と考えられる。
○ 評価に当たっては,学級や児童会・生徒会等の中でどのような役割(役職)であったかや,どのような活動に取り組んだかという事実ではなく,集団の一員としてどのような成長が見られたかということや,各活動の結果だけでなく,そこに至る一連の過程の中でどのように取り組み,成長が見られたかということに着目することが重要である。

3. 資質・能力の育成に向けた教育内容の改善・充実


(1)資質・能力の整理と学習過程の在り方を踏まえた教育内容の構造化
(基本的な枠組み)
○ これまでに述べた方向性を踏まえると,特別活動においては,各活動において育成すべき資質・能力をより明確にする視点から見直すことが考えられる。
○ 児童生徒にとって学校生活を送る上で最も基本的な生活の場であり,授業時間数が示されている学級活動・ホームルーム活動を中心とし,学級活動・ホームルーム活動において育成すべき資質・能力と,その他の活動及び学校行事において育成すべき資質・能力を明確にするよう改善を図るべきである。
(学級活動の内容)
○ 学級活動について,内容の(1),(2),(3)((3)は中学校,高等学校のみ)の項目ごとに育成すべき資質・能力を明確にして,その内容を育成すべき資質・能力という視点から整理し直すこと。学習指導要領解説などでは内容の(1)と(2)(3)の違いが説明されているが,それぞれの意義,特に(1)の内容が児童生徒主体の話合いを通じて行うことを基本とすることを改めて明確にするため,学級活動の内容の構造を整理する。
○ 現在,総則に関する検討の中で,学級経営に関して明示する方向で検討がなされており,これと対応して特別活動においても,学級活動の内容の(1)を中心に学級経営との関連を図ることを示すことが必要である。
○ また,小・中・高等学校を通じて育成すべき資質・能力の観点から,
  ・小学校の学級活動の内容に(3)を設け,キャリア教育の視点からの小・中・高等学校のつながりが明確になるよう整理すること
  ・中学校,高等学校において,与えられた課題ではなく学級・ホームルームの課題を自分たちで見いだして解決に向けて話し合う活動として(1)の内容を重視する視点から,(2)(3)の内容を整理すること
  など,小・中・高等学校の系統性がより明確になるよう構造を整理することも必要である。
○ これらを踏まえると,小・中・高の学級活動・ホームルーム活動の構成は,以下のような構成にそろえることが考えられる。
(1) 学級や学校における集団生活の創造,参画(仮)
主として自発的・自治的な集団活動の形成や運営に関わる内容であり,集団としての議題の選定や話合い,合意形成とそれに基づく実践を大事にする活動。日々の学級経営との関連を図る。              
(2) 一人一人の適応や成長及び健康安全な生活の実現(仮)
 主として個人が現在直面する生活における適応や成長,自律等に関わる内容であり,一人一人の理解や自覚,意思決定(自己決定)とそれに基づく実践等を大事にする活動。関係する教科,個別の生徒指導等との関連を図る。
(3) 一人一人のキャリア形成と実現(仮)
主として将来に向けた自己の実現に関わる内容であり,一人一人の主体的な意思決定を大事にする活動。教育課程全体を通して行われるキャリア教育との関連を図るとともに,個に応じた学習の指導・援助や進路指導との関連を図る。
○ 上記のように,構成の大枠は小中高の系統が明らかになるよう整理しつつ,それぞれの具体的な内容や示し方は,総則や各教科等の学習内容との関係も踏まえながら,各学校段階にふさわしいものとすることが必要である。

