資料1 委員発表資料

 小学校における特別支援教育の現状

東京都調布市立調和小学校長 山中ともえ

 

 文部科学省が平成24年度に公表した調査結果(以下、H24文科省という。)によると、公立小・中学校の通常の学級に在籍している児童生徒のうち、知的発達に遅れはないものの学習面又は行動面で著しい困難を示すとされた児童生徒が6.5%の割合で在籍していることが推定され、何らかの支援が必要とされている状況から、特別支援教育は各学校で取り組むべき課題として推進されているところである。教育課程企画特別部会の論点整理の中に、全ての学校や学級に、発達障害を含めた障害のある子供たちが在籍する可能性があることを前提とすること、が示されている。
また、平成28年4月に障害者差別解消法が施行されるにあたり、合理的配慮の提供が法的義務とされる公立学校においては、障害のある児童生徒への対応を更に進めていくことが課題となる。

1 小学校での発達障害等への対応
(1) 通常の学級における現状と取組
 学習面や行動面で著しい困難を示すとされる児童が、小学校では7.7%(H24文科省)の割合で在籍している。「特別支援教育の推進について(通知)」が平成19年4月に示されて以来、校内体制整備として校内委員会の設置や特別支援教育コーディネーターの指名が進み、校内での実態把握が適切になり、様々な対応が図られるようになった。しかし、今後、合理的配慮の提供について各学校への周知と取組が大きな課題となる。
 【成果】
 ・体制整備が進み、通級による指導を受けている児童の個別の教育支援計画、個別の指導計画の作成・活用や外部の専門機関との連携、支援員等の配置等が図られつつある。
 ・誰にでも分かりやすい授業の実践研究等が行われるようになり、特別な教育的ニーズのある児童に対する通常の学級の教員の指導力を高めるための取組が始まっている。
 【課題】
 ・個別の教育支援計画、個別の指導計画の位置付けの明確化と効果的な活用方法を検討する。
 ・管理職や教員に対して、合理的配慮の提供についての理解推進や教師の力量の向上を図る。
  
(2) 特別支援学級の現状と取組
 小・中学校の特別支援学級に在籍する児童生徒数は、平成26年度には全児童生徒の1.84%(約18万7000人)であり、10年間で2.1倍に増加した。特に、自閉症・情緒障害特別支援学級の増加(約82,000人)は著しく、10年間で3.2倍となっている(平成16年度は情緒障害特別支援学級)。また、特別支援学級在籍者で学校教育法施行令第22条の3に該当する児童生徒も約2000人在籍している(H27文科省資料)。
 特別支援学級は、「多様な学びの場」の一つとして、小・中学校の教育課程を原則としながら、特別支援学校小学部・中学部学習指導要領を参考にして特別の教育課程を編成し、さらに児童生徒の状態に応じた指導を行うことにより成果を上げてきた。しかし、障害の状態も多様な児童生徒が在籍する中、教員の専門性の向上や教育内容の一層の充実が課題となる。
 【成果】
 ・少人数で、児童生徒の障害の状態を把握した特別の教育課程により個別の指導計画を作成して一人一人の状態に合った指導を行い、状態の改善に努め、成果を上げてきた。
 ・通常の学級との交流及び共同学習により、障害のない児童生徒と障害のある児童生徒が共に学びながら成長する場面を多く設定できる。
 *特別支援学級設置校の9割以上で交流及び共同学習が教育課程に位置付けられている。(H24全国特別支援学級設置学校長協会調査)
 【課題】
 ・特別支援学校小学部・中学部学習指導要領の参考の仕方や、指導内容の精選の仕方など、特別支援学級での教育課程の編成の方法が小学校の学習指導要領からでは分かりにくい。
 ・少人数で学年や障害の状態が様々な児童が在籍することから、各教科や領域の設定の在り方や指導内容の精選、使用する教科書や教材の選定、教員の専門性の向上等の課題がある。

