資料1-1 委員発表資料 中田委員

 高等学校における特別支援教育の推進に係る諸課題と展望

明星大学 中田正敏

はじめに~高等学校の特徴を中心に~
○特別支援教育の推進に関わる経緯
・特殊教育から特別支援教育への転換を機に、特別支援教育の推進のための体制整備等の諸課題が提起されたという経緯がある。
・「通級による指導」導入について検討が進められている。

○生徒層の変化と偏在化という経緯
・高校進学率の増加(1950~2015)
・社会の変化(1950~2015)

○様々な困難を抱える生徒たち
・知的発達に遅れのない発達障害のある生徒も、幼稚園・保育所・小学校・中学校段階で様々な学習を経験してきており、高等学校段階での状態像は思春期特有の諸問題とも絡み、かなり複雑な状態像になっている。
・軽度の知的障害のある生徒、知的障害等の診断はされていないが認知的な制約がある生徒等(ら)(これらの生徒には共通する困難がある)が在籍している。
・生活保護などの困窮家庭の生徒
・海外から帰国した生徒など
・統合失調症などの精神疾患のある生徒

○様々な困難を重層的に抱える生徒たち
障害の有無に関わらず、社会的要因が多重的に複雑に絡み合っているケースが多い。

○高等学校のシステムと組織文化の問題
・高等学校の枠に収まらない行動を「問題行動」、「怠学」として把握し、退学との関係で対処す
る傾向がある。
・エクスクルージョン的な枠組み(学校は変える必要がないし、学校に合わない生徒はやめるべきである)が未(いま)だに部分的に残っている。
・こうした組織文化が「特別支援教育の推進」を阻む組織的な障壁を形成しているが、一方で、障壁を可視化することにより特別支援教育の推進が図られている例も増えつつある。

★生徒の間で互いに主体的な取り組みを尊重し合える環境づくり
発達障害のある生徒のみを対象とするのではなく、様々な困難、しかも複雑に絡み合う困難を抱える生徒たち、様々な局面で支援を必要とする生徒たちの主体的な取り組みを支援する視点が不可欠である。生徒の間で互いの主体的な取り組みを尊重する環境をつくることが重要であり、そうした取り組みによって、他者の尊重や自尊感情、自己有用感を育むことができる。こうした高等学校の生徒たちの可能性を引き出す学校づくり、環境づくりが重要である。

1:支援体制の整備
(1)現状と課題
ア 特別支援教育に関する校内委員会の設置
イ 実態把握
ウ 特別支援教育コーディネーターの指名
エ 関係機関との連携を図った「個別の教育支援計画」の策定と活用
オ 「個別の指導計画」の作成
カ 教員の専門性の向上(研修)

(2)解決の方向性
・生徒の抱える困難の把握
・生徒に関する情報の共有、中学校からの引継ぎ
・保護者との情報の共有
★生徒との対話的な関係性による困難の実態把握
★特別支援教育の推進の前提としての教育相談システムの構築(具体的には、生徒と対話ができるチャンネル(回路)の多様化、高校生段階を踏まえて、生徒の参加による支援の共同構成等)

(3)具体的な実践方法
ア 「廊下での対話」:生徒と教職員の対話ができる「対話のフロントライン」の確保
・生徒に対する見方の変化➡「困った生徒」から「困っている生徒」への転換
・生徒とともに生徒の様々な困難を対象化し、生徒とともに支援を共同構成する。
➡生徒は対象ではなく、主体である。
イ 「オン・ザ・フライ・ミーティング」:教職員のあいだで「生徒の声」に関して即興的に、立ち
話的な機会も含めて情報交換・共有をし、支援の共同構成に参加する。
ウ 「コアミーティング」:学年毎(ごと)のコーディネーター、生徒指導担当、養護教諭、スクールカウン
セラーなどにより構成される定期的な会議(原則的に1週間に一度)、オン・ザ・フライ・ミー
ティングの発展型。
エ 「アイデア会議」:計画的な戦略だけではなく、生徒と対話する中で生成される教職員のアイデ
アを洗練させて創発的戦略をつくる契機。
オ 定期的な保護者・生徒との「三者面談」:家庭の状況なども含めて総合的には把握する。
カ 「更に敷居の低い相談システム」の追求:生徒が気軽に入れる図書室にNPO主催で「青春
相談室」や「カフェ」を開設し、気軽に話をしていく中で困難を把握する。その上で必要に応じて病院、児童相談所等の関係機関につなぐ。