  (児童会・生徒会活動,クラブ活動,学校行事)
○ 児童会・生徒会活動,クラブ活動,学校行事においても,それぞれの活動を通して,育成すべき資質・能力を明確化する方向で目標及び内容の示し方を改めることが必要である。
○ その上で,特に小学校・中学校については,地域により学校の規模その他の事情が様々であることに留意して,必要に応じて重点化を図ることも示す。
○ なお,特別活動については学習指導要領上,学級活動・ホームルーム活動は年間35単位時間という時間数の定めがあるが,児童会活動・生徒会活動,クラブ活動及び学校行事については,それらの内容に応じ,年間,学期ごと,月ごとなどに適切な授業時数を充てることとされている。
○ このことは,学校や地域,児童生徒の実態に応じ,全国一律に標準を定めることが困難であるためである。各学校においては,その実態を考慮して,育成すべき資質・能力や実施する活動内容との関わりにおいて授業時数を適切に定めることが求められる。その際,学級活動と各活動の関連を図ったり,行事間の関連を図ったりするなどの工夫が求められる。
 
(2)現代的な諸課題を踏まえた教育内容の見直し
(キャリア教育の視点について)
○ 学校におけるキャリア教育は,子供たち一人一人の発達や社会人・職業人としての自立を促す視点から学校教育を構成していくための理念と方向性を示すものであり,特定の活動や指導内容・方法に限定されるものではなく,学校の教育活動全体で様々な教育活動を通して,体系的・系統的に取り組まれるものである。
○ 「今後の学校におけるキャリア教育・職業教育の在り方について」(平成23年1月31日 中央教育審議会答申)において,今後,発達の段階に応じてキャリア教育を推進していく上では,【人間関係形成・社会形成能力】【自己理解・自己管理能力】【課題対応能力】【キャリアプラニング能力】の四つで整理される「基礎的・汎用的能力」を中心に育成することが必要であることが示された。
○ こうした基礎的・汎用的能力は,小学校から高等学校まで,発達の段階に応じて,学校の教育活動全体の中で育むものとされてきた。一方で,これまで学校の教育活動全体で行うとされてきたことが,逆に指導場面をあやふやにしてしまい,特に狭義の意味での「進路指導」との混同により,進路に関連する内容が存在しない小学校においては,体系的に行われてこなかったという課題もある。
○ 中学校,高等学校においては,特別活動に「進路」という内容が示され,卒業時に入学試験や就職活動があることから,本来のキャリア教育(本質的な系統的な進路指導)をわい小化した取組が行われている例も多く見られる。また,職場体験や社会人講話など,職業に関する理解を目的とした活動だけに目が行きがちになり,一人一人が自らの在り方生き方を考えるものになっていないことも多い。
○ こうしたことを念頭に,本ワーキンググループにおける検討の中では,特別活動の一部にキャリア教育との関わりを位置づけることによって,かえってキャリア教育がわい小化して捉えられないように留意すべきであるという指摘もあった。一方で,キャリア教育の中核は特別活動が担うと明示しなければ学校は変わらないという意見もあった。
○ これからの時代において,キャリア教育はますます重要性が高まっており,「高大接続システム会議」の最終報告においても,「高校生自らが将来のために何に取り組んでいくべきかを考え,その取組を自覚的に振り返ることを通して,主体的に学びに向かい,自発的なキャリア形成を促していくことが重要である」とされている。
○ 現在,小・中・高等学校のそれぞれの総則において,キャリア教育の視点を明示する方向で検討が進められているところであり,各教科等の内容の改善においても,キャリア教育に関する資質・能力を培うことを意識した検討が行われているところである。こうしたことを踏まえ,キャリア教育が学校教育全体を通じて行うことという前提のもと,自らのキャリアを見通し,また,これからの学びや生き方を見通し,これまでの活動を振り返るなど,教育活動全体の取組をつなぎ自己のキャリア形成につなげていくための中核的な時間として,特別活動を位置付けることが考えられる。このことは,特別活動における「自己実現」の視点からも重要な活動として捉えることができる。