(3) 通級による指導の取組
 小中学校で通級による指導を受けている児童生徒は、平成26年度には全児童生徒数の0.82%(約8万4000人)であり、10年間で2.3倍に増加した(H27文科省資料)。特に、注意欠陥多動性障害、学習障害、自閉症のいわゆる発達障害を対象とする教室を利用する児童生徒数の増加は著しく、5年間で2.2倍となっている(H27文科省資料)。
 通級による指導は、通常の学級での学習におおむね参加でき、一部特別な指導を必要とする児童生徒を対象としており、インクルーシブ教育システムを構築していく際に大きな役割を果たすと思われ、まだ増加していく見通しがある。しかし、通級による指導の歴史は浅く(H5年法制化)、指導方法や内容の研究や実践を深めていくことが必要である。
 【成果】
 ・通常の学級で多くの授業を行いながら、通常の学級では行えない自立活動の指導として、障害の状態に応じて特化した指導を受けることにより、状態の改善が図られている。
 ・通級指導の担当者と通常の学級の担任との連携が、通常の学級担任の障害に対する理解推進や力量の向上に役立っている。
 【課題】
 ・通級による指導において、対象となる児童生徒の範囲や障害の状態に応じた指導方法や内容等、各地域の実践において違いが出ている。特に、自立活動については、特別支援学校小学部・中学部学習指導要領に明記されているものであり、経験の浅い教員にとっては、指導内容を考えることが難しくなっている。
 ・通級による指導の担当者が増えているが、その育成が十分ではない。

(4) その他
 ○小・中学校では、特別支援学級や通級による指導が整備されつつあるが、その先の進路として、発達障害等のある児童生徒の高等学校等における支援が課題となっている。
 ○幼稚園・保育所と小学校の円滑な接続のために、就学支援シート等の提出等による取組が始まり、就学してからの支援につながるようになってきた。
 ○特別支援学校と小学校等間の転学等においては、教育課程の違い等に配慮が必要な場合がある。特別支援学校との交流及び共同学習については、東京都の副籍制度や埼玉県の支援籍、横浜市の副学籍等の取組がある。


2 今後の検討事項
(1) 教育課程編成の考え方について
 ○現行の小・中学校の学習指導要領では、総則に交流及び共同学習のことと個別の教育支援計画や個別の指導計画についての記述があるが、各教科等の中にも障害のある児童生徒についての配慮事項を示すことが必要ではないか。
 ○特別支援学級や通級による指導の教育課程編成の手続き等を更に明確にするためにも、特別支援学校の学習指導要領を参考にするだけではなく、小・中学校の学習指導要領や解説書等の中に分かりやすく示すことが必要ではないか。
 ○自閉症の指導や配慮について、自立活動の解説書には示されているが、各教科や領域における指導の中でも特性に配慮した指導が必要であることから、視覚障害、聴覚障害、肢体不自由、病弱・身体虚弱、知的障害と並んで、自閉症の指導や配慮についても示すことが必要ではないか。
 ○特別支援学校と小・中学校・高等学校における教育課程の円滑な接続のために、特別支援学校学習指導要領の「知的障害者である児童生徒に対する教育」の各教科や各教科等を合わせた指導の在り方についての検討も必要ではないか。

(2) 自立活動の内容について
 ○特別支援学校の自立活動の指導は、小・中学校に在籍している発達障害等の可能性のある児童生徒に対しても有効であり、自立活動の内容を小・中学校の学習指導要領にも示すことが必要ではないか。通級による指導の根拠としても、重要な内容である。
 ○通級による指導を受けている児童生徒の主な指導内容は、自立活動である。現行の特別支援学校小学部・中学部学習指導要領解説自立活動編からADHDやLD、自閉症について詳しく示されるようになったが、小・中学校教員が読んでも分かりやすい記述とすることが必要ではないか。

(3) 個別の教育支援計画・個別の指導計画について
 ○現行の学習指導要領に記述されたため、小・中学校での障害のある児童生徒の個別の教育支援計画・個別の指導計画の作成は周知が進んだ。特別な教育的ニーズを必要とする児童生徒については全ての児童生徒について必要であると考えてよいのではないか。
 ○今後、各学校で提供される合理的配慮について、保護者と学校で検討した内容を個別の教育支援計画や個別の指導計画の中に記述することについて示すことが必要ではないか。

 

(4) その他
 ○障害者差別解消法の施行とともに、学校における合理的配慮の提供について、小・中学校の学習指導要領の中で方向性を示すことが必要である。また、医療の進展等から肢体不自由や病弱・身体虚弱のある児童生徒についても多様な対応が求められており、検討が必要である。
 ○平成19年4月の「特別支援教育の推進について(通知)」の内容を小・中学校学習指導要領に反映させ、さらに、小・中学校での発達障害等に対する取組や支援の状況を高等学校につなげていくためにも、高等学校の体制整備や指導について推進が図られたい。

お問合せ先

特別支援教育課指導係

電話番号:03-5252-4111(代表)(内線3716)

(初等中等教育局特別支援教育課)