資料5 日本語と外国語の学習による言語能力の向上について(意見の概要)

日本語と外国語の学習による言語能力の向上について(意見の概要)
日本語と外国語の双方を学習することによって、それぞれの言語能力の向上に効果があると考えられる点についての各委員からの意見の概要
○言語能力の向上についての課題
・母語である日本語は無意識に習得できているため、日本語による世界の切り分けを当たり前と思い、外国語でも同じであるという思い込みが生じている。
・日本語と外国語の構造や語彙などの表面的な違いから、日本語と外国語はまったく異なっているもの、理解できないものであるという思い込みが生じている。
○日本語と外国語の違いの理解
・日本語と外国語を相対的に捉えることによって、その構造や語彙などの仕組み、それらが統合されて働くシステム、その背景となる文化など、日本語と外国語の違いに気付き、それぞれの理解を深めることができる。
・日本語と外国語では、表現の仕方の種類が異なるため、両言語を学習することで、表現の仕方の種類を広げることができる。
Ex.日本語には、頭括型や尾括型、双括型があるが、尾括型で書いたものが多い。一方,英語の場合にはトピックセンテンスを最初に表現することが多い。その違いを意識すると、どのような場合にどの構成を選ぶかに関して、児童生徒の選択肢が増える。
・言語を学ぶことは、その言語を創造し継承してきた文化や、その言語を母語とする人々のものの見方・考え方を学ぶことでもある。言語で書かれる内容や話される内容には、文化やものの見方・考え方が反映されているため、日本語の題材と外国語の題材で共通点と相違点がある。共通点・相違点を学習することで、相互理解のための準備を整えることができる。
Ex.主語を曖昧なままにできる日本語とは異なり、基本的には主語を必要とする英語の違いを学ぶことで、英語を運用する人たちが用いる論理性を学ぶことができる。
Ex.同じ“I”でも、「わたし」「わたしたち」「ぼく」「おれ」など様々な表現がある日本語を運用する私たちの“I”に対する捉え方を学ぶことができる。
Ex.人は自分を基準に物事を判断しがちである。特に児童期においては、他者の心の理解は発達途上であり、他者の立場にたって考えることは難しい課題となる。文化やものの見方・考え方が異なる外国語の題材を学習することで、自分とは異なる基準によるものの見方・考え方に気付くことができる。
○日本語や外国語の運用に共通して必要な資質・能力の育成
・日本語や外国語の運用に必要な資質・能力を、母語である日本語の学習を通して育成しておくことで、外国語を学習する際に活用することができる。
Ex.スピーチ、プレゼンテーション、ディベート、ディスカッション、論証文を書くために必要なスキル、論理的思考力、批判的思考力など←国語科、外国語科において、題材や言語活動の内容・形式などの点において連動してカリキュラムを作成し、両教科の指導に生かすことが必要
Ex.本、雑誌、新聞等を読んで概要や要点を把握するために必要な能力←中学校・高等学校における図書館の整備や運用の改善が必要
Ex.他教科等において学習する知識やものの見方・考え方←国語科・外国語科で取り扱う内容と、他教科等で取り扱う内容が連動した指導計画を立てることが必要
・母語である日本語で生活している中では、意識的に行うことが少ない資質・能力や、外国語において特徴のある資質・能力の育成を、外国語の学習を通して行うことにより、日本語の能力の向上に資する。
Ex.表現する際の複雑な思考力と多様な表現力(日本語の操作能力)
・外国語の授業では、「言いたいことがそのまま言えない」という状況が常にあるため、児童は、例えば、(1)自分が言いたいことのメインメッセージを捉え、(2)それを表現するための語彙や表現を柔軟に考え、(3)ふさわしいものを選択して表現し、(4)相手が理解できなかった場合は、言い直したり、例を挙げたり、ジェスチャーを付けたりするなど伝え方の工夫をすることを繰り返すことで、以下の二つの能力を養われる。→【言いたいこと-それを伝えるための表現】は【1対1対応】ではないことに気付き、言語操作に関して複線的に考える能力→考えや気持ちを言語化する際の多様な表現力
Ex.英語の学習を通して得る論理性(論理的な文章を書くことに資する言語知識)
Ex.英語のライティングにおいて論証(argumentation)を指導すると、日本語のライティングにおいても、その論証スタイルが転移するとの報告がある。
・個別言語によらない、上位処理能力に関する側面(推論能力、談話的能力、一般的な世界に関する知識、メタ認知能力など)については、母語の能力と外国語の能力の間で相関が見られるとの報告がある。
Ex.リーディング力の中でも、個別言語によらない、上位処理能力に関する側面(推論能力、談話的能力、一般的な世界に関する知識、メタ認知能力など) は、母語と第二言語の間で相関が見られるとの報告がある。
※ただし、学習の初期段階では、母語と第二言語の読解能力は独立しており、第二言語の熟達度が高くなるにつれて関係が見られるようになるとの報告もある。
Ex.リスニング力においても、個別言語によらない、上位処理能力に関する側面(推論能力、談話的能力、一般的な世界に関する知識、メタ認知能力など) は、母語と第二言語の間で相関が見られる可能性がある。
Ex.第一言語に関するメタ言語知識が、外国語の聞くこと以外の3技能と文法知識と関係があるとの報告がある。
○言葉そのものへの意識、言葉による思考や学習のメタ認知
・それぞれの言語の特徴を相対的に捉えることによって、言葉とは何か、言葉が人々の生活の中でどのように働いているかなど、言葉そのものへの意識(メタ言語意識)が呼び起こされる機会が増える。
・メタ言語意識の高まりは、無意識に使っている日本語へ意識の高まりにつながる。また、外国語や言語一般、言語の運用への関心が高まることが期待できる。
Ex.以下のような視点や疑問もつことが可能になる。
・日本語では敬意の表出に「敬語」という語彙の体系を用いるが、外国語ではどのように敬意を表すのだろうか。
・日本語の語彙体系に見られるような語種の違いは、外国語にも見られるのか。それは相手や目的などの場に応じて使い分けがなされるのか。
・日本語の表記では、複数の文字体系を交えて用いることで、様々な効果がもたらされているが、単一の文字体系を用いる英語の表記にはどのような工夫がなされているのだろうか。
・英語話者の間では、例えば、パラグラフ・ライティングのような論述の方法がある程度共有されているようだが、日本語の運用においてもそのようなものがあると効率的で役立つのではないか。
Ex.早期に第二言語に触れることによって、語の音と語の意味の分離が促進され、メタ言語能力が高まるとの指摘がなされている。
※日本の学校教育においては、日本語に則したメタ言語意識の育成が優先されるべき。
Ex.英語に対する認識・態度と国語に対する認識・態度は関係があるとする報告がある。
・言葉によってどのように(断片でない)知識を獲得し、どのように自分なりの整合性のある知識のシステムを自分の中に作り上げているのかを自覚することができる。(メタ認知)
○言葉の働きや人間の心や思考が同じであることの理解
・日本語と外国語を相対的に捉えることによって、言語、文化、習慣、時代が違っていても、表面的な違いを超えた深いところでの共通性・普遍性-言葉の働きや人間の心や思考の基本は同じだということが理解できる。


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