○ 人間としての在り方生き方を考える領域は,道徳や総合的な学習の時間もその役割を担っている。その中でも特別活動は,自分自身の現在及び未来と直接関わるものであること,集団や他者との関わりを前提として自己を考えるということ,教科・領域を通して唯一,特別活動だけが目標の中に自分のよさを生かすという自己実現の観点を明示してきた。こうした特別活動の特質は小・中・高等学校のいずれにおいても大事にしてきたものである。また,高校卒業後に就職し短期間で仕事を辞めた人が,職場での人間関係を離職理由として最も多く挙げているという調査結果もあり,人間関係を直接扱う特別活動にかかる期待は大きい。キャリア教育の本来の役割を改めて明確にするためにも,小学校段階から特別活動の中にキャリア教育の視点を入れていくことは重要であると考えられる。
○ 小学校の特別活動の中にキャリア教育の視点を入れていくことは,これまで行われていなかった内容を新たに加えていくということではない。これまでも小学校の学級活動等の中で行われてきた学習・活動がキャリア教育の基礎的・汎用的能力の育成につながっていることを明確にした上で,内容項目のうち,例えば働くことの意義の理解や,見通しを持ちながら生活するということなど,中学校以降のキャリア教育につながっていくものを整理し,そこで育成する資質・能力を整理して再構成することが適当である。

(防災を含む安全教育の視点について)
○ 多くの自然災害が発生する我が国においては,災害に備え,災害を乗り越えられるよう,いかなる状況下でも児童生徒等が自らの命を守り抜くために主体的に行動するとともに,安全で安心な社会づくりに貢献できる資質・能力の育成が求められている。また,日常生活における事故や交通事故,犯罪被害等も依然として発生しており,こうした児童生徒等を取り巻く社会の状況を踏まえ,防災を含む安全教育の充実が重要である。
○ 現在,特別活動においては,学級活動における「安全な生活態度の形成」として,日常生活を安全に保つために必要な事柄を理解し,危険を回避し,安全に行動できる能力や態度を育成するなどの指導が行われている。また,学校行事における「健康安全・体育的行事」として,身の回りの危険を予測・回避し,安全な生活に対する理解を深めるため,避難訓練など安全に関する行事が行われている。集団宿泊活動における様々な体験も安全教育に資するものである。
○ 一方で,想定を超える様々な危険に対する力をつけるためには,安全に関する活動や行事をどれだけ重ねるかではなく,どのような資質・能力が必要かということを明確にしながら取り組んでいくことが必要である。特別活動における学びは,安全に関わる各教科等(体育・保健体育,生活,社会,理科など)の学習と関連づけられてこそ意義を持つ。例えば,防災に関しては地域の地理,自然の特性などとの関わりが大きく,地域に関して教科横断的に学ぶ中でその意識を高めていくことが求められる。特別活動は,こうした各教科の学びと日常の生活における実践をつなぐ重要な役割を果たす。
○ また,特別活動で育む自立した生活を営むことや,共に助け合う力は,安全に生きていくために求められる「自助」「共助」につながっていく。また,学校段階が上がるにつれて「公助」の視点を踏まえ,安全な地域・社会づくりに参加し貢献するために主体的に関わっていこうとする力は,特別活動の中において育むべき「社会参画」の力にも大きく関わってくると考えられる。
○ このような状況も踏まえつつ,総則・評価特別部会や体育・保健体育,健康,安全ワーキンググループにおける,安全に関して育成すべき資質・能力の議論を踏まえつつ,その取組の充実を図ることが求められる。

(食に関する視点について)
○ 食に関する視点については前回改訂の中で,食育の観点を踏まえた学校給食と食習慣の形成について充実が図られた。この視点については引き続き重要である。
○ 食に関する内容としては学級活動の中で明示されているが,それに加え,各学校の実態に応じて,各教科や総合的な学習の時間,健康安全・体育的行事,遠足・集団宿泊的行事とも関連づけて効果的な指導が行われることが望ましい。