(4)問題提起
・高等学校では、生徒との対話的な関係性が重要であるが、十分に認識されていない。多忙化で
対話どころではないという状況も指摘されているが、対話的な関係性は高等学校の最優先事項
であるべきである。
・このため、高等学校学習指導要領や高等学校学習指導要領解説などにおいて、障害のある生徒
の指導における配慮事項として、生徒の抱える困難さの把握や対話的な関係性の重要性などを
重視していくことが必要である。
・「チーム学校」構想にも深く関係するが、校長のリーダーシップと非常勤の専門職の導入を結び
つけるだけでは不十分であり、「協働の文化」をどのように構築することか、安定的な体制作り
をどうするか、が課題である。スクールソーシャルワーカー(SSW)等の専門能力スタッフは協働チームの一員という位置づけが重要である。


2:学習支援
(1)現状と課題

ア 学習に関する多様な困難
イ 単位がとれない(成績・出欠)
ウ 《本人の責任とする組織文化》
➡【退学・進路変更】


(2)課題解決の方向性
ア 多様な学習上の困難に対応するための授業改善
イ 学び直しの機会の保障
ウ 少人数クラス
エ 支援の連続体の整備(その一つとしての「通級による指導」)
オ 「個別の教育支援計画」「個別の指導計画」の作成

(3)具体的な実践の事例
ア 30人学級
・英数15人レッスンクラス
イ 基礎学力テスト(毎年、実施)の実施による学力の把握
ウ 大学生やNPOのスタッフ等の参加による「放課後補習」(生徒の提案で「ゼミナール」に改称)
・テストの成績により候補、補習は独自教材を支援スタッフの支援で解く形式で進め、振り返りシートに記入し、それをファイルにまとめるポートフォリオ形式、成績により随時入替え
エ 学習への取り組みカードを三者面談に提示(学習の困難に関する情報の共有)
オ 授業相互見学・感想メモ
カ 学習相談(学習スタイルの発見)
・希望者に大学院生スタッフが担当して、学習スタイルのアセスメント及び「学習の困難についての個別相談」を実施、その結果を記録し生徒と教職員が共有
キ 学習活動研究会(生徒の学習を対象とする授業研究)
・外部講師を呼び、授業研究をして、その記録を全教職員で共有
ク 「授業のヒント集」(それぞれの教職員の取組の紹介冊子)等の取り組み事例集の作成
ケ 特別支援学校支援担当教員の学習研究活動への支援機能
・アドバイザーとして参加、学習研究グループが詳細な記録をとり教職員が共有
コ 「探求的な学習」の試み
・講義型の一斉授業の限界性と図書室での調べ学習など活動を軸とする学習の有効性

(4)問題提起
・少人数学習(30人学級・15人の英数レッスンクラス)が不可欠であること
・生徒の学習活動に着目し、困難を把握する視点
・対話的な関係性の中での「学び直し」の有効性
・学力が低いとされる生徒たちのアクティブ・ラーニングの可能性の追求
・「通級による指導」は支援プログラムの連続体のひとつとして位置付けること。



3生徒指導
(1)現状と課題
ア 学校のルールの問題と学校の秩序

イ 生徒指導事案への機械的対応による課題解決➡「自己責任」として【退学・進路変更】(事実上の排除となっていないか)

ウ 生徒指導部と教育相談部のあいだの障壁

エ 従来の生徒指導体制の限界性(あるいは、「障壁」としての生徒指導体制)

(2)課題解決の方向性
ア 生徒の実態を踏まえた柔軟な生徒指導(全ての生徒を包含する生徒指導の重要性)

イ 特別指導の内容の工夫
・生徒指導における「特別指導」に教育相談の要素を組み込む(自分のふりかえり)

ウ なぜ、ルールがあるのか、について考える機会の設定

エ 生徒の困難を多様なチャンネルで把握できること。

(3)具体的な実践の事例
ア 「生徒指導事案」の個別的対応の推進
・対話的な関係性により動態的に実態を把握
・生徒の実態を踏まえた効果的な特別指導の内容の検討を重ねる

イ 「価値あるエピソード」の蓄積と共有
・「○○さんの事例」という形で共有化して蓄積

ウ 生徒指導事案を通しての生徒の理解、生徒の環境の理解
・生徒指導担当と教育相談コーディネーターとの協働
・生徒とじっくりとやりとりできる機会として重視
(事件直後の反省レポートと特別指導後の反省レポートの比較)
・生徒の他者理解の機会(多様性の理解)

エ 総合的な学習の時間に自作教材総合A(一学年)「生活研究活動」を使用(「情報リテラシー」、「体と健康」、「喫煙・飲酒・薬物」、「ネット時代の安全」、「家庭生活」、「デートDV」など)