(主権者教育の視点について)
○ 多様な他者と協働しながら,地域の課題を自分事として捉えて主体的にその解決に関わろうとしたり,社会に積極的に関わっていこうとしたりする力が今後ますます重要になる。選挙などを通した意思決定への参画ということはもとより,地域の中でお互いに助け合ったり,役割を果たそうとしたりすることは,社会の中で,主体的に生きていくために大変重要であり,このことは選挙権年齢の引下げに代表されるように社会的な要請でもある。
○ 特別活動では,これまで児童会活動・生徒会活動における児童会・生徒会役員選挙や児童会集会活動・生徒会総会,代表委員会及び各種委員会活動並びに小学校におけるクラブ活動の計画的な運営など,主権者意識や社会参画意識を高めるための自治的な内容を実践的に学ぶ場が設けられてきた。
○ また,学級活動・ホームルーム活動においても,自治的能力を育成するため,例えば,生活上の諸問題を解決や,学級内の仕事の分担処理のための話合いなど様々な活動が行われており,このことが主権者教育の実践の場としての役割も果たしてきたところである。
○ 今後,これらの内容について,小・中学校の社会科や,高等学校の公民科などの関係の深い教科等との関係も踏まえつつ,選挙権年齢の引下げなども視野に入れ,学校の実態や児童生徒の発達の段階に応じてその一層充実を図ることが求められる。


(障害者理解,国際理解の視点)
○ 学級・学校の中に様々な子供が在籍する中で,互いのよさや可能性を生かしながら共に学んでいくことは,多様性を尊重する社会の実現に向けて大変重要である。
○ 学級・学校の中にいる様々な児童生徒一人一人の個性を尊重しながら,集団活動を進めることが,障害の有無や国籍などの様々な違いに関わらず協働していく力につながっていく。こうした互いを尊重し合いながら協働する力をつけることはいじめの防止にもつながるものである。
○ また地域の高齢者や障害者,外国出身者など様々な人との交流を通じて学ぶことも重要である。交流を直接の目的とした学習だけでなく,地域の方を招いた行事などの際における配慮を学ぶことも貴重な学習の機会である。

(集団宿泊活動)
○ 多様な他者と互いのよさを発揮できるような集団活動を行うという点においては,生活を共にする自然の中での集団宿泊活動は引き続き重要である。都市部の児童生徒と農村漁村の交流など地方創生の観点や,地域固有の自然や文化,歴史などの理解,学校や学級の一員であるという所属感・連帯感の醸成という面からも期待が寄せられているものである。
○ 発達の段階に応じて,活動を通して育成したい資質・能力を明確にして臨むことが必要である。青少年教育施設等を利用する場合には,事前にその指導員や職員等から情報や助言を得たり,育成したい資質・能力などのねらいを共有したりすることが重要である。
○ 自然の中での集団宿泊活動は,一定の期間連続して行うことでより効果が高まるという調査研究等の結果が示されている。一方で,どれだけの日数を確保できるかは各学校の事情等により様々である。このため,長期間の集団宿泊活動を可能とするためのカリキュラム・マネジメントにおける工夫として,学校によっては特別活動としての宿泊活動を行うだけでなく,各教科等の年間計画と関連を図り,例えば小学校部会での提言に含まれている「イングリッシュ・キャンプ」や,集団宿泊を行いながら昼間は通常の授業を行う「通学合宿」などを行い,より長期間の活動としていくことが考えられる。

(情報活用能力とプログラミング)
○ 総則・評価特別部会において,教育課程全体を通じた情報活用能力の育成について検討される中で,特別活動においても,例えば,学級活動・ホームルーム活動の「問題の発見・確認」や児童会活動・生徒会活動の「議題の設定」の際の情報の収集や整理,「解決方法の話合い」の際の調べ学習など,先に示した学習過程の中でも情報手段の操作,活用が求められている。
○ また,「小学校段階におけるプログラミング教育の在り方について」(議論の取りまとめ)(平成28年6月16日 小学校段階における論理的思考力や創造性,問題解決能力等の育成とプログラミング教育に関する有識者会議)において,近年,人工知能が飛躍的に進化する中で,私たちの身近な生活はコンピュータやプログラミングの働きの恩恵を受けており,今後,プログラミングを通じて人間の意図した処理を行わせることができるものであることを理解できるようにすることは,時代の要請として受け止めていく必要があるとの取りまとめがなされた。
○ 特別活動においては,例えば,子供たちが自分の興味・関心に応じて活動を選択し,自主的・実践的な活動を行うクラブ活動において,既存のクラブ活動にプログラミングを体験する学習を取り入れたり,プログラミングに関するクラブ活動を運営・実施できるようにしたりしていくことが考えられる。
○ 実施に当たっては,情報の活用やプログラミングの体験が目的化することなく,特別活動における自主的・実践的な活動の一環として,各活動に適切に位置付けられることが重要である。

4.学習・指導の改善充実や教材の充実

(1)特別支援教育の充実,個に応じた学習の充実
○ 特別活動では,「人間関係形成」を重視すべき視点の一つとしており,学習のプロセスでも述べたように,実際の活動においては,問題の発見・確認,解決方法の話合い,意思決定をしたりする中で,自分の意見を述べたり,他者の意見を受け入れたりすることが大変重要となる。
○ 一方,児童生徒によっては,上記のようなことに対し困難さを抱えていることも想定され,適切な配慮がないまま指導が進むことによって,特別活動を通して育成される資質・能力を確実に身に付けることができなくなることが考えられる。
○ したがって,児童生徒の十分な学びを実現できるよう,学習過程で考えられる困難さの状態を把握し,それに基づいた適切な配慮を行うことが重要であり,その際,例えば以下のような配慮を行うことが考えられる。
・ 相手の気持ちを察したり理解することが苦手であったり,相手から発せられた言葉を必要以上に字義通りに理解してしまう場合には,他者の心情等を理解しやすいように,役割を交代して相手の気持ちを考えたり,相手の意図を理解しやすい場面に置き換えることや,イラスト等を活用して視覚的に表したりする指導を取り入れるなどの配慮をする。
・ 話を最後まで聞いて答えることが苦手な場合には,発言するタイミングが理解できるように,事前に発言や質問する際のタイミングなどについて具体的に伝えるなどの配慮を行う。
・ 学校行事における避難訓練等に対し,強い不安を抱いたり戸惑ったりする場合には,見通しがもてるよう,各活動や学校行事のねらいや活動の内容,行動の仕方などについて,視覚化したり,理解しやすい方法を用いて事前指導を行うなどの配慮をする。
○ こうした配慮を行うに当たっては,困難さを補うという視点だけでなく,むしろ得意なことを活かすという視点から行うことにより,自己肯定感の醸成にもつながるものと考えられる。
○このような個に応じた指導や配慮を行うと同時に,児童生徒一人一人の考え方や得意・不得意などの違いを認め合える学級の雰囲気づくりを行っていくことが重要である。

(2)「深い学び」「対話的な学び」「主体的な学び」に向けた学習・指導の改善充実
○ 特別活動は,児童生徒同士の話合い活動や,児童生徒の自主的・実践的な活動をその特質としている。「深い学び」「対話的な学び」「主体的な学び」というアクティブ・ラーニングの視点からの授業改善を行うことは,特別活動の本質に関わるものであり,これまでも重要と考えられてきたことにつながるものである。
○ アクティブ・ラーニングの三つの視点に即して,特別活動の授業改善を整理すると以下のようなことが考えられる。

【1】「深い学び」の視点
○ 「深い学び」とは,子供たちが習得・活用・探究を見通した学習過程の中で「見方・考え方」を働かせて思考・判断・表現し,「見方・考え方」を成長させながら,資質・能力を獲得していけるような学びである。
○ 特別活動は「実践」を重視しており,課題の解決方法も自身が行動に移せるものでなければ意味がない。しかし,ここで「実践」といったときに,実際の行動場面という捉えだけでは十分ではない。課題の設定から振り返りまでの一連の過程を「実践」と捉えることが重要であり,「深い学び」を考える上ではこの「実践」のプロセスとの関係で資質・能力を捉えていくことが大切である。
○ これまでの特別活動においては前述したように「なすことによって学ぶ」ということが強調され,「実践」のプロセスや育成すべき資質・能力といったことへの意識がおろそかとなり,活動ありきで行われていることも見受けられる。
○ したがって,一連のプロセスの中で,見方・考え方を働かせ育成すべき資質・能力は何なのかということを明確にした上で,各活動や学校行事を意図的,計画的に年間指導計画に位置付け指導に当たることが「深い学び」のために求められる。