(4)問題提起
・インクルーシブ教育システムの時代における高等学校の生徒指導の在り方
・その他


4:生徒会活動
(1)現状と課題
ア 生徒会活動への参加の困難

イ 体育祭・文化祭等の行事への参加や生徒主体の運営への参加の困難

ウ 部活動への参加の困難

エ 「高校生なのだから自主的に」という枠組みの限界。


(2)課題解決の方向性
ア 教職員による生徒の行事などへの主体的な取り組みの積極的な個別支援

イ 支援してできるところから生徒の自主・自立的な活動に移行

ウ 小・中学校等での未経験を克服する支援
・役割分担や手順について考える機会を提供
・実際に練習をして本番に臨むまで丁寧に支援
エ 実態に合わせた支援(手順、シナリオ等の内容の明確化)

(3)具体的な実践の方略
ア 生徒会活動
・部活紹介等の支援
・体育祭・文化祭等の行事の立て役者の支援
(例えば、体育祭の選手宣誓、団のリーダーなどの役割の発揮)

イ 部活動
・部活動への参加の様々な困難を把握し具体的な支援をすること
・基本的な動きから丁寧な指導と支援
・競技のルールの指導と支援

(4)問題提起
ア 行事などにおける集団行動を通して発達障害のある生徒も含めて様々な困難を抱える生徒たちの主体的な取り組みを支援し、自己有用感を高めること

イ これまでやったことがないことに支援付きで挑戦し、自力でできる契機となるように指導すること。これを丹念に蓄積していくこと


5:進路指導からキャリア支援
(1)現状と課題
ア 様々な要因による進路未決定のまま卒業する生徒への対応

イ 様々な要因による就職後の離職のリスク

ウ アルバイトの面接の段階で失敗あるいは合格しても短期で離職する生徒への対応。

エ 従来の進路指導体制の限界性(「本人の自覚」の問題?従来の進路指導体制のコンセプト)

オ 相談機関へのアプローチの困難(相談機関を教えても相談にいけないこと)

(2)課題解決の方向性
ア 自分の強みを発見する機会、働けそうな感覚を得る機会

イ 将来について本音を語れる場の設定

ウ 高等学校在籍時から利用できて、卒業後(中退後)にも確実に相談できる機関を校内に設置し、専門機関とつなぐ。

(3)具体的な実践の方略
ア 総合的な学習の時間に自作教材・総合A(一学年)「進路研究」(「自己理解」、「職場見学体験」、「職業を考える」、「進学を考える」。「正規雇用と非正規雇用」
イ 総合的な学習の時間に自作教材・総合B(二学年)「進路を切り拓く」(「お金の話」、「働く権利」「労働法ワークショップ」、「パーソナルファイナンス」等
ウ 総合的な学習の時間に自作教材・総合C(三学年)「進路を切り拓く」(「求人票の見方」、「オープンキャンパス」、「履歴書の書き方」等)
エ 地域の企業団体の支援による職場見学体験(一学年で全員実施)
オ インターンシップの実施
カ 校内に「キャリア支援センター」設置
・教職員
・専門的な技量をもつ「就労支援スタッフ」
(職場開拓や面接指導等、専門性を発揮した緻密な支援(※持続的な雇用の問題)
・「スクール・キャリア・カウンセラー」
・NPOのスタッフ(生徒の様々な声を聴ける場所から就労について考える。
生徒が気軽に入れる図書室にNPO主催で「青春相談室」や「カフェ」を開設し、気軽に話をしていく中で困難を把握する。その上で進路や就労の話をしていく。
(「敷居の低い相談」として図書室を活用した「青春相談室」や「ぴっかりカフェ」の運営から就労プログラム等につなげるプロセスを担当)
キ 一人一人に合わせた就労プログラムの開発
(実行段階で、企業、支援スタッフ、教職員、生徒本人等の参加による移行支援計画の作成と見直し等)
・有給職業体験(「バイターン」)等の開発
・進学等によらない就労プログラム等の開発

(4)問題提起
・現行キャリア教育の限界性
・様々な就労上の困難を抱える生徒のための就労支援プログラムの開発を就労支援スタッフ等と教職員が協働チームで担当し、在籍中の生徒、中退した生徒、卒業した生徒に幅広く対応できる「キャリア支援センター」の設置。
※「通級による指導」(SST的なものだけではなく、それらと「実習」を結びつける就労支援プログラムの開発)
・就労支援スタッフの専任化
・NPOスタッフの業務を中退・卒業した生徒に限定した現行システムから変更し、在学している生徒にも対応できるようにして、教職員と協働して関われる仕組みを構築する。
・様々な要因により進路未決定者として卒業を迎える生徒のかなりの部分は、生活保護につながるリスクが高いため、この層を就労につなげるための投資は財政難という状況であることを踏まえると意義がある。


お問合せ先

特別支援教育課指導係

電話番号:03-5253-4111

(初等中等教育局特別支援教育課)