【2】「対話的な学び」の視点
○ 「対話的な学び」とは,他者との協働や外界との相互作用を通じて,自らの考えを広げ深めるような学びである。
○ 多様な他者との(望ましい)集団活動を基本とする特別活動は,これまでも「話合い」をすべての活動の中で重視してきた。特別活動においては,集団活動を行う上で合意形成を図ったり,意思決定をしたりすることが求められる。その中で,他者の意見に触れ,自分の考えを広げたり,課題について多面的・多角的に考えたりすることが可能となると考えられる。このことは,よりよい合意形成を図るだけに止まらず,学びの質を高めることにもつながる。
○ 例えば児童会活動・生徒会活動やクラブ活動における異年齢での活動や,障害のある児童生徒との交流・共同学習を通じて,対話をしながら様々な他者と協働する力をつける重要な場面である。
○ 特別活動における「対話的な学び」は,よりよい学習集団の形成を通じて,他の教科等における「対話的な学び」がより効果的に行われるようになる。
○ 特別活動の学びの場は学校内だけではない。例えば児童会・生徒会のボランティア活動や学校行事等を通じて地域の人や様々な交流を通じて考えを広めたり,自己肯定感を高めたりすることも大きな意味を持つ。自然体験活動を通じて自然と向き合い,日常得られない気付きを得ることも「対話的な学び」である。
○ 集団での意志決定や協働の場だけでなく,例えばキャリア形成に関する学習のように,最終的には自分自身で意志決定することであっても,その過程において他の児童生徒や教師等との対話を通じて,様々な気付きを得ることも重要である。

【3】「主体的な学び」の視点
○ 「主体的な学び」とは,学習に積極的に取り組ませるだけでなく,学習後に自らの学びの成果や過程を振り返ることを通して,次の学びに主体的に取り組む態度を育む学びである。
○ 特別活動においては,児童生徒の自主的な活動をその特質としてきた。そうした活動が「主体的な学び」となるようにする上では,課題の設定及び振り返りが重要となる。
○ 特別活動のプロセスにおいては,学級や学校の実際の集団生活の中から課題を見いだすことに特質がある。課題とは実際に生じている問題にどう対処するかということにとどまらず,集団生活をよりよくしていくためには何に取り組んだらよいのかということを主体的に見いだそうとすることである。
○ 活動を振り返り,よい点や改善点を見付け出すことによって,新たな課題の発見,設定をすることが可能となり,それが次なる動機となる。したがって,学習のプロセスを意識して,そこで育成すべき資質・能力を明確にすることが,「主体的な学び」を達成する上で求められる。
○ 特別活動においては,集団としての振り返りを行うことと,一人一人の振り返りを行うことの両方ともが重要である。集団でよりよい解決方法等を話し合って決め,実践したことを振り返ることにより学習が深まる。一方で,一人一人がその活動を通してどのようなことを経験し,学んだのかを振り返ることがなければ一人一人の主体的な学習にはならない。後述のキャリア・パスポート(仮)のようなツールも活用しながら,長い時間をかけて一人一人に学びの見通しを持たせ,学びの振り返りや蓄積を図ることも求められる。その際,実践したことだけではなく,学級・学校生活を充実するための関わり方や実践に向けて自分がどのように取り組むかといった目標や活動計画,取組のプロセスなど,ポートフォリオに残せるようにすることが重要である。
○ 振り返りは,活動の最後に設定して行うものとは限らない。集団で試行錯誤を行う中で,児童生徒が見通しを立てたことを確認し,必要に応じて改めて見通しを立て直したりすることも大切である。こうした振り返りを主体的に行う力をつけていくことも「主体的な学び」の視点に求められることである。
○ 主体的な学びを促すことは,教師が何も関わらないということではない。発達の段階や集団の状況,活動の場面などを考慮しながら,必要に応じて,主体的に考えることを促すような関わりをしていくことができることが教師に求められる。

(3)教材の在り方
○ 本ワーキンググループにおいては,特別活動において育成すべき資質・能力を確実に育む観点から,キャリア教育の中核的な指導場面として特別活動が大きな役割を果たすべきとの議論がなされた。
○ 総則・評価特別部会においても,小・中・高等学校において発達の段階を踏まえたキャリア教育の推進を総則に位置づけることが検討されている。キャリア教育は,ややもすると就業体験や進路指導といった狭いものとして捉えられがちであるが,本来,自らのキャリア形成のために必要な様々な汎用的能力を育てていくものであり,学校の教育活動全体を通して行うものである。このような中で特別活動がキャリア教育においてどのような役割を果たすべきかを明確に示す必要がある。
○ そのために,小学校から高等学校までの特別活動をはじめとしたキャリア教育に関わる活動について,学びのプロセスを記述し振り返ることができるポートフォリオ(「キャリア・パスポート」(仮称))的な教材を作成し,活用することが効果的ではないかとの提案がなされた。こうしたものが特別活動を中心としつつ各教科等と往還しながら活用されることで,学びを蓄積し,それを社会や将来につなぎ,必要に応じて振り返ることにより,主体的に学びに向かう力を育て,自己のキャリア形成に生かすことが可能となるとともに,特別活動や各教科等における指導の改善にも寄与することが期待される。
○ 小・中・高等学校やその後の進路も含め,学校段階を超えて活用できるようなものとなるよう工夫しつつ,各地域の実情に合わせたカスタマイズや,各学校や学級における創意工夫を生かした形での活用が可能なものとなるよう検討すべきである。

5.必要な条件整備等について

(教員研修)
○ 教科ではない領域として設定されている特別活動は,専門の免許がない。特別活動に関する指導力は,小・中・高等学校いずれにおいてもすべての教員に求められる,教師にとって専門性のある最も基本的な資質・能力の一つであると言える。一方で,免許状がなく養成段階で専門の課程がないことから,教科に比べて専門性において低く見られがちな面は否めない。
○ また,これまで特別活動の成否は,ややもすると,指導する学級担任の個性によるところが大きく,このことは特別活動に対する指導方法や評価方法の理論的な研究,実践の共有が都道府県や学校間,さらには教員間においてなされてこなかったことの裏返しであると考えることができる。
○ このため,引き続き国や都道府県等レベルでの取組状況の共有や課題の協議などを行う研修や,研究団体における指導方法,評価方法の研究及びその普及が強く求められる。
○ また,特別活動は,学級担任による学級活動・ホームルーム活動を基盤にしながら児童会活動・生徒会活動,クラブ活動,学教行事と様々な場面に及ぶ中で,様々な教員が関わってくることが一つの特質でもある。教員一人一人の資質向上はもとより,学校として特別活動の改善充実に向けた組織的な取組を行うことが期待される。

(チームとしての学校の視点)
○  特別活動はチームとしての学校の視点で進めていくことが必要である。教諭以外の養護教諭,栄養教諭・学校栄養職員,司書教諭・学校司書などの専門性を生かしながら学校全体で取り組む必要がある。就職支援コーディネーター,地域連携コーディネーターやそれらを担当する教職員など,学校外の様々な人・機関との間をつなぐ人材も重要である。活動の内容等に応じて,地域の医師や保健師,獣医師といった専門家の知見を借りたり,社会教育主事や青少年教育施設の職員等の協力を得たりすることも考えられる。
○ 専門性を生かすためには,担任や担当教員とこれらのスタッフが,各活動のねらい,活動を通して育成する資質・能力についてあらかじめ共有することが重要である。特別活動の全体計画の作成等に当たってこうした専門スタッフの知見を取り入れていくことも重要と考えられる。

(学校間の連携)
○ 中学校は小学校の,高等学校では中学校の特別活動で,どのようなことを行っているのかということを実際に見て,生徒がこれまでにどのような経験をしてくるのかということを理解することで,それぞれの活動が深まることにつながったり,入学当初の円滑な移行につながったりすることが期待できる。
○ その際,キャリア・パスポート(仮)において児童生徒がどのような活動をしてきたのかなどを記録できるようにしておくことにより,入学前にどのような経験をしてきたのかを教師が把握する上で効果的であると考えられる。また,生徒にとっても新しい生活に対してどう取り組むのかの目標を立て,意欲や見通しを持って学級・学校生活に取り組むことができるようにすることも効果的であると考えられる。

(地域との連携,協働)
○ 特別活動は,各学校において社会に開かれた教育課程を実現する上で中心的役割を果たすものであり,学校に閉じることなく,積極的に地域や社会との接点をもつことが求められる。特に児童会活動・生徒会活動やクラブ活動,学校行事は,地域との連携を図ることでその取組が一層充実することが考えられる。特別活動の実践による学級・学校文化の創造ということが,さらには地域の特色にもなっていく。
○ その際,活動を通してどのような資質・能力を育てたいのかということを,「社会に開かれた教育課程」の視点で,地域と共有していくことが必要である。特にボランティアとして児童生徒と関わる人や,講演等を依頼する専門家等には,どのような関わり方を期待するかということを伝えることで,よりその教育的な効果を高めることになる。
○ さらに,特に中学,高校と進むにつれて,子供たちが「お客さん」としてではなく,地域の行事への参加や児童会・生徒会活動等におけるボランティア活動等を通じて地域の課題解決に向けて取り組むなど,大きな役割を占める場面も増えてくる。児童生徒にとってこうした活動を通して,各教科等で育んだ見方・考え方や資質・能力が実際の文脈において生きて働くものとして成長させることができたり,地域の人からの反応を元に学習意欲の喚起や自己肯定感の醸成につながったりする。地域にとってはこうした子供の参画自体が活力につながったり,学校との信頼関係を構築していったりすることにもつながる。
○  コミュニティ・スクール(学校運営協議会)は,学校と地域で育成したい子供たちの姿を共有したり,そのために可能な協力について話しあったりするなど,極めて有効と考えられる。「社会に開かれた教育課程」の理念を具現化する仕組みとして積極的な活用が望まれる。
○ なお,広い範囲から児童生徒が通学する高等学校や国立・私立の学校では,市町村立の小中学校等に比べて学校と地域のつながりが一般的には薄くなりがちである。そうした学校こそ特別活動が学校と地域の架け橋となることが期待される。地域の課題に即した学びを学校と地域の協働により進めていくためには,市町村における教育委員会と首長部局の連携を進めることも重要である。

(家庭との連携)
○  特別活動の充実を図るに当たっては家庭との連携も重要である。生活習慣や健康に関することをはじめとして,学級活動における生活に関する指導は,児童生徒にとっての実践の場は家庭であり,特別活動での学習や指導と家庭での生活とが関わりあって初めて意味をなしていくものである。また,学校行事においては様々な形で保護者の協力を得ることも多い。
○  家庭との連携という視点からは,特別活動を通じてどのような資質・能力を育成しようとしているのかという目的を保護者と共有することが大切である。保護者にとっては,児童生徒を取り巻く課題を理解した上で家庭において実践すべきことを理解する機会ともなる。そうした観点から,通知表(通信簿)で子供の成長を伝えることはもとより,前述のキャリア・パスポート(仮)も活用し,子供がどのような学びをしているのか具体的に共有することも考えられる。
○  なお,家庭との連携を積極的に進めると同時に,様々な家庭状況があることに十分配慮することも必要である。
 
(小規模校における工夫)
○ 学校によっては,児童生徒数の減少により,様々な集団を形成することが難しくなったり,集団の中での人間関係が固定化したりしやすくなったりする。こうした学校において多様な他者との協働を通じて学ぶためには,学校間の交流や合同の活動,行事等における地域との協働,直接的な関わりを大事にした上で,ICTの活用による遠隔交流など,様々な工夫が求められる。
○ 平成28年度から制度化された,小中一貫教育を行う義務教育学校の取組も含め,各地域における取組に関する情報などを共有することが望まれる。